表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
218/304

218話目【ポッポ村に向かうマダラ】


朝日を反射してキラキラと輝く青龍湖を前に背伸びをするバトー。


「あぁ~……、はぁ~」


澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込み一時停止、

間をおいて吐き出すと湖の水で顔を洗っている。


「はぁ~冷たくて気持ちいいな、ポニ爺もどうだ?」

「ヒヒンヒン」

「はは、わかったわかった、直ぐに用意するよ」


ポニ爺が人参多めのサラダを食べている間にブラシ掛け、鬣を整えて朝のお世話は終了。

お湯を沸かしながらウィンナーを棒に刺して焼く、ついでに芋を2つ設置、


「そろそろ良さそうだな」


ウィンナーがいい感じに焼けたらパンを開いて挟む、

野菜の粉末スープをお湯に溶かせば朝食の完成。


「うん、旨いな」


ウィンナーパンを齧りながら芋の位置を調整しているとシーラさんがやって来た。

※シーラさんは青龍湖に住むシーラカンスみたいな魚、すんごく長生き。


「早起きじゃのバー坊、ポニ坊もおはよう」

「ヒヒン」

「おはようございますシーラさん」

「隣いいかの?」

「どうぞ、焼き芋食べに来たんでしょう? シーラさんの分も焼いてますよ」

「ほう気が利く、成長したんじゃなバー坊」

「俺だって32年も生きてれば少しは成長します」

「そういえばもう大人じゃったな、数十年程度じゃとあまり実感が沸かんでのぉ~、

 バー坊がヤンチャしとった頃が昨日のようじゃ」

「ははは、シーラさん比べれば皆子供みたいなものですって、スープ飲みます?」

「頂こう」


芋を転がしながらスープを飲むバトーとシーラさん。


「のうバー坊、少し前にな、この湖の穴を造った槍を持つ者が来たんじゃ、

 光の勇者の槍、驚きじゃろ?」

「多分プリモハさんですね、マツモトとジョナが一緒じゃなかったですか?」

「なんじゃ知っとったんか」

「槍が見つかった時は俺も一緒でしたからね、驚きましたか?」

「そうでもない、マツ坊が一緒じゃったからそんな気はしとった、

 話を戻すが槍の者の話では魔族が暴れとって時期に魔王が復活するとか、

 最近では客も魔族の話をしとる」

「俺も魔族の襲撃を2回経験してますからね、いつ魔王が復活しても不思議じゃないです」

「はぁ~そうかぁ…魔王がのぉ…折角ここまで繁栄したというのに、

 また皆いなくなってしまうんじゃのぉ…」

「焼けましたよ、どうぞシーラさん、あちち…」

「おぉ~これじゃこれ…熱っ」


焼けた芋を半分に割り食べられる温度になるまで放置。


「まだ決まったわけじゃ無いですから、あんまり寂しいことを言わないで下さいよ」

「そうは言うが寂しいのじゃ、話し相手のいない世界というのはなんとも寂しい、芋旨いの」

「皆出来る限りのことをしています、レム様から賜った光魔法を各地に広めていますし、

 周辺の人達を避難させるために町も拡張中、芋旨っ、

 ネネ様の槍も見つかりましたから何とかなりますって」

「槍があったとしても使い手がおらん、光の勇者は特別なのじゃ」

「都合よく勇者様が現れて助けてくれたりしないでしょうしね、

 誰もやらないなら勇者様の代わりに俺が戦いますよ」

「ほう、勇敢じゃの~バー坊」

「ははは、やれるだけやってみます、任せといて下さい」

「本当に大人になったんじゃの~、頼もしく見える」

「そりゃもう32歳ですから、戦うのは俺1人じゃないですよ、少なくてもあと5人はいますね」

「では私で6人目だな、共に魔王を討ち滅ぼそう」


