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235話目【ポッポ村とウルダの近況】

「最近よく合うの~バー坊、3日ぶりじゃて」

「もう1か月以上経ってますよ」

「そうじゃったかの? どうも長く生きとると時間の感覚が薄くなっての」

「ははは、相変わらずですね、芋焼いてますけど食べます?」

「貰おうかの」


池の畔で焚火を囲むバトーとシーラさん、

ここはポッポ村と地方都市ウルダの中間に位置する青龍湖である。


「(あれがシーラさんか、デケェな)」

「(陸で活動できるの魚か、バンドウさんと近い種族なのだろうか?)」

「(美味しそうである)」


シーラさんを初めて見るゴードン、メグロ、ニャリモヤの3人は

少し離れた位置で様子見中。


「ポニ爺~ニンジン食べないの? お~いポニ爺~、こっちだよポニ爺~」


ジョナはポニ爺のお世話中、

一方、ポニ爺はニンジンそっちのけで隣のポニ姉にキメ顔アピール中である。 


「なんですかそれ?」

「うぉ!?」

「只のワイルドボアの肉だけど…(獣人だ)」

「(ウルフ族か?)」

「(初めて見た)」

「美味しそうな匂いがしてますね! 凄く美味しそうです!」

「よ、よかったらどうぞ…」

「いいんですか! ありがとうございまうまままま…」

「「「(美味しそうに食べるなぁ)」」」


そしてカテリアは近くの旅人グループから善意で食料を拝借中。


「あの~…そっちのヤツも…美味しそう」

「ど、どうぞ…」

「ありがとうございます! うまままま…初対面なのに凄く美味しい人達、

 間違った、優しい人達ですね!」

「「「(う~ん…)」」」


※あくまでも善意です、他意はありません。



さて、ポッポ村から3名、獣人の里から3名の見慣れた人物達だが、

親睦を深めるためにキャンプに来た訳ではない。


「バー坊また買い出しかの?」

「いや、俺は冒険者になるためにウルダへ引っ越しです」

「5年位前もそんなこと言っとらんかったかの?」

「もっと前ですよ、俺が子供の頃の話でしょそれ」


バトーはカルニの要望に応える形でウルダへ引っ越し。


「正確にはバトーが10歳の時の話だね、21年前、

 僕がまだ1歳か2歳の可愛い幼子だった頃だよ」

「なんじゃ、ということはジョナ坊も成人しとったんか、もう子供は出来たかの?」

「いるように見えますか? 結婚すらまだですよ」

「バー坊といいジョナ坊といい、大丈夫かの?

