23話目【ジョナ・コスモ】
「あれ? なんか今日、人が少なくないですか? レベッカ姉さん」
「建物の修復も一段落したから、精霊様の森に狩りでも行ってるんじゃないかしら」
「この前のお肉は美味しかったですもんね、大物が捕れるといいな~」
「ふふ、あまり期待しない方がいいわよ、ウィンディ」
「そうします…お? こっちは大物が捕れましたよ!」
「あら立派な芋ね」
ポッポ村は芋収穫の季節である。
「なかなか上質な革になったじゃねぇか」
「切ったのが腹側だったからな、それに2太刀で仕留めたから傷も少なく済んだ」
「これなら来週にでも売りにいけるんじゃねぇか?」
木材加工所の横でバトーとゴードンがムーンベアーの革の状態を確認している。
獣の皮はそのままだと腐敗してしまうため、皮から革へと加工する必要がある。
なめし加工を行うことで腐敗を防ぎ、柔らかさや強度か増す。
ただし、とんでもなく手間がかかる。
余分な肉と脂肪の除去、陰干し、塩漬け、なめし液と呼ばれる謎液に漬けるなど…
その都度水洗いも行っている。
「それ今度の買出しで売るんですか?」
シャコシャコと貝殻を磨きながら松本が近寄って来た。
「革だけではなく骨や爪も売る予定だ」
「爪は解りますが、骨ですか?」
「骨は装備や薬の材料になるみてぇだ」
なるほど、実に剣と魔法の世界らしいではないか
「そうだ坊主、これをやるよ、ムーンベアーの爪だ」
「売り物じゃないんですか?」
「せっかくムーンベアーを仕留めたんだ、爪の1つくらい貰ってもバチは当たらんだろ」
「へぇ~すごい、結構大きいですね」
ゴードンから5センチ程の搔き爪を受け取る。近くで見ると迫力がある。
「かっこいいだろ?」
「それでも一番小さい爪だよ、売り物はこっちだ」
「えぇ!? 恐ろしぃ、ムーンベアー怖い…」
「おめぇよ…最初から危ねぇっていってただろ…」
バトーの手には15センチ程の掻き爪が握られていた。
「マツモトも買出しに行くのだろう、準備は出来たのか?」
「売りに出す貝殻は20枚程準備できました」
「それも重要だが、旅の準備の話だ。少なくとも町まで5日掛かるからな。
「水筒とか洋服とかだ、坊主持ってっか?」
「持ってないですね、今から作って間に合うかな?」
「それならジョナの店で買うといい」
ジョナの店? ポッポ村に服や水筒なんて売ってる店あったか?
マリーゴールド以外でお金使った記憶がないんだが?
「この前修復終わった建物あったろ? ほらマリーさんとこの隣の」
「あぁ、ちょっと大きいヤツですね」
「そうだ、ただ奥には行くなよ。お前はまだ未成年だからな」
「? よく解りませんが了解です! ちょっと行ってきます」
「…バトー、あいつ絶対奥に行くよな」
「間違いなく行くだろう、男だからな」
走り去っていく松本を見守る2人…思春期の子供を見守る親の視線と同じだった。
加工食品や調味料などを扱うマリーゴールドの横に新しく店が出来ていた。
見た目はあまり変わらないが、マリーゴールドに比べ一回り大きい。
入口の看板には『ジョナ・コスモ』と書かれている。
ジョナ・コスモ? 店名だよな?
ジョナさんの店だからジョナなのはわかるが、コスモって宇宙か?
水筒とか売ってるんだよな…宇宙? まぁ入ってみるか
「すみませーん」
「…」
店に入ると誰もおらず、返事は帰ってこない。
店内には水筒や服、鞄など日用品が置かれている。
留守かな? まぁ、田舎の村だし誰も盗んだりしないだろうからな。
日用品店だったのか、マリーさんの店は食品だから、この2店で村に必要な物はある程度揃うな。
えーっと水筒は… っは!?
店の隅に黒い2股に分かれたカーテンがあり、立て掛けれらた札には『未成年立入禁止』の文字がある。
カーテンの奥には、さらに部屋があるようだ。
こ、これはぁぁぁぁぁぁ!?
