223話目【演目「光の3勇者」 中編】
「妙に食べ応えのあるポップコーンでしたね~」
「いいよねムッチリコーン、沢山食べても太り難いし
食物繊維が豊富だから健康的なんだよね、満腹感も得られるから
小腹が空いた時とか痩せたい人にオススメ」
「いくら太り難くてもチョコレート付けて食べたら駄目だと思いますけど」
「大丈夫大丈夫、チョコレートは心を健康にしてくれるから」
「…そいうものですか?」
「そういうもの、好きな物を無理に我慢しちゃうとかえって良くないからね、、
それに普段からドーナツで鍛えてる僕からすれば誤差みたいなものだし」
「う~ん…(説得力があるような…ないような…)」
着席待ちの通路で胸を張るトナツ、
張った胸より出ている腹を見て松本が目を細めている。
「前の人進んだよマツモト君」
「はい~」
2人が席に戻るとアナウンスが流れた。
「御来場の皆様にご案内です、間もなく演目『光の3勇者』を再開致します、
お席にお戻りになりご着席頂きますようお願い致します」
全員着席したのを確認し2階席から劇場員が合図を送ると照明が落とされた。
「只今より演目『光の3勇者』を再開致します」
アナウンスの後にブザーが鳴り再び幕が上がる。
背景は町の外、左側が街道で右側が城壁、
前半開始時と同じ配置だが城壁の一部が崩れ悪化している、
役者はおらず舞台右側に城壁修復用の石が積まれた状態から開始。
「あと少しだから、ほらもうひと踏ん張り」
「はぁはぁ、ネネ様…私結構頑張って引いてます~」
「私も頑張って押してますよ~」
ネネとラビ族石を積んだ台車を引きながら登場し、
続いて台車の後ろを押しながらハリ族が登場した、
前半開始時に生き残ったラビ族とハリ族と同じ人物。
「止めるわよ~」
「「 はい~ 」」
『 ふぃ~ 』
台車を積まれた石の前まで移動させ3人が額を拭う。
「今回のは…ちょっと重かったですね」
「はぁはぁ、つ、疲れました…」
「確かに積み過ぎだったかもね、欲張っちゃったわ」
「ネネ様、お願いですから次はもう少し減らしましょう」
「私もその方が良いと思います」
「悪かったって、1度に運んだ方が効率的かなって思ったの、さぁ日が暮れる前に下ろしましょう」
「「 はいネネ様 」」
3人で石を下ろし始め半分程終わったところで
ネネが屈めた腰を伸ばしながら手で叩く。
「あたた…腰痛い、流石にちょっと疲れたわね」
「は~ネネ様も疲れたりするのですね」
「え? そりゃそうでしょ」
「ネネ様ならこれくらい軽々と運べるものだと思ってました」
「私が1人でこれを? ははははは!」
ハリ族とラビ族の言葉を聞いてネネが腹を抱えて笑う。
「そんな力あるわけないでしょ、なんでそうなるのよ?」
「だってネネ様は勇者様ですから」
「魔王を倒し世界を救って下さった英雄です」
「まぁ否定はしないけどね、でも魔王は皆で協力して倒したわけだし、
その光の3勇者ってのは皆を奮い立たせるために呼び始めたの、要は旗印ね
他の世界から来て戦う力が優れているだけで私は普通の人間よ、
当然お腹も空くし疲れもします」
「そうだったんですか、なんだか少し親近感が沸きました」
「もっと沸いて沸いて、遠慮しなくていいんだから」
「サンジェルミ様も同じなのですか?」
「サンジェルミも大体同じ、まぁそうね~トールならこれくらい1人で運べたかもね」
「流石は勇者様です! きっとこんな感じで軽々と」
「ははは、違う違う、ただの馬鹿力よ、勇者は関係ないって」
真面目な顔で石を持ち上げて見せるハリ族に笑いながらネネが右手を振る、
手を止めたラビ族が2人から顔を背けた。
「トール様は誰よりも勇敢で…お優しいお方でした…」
持ち上げた石を台車に戻しラビ族の前にネネが回る。
「そんな顔しない!」
「でも…」
「町がこんな状態なのにちゃんと葬儀も行って、
立派なお墓も立てて貰えたんだからトールは満足してるって」
「ネネ様は悲しくはないのですか?」
「悲しいわ、一緒に暮らそうって言ったくせに勝手に死んじゃうんだもの」
「「 ネネ様… 」」
「だからって立ち止まってはいられない、でしょ?
