232話目【早朝筋トレとプリモハ調査隊】
薄っすらと空が明るくなり、徐々に朝日が町を照らし始める、
町の目覚めはまだ遠く活動しているのは見回りの衛兵くらいである。
そんな中、宝石のように輝く朝露を踏みしめながら
身の丈に合わない棍棒と盾と鞄を携え嬉々として城門へ向かう子供が1人。
「(うひょ~澄んだ空気が気持ちぃぃ~)」
筋トレに向かう松本である。
「(久しぶりのトレーニングメニュー楽しみだなぁ~)」
以前は職員達が帰った施設内で素振りや盾弾きの練習をしていたのだが
奇声や騒音をトナツに注意されて以降は
比較的静かに行える自重トレとポージングのみに絞り、
日中の空いた時間に屋外で素振りと盾弾きを行っていた。
だが解読班として正式に働き始めたからは日中の時間があまり取れず、
素振りや盾弾きのメニューはご無沙汰気味となっていた、
筋トレジャンキー松本は十分な負荷を得られず禁断症状を発症。
「起きて下さいドーナツ先生」
「…ん? …うん? どうしたのマツモト君?」
「…た、足りないんすよ…」
「な、なにが? っていうか今何時?」
「はぁ…はぁ…負荷が、刺激が…あばばばば…」
「えぇ…」
という感じで我慢の限界を超え早朝にトナツを叩き起こし今に至る。
『おさらい情報』
松本が寝泊りしているシード計画の施設は
種博物館が入口となっており営業時間以外は施錠されている、
主任クラスの数名のみしか鍵を持っていないため
松本は自分の意思で朝や夜に外を出歩くことが出来ないのだ。
「(ドーナツ先生めっちゃ眠そうだったな、目が3だったし)」
正直かなり迷惑な話だが早朝から奇声をあげられるよりはマシである。
「(後でちゃんと謝ろう)」
このように本人も反省しているので許して欲しい。
そして東門へやって来た松本。
「おはようございます~外に出たいんですけどいいですか?」
「おはよう、どうしたんだこんなに早く?」
「筋トレです」
「き、筋トレ? こんな時間に子供1で? その棍棒は?」
「素振り用です、駄目ですか?」
「いや駄目じゃないけど…別に城壁の中でも良いんじゃないか? 危ないし」
「音とか声を出しちゃうと迷惑になりますんで、やっぱり外じゃないと」
「まぁ…それはそうだけど…」
「良い場所無いですかね?」
「だったら城壁に沿って左に進むといい、よく冒険者達が訓練している場所がある、
少し遠いが馬車の停泊場所を過ぎて角を曲がった先だ」
「ありがとう御座います~」
「気を付けてな、魔物が出たら危ないからあまり城壁から離れるなよ~」
「はい~」
「(…あの棍棒振るのか? まさかな?)」
衛兵の疑惑に満ちた視線を浴びながら指示された場所へ移動。
「とりあえず素振りから始めますか、っほ、っほ…」
「なぁ、なんだあれ?」
「子供か? こんな時間に?」
悠々自適に筋トレする松本を城壁の上から衛兵達が観察中。
「あ゛あ゛あ゛あ゛! んなぁぁぁあ! …ぬもぉぉお!」
「なぁ…マジで何なんだ? 何なんだよあれ?」
「やべぇよ…絶対普通じゃねぇよ…」
「なんちゅう声出してんだ…要注意だな」
30分もすればいつも通り不審人物として認知された。
そんな狂気に満ちた練習場に近寄る3人の人影。
「ねぇ、なんか練習場の方から変な声聞こえない?」
「なんだろう? 今まで聞いたことない…これ鳴き声かな? 」
「新種の魔物だったりしてな、よっしゃ、
誰かが怪我する前に気合入れて行こうぜ」
「「 はい~ 」」
気合の感じられない返事をしながら走り出す3人、
城壁の角から飛び出してきたのはプリモハ調査隊のニコル、ラッチ、ジェリコである。
「はぁ…は、はぁぁあ! はぁ…だりゃぁぁあ! はぁ…はぁ…あ゛あ゛あ゛あ゛!」
「「「 … 」」」
奇声をあげながら腕プルプルで棍棒を振る後姿を見てそっと武器をしまった。
