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237話目【クリクリクッキー 前編】


クリクリクッキー当日の早朝、

町は栗の飾りで彩られすっかりお祭りムードが漂っている、

大通り中央のロックフォール伯爵像の下には公開告白用のメインステージ、

西、東、南には催し用のサブステージが設置されており、

国章持ちの職員達を中心に最終準備中である。


「主任、全て接続完了しました」

「よ~し、それじゃテストするよ~ポチッとな」


カプアがボタン押すとロックフォール伯爵の屋敷の前に

台座に乗った巨大なブルーチーズが現れた。


「高さと大きさは良いですけどちょっとボケてますね」

「んじゃちょっと絞って、どうハンク?」

「良さそうです、問題無いと思います」


水晶玉を使った巨大な立体映像のテスト中らしい。


「さてさて他はどうかな? ハンク、プリモハさんに合図して」

「了解です」


ハンクがボタンを押して青色のガラスで出来たランタンみたいな装置を光らせる。


「準備出来たようですね、ライトニングを使います、皆さん気を付けて下さい」

『 はい~ 』


双眼鏡を下ろしてプリモハが上空に向けたライトニングを放つと、

メインステージ上に浮かんでいたブルーチーズに穴が開いた。


「ジェリコさん確認の合図です」

「見えてますよ~そんじゃ青色を、ポチッとな」


町の中央から上がった雷撃に反応し

南のサブステージでジェリコが青色のランタンを光らせる。


「お、中間の2つも青だな」

「南側は全て上手く行ったようですね」


南のサブステージから中央のメインステージまでの間に

合計3つの青ランプが点灯している、

サブステージ上には立体のブルーチーズ、

中間の2か所は白の垂れ幕に平面のブルーチーズが写し出されており、

北のカプアが撮影している映像がリアルタイムで同時に出力されている。


同様に東のサブステージをラッチ、西をニコルが担当しており、

立体映像の総数は5箇所、中間の平面映像は8箇所という

ダナブルを十字に横断する大映像網である。


青のランプは良好、赤のランプは不調の意味、

直線上に伸びた大通りを活かし中央のプリモハ達が

双眼鏡を使ってテストの可否を確認している。


「南は大丈夫そうです、そちらはどうですかダインさん?」

「西は青が3つ、問題ありません」

「北も問題無し」

「東は…ん? …うん」

「どうしました?」

「いえ、一瞬赤が付いたのですが、直ぐに青に変わったもので」

「どれどれ?」

「「 … 」」


東を向いて双眼鏡を覗き込むプリモハと国章持ちのリザードマン。


「…、問題なさそうですね」

「そのようです、只の押し間違いでしょう」

「では全て良好ということで、ポチッとな」


プリモハが青色のランプを点灯させて

ハンクが双眼鏡で確認すれば接続テストは終了。


因みに、テスト映像に使用されたブルーチーズはダナブル産、

松本がちょいちょい気にしているチーズ工場で製作しているチーズの1つ、

プリモハが屋敷に置いておいた間食用である、

その辺にあったのでカプアが適当に被写体として使ったらしい。



「昨日話を聞いた際は冗談かと思いましたが、何とかなるものですね」

「ほほほ、前々からこちらで準備は進めておりましたから

 設置さえ手伝って頂ければこんなものです」

「簡単に仰いますがこれだけの長さとなると材料費だけでも…、

 いえ、野暮ですね、ロックフォール伯爵のお心使いに感謝します」


ダインが伯爵像に向け少し大げさにお時期をする。


「不安を抱えて居ては人は前向きになれません、

 このまま開催しては大惨事になってしまいます」

「想いを伝える者には勇者の後押しが必要ですか」





 

