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220話目【新世界】

時刻は14時。


「ど~するかなぁ…」


大通りのベンチに座り松本が空を仰いでいる、

流れていく雲を見ながら思案していると腹の虫が鳴いた。


「あてが外れちゃったしなぁ…

 (お、デッカイ雲、ふふ、絶対あれラピ○タ入ってるよ)」


なんて冗談を言っているともう1度腹の虫が鳴いた。


「ふぅ…わかりました、食べますよまったく…」


自分の腹に悪態を付きながら鞄をゴソゴソして包みを取り出す、

中身は1センチ位の厚さに切られた食パン3枚、遅めの昼食である。


「まだ仕事も見つかってないってのに贅沢言ってんじゃないよ~、

 働かざる者食うべからずってね、え~と塩胡椒は…あったあった」


続いて取り出した筒の蓋を外し2回食パンの上で振る。


「うむ、旨い、やはり生食パンには塩より塩胡椒だな」


実に満足そうにモッチャモッチャする松本、

見た目は少し寂しいが塩パンの類は元より好物、

手軽なので小腹が空いた時とかによく食べている、

勿論お金が無くて挟む具が買えないというのもある。


「(光筋教団は教団員がいるから手伝いは必要無し、

  手当たり次第に何店か飛び込んでみたけど手応え無し、

  まぁ必要なとこはギルドに依頼出してるってのもあるけど…)」


横に生えている街灯を見上げると先端の球体に反射した光が目に入った。


「(この町って職人系の店が多いんだよねぇ、

  そりゃ飛び込みで短期だけなんて雇って貰えないわな)」


『街灯』

街灯の光源はマナを吸収して光を放つ光輝石、

タルタ国の天井で輝いていた鉱石と同じで様々な光源としてよく活用されている、

マナが濃いタルタ国内では何もせずともギャンギャンに発光していたが

カード王国内では薄っすらほんのり発光する程度、

動力源としてマナ石を接続しているので日中と夜間でON、OFFが切り替えられる、

熱を発しないため火災の原因にはならないのだが

雪国のサントモールでは積雪が溶けず街灯が埋もれてしまうので松明を使用している。



っとまぁ、街灯の説明をしたのだが松本が見上げて目を細めているのは

光輝石ではなく光輝石を覆う球状の保護ガラス、

ウルダの街灯もガラス製だったが球体では無く平面を合わせた多面体だった、


光を拡散するなら多面体よりも球体の方がよいとか、

デザイン的に球体の方が好ましいとか、単純に効率面や景観の話だけではない。


カード王国では壊れやすい陶器やガラスを常用するのは

貴族や裕福な家庭のみで一般家庭は木製品が主流、

唯一一般的に使用されているガラスは窓やショーケースなどの平面ガラス、

わざわざ大きさの整った球体のガラスを使用しているということは

ダナブルに製作する技術を持った職人と工房があり、

それを使用する風潮があるということである。


「(グラスとか観賞用の置物とかのガラス製品が普通に売ってるんだもんなぁ、

  店構えも高級感あったし値段も高かったから富裕層向けだろうけど、やっぱウルダとは違うな、

  あの店は弦楽器っぽいもの売ってるし隣はなんか太鼓っぽいヤツに革張ってるし、

  どの店も専門色が濃すぎて日雇い労働者より弟子入りの方がしっくりくる)」


松本が飛び込んだ先はネジ専門店とか、ドアノブ専門店とか、ガラス製品専門店とか、

他にも馬車用の板バネ専門店、木製ボタン専門店、木彫りのムーンベアー専門店などなど、

裏に工房がある店も多く卸売り販売というり製造兼販売店といった感じだった。


「(となると急場を凌ぐためには技術力が求められない内容で、

  尚且つギルドに依頼が出されていない案件を探す必要があるわけだ、

  向こうのクレープ屋の呼び込みとか、あの辺の料理屋の配膳とか皿洗いとか狙い目か?

  体動かしたいし思い切って城壁の外の畑に行ってみるか? 

