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233話目【ユキちゃんとモジャヨ】


色物街の路地に立ち止まり目を細める松本、

相対するは数メートル先の見たことの無い謎の生き物。


「(う~ん…アルパカ? いや、鹿か?)」


カールしたマツ毛とつぶらな瞳、

頭に枝別れした控えめな角が生えており

人間でいうところの上半身から顔までが白いモコモコの体毛で覆われている。


アルパカとも鹿とも見える謎の生き物だが、

体長は松本よりも大きく150センチといったところ、

控えめとはいえ角は角なので突かれでもしたら大惨事である。


「(これはどうしたものか…というか何故町中に?)」


この生き物がいったい何なのか?

何故町中にいるのか? 

どうするべきなのか?

などなど疑問は尽きないが、

色物街の路地は狭いうえに現在地は逃げ場のない1本道、

松本は進むか退くかの2択を決めあぐねている

取りあえず襲われることを考慮して厳戒態勢で警戒中。


「(ぱっと見は魔物だよなぁ…でも亜人種の人達が多い町だし…

  上半身だけ服を着ているように見えなくもない…か?)」


町中に迷い込んだ魔物か? 

はたまた知らない亜人種か?

なんとか情報を探ろうとしているのだが…


「(分からん)」


残念ながらつぶらな瞳からは思考が読み取れそうもない。


「…こんにちは」

「モゴモゴ…ッぺ!」

「(う~ん…)」


挨拶してみたが地面に唾を吐かれた。


「(目的地まではもう少しなんだがな…仕方がない、迂回するか)」

「こんにちは坊や、ちょっと通してくれるかい?」

「こんにちは~、今はちょっとやめた方がいいと思いますよ、ほら…」

「あら~、ユキちゃんまた来てたの」

「え? ちょっと…」

「もうそんな時期なのねぇ、この歳になると1年があっという間だわ」


後ろからやって来たリザードマンの老婆が

松本の心配を余所に杖を付きながら謎の生き物に近づいて行く。


「ユキちゃんちょっと通してくれるかい?」


老婆が声を掛けると謎の生物が道の脇に寄った。


「どうもねぇ~好きなだけゆっくりしておいき」


老婆と謎の生き物は互いに会釈しながらすれ違って行った。


「(…ほう)すみません、俺も通して貰ってもいいですか?」


っと声を掛けると謎の生物が再び脇に寄る。


「どうも~」


老婆同様に会釈しながらすれ違う松本と謎の生物、

特に敵意は無かったらしく普通に通して貰えた。


「(服ではなかったか)」


近くで見ると下半身に毛を刈り上げられた痕跡が見て取れた、

どうやら元々は全身モコモコだったらしい。


「(まぁ…危なくないならいいか)」


結局謎の生き物の正体は不明だが、

友好的なのでそのままそっとしておくことにした。





てなわけでパローラママの店『新世界』にやって来た松本。


「こんにちは~パローラママ起きてますか~?」

「こんな早くに誰なの? あら坊や、いらっしゃい」


入口で声を掛けると奥から酒焼け声のパローラが出て来た、

まだ10時過ぎだというのにバッチリ化粧済みである。


「今日は随分と早いじゃない、学校は? って行ってないんだったわね」

「他の仕事が急に休みになっちゃいまして」

「あらそうなの? 取りあえず座って」

「はい~」


本来であればシード計画の職員として仕事している日なのだが、

松本が何故ここに居るのかというと…


「おはよう御座います~」

「おはようございます、マツモト君ちょっといいですか?」

「はいはい、なんでしょうペンテロさん」

「突然で申し訳ありませんが今日は仕事を休んで下さい」

「それはどういう…え? もしかして俺何かやらかしました?」

「いえ、そういう訳では無くて、

