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24話目【ロマンの化身】

ゴトゴト…ゴトゴト…

ポッポ村を出発し早2日、松本とバトーは今日も平和に揺られていた。

馬車の荷台には町で売りに出す品が乗っている。

ムーンベアー素材、椅子や皿などの木工品、松本の貝殻である。

収穫された芋が乗っているが、松本達の食料である。


「いやーのどかですねぇ」

「そうだな、平和だ。ムーンベアーの爪はアクセサリーにしたんだな」

「頑張って磨きました! 結構重いんですけどね」


松本の胸の前ではムーンベアーの爪が揺れている。

穴を空け紐を通しただけの簡単な首飾り、精いっぱいのオシャレである。


「そろそろ1度休憩しませんか?」

「どうした、疲れたか?」

「疲れてはいないんですけど、尻が痛くて…」

「はっはっは、普段馬車なんて乗らないからな無理もない」

「ウィンディ姉さんが買出しに行きたがらない理由がわかりましたよ…」

「休憩にするか、ポニ爺も休ませてやらんとな」


路肩に馬車を止め、馬に水を飲ませ休憩させる。

馬といっても松本の知っている馬とは異なる、一回り小さく、額に角がある。

体格で見るとポニーであり、角で見るとユニコーンである。

そして種族名がポニコーンである。 実に分かりやすい。

力がとても強く休まずに10日馬車を引けるらしいが、ポッポ村のポニコーンは年寄りなのだ。


「よーしよしよしよし…」


シャッ、シャッ、シャッ、ピロッ…

水を飲ませた松本は、ポニ爺にブラシを掛けながら隙をみては耳を触っている。

ポニ爺は気が付いているのだが、許してくれている。お爺ちゃんは優しいのだ。

気が付いていないのは松本だけである。



「マツモト、今日は青龍湖で休むとしよう」

「青龍って凄そうですね、龍がいるんですか?」

「いや、龍はいないよ。古い言い伝えでな、勇者と魔王が戦った際に地形が変わり、

 跡地に水が溜まって湖になったそうだ。まぁ何百年も前の話で本当に魔王がいたかも分からんがな」



地形が変わる程の戦いか、勇者も魔王も化け物だな。

転生する前にポンコツ神が言っていたし、魔王がいたのは事実なのだろう。

その結果、何百年も語り継がれている、ロマンのある話だ。

前世で俺が知っていた歴史は、どこまで本当だったのだろうか?

文字による記録以前は人によって語り継がれてきた。

長くても100年程度しか生きられない人間が、口頭で語り現代まで伝わっている。

神話や幻想の生き物も実際に存在したのかもしれない。



「マツモト、そろそろ出発しよう」

「了解です。ポニ爺、宜しくお願いします」


舗装されていない道を進み、丘を越えた先に大きな湖が現れた。

道は湖の中心に架かる橋に続いており、橋の先はまた丘へと続いている。

周りに木が生えていない為、緑色の絨毯の中にぽっかりと青い穴が開いたように見える。


「見えたぞ、あれが青龍湖だ」

「かなり大きいですね」

「橋を渡るのに2時間は掛かるからな、湖の直径は10キロ程あることになるな」

「橋の周辺にいくつかテントがありますけど、あそこに泊まるんですか?」

「そうだ、あれは全て旅人のテントだ。あの辺はキャンプ地になっていて自由に使用可能だ。

 ただし、マナーが悪いとシーラさんに怒られるがな」

「シーラさん? キャンプ場の管理人ですか?」

「そのようなものだ、特に火の後始末を怠ると2度とキャンプ場を使用できなくなるからな」

「気を付けます、今日中に橋を渡るんですか?」

「いや、あと1時間もすれば暗くなるからな、明日の朝一で渡ろう」」


橋の横に建てられた小屋へ向かい使用料を払う。

小屋の看板には『キャンプ場使用料2シルバー。薪2シルバー。通行料5シルバー』と書かれている。

この料金は橋の修繕費や青龍湖の管理費に充てられている。


橋から少し離れた空スペースに馬車を止め、ポニ爺を開放する。

普通は開放しても馬車に繋いでおくのだが、ポニ爺は野放しにされ湖の水を飲んでいる。

何故か他の旅人からも文句は言われない。

利口な馬だと周知されているのか?


薪を用意しバトーが魔法で火を付ける。

羨ましい、是非とも火魔法を習得したいものだ。


「マツモト、水を汲んできてくれないか?」

「はいー」


湖は砂地で緩やかに深くなっており、中央は色が濃くなっている。

中心部はかなり深いのだろう。


「あまり見かけん子供じゃのう、ここに来るのは初めてかね?」


木製のバケツで水を汲んでいると声を掛けられた。

後ろを振り向くが誰もいない、バトーが芋を焼いているだけだ。


「?」

「その反応は初めてじゃな、こっちじゃて」


声は湖の方から聞こえている。 が、誰もいない。


「???」

「いや下じゃ、水の中じゃて」


水の中に目を凝らすと、黒い影が浮かんでくる。

影は次第に大きくなり水面に顔を出した… 顔の側面に目が付いている…そう魚である。


「ばばばっばバトーさんんんん、さささっささ魚がしゃべってててt」

「はは、落ち着けマツモト、その方がシーラさんだ」

「え?」


慌てふためく松本を見てバトーが笑う。 周りのテントからも笑い声が聞こえてくる。


「いやーその反応懐かしいの~。最近は誰も驚かんくなってしもうたからの」


ノッシノッシと胸ビレで歩き、地上に姿を現すシーラさん。

鎧のような鱗に覆われ、全量は3メートル程あり、ヒレは全部で8個ある。尾ビレは頭より大きい。



シ…シーラカンスだぁぁぁ! ちょっと外観は違うけど、昔水族館で標本を見たことがある。

このシルエットは間違いなくシーラカンスだぁぁぁ! でっかー! カッコイイィィィ! 