 人間ならもう子供の1人や2人おってもいいころじゃろ?」

「まぁ、そうですね」

「ずっと気持ちは伝えているんですけど中々振り向いて貰えなくて、

 あれもう一生無理なんじゃないかな?」

「一生とは難ありじゃな~、それでウルダに行って相手探しかの?」

「ははは、違いますよ、僕は只の買い出しです、それと村長達が道に迷わないように付き添い」

「(果たしてウィンディの性癖が治ってジョナと結ばれる日はくるのだろうか?)」


ジョナはいつもの買い出しと付き添い、

断言するがウィンディの性癖は治らない、

というか性癖に治るも治らないも無い、性癖とはそういうもの、

年取って性欲が衰えれば興味を失う可能性あり。


「お、芋焼けたな、お~いゴードン」

「村長~芋焼けたよ~」

「ジョナよぉ、その村長っての慣れねぇからやめてくれねぇか?」

「慣れてもらわないと困るよ、ポッポ村の代表として行くんだから」

「そうだぞゴードン、ウルダの偉い人とかに挨拶するんだ、自覚を持て~」

「いや、バトーは名前で呼んでるじゃねぇか、他人事だと思ってよ」

「そう言わずに代表同士お互い頑張りましょう、ゴードンさん」

「我も頑張るのである」


てなわけで、村長代理から正式な村長になったゴードンと、

獣人の里族長でありウルフ族代表のメグロ、ニャリ族代表のニャリモヤ、

この3人は魔王襲撃時に備えウルダへ避難する際の下見とご挨拶。


「カテリアちゃん大丈夫かしら?」

「ちゃんと合流出来たのか心配ねぇ」

「怪我とかしてなければいいけど…あでも回復魔法取得してたし…」

「カテリア姉ちゃんなら心配いらないですよ」

「そうなのマルメロ君?」

「でも私やっぱり…」

「暖かくなってきて魔物も増えて来てるし…」

「「「 心配よねぇ 」」」

「獣人は耳が良いのであれくらいの距離なら父さん達に聞こえます、

 すぐに掴まったと思いますよ」

「あんなに遠かったのに?」

「集中すれば聞こえます、そもそもカテリア姉ちゃんが

 素直に見送ってる時点で怪し過ぎすぎるので想定通りです」

「へ~凄いわね~獣人の人達って」

「要らない心配だったみたいね、こういうのを老婆心っていうのかしら?」

「あら私達もうお婆ちゃん? まだ誰も孫いないわよ~」

「「「 おほほほほ! 」」」


ポッポ村マダム3人衆(マリー、ポポ、アヤメ)とマルメロの会話から推察するに、

カテリアは元々メンバーに含まれていなかったが、

ウルダに存在するであろうまだ見ぬ美味しい食べ物を求めてポッポ村を脱走し、

コソコソ跡を付けていたところを捕獲されたらしい。


「マルメロく~ん! きゃ~毛が抜けてスベスベになったマルメロ君も可愛いぃぃぃ!

 良い、頬の感触が凄く良い! うひょぉぉぉ!」

「…どうしたんですかウィンディ姉さん?」

「これね~お姉さんが作った美味しいパンでね、中にクリームが入ってて、

 ほら見てクリーム、美味しそうでしょ?」

「美味しそうですね」

「マルメロ君に食べて貰いたいなぁって思って、ほらあ~ん…

 あ、ゴメ~ン、頬にクリームが付いちゃった、悪気はないのよ?