「はぁ…はぁ…んんんんん! ん゛っ! はぁぁぁ終わったぁ…」
「「「 … 」」」
互いに顔を見合わせ無言で指を差し合う3人、
肩で息をする松本に誰が話しかけるか決めているらしい。
「「 … 」」
「(俺? 俺か?)」
「「 (うんうん) 」」
「…大丈夫かマツモト?」
「うひょあ!? …なんだジェリコさんか」
「なんかマズかったか?」
「いや、こんな時間に声掛けられるなんて思わなくて、俺てっきり魔物かと…」
「お、おう…悪かったな」
「「「 (こっちの台詞だよ!) 」」」
汗を拭いながら安堵する松本に3人が心の中で突っ込みを入れている。
「おはようマツモト君、なんか凄い声だしてたね」
「おはようございますニコルさん、いやぁ~お恥ずかしい、
以前使っていた物よりちょっと重くてですね、
全力で気合入れないと意識が飛びそうになるんもんで」
「それにしたって酷すぎない? 断末魔みたいだったし」
「それか魔物の雄叫びだね、危うく討伐するところだったよ」
「え~ラッチさん冗談はやめて下さいよ~」
「本当だって、そうだよねジェリコ?」
「まぁな、だが気合なら仕方ねぇ、やっぱ声出していかねぇとな!」
「「 ジェリコ… 」」
気合と根性が大好きなジェリコの兄貴が親指を立てて歯を光らせている、
ニコルとラッチは若干引き気味である。
「マツモト君その棍棒ってさ」
「ほう…お目が高いですねラッチさん、お察しの通り正真正銘オーク製です、
かぁ~分かる人には分かっちゃいますか~このオーク製の存在感が!」
「う、うん…格好いからね、一目でわかったよ
(棍棒なんてオーク製くらいしか売ってないけどね…)」
したり顔で見せびらかす松本だが、
木製の棍棒は武器として人気が無くあまり作られていないため、
ほぼ100%がオーク製のお土産屋で販売された物である。
一方、フレイルやメイス、ハンマーなどの鉱石系で強度がある鈍器は
それなりに需要があり鍛冶屋で作られていたりする。
「高かったけど筋トレ用に奮発したんですよ~、
中にミスリルの芯が入ってて握り心地、いや、振り心地がもう最高で」
「へぇ~そ、そうなんだ…(筋トレ用?)」
「以前は鍬使ってて結構慣れてきてたんですけど、
これはキツイですね、いい刺激入りますよ、見て下さいこのパンプ具合を」
「す、凄いね~マツモト君(顔と体のバランスが…)」
上着を脱いで筋肉アピールする松本にラッチがドン引きしている。
「棍棒って扱ったことがないからなぁ、
僕も振ってみたいんだけど試させて貰ってもいいかな?」
「どうぞどうぞ、今日の分は終わったんで好きに使って下さい」
「ありがとう、…ん?」
棍棒を渡して松本は暫し休憩へ、受け取ったラッチの笑顔が硬くなった。
「どうしたのラッチ?」
「…、っほ、なるほどね…はっ! …っふ、はぁ!」
「ラッチ? そんなに真剣に試しちゃってもしかして棍棒に切り替えるの?」
「いや…僕は剣が好きだから…ここからのこうっ! そして…はぁっ!」
ニコルにそっけなく返事をしながら素振りを繰り返すラッチ、
振っては握りを確認し、また振っては足位置を確認し、
何やら納得がいかないらしく何度も素振りをしている。
「おぉ~格好いい、あんなに自在に扱えるなんて凄いですね」
「ラッチは華奢に見えるけど結構力あるからな、でもマツモトも振ってたんだろ?」
「俺は足を止て上下だけです、ラッチさんみたいには動き回れませんよ」
「上下?」
「こんな感じで、頭の上から振ってヘソの位置でビタっと止める、
これを1000回やるだけです、あくまでも筋トレなんで」
「なるほどな、実戦を想定した動きじゃねぇわけだ」
「体の基礎を作るのが目的です、
これやっとけば武器をしっかり扱えるようになるってバトーさんが言ってました」
「確かに体感鍛えられそうだ、でも1000回は相当だぜ?」
「体と一緒に根性も鍛えられます」