一方その頃、松本が生活するオカマ寮では。


「生地はこんなもんですかね?」

『 … 』

「あの~片抜き先に使ってもいいですか?」

『 … 』

「(おいぃぃ!? そんなことあるぅ!? クッキー作ってんだよ!?)」


無言で黙々と生地を捏ねるオネェ達、アゴミに至っては額に血管が浮いている。


『 … 』

「(…クッキーに親でも殺されたんか?)」


松本のレーダーが殺気を検知している。

※全力で愛情を練り込んでいます、決して殺気ではありません。


「…先に焼きますよ?」

『 … 』


禍々しい程に愛情たっぷりの栗型クッキーが完成した。





そして10時前、大通り集まった人達の上空に巨大なブルーチーズが写し出された、

テストの時より少し欠けており何者かに食べられた形跡がある。


『 ? 』


人々が首を傾げていると声が聞こえてきた。


「あ! ハリステンさんボタン押したでしょ!」

「押してはいない、触っただけだ」

「ほら写ってる、音声も出ちゃってますよ、え~どうしよう?」

「なんと、これは申し訳ない」

「ふふふ、少し早いですが始めましょう、頼みますよカプア」

「了解です、んじゃハリステンさんここに立って下さい、ピント合わせますから」


台座の上のブルーチーズが消え、

変わりに眼帯とテンガロンハットのハリ族が姿を現した。


「では、え~コホン、愛すべきダナブルの諸君、

 今年も季節外れの栗と共に日頃の感謝と胸に秘めた想いを伝える時がやって来た、

 さて、クリクリクッキー開始を宣言する前に、我らの親愛なる領主、

 ロックフォール伯爵よりお言葉がある」


ハリストンと入れ替わりロックフォール伯爵が姿を見せると

盛大な拍手と歓声が贈られた。


「ありがとう、こんなにも愛されて私は幸せです」


ロックフォール伯爵が右手を上げると静かになった。


「世界中で話題になっている魔族の襲撃と、

 それに伴い懸念される魔王の復活を皆さんはご存知だと思います、

 さぞ不安でしょう、ですが悪い知らせばかりではありません、

 光の精霊様が長い眠りから目覚められ、

 幸運なことに私達は光魔法を授かることが出来ました、

 先日王都に出向いた際に、光魔法を用いて魔族と対峙した者達の話を耳にしました、

 1夜に渡る長い戦いを経て、軽微な怪我はあれど死者は出なかったそうです、

 皆さん、光魔法は魔族に対し非常に有効であると照明されました」

『 おぉ~ 』


再び湧いた歓声を右手を上げて鎮めるロックフォール伯爵。


「良い知らせはまだあります、どうぞこちらに」

「うむ」


ネネの槍を持ったタルタ王がフレームイン。


「我はドワーフの王、タルタ国国王ロマノスである、

 ダナブルにはドワーフがおらぬ故、身近に感じぬ者も多いだろう、

 だが我とカード王ヨーフスは長年交流を持つ古き良き友である、

 タルタ国はカード王国協力し魔王に対峙する所存である、

 共に手を取り合い1000年来の脅威に共に立ち向かおうぞ!」

『 おぉ~! 』

「現在カード王国はタルタ国のみならず、

 隣国や各地に散らばった他種族と情報を共有し、着々と魔王対策を進めています、

 そしてもう1つ、タルタ王がお持ちの槍を見て下さい」


タルタ王が槍を前に出すと映像がズームされた。


「これは先日とある場所で発見された遺物、

 かつて光の3勇者ネネ様が愛用され、そして魔王を討伐したとされる伝説の武器、

 その名も『闇を穿つ白き槍』です、その製造には初代タルタ王が深く関わっているとされています、

 タルタ国に残されている記録とロマノス王の鑑定により、この度、正式に本物と断定されました」

『 おぉ~!! 』


唐突な発表で町中映像に釘付けである。


「魔王が復活しようとしている時にこの素晴らしき発見、

 流石の私も興奮を抑えられません、皆さん、きっと未来は明るいですよ!」