 今取ってあげるから動かないでね、お姉さんが直々に、舌でへへへへ…」

「悪気しかないだろうがぁぁぁ!」

「ぐへぇあっ!?」

「ったく、目を離すとすぐこれなんだから」

「お…重い…レベッカ姉さん…息が…」

「はいマルメロ君、これ私とフィセルが作ったクリームパン、沢山あるから皆で食べてね」

「レベッカさんありがとう御座います」

「いいのよ、それじゃこの変態は回収して行くから」

「い、嫌ぁ! 私もマルメロ君と一緒に食べたいぃぃ!」

「喚くな、お前は一緒に追加のクリームパンを作るんだよ」

「やめてレベッカ姉さん! お願いだから! 1個だけだから! 嫌ぁぁ助けて母さぁぁぁん!」

「ごめんねマルメロ君…ウチの娘が…」

「ポポ…」

「元気出してポポ…」


ウィンナー姉さんも捕獲されたらしい。




6人の大所帯の上にニャリモヤ(重量級)もいるということで

念のためポニ爺とポニ姉の2馬力体制で馬車を引いてもらうことにしたのだが、

ポニ姉に良いところを見せたいポニ爺がグイグイ先行するため

実質1馬体制となっている、道中はずっとポニ姉の方を見つめている徹底ぶり、

器用というか不器用(恋愛的に)というか…とにかく大好きなのは間違いない。







焼き芋片手に焚火を囲む一同、

シーラさんがゴードンの顔を見て考え込んでいる。


「はて、村長は以前会ったかの?」

「ん? いや、初めて来たので違うと思いますけど」

「そうかの~? 確かに見たことある顔なんじゃが…」

「シーラさんは長生きですからね、似たような顔が何人かいたとしても不思議じゃないですよ」

「バー坊の言う通りじゃの」

『 はははははは! 』


他人のそら似ではなくシーラさんが出会った人物は

ポッポ村を出てウルダへ向かったゴードンそっくりな息子、エドガーである。


「そういう意味ならそこのニャリ族にも出会っとるの」

「我も初めて来たのである」

「昔の話じゃて、見た目がそっくりなニャリ族じゃった」

「それどれくらい昔の話ですか?」

「バー坊は産まれとらんの、軽くうん百年前じゃ」

「確実に我では無いのである」

『 はははははは! 』


こっちは魔王討伐後にネネと一緒に安住の地を探していたニャリ族の話、

ネネの日記に出てきたニャリモヤ(ニャリモヤのご先祖)である。

※ニャリ族は模様が似ている者に同じ名前と付ける風習があります。


「なるほどの~、この辺りの村はウルダへ身を寄せるか、それがええじゃろうな」

「受け入れが可能になっていれば皆を段階的に引っ越しさせる予定です」

「この辺りじゃポッポ村が一番遠いからな、早めに行動しねぇと間に合わなくなっちまう」

「私達も加わったせいで人数も倍以上になりましたからね、

 全員を移動させるにはかなりの数を往復しなければならない、ご迷惑をお掛けます」

「いやぁ、気にするもんじゃねぇって、困った時はお互い様ですから」

「そうですよメグロさん、ポニコーンを借りるか買うかすれば済む話です、

 馬車は村でいくらでも作れますから」

「ジョナの言うとおりだ、大した話じゃねぇ」

「そう言ってもらえると助かります」

「っほっほっほ、そうじゃそうじゃ、そうやって気兼ねなく手を取り合わんと

 魔王は乗り越えられんからの~、ふむ旨いの、また頼むぞバー坊~」


冷ましていた焼き芋を一口で完食しノシノシとシーラさんが湖に帰って行く。


「シーラさんはウルダに避難しないんですか?」

「ワシはここに残る、水の中の方が安全だったりするんじゃよ、

 まぁ魔王本人でも来んかぎりワシの鱗は傷つけられんがの」

「それもそうですね」

「そういえば人魚達はどうするつもりかの? 前回は海中に避難しとったらしいが」

「リコッタに身を寄せるんじゃないですか? 水の精霊様もいらっしゃいますし」

「そうかもしれんの、一部はきっとダナブルじゃな」

「ダナブルにもいるんですか? 海からは離れてますけど」

「町を流れる川に住み着いとるらしいぞ、海まで繋がっとるらしい」

『 へぇ~ 』


青龍湖は雨水が流れ込んで出来た只のデッカイ水溜まり、

海とは繋がっていないので人魚は住んでいない。


「バー坊、光の精霊様はウルダへは行かれんじゃろ?」

「えぇ、森に残られるそうです」

「そうじゃろうな、精霊様とは自然の節理の一部、

 世界を魔王から救って下される訳ではない、滅ぶこともまた自然の節理じゃて、

 だが抗う者にはほんの少しだけ助力を下される、

 魔法や知識などの~、その先の結果はそこに生きる者達次第なのじゃ」


誰に諭されずともバトー達は理解していた、


『いつの時代も 諦めず抗う者こそ 成果を得る』


光の精霊レムが度々発する言葉、他の精霊も度々発し続けてきた言葉、

それが何を意味し、そして何をすべきなのか、

ポッポ村のみならず、カード王国のみならず、大陸全土が理解していた、

ただ1国、キキン帝国を除いては…

 