折角魔王を倒して平和になったんだから無理にでも前に進まないと! ね!」
ネネが肩を叩いて励ますがラビ族は俯いたまま、
ハリ族も手を止めて俯いた。
「頭では理解しているのですがあまり実感が沸かなくて、本当に終わったのかなって…
また闇が襲って来るんじゃないかって、時々弱気になってしまいます」
「実は私も…寝る度に不安になります…本当は全て夢で、起きたら魔王が…」
「ふぅ~そうよね~、そうだと思う、今までが大変だったんだもの
不安にならない方が可笑しいわ、ほらこっち向いて、顔上げて2人共」
舞台中央に移動してネネが手を叩くと2人が顔を上げた、
照明が暗くなりスポットライトがネネを照らすと観客側を振り向いた。
「貴方達の目の前で魔王は倒された、そうでしょ? ちゃんと覚えてる?
精霊様と皆の光が魔王を照らし、私は槍をトールは剣を深々と突き立てた、
サンジェルミが杖を掲げると眩い光は1つに纏まり、
魔王とその配下の闇をこの世界から消し去った!
トールはその後直ぐに皆を…いいえ私を護って死んでしまった、
町に残っていた人達は待ち望んでいた朗報に沸き、勇者の死を嘆き悲しんだ、
盛大に弔ってくれたし立派な墓標も立ててくれた、
この世界で過ごした時間は僅かだったけど、トールは結構愛されてたみたいね」
ネネが前半のおさらいと後半までの間の出来事を補填してくれる。
「悲しいことが沢山あったけど世界は平和になった、
これで以前と同じ生活を取り戻せると思ったんだけど、
どうやらそんなに簡単な話じゃないみたい、
皆の心には深い傷があって、表には出さないけどこの2人みたいに不安を抱えている、
魔王の最後を見ていない人達は尚更ね、
悔しいけど言葉で解決できる程勇者ってのは万能じゃないの、
そうね~何かこう…パっと明るくなるような、
皆が元気になる出来事でもあればいいのだけど…誰か教えてくれないかしら?」
困った顔で観客席を見渡すネネ、観客達に考える間を与えている。
「まぁそんな都合のいい話はないわよね、
荒廃した世界を立て直すには時間を掛けて1歩づつ前に進むしかない、
という訳で、手初めてとしてサンジェルミと各種族の代表達が
数日前に城壁の外へ旅立ったの、目的は2つ、
無事に戻ることで皆に魔王の脅威が去ったと示すこと、
そして町の周辺の状況を確認すること、
もしかしたら他にも生き残った人達が見つかるかも!
…なんて甘い期待をしている人は誰もいないけどね」
ネネが観客に背を向けるとスポットライトが消え照明が戻った。
「サンジェルミ達も頑張ってる筈よ、だから私達も頑張りましょう!」
「はいネネ様!」
「私頑張ります!」
3人が石下ろしを再開すると息を切らせながらハリ族が走って来た。
「はぁはぁ、ネネ様、ネネ様~! サンジェルミ様達が戻って来ました!」
「あら、噂をすれば、意外と早かったわね」
「5日ぶりでしょうか?」
「全員無事だといいのですが…」
「魔王はもういないんだしサンジェルミが付いてるから大丈夫だって、
ほら来たわ、お~いこっちこっち!」
ネネが手を振ると舞台左袖からサンジェルを先頭にリテルス、
年配の人間、オーク、ゴブリン、ラビ族、ハリ族が歩いてきた。
「お帰りサンジェルミ、何か見つかった?」
「第一声がそれかい? 普通は皆の無事を確認するのが先だと思うけど」
「全員揃ってるじゃない、私も魔王以上の脅威が存在するなら心配するけど、
そうでないなら貴方がいるから問題ない、違う?」
「まぁ、違わないかな…」
「でしょ、ほら結果結果!」
「なんだかなぁ…」
『 はははは! 』
ネネとサンジェルミのやり取りを聞いて皆が笑う。
「ネネ様、結果をお話する前に座らせて頂けませんか?