 ちょとマツモト君の翻訳してくれた案件が溜まってきているので

 今日は私達3人で確認作業を行おうかと」

「なるほど、よろしくお願いします、その間に俺は次の本を翻訳しときますよ」

「駄目駄目、駄目です、やめて下さい」

「え? でもまだ翻訳していない本がありますし」

「やる気はとても有難いのですがこれ以上積まれると私達の負担が…」

「あぁ~…」

「通常であればこの量を確認するにはかなりの時間を要しますが、

 マツモト君の案件は精度が保障されているような物なので、

 2日もあれば完了出来ると思います、再開はそれからということで」

「了解です」

「たまには子供らしく外で遊んで来たらどうですか?」


みたいなやり取りがあり急遽休みになったのだ。




「それで? 折角の休みに坊やは何しに来たのかしら?」

「ちょっとパローラママに相談したいことがありまして」

「あら、いったい何かしらねぇ、

 この間お給金貰ったって言ってたしお金に困ってる訳じゃないんでしょ」


パローラがグラスに入ったお茶を2つ用意して

片方をカウンターに座る松本の前に置いてくれた。


「ありがとう御座います~、実は家を借りたくて…お? これ何のお茶ですか?」

「モモよ、甘くはないけど良い香りでしょ?」

「いいですねぇ、なんだか爽やかな気持ちになります」

「そのままでも十分美味しいけどお酒を割ってもなかなか美味しいのよ」

「へ~」


グラスの氷を指でクルクルと回すパローラ、

松本と同じ只のお茶なのだがお酒に見えるから不思議である。


「ジェリコさんからパローラママに相談すれば

 子供でも借りられる家が見つかると言われたんですけど、

 そんな家ありますかね?」

「色物街の中ならね、坊やは大通りの近くに住んでるんでしょ?

 わざわざこんな町の端まで引っ越さなくてもいいんじゃない?」

「確かに利便性は良いですけど門限がありまして、

 いろいろと行動に制限が掛かって不便なんですよ」

「そういう理由なのね、坊やのためを思って言うけど正直オススメしないわ、

 昔よりは随分とマシだけど、ここをあまり良く思わない人達もいるの」

「らしいですね」

「あら、知ってたの坊や?」

「ジェリコさんから聞きました、でもいいじゃないですか、

 俺は好きですよここの雰囲気、華やかでは無いけど優しい感じがします」


松本の言葉を聞いてパローラがニコリと笑った。


「ここに流れ着くのは貧しい人とか他に行き場のない人が多いわ、

 1人じゃ生きて行けないから誰かを求める、

 弱い存在だからこそ人に優しくできるのよ」


グラスの氷を見つめなら

なんとも人生観の漂う言葉を発するパローラ。


「ふふふ、俺は逆だと思いますけどねぇ」

「な~にそのしたり顔? 聞かせて坊や」

「人間性ってのはお金では買えませんからねぇ、

 追い込まれると誰だって余裕がなくなります、

 だから自分が苦しい時に誰かに優しく出来るのは強い人です」

「あら、なかなか良いこと言うじゃない、そうなのかもしれないわ」

「そうですよきっと、あくまでも俺の持論ですけど」


涼やかな音を立て溶けた氷がグラスで踊った。


「いいわ、家を用意してあげる、そうねぇ坊やだったら家賃は2ゴールドかしら」

「安い! 借ります!」

「安いかどうかは家次第でしょ? この辺りの建物は古いわよ」

「雨風が防げて筋トレが出来れば十分です~」

「そ・れ・か、私の家で一緒に生活する選択肢もあるけど?」

「え、遠慮しておきます~…」

「あらやだ、即答、3食添い寝付きよ?」

「いや本当に、ご迷惑になりますんで、めっちゃ筋トレしますんで、

 あ、そうそう俺回復病だから夜光るんですよ、

 横で光ってたら邪魔になると思いますんで、ギャンギャンなんで、いやマジで」

「すっごい早口ね、逆に心配になるわよ」

 