約3日後、ウルダの南城門、

数名の衛兵が槍を構えて馬車を取り囲んでいる、

物々しい雰囲気の中コットン隊長が対応中。


「今日はどのような用件で?」

「僕は買出し、バトーは冒険者として移住、

 後ろの4人は避難について確認に来ました」

「ジョナさんとバトーさんはあれだが…後ろの4人?は見ない顔だな、初めてか?」

「はい、獣人の方達は登録が無い筈です」

「そうか…別室で確認するから馬車を向こうに止めて来てくれるか」

「わかりました」

「あ、ちょっとジョナさん…」

「何でしょう?」

「一応確認なのだが…その…一番こう…大きい方は獣人なのだな?」

「はい」


ジョナの返答を受け荷台の毛玉を確認するコットン隊長。


「(う~む…)あの…バトーさん」

「獣人です、ニャリ族のニャリモヤさんです」

「貴方ニャリモヤさん?」

「ニャリモヤである」

「…なるほど、失礼しました、どうぞ」

「馬車動きま~す、皆さん気を付けて下さ~い」

『 はい~ 』

「(っほ、魔物では無かったか)」


初めて見る生のニャリ族が魔物かどうか判断付かなかったらしい。


「ニャリモヤ凄く警戒されてたね」

「悲しいのである」

「元気だせニャリモヤ」

「(まぁ、4足歩行だしね)」

「(コットン隊長の心配も分からんでもない)」

「(ポッポ村じゃ子供達に人気だったのになぁ)」


確かにニャリモヤサイズの猫は猛獣のそれである。







いろいろあったが無事入場、

ジョナは買出しのため離脱、残りの5人はギルドの前にやって来た。


「なぁバトー、やけに子供が多いけどよ、ここが役場か?」

「いやギルドだ、この時間は大人の冒険者は出払っててあまりいないんだ、

 代わりにチビッ子冒険者が依頼を受けに集まってくる」

「マツモトより少し大きい位か?」

「基本的には12歳以上だな」

「なるほどな、それはいいけどよ、ジョナは役場に行けって言ってなかったか?」

「ギルド長に話を通して貰った方が早いんだ、少し待っててくれ」


バトーは一番端の受付に座ってカルニと交渉中。


「これ、美味しそう…」

「カテリア、迷惑になるからこっちに来なさい」

「お父さんこれ、私これ食べたい…」

「そんなに目をウルウルさせても駄目だぞ、もう直ぐお昼ご飯なんだから我慢しなさい」

「で、でも…これ美味しそうなの…」

「(なんだか可哀想…)」

「凄く美味しそう…食べてみたい、お父さんお願い」

「んん…んんん~…1個だけだぞ、どれが食べたいんだ?」

「これ! このパンのヤツ!」

「(お父さん押しに弱い)」


カテリアとメグロは売店でハムバターサンド購入。


「お、おい見ろゴンタ! ギルド内にデッカイ魔物がいるぞ!」

「何言ってんだハイモ、城壁の中だぜってマジかよ!? 危ねぇぞオッサン! 離れろ!」

「はぁ~ハイモのゴンタもそそっかしいんだから、よく見てほら、

 優しそうな顔してるじゃん? 魔物は魔物でも優しい魔物なんだよきっと、

 ほら触っても大丈夫~スッゴイ柔らかい」

『 (いいなぁ~) 』

「馬鹿お前、魔物が顔で判断できるわけねぇだろ!」

「離れろシメジ! そこのチビ共も迂闊に近寄るんじゃねぇ! ガブっといかれるぞ!」

「だから大丈夫だって、ここギルドだよ? 