数日とはいえ野宿は老体に堪えましてな」
「こちらへどうぞ、ルート代表」
「いや失礼、これはちょうど良い腰掛がありますな」
年配の男性が舞台右に移動して積まれた石に腰掛けた。
「まだ老体と呼ぶほど老いてはないでしょうルート代表」
「いやいやララバ代表、人間の肉体はオーク程強くありませんから
この歳でも十分老体です、それに恐らくですが…
単純な年齢でもワシが一番年寄りでしょう、72歳ですからな、ははは」
周りを見渡してルートが笑うと他の人達が顔を見合わせる。
「失礼ですがダムナム代表お歳は?」
「43歳です」
「私より年上でしたか、意外と分からないものですね」
「そのようです、ササッチ代表お歳は?」
「…」
ララバ(オーク)から始まった質問をダムナム(ゴブリン)が右に流す、
訊ねられたササッチ(ラビ族)がそっぽを向いた。
「あの、ササッチ代表」
「なんでしょうか?」
「お歳は?」
「…」
再びそっぽを向くササッチ。
「大きなお耳をお持ちだが聞こえないようです」
「そのようですね、ではハリントン代表お歳は?」
「…」
ララバがハリントン(ハリ族)に尋ねるとそっぽを向かれた。
「鋭い針が邪魔をして聞こえないようです」
「そのようですね」
「「 違いますよ! 」」
ササッチとハリントンの強めの返答が会場から笑いを誘う。
「女性に年齢を訊ねないというのは全種族共通の礼儀です、
ただでさえ最近毛並みが悪くなって気に掛けているのですから、
そうですよねハリントン代表?」
「その通りです、見た目はトゲトゲですし最近シワも増えましたけど
心はツルツルピカピカの乙女ですからね!」
「「 す、すみません… 」」
自虐を交えて怒るササッチとハリントンが再び笑いを誘った。
「(ラビ族って年取ると毛並みが悪くなるのか…猫と同じだな)」
松本は記憶の中の飼い猫を愛でている。
「では女性陣はそっとしておくとして、私が一番歳上のようですね」
「ほう、リテルス代表のお歳は?」
「今年で76歳になります」
『 おぉ~ 』
「とてもそうは見えません、実にお若い」
「私達で言えば40歳くらいの感覚でしょうか?」
「40歳にしても若いですな」
「肌が綺麗ですもの、羨ましい」
「何か良い食べ物でも? 是非私にもお1つ…」
「いえ、種族の差ですので食べ物は特に…エルフは見た目が老いるのも遅いのです」
「ちょっとちょっとオジサン達! 年齢の話はいいから結果を教えてよ!」
1歩前に出てネネが会話を遮る。
「あのさネネ、なんでオジサンだけなのかな?」
「サンジェルミ」
「え? あ…はい」
ネネに示されサンジェルミが左を向くと、
ササッチとハリントンが腕を組んで威圧する、
観客席から3度目の笑いが起きた。
「どうだったのサンジェルミ?」
「外で過ごしてみたけど何にも襲ってこなかった、
魔王はもういない、皆安心していいと思うよ」
「分かってはいたけど良い知らせね、他には?」
「近くに生き残った人は見当たらなかった、
他の町を見た訳じゃないけど誰もいないと思う」
「それも分かっていた話ね、一応悪い知らせってことになるのかしら?」
「あともう1ついい知らせがあるよ」
「どんな話?」
「魔物を見つけたんだ、生き残った魔物がいる、この世界はまだやり直せるよ」
「本当に!? 早速狩りに行きましょう!」
「駄目駄目! 駄目だよネネ!」
「なんでよサンジェルミ、肉食べたくないの?」
「食べたいけど今狩ったら絶滅しちゃうって、もっと数が増えてからじゃないと」
「はぁ~仕方ないわね、それじゃ暫く肉は無しか、これって良い知らせになるの?」
「まぁ一応ね」
「でも食料ってそろそろ限界じゃなかったっけ? 待つ余裕があるの?」
「それなんだけど…」
「あ~サンジェルミ様、そこから先はワシが話しましょう」
