230話目【巨木とヤルエル一家】
ダナブルの南西地区には1本の木が生えている、
周辺の建物より抜きんでており離れているにも関わらず
大通りからも確認できる程の巨木。
初めて南西の空に浮かぶ緑を見た者達は
それはもう立派に直立する荘厳な木を思い浮かべるのだが、
実物はそうではない、というか真逆である。
地表に見え隠れした根が広場を鷲掴みにしており、
大きく湾曲した幹は大蛇を彷彿とさせ、
屈折した枝の中には1度下方向に伸びた後に上に戻るという捻くれ者がいたりと、
自然の摂理との若干のズレというか禍々しさというか、
なんとも不思議な風貌をしている。
言葉で説明するには少々難解なのだが
幸いなことに読者の方々に分かり易い例えが存在している。
想像して欲しい、
昭和のお爺さんが庭でニヤニヤして悦に浸っているところに、
近くの空き地で野球をしていた子供が特大ホームランを叩き込む、
ガシャンという何かが粉砕する音と怒号が聞きこえ、
青ざめた子供達は眼鏡の気弱な少年にボールを取ってくるように依頼するのだ、
損な役回りを押し付けられた少年はしぶしぶ門を叩き
頭にボールと同じサイズのコブを拵える、
その後はお約束と言わんばかりに青色の狸型ロボットに泣き付くのだが…
そんなことはどうでも良い、
注目して欲しいのはボールが直撃し粉砕した相手、
そう奇怪な巨木を例えるなら、盆栽の松である、ただし葉は広葉樹である。
広がり過ぎた根が広場からはみ出して石畳を隆起させたり、
茂った葉で日当たりが悪くなったり、
大量の落ち葉が発生したりと悪い面も多々あるが、
石畳はその都度修正し、地表に出た根は避けて歩き、
街灯を設置し、季節によっては光輝石をぶら下げて飾り付けたり、
集めた落ち葉で芋を焼いたりと住民達からは親しまれている、
特に南西地区に集まっているエルフとハリ族とラビ族には
憩いの場として大人気、幹に背を預け読書に勤しむ者もチラホラ見受けられる。
カード王国広しと言えどこの不思議な光景が見られるのはダナブルだけ、
というのもこの木の原産地は遥か東の果てに位置するシルフハイド国なのだ。
時を遡るのこと400年ほど前、
当時割と良い仕事に付いており社会的な地位を得ていたエルフが
「実はこう見えても結構いい歳なんだよね、
いや本当本当、エルフってそういう種族だから、
なんか最近味の染みた食べ物とかが恋しくなっちゃってさ、
子供達も独り立ちして寂しいったらないよ~、
はぁ~故郷の景色が懐かしい…」
などと職場の友人と談笑していたことがきっかけで
当時のロックフォール伯爵から当時のカード王へ、
更に当時のシルフハイド国へと話が流れ友好の印として苗木が贈られた。
最初は20センチ程の小さな苗木だったが
風の精霊の加護でもあるのかグングン大きくなり、
その都度広場と周辺の建物を押し退け成長してきた、
酸いも甘いも喜怒も哀楽も、何世代も住民達に渡り寄り添い
静かに見守り続けて来た町の長老である。
今回の話はこの木の直ぐ近く、広場に面した家の中から始まる。
「おはようヤルミナ、気分はどうだい?」
「おはよぅ…なんだか体が軽いわ…」
「それは良かった、おや、今日は雨が降るかもしれないな」
部屋に入って来たエルフが朝食をテーブルに置き窓を開ける、
少し湿った風がベットで横になる老婆の髪を揺らした。
「…間に合ってくれて……ありがとう…」
「どうしたんだい急に? さぁ体を起こそう、
今日の朝食はベットと車椅子どちらの気分…ヤルミナ?」
体を起すためにベットの横に屈んだリフニエルは
幸せそうな顔で眠る最愛の妻を見て不安を感じた。
「ヤルミナ? 目を開けて、さぁヤルミナ」
「…」