遠回しに断固拒否する松本、添い寝だけは絶対に回避したい所存。


「今は店の子と待ち合わせ中だから家には後で案内してあげるわ」

「了解です、アゴミさんですか? それともオタマさん?」

「坊やはまだ会ったことないわよ、ここのところ体調崩して休んでたから」

「入院してたんですか、大変ですね」

「あははは、只の季節外れの風邪よ~、入院なんてしてないわ、

 1度治り掛けたんだけどぶり返しちゃったの」

「まぁ大事じゃなくて良かったですよ、どんな人ですか?」

「モジャヨって子よ、言い難いから皆モジャって呼んでるわ、

 体格はガッチリしてていかにも漢って感じ、

 でも見かけによらず繊細なところがあって1年に1回は風邪引くわ、

 あとちょくちょくお腹壊してる」

「へぇ~(それは繊細では無くて病弱なのでは?)」


似て非なるものである、

因みにアゴミとオタマは松本が初めて掃除しに来た時に

すれ違ったオカマ3人の内の2人、

残り1人はパーコでちょくちょく面識がある。


「そいえばなんか変な生き物がいましたよ、多分魔物だと思うんですけど」

「あらやだ、たまに迷い込んで来るのよね~、危なそうな魔物だった?」

「いや、敵対心なさそうでしたけど、ユキちゃんって呼ばれてました」

「あ~ユキちゃんね、そらなら問題ないわ、この時期は毎回だから」

「はぁ…え? 毎回?」

「坊やは北東地区にある魔物園って知らない?」

「知らないです、もしかして魔物が飼育されるんですか? 危なかったりとか…」

「大人しい魔物だけよ、お触りもあり」

「ほぉ~(チビッ子動物園みたいなもんか)」

「そこで飼育される雪ジカのユキちゃんね、

 寒い場所の魔物だから暑さでバテないようにこの時期から体毛を刈っちゃうの、

 でもユキちゃんはそれが嫌で毎年脱走してくるってわけ、

 人間だっていきなり全裸にされたら恥ずかしいでしょ、それと同じよ」

「確かに(俺はあの時の行動恥ずかしがったりはしない)」


誠に遺憾ながらここ1年未満の出来事である、

ユキちゃんの脱走は毎度のことなので

季節のイベントみたいな扱いになっており、

魔物園には『ユキちゃん不在中』の看板が用意されているそうな。



『雪ジカ』

寒い地域に住む鹿とアルパカを足して割ったような魔物、

雌の角は控えめで雄の角は大きい、

草食で割と大人しいが本気で攻撃されると大変、

白銀都市サントモールでは雪ジカの生ハムが特産物。





暫くママと話をしていると待ち人がやって来た。


「ママ久しぶり~! 元気にしてた~?」

「こっちの台詞だわ、ちゃんと元気になったの?」

「ビンビンよ~、もう2度と病み上がりでお酒は飲まない」

「去年も同じこと言ってたわ」

「え~本当~? それじゃ今度こそ決めた、

 だってずっと1人で部屋にいるの凄く寂しいんだもん」

「(この人がモジャヨさんか、とても繊細とは思えんな)」


オネェ言葉と共に逆光の中近づいて来るシルエット、

顔は見えないが体格の良さはハッキリと分かる。


「寂しいのは慣れっこでしょ、私達オカマよ」

「ちょっとママ、そんなこと言わないでよ~、

 いつか素敵な人が迎えにくれる予定なんだから~、

 で? その小さなお客さんは?」

「最近掃除に来てくれる坊やよ、ほら隣にでも座んなさい」

「は~い、ママ濃い目でお願い」

「何言ってるの~、モモ茶で我慢しなさい」

「いやもう治ってるんだって、ビンビンなのよ私~」

「(めっちゃ腕太いな)」


と言いつつ松本の横に座るモジャヨ、明らかに常人の筋肉ではない。


「初めまして~モジャヨで~す」

「あ、どうも、俺は松もっ゛!?!?」


モジャヨの顔を見て絶句する松本、

あまりの衝撃に声が出ず震える指で顔を指差している。


「え? どうしたの坊や? ちょっとママ、私の化粧崩れてる?」

「別にいつも通りだけど、もしかして口紅変えた?」

「いやんもう、流石ママ~ちょっと気分変えようと思って淡くしてみたの」

「いいんじゃない、はいモモ茶」

「ありがと~」

「あ゛…な…」


なんとか言葉を絞り出そうとする松本に2人の視線が集まる。


「…もしかしてオカマ駄目な子だった?」

「そんなこと無いわよ、他の子達とも仲良くやってるし」

「え~でも…あれ? この子って卵坊やじゃないの? 新聞に載ってた」

「そうよ、ちょっと誇張された記事らしいけど

 連れ去られたのは本当らしいわ、ね坊や?」

「…なっ…なn…」


再び視線が集まるもプルプルの松本。


「坊やお茶でも飲んで落ち付いたら?」

「そうよ~なにか言いたいことがあるならハッキリ言って、

 私生半可な言葉じゃ傷つかないから、鍛えてるんだもの」

「…んぐっんぐっ、っはぁ~、すみません取り乱しました…」


モモ茶を一気飲みして落ち着きを取り戻す松本、

上腕二頭筋をアピールするモジャヨに恐る恐る声を掛けることにした。


「あ、あの…」

「な~に坊や?」