 問題あるならもっと大騒ぎになってるよ~、っておわぁ!?」

『 !? 』

「あ、なんだ舐められだけか、舌ザラザラだ」

「おいぃぃぃ!? 落ち着いてないでこっち来いシメジ!」

「それ味見されてんじゃねぇかお前!? 命は大切にしろって言ってんだろ馬鹿野郎!」

「(町の子供は警戒心強ぇんだな)」

「(良かれと思って舐めたら余計に警戒したのである)」


警戒するハイモとゴンタ、対照的にニャリモヤを捏ね繰り回すシメジ、

3人のやり取りでチビッ子冒険者達の心が右へ左へ揺れ動いている、

ゴードンとニャリモヤは黙って静観中。


「そこまでです! 4足歩行で人より大きな身体、恐怖するのも無理はありません、

 一見すればムーンベアー、しかしよくよく見れば耳は大きく顔は丸い、

 ふふふ…ハイモ君、ゴンタ君、心配には及びませんよ」

「何か知ってるなら早く言えよ」

「勿体ぶってんじゃねぇぞ、あとそのポーズやめろって恥ずかしい」

「遅いぞ~トネル」

「ふふふふ…まだ集合時間前です」

「(ムーンベアーに似てるか? まぁ近ぇっちゃ近ぇか?)」

「(なんか変な子供である)」


右手の指を2本立て右目を隠し不敵に笑う少年、

フォースディメンション最後の1人、トネル、痛いポーズで堂々登場である。


「書物で見た覚えがあります、私の記憶が確かなら、

 貴方はそう! 獣人のニャリ族ではありませんか?」

「そうである、ニャリ族のニャリモヤである」

『 おぉ~ 』


チビッ子冒険者達から贈られる拍手にポーズを変えて応えるトネル。


「そう言えば学校で習ったな、一瞬だけ」

「え? あったかぁ?」

「あっただろ、獣人のところで」

「全然覚えてねぇぞ?」

「ゴンタ寝てたんでしょ~」

「寝てねぇって! 自信ねぇけど…って言うか書物ってなんだよ、教科書だろ」

「おいゴンダ、トネルだぞ」

「トネルだよ? いつものことでしょ~」


教科書の亜人種紹介の中の、獣人枠で少しだけ紹介されているそうな、

ウルフ族はSランク冒険のマダラの写真が使われているが、

ニャリ族は全然外界との交流が無かったので手書きの挿絵が1つだけ載っている、

近年ではマダラの証言以外にニャリ族の存在を示す物が無かったので

一部の界隈では絶滅の可能性も視野に入れられていたとかなんとか。


因みに、トネルの言っていた書物とは教科書ではなく伯爵家に伝わる書物、

子供向けの亜人種紹介本なら本屋にも売っており、ポッポ村の勉強小屋にもあったりする。


「そういうことですから皆さんご安心を、そうですよねニャリモヤさん?」

「そうである、仲良くして欲しいのである」

『 ひぃやっほぉぉぉ! 』

「ちょ、ちょっと!? だからと言って揉みくちゃにして良いと言うことでは、

 失礼に当たりますよ、気持ちは分かりますが礼儀を…」

「別に問題ないのである、いつものことである」

「え? では私も耳を少しだけ…」

「はいはい騒がない、皆離れて~」

「あ…(耳…)」


カルニ登場によりトネル耳に触れること叶わず、

チビッ子達も名残惜しそうに離散。


「話は付いたのかバトー?」

「あぁ、デフラ町長にも取り継いで貰えることになった」

「ギルド長のカルニです、よろしくお願いします」

「俺はゴードン、ポッポ村の村長やってます」

「私はメグロ、ウルフ族の代表として来ました」

「我はニャリモヤである、ニャリ族の代表である」

「あちらの売店に張り付いている方は?」

「…私の娘のカテリアです、すみません食欲が盛んな時期でして…ってあれ?

 カテリアそれ2個目じゃないか?」

「!? 違うの、…増えたの」

「そんな訳ないだろう、すみませんこれお金…」

「うままま…」

「(なんて健気な嘘を…それにしても幸せそうね)」


なんて考えながらもニャリモヤの腹の脂肪をタプタプするカルニ、

チビッ子達から羨望の眼差しが向けられている。






カテリアの強い要望もあり、どっちゃりサンドを購入して食べながら北区へ移動、

デフラ町長が合流し増築中の北側城壁外側へやって来た。


「御覧の通り城壁の外側に新たな城壁を設ける形で居住区を確保しています、

 南側よりも森が近くなりますので安全確保のために先ずは城壁を、

 その後に家などの建築を計画しています、ですが進捗は良いとは言えません」


デフラが示した土地は一応3メートル程の城壁が囲まれているのだが、

元の城壁に比べるとまだまだ低い、建物はポツポツと数える程度しか建っておらず、

作業員と冒険者が入り混じり現在進行形で作業中である。


「ゴードンさん、受け入れはまだまだ先になりそうですね」

「あ~…デフラ町長ここまで城壁が積んであるなら

 もっと家を建てても良いいんじゃねぇかと思うんですが」

「城壁に関しては少なくともあと2メートルは積まないと安心出来ません、

 ただ一番の問題は、ふぅ…人手でなのです」

「人なら沢山いるみてぇですけど…」

「確かにカルニギルド長に協力して頂き優先的に人を回して貰ってはいるのですが…」


長くなるのでデフラ町長の説明は割愛。



町の拡張とはそれはもう大工事、

区画整理だけではなく城壁を新たに積むと慣れは尚更である、


一般公募も掛けて町を上げて取り組んでいるのだが、

皆それぞれ仕事があるし、毎日安定して従事できるわけではない、


急がないといけないのでとにかく人手が欲しい!

ということで、こういう時こそ日雇い労働者、もとい、補助依頼の出番である、

その日暮らしで飲んだくれている冒険者達の尻を報酬でぶっ叩き

半ば強制的に工事に従事して貰っている、


ただ…温かくなり魔物が活発に活動しだす時期、

増加した討伐依頼は実力者の方々に押し付けられるわけで…

アクラス、南南西三ツ星、カルニ軍団、南西のピーマン、そしてモント辺りに

カルニが頭を捻って振り分けている、

休みも取らせないとパンクするので必要とあればカルニが出陣、

それはもう、お手本用ような中間管理職っぷりである。


んで、デフラ町長が言っていた人手とは『職人』のこと、

もっと言えば『大工』『現場監督』辺りを指している、


カード王国の国境付近に難民を押し留めることを目的とし、

ホラントが領主として進めることになった町作りを覚えているだろうか?