話を遮ったルートに視線が集まる。
「蓄えはかなり減りましたが中の畑もありますし暫くは大丈夫でしょう、
と言っても半年そこそこが限度ですがな」
「そうなの? そんなに余裕無いって聞いていたけど?」
「当初の想定より人が減り過ぎたのです、
あまり喜ばしい理由ではありませんが今は有難い、
今回の調査で安全が確認できましたので城壁の外にあった畑を蘇らせましょう、
土地はいくらでもありますから小麦不足も解消出来ます、
芋は半年程で収穫が可能ですから、そこを乗り越えれば一安心かと、
更に食料を安定して確保出来るようになれば、ようやく各種族の復興を進められます、
とまぁ、今考えているのはこんなところですかな」
「いいじゃない! なんだか現実的な目標が見えて来たわ、これは間違いなくいい知らせね」
「ははは、ネネ様にそう言って頂けると何とかなりそうな気がしますな、
では皆に伝えるとしましょう、代表者の方々、今日の夜は当初の予定通りに」
『 はい 』
代表者達が返事をして舞台が暗転。
背景は夜の広場、演壇に立つルートを住民達が見上げている。
「おほん、既に知っているとは思うが皆改めて聞いて欲しい、
先日行われた世界の命運を賭けた戦いは
トルシュタイン様という大きすぎる犠牲を払いながらも、
精霊様の偉大なる光、勇者様の比類なき武勇、
そして皆の決死の覚悟より、見事魔王は打倒され我々は勝利を手にした!」
『 おぉ~! 』
「世界に平和が訪れてから10日、未だに皆が不安を感じていることは知っている、
そこでワシを含めた各種族の代表者と勇者サンジェルミ様が
その身を挺して調査に出た、結果、5日間町の外で生活したが襲撃は無かった、
ここに皆を代表して宣言しよう、我々を心底恐怖させ、
地を覆い尽くさんとした膨大な闇はもはや存在しない、魔王の恐怖は終わったのだ!」
『 おぉ~! 』
「まだ話は終わっておらんぞ、皆鎮まれ~、あ~そうそう、では続きを話そう、
調査の過程でワシ等は外で生き残った魔物を見た、
時が経ち数が増えればいずれ肉を手に出来るだろう、
明日からは外の畑を復旧し作物を育てようとも考えている、
皆で協力し今よりもっと多く食料を安定して得られれば
人口が増えても問題はない、いや各種族の未来の為に増やさねばならない、
隠さずに言うが今ある食料は順当にもって半年、外の畑の収穫も早くて半年、
それまでは食料を無駄にせずに節制を心がけて欲しい!
だがまぁそれは、明日からということでな、代表者の皆さ~ん!」
『 は~い! 』
ルートが手を叩くと舞台の両袖から木箱と料理を抱えた代表者達が出て来た。
「楽しい時間の始まりだ」
「皆運ぶの手伝って~」
「沢山ありますからお腹いっぱい食べましょう」
「野菜のスープに焼きたてのパン、貴重なソーセージありますよ~」
「大人の人達には特別な飲み物も」
「さぁ、今宵は大いに盛り上がろう! 勇者のお2人と精霊様も是非こちらへ」
ルートに手招きされ飲み物を受け取ったサンジェルミとネネ演壇に登る、
レムはソーセージを受け取り演壇の傍で浮いている。
「皆準備はいいかの? 大いなる決意を胸に新たな時代へ踏みだそう!」
『 大いなる決意を胸に新たな時代へ! 』
軽快な曲が流れ役者達が踊り始めると観客席から声援が飛ぶ、
新しい時代への門出と人々の心境の変化を表現するために
ミュージカル風の演出が組み込まれている。
「(へぇ~こんなのもあるんだ、俺も手拍子しとこ)」
観客に混ざって手拍子する松本、
生前その辺の石コロだった彼は演劇とミュージカルの違いを知らない。
台詞、演技を主な表現方法とするのが演劇。
台詞、歌、ダンスを主な表現方法とするのがミュージカル。
らしい、私もその辺の石コロなので詳しくは知らない。
曲が終わると役者達が舞台袖へと掃けて行く。
