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222話目【演目「光の3勇者」 前編】

ブザーが鳴りやみ舞台の幕が上がる、

荒廃した街道と城壁を背景に舞台右端で肩を寄せるラビ族とハリ族、

少し中央に寄った位置にオークとゴブリンと人間が立ち、

舞台左で倒れた人間とその上に浮かぶ影を見て怯えている。


「ついにこの町に来てしまったか…」

「なんと恐ろしい姿だ…」

「サロフが死んでしまった…あの凄まじい力にどう立ち向かえばよいのだ…」


倒れたサロフの上でゆっくりと上下する影は黒い布で表現された魔王、

顔と足が無くフード部にぽっかりと穴が空いており、

無気力にぶら下る両腕は血色が悪いくせに妙に生々しく

体に合わせて揺れるためなんとも言えない不気味さがある。


「臆するな! この町は生き残った者達の最後の砦!」

「そ、そうだ、戦わねば守れぬ、友のために!」

「例えこの身が滅びようとも、家族のために!」

「「「 おぉ~! 」」」


武器を掲げる3人に対し魔王が右手を向けると舞台中央で爆発が起きる、

声も無く倒れた3人に変り観客から驚きの声が漏れた。


「(うそぉ…もしかして本物の魔法使ってんの?)」


松本の想像通り本物のフレイム(小)の爆発である、

これは背景のセット裏に隠れたベテラン舞台員(裏方専属)が放ったもの、

宙に浮いた魔王は舞台上から細い糸で吊るして操作しており、

波打つ体はセット裏から風魔法を操り動かしている、

このように沢山の舞台員に演劇は支えられているのだ。


照明や効果音、小道具に加え魔法を使用するので異世界の演劇は迫力が違う、

亜人種も作り物じゃないから耳とか尻尾とか動くし、装備は演劇仕様だけど作り方は同じ、

鎧とかは純度100%本物なので、うんまぁ…なんか凄い。



「に、逃げろ…早く皆のところに…」

「バーフ! あぁバーフ…タズ、ノルギス、サロフも…なんて無慈悲な…」


力尽きたオークに駆け寄ったハリ族が泣き崩れると舞台の照明が暗くなる、

スポットライトを浴びてラビ族が立ち上がった。


「…本当に無慈悲だ、魔王は強大で恐ろしく、心を閉ざしたくなるほど冷酷だ…

 そう感じるのはこれで何度目だろうか、

 生き残ったラビ族は私を含め数人だけ、家族と友人は皆里で死んだ、

 私は多くを見てきた、燃えさかる木々を、崩れ去る町を、逃げまどう人々を…」


ラビ族が語る内容に合わせて舞台の背景に影が映し出されて行く。


「闇に追われた者達は列をなし安住の地を目指した、

 だが行く先々で待っていたのは見慣れた絶望…

 ある者は歩みを止め ある者は闇に飲まれ、そしてある者は自ら命を絶った…

 屍の道を辿り私はこの場所に辿り着いたのだ、

 ここはウル、荒廃した世界に残された最後の楽園!