時系列的には既にホラントは国境付近へ移動中、

各都市も必要な資材や人員を送っている、

ウルダからは家作りに関する職人を送ることとなり現在絶賛人手不足中、

他の都市も拡張工事中のため応援を貰うことも出来ずに頭を抱えてる。


「っと言う訳でして、木材を切り出して準備はしていたのですが、

 いざ城壁が形となり家を建築する段階で現場の指揮をとれる人材が…

 残った方と打ち合わせ中ではありますが、高齢化の問題も重なっていまして…」

「なるほどな、俺達で良ければ手を貸しますよ」

「本当ですか? 今は1人でも多くの御助力が必要です、助かります」

「んじゃちょっと、ポニコーン貸して頂けないですかね? 全員連れて来ますんで」

「え? それはどういう?」

「村に30人位イケるヤツがいます、家族を残しては来ねぇんで村ごと全員連れて来ます」

「それは構わないのですが住む家がないという話で…宿もあるにはありますが…」

「来てから建てるんで大丈夫です、材料貰えればこっちでやりますんで、

 男共は野宿でも文句言わねぇですし」

「はぁ…それでしたら」

「馬車と御者を付けて貰えれば作る必要がなくなるんでもっと早く来れます」

「分かりました、手配します」


ゴードン村長の手腕か何か知らんけど色々決まった。


「ぎゃぁぁぁ!?」

「ムーンベアーよぉぉ! 冬超えのムーンベアー! 誰か助けてぇぇ!」

「今の何処から聞こえた?」

「石切り場の方だ、追われてるぞ! かなり気が立ってるみたいだ!」

「腕折れてんだよぉぉ! 痛いの! 凄く痛いのぉぉ!」

「馬鹿正直に盾で受けるからでしょ! 腕付いてるだけ幸運よ! 出会ったら逃げるが鉄則!」 

「回復しながら走って! こっちこっち!」

「早くこっち来いマジで死ぬぞ!」


何やら作りかけの城壁の外が慌ただしい、

切羽詰まっているらしく作業中の低ランク冒険者達が声を上げている。


「カルニ足場をくれ、俺が行こう」

「了解、私も一緒に行くから先行して」

「いや私達が行った方が早い、ニャリモヤ」

「わかったのである」

「頑張ってお父さん、ニャリモヤ」


カルニが作った氷の足場も使わずにメグロが3メートルの城壁を軽々飛び越える、

続くニャリモヤはお腹の脂肪が城壁に接触したが問題は無い様子。


「え? 何今の?」

「ウルフ族だ、もう片方は…魔物?」

「ニャリ族だ! ちゃんと勉強しとけ!」

「突っ込んで行ってるけど大丈夫なのか? 武器持ってないぞ?」

「いや聞かれても知らないわよ、ニャリ族なんて見るの初めてだし」

「うわぁ!? 正面から何か来たぁぁ!?」

「あれ何!? ムーンベアーの上位種!?」

「分かんないし腕痛いぃぃもう無理これ死ぬぅぅ!」

「泣くんじゃないわよ! いいから足動かして、って早!? 後ろも前も早すぎぃぃ!」

「どうすんの!? これマジで死ぬ? 嘘マジぇぇぇ!?」

「本当にやだぁぁぁ! もっと美味しい物食べとけばよかったぁぁ!」


泣きながら走る男女の横を颯爽と通り過ぎ、

立ち上り腕を振るうムーンべーと一閃の元に交差する2人、

メグロの爪は首の血管を裂き、ニャリモヤの爪は胸から腹に掛け深々と抉った。


「武器も無しで、凄いわね」

「獣人だからな、俺達人間とは違うさ」

「おいバトー、ムーンベアー回収に行こうぜ」

「そうだな、今夜はムーンベーアーで鍋でもするか」

「私も食べます! ネギは絶対に入れないで下さいね!」

「ははは、それじゃカテリアちゃんにも手伝って貰おうかな」

「いや、バトー鍋ねぇぞ?」

「酒場に持って行けば作ってくれるさ、カルニ台車貸してくれ」

「はいはい、私も手伝うからお肉分けてよね~」

「それはメグロさんとニャリモヤさん次第だな」

「(ふむ、移住者の仕事問題もあるが、獣人の方達は冒険者が良さそうだな)」


ネギを入れない鍋は獣人達は満足したが

人間達は少々物足りなかったそうな、

唐揚げとステーキは美味しかったそうな。


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