まだら模様の見慣れないウルフ族が話に入って来た、

フサフサの体毛から所々地肌が透けており不健康そうに見える。


「ほ~この辺りで獣人とは珍しい、バー坊の知り合いかの?」 

「違いますね」

「あまり栄養が足りて無いようじゃて、何か無いかのバー坊?」

「そういう時はに肉が一番です、ソーセージがあるんで座って下さい見知らぬ方」

「いや、これは冬毛から夏毛への生え変り中だ、別に皮膚病とか栄養失調ではない」

「「 え? 」」

「体毛がマダラ模様というのも勘違いされやすい要因ではあるが、

 この季節はいつもこうなのだ、あまり気にしないで頂きたい」

「「 なるほど 」」


腹の毛を少し毟って見せる獣人、いたって健康体です。


「じゃあソーセージは必要ないですか」

「いや、折角なので頂きたい、是非!」

「野菜の粉末スープもありますけど?」

「それは遠慮しておこう、流石に心苦しい」

「(分かりやすいのぉ…)」


簡単に準備出来る粉末スープを断り肉を所望するあたり

野菜はあまり好きではないらしい。


「先程はいきなり失礼した、私はマダラ、貴方はポッポ村のバトーさんでは?」

「そうですけど、何で知ってるんですか?」

「先ほどの会話もそうだが、バトーさんのことは知人から伺っていた」

「有名になったんじゃなバー坊」

「獣人界隈で俺が? そんなことないと思いますけど、

 最近ウルフ族とニャリ族の知り合いが出来たばかりですよ?」

「獣人界隈ではなくSランク冒険者の間でだ、

 実は私もSランク冒険者の端くれで『双拳』と呼ばれている、

 魔王を相手にするなら今後合う機会も増えるだろう、改めてよろしく」

「ははっ、たぶんミーシャとルドルフだな、よろしくお願いします」


握手をするバトーとマダラ、ソーセージが焼けた。


「うまま、うまっ」

「(随分と旨そうに食べるなぁ)」

「ソーセージはいい物だ、手間が掛かる分食べた時に幸せになる」

「パンもありますけど食べますか?」

「パンは遠慮しておこう、できればソーセージをもう少し頂きたい」

「「 (素直だなぁ) 」」


野菜嫌いと言うよりも肉が好きらしい。


「今頃は獣人も冒険者になるんじゃな、人間の組織だと思っとったわい」

「王都の冒険者の中で亜人種は私だけなのでシーラさんの認識は正しい、

 ダナブルには亜人種の冒険者がいると聞くが名が聞こえる程ではない」

「ほう、そのダナブルでは亜人種が生活しとるのかの?」

「うむ、多くの種族が生活しているが冒険者になる者は少ない、

 人間より肉体的に優れた亜人種が肉体的に劣る人間に守られ生活している、実に不思議だ」

「ええことじゃ、昔はバラバラじゃったからの、のうバー坊?」

「そうですね、ただシーラさんの言う昔はちょっと俺には分かりません、

 (ダナブルか、マツモトは今頃何してるだろうな?)」




その頃ダナブルにいる松本は。


「(俺の残金ではこの食堂もあと4回が限界、

  なんでもいいから今日中に仕事見つけないとなぁ)」


施設の格安朝食を食べならお金の心配をしていた。

※シード計画の職員は慈善事業では無いのでちゃんとお給金が出ます、

 フルムド伯爵から特に説明を受けていないので松本が知らないだけなのだが

 どちらにせよ現在職務に従事していない松本にはお給金が出ません。





場所は戻り青龍湖。


「私は現在Sランク冒険者の依頼として

 魔王関連の連絡のためカード王国内に点在する各種族の集落を巡っている、

 ポッポ村に向かう途中だったのでバトーさんに同行させて貰えないだろうか?」

「いいですよ」


こうしてソーセージを堪能したマダラはバトーと一緒にポッポ村へ。