 …だが終わりの時は近い、抗いようのない死がすぐそこに迫っている」


語り終えたラビ族が再び座るとスポットライトが消えた。


「バーフの最後の言葉だよ、皆のところへ行こう」

「逃げたところで希望はない、魔王に対抗する力はこの世界の何処にもないのだから」

「そうだとしても最後まで諦めてはいけないよ、さぁ一緒に!」


ラビ族の手を引くハリ族に向け魔王が左手を向ける。


「危ない!」


気が付いたラビ族が前に出て盾になるように両手を広げると、

魔王と2人の間を裂くように舞台中央に光の線が現れた、

光は効果音と共に徐々に太くなり、

瞬く間に背景が白む程の強烈な光の柱へと変わる。


「眩しい…」

「これはいったい…」


ラビ族とハリ族は手で光を遮り魔王が体を翻す、

光が収まり中から3人の人影が現れると静かに観客が沸いた。


皆大好き光の3勇者の登場シーンである、

ネネ(ピカリオ)は帯が細いちょっと薄めの和服っぽい服装、

トール(カミロ)は上裸に腰当て足当て装備、

サンジェルミ(ヤルエル)は松本より丈夫そうだが似たような服、

3人共白い勇者用の甲冑は来ておらず世界観異なる服装をしている。


「ここがそうか?」

「何か変なのがいるけど…」

「2人も気を付けて下さい、あれが魔王です」


サンジェルミが示すと再び舞台左に光の柱が落ちて来る、

照らされた魔王は身悶えして舞台袖に消えた。


「魔王が去って行く…奇跡だ、奇跡だよ!」

「奇跡ではない、これは魔法、闇を払う力を持つ光の魔法だ」


ハリ族とトールが言葉を交わすと舞台上から

白いフワフワの服装に身を包んだ小柄な女性が降りて来た。


「こ、この光輝く方は?」

「魔王を退けた光の精霊様よ」

「やぁ僕はレム、光の精霊レムさ、君達に光の魔法を授けに来たんだ」


ネネに紹介され軽快な声で挨拶しながら飛ぶレム、

服の中に光源を仕込んでおり神々しさを演出している、

喋り方は本物のレムに寄せているっぽい。


先程の背景が白飛びした強い光は舞台上に待機していた光筋教団員の輝き、

凸型レンズと円錘型の反射板の間でポージングすることで

拡散する光を絞って局地的に照射していた、

要は懐中電灯の光源を光筋教団員に変えて尋常じゃない光度を実現した感じ、

角度調整が可能なので観客席側から舞台背景側に角度を付け

観客達の目に直接光が入らないように気を配っている。


「(ヤルエルさん達いつの間に現れたんだ?)」


松本の疑問の答えは舞台下にある昇降機、

白飛びさせている間に下から素早く現れたのだ。




「魔王はいなくなったみたいだし、倒れている人達を助けましょう」

「いや…無駄だ、この人達はもう死んでいる」


トールがノルギス達を確認して首を振る。


「そう…サンジェルミそっちの人はどう?」

「少し待って下さい…そんな…」


最初から倒れていたサロフを確認してサンジェルミが驚いた顔をしている。


「手遅れです…この方も魔王にやられたのですか?」

「はい、つい先程、貴方達が現れる少し前のことです」

「そうですか…すまない、助けられなかった…」


ラビ族の返答を聞きサロフを強く抱きしめるサンジェルミ。


「他にも大勢が死にました 残された町はこのウルだけです」

「残っている町が1つだけ? 本当かよ…」

「状況は絶望的ね…」

「そこまで追い詰められているとは…僕達は遅すぎたかもしれません」


暗い顔をする勇者3人に対し少し間をおいてラビ族が1歩進み出た。


「私は遅すぎたとは思いません、精霊様は光の魔法を授けて下さると仰います、

 少しでも闇に対抗する力があれば生き残れるかもしれない、

 どれだけ小さくても良いのです、私には貴方達が希望に見える、世界を照らす希望の光に!」

「その通りです、バーフ達が守ってくれたように

 今度は私が精霊様に授けて頂く魔法で町を守ります!」


力強い眼のラビ族とハリ族を見て3勇者が顔を見合わせ頷く。


「俺はトルシュタイン、トールと呼んでくれ」

「私はネネ、よろしくね」


トールとネネがラビ族とハリ族と握手すると

サロフを寝かせサンジェルミも静かに立ち上がる。