「間違いねぇ、俺もやろうかな?」
「(足を止めて上下?)…、っふ!」
松本とジェリコの話を聞いていたラッチが足を止め頭上に構える、
全力で振り下ろし腰の高さでビタッと止めると動かなくなった。
「(…え? 重くない?)」
ラッチの瞳の色が消え失せ無表情になった。
「どうしたのラッチ?」
「いや…ニコルも試してみてよ」
「え~私は槍派だからこういうのはちょっとな~…は!?」
棍棒を渡されるとニコルの瞳の色が消え失せ無表情になった。
「…振ってみてよ、僕がやったみたいに上から振り下ろして止める感じで」
「…え? ちょっとなにその言い方? なんか棘あるんだけど?」
「別に? …ただやれるのかなぁ~って思っただけ、僕はやれるけどさ」
「あぁん? やれるに決まってるでしょ、え? なに?」
「別に? 何でもないけど?」
想像以上に重かった棍棒に何故か切れ気味の2人。
「…っし、やってやるわよ」
「ちゃんと止めてね、ビタって」
「分かってるっての、ここからの…こうぅぅ! おらぁ! どうよラッチィ!」
「おぉ~」
「…いや、おぉ~じゃなくて、ゴメンは?」
「…おぉ~」
「ラッチ、…ゴメンは?」
「まだ1回だけだよね? マツモト君は1000回振るみたいだよ」
「…で?」
「…」
謝らせたいニコル、謝りたくないラッチ、
松本のせいで不要な軋轢が発生している。
「何やってんだマツモト?」
「次のトレーニングの準備です、これ吊るしたいんですけど何処かいい場所は…」
「? よく分かんねぇけどあの木でいいんじゃねぇか?」
「そうですね」
「手伝ってやろうか?」
「助かります~」
松本とジェリコは近くの木に移動。
「あれ? さっきより増えてる、ヤバい奴等ですか?」
「どれどれ? あぁ~あの3人は大丈夫だ」
「でもこんな時間に来ますかね普通?」
「俺達と同じ元衛兵だよ、ほら見回り見回り」
「はい~」
城壁の上では衛兵達が仕事中である。
「ジェリコさん達も筋トレですか?」
「筋トレじゃなくて稽古な、昔からちょくちょく3人でやってんだ」
「こんなに早くから来るなんて仲いいんですね」
「小さい頃からやってるから習慣だな、これ位の高さでいいのか?」
「もう少し低くお願いします」
盾弾き用の重りの高さを調整中。
「マツモトは結構来てるのか?」
「今日が初めてですね、どうしても我慢できなくなって
無理やりドーナツ先生を起こして鍵を開けて貰いました」
「そう言えば施設内に寝泊りしてるんだったな」
「お金が掛からないし職場に近いから便利なんですけど、
門限があるからこういう時は不便なんですよ」
「はは、あの声は流石に温厚なドーナツ先生でも怒るわな」
「俺も申し訳ないんで施設内ではやらないようにしてます、
そろそろ別な場所に引っ越そうと考えてるんですけど、
子供だけで家を借りるのってかなり難しいんですよね~、
ウルダでも凄く苦労しましたから」
「だろうな、俺も昔同じような経験があるぜ」
「家出でもしたんですか?」
「ん? 家出?」
「あれ? パローラママと一緒に住んでたんじゃないんですか?」
「あぁ、その前の話だ、普通に考えれば流れ者の孤児が
家なんて借りられる筈ねぇんだけど、ははは、当時は知らなくてな~」
「(う~ん…)」
唐突なデリケートな話題に迷ったが、
ジェリコの屈託のない笑顔を見て少しだけ深入りしてみることにした。
「ジェリコさんって孤児だったんですか」
「ニコルとラッチもな、
俺はルコール共和国の孤児院に居た時に巡業中の旅一座に拾われて、
んで1年後位に街道でニコルを拾って」
「いやそんな落とし物みたいに…」
「篭に入った1歳になるかならないかの赤子だったからな、
実際落とし物みたいなもんだったぜ、
んで更に1年後の俺が5歳の時にラッチが産まれたんだけど、
暫くして両親が逃げちまって俺が代わりに世話してた」