「おい、こんな場所で寝たら風邪をひくぞ、起きろほら」
「あい~…」
「全くしかたのないヤツだ、掴まれ」
「あい~…」
酔いつぶれたオークに肩を貸しララバが履ける、
最後に残ったネネとサンジェルミが中央に歩いて行く。
「楽しかったけどちょっと贅沢し過ぎじゃない? こんなに食べて大丈夫なの?」
「どうかな? でもやってよかったと思う」
「もしかしてサンジェルミの発案?」
「代表者の人達と話し合って決めたんだ、
何か気持ちを切り替えるきっかけを探してて、皆笑ってたから上手く行ったかも」
「そうかもね、私もきっかけ探してたから助かったわ」
「ソーセージは食べた? 食べたがってたでしょ貴重な肉」
「食べ損ねた、私は5年後に食べるからいいの、サンジェルミは?」
「僕も食べ損ねた、10年後に食べるよ」
「「 はははは! 」」
笑う2人の頭上から光が差しレムが降りて来た。
「僕は食べたよ~ソーセージ、いや~美味しいねこれ」
2人の周りを飛びならがフォークに刺さったソーセージを齧って見せる。
「あ、ソーセージ!」
「レム様にも楽しんで頂けたみたいですね」
「本当に楽しかったよ~ソーセージも沢山貰っちゃった」
「え? レム様沢山食べたんですか?」
「うん、15本位」
「食べすぎですよ~それ私に下さい!」
「駄目駄目~、これは僕の信者が僕にくれた貢物なんだから、うん美味しい」
「あぁ~私のソーセージが…」
レムが残ったソーセージを食べるとネネが膝から崩れ落ちた。
「サンジェルミ君これよろしく、それじゃ僕は森に帰るとするよ」
「え? レム様行ってしまわれるのですか?」
「うん、もう魔王はいないし光の魔法は信者達に広まったからね、
この町に僕の光は必要ないさ」
「ちょ、ちょっと待ってレム様」
「おわ!? ビックリした…」
サンジェルミをフォークを渡し上昇して行くレムの足を
急いで立ち上がったネネが掴んだ。
「今まで有難う御座いました」
「世界を救って頂いたこと、生きる者全てに代わり心より感謝します」
「別に僕が救ったわけじゃないけどね、忘れないで、
いつの時代も諦めず抗う者こそ成果を得る」
「いい言葉ですね、皆に伝えます」
「またいつかお会い出来ますか?」
「世界中を探せば会えるかもね~、それじゃ~」
「「 さよ~なら~ 」」
舞台右に光の柱が現れ昇って行くレムに2人が手を振る、
舞台上にレムが消えると暗転して次の場面へ。
「(レム様の再現度高いな~、お茶とか結構飲みたがるし)」
本物を知っている松本はシミジミ顎を擦っている。
その後の流れを掻い摘んで紹介。
「お披露目ですよ~、いきま~す!」
『 おぉ~ 』
「私の顔ってこんな感じ?」
「そっくりだよ、トールも似てる、僕も似てると思う」
「なんだか照れくさいわ、ここに来る度に毎回自分の顔みることになる」
「皆の感謝の気持ちだよ、ほらネネも手を振って」
光の3勇者の石像が完成しお披露目された場面。
「はぁ~芋畑の手入れって大変ね、最近凄く疲れる…」
「休んだら? なんか具合悪そうだよ」
「そうする、私なんか病気かも、体が重いし昨日は吐いちゃって…」
「あのさネネ、気にはなってたんだけど…なんかお腹大きくなってるよね?」
「バレた? そんなに食べて無い筈なのにちょっと太っちゃって」
「いや…それってさ、太ってるんじゃなくて妊娠してるんじゃないかな?」
「え?」
「え?」
「なに言ってんのサンジェルミ、1人で子供なんて出来るわけ…え!?」
「え!? もしかして心辺りあったりする?」
「…ある、1つだけ」
「…因みに聞いてもいいかな?」
「トール」
「えぇ!? トール!?」
「うん、トール」
「ちょ、ちょと病院行こう、先生に確かめて貰わないと」
「え~でも芋の手入れが」