  あ駄目だ、芋畑の手伝いの依頼あったわ、元々単純労働こそギルドに依頼だしてるからなぁ…

  いや~子供でも簡単に仕事にありつける冒険者って有難い立場だったんだねぇ)」


ギルドの恩恵をしみじみ実感しながら2枚目の食パンに塩胡椒を振っている。


「う~ん、どうするか…」

「何悩んでるんだ?」

「ん?」

「よう、久しぶりだなマツモト!」

「ジェリコさん! お久しぶりです~」


以前魔族の襲撃から獣人の里を守るべく共に戦った

プリモハ調査隊の根性兄貴ジェリコである。

因みにお馴染みの調査隊の服装ではなく私服である。


「思ったより元気そうだが…全くの無事とは言い難いみたいだな」

「? 何の話ですか?」

「その傷はライトニングホークにやられたんだろ、生きて帰って来るとは根性あるぜ!」


ビシッと親指を立て白い歯を見せるジェリコ。


「いや~これはコカトリスに付けられた傷で別件です、

 ライトニングホークのことが載った新聞ってもう発行されたんですか?」

「いやまだじゃないか? マツモトのことはお嬢から聞いたんだ、これのこともな」


ジェリコが服の中からシード計画施設の鍵をチラッと見せ直ぐに引っ込めた。


「(そういえばジェリコさん達も一員だったな、施設内で見ないからすっかり忘れてた)

 ふつつかものですがよろしく願いします~」

「おう、一緒に頑張ろうぜ、ところでさっきは何を悩んでたんだ?」

「ほほう、興味がおありですか、立ち話もなんですからどうぞこちらへ」

「それじゃじっくり聞かせてもらうとするか」


椅子に座ったジェリコに食パンを1枚渡し冒険者ギルドの件をザックリ説明する。


「そういう訳でして移籍手続きが完了するまでは適当に日銭を稼がなければならないのです」

「…大体はわかったけどよ、棍棒必要だったか?(この食パン旨いな)」

「必要です、あれは良いものです」

「…そうか、(なんか食べたことがある気がするんだよなぁ…)」


松本の金欠話よりジェリコは食パンに興味深々の様子。


「っていうかマツモト、何で働こうとしてるんだ? 

 解読班として仕事すれば給料貰えるだろ?」

「…ん? そうなんですか?」

「…ん? そうだけど…もしかして聞いてないのか?」

「聞いてないですね」

「え? 全く?」

「施設の目的とか概要は聞いてますけどそういうことについては特には、

 翻訳作業を手伝うために来たってことは理解してます」

「え~と…確認なんだがフルムド伯爵から説明とか紹介は?」

「忘れられてますね、でも仕方ないですよ、

 かなり忙しかったみたいで徹夜で仕事してそのまま王都に向かわれましたから」

「マジかよ…大変だなあの人も…でもこれで理由が分かったぜ」

「ほう? と言いますと?」

「賢者の末裔関係の話って知ってるんだよな?」

「はい」

「俺達があの人達の手助けをしててな、町の案内とか生活方法とか書類手続きとかいろいろ」

「なるほど(それで会わなかったのか)」

「さっきストックさんの魔道義手関係で施設に行ったついでに

 マツモトの様子を見に行ったんだけど解読班と全然話が嚙み合わなくてよ、

 他の人達に聞いても知らないって言われてお嬢と首傾げてたんだよ、

 んで、ドーナツ先生から情報を得て俺が探しに来たってわけだ」

「は~そういうことでしたか、お手間取らせました」

「別にいいぜ、俺は調査班だからな、こんなのいつもに比べたら軽い軽い」


腕をグルグル回してアピールしている。


「基本的なことだけ説明するから詳しくは施設内で誰かに聞いてくれ」

「はい~」


フルムド伯爵の代わりに足りなかった情報をジェリコが補填してくれた。


「まぁ確かにいきなり何でも翻訳出来ますなんて理解されないよな、

 正直俺も半信半疑だし」

「でしょうね、俺も意味わかりませんもん」

「何なんだろうなそれ?」

「何なんでしょうね?」

「「 はははは! 」」


※ジェリコを含むプリモハ調査隊は松本の翻訳能力を知っています。


「俺が一緒に行って紹介するか?」

「う~ん…ジェリコさんって翻訳できますか?」

「いや無理だ、お嬢なら出来る」

「じゃぁプリモハさんに相談してからにしますかね」

「俺じゃ駄目なのか? 遠慮しなくていいぞ」

「駄目って訳じゃないですけどちょっと気掛かりがあるんですよね、

 それにプリモハさんの調査班主任って後ろ盾がないと解剖とかされそうで怖い…」

「そ、そうか?(さすがに無いと思うけどなぁ…あと主任じゃねぇし)」


常識的に考えて替えの効かないスーパーチート翻訳機を解剖する筈はないのだが、

まぁ松本はいろいろ秘密を抱えているので慎重になるのも理解できる。

 