「僕はサンジェルミ、魔王を倒すために共に戦いましょう」


3勇者の自己紹介が終わったとこで照明が落とされ暗転、

30秒程の間をおき照明が灯されると背景が町中に切り替わっている、

登場人物も入れ替わっており次の場面の始まりである。


「(おぉ~裏方の人も大変だな)」


松本の席からは見え難いがもう少し角度を変えると

舞台の床に半円状の切れ目が確認できる、

ターンテーブルになっており暗転中に180度回転させて舞台セットを入れ替え、

背景の後ろでは次の場面の舞台セットを準備中である。






内容を掻い摘んで紹介。 


「せいっ、おらよぉぉ!」

「「 うわぁぁぁ! 」」

「なんという強さだ」

「私達ではトール様に全く歯が立ちません」

「ネネ様とサンジェルミ様も同様にお強い、この方々を見ていると希望が湧いて来る」

「本当に魔王を倒すことが叶うかもしれません」

「そのために私達も出来ることをすべきです、さぁ皆で光の魔法を!」

『 光の魔法を! 』

「では私は武器を作ろう、あの方達に相応しい魔王倒せる強い武器を!」

『 魔王を倒せる強い武器を! 』




「ではネネ様は異なる世界から来られたのですか?」

「えぇ、私のいた世界には魔法はなかったわ」

「異なる世界ですか? そのような不思議なお話、私には信じることが出来ません」

「私にとっては魔法の方が不思議よ、手から火が出たり水が出たりと」

「いやいや、何も不思議なことはありません、魔法とはそういうものです」




「魔族だ! 闇が迫って来たぞ~!」

「魔王は確認できるか?」

「見えない、だがとても数が多い、町が呑み込まれてしまうぞ!」

「大丈夫、落ち着いて皆、さぁ僕の力を信じて~」

「そうだ、今までの我等ではない、精霊様より授かった魔法を信じるのだ!」

『 おぉ~! 』



そしてサンジェルミの核心に触れる場面。


城壁の傍に生えた木の下で休むサンジェルミの元に

周囲を気にしながら1人の男がやって来た。


「サンジェルミ様、少し宜しいでしょうか?」

「構いませんよ」

「こうやってお話をさせて頂くのは初めてですね、

 私はリテルス、エルフの数少ない生き残りです」

「耳を見れば分かります、エルフは他の方より長いですからね」

「ご存知でしたか、実は…そのことなのです」

「といいますと?」

「貴方の耳は私の物とは異なる人間のそれです、

 耳以外も全て人間と同じ見た目をされている、ですが私にはわかるのです、

 サンジェルミ様は異なる世界のエルフではありませんか?」

「…分かる物なのですね」

「ではやはり」

「半分だけです、残りの半分は人間、私はハーフエルフですから」

「なんと…そうだったのですか、もし気に障ったのであれば申し訳ありません、

 私はてっきり異なる世界のエルフは見た目も異なるものだとばかり…」


申し訳無さそうに俯くリテルス。


「人間と交わったエルフは掟により国を追われる、ですか?

 そこまで気を使わなくても大丈夫ですよ」

「すみません…異なる世界でもエルフの掟は変わらないのですね、

 ただ愛し合っただけだというのに…それほどまでに罪深いことなのでしょうか?」

「さぁ、僕には…」

「あ、また私は…すみません、悪気はないのです」

「そんなに謝らないでください、別に気にしてはいませんので」

「いやこれは…」

「ははははは!」


申し訳なさそうなリテルスと対照的に笑うサンジェルミ。



「私の態度は良くありませんね、以前はこうでは無かったのですが…」

「魔王が現れ全てが変わりました、リテルスさんが変わるのも当然ですよ」

「確かに…ただ私が変わったのは知ってしまったからなのです」

「何をですか?」

「心の在り方を、エルフの国にいた頃は考えもしなかったことです、

 逃げて来た私達をこの町の人達は快く受け入れてくれました、

 他の種族の方達もいがみ合うことなく手を取り合っている、

 サンジェルミ様が現れた時もそうでした、

 2人の獣人を守るために人間とオークとゴブリンが命を掛けました、

 誰かを想う気持ちに種族は関係ないのです、私は全ての種族が等しく愛おしい!」

 