「芋なんてどうでもいいよ! もっと自覚持って!」
ネネの妊娠が発覚する場面。
「おぎゃぁぁ…おぎゃぁぁ…」
「い、今産まれた!?」
「皆聞いたか? 聞こえたよな?」
「静かにして、騒ぐとネネ様の体に響くから」
「だってお前気になるだろ…」
「子供を産む大変さが分からない男共は下がりな」
「病院の前に詰めかけるんじゃないよ、扉が開かないだろう」
「俺達だって心配なんだって、あだっ!?」
「ほら言わんこっちゃない、どきなって、私が聞くから」
「いや俺が」
「まぁまぁ、ワシが代表して聞くから皆は下がっておれ、
先生ルートです、扉越しで構いませんので状況を教えて頂けませんか?」
「はい、無事産まれました、ネネ様も御子息も今のところは大丈夫です」
「ほぉ、それはよかった、御子息と言うことは男の子ですな」
「はい、とても元気な男の子です」
「それはそれは、有難う御座います先生、一番最初に産まれた子供が
ネネ様とトール様の御子息とは実に喜ばしい、皆の支えになります」
「聞いたか皆! 無事に産まれたぞ~元気な男の子だ!」
『 おぉ~! 』
「静かに! 今は安静せんと」
『 す、すみません… 』
「ははは、まぁ気持ちはわかるがな、ワシも心が弾む、
騒ぎたい者は城壁の外で好きなだけ騒げばよい、
町中、特に病院の周りでは静かにな」
『 はい 』
待望の子供に住民達が沸く場面。
そしてサンジェルミが今後の行く末を話す場面、
城壁の傍に生えた木の下でサンジェルミが座っている。
「やはりここでしたか」
「こんにちはリテルスさん、皆と一緒にお祝いしなくても良いのですか?」
「誰よりもネネ様とトール様の御子息を心待ちにしていたのは私です、
声に出して騒がずとも祝福する気持ちは伝わるでしょう、
貴方も同じなのではありませんか?」
「そうですね、無事に産まれてくれて本当によかった」
「もし私でよければ、お聞きしますよ」
「え? 何をですか?」
「何か悩まれているのでしょう?」
「…いや、特に悩みなんて」
「初めてお話させて頂いた時と同じ目されている、
同じこの木の下で、同じように遠くを見つめながら、
共に死線を越え、語らい、旅をして私はサンジェルミ様の
良き友人になれたと思っていたのですが?」
「ふふふ、僕もそうです、では少しの間お耳をお貸し下さい」
「いくらでもどうぞ、私の耳は貸せるほどに長いですから、
ついでに手もお貸ししましょう」
「「 ふふふふ 」」
差し出された手を見て2人が笑う。
「座って話しましょう、リテルスさんもどうぞ」
「私はこのままで大丈夫です、それで何をお悩み何ですか?」
「今後のことです、旅に出ようかと考えています、直ぐにと言う訳ではありませんが」
「確か以前もそのようなお話をお聞きしましたね、やはり流れる時間の違い、ですか?」
「はい、リテルスさんは76歳なんですよね? 恐らく僕は45歳位です」
「恐らくとは?」
「一度死んで戻って来てますから、あくまでも体感の年齢です」
「なるほど」
「僕は見た目がまだ若いので寿命だけは純粋なエルフに近いかもしれません、
何事もなければあと100年は生きるかも」
「そうなると老い始めるのは当分先でしょう、エルフは若い姿の時間が長いのです」
「僕の父もそうでした、いつまでも同じ姿だった、
10年もすればネネの子供は大きくなります、
20年後には年配の方達は殆どいなくなるでしょう、
ネネも順調に老いて子供達は大人になり次の時代を担うようになる、
50年後には魔王の恐怖を体験した人は殆どいなくなるかもしれない、
もしくは60年後か70年後か、長寿の種族を除けばですけどね、
100年後には魔王は語り継がれる物語になる」
「魔王を打倒した光の3勇者は不変の伝説になります」
「伝説は石像に任せておけばいい、あれは新しい時代の象徴ですから、