「なんでここに…いやどうしちゃったんですかゴーdっ!?」


喋り終わる前にモジャヨに口を塞がれた。


「そこまでよ坊や」

「どうやら知り合いだったみたいね、

 モジャその坊やに家を貸してあげることになってるの、

 3階の空き部屋に案内してあげて」

「は~いママ、行くわよ坊や」

「もご…」


口を塞がれたまま松本は運ばれて行った。




広場を横切り人気のない路地にやって来た2人。


「この辺りでいいかしら」


松本を下ろし背を向けるモジャヨ、

ドレス越しでも分かる屈強な筋肉から緊張感が伝わって来る。


「…ねぇ坊や、ポッポ村の子なんでしょ?」

「まぁ、はい、産まれは違いますけど最近お世話になってます」

「…はぁ、なるほどね、どおりで見覚えが無い筈だわ、

 私のこと…知ってるのよね?」

「え? ちょと何言ってるんですか? あの…ゴードンさん?」


そう、松本が絶句していた理由はこれである、

そりゃポッポ村のガチムチオジサンが女装して

ノリノリのオネェ言葉で現れれば言葉も出なくなるというもの。


「違うの! 私はゴードンじゃないわ」

「は? いやどう見ても…俺もそうであって欲しいですけど…」

「私はね坊や、私はゴードンじゃない、ゴードンの息子のエドガーよ!」

「えぇぇぇ!?」


そう、ゴードンが女装したようにしか見えないこのオネェは

ゴードンとポポの息子であり、ウィンディの2歳上の兄、エドガーである。

因みに22歳である。


「いや、確かに息子がいるとは聞いてましたけど…え? 本当に?」

「…エドガーよ」

「ゴードンさんじゃない?」

「違う、私はエドガー、私ね…ずっと苦しかったの、

 もの心ついた頃から筋肉質な男の人を見るとドキドキしちゃって、

 でも私は男で父さんにそっくりだったから…うぅ…

 可愛くて綺麗な妹がいつも羨ましかったわ…」

「(いやぁ…その妹さんはあのウィンナー姉さんなんだよなぁ…)」


溜め込んでいた胸の内を涙ながら吐露するエドガー、もといモジャヨ、

真剣な場面なのだが松本の頭の中では

ウィンナー姉さんが欲望吐き出して大暴れしている。


「ウルダに出稼ぎに行った時に風の噂でママのことを知ったの…

 同じ悩みを持ちながら強く生きてる人…

 うぅ…だから私この町なら自分の心に素直に生きられるんじゃないかって」

「そ、そうですか(鎮まれぇぇ俺の中のウィンナー姉さんんん!)」

「うぅぅ…楽しかったわ、有りのままの私を受け入れて貰えて、

 可愛いって言って貰えて…うっ、恋人なんて出来なくてもいいの、

 私も馬鹿じゃない、ちゃんと理解してる…うぅ…

 ただ自由に生きられたらそれだけで良かったのぉ…

 うぅ…でもいつかこんな日が来るってことも分かってた…

 ねぇ坊や…もし…うぅっ、もしお願い出来るなら…

 もう少しだけポッポ村の皆には…うっ、家族には内緒にしておいてくれないかしら?」

「え? あ、良いですよ別に」

「うぅぅ…もう少しだけ待って貰えたら…私絶対に自分でけじめを付けるか…

 え? …いいの坊や?」

「え? 良いんじゃないですか? 俺が口出しする事じゃないですし」

「え?」

「え?」

 

互いに何故といった表情の2人、

限りなく性犯罪者に近い妹をスルー出来る松本の感性に

モジャヨ(エドガー)の感性が追い付いていない様子。


「一応確認なんですけど、ゴードンさんではないんですよね?」

「エドガーよ」

「じゃぁ別に、いいです」

「…あそう、因みに父さんだったら?」

「かなりお世話になってるんで取りあえず話を聞こうかと…

 ポポさんのこともありますし、熟年離婚とかって…ねぇ」

「…あそう(子供なのよね?)」


モジャヨの涙が引っ込んだ。


「化粧崩れてますよ」

「あらやだ、本当? あ~んもう酷い顔、

 涙は女の武器なんて言うけど化粧の天敵よね~どうしようかしら?」


手鏡で自分の顔を確認して悩み中のモジャヨ、

結構濃い目の化粧をしていたため目の周りが酷いことになっている。


「はぁ~駄目駄目、こんな状態で人に会いたくないわ、

 いっそのこと全部落としちゃうから少しだけ待ってて坊や」

「はい~」


モジャヨが水魔法とかタオルとか石鹸を駆使して路地で化粧を落とし中、

松本は暇なのでスクワットに勤しんでいいる。


「エドガーさん、めちゃくちゃ無責任なこと言っていいですか?」

「モジャヨ、もしくはモジャって呼んで」

「(本名は秘密ってことね)モジャヨさん」

「どうぞ坊や」

「たぶんですけどね、有りのままのモジャヨさんを伝えても

 ゴードンさんとポポさんは受け入れてくれると思いますよ、

 他の人達はわかりませんけど」

「そうだと嬉しいわね~」

「モジャヨさんって男の体だけど心が女で男が好きってことですよね?」

「そうよ、付け加えるなら筋肉質な男が好き」

「それって別に誰にも迷惑かけてないじゃないですか」

「まぁそうだけど~そうはいってもオカマってだけで嫌悪感持つ人も多いのよ?