「へぇ~メグロさんのお兄さん」

「うむ、久しく帰っていなかったからな、顔を合わせるのが楽しみだ」

「それじゃ後ろの荷物はお土産ですか?」

「殆ど食べ物だがな、姪が大喜びする」

「ははは、カテリアさんは食べるの好きですからね~、最近はパンを作ってますよ」

「ほぉ~カテリアがパンを、成長したものだ、バトーさんが作り方を?」

「俺じゃ無くてフィセルっていうポッポ村のパン焼き担当です、

 フィセルも弟子が出来たって張り切ってましたよ」

「そうか、有難いな」

「他の方達も入れ替わりで農耕と木工を学んで、逆に俺達は漁業を教えて貰っています」

「それは良い関係だ、交易のことを聞いた時は耳を疑ったが族長も良く決断したものだ」

「そういえば族長はアンプロさんからメグロさんに交代しましたよ」

「え? メグロ族長になったの!?」

「はい、魔族の襲撃後に」

「そ、そうかぁ…(やばい…私は結婚すらまだなのに…)」


独身貴族謳歌中の兄は妻子持ちの弟の躍進にショックを受けたらしい、

まぁ同族のいない王都で活躍していたので結婚出来なくても仕方がない。




そしてポッポ村に到着。


「お帰りバトー、予定より遅かったわね」

「少し野暮用でな、荷物を下ろすのを手伝ってくれレベッカ」

「いいけどマツモト君は? 迎えに行ったんでしょ? 何でウルフ族の人が乗ってるの?」

「マツモトには会ったんだがいろいろあってダナブルに行くことになったんだ、

 この人はSランク冒険者でメグロさんの兄のマダラさん、

 ちょっと栄養が足りて無さそうに見えるが心配ない、毛の生え変り中だそうだ」

「な、なに!? 情報が多くて整理できないんだけど!?」

「細かい話は後だ、早いとこ片付けよう、さっきからポニ爺がポニ姉を見っぱなしだからな」

「はい~」

「私も協力しよう」


荷物を降ろしてキメ顔のポニ爺を開放、村長への挨拶も済ませてマダラとバトーは村を散策中。


「想像以上に皆馴染んでいるようだ、特にニャリクロとニャリモヤは凄いことになっている」

「いつもあの調子ですけど怒らずに接して貰えるので助かってます」

『 ニャリモヤ好きぃぃ 』

「はは、どうやらニャリクロよりニャリモヤの方が人気のようだな」

「あ、いやあれはニャリ族のことをニャリモヤだと思っているみたいで、全員ニャリモヤです」

「なるほど…」


流石に分別着く年齢の子供達は理解しているのだが

小さい子供は悪気無くニャリモヤと呼んでいる。

現代人が「猫好きぃぃ」と言っているのと同じである。


「戻ってたのかバトー、お? 初めて見るウルフ族だな、今回のメンバーにいたか?」


籠いっぱいに黄色い花を摘んだゴードンがやって来た。


「ついさっき戻ったばかりだ、この方は王都から来たSランク冒険者のマダラさん」

「どうも、メグロの兄のマダラだ、よろしく」

「へぇ~メグロさんの兄ちゃんはSランク冒険者だったのか、俺はゴードン、よろしくな」

「ゴードン、それポポさんにか?」

「おう、この時期の日課だからよ」

「相変わらず顔に似合わずマメだなゴードン」

「顔は関係ねぇだろ、家に飾って残りで作ったお茶を一緒に飲む、

 それが夫婦円満の秘訣ってヤツだ、バトーも結婚したらわかるぜ」

「ははは、まだ先の話だなそれは」

「(うぐっ…今はこの手の話題は耳が痛い…)」


談笑する2人の横で胸を抉られたマダラが耳を畳んでいる。


ゴードンが抱えている黄色い花は『ポポ』、

5月頃にポッポ村の周辺に咲き乱れる花で、

村とゴードンの奥さんであるポポの名前の由来になった花、

乾燥させてお茶にすることが出来る。


余談だがゴードンはポポに結婚を申し込んだ時に

