216話目【シード計画職員として、初日の朝】
ここはダナブルの地下にあるシード計画活動拠点、
暗く静まり返った通路を一室から漏れた光が照らしている。
「ふぁぁ…眠い…」
「俺コーヒー淹れますけど主任も要ります?」
「貰う…ルーベン元気ねぇ…」
「俺けっこう夜型なんで、それにまだ若いっすから」
「煩い…」
「あはは、フルムド伯爵はどうされますか?」
「僕も頂こうかな」
「了解っす」
席を立ち鼻歌交じりでコーヒーを淹れる青年はルーベン、23歳。
口半開きで机に突っ伏している女性はリンデル、33歳、考察班主任。
共にシード計画の考察班に属する2人、
集まった情報を元に魔王に関する考察をする、っという担当なのだが
そんなにしょっちゅう新しい情報なんて集まらないし、
考察するにしても限界があるし、結局最後は皆で考えるしで
どちらかと言えばかゆい所に手が届く事務職みたいな感じ。
必要があればあっちこっちで手伝いしており、今回はフルムド伯爵の手伝い中。
「熱々っす」
「ありがとう」
「うぃ~…」
椅子に座りコーヒーで一息つく3人、リンデルの左目の下瞼が痙攣している。
「あぁ~…苦みが染みるぅ…ぅぅ…」
「大丈夫ですかリンデルさん?」
「大丈夫ですぅ…ちょっと徹夜が苦手で…」
「(…駄目っぽい)」
「(こりゃ今日は死んでるな)」
リンデルが流し込むコーヒーが口の左端から溢れ服に染み込んでいる。
「「 … 」」
「主任は置いといて、取り敢えずこんなもんっすか」
「うん、これ以上は今の段階では無理かな」
「はぁ~結局賢者については何も分らずじまいかぁ~、情報が少なすぎですって賢者」
「伝説の偉人だから仕方ないよ、実在する可能性が高まっただけでも良しとしよう、
ざっくりとした村の場所も分かったしね」
「調査隊を派遣するんすか?」
「そうしたいけど直ぐには無理かな、先にルコール共和国に話を通さないと」
「山越えと未開の地の散策、魔物も多いらしいですし簡単にはいかないっすね」
「カード王に相談してみるよ、それより当面の問題はこっちさ」
机に上に纏められた報告書を軽く叩くフルムド伯爵。
「賢者の末裔の特異体質と魔族の襲撃、どっちすか?」
「どちらも、あの人達はとにかく異質だよ、、
コカトリスの毒を受けても完全にマヒせず数秒間動きが鈍る程度らしいし」
「間違いなく膨大なマナが原因っすね~、ただ、定説では魔法を使用し続けることで
保有量が増加するはずなのに当人達は何も魔法を習得していない、
というか回復魔法も習得していないのにどうやって傷を治してるんすかね?」
「体内で生成されるマナは生命力と同意、僕らも自然治癒で傷が治るから
生命力が強すぎて凄い速度で治癒していると考えれば筋は通るよ、
マナの保有量の限界値は元々決まっていて上級魔法に耐えうるマナを有する者を天才と呼ぶ、
あの人達は何もしていないのにSランク冒険者以上のマナを有しているから、
これはもう産まれ持った才能とか体質と考えるしかない」
「いいっすね~フルムド伯爵、本当に回復魔法の祖の末裔なら特異体質もあり得るかも、
なんて言ったって伝説上の偉人ですから」
「だよね~、実在していて欲しいな~賢者」
「欲しいっすね~賢者」
しみじみフルムド伯爵、しみじみルーベン、リンデルは電池切れ。
「それはそれとして、賢者の末裔の方々が村を追われた原因がどう考えても魔族の襲撃だし、
しかも発生時期がカード王国で起きた襲撃の1回目と2回目の中間くらい」
「更にフルムド伯爵が出会った人達の話ではカード王国の襲撃以前に
キキン帝国で襲撃が発生していた可能性が高い、ルコール共和国はどうなんすか?」
「今のところ報告はないけど野盗の襲撃と誤認されていたりするかもね、
魔王の復活は僕達が考えている以上に早いかもしれない」
「こんな時に限ってキキン帝国とシルフハイド国は…勘弁して欲しいっすよ、
それなのに『魔王は理であり一部であり歪である、故に滅ぼすことは出来ない』
はぁ…火の精霊様の有難いお言葉には救いがないっす…」
「滅ぼすことは出来ないだもんねぇ…どうしようか?」
「どうって言われましても…どうしましょうか?」
「スヤピピ…」
お手上げのフルムド伯爵とルーベン、リンデル熟睡。
「ところでフルムド伯爵、出発は何時っすか?」
「8時だよ」
「え!? もう7時20分すけど…」
「嘘ぉ!? ママズイよ!? 早く片付けないと、リンデルさん起きて下さい!」