すげぇぇぇぇ! 異世界のシーラカンスは陸上で生活できるのか、しかも喋ってるぅぅぅぅ!


「なんか、えらいキラキラした目で見られとるの…」

「少し変わった少年なんです…お気になさらず…」


松本が目を輝かせるのも無理はない。

『シーラカンス』とは恐竜の時代に生息した太古の魚である。

およそ6500万年前にシーラカンス目は全て絶滅したとされてきたが、

1938年、南アフリカで現生種の存在が確認され世界を騒然とさせた。

テレビのニュースで知った松本少年は衝撃のあまり直立で失禁した。

シーラカンスは化石の頃から殆ど変化しておらず『生きた化石』と呼ばれている。

まさにロマンの化身なのである! ちなみに実際のシーラカンスはエラ呼吸でなので地上では生活できない。


「ワシにも焼き芋くれんかの? バー坊」

「どうぞ、でもバー坊はやめて下さいよ、俺はもう大人なんですから」

「なんじゃバー坊、もう12になったのか、立派になったもんじゃな」

「12どころか32歳ですよ俺は、相変わらずですねシーラさん」

「バー坊が32なら、ポニ坊はどうなるんじゃ?」

「もう80歳を超えてますからね、ポニ爺ですよ」

「まだまだ、若いのポニコーン種は200は生きるからの」



ポニ爺って人間だったら40歳くらいだったのか…働き盛りだな

しかし、人間と魚が焚火を囲み、焼き芋を食べている…ファンタジーだ…



「マツモトも食べたらどうだ」

「ちょっと待ってください、水汲んでから頂きます」


水の入ったバケツを置き芋を受け取る。

芋を割ると蜜の詰まった鮮やかな黄色が食欲誘う。


「お? マツモトの芋は蜜芋だったか」

「これは甘くて美味しいですよぉ」


ポッポ村では2種類の芋を栽培している。

いわゆる普通の芋と、蜜の詰まった甘味の強い蜜芋である。収穫時期は同じ。


「せっかくなのでパンも食べましょうよ」


ポンッ、と手からフランズパンを出し4等分に分け配る。


「ほう、マツ坊はパンを出すのか、珍しいのぉ」

「他に出せる人はいないんですか?」

「ワシは長く生きとるけど見たことないのぉ」

「俺も聞いたことないな」


やっぱりこれは普通じゃないな、理由は絶対アレだろう…

転生申請用紙の備考欄に『パンツ』と書いたはずが、目覚めたら全裸だった。

恐らく備考欄からはみ出した『ツ』は無効となり『パン』のみ反映されたのだろう。

パン1個ではなく、魔法になっているあたり、書類を通した神様が頭を抱えた様子が目に浮かぶ…

パンツより役に立ってますよ! ありがとう書類の神様!


「シーラさんは何歳なんですか?」

「さぁ…かなり長くいくていることは間違いないんじゃが、よくわからんの~

 少なくともこの湖が出来る前から生きとるでの」

「「え!?」」

「なんじゃバー坊も知らんかったか、この湖の名前を付けたのはワシじゃて」

「驚きました…長く生きられているとは思っていましたが…」

「なんで青龍湖なんですか?」

「その昔、この地で魔王と3人の勇者が戦っての、その勇者の1人が放った一撃が凄まじく、

 まるで天から舞い降りた青龍のようじゃった。流石の魔王も手傷を負い逃げていきおったわ。

 その一撃の影響で森は消滅し、地面に大きな穴が開いたんじゃ。

 そこに雨水が溜まった結果、青龍湖となったんじゃ。今ではワシの住処じゃがな」

「魔王が実在したのですか? てっきり神話のようなものかと思っていました」

「ほっほっほ。言い伝えとはそういうものじゃて。正しく伝わるかは別じゃがの」



時を超えた言い伝え、その当時を知る者から真実を聞ける…なんとロマンのある話だ。



「まぁ、魔王が討伐さた後はワシを魔族だと勘違いして討伐に来る者が相次いでな…

 湖の周りにキャンプを張って連日襲ってきたもんじゃ、その名残がこのキャンプ場じゃ」

「大変だったんですね…大丈夫だったんですか?」



なんとも殺伐とした話だな…



「ほっほっほ。まぁワシは固いでな、勇者並みの一撃でなければワシの鱗は貫けんよ。

 一方的に攻撃しても歯が立たんで、そのうちワシを無害な湖の主としたわけじゃ。

 今も、ワシを攻撃して来る者がおるが、ワシからしたら全て坊やじゃて。のう? バー坊」

「あれは10歳の頃の話ですよ…勘弁して下さいよシーラさん」

「ほっほっほ…」


バトーが初めて青龍湖を訪れた時、シーラさんに驚き木剣で滅多打ちにしたとか…

シーラさんは気にせず、今と同じように笑っていたらしい。


「さて、ワシはそろそろ帰るでな、他の者の邪魔になるといかんで早く寝るんじゃよ」

「また今度、話を聞かせてください」

「次会うときは嫁でも見せにくるんじゃな、バー坊」

「俺はまだ独り身ですよ、シーラさん」


シーラさんは湖の底に戻っていった。


「明日は早い、俺達も休もう」

「そうですね」

「火の始末だけは気を付けろ、シーラさんに怒られるぞ」

「了解です」


バケツの水で火を消し、バトーとマツモトは横になった。

翌日の早朝、湖には薄く霧が残っている。

太陽の光に照らされながら1台の馬車が虹をくぐる。

橋を渡り切るには、あと1時間程である。



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