リテルスの想いの残響が消えるのを待ち、

サンジェルミが落ち着いた口調で答えを返す。


「先程の話ですが、僕は愛し合うことが罪とは思いません、

 ですがエルフと人間は唯一混じることが出来る種族、

 1度混じった血は元には戻せない、純粋な種を守るという観点では正しいと思います」

「私も理解はしているのです、ですが分からなくなってしまった…

 エルフと人間が愛を育むことは至って自然なことに思えるのです、

 様々な種族が身を寄せ合い命を繋ぐこの町では特に…」


頭を抱えるリテルスに微笑むサンジェルミ。


「リテルスさんはお優しいのですね」

「あ、いや…そんなことは、話が変な方向にズレてしまいましたね、

 この世界の、いや私の些細な問題などサンジェルミ様には関係ないというのに、

 私の考えはエルフの中では異端です、どうかお忘れ下さい、それでは」

「…リテルスさん、ちょと待って下さい」


立ち去ろうとしたリテルス呼び止めるサンジェルミ。


「折角なので僕の話も聞いて頂けないでしょうか?」

「勿論構いませんよ」

「トールとネネの2人しか知らない話ですので他の方には秘密にして下さい」

「何やら意味深な物言いですが…わかりました、お聞きします」

「それでは、ご存知の通りネネとトールは異なる世界から現れました」


舞台の中央に移動し観客に向け語るサンジェルミ。


「僕も2人と共に現れた、ですが僕が生きた世界は…ここなのです」

「そんな筈はありません、貴方はお2人と同様に並みはずれた力をお持ちだ、

 私達では到底及ばない強大な力、あれはこの世の物ではありません」

「そうです、きっとこの世の物ではないのでしょう」


サンジェルミが右側まで歩いて立ち止まるとスポットライトが照らす、

照明が暗くなり背景に影に映像が流れ始めた。


「人間の母とエルフの父の間に生まれた僕は

 ここよりずっと西に存在した人間の町で生活していた、

 ハーフエルフと言っても見た目は様々で

 両親のどちらの血が表れるかは人に寄って異なる、

 僕の場合は御覧の通り殆ど人間、つまりは母の血が強く表れている、

 見た目が人間と変わらなかったので、人間の町で人間と同じように育てられた、

 あまりにもエルフの要素が薄いので両親から説明されるまで気が付かなかったし、

 友人に教えたら嘘つき呼ばわりされた程だ」

 

スポットライトに照らされたまま左側に移動するサンジェルミ、

立ち止まると再び全身で感情を表現しながら観客に語り掛ける。


「違いを感じ始めたのは20歳を過ぎた頃、僕は回りの友人に比べて少し幼く見えた、

 25歳を過ぎると違和感は更に大きくなり、30歳にもなればその差は歴然だった、

 友人達は結婚し、子供を育て、順当に歳を重ねて行く、

 だけど僕の見た目は20歳の頃のまま、まるで時間が止まったかのように変わらない

 若くて羨ましいなんて言われたけど、決してそんなことはなかった、

 そして時が過ぎ友人の子供達が20歳になる頃、僕は悟った…」


中央に移動するサンジェルミ。

   