「お嬢は今日は無理だぜ?」

「了解です、俺は明日ちょと用事あるので無理ですね」

「んじゃ早くて2日後か、お嬢に伝えとくわ」

「よろしくお願いします~」


松本の翻訳仕事デビューが早まった。


「しかしそうなると…う~ん、ジェリコさん子供でも働ける職場ないですか?」

「え? もう必要ないだろ?」

「俺の手持ちだと給料日までもたないんで」

「俺が貸してやるって、というか飯位なら全然奢るぞ」

「ありがたいですけど自分で稼ぎたいんですよねぇ、

 バトーさん達に散々お世話になっちゃてるし、

 そういうのは本当に困った時だけにしとかないと駄目になりそうじゃないですか」

「(お?)」

「別に助けて貰うのが嫌だってことじゃないんですど、

 自分で働いて稼ぎたいなぁ~って、どちらにせよ冒険者も続けるつもりですし…

 なんちゃらかんちゃら…ごにょごにょなんちゃら…」

「(…)」


ゴニョニョする松本の横で物思いにふけるジェリコ。


「いらねぇて言ってんだろ! 俺達を憐れむな! 見下してんじゃねぇよ!」

「私そんなつもりじゃ…」

「ジェリコそんな言い方しなくても…」

「貰おうよジェリコ…お腹いっぱいになれるよ…」

「我慢しろニコル、また誰かにすがるのかよ? それじゃ何もかわらねぇ!」

「だけど…」 

「僕はジェリコに賛成、ありがとう、だけどそれはいらない、ニコルも我慢しよう」

「うん…」


ふと蘇った遠い記憶に懐かしさと同時に少し申し訳ない気持ちになるジェリコ。 


「(そうだったな…なんか久しぶりに思い出しちまった)」

「体も動かしたいしですし、そうそうあの施設に寝泊りすると便利なんですけど筋トレが…」


松本がまだゴニョニョしている、オジサンだから仕方がない。


「よし、あるぜマツモト、誰でも受け入れてくる懐の深い職場」

「え!? あるんですか!? 子供で短期間、飛び込み当日労働当日払いという

 我儘を受け入れてくれる職場が?」

「ある! この世界で最も懐の深い職場だ、但しちょっと変わってるぜ、どうするマツモトォォ?」

「行くに決まってるじゃぁ~ないですか! 汚れ仕事だろうが体力仕事だろうが

 悪いこと以外は何でもやりますよ俺! 是非紹介して下さい!」

「その根性買ったぁ! よ~し俺に付いて来な!」

「いやっほぉ~う! 付いて行きますジェリコの兄貴ぃ!」


ということでウキウキで兄貴に付いて行くことに。





大通から外れダナブルの南東にやって来た。


「なんか雰囲気変わりましたね」

「この辺りは昔からあまり変わらないからな、色物街って呼ばれてる場所だ」

「なるほど(なんかアンダーグラウンド感あるな…)」


綺麗な建物が並ぶ華やか大通とは異なり、

似通った古い建物がひしめき合う色物街、

路地の道幅が狭いせいで日当たりが悪く薄暗い印象を受ける。


「へぇ~広場があるんですね、結構人がいる」

「この辺りの子供達に人気の遊び場だな、子供じゃなくても集まってくるんだけど」

「気のせいが亜人種の方多くないですか?」

「まぁな、俺が子供の頃に比べれば随分減った方だ、昔は殆ど亜人種だったぜ」

「そうなんですか、ウルダに比べたら今でもかなり多いと思いますけど」

「ん? あ~…いやダナブル全体で見れば亜人種はかなり増えてて、

 色物街での比率が減ったって意味だ、その辺はいろいろあるから気にするなマツモト」

「はい~(あんまりいい話じゃなさそうだな)」


ジェリコが言わんとした内容を松本はやんわり察していた、

住民達はお世辞にも裕福とは言えない見た目をしており、

広場には噴水や遊具は存在せずあるのは椅子と小さな花壇だけ、

そこまで広くもないので広場というよりちょっとした空白地といった方が的確であり、