『 ロックフォール! ロックフォール! ロックフォール! 』 


轟くロックフォールコール受け止めた後、右手を上げて鎮める伯爵。


「この興奮を皆さんにも身近に感じで頂けるように精巧な複製を製作致しました、

 手掛けたのはダナブル第1工房、ミスリル製で100本限定、値段は15ゴールドです、

 そして5本限定のオリハルコン製は1本300ゴールド、こちらは製造番号付きですよ

 希望される方はダナブル第1工房まで、それではハリステンさん」


ロックフォール伯爵とタルタ王が引っ込みハリステンが再登場。


「え~コホン、クリクリクッキー開始前に皆に1つ伝えておくことがある、

 1度しか言わないのでしっかり聞いて欲しい、

 先程ロックフォール伯爵が述べられたオリハルコン製の複製、

 その記念すべき1本目、製造番号1番の300ゴールドの槍を、

 なんとぉ! 大通り中央の特別会場で行われる公開告白で

 最も派手に散った者に贈呈することとする!」

『 えぇ~!? 』

「飛び入り参加したい者は特別会場近くの出張役所まで!

 それではクリクリクッキー開始ぃぃ!」

『 クリクリクッキー! 』


ハリステンの絶叫に合わせて城壁からフレイムが放たれクリクリクッキー開始、

魔王の不安を吹き飛ばす波乱の幕開けである。


東のサブステージでは生歌生演奏のミニライブが開催され、

南のサブステージでは夢見る無名の劇団員達が演目を披露し、

西のサブステージでは鳥便局のボーリスとラポルが鷹匠の如く

鳥ちゃん達と観客を沸かせている。


日頃の感謝を伝えクッキーを渡す者、出店に並ぶ者、

飛び込みで公開告白に飛び込む者などなど盛り上がりを見せる中、

公開告白が行われるメインステージ裏の松本達は…


『 … 』

「(戦う者の顔をしている…)』


オタマ、アゴミ、モジャヨ、パーコは戦闘態勢。


「はぁはぁ、…はぁ」

「(こっちは尻尾が膨らんでる…)」


興奮気味のラヴはギリギリ子供に見せられない状態である。


「(怖い…)」

「(俺の相手じゃなくて良かった…)」

「(断ったら大変なことになりそう…)」


公開告白に呼ばれた方々に戦慄が走っているが

別に自暴自棄になって暴れたりしないので安心して欲しい。

※オネェ達はとても緊張しています、

 普段はふざけていますがとても繊細だったりします。

 (但しラヴは除く)




飛び込み受付が一段落したので公開告白開始。


「俺、俺マジで今日に掛けて来たから! 金栗にも握手して貰ったから!

 やれることは全部やって来たから! だから俺と…」

「ごめんなさい! 顔が無理!」


今日に掛けて来た男、玉砕。


「そろそろいい年だし、親もいい加減身を固めろっていうから、

 まぁ…その…私と一緒にトード肉売りませんか?」

「僕でよければ是非、クッキー一緒に食べましょう」

「金栗効果きたぁぁ!」


トード肉屋の娘、カップル成立。


「つ、次ね…」

「パーコ頑張って」

「自信持つのよ」

「怖くても泣いちゃ駄目よ、化粧が崩れちゃうから」

「もし…もしもこの中で誰かが幸せになったとしても、恨みっこなしよ」

「当然よ~」

「祝福するする~」

「ほら笑ってパーコ、愛しのあの人が待ってるわ」


出番を控えたパーコを励ますオネェ達。


「(俺も一応声掛けとくか)

 皆さん頑張って下さい、もし駄目でも300ゴールドの槍が貰えるかもしれませんから」

「オマツ、金じゃ愛は買えないのよ」

「槍なら股に付いてるっての」

「2本も要らないわ、むしろ貰って欲しいくらい」

「直前で気分が滅入るようなこといわないでよオマツ」

「す、すみません…」


オネェ達にフルボッコにされた、

碌に恋愛経験のない外野が余計なことを言うべきではない、という良い例である。

※オネェ達は運命の時を目前にし非常にナーバスになっています。

 (ラヴは除く)