ジェリコが5歳、ニコルが2歳、ラッチが赤子なので
ジェリコは兄、兼、親みたいな感じだったらしい。
「ご両親ちょっと酷くないですか?」
「いや、それでも真面の方だったぜ、他がぶっ飛んでたからなぁ~」
「え~と…それはどういう?」
「あの一座は表向きは劇とか魔物を使った見世物とかで巡業してたんだけど、
裏では違法な薬の運搬とか密入国の手引きとかやってたからな、
まぁ飯食わせてくれるって言葉に釣られて付いてった俺も馬鹿だったけど、
いろんな町に出入りできるからやりたい放題、マジで碌な奴等じゃなかった」
「えぇ…」
とんでもない犯罪組織、驚きの黒さである。
「赤子のラッチを連れて逃げられなかったんだと思うぜ、捕まったら殺されるからな」
「そりゃ…厳しいですね」
「当然一座が孤児を引き取ってたのは慈善事業なんかじゃねぇ、
違法な品の引き渡しの為だ」
「はぁ?」
「疑われ難いし、捕まって何か話しても子供の嘘ってことで切り捨てられる、
どうしようもない時は繋がりのある権力者が揉み消す手筈になってた、
だからメチャクチャ躾けるわけよ、何をするにも許可制で…ってどうしたマツモト?」
「いえ何も」
「いや、目が怖ぇんだけど…」
「気のせいですよ、ははは、続けて下さい」
「そ、そうか?(どういう状態だそれ?)」
子供に対する酷い仕打ちを許さないオジサンの松本、
顔は笑ってはいるが目の奥で狂気が渦巻いてる。
「んじゃ続きな、10歳の時に一座が捕まって壊滅した」
「ほう、また唐突ですね」
「どうやらロックフォール伯爵が狙ってたみたいでな
ダナブルに巡業に来た時に町に入る前に一網打尽にされた、
んで子供だった俺達だけは捕まらずに解放された」
「おぉ~優しい」
松本の目から狂気が引っ込んだ。
当時話題となった大捕り物の裏側は、
ジェリコ達がダナブルに来る1年程前に現ロックフォール伯爵が就任し、
当時の蔓延っていた既得権益者達を一掃していた、
情報を得ていたロックフォール伯爵は敢えてそれまで通りに手引きをし、
何も知らないで飛び込んで来た一座はまんまと確保され一網打尽にされたというもの、
その後、一座は王都に連行され処罰されたそうな。
「俺達って元々はルコール共和国の人間だろ?」
「そうですね」
「その時に発覚したんだが入国証が発行されて無かったんだよこれが、
ラッチなんて出生登録すらされてなくてな」
「えぇ!? そんなんありなんですか?」、
「まぁ出生登録に関しては事情によるけどな、
でも入国証は普通は有り得ないぜ、国境を跨いでる訳だし」
「ですよね? もしかしてワザとですか?」
「そういうことだ、所詮は使い捨てだからそっちの方が都合が良かったんだろ」
「聞けば聞く程に無茶苦茶やってますね」
この辺りは治安維持とか国の管理とかに関わる法律の話である。
・ちゃんと入国証が発行されていないと不法入国者になる
・町に入る時は入場許可証が発行されるが発行の際に国外の者は入国証の提示を求められる。
(国内の者は出生届を提出する)
・旅の道中で産まれた場合は町に付いた時点で出生登録を出す。
(村で生まれた場合も同様)
みたいな感じの規則があるのだが、
世界は綺麗事だけでは成り立たないのも事実、
様々な事情で出生登録がされていない子供もいる、
そういう人達を救い上げる救済処置も存在しており、
松本もその恩恵を受けている1人である。
・出生の詳細が不明な者でも保証人を2人付けることでその国の民として登録が可能、
但し、問題を起こせば保証人が罰を受けることがある。
という規則なのだが、悲しいこと悪用する者が必ずいるわけで、
捕まった巡業一座は別の国にいられなくなった犯罪者を密入国させ、
この制度を悪用してカード王国の住民として登録する商いも行っていた、
どうしようもない悪党集団である、どうかしてるぜ!