 私から言わせて貰えば当たり前のように受け入れる坊やがちょ~と異常ね」

「まぁまぁ、俺の事は置いといて、そういう面で言えば

 ウィンディさんの方が相当ヤバいですからね」

「え? ちょとなになに?」

「捕まってないだけの犯罪者です」

「えぇ? ちょと坊や? 坊や坊や、人の妹を犯罪者って、どういうこと?」


泡だらけの顔でモジャヨが振り向いた。


「あ~…モジャヨさんから見てウィンディさんってどんな印象ですか?」

「身内びいきに取られるかもしれないけど、

 容姿端麗で~愛想が良くて~下の子の面倒をよく見てくれるとっても良い子よ」

「うんうん、俺もその点は異論ありません」


この辺りは周知の事実である。


「只ですね、1つだけ大きな問題があるんですよ」

「な~に?」

「ちょっと性癖が…」

「ちょとちょ~とぉ、やめてぇ~子供の口から妹の性癖の話とか、どうなってるのもう」


どう考えても少年の口から出てよい話題ではない、

松本とモジャヨの行動も含め路地がとんでもないカオスである。

※松本はスクワット中です。


「まぁまぁ、聞いて下さい」

「えぇ…ちょとやだぁ…」

「もうハッキリ言いますけどね、

 ウィンディさんの性的興奮対象って俺くらいの年齢の男の子なんですよ」

「おぉぉぉい!? なにその話!? とんでもない破壊力もってんじゃないのぉぉ!」

「そうですよ、ポッポ村の人達全員知ってます」

「いやぁぁぁ!? ちょっ…えぇ!? うそぉぉぉん!?」


この辺りも周知の事実である。


「なに? じゃぁ坊やはその…ウィンディとチョメチョメとか…」

「してないです」

「そ、そうよねぇ~良かったぁぁ…

 いや全然良くないけど、私子供と何の話してんのこれ?」

「只ですね、俺いろいろ事情があってポッポ村で暫くほぼ全裸で過ごしてたんですけど」

「いやおかしい、その前提がまずおかしい」


全く持ってその通りである。


「ウィンディさんはその期間中は俺のウィンナーをずっと追いかけたました、

 あの手この手を使って全身全霊で、もうあれはウィンナー姉さんです」

「ウィンナー姉さん!?」

「服を持ってなかったのでウルダへの買出しでズボンとパンツを依頼したんですけど、

 わざわざ買出し役に立候補して女の子用のパンツとスカート買って来ましたからね」

「ウィンディィィ!? 何やってんのウィンディィ!?」

「まぁその度にレベッカさんにシバかれてるので実害は出てません、

 他の子供達も無事です」 

「あぁ…ありがとうレベッカ、ありがとう私の恋バナ仲間」

「え? レベッカさんはモジャヨさんのこと知ってるんですか?」

「いやそういうことじゃないんだけどね~、ほらレベッカって筋肉好きなのよ、

 同じ筋肉好きとして色々話が弾んじゃったりして、あの時は楽しかったわ」

「そ、そうですか…」


それは恐らく恋バナではなく筋肉談義である、、

あと松本に実害が出ていなかったかは疑問が残るところである。


「だからですね、凄く無責任な考えかもしれないですけど、

 俺からすればウィンディさんの方が…」

「そこまでよ、ありがとう坊や、言いたいことは伝わったわ」

「いえ、まぁ無理はしないで下さい」

「私の知らない間にウィンディがそんな成長しちゃってたなんてショック…

 似た者兄妹なのかしら? でもちょっとスッキリしたわ、さぁ行きましょう」

「…」

「どうしたの坊や? まだ残ってる?」

「いや、凄く似てるけどやっぱり違うなって(若いゴードンさんだ)」

「そりゃ22歳だもの、父さんよりは肌が綺麗じゃないと困っちゃうわ」


化粧を落とし終えたモジャヨは爽やかな顔で立ち上がった。





そして3階建ての建物にやって来た2人、

周りの建物と同様に古めかしい風貌で

年季が入っているが目立った破損個所は無い、

壁に張り付いたツタが3階まで到達し葉が生い茂っている。


「思ったより全然しっかりしてそうですね」

「日当たりも良いし丈夫な木を使ってるから

 手入れさえ怠らなければ後10年は持つわね~」

「このツタは敢えてですか?」

「まぁそうね、需要があるのはこの辺りから下だけなんだけど~

 面倒だから取ってないの、心配しくても来月には処理する予定よ」

「ほほう」

 