「次、パーコさんお願いします」

「ひゃっ、ひゃい…」

「「「 パーコ頑張って~! 」」」


クネクネしながら応援してくれるオネェ達に背中を押され、

ステージ左には緊張気味の天然パーマのパーコ、我儘ボディにゴスロリ、

まつ毛長めのしっかりメイクで参戦、右には眼鏡を掛けた30代の優男。


「あ、貴方の優しい目付きと丁寧な仕草が大好きです、クッキー受け取って下さい」

「申し訳ありません、妻子がいますので貴方の気持ちには応えらえません」

「あぁぁん、別れの言葉も丁寧ぃぃ!」


パーコ撃沈。


「頑張ったわパーコ!」

「でも妻子持ちはハードル高過ぎよパーコ!」

「普通の女でも無理よパーコ!」

「わかってる! でも元から無理なら自分に素直になりたかったのぉぉ!」


ピュアな心に殉じたらしい、涙で崩れた化粧は急いで修正した。




「次、オタマさんお願いします」

「出番ね、愛を勝ち取ってく来るわ」

「「「 オタマ頑張って~! 」」」


次のチャレンジャーはスキンヘッドのオタマ、

無駄毛処理済みの筋肉質な身体に際どいスリッドの入ったチャイナ服、

控えめなイヤリングにスッピンで参戦、相手は可愛い顔をした年下の男。


「見ての通り私はオネェ、体は男で心は女、そして恋愛対象は男、

 愛されるより愛するタイプ、良かったらクッキー受け取って」

「すみません、僕実は女なんです、心は男なんですけど…体が女で」

「あら、私達似た者同士、もしまだ迷っているなら心で応えて」

「…すみません、僕やっぱり」

「ふぅ…お互い大変ね」


オタマ善戦するも撃沈。


「あ~ぁ、人は見た目じゃわからないわね~」

「それ私達が言っていいこと?」

「いや私達ってかなり分かり易いと思うわよ」

「全力でオネェしているしねぇ」


恋愛とは複雑な物である。




「次、モジャヨさんお願いします」

「やだぁ~モジャヨ怖いぃぃん」

「「「 モジャ頑張って~! 」」」


舞台に上がるゴリマッチョモジャヨ、へそ出し悩殺ミニスカート、

猛々しい筋肉にフェロモン全開の胸毛をライドオン、

若さを生かしたナチュラルメイクで参戦、

対するは筋肉隆々ゴリマッチョの光筋肉教団員。


「筋肉、好・き」

「すまない、今は筋トレ以外のことは考えられない」

「いやぁぁん、そのストイックさも素敵ぃぃ!」


モジャヨ轟沈。


「モジャヨ悔しぃぃん!」

「泣いちゃ駄目よモジャ、化粧が崩れちゃうわ」

「モジャは身体に対して心が繊細過ぎよ~」

「相手は筋肉と結婚しちゃってるんだから仕方ないでしょ~」


崩れた化粧は直ぐに修正、

あのレベルのマッチョならクッキーすら食べ無さそう。

※クッキーは大量のバターを使用しています、

 バキバキのマッチョは無駄な脂質に敏感です。




「次、アゴミさんお願いします」

「今年は金栗だって見つけたんだもの、自分を信じるのよアゴミ」

「「「 アゴミ頑張って~! 」」」


オネェ軍最後の挑戦者はアゴが持ち味のアゴミ、

背中の空いた赤いドレスとオカッパ頭から覗く大きめのイヤリング、

アイシャドーとドレスに合わせた赤い口紅、少し影のある女メイクで参戦、

対するはカウンターとお酒の似合うナイスミドル。


「カウンターで静かにお酒を嗜む貴方に気が付いたら惹かれちゃってたの、

 甘い物が好きとは思えないけど良ければ受け取って」

「危ない恋に身を焦がすにはお嬢ちゃんは若すぎる…だがそれもまた人生か」

「…え? 嘘!?」

「今夜店に行くよ、続きはそこで」

「(やだ、格好いい…)」


スマートにクッキーを受け取り舞台を降りるナイスミドル、

ファンファーレと声援に包まれ、アゴミ、悲願の勝利。





「どどどどうじようぅぅあだじうれじぃぃん!」

「「「 私達もうれじぃぃん! 」」」

『 お~んおんおんおん… 』


メインステージ裏でオネェ達感涙の宴。