因みに、松本の保証人はバトーとゴードンだが本人は知らない。
「国境を超える時とか町に入る時は樽に入ってやりすごしてたけど、
中身を確認された事も無いしラッチが泣いてても問題なかった、
協力者に金に握らせてたんだろうな」
「ほぇ~ヤバいですね(異世界も変わらんな)」
その辺の繋がりも巡業一座の流れで一掃されていたりする。
「まぁ俺達ってそんな状態だったから
部屋借りに行ったら子供とか金以前の問題だって言われて大変だったぜ」
「どうやっても無理ですねそれ」
「あぁ、絶対に無理だ」
ウルダで苦戦した松本よりも遥かに厳しい状況である。
「あれ? ちょっと待って下さい、
そもそもそんな状態でどうやって町に入ったんですか?」
「ふふ、気が付いたみたいだな、ママの店あるだろ」
「はい」
「裏の城壁近くの地面に穴があって外に通じてるんだ」
「えぇ…そんな馬鹿な、そんものがあったら城壁とか城門の意味が…
役所とかに伝えて塞いじゃった方がいいんじゃないですか?」
「知ってて放置してるんだよ、ロックフォール伯爵も知ってる」
「そうなんですか?」
「ずっと昔かららしいぜ、あの穴は俺達みたいにどうしようもない奴とか、
何処にも行き場のない奴の最後の救いなんだ、
足掻いて足掻いて自分で見つけて踏み出した奴だけが辿り着ける救い、
そしてそんな奴等が支え合って生きてる場所が…」
「色物街ですか」
「あぁ、勿論全員が町の外から来たわけじゃねぇけどな、
だから穴のことは皆の秘密なんだ」
「ジェリコさん、なんで俺に教えてくれたんですか?」
「マツモトが良い場所だって言ったからだ」
「言いましたっけ?」
「最初にママの店に連れて行く途中で言ってたぜ、
正直な、色物街って町の人達にあまり良く思われてねぇんだ、
ママが若い頃は今よりずっと荒れててな、すげぇ風当たりも強かったらしい、
でも俺達にとっては心の故郷なんだ、だから、あの言葉は凄ぇ嬉しかったぜ!」
「うぃっす!」
ビシッと親指を立てるジェリコに松本も親指を返す、
朝日が反射して2人の歯がキラリと光った。
「家の話ならママに相談すれば直ぐに見つかると思うぜ」
「助かります~」
「もしくはママの店に泊まるって選択肢もある、ママの添い寝付きでな」
「そ、それはちょっと…遠慮しときます~」
中身がオッサンの松本からすればオッサン2人が添い寝することになる、
流石にキツイ。
「ラァァッチ! ここからぁぁ…こうっ! おらぁこっち見ろラァァッチ!」
「…凄いねニコル」
「凄いじゃなくてゴメンはぁ? ラッチゴメンはぁ? ここからぁ…ほぃぃ!」
「あいつ等何やってんだ?」
「さぁ? 俺の棍棒気に入ったんじゃないですか?」
その後、ラッチに対し素振りで圧を掛け続けたニコルは
ゴメンを引き出した代償として腕がプルプルになった。
「おらよぉ! くそっ、避けるなラッチ!」
「ジェリコが大ぶりなだけだ、よ!」
「甘いぜぇ! 軽い軽い!」
「ならこれはどうかな? ほらそこ!」
「ちょ…待てラッチ、待てって!」
「ジェリコ~、ラッチの方が素早いんだから根性だけじゃ勝てないよ~!」
「分かってるっての! くっそっ、甘いぜおらぁ!」
「うそぉ!? ちょっとぉ…」
「ラッチ~、真面に受けたらそうなるにきまってるでしょ~!」
ジェリコとラッチが自主訓練の模擬戦中、
ニコルは木の下で休憩しながら野次を飛ばしている。
「っふ、っふ、っふ…」
「で? マツモト君はさっきから何やってるの?」
「っふ、盾で弾く練習です」
「まぁ、見たまんまだけど…ずっとやってるけど疲れない?」
「っふ、疲れてからが、っふ、本番です」
「そうなんだ、大変だね(絶対バトーさんの影響だよ、ジェリコと気が合う筈だわ)」
「っふ、ニコルさん達も、っふ、大変でしたね」
「ん? なんのこと?」
「え? あ、なんでもな…うぐぅ!?」
「大丈夫マツモト君!?」
「い、息が…あが…」
余所見をしながら盾を振ったせいで
受け損ねた重りが鳩尾に直撃し松本が突き飛ばされた。
『鳩尾』
胸のまん中のへこんだところ、急所の一つ、ヤバい。
「ちょっとちょっと、って危な!? これ邪魔だから止めるよ、って痛ぁ!?
なにこれ、こんなん只の鈍器じゃん…」
「あばばばば…」
普段明るい人達にも大変な過去が有ったりする、
それを表に出すかどうかは当人次第、
無関係な者が簡単に良し悪しを決めることは出来ないが、
笑っているならきっと幸せなのだろう。
青ざめて痙攣する松本はそんなことを考えていた。