100年以上も勇者が生きていたら物語が長くなり過ぎて
子供の枕元で読んで貰えなくなります」
「ならば直接語ればよいではないですか、勇者サンジェルミ様の偉大なる冒険譚を」
「子供の枕元でですか? 長すぎて寝てしまいますよ」
「私なら興奮し過ぎて寝れなくなります」
「「 ふふふふ 」」
2人が顔を見合わせて笑うと右から左へ子供達が走り抜けて行った。
「あの子達は魔王の恐怖を乗り越えました、強い子供達です、
あんな風に健気に走り回っていますが夜が来ると思い出して泣くそうです」
「他の種族も同様です、こればかりは本人が乗り越えるしか…難しい問題ですから」
「これから産まれる子供達にこの問題を引き継ぎたくありません、
勇者と魔王は物語へ、眠りを妨げる恐怖ではなく親の愛を感じられる安らぎに」
「…なるほど、エルフの今後が決まりました」
「急にどうされたのですか?」
「まだ先の話ですがエルフは兄を王として元の国を復興することにします、
私はこのまま他種族との共存を望んでいるのですが、
ここに居てはサンジェルミ様のお心遣いの邪魔をしてしまう」
「リテルスさんは本当にお優しいのですね」
「貴方程ではありませんよ」
暗転して次の場面へ。
屋内の背景で中にネネと子供がおり、
左の舞台袖から現れたサンジェルミが扉を叩いて開ける。
「こんにちはサンジェルミ様」
「こんにちはトルシュ、今から遊びに行くのかい?」
「うん、お母さん行ってきます」
「最近魔物が増えて来てるから城壁の外へは行っちゃ駄目よ」
「わかってるよ~」
扉を開けトルシュが舞台袖に消える。
「ちょとトールに似て来たんじゃない?」
「もう10歳だからね、顔つきがしっかりして来た」
「あんまり筋肉質じゃないけどちゃんと食べさせてるのかい?」
「10歳でトールみたいにムキムキになる訳ないでしょ、
最近じゃ少しずつ肉も手に入るようになったし大丈夫大丈夫、むしろ贅沢かも」
「肉と言えばソーセージ食べた?」
「2年前に」
「僕は1年前」
「「 はははは! 」」
笑いながら椅子に座る2人。
「町も随分と復興したわ」
「人も増えて来たし、本当に10年前からは考えられないよ」
「サンジェルミは10年経ったってのに変わらないわね、
最近ようやくハーフエルフってのを実感して来たわ」
「皆不思議そうにしてる?」
「多少ね 私に感謝しなさいよ~」
「何を?」
「同じ勇者として比べられる私が全力で若作りしてるから
多少にの違和感で収まってるの!」
「ありがとう御座いますネネ様、お茶を入れさせて頂きます」
「うむ、よろしい! 茶葉は使い過ぎないように」
「「 はははは! 」」
サンジェルミが立ち上がりお湯を沸かす準備をする。
「ねぇサンジェルミ、そろそろ出て行くんでしょ?」
「え? もしかしてリテルスさんから聞いた?」
「何年も前にね、悩んでることも知ってたわ」
「そうだったんだ」
「今日はその話をしに来たんでしょ、出発はいつ?」
「来月かな、エルフの人達が旅立つ時に一緒に行こうかと思って」
「エルフの国に? よかったじゃない」
「いや、僕はエルフの国には入れないよ」
「時代は変わったんだから古臭い掟なんて気にしなくてもいいと思うけど」
「あの掟は種族を守るため必要なんだ、人間とエルフは混じっちゃうからね、
気を付けないとあっという間に純粋なエルフがいなくなっちゃうよ」
「それじゃサンジェルミは何処に行くわけ?」
「僕の故郷へ」
「西にあるって言ってた町か、誰もいない町で何する気?」
「少しづつ復興をね、この町もいずれ人が溢れて他の町に移住する必要が出てくる、
一足先にやるべきことをやっておこうかなって、それに町の皆をちゃんと弔ってあげたい」
「そう、やりたいことが決まってるならいいんじゃない、