優しく頬を撫でながら声を掛けるが反応が無い、
口元に耳を近づけると微かに呼吸を感じる。
「…っ、ヤルエル! 母さんが!」
「え!? まさか!?」
「いや、まだ息はしている、だが凄く弱弱しい、
急いで先生を呼んで来るから母さんを頼む」
「僕が呼びに行くよ、父さんこそ傍に居てあげて」
エプロン姿で家を飛び出して行ったのはハーフエルフである息子『ヤルエル』(55歳)、
今まさに人生の幕を閉じようとしているのは純粋な人間である母『ヤルミナ』(85歳)、
そして最愛の妻に寄り添うのは純粋なエルフである父『リフニエル』(105歳)。
ここはヤルエルファミリーの家である。
「先生~! サジウス先生~!」
「どうしましたヤルエルさん…?」
ヤルエルが扉を叩くとワカメみたいな髪型で片目が隠れた幸薄そうな男が出て来た。
「母の容体が、看て頂けませんか?」
「分かりました…直ぐに準備します…」
彼の名は『サジウス』
南西地区に診療所を設ける医者である、
姿勢が悪く見るからに辛気臭い風貌だが亜人種に対応できる数少ない先生、
腕は確かなのだが注射の時にテンションが上がる癖があり、
その風貌と相まって子供達からメッチャ怖がられている、
トナツの古い友人でシード計画の臨時職員。
こうして早朝にも関わらずサジウスはヤルエル一家の家にやって来た。
「そうですねぇ…極めて脈が弱い…意識は何時ごろまで?」
「今朝まではありました、少し言葉を交わしてそれっきり…」
「なるほど…残念ですが意識が戻ることはもうないでしょう」
「ヤルミナ…」
診断を聞きながらリフニエルが悲しそうにヤルミナの手を擦っている。
「サジウス先生、母はこのまま…」
「そうです…辛うじて生命活動を維持していますが徐々に弱まっていきます…
病気も無くとても美しい老衰です…苦しまずにこのままゆっくりと…
眠るようにマナの海へと還って行く…明日を迎えることは無いでしょう…」
「ぁ…父さん、母さんは最後になんて?」
「体が軽いと言っていたよ、それと間に合ってくれて有難うとも…」
「きっと最後の力を振り絞って父さんを待っていてくれたんだよ、だから…」
「そうだな、有難うヤルエル」
「朝食まだ食べてないでしょ? 準備するから」
「今はちょっと…すまないなヤルエル、気を使わせてしまって、
父親として私がしっかりしないといけないというのに…」
「そんな…気にしなくていいよ、父さんの方が悲しいだろうから」
「すまない…」
最愛の妻を失おうとしている夫と、最愛の母を失おうとしている息子、
愛情の大きさも悲しみの大きさも等しいが、
共に過ごした時間が長い分リフニエルの方が余裕が少ない。
1年ほど前にヤルミナは自分で歩けなくなった、
膝を悪くしただけで年齢を考えれば当然の話、
だが人間というのは不思議なもので動けなくなると途端に弱って行く、
筋力は衰え食欲は減った、2ヶ月前には目も殆ど見えなくなった、
先が長くないというのは当人も父も息子も皆分かっていた。
だからこそヤルエルは約束の舞台に両親を呼ばなかった、
だからこそヤルミナは体に鞭打って約束の舞台を見に行った、
だからこそリフニエルは妻の覚悟を尊重し約束の舞台へと連れて行った。
結果として家族の大切な思い出を手に入れ、そして代償として時間を失った、
ヤルミナの体調が芳しく無かったため
ヤルエルは舞台に立った日以降ギルドへ出向いていない、
リフニエルも仕事を休みずっと一緒に過ごしている、
何をするわけでもなく只々家族で一緒に過ごす、
それこそが掛けがえの無い大切な時間だった、
そして遂にその時が訪れようとしているのだ。
「別れとはいつも悲しい物です…最後まで一緒に居てあげて下さい…