毎年ポポの花を贈ると約束したらしい、

顔に似合わずお洒落なことしている、素敵やん。



「(…よし、話を変えよう)バトーさん、ゴードンさん、

 花といえば私の故郷の花を知っているだろうか? 丁度この季節に白い花を咲かせる…」

「ハナフネのことなら知ってるぜ」

「え? 知ってるの?」

「おう、一昨日位に咲いたぞ、ほれあそこ」


ポッポ村の食品店マリーゴールドを指差すゴードン、

店頭に置かれた水が張られた桶に大輪の白い花が浮かんでいる。


「綺麗だな、これがネネ様の好まれた花か」

「デケェよな~、まさに花の船って感じだ」

「何故ここに? あ、友好の証としてポッポ村に贈られたということか」

「いや、カールが頼み込んで譲って貰ったんだよ」

「奥さんの機嫌をとるためにな、夫婦円満の秘訣を教えてやったらどうだゴードン」

「あれはあれで仲良いだろ、アヤメさんも本気で怒ってるわけじゃねぇしよ」

「お約束って感じだがあれを言われると未だにカールは頭が上がらなくなる」

「「 だーっはっはっは! 」」

「(っく…さっきと変わらん)」


再び耳を畳むマダラ、Sランク冒険者でも悩みはあるのだ。





一方その頃、獣人の里の森の中では。


「今年も無事に咲いたわね、ほらよく見て」

「これがネネ様の好きだった景色さ、お前達の遠い遠いご先祖様も同じように見てたんだ」

「「 真っ白で綺麗~ 」」

「いや~今年も恵みの季節が来たねぇ~」

「オババ様は何回目ですか?」

「さぁねぇ? もう忘れてしまったけど来年も皆で見れるといいねぇ」

「そうですねぇ」

「魚持って来たよ~」

「採れたて果実もあるよ~食べたい人~」

『 は~い 』


森の中に集まった獣人達は水面を埋め尽くす白い大輪を囲み春の訪れをお祝い中。






画面は戻ってポッポ村から松本の家に続く道の上。


「マツモトは何でこんなにデケェマット買ったんだ? まだ子供だろう」

「こだわりがあるみたいだぞ、人生の3分の1は睡眠だって言ってた」

「それはそうだけどもう少し小さくてもいいと思うわ、運ぶの大変だし」

「実際これはいいマットだ、中古とは言えかなり値が張っただろう、

 買いたくても手に入る物ではない」

「「「 へぇ~ 」」」


松本の荷物を家まで運搬中のゴードン、バトー、レベッカ、マダラ、

台車の上にマットレス、その上に松本が買い込んだ荷物を乗せ

ゴロゴロと運んでいるのだが流石に大変そうである。


「ウルダから帰って来る時に馬車の中で使ってみたが確かに気持ちよかったな」

「へぇ~俺も後で寝てみるか」

「私に先に使わせてよゴードンさん」

「いや、俺が寝る」

「「 なんでだよ! 」」

「「「 だはははは! 」」」

「(ポッポ村の人達は良く笑うな)」


明るく楽しく田舎ライフ、ポッポ村はいい所です。


「わざわざ森の中に家を構えるとは変わった子供だ、ここは光の精霊様の森なのだろう?」

「まぁマツモトだからな、考えるだけ無駄だぜマダラさん」

「そういえばバトー、何でマツモト君はダナブルに行ったのよ?」

「なんか魔族対策をしているフルムド伯爵って人が訪ねて来てな、

 プリモハさん達もその一員らしいんだが、そこで古い文字の翻訳を手伝うことになったんだ」

「何それ? マツモト君は古い文字の翻訳なんで出来ないでしょ」

「それが出来るんだよ、理由は本人も分からんらしい」

「はぁ?」

「気にするなレベッカ、考えても無駄だぞ、マツモトだからな」

「そうだぜレベッカ、マツモトだからよ」

「まぁマツモト君だしねぇ、最初から変わってたもんねあの子」

「(いや何で納得してるんだ、変ってるとかのレベルじゃないだろ)」