周りを囲む住居の中には焼け落ちて今にも崩れ去りそうな物まである。



それでも走り回る子供達は楽しそうであり、

花壇の手入れをする老人は慈愛に満ちており、

椅子に座り日光浴を楽しむ者も木陰で談笑する者も

窓から広場を見下ろす者も皆穏やかな顔をしている。


「(俺の子供の頃もこんな感じだったな、あの頃は何にも無いけど楽しかった)」


人気が無く薄嫌い路地とは対照的に日当たりが良く住民が集う広場は

薄っすらと影を内包しつつなんだかとても心地よく優しさに満ちている。


「ここはいい場所ですね」

「ん? あぁ、俺は大好きだ!」


想定していなかった反応に戸惑いながらもジェリコは親指を立てて笑った。




「さぁ付いたぜマツモトォ!」

「こ、ここですかジェリコさんん!」

「おうここだぁ! 覚悟は出来てんだろうなぁ!」

「出来てますともぉ! ドンと来い労働ぉ!」


更に進みダナブルの端も端、城壁の直ぐそばまでやって来た2人、

とある店の前で気合入りまくりの会話をしている。


「(とは言ったものの…この外観って…)」


店の外観に既視感を感じる松本、

曲線状の看板には『新世界』と書かれており

大きな唇とハートマーク、蝶のモニュメントが添えられている。


「(しかもネオン管っぽいし…これってもしかして…)」


松本はネオン管と言っているが色ガラスと光輝石で作られた装飾品、

配線が繋がっているので今は消灯しているがどうやら光るっぽい、

こういうところもダナブルならではの店構えである。


「いよぉ~し! 付いて来なぁ!」

「ヘ、ヘイ! ジェリコの兄貴ィ!」


内心確信に近い何かを感じながらジェリコに続く松本、

明かりが消えた店内にはバーカウンターとテーブル席、

一角には楽器とマイクスタンドが置かれたステージがあり

如何にも大人の社交場といった佇まいをしている。


「(これは…どっちだ?)」

「ママ~、お~いママ~」

「いったい誰? こんなに早くから…」


ジェリコの呼びかけカウンターの奥から酒焼け気味の返答が帰って来た。


「ウチは夜の蝶の花園よ、昨日の酒が残っててまだ準備も出来て無いわ」


続いてヤレヤレといった様子で頭を抱えながら化粧をした大柄の中年ママが姿を現した。


「あら~ジェリコじゃない! おいで私の可愛い息子~」

「酒臭いって、どんだけ飲んだんよ」

「ほら遠慮しないでこっち来なさい、挨拶よ挨拶」

「臭っ、酒臭っ、もういいってママ! 相変わらず力強いなもう!」


カウンター越しにジェリコが引き寄せられ無理やりハグされている。


「(ど、どっちだ…これはどっちなんだ?)」


少し濃い目の化粧をしジェリコのことを息子と呼ぶママ、

普通に考えればママ、そのままの意味でママなのだが、

店構えと大人の社交場と生前の経験が松本のセンサーに反応している。


「それで、どうしたの? 営業時間外に来るなんて久しぶりじゃない」

「たまには化粧してないママの顔でも見ておこうと思って」

「私の素顔を見たいならベットを共にしないと無理よ」

「それだけは絶対に嫌だ」

「あら失礼しちゃう、うふふ、ごほぉ…喉が…」

「ママ水水、なんでそんなになるまで飲んだんだよ」

「昨日はパーコの誕生日だったの…あぁ~…」


水を飲み干しオッサンみたいな声をだすママ、松本のセンサーに反応している。


「それで、本当はなんで来たわけ?」

「仕事をしたがってる知り合いがいるんだ、

 門限もあるからそんなに長くは無理だけど何でもやるって、どうかな?」

「その後ろの子でしょ、いいわ、よろしく坊や」

「え? あ、はい…マツモトです、よろしくお願いします~」

「それじゃ頑張れよマツモト、また来る、歳なんだから飲みすぎるんじゃないぜ~ママ」