それでは私はこれで…」
「ありがとう御座いましたサジウス先生、直ぐにお金を用意します」
「いえ…今日のところは結構です…それよりヤルエルさん…お父さんのことを…」
「そうですね…」
「サジウス先生」
部屋を出ようとしたサジウスをリフニエルが呼び止めた。
「何でしょうか…?」
「もう1度…もう1度だけ妻の声が聞きたいのです、
この願いは叶うことはありませんか?」
「絶対に無いとは言いませんが難しいでしょう…」
「覚悟はしてきたつもりです、ですが余りにも唐突で…
ヤルミナは私を待っていてくれた、有難うと伝えるために…
なのに私は答えてあげられなかった…
もっと早く朝食を運んでいれば…窓なんて開けずに手を握っていればと…」
「父さん…」
「すまないヤルエル、本当に情けない父親で…すまない…
私の方が恵まれているというのに…今更こんな我儘を…」
「気にしないで父さん、わかってるから」
サジウスにはこの会話に真意は理解できないだろう、
だがヤルエルは理解していた、自身がハーフエルフとしての悩みを持つが故に、
純粋なエルフありながら人間を愛した父がどれほど苦悩していたかを知っているが故に。
ハーフエルフのヤルエルは人間の世界で生きて行く、
愛する者がエルフなら良い、だが人間を愛してしまったら同じ苦悩を抱えることになる、
リフニエルは産まれながらにしてその生き方を強要してしまったことを詫びているのだ。
「私の傲慢だということは理解している、だがどうしても…もう1度だけ…」
頬を涙が伝おうと決して握った手を放そうとしない、
まるでその手だけが最愛の妻をこの世界に繋ぎとめているかのように、
優しく願いを込めながら包み込んでいる。
「ヤルエルさんちょっと…」
「はい…」
サジウスが手招きしてヤルエルと共に部屋を出て行った。
そして暫くして場所はシード計画施設内。
「在庫はあるけど…老衰でしょ?」
「すまないなトナツ…君の心情に反するとは思うが…」
「いいよいいよ、僕も無関係ってわけじゃないし、
でもこんなこと試すの初めてだから効果は保障できないよ、
っていか正直どうなるか分からない、むしろこれのせいでなんてことも…」
透明な液体が入った小瓶を振って見せるトナツ。
「承知の上での頼みだ…無論どうするかは家族に決めて貰う…」
「たぶん希望するでしょ、力になってあげたいけどこればかりはね」
「私達は只の人間だ…自然の摂理に抗うためには
それ相応の危険を冒す必要がある…」
「とにかくやれるだけやってみよう、後は奇跡を信じるしかない」
「医者としては不本意な言葉だよ…」
小瓶を鞄に仕舞いトナツとサジウスは部屋を出た。
「あちゃ~ライトニング坊やのこと聞こうかと思ったのに」
「丁度入れ違いになっちゃったね、急患だったらいけないしさ、
リンデル主任に聞きに行こうよ」
「そうしますかぁ~」
エルルラとクルートンが背中を見送ったことは2人は知る由もない。
そしてトナツの予想通りリフニエルとヤルエルは処置を求めた。
「どうサジウス?」
「…、脈が強くなった…いや、少し早いか…?」
「どうする? 今回は君が主治医で僕はあくまでも助手だよ」
「これ以上は止めておこう…負担が大きすぎる…」
「わかった」
トナツがヤルミナの腕から針を抜き回復魔法で傷を塞ぐ。
「処置はこれで終わりです…あとはヤルミナさん次第…」
「最初に説明したけど意識が戻るかは分からない、
これは限りなく0に近い可能性をほんの少し高めるだけだから」
「「 ありがとうございます 」」
「それでは私達はこれで…」
「僕は医者だけど奇跡を信じてるんだ、元気出してね」
「はい、外までお送りします」
「僕が行くよ、父さんは母さんの傍に」