心の中でマダラが冷静な突っ込みを入れている。


「ダナブルと言えばエドガーは元気なのかゴードン?」

「たまに手紙が届くから元気だろ、俺に似て頑丈だから心配ねぇさ」

「何年会ってないかしら? 4年?」

「5年だな」

「すまない、エドガーとは?」

「俺の息子だ、町の生活に憧れて17歳の時に村を飛び出していったんだよ、

 逆に俺は町に行ったことがねぇ、顔は似てるが性格は真逆ってこった」

「ばったりマツモトと会うかもな」

「マツモト君は顔を見て気が付くかもしれないけどエドガーはマツモト君知らないわよ」

「確かにな」

「マツモトが話しかけて変な空気になりそうだな」

「「「 だはははは! 」」」

「(ダナブルならパトリコとも出会うかもしれんな)」


ようやく名前が出て来たエドガーはウィンディの2歳上の兄である。


「そういやよバトー、このマット家に入るのか?」

「分からん、無理なら壁を壊すしかないな」

「この前覗いたらニャリ族の人達ギチギチだったし拡張した方がいいかも」

「素朴な疑問なのだが…本人の許可なく弄っていいものなのか?」

「大丈夫だろ、マツモトだし」

「マツモトは事後報告でも許してくれるさ」

「まぁもう何回かやってるしね」

「「「 だははははは! 」」」

「(子供とはいえ雑な扱いだな…)」

「というのは冗談で、好きに弄っていいって言ってたぞ」

「「「 へぇ~ 」」」


松本の家、再拡張決定。




「マダラさんここがマツモトの家です」

「丸太の椅子にあれは暖炉用の煙突か、子供1人で住むにしては大きいな」

「獣人の方達の滞在場所でもありますからね、

 この道の先に獣人の里と行き来するための船着場があるので

 人目を避ける意味も兼ねて丁度いい場所にあったこれを拡張したんです」

「獣人達は村にあった小屋を使っているわけではないのだな」

「あれはレム様を訪ねて来る来客用です、ちょくちょく光筋教団の方達が来るんですよ」

「なるほど、その時は身を隠すと(交易を始めたとはいえまだ壁があるか)」


思うところがあるらしくマダラが真剣な顔をしている。


「お~い誰かいるか~?」

「はいはい~獣人の子らはいないけど僕とワニ美ちゃんがいるよ~」

「レム様ここにいらしたんですか」

「(…え?)」


ゴードンが家の扉をノックするとレムが出て来た、

マダラがキョトンとしている。


「バトー君がいるってことはマツモト君が帰ってきたのかな?」

「マツモト君はダナブルに行くことになったんで暫くは帰って来ません」

「あ~そうなんだ」

「(ど、どうなっているのだこの家は…)」


呆気にとられて開いた口が塞がらないマダラ、

そりゃ祀られたり崇められたりしている精霊様が住人みたいな感じで出てきたら驚く。


「マツモト君に何か用があったんですか?」

「お茶が切れちゃたからお願いしようと思ったんだ」

「そのくれぇのことなら俺達に言ってもらえれば直ぐに用意しますって」

「あれ? ゴードンさん確か1週間前位に補充しませんでしたっけ?」

「そういやそうだったな、まぁレム様が飲まれたんだろ、後で持って来ます」

「僕だけじゃなくて獣人の子らも一緒に飲んでるから直ぐに無くなっちゃうんだよね、

 主にカテリア君だけど」

「「「 あぁ~ 」」」

「(カ、カテリアァァ!)」


納得の3人と白目を剥くマダラ、

よもや姪が精霊様を差し置いてお茶を消費しているとは思うまい。



「ゴードン、レベッカ、持って来なくてもマツモトが買い込んでるぞ、

 レム様と獣人の方達で全部飲んでくれって、ほら」

「そうなのか? どれどれ、結構量あるな」

「紅茶にココアに緑茶に粉末スープ、これは豆汁ね、飴とかクッキーまである」