「父から譲りうけた血は寿命だった、エルフの寿命は長い、

 父のように純粋なエルフであれば200年は生きるだろう、人間は長くても100年程、

 僕がどれだけ長命かは分からないが、友人と同じ時間を歩めないことは明らかだった、

 かと言ってエルフの世界に僕の居場所はない、だから旅に出ることにしたんだ、

 世界のどこかに僕と同じ時を歩む誰かがいると信じて」


スポットライトが消えて照明が戻った。


「両親と友人達に見送られ町を旅立ったのは今より3年ほど前の話、

 当時の世界はまだ平和で魔王の脅威は存在しませんでした」

「探し人には旅の果てに出会えたのですか?」


リテルスの問いに首を振るサンジェルミ。


「旅は道半ばで終わりを迎えました、立ち寄った町で闇に飲まれたのです…」

「闇に…」

「あの光景は今でもはっきりと覚えている、恐怖も痛みも…

 薄れゆく意識の中、死の淵で僕は声を聞きました、心地よく安らかな声を、

 導かれるまま進むと花が咲き乱れる池の畔に辿り着きました、

 そこであの2人と出会い力を手に入れたのです」

「声の主はいったい?」

「わかりません、ですがこの力は魔王を倒すために与えられたのだと思います」

「そうでしたか、そのような経緯が…っは!?