「すまないヤルエル」
憔悴気味の父を部屋に残し、
ヤルエルは2人の医者に深々と頭を下げて見送った。
「私達に出来ることはこれで全部だ…ありがとうトナツ…」
「いいよいいよ、いつも手伝って貰ってばっかりだし」
「折角だ少し寄っていかないか…? お茶を出そう…」
「それじゃお言葉に甘えちゃおうかな、ドーナツある?」
「無い…私は甘いのは苦手でね…」
「知ってるよ、長い付き合いだもん、だから薬代もいらない」
「そう言って貰えると助かる…」
トナツが投与した透明な液体は弱った心臓を強制的に元気にする薬、
所謂『強心剤』である、意識を覚醒させる薬ではない。
天寿を全うしようとしている者にどれ程の効果が見込めるかは不明であり、
只でさえ負担が多い薬に高齢の肉体が耐えられる保証もない
分量を間違えば固くなった血管が破裂し致命傷になる危険もある、
だが全てを知った上でリフニエルは奇跡を求めた、
ヤルエルは母の身を案じたが父の想いを尊重した。
そして数時間後。
「父さん、そろそろ何か食べないと」
「いや、今はまだ…昼になったら食べるさ」
「もう夕方だよ」
「ん? あぁ…そうか、いつの間に…」
「曇り空だと時間が分かり難いからね」
時計を見て呆けた顔をする父にエプロン姿のヤルエルが苦笑する、
リフニエルはベットの横に座り5時間以上もヤルミナの手を握っていたらしい。
「父さんの好きなアボカトロスのサラダを作ったんだ、一緒に食べよう」
「そうだな、なにもかも任せてしまって…」
「謝らないで父さん、らしく無いよ、食事運んで来るから」
「あぁ…」
ヤルエルが部屋を出て行くとリフニエルは静かに語り出した。
「私達の息子は本当に頼もしくなったな、
こうして君の手を握り続けることしか出来ない私なんかより余程…」
「…そうね…あなたの方が心配…」
「そうだな…!?」
相槌を打ちハッと顔を上げるリフニエル、
静かに眠っているヤルミナの顔を見て首を横に振った。
「ふぅ…君の幻聴に叱られる程参っているみたいだ」
「違うわ、ほら、幻聴じゃない」
目を見開くリフニエル、ヤルミナが喋りながら手をニギニギしている。
「!? ヤルミナ…本当に?」
「本当よ、ほら」
「あぁ…ヤルミナ」
「ふふふ、擽ったいわ」
割とあっさり奇跡が起きた、
リフニエルが泣きながら頬を摺り寄せている。
「父さん持って来たよ、ってどうしたの? まさか母さんが…」
「そうだ母さんが…」
「そんな…」
「還って来たのよ」
「ふぁぁぁ!?」
ヤルミナの声に驚いてパンを落とした、
父親の好物のアボカトロスサラダはなんとか死守した。
一方その頃サジウスの診療所では。
「数日は痛みがあると思います…触らないようにお願いします…
お渡しした薬は1日1回だけ塗布を…1ヶ月程で良くなるでしょう…」
「ありがとうございまし…いたた…」
「お大事に…」
腹部に大きな絆創膏みたいなヤツが張られたハリ族をサジウスが見送っている。
「今の患者さん体だけですんでよかったねぇ、目に入ってたら失明してたかも」
「不幸中の幸いだな…近くに冒険者がいたおかげで手足も失わずにすんだ…
傷は多少残るかもしれないが…」
「ソルジャーアントの巣はまだそのまま?」
「どだろうか…? 複数の冒険者がいたそうだし丁度討伐に来ていたのかも知れないな…」
「ヤルエルさんの件でギルドに行く予定だったからついでに聞いてみるよ」
どうやらソルジャーアントの赤蟻の酸を浴びた患者だったらしい、
Cランク冒険者達によってソルジャーアントは無事討伐されました。
「すまなかったな…こんな時間まで付き合わせてしまって…」
「急患だったからね、これでお昼ご飯分は仕事したでしょ、あれ? 晴れてる」
