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25話目【地方都市ウルダ】

「ほら、あれが地方都市ウルダだ」

「かなり大きいですね、町って言うからポッポ村の10倍くらいだと思ってました」

「この地方の物流の拠点だからな、ポッポ村の1000倍はあるだろう」


地方都市ウルダは人口8万人程度、物流の中心として栄えている。

ウルダの城壁には6個の門があり、それぞれ別の土地へと繋がっている。

城壁の内側に行政区、商業地区、居住区などがあり、外側には農業地と酪農地が広がっている。

ポッポ村はウルダの南に位置しており、南側の門から入場することになる。


「まずは城壁の入り口で検査を受け、品を売りに行こう、買い物はその後だ」

「ナイフ持ってるんですけど、手荷物検査で引っ掛かりますかね?」

「大丈夫だ、町には冒険者もいるからな、問題ない」


松本が持っているナイフは、木製の柄、15センチ程の鉄の刃、革のケースと装飾もなくシンプルである。

武器というより包丁に近い。


「ポッポ村の馬車かい?」


人参畑の横を進んでいると農民の老婆に声を掛けられる。

馬車を止め、バトーが対応する。



「いかにもそうですが、何かご用ですか?」

「椅子が欲しいんじゃが、扱ってないかね?」

「ありますよ、1つ30シルバーです」

「少し安くならんかね、あまりお金がなくてね」

「それでしたら15シルバーに負けましょう。その代わり人参つけて頂けませんか?」

「ありがとねぇ、助かるよ」


馬車の荷台から椅子が2つ消え、代わりに人参の束が増えた。

多少形が悪いが、食べる分には問題ない。

人参を見てバトーは微笑んでいる。


「よかったんですか? 15シルバーだと売値の半分ですけど」

「いいのさ、地方都市といっても富んだ者だけではない、それに人参は買って帰る予定だったしな。

 お互い必要な物が手に入ったんだ、十分だろう」




南門の前で衛兵に町に入る目的、品、個数を確認され城壁内に通された。

ウルダの中央の広場には6個の門から道が繋がっている。

北側に行政区と富裕層地区、西側に商業地区、東側に工業地区、南側にギルド、宿屋、飯屋、酒場。

それらの外周に居住区がある。

広場に近い程賑やかであり、離れる程、居住区の割合が増える。




へぇ~宿屋に飯屋、酒場、何件もある、南側は宿泊施設が集まっているのか…

しかし、やたらゴツイ格好の人がいるな…武器も持ってるし…あれが冒険者か?



「バトーさん、あの人達は?」

「冒険者だな、あそこのギルドで依頼を受けるんだ。南区は冒険者が多いから宿と酒場が多いんだ」


バトーが指さした建物の周りには、冒険者が集まり掲示板に張り出された依頼を吟味している。

中には子供もいる。


「子供でも冒険者になれるんですか?」

「なれるぞ、冒険者に年齢は関係ない。依頼をこなせる力量があるかどうかだ。

 依頼の中には農家の雑用なども含まれる。子供達にとっては小遣い稼ぎみたいなものだ。

 それに、子供だと危険な依頼は受付させてもらえないから安心だ」

「でもそれは普通の子供の話…あんたは違ったでしょ、バトー」

「その男のマネをしてはいかんぞ坊主、命は大事にせんとな!」



知らない男女が話しかけてきた。

女性は小柄で赤毛、三角帽子に杖、いかにも魔法使いといった格好。

男性はバトーよりも大柄でモヒカンからの三つ編み、顎鬚、両手持ちの両刃斧、いかにもパワー系。

2人を見てバトーは目を丸くし、パチパチと瞬きしている。


「久しぶりねバトー、元気にしてた?」

「少し老けたんじゃねぇか?」

「お前達も元気そうだな、ミーシャ、ルドルフ!」


3人は親しい知り合いらしい、松本は蚊帳の外である。


「お前達、こんなところで何してるんだ? 王都にいたはずだろう?」

「まぁちょっと野暮用でね」

「お前こそ何してんだ? その坊主お前の息子じゃねえよな?」

「はは、俺は村で作った品を売りに来たんだよ。この子はマツモト。

 村の近くに住んでいる少年だ、息子じゃない」


バトーが松本の背中を押す。


「ミーシャさん、ルドルフさん、初めまして。マツモトといいます」


それそれ2人に頭を下げる松本。


「っはっはははは」


バトーが腹を抱えて笑っている。女性は顔を背けてクスクスと笑っている。


「よろしくなマツモト、俺が『ミーシャ』だ」


笑顔で握手するミーシャ、握った右手から圧を感じる…


「クスクス…そんな見た目でミーシャなんで名前のあんたが悪いのよ」

「そうだぞミーシャ、誰でもそう思う…クスクス」

「えぇぃ煩いわい! 別に気にしておらんわ、俺もいい年だからな」

「まぁ、立ち話もなんだ、先に用を済ませてくるから後でそこの酒場で会おう」

「そうね、2時間くらいかしら」

「それくらいだ、またな」

「さようなら~」

「おう、またあとでな!」



2人と別れ、商業地区で品を売る。

いつも取引している雑貨屋で椅子と皿はすんなりと売れた。


椅子 = 30シルバー

皿  = 10シルバー


椅子50個と皿50枚積んできて、そのうち2個は老婆に売ったため

合計1970シルバー。 つまり、19.7ゴールドである。


 