「飴は村の子供達の分もあるから1袋分けてくれ」

「いや~嬉しいね~マツモト君は良き信者だよ~」


袋を漁るバトー達の上をレムがクルクル飛んでいる。


「こんなに買い込んで大丈夫かマツモト? 金はどうしたんだ?」

「冒険者としてかなり稼いでたみたいだ、ジョナに借りてた分も預かってる」

「へぇ~小さいのに凄いわ、ウィンディに見習わせたいくらい」

「まぁ…ウィンディはな、元気でいてくれればそれでいいからよ…」


なんとも言えない顔のゴードン、親としての心情が透けて見える。


「これだけあれば暫くもちそうだねワニ美ちゃん、

 ははは、確かにカテリア君なら1日でなくなるかも」

「(カテリアには強く言っておこう…)」


なんとも言えない顔のマダラ、叔父としての心情が透けて見える。



その後、船着場の側から漁を終え戻って来た一同が合流、

案の定カテリアにクッキーが見つかったがメグロとマダラが取り押さえた。


「うぅぅ…わかった…」

「本当かカテリア? お父さん信じていいのか?」

「流石に精霊様の分は駄目だ、とても不敬なことなんだぞカテリア」

「うん、約束する、だからそれを…ね? お父さん、ね?」

「「 (う~ん…怪しい) 」」


ウルウルの目でクッキーを要求するカテリア、

半分をレム側、半分を獣人側とし絶対に手を出さないと約束した。


「マルメロく~ん、ほらこれマツモト君のお土産の美味し~い飴」

「僕もさっき頂きましたので持ってます」

「知ってるマルメロ君、これは賢者の石って名前なの、

 賢者の花って名前の赤い花の蜜から作るからこんなに赤くて綺麗なの」

「そうなんですね、知りませんでした」

「きゃ~素直でカワイイっ、折角だから、折角だからね、

 このウィンディお姉さんが~マルメロ君のために~口移して食べさせてあ・げ・ぐがっ!?」

「ウィンディィィ…」

「レ、レベッカ姉さん…ちょと首が…」

「その飴はね、マツモト君が頑張って稼いだお金で買った飴なの、

 あんたの邪な企みに使っていい飴じゃないわ、おぉん!?」

「ヒェッ…」

「こっち来いおらぁぁ!」

「や、やめてレベッカ姉さん! 首がぁぁいやぁぁぁ!」

『 (う~ん…いつもの光景だな…) 』


いつものウィンナー姉さんはいつものように引きずられて行った。



「…マルメロは動じないんだな、メグロ似にて来たな」

「…慣れというのもある、ウィンディさんは隙あらば来るんだ」

「…俺の娘がすまねぇ…本当に…」

「「 …いや 」」


当事者の保護者達は複雑な顔。

ウィンディだけはどうにもならない、性癖は簡単には変えられないのだ。



「壁剥がすぞ~気を付けろ~」

『 おぉ~ 』

「木材持って来たのである」

「助かるよ、そこ置いといてくれ」

「ついでに道具入れもしっかりしたヤツ作ろうや」

「そうだな、ぱぱっとやっちまおう」

「教えて貰ってもいいですか?」

「勿論、そっち抑えてくれ」


ポッポ村の住民と獣人達が協力して松本の家を改築中。


「芋持って来たわ、焼き芋食べる人いる?」

「私食べたいです! 一緒に焼きます!」

「駄目だよカテリア姉ちゃん、僕達はキノコ集めるのが仕事なんだから」

「だってそのキノコ集めても食べられないじゃない、芋は食べられるわよマルメロ」

「食べられないけど薬の原料になるってバトーさんが言ってたじゃん、

 ほら一杯あるんだから集めてよ」

「仕方ないわね、マリーさん私大きい芋が食べたいです!」

「はいはい、カテリアちゃんのために一番大きいヤツを用意しとくわ」



マルメロとカテリアは松本の家の周辺に自生しているヤバダケを採取中、