 サンジェルミ様の話が本当だとすればこの町に知り合いがいるかもしれません、

 きっと心配されています、お知らせになるべきです」


ゆっくりと首を振るサンジェルミ。


「探しましたがもう誰もいません、私がこの世界に戻った時が最後でした」

「まさかあの時に…その方の名前は?」

「サロフさんです、気が付いた時にはもう…言葉を交わすことは出来ませんでした」

「なんという悲劇、折角再会が叶ったというのに言葉も交わせないとは…

 それならば何故最後に巡り合わせたのか、運命とするならばあまりにも残酷ではありませんか!」


膝から崩れ落ち嘆きながら天を仰ぐリテルス。


「今の世界の状況では最後に顔を見ることが出来ただけでも幸運なのかもしれません」

「そのような出来事を幸運と呼ばなければならないとは…いよいよ救いがない…

 サンジェルミ様、何故私にこのような話を?」

「貴方が優しかったからです」

「優しい? それだけですか?」

「それだけです、それだけで十分救われました、

 リテルスさんの救いには僕がなります、いえ僕達と光の精霊様が」

「なんと心強い、微力ながら私も共に」


サンジェルミの手をとりリテルスが立ち上がったところで舞台が暗転。





「トール様には闇を切り裂く白き剣を、ネネ様には闇を穿つ白き槍を、

 そしてサンジェルミ様には闇を照らす白き杖を、

 その全てに光の精霊様のお力が込められております」

『 おぉ~ 』


武器のお披露目と受け渡しの場面。


「呼び出してすまないネネ」

「改まってどうしたのよトール、人払いまでしちゃってさ」

「魔王との決戦の前にどうしても聞いて欲しい話があってな、

 俺が元々いた国はよく戦をしていた、俺は兵士で武功を積んでそれなりの地位になった」

「それで?」

「国は滅んだ、親しい者も全て死んだ、そういう意味ではこの世界と大差ないな、

 奴隷にされなかっただけマシだが護り切れなかった…」

「今みたいな力があったわけじゃないんでしょ、

 人に出来る事なんて限られてるから仕方がない、例えそうじゃなくても

 そう思わないと心が擦り減っていつか無くなっちゃうわ」

「あぁ…そうだな、だが今は違う、護れるだけの力がある、

 だからその、なんだ…今度こそ護りたいんだ」

「護りましょう、そして勝つ、魔王を倒して世界を…」

「そうじゃない、いやそうなんだが…お前を護りたいんだネネ、

 今度こそ絶対に失いたくない、だから魔王を倒して平和になったら…な?」

「…平和になったら、何? 大切なことなら誤魔化さないでよ」

「そうだな、お前さえよければ俺と一緒に暮らさないか? この知らない世界で2人でさ」

「ん~ちょっと男らしさが足りなかったかなぁ~」

「なんだよそれ」

「だって見た目がそれなのに、なんかねぇ~」

「…で、どっちなんだよ? 大切なことなんだ、誤魔化さないでくれ」

「そうね…うん、いいわ、一緒に暮らしましょう」

「本当か!?」

「本当よ、但し! 魔王を倒して世界を平和にしてからね」

「あぁ、約束だ!」


トールのちょっとした昔話とネネへの告白の場面。


「明日はいよいよ魔王との決戦よ! 準備は良い?」

「これが最後の戦いです、必ず魔王を倒しましょう!」

「心配することはない、俺が皆を守る、安心して俺の後ろに付いて来い!」

「もう1度言うけど僕の力だけじゃ魔王は抑えられないからね、皆の光が必要だよ」

『 おぉ~! 光の3勇者様と共に! 光の精霊様と共に! 』


決戦前夜の決起集会の場面。


「はぁ! やぁ! どりゃぁぁ!」


魔王を目指し進む過程で魔族を模した大量の黒い布を

ダイナミックに捌くトールの渾身の見せ場。





そしていよいよ魔王との最終決戦、

最初よりも大きいサイズの魔王を舞台中央の奥側に配置し、

薙ぎ払いに来る魔王の腕を避けたり、魔法を避けたりと、

舞台を広く使い光の3勇者の激しい戦闘が演じられる。


「何かする気よ!」


ネネの台詞を合図に魔王が両腕を高く掲げる。


「激しい攻撃が来るぞ! 気を付けろ!」

「危険だ、皆離れて!」


トールとサンジェルミが観客に注意を促すと

魔王の周りにフレイムが乱発され広範囲に爆発が起こり視界が霞む、

役者の配置を考慮して緻密なコントロールと力加減が要求されるため

ベテラン舞台員(裏方専門)最大の腕の見せ所である。


立ち込めた煙は舞台の淵に設置されている吸気口から劇場の外へ、

観客が驚いている間にもギャンギャン吸引され

舞台上から観客席側に溢れることなく排出される。


モヤが晴れた舞台上には武器を支えに膝を付く3勇者の姿、

魔王を囲むように左にネネ、右にトール、中央にサンジェルミである。


「まだこれほどの力を残していたとはな…」

「これが魔王…流石は世界を滅ぼす闇ね…」

「負ける訳にはいかない…しかし僕達だけでは…」


肩を上下させ背中で語る3勇者。


「その通り、君達3人だけで勝つのは無理さ~」


シリアスな場面に似つかわしくない口調で舞台袖から光の精霊が飛び出してきた。


「僕のことを忘れて貰ったら困るよ~、この光の精霊である僕をね」


発光しながら魔王の周りを飛び舞台やや左上で止まるレム。


「魔王と戦っているのは君達だけじゃない、