問題はムーンベアーの素材とナーン貝の貝殻である。

売る場所で値段が異なるのだ。

ムーンベアーの爪と革は装備屋に、骨は薬屋に売って合計1460シルバー。

つまり、14.6ゴールド。特に、大きい爪と革と頭蓋骨が高かった。


村の収益は34.3ゴールド。 素晴らしい!



一方、松本のナーン貝は装飾品屋で、1枚17シルバーに買い叩かれ

20枚売った合計340シルバー。 つまり、3.4ゴールド。

当初の予定より60シルバー目減りした。



神々しい…これがゴールド硬貨か!

ブロンズもシルバーとも異なる重量感!

日本円だと1万円だ、いや1万円球だな。



多少安く買い叩かれたとはいえ、松本は初めてのゴールド硬貨にご満悦だった。


「よかったなマツモト、これで魔石が買えるな」

「手持ちと合わせて約4.5ゴールド、魔石っていくらくらいですか?」

「丁度そこに魔石屋がある、買いに行くか!」


カランコローン

店内に入ると女性の店員が1人おり、棚にはクッション材の上に魔石が並べられている。


「すみませーん、火と回復の魔石が欲しいんですけど…」

「…火の魔石はそちらに」


店員が指さす棚の魔石を手に取る。

卵のようなサイズと見た目、黒い岩に覆われたクリスタルの中で炎が揺らめいている。

他の魔石を見ると、風、雷、水、葉っぱなどが入っている。光は見当たらない。

棚には『各魔石、2ゴールド。取扱いに注意』と書かれている。



葉っぱ? 葉っぱってなんだ?

木の魔法か? なんか木を成長させるとか?

それとも、お茶が手から出るのか?

まぁパンが出るからお茶も出るのか?

最近、水しか飲んでないからな…お茶、飲みたいな…

でも2ゴールド…火魔法買ったら、あと1個しか買えないし…

う~ん…まぁ…………

回復魔法は次の機会にしよう…



松本の脳裏には新築の家(小屋)で優雅にお茶を飲む姿が浮かんでいた。


「この2個を下さい」

「…ありがとうございます…火と回復の魔石で4ゴールドです」


『葉っぱ』は回復魔法のシンボルだった。




店を出た松本とバトーは城壁の外でポニ爺と馬車を預けていた。


「今日は宿屋に泊まるから、また明日だなポニ爺」

「明日迎えに来ます、ポニ爺」


草とフランスパンを食べているポニ爺を見送り酒場を目指す2人。


「ところでバトーさん、これどうやって使うんですか?」

「魔石か? 食べるんだよ」



なにぃぃぃぃぃ? 

真顔で何を言ってるんだ? 食べる? 魔石を? 石だぞ…

この世界の人達はこの石を齧って魔法を習得したというのか?

魔法の道は険しいな…



「…石ですよ?」

「違う違う、割って中身を食べるのだ」

「割る?」

「マツモト、魔石とパンを貸してみろ」


ポニ爺の残りのパンをちぎり、魔石をナイフで叩きヒビを入れる。

片手で生卵を割るように魔石を割り、中身をパンに乗せる。

パンに揺らめく炎が染み込んでいく。


「これを急いで食べるんだ、のどに詰まらせないようにな」


急いでパンを食べ水で流し込む、少しだけ香ばしい。


「これで火魔法が使えるんですか?」

「そのはずだ、この城壁に手をかざして集中し『ファイヤ』と唱えて見ろ。

 基本的には唱えなくても発動できるが、唱えた方か意識しやすいからな」


城壁に手をかざし集中する松本…


「ふぅぅぅぅんぬ、ファイヤー!」


ポンッ!

ギュム!


松本の手と城壁の間にフランスパンが挟まっている。ギッチギチに挟まっている。


「あの~? これは?」

「集中だ、集中しろマツモト!」



いかん…あれは…虎の眼だ…再び尾を踏んだな…

これは死ぬかもしれん…



「うぉぉぉぉ! ファイヤー!」

「集中だ! マツモトォォォォォ!」



自己最高となる5本のフランスパンを召喚し、ようやく火を放った松本は

フランスパンと共に酒場に担ぎ込まれたのだった。



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