少し離れた場所で久しぶりに再会した兄弟がその様子を見守っている。


「いい関係だな」

「あぁ、もっと早く交流を持つべきだった」

「族長になったと聞いたぞ、おめでとうメグロ、

 それと良く魔族から里を守ってくれた、自慢の弟だ」

「私はマダラ兄さん程強くはない、里が守られたのは皆の頑張りと

 ポッポ村の人達の協力があったからだ」

「そういう物だ、いくら強くあろうと個の力で成せることは少ない、

 里を守った一員であることに胸を張れ」

「ありがとうマダラ兄さん」


胸を軽く叩かれメグロが微笑んだ。


「メグロ、ポッポ村を体験してみてどう感じた?」

「親切な人ばかりで私達のことを受け入れてくれた、

 アンプロ様が考えていた不安はここには存在しないと思う」

「うむ、村を見て回ったがポッポ村は良く出来ている、

 食料品店、雑貨屋、農地、木材加工所、簡易的な宿泊施設、職人、

 精霊様もいらっしゃるし魚も捕れる、小さい町と言い換えても良いくらいだ、

 外の世界を知るうえでポッポ村は最適だと私も感じた、他の者達の反応はどうだ?」

「里に新しい風が吹き皆喜んでいる、だが里の外に出たがる者は半数程度だ」

「うむ、ポッポ村に来客が来た時は姿を隠すとも聞いたが?」

「ポッポ村の方達はとても信頼できるがその他の者に関してはまだ判断しかねる、

 警戒するに越したことはないだろうな」

「なるほどな、良い判断だ、確かにポッポ村の方達は信頼できるだろう、

 だが大きな町に行けば人数が増える分信頼出来ない者も必ず出てくる」

「私もそれは考えていた、今は里に不足していた回復魔法の習得を急いでいるが

 それだけでは魔王は乗り越えられない、いずれは…」

「そうだ、世界が滅ぶほどの脅威に単独の種族だけでは太刀打ち出来ない、

 今カード王国内の各都市では近隣の集落を受け入れるべく拡張中だ、

 里の場所を明かす必要はないがウルフ族もニャリ族もポッポ村の方達と共に

 ウルダに避難するしかない、里の者達を導くのはお前の役目だメグロ族長」

「分かっている、実は今度ウルダに同行させて貰う予定になっているんだ」

「そうか、なら心配はいらんな、誰が一緒に行くんだ?」

「ニャリ族からはニャリモヤとニャリハチ、ウルフ族からは私とカテリアだ」

「さてはゴネられたなメグロ」

「寝てる時に耳元で囁かれて…圧が凄いんだ…」

「父親も大変だな、はははは!」


思い出してちょっとゲッソリするメグロ、

Sランク冒険者としての依頼を終えたマダラは砕けた顔で笑っている。


「マダラ兄さんも早く結婚しないと、もう45歳だろ」

「うぐぅ…」

「活躍しているのは誇らしいがウルフ族の男としては私の方が上だ」

「うぐぐ…わかってはいるのだが相手が居ないものでな…」

「人間の町で見つかる筈がない、いい機会だから里に戻ってはどうだ?」

「あぁ~…そうだな、そうするとしよう」


翌日、Sランク冒険者のマダラ(45歳)は婚活のため里帰りした。




「ねぇウィンディ、今度は何したんだい?」

「ちょっとね、マルメロ君に飴食べさせようとしたの」

「それだけ? それだけでこうはならないと思うよ」

「…口移しでちょっとね」

「そうなんだ」

「うん、気持ちが抑えられなくてつい…」

「そうなんだ」

「ねぇジョナ、下ろしてくれない? そろそろ手首と足首が辛くて…」

「あと1時間は無理かな、レベッカに怒られちゃうからさ」

「そうなんだ、仕方ないわね」

「うん、本当に仕方がないよ、君も僕も」


グルグル巻きで木に縛り上げられたウィンディは1時間後に開放された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