「(また化粧が…)」


化粧は即座に修正、オタマはスッピンなのでセーフ。





「次、ラヴさんお願いします」

「はいぴょん、絶対に抱くぴょん!」

『 (抱く!?) 』


そして問題児、性欲の権化ラヴ出陣。


「ラッチちゃん! クッキーを受け取って欲しいぴょん!」

「ごめんなさい、ラヴさんとはずっと良い友人でいたいです」

「そう言わずにクッキー受け取るぴょん、ほらほら~ラヴ結構上手いぴょんよ?」

「離れてくださ~い! 告白する人は相手の体をベタベタ障らないでくださ~い!」


ラッチの耳元で囁きながら体を弄るラヴ、司会の人から注意を受けている。


「ほらほら興奮して来たぴょん? クッキー食べたくなってきたぴょん?」

「いやそれラヴさんでしょ…」

「今すぐ離れてくださ~い! 体を擦りつけないで~子供も見てますよ~!」

「きゃぁ~なんだか卑猥~!」

「指の動きがナマナマしい~!」

「ラッチちゃんから離れなさいよそこのラビ族!」

「そうよそうよ! ラッチちゃんは私の物よ!」

「何言ってんのよ! ラッチちゃんは私のクッキー受け取るの!」


観客の女性陣達から非難が飛んでいる。


「怒られてますよラヴさん、離れて下さい」

「はぁはぁ、クッキー受け取ってくれたら離れるぴょん、

 焦らすラッチちゃんが悪いぴょんよ」

「そうだぞ~ラッチがラヴさんの想いを受け止めれば全てが解決だぞ~」

「小さい頃からお世話になってるでしょ~大人しくラヴさんに抱かれなさ~い」


ステージ脇でジェリコとニコルが野次を飛ばしている。


「ちょっとぉ、他人事だと思って面白がってるでしょ2人共!」

「そんなことないぞ~」

「とっとと抱かれなさいラッチ~」

「そうだぴょん! はぁはぁ…先っちょだけぴょん、痛くないぴょんよぉぉおご!?」

「いい加減にしろラヴ!」 

「アンタのせいでラヴ族全体が変な目で見られるでしょ!」

「俺ですらお前ほど盛りはせんぞ!」

「は、離すぴょん! 嫌だぴょん! ラッチちゃぁぁぁん!」

『 … 』


ラビ族によって無理やりステージから引きずり降ろされ強制終了させられた。

※ラビ族は全体的に性欲高めです、但しラヴは異常。



「ははは、今日のラヴさんは一段と凄かったな」

「あれだけ想いを寄せられて突き放すなんて薄情よラッチ」

「その言葉、忘れないでよニコル」

「何が?」

「「 … 」」

「次、ニコルさんお願いします」

「え? 私ですか? 聞いてないですけど?」

「ほら行けニコル」

「進行が遅れちゃうからさ」

「そんないきなり言われても…」

「気合いだ、相手を見て直感で決めろ!」

「ほら行きなよニコル」

「う、うん…(誰だろ? ちょっとドキドキして来た)」

「「 (ふふふふふ…) 」」


少し頬を赤らめながらステージに上がるニコル。


「ニコルちゃん! クッキー受け取って欲しいぴょん!」

「っておぃぃ!? またラヴさんじゃねぇぇかぁぁ!!」

「そうだぴょん! ラヴだぴょん! 今晩一緒に寝るぴょん!」

「嫌ですよぉ!」

「じゃぁ今から寝るぴょん、はぁはぁ、ニコルちゃんせっかちだぴょん」

「そういう意味じゃないですぅぅ!」

「ママはお互いが了承すればいいって言ってたぴょんよ、

 心配せずにクッキー受け取って一緒に気持ちいいことするぴょん」

「ちょっと、変なところ触らないで下さい、ちょっとラヴさん!」

「はい離れて~! 離れて下さ~い! 公然の場で卑猥な行動は止めて下さ~い!」


ニコルを弄りながらハァハァするラヴ、尻尾が大変なことになっている。


「ごめ~ん昨日伝え忘れちゃった~、でもニコルさっき言ってたよね~、

 想いを寄せられて突き放すなんて薄情だって」

「そうだぞニコル~一緒に寝るだけだって~ラヴさんを信じろ~」

「は、嵌めたなラッチィィ! 後で覚えときなさいよぉぉ2人共!」

「「 ふふふふ… 」」