「余計なこと言ってないでさっさと行きなさい」

「ママのことを気遣ってるんだって、体壊すなよ~」


後ろ手に手を振りながらジェリコは去って行った。


「さてと、坊やお金がいるんでしょ? いくら欲しいの?」

「(金額交渉に応じて貰えるのか…)え~とそれじゃ2時間働きますので

 16~20シルバーほど頂ければ有難いです、働きに応じて判断して頂ければ…」

「なかなか堅実的な交渉をする坊やね、それでいいからてきとうに働いて」

「え? てきとうにですか? あの~なんかやって欲しい内容とかないですか?

 掃除でも何でもやりますけど」

「じゃ掃除ね、道具の場所を教えるから付いてきなさい」

「す、すみませんちょっと、え~とママ?」

「パローラよ、でも呼ぶときはママを付けて頂戴、パローラママ、もしくはママ」

「り、了解です」


酒焼けの声でウィンクしてハートを飛ばすママ。


「あの~パローラママ、凄く有難いんですけどそんなに簡単に話を進めて大丈夫ですか?

 俺の素性とか全然聞かないし仕事の内容とか報酬も俺が決めちゃった感じになってますし」

「いいのよ坊や、誰だって人には言えないことがあるでしょ、

 困った時は助け合わなくちゃ、流石に1ゴールドとか言われたら私も考えちゃうけど~」

「はぁ…そうですか」

「子供に完璧なんて求めないから気軽にやって頂戴、

 私は奥で酒抜き用のスープ作ってるから困ったら声掛けて、実はまだクラクラしてるのよ~」

「はい~」


てなわけで懐の深いママに感謝しつつ適当に掃除した。





「昨日は私のために有難う~ママ愛してるわ~!」

「少し早いけど皆で開店準備手伝いに来たわよ~って言っても3人だけだけど~」

「モジャは寝込んで駄目駄目~あれは暫くお休みね~」


テンション高めの濃い面子が3人店に飛び込んで来た。


「「「 ってあれ? 」」」

「なんか綺麗になってない?」

「ゴミ1つ落ちて無いわね、って言うか床の拭き掃除おわってるわ」

「窓まで拭いてある、もしかしてママがやったのかしら? ガバガバ飲んでたのに…」

「いえ、俺がやりました、カウンターとステージはまだですけど」

「「「 …、あそう 」」」

「すみません、今日はこれで帰らないといけないので後をお願いします」

「「「 は~い… 」」」

「パローラママありがとう御座いました~」

「いいのよ坊や、お金に困ったらまた来なさい」

「はい~」


2時間の清掃を終え松本退社。


「ちょとママあの子は?」

「ジェリコが連れて来た臨時の子」

「これあの坊やがやったの?」

「そうよ、2時間働かせてくれって言うからほっといたらこれ、普通にガッツリ掃除して行ったわ」

「もういっそのこと雇ったら?」

「坊やが望めばそれもいいかもね、それより~酒抜きスープ飲みたい人~」

「「「 は~い! 」」」


ママも濃い面子も皆酒が残っているらしい。




そして無事20シルバーの収入を得て帰宅中の松本は。


「(やはりオカマバーだったか、俺のセンサーは異世界でも通用するな)」


日本で働く社会人、特にオジサン達には『お付き合い』という名目の

給料の発生しない夜のお仕事がある、

時に居酒屋であり、時にスナックであり、時にオカマバーであり…

そうしてプライベートな時間とお金を消費して働く内に

オジサン達は外観だけで店のタイプを判断するセンサーを備えるようになるのだ。






そこは夜の蝶が瞬く魅惑の花園、

種族や身分や性別なんて些細なことは脱ぎ捨てて、

一夜の熱に身を任せれば燃えて残るは儚き夢、

胸に秘めたお悩み聞きます、貴方の心の拠り所

ー『新世界』ー

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