黒のカーテンに立入禁止の文字…見覚えがある…というより身に覚えがある。
もしや…生前でお世話になっていた…男の花園では?
いやしかし、こんな田舎の村に…ましてや異世界にあるというのか?
き、気になるぅぅぅぅぅ、とても気になるぅぅぅぅぅぅぅ
キョロキョロと無人の店内を見回す松本、口笛を吹いているが音が鳴っていない。
くそっ! 精神年齢は成人を通り越してオジサンだというのに
外見が子供なだけに後ろめたさがある…道徳的に許されるのか…ショタオジという存在は?
否! 俺は元彼女いない歴38年、その道のブラックベルト保持者。
帝王たるもの、女性店員の時でもジ○ンプで挟み込むような小細工などぜぬ!
不審な態度をとるからこそ疑われるのだ、臆することなど無い、堂々と正面から行けばよいではないかぁ!
退かぬ‼ 媚びぬ‼ 省みぬぅぅぅぅ‼
ポンッ
「ヒャッ!?」
「未成年は体入り禁止だよ、マツモト君」
青年に肩を叩かれ、口から心臓が飛び出た帝王は真っ白な灰と化した。
肩を叩いた青年は、ジョナ・コスモの店主『ジョナ』である。
22歳、独身、短髪で糸目、体格は細めである。バトー達のように戦うタイプではない。
過去にウィンディに求婚し断られている。
「君もやっぱり男の子だねぇ…気になるかい?」
「気になるね、とても」
「いや、そこは戸惑うところだと思うよ…なんで自信満々なの…」
『退かぬ、媚びぬ、省みぬ』帝王3原則である。
「ホントは未成年は駄目なんだけど、しょうがない見せてあげよう! コスモを!」
バサァ!
ジョナがカーテンを開ける、奥の部屋には剣や盾、防具、さらにはナイフや包丁などが並べられていた。
金属に光が反射しキラキラと輝いている。
「ウチは日用品店なんだけど、刃物類は危ないから奥にしまってあるんだ。キラキラ光って星みたいだろう?」
「ほぁーすごい、それでコスモだったんですか。武器も売ってるんですね」
「危ないから触っちゃ駄目だよ、刃のついた武器は未成年には販売できないんだ、法律で決まってるからね」
「残念…そもそも何歳から成人なんですか?」
「12歳だよ」
「12歳なんて子供じゃないですか」
「みんなそう思ってるんだけどね、何故か昔からそうなんだよ」
「なるほど、俺が武器を持てるのは4年後か…長いな」
「別に刃がついてなければ大丈夫だよ、子供達だって木剣で遊んでるからね」
「なるほど」
「それで、今日は何か買いに来たんじゃないのかい?」
「忘れてた! 買出しに行く準備に来たんだった」
その後、松本は革の水筒、ナイフ、鞄、麻布を購入した。占めて50シルバーである。
ナイフは武器ではなく日用品なので購入可能だった。
松本が帰った後のジョナ・コスモに1人の村人が来店した。
「ジョナ、精霊様の森で狩りをしたいんだが…」
「今は数人狩り中だよ?」
「構わんよ、頼む」
「はいよ、こっちだよ」
未成年立入禁止のカーテンを潜り、さらに奥へと進んでいく2人。
壁の一角が隠し扉になっており、隠し部屋の床を開けると、中には地下に続く階段がある。
階段の先は薄暗い部屋になっていて、棚には丸い水晶が沢山並んでいる。
薄暗い空間に、淡く光る球体が浮かぶ光景は、まるで宇宙ようだ。
棚の前で水晶を数人の人影が物色している。
水晶を覗くとR18のあられもない映像が映し出されている。
そう、異世界版男の花園である。
「ジョナ、私これを借りていくわ」
「レベッカ…ここは男の花園なんだけど…」
「性欲は男女平等よ、だからこそ子孫が繁栄するんでしょ」
「ぐうの音もでないよ…」
彼女の名は『レベッカ』
26歳、独身、活発、知的、力強い。ウィンディのお姉さん的存在。
ウィンディと一緒に子供達に勉強を教えている。
髪は短く笑顔が素敵。芋大好き。
そして、『ジョナ・コスモ』でひっそり経営されている男の花園を唯一知る女性である。
投稿されておらず、後から割り込み投稿しました。