ジェリコとラッチが下卑た笑みを浮かべている。


「離れろラヴ! 1度断られたら大人しく引き下がれ!」

「いい加減にしてよ! こっちまで恥ずかしい!」

「お前見境なさすぎだろ!」

「そんなことないぴょん! 可愛い顔が好きなんだぴょん! ニコルちゃぁぁん!」


再び強制終了、痴態を晒すもラヴ大敗。



「抱けなかったぴょん…」

「いくら何でも性欲丸出し過ぎよ~」

「あんなに無理やり迫られたら誰たって退いちゃうわ」

「そんなことないぴょん…結構いけるぴょん…」

「あら、じゃぁ私達もあれ位強引にいく?」

「試す価値あり?」

「絶対やめといた方がいいと思いますけど…(衛兵にしょっ引かれそう)」


ステージ裏では新世界メンバ-によるラヴ反省会中、

ダイレクトアタックは松本の言う通り事案になるのでやめた方がいい。




一方、プリモハ調査隊の3人は。


「やりやがったわねラッチ、ジェリコも知ってたでしょ」

「「 ぴゅ~ぴゅぴゅ~ 」」

「口笛拭いて誤魔化すんじゃない、おいこっち向け」

「次、ラッチさんお願いします」

「は~い、じゃそういうことだから」

「…逃げたな、ジェリコ?」

「ぴぴぴゅ~」

「(腹立つぅ…)」


苦虫をかみ殺した顔のニコルと

頑なに目を合わせないようとしないジェリコを残しラッチはステージへ。


「ラッチちゃんクッキー受け取って」

「ラッチちゃんに食べ欲しいの」

「家族と一緒に作ったわ、今年は自信作」


毎年恒例になっているラッチに対する年上女性陣からのクッキー爆撃、

感謝を伝えつつも全てやんわりと受け流している。


「(ラッチさんって本当に年上の女性からモテるんだなぁ)」


松本がシミジミと目を細めているが、

本気の人は極極一部、結婚している人や還暦の人もちょいちょいおり、

ラッチは日頃から買い物に行った際にオマケを貰ったりしているので

その延長みたいな感じ、観客側も分かって楽しんでいる。


ラッチが何故こんなにも年上の女性にモテるのかというと、

孤児として生き抜く過程で自然と処世術が身に着き、

「今日も綺麗ですね」とか「髪切りました? 凄く似合ってます」とか

相手が喜びそうな言葉を発していたため、

買い物のオマケが欲しいとか、値段を安くして欲しいとかの下心からではなく、

力無い子供として出来る限り敵を作らないように生きて来た結果である。


無事大人になってからはお世話になった人達に感謝を示そうと、

お土産持って行ったり、暇な時には手伝いをしたりしていたら余計に気に入られたそうな。


「夫と子供には別れを告げて来たわ! 私本気よ! 私を見てラッチちゃん!」

『 えぇ… 』


まぁ、たまにガチの人が出て来てしまうのだが…

家族を捨てての愛の逃避行には流石に会場もドン引きの様子。


「えっと、ご家族に何かご不満でもあったのですか?」

「別に無いけど、でもラッチちゃんが好きなの!」

「考え直して下さい、貴方は一時の感情にながされて幸せを手放してしまった、

 それは掛けがえの無い物です、僕なんかよりずっと大切な筈です」

「え…」

「謝ってもう1度やり直しましょう、そうしないと絶対に後悔します」

「でも今更…勝手な事言って飛び出してちゃったし…許してくれないわ」

「僕も一緒に謝ります、良いですね」

「は、はぃぃ…」


ラッチからガッツリ怒られた女性はシオシオになってステージから降りて行った。


『 (う~ん…) 』


愛とは人を盲目にする、

良い方向に働くこともあるが今回は違ったようだ。


「これはまた…我が国では起き得ぬ事態だな」

「私は彼女に1票」

「決まりですね、手土産も必要そうですし」


タルタ王、ハリステン、ロックフォール伯爵の意見が一致し、

槍の複製の贈り先が決まった。






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