ただし、私の葬儀には顔出しなさいよ」
「唐突過ぎない? 何年後の話してるの?」
「自分を忘れさせようとしてるんだから100年位帰らないつもりなんでしょ、
50年後か60年後か分からないけど友人の葬儀位帰って来なさい」
「50年じゃ僕を知ってる人がいると思うんだよねぇ」
「この歳になると若作りも大変なんだけど、私は友人の為に頑張ったんだけどなぁ」
「もう直ぐお湯が沸くけど、お茶じゃ駄目かい?」
「駄目、茶葉は私のだし」
「わかった、約束するよ」
「宜しい! お茶まだ? 待ってるんだけど」
「もう少しだって、なんだかなぁ…」
照明が暗転。
エルフ達とサンジェルミ旅立ちの場面を挟み、
再び背景は屋内、ベットの上で眠る年老いた老婆と傍らで手を握る男、
そして心配そうな顔の大人の女性と子供が2人。
老婆は年老いたネネなので別の人物が演じており、
手を握る男は大人になったトルシュなのでトール役を務めたカミロが演じている。
「ここかな?」
舞台左袖から姿の変わらないサンジェルミが現れ扉を叩くと子供が開けた。
「こんにちは、ここはネネさんの家かな?」
「あの…お婆ちゃんは今ちょっと…貴方は誰ですか?」
「ネネさんの友人です」
「お婆ちゃんの? お母さんなんか知らない人が、お婆ちゃん友達だって」
「誰かしら?」
子供に代わり女性が入口へ移動する。
「あの~本当に母の御友人ですか? 随分とお若いですけど…お名前は?」
「あ…え~と、あのトルシュさんはいらっしゃいませんか?」
「いますけど、今はちょっと…」
「すみません、どうしてもお会いしたいのです、
古い約束がありまして、どうかお願いします」
「わかりました…トルシュ、ちょっといい?」
「今は…」
「でもお母さんの御友人らしいの、若い方だけど」
「わかった、母さん少しだけ離れるよ」
「トルシュ…近くに…」
「何だい母さん? え!?」
急ぎ足でトルシュが入口に移動する。
「まさか…そんな!?」
「え? トール?」
「いや、私はトルシュです」
「あぁそうか、そうだよね、そっくりで驚いた、ネネとの約束を守りに来たんだ」
「と、とにかく入って下さい、どうぞ」
「ありがとう」
サンジェルミの顔を見て驚きながらもトルシュが家に招き入れた。
「皆少しだけ席を外してくれないか」
「でもトルシュ、お母さんが…」
「彼は本当に母さんの友人なんだ、頼む、どうか何も聞かずに、この通りだ」
「分かったわ、おいで2人共」
「「 はい、お母さん 」」
母と子供が家を出たのを確認しサンジェルミがネネの手を取る。
「久しぶりネネ、約束を守りに来たよ」
「本当に変わらないわねサンジェルミ…あの日のまま…」
「君は随分とシワシワになった」
「言わないでよもう…ごほっ…ごほっ…」
「大丈夫かいネネ?」
「大丈夫なわけないでしょ…何歳だと思ってるの…ごほっ…ごほごほっ…」
「ネネ!」
「母さん!」
「大きい声ださないで…それにしても…貴方も少しボケたみたいね…」
「何がだい?」
「約束は葬儀に参加すること…まだ生きてるわ…」
「ふふ、ボケてはいないよネネ、時代が変わっただけさ、
今は再開した友人と言葉を交わすことが出来るんだ」
「そう…いい時代になったわねぇ…ごほっごほっ…トルシュ…」
「何だい母さん?」
ネネのもう片方の手を取るトルシュ。
「後は貴方達に任せるわ…次へ…」
「分かった、わかったよ母さん、必ず今より良くしてみせる」
「ごほっ…サンジェルミ…ごほっごほっ…」
「ここに居るよネネ」
「トールと…待って…る…」
「ネネ?」
「母さん? 母さぁぁん!」
トルシュの叫びと共に暗転、
暗い劇場に鐘の音が響きネネの死を観客に伝えた。
っという場面で今回はここまで、
ポップコーン片手に次回を楽しみにして頂きたい。