「雲の合間だな…また直ぐ曇るさ…あっちに大きな雨雲がある…」
「本当だね、今の内に行くよ」
「傘を持って行くといい…」
「ありがとう、それじゃ」
「気を付けてな…」
トナツはギルドへ移動。
復活した母の提案で食事をすることになったヤルエル一家。
「飲み物とパンを持って来たよ」
「ありがとうヤルエル、さぁ座って、食べられそうかいヤルミナ?」
「少しだけならね」
「母さん凄く元気そうだね、喋り方がハキハキしてる」
「今はね、一時的なものよ、そう長くは続かないわ」
「悲しいこと言わないでよ母さん」
「ヤルミナ、気をしっかり持って」
「駄目よ2人共、これはきっと精霊様の気まぐれ、自分の体だもの、分かるわ」
「「 … 」」
「ほ~ら、折角だから後悔しないように楽しく過ごしましょう」
「そうだな」
「うん」
何気ない話をしながら食事をする家族
1人分のサラダを3つに分けてヤルエルとリフニエルはパンを1つずつ、
妙に元気だがやはり食欲はあまり無いようで、
ヤルミナはアボカトロスを3キレだけ食べた。
「体が軽くなって気が付いた時には海に立っていたの、
膝まで水に浸かって波が行ったり来たりしていて」
「もしかしてそれがマナの海かい?」
「そうかもね、とても綺麗で心が落ち着く場所だったわ、
貴方と見に行った海を思い出しちゃった」
「リコッタか、懐かしいな」
「リコッタなんて行ったっけ?」
「ヤルエルが産まれる前の話だ」
「父さんと結婚した時にカード王国を旅したの」
「へ~」
「ヤルエルも誰か好きな人と一緒に行ってみるといいわ」
「僕は…」
「まだ怖がってるの?」
「…」
「私は幸せだったわ、2人共見た目が変わらないから
いつの間にか私だけがヨボヨボになっちゃったけど、
ずっと幸せだった、愛する夫と可愛い息子、他の家族と何も変わらないわ、
ヤルエル大切な事を忘れないで、私達は同じ時間を過ごしていたのよ」
「同じ時間…」
「そう、寿命は確かに違うけど過ごした時間は皆同じ、
貴方が居て、私が居て、父さんが居たでしょ、それとも幸せじゃなかった?」
「いや、幸せだったよ、凄く楽しかった」
「そうでしょう、もっと自分に素直に生きて」
「うん…」
「リフニエルもね、私の事を忘れて欲しくはないけど、誰か新しい人を…」
「ヤルミナ」
ヤルミナの手をリフニエルが両手で包み言葉を遮った。
「朝私を待っていてくれて有難う、私を愛してくれて有難う、
幸せな時間を共に過ごしてくれて有難う、
この気持ちを君に伝えられなかったことだけを後悔していた、
だからもう心配しなくていい、私が生涯愛するのは君だけだ」
「こんなにヨボヨボなのに、嬉しいわ、はぁ~なんだか少し眠くなって来たみたい…
寝せてくれるリフニエル?」
「さぁ身を任せて、安心しておやすみヤルミナ」
「おやすみリフニエル…ヤルエルも…」
「おやすみ母さん」
その後ヤルミナが意識を取り戻すことは無く、静かに眠るように息を引き取った。
「あら~雨降り出しちゃったかぁ~さっき前で晴れてたからいけると思ったんだけど…」
「思ったより早かったね、ドンドン酷くなりそう」
「あれ? なんでドーナツ先生がギルドに?」
「ちょと野暮用でね、マツモト君は移籍の件?」
「そうです、手続きは上手く行ったんですけどねぇ…」
「何か問題発生?」
「紋章代が必要なの忘れてました」
「お金貸そうか?」
「いや、今日は止めときます、それより早く帰らないとヤバそうですよ」
「確かに、僕傘持ってるから一緒に帰ろう」
「助かります~」
つかの間の晴れ間を挟み降り出した雨、
葉を打たれながら広場に佇む巨木は静かに住民達を見守り続けている。