 この世界に生きる全ての者達が願う未来のために戦っているのさ、そうだろう皆!」

『 おぉ~! 』


左右の舞台袖から3人ずつ役者が出て来て並ぶ、

最初のラビ族とハリ族とリテルスも再登場。


「どんなに小さな光でも皆で力を合わせれば世界を照らせる筈です!」


クライマックスに続くリテルス迫真の台詞。


「勇者様と共に!」

「精霊様と共に!」

「家族のために!」

「友のために!」

「世界のために!」

「さぁ皆僕に続いて、光を!」


レムが手を上げると魔王を光の柱が貫く、

身悶えする魔王が見えるように最初の光の柱のように白飛びはさせていない、

スポットライトより少し強い程度に光筋教団員が明るさを調整。


『 光を! 』


6人の役者が手を上げると左右横方向の上下から斜めに2本ずつ、合計4本の光が魔王を照らす、

こちらはスポットライトを使用しており、敢えてレムとの差を出している。


「さぁ、僕達の光が魔王を抑えている間に!」


魔王の動きが止まるとレムが合図を送る。


「やるぞネネ!」

「全力で行くわよトール!」


立ち上がった2人が武器を掲げると刀身が光を帯びる。


「せりゃぁぁ!」

「やぁぁ!」


武器を突き刺すと魔王が苦しそうに身悶えし手をバタバタさせる。


「今だサンジェルミ!」

「終わりにするのよ!」


トールとネネの言葉を受けてサンジェルミが立ち上がり

杖を掲げると先端の透明な丸い球が光を放った。


冒険者が使用する杖の先には基本的に

マナの節約と威力の底上げ用で魔増石が付いている。


サンジェルミの杖は少し異なり、

丸い球は魔増石では無く中に光輝石が仕込まれたガラス球、

魔増石は杖本体に埋め込みで使用者がマナを込めると光輝石が強く光る仕組み、

光の3勇者の演目用に作られた小道具である。


ネネとトールの武器も同じ仕掛けで刀身がガラス製なのだが

透明だと変なので表面に白い塗装が施されており光が影響を受ける、

そのため3つの武器の中では杖が一番強く美しく輝くのだ。


「闇を払う白き光を! あまねく世界に平和を!」


効果音と共にレムより太い光が魔王を貫く。


「「「 おぉぉぉ! 」」」


3勇者が咆哮と共に武器の輝きを増すと、光の柱も輝きを増し最後は白飛び、

舞台上で光筋教団員がフルマッスルである。


光が収まると無音の間置き魔王の中から光が漏れ始める、

ネネとトールが離れると破裂して黒い布が四散した。


「や、やったぞ~!」

「魔王が倒れた!」

「これで世界に平和が訪れます!」

「光の3勇者様と光の精霊様を讃えましょう!」

『 おぉ~! 』


6人の役者達が勝どきを上げ盛り上がり観客から拍手が贈られる、

なんだか軽快なBGMが流れ始め魔王討伐の区切りが付いた…

かと思われたが、ここで終わらないのが今回の演目、

転がっていた魔王の片腕が浮き上がり舞台左で盛り上るリテルス達へ向く。


「っは!? 危ない!」

「ネネ!」


気が付いたネネが割って入り体を盾にする、更に間にトールが割って入りネネの盾に、

BGMが止み爆発が起きると2人が倒れ込んだ、

まさかの展開に観客は口を覆い驚きの声を漏らす、

腕は舞台に転がって今度こそ魔王は絶命したのだった。


「ネネ! トール!」

「私は大丈夫、でもトールが…」


サンジェルミが2人に駆け寄るとネネが体を起こす、

しかしトールはネネの胸の中でぐったりとしている。


「しっかりしてトール! 折角魔王を倒したのよ!」

「約束しただろ…俺が必ず守るって…」


最後にネネの頬を撫でトールは力尽きた。


「トール…トール! 全部終わったら一緒に暮らそうって言ったじゃない…」


勝利の余韻は消え去り舞台上にはネネの啜り泣く声だけが響く、

光の勇者トールという代償を払い世界は平和を手に入れた、

といったとこで舞台が暗転、幕が閉じて会場の明かりが付けられた。


「御来場の皆様にご案内です、只今より30分間の休憩を設けさせて頂きます、

 前半の演目では強い光を使用致しましたのでどうぞ目をお休め下さい、

 混雑が予想されますので後半開始前は早めの御着席をお願い致します」

 

休憩のアナウンスが流れポツポツと観客が席を立ち始めた。


「先生、ちょと俺トイレ行ってきます」

「僕も行こうかな、長く座ってると体に悪いんだよね、足動かさないと」

「(エコノミー症候群予防だな)」

「30分あるからポップコーン食べない?」

「結構大きかったですけど食べきれますかね?」

「1個買って2人で分ければ大丈夫大丈夫」

「はい~いざムッチリコーンの美味しいポップコーン」

「ポップコーン」


とういわけで松本とトナツも離席、後半の演目は次の話で。



『エコノミー症候群』

食事や水分を十分に取らない状態で長時間座り、足を動かさないでいると

血栓(血の固まり)ができて詰まっちゃうヤツ、重症の場合は死んじゃう怖いヤツ。

飛行機のエコノミークラスに乗っていると発症したのでこんな名前になっているとか、

予防法は簡単でちょくちょく歩いたりして足を動かすだけ、

最近ゲームとか動画鑑賞とかで長時間座りっぱなしの人も多いと思うので、

皆も是非気を付けよう。


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