自分の胸元で手を振るモジャヨ、

ツタの葉とモジャヨの胸元のモジャモジャが風に揺れた。


「さぁ中を案内するわ」

「はい~」

「水回りは全部1階で共有、こっちの部屋がアゴミで奥が私」

「え? もしかしてお店の人全員ここですか?」

「全員じゃなくて5人ね、坊やで6人目、

 皆で居た方が寂しくないでしょ、次2階行くわよ~」

「はい~(昭和のアパートみたいだな)」


そんなこんなで3階へ。


「3階は坊やだけね、この部屋は物置として使っちゃってるから、

 それ以外の3部屋から好きな場所を選んでいいわよ~」

「窓から光が入る方が好きなんで路地側にします」

「私とは選び方が逆ね」

「嫌なんですか?」

「基本的に昼夜逆転でしょ、酔っぱらってカーテン閉める忘れると

 光で目が覚めちゃうのよ~」

「なるほど」


松本の部屋は光が入り、尚且つ

下の部屋が物置になっている路地側の右の部屋に決まった。


「1名様ご入店~」

「お~結構広い、明るくていいですね」

「坊やはいつ頃越して来るの?」

「俺は今日からでも大丈夫ですけど…この部屋はちょと掃除が必要ですね」

「自分でやる?」

「道具を貸して頂けるなら、マットレスを干したいので運搬だけ

 手伝って貰ってもいいですか?」

「んもう、掃除も手伝ってあげるわよ~水臭いわね坊や、

 あれ? そいえば名前聞いてなかったわね」

「松本です、よろしくお願いします~」

「は~い、こちらこそ宜しく~」


埃っぽい部屋で改めて握手を交わし

2人はマットレスを運び出すことにした。


「坊や後ろ大丈夫?」

「大丈夫です、そのまま真っすぐ~お?」

「あちょっと」

「おわ!?」


外に出た松本が急に立ち止まったせいで

マットレス越しに父親譲りのモジャヨパワーが炸裂し吹き飛ばされた。


「ごめ~ん坊や、止まるならそう言ってよ~」

「あだだ、すみません、今のは俺が悪いです」

「大丈夫なの?」

「問題ないです、持ち上げますよ~」

「は~い」


運搬を再開し外に出したら壁に立て掛けて天日干し。


「坊やが立ち止まった理由はこれだったのねぇ」

「ツタの需要ってこれだったんですねぇ」


ツタの生えた壁の方を見ながら顎を擦る2人。


「…ちょっとモジャ、…もう少し寝たいんだから静かにして」


壁の部屋の主が扉を開けて目を擦りながら顔を出した。


「もう昼前よアゴミ、昨日何時まで飲んだの?」

「…4時」

「8時間寝たら十分でしょ~それよりユキちゃん来てるわよ」

「…ん? …ユキちゃん? ユキちゃん来たの? ユキちゃん大好き~って坊や?」

「こんにちはアゴミさん」

「ちょとモジャ~他の人がいるなら言ってよ~私スッピンなんだから」

「しかも寝起きのね~酷い顔してるわよ」

「誰のせいよ!」

「私もスッピンだから巻き添え~」

「何それ、ちょと酷くない?」

「アゴミいちいち気にしてたら大変よ~、坊やここに住むんだから」

「え? そうなの?」

「3階の部屋に住ませて貰います、よろしくお願いします」

「よろしく~ちょっと顔洗って来るわ、それまでユキちゃん帰さないでね~」

「「 はい~ 」」


アゴミの心配を余所にユキちゃんはツタの葉をモシャモシャ中。


「…ユキちゃんそれ美味しいのかい?」

「モゴモゴ…ッぺ!」

「(う~ん…)」


松本の返答に唾を吐き再びモシャモシャするユキちゃん。


「(多分無理だけど…試してみるか?)」

「え? ちょと坊や…」

「モゴモゴ…ッぺ! やっぱり食べられないタイプの葉っぱですね」

「えぇ…」


人間にはツタの葉は食べられません。





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