「俺がやっときますからフルムド伯爵は行ってください」
「わ、分かった、手伝ってくれて有難う!」
「伯爵、報告書、報告書!」
「ありがとう、じゃあ行くから、ひぃぃ…早く準備しないと!」
「頑張って下さ~い!」
慌てて走り去る行くフルムド伯爵の背中を静かに見送る男が1人。
「(昨日帰って来たばかりなのに大変だなぁ…)」
ルーベンではなく通路の一番奥の長椅子に寝転ぶ松本である。
「(結局何すればいいか聞けなかったなぁ…)」
前日の身体検査の結果、異常なマナ量、驚異的な回復力、高い身体能力が判明、
賢者と言うパワーワードも後押ししシード計画施設内に衝撃が走った。
光の3勇者ネネの槍に次ぐ発見ではないかと
色めき立った職員達が押し寄せちょっとした騒ぎに発展した。
その後、フルムド伯爵はストックとダリアの協力のもと村の位置と移動ルートを特定、
色々質問しているうちに賢者の末裔の村が魔族の襲撃を受けていた可能性が浮上、
賢者に関する情報も再度洗い直し報告書を作成すべく徹夜で奮闘していた。
そしてフルムド伯爵とカプアとハンクしか素性を知らない松本の存在は放置され、
賢者の末裔のファミリーが用意された家に案内された後も通路の一番端の長椅子で待機、
真剣な様子に声を掛けるにも掛けられずそのまま寝て今に至る。
「(他の人に聞けばいいし何も問題ないさ、彼はまだ若いしね)」
これだけ放置されても感情的にならずに対処し、
部下を見守る上司みたいな顔で余裕を見せつける松本、
鞄からはみ出た前日の夕食から哀愁を感じる、
一応生前の松本は38歳、フルムド伯爵は30歳なので年下である。
時刻は8時30分。
ちょこちょこ職員達が集まり出したので松本も行動開始。
「(ほぉ~結構お安い、まるで社員食堂だな)」
「(なんで子供?)」
「(誰かの家族? 連れて来て大丈夫なの?)」
「(昨日も見た気がするな…)」
不審がる職員に混じり食堂の列に並ぶ、明らかに1人だけ小さいし服装も浮いている。
「おはようございます~朝食セット1つ下さい」
「3シルバーね」
「いや、私じゃないです」
「?」
手を振り違うとアピールする女性をみて不思議そうな顔をする食堂のオバちゃん。
「注文したのは俺です、すみませんちょっと身長低いもので、はいこれ3シルバーです」
「おぉん!?」
カウンターの下から出て来た手にビクッとするオバちゃん、覗き込むと頭の先が見えた。
「あれま、誰かの子供かい?」
「いや、私じゃないです」
再び手を振りアピールする女性、後ろに並んだ職員も同様に手を振っている。
「えぇ? もしかして迷子かい? この施設内で?」
「迷子じゃないですよ、フルムド伯爵の手伝いをするために呼ばれました、
一応入口の鍵も貰ってます」
「あれま本当…はぁ~坊やみたいな子供がねぇ」
カウンターの下から出て来た鍵にシミジミするオバちゃん、
後ろに並んでいる職員達も同じ顔をしてる。
「あの~後の人も閊えてますし朝食セットを頂きたんですけど」
「あ~そうよね、はいはい、はい朝食セット、持てる?」
「大丈夫です、ありがとうございます~」
「飲み物は左奥だから自分で注ぐのよ」
「はい~」
「(本当に子供だわ)」
背中に注がれる視線も気にせず一番角の席を確保し朝食。
「(食パン2枚に目玉焼き、ウィンナー3本、サラダと野菜ジュース、
う~む実に健康的、これで3シルバーは破格だな)」
有難く完食し木製のトレーを返却、
食堂を利用する際の一連の流れは現代とあまり変わらない。
※ロックフォール伯爵からの支援金により料金が抑えられています、
食事時以外でも自由に利用可能で飲み物は常時無料です。
「さてと、腹ごしらえも済んだし仕事しますか、先ずは聞き取りだな」
という訳でその辺の人に聞き解読班が仕事をしている部屋の前にやって来た。
「すみませ~ん、フルムド伯爵から言われて来たんですど~」
「…」
扉が開き眼鏡を掛けたショートカットの女性が出て来た。
「俺、松本って…」
「…」
2秒程目が合ったが何も言わずに扉が閉じられた。
「…え?」
困惑の松本。
「ロダリッテさん、誰だったんですか?」
「知らん」
「「 え? 」」
「子供だった」
「「 え? 」」
部屋の中から松本と同じような反応が聞こえる。
「それってフルムド伯爵が連れて来た賢者の末裔の子供じゃないかな?」
「あぁ~きっとそうですよ」
「知らん」
「ロダリッテさん昨日見に行ってないから、アタシが行きます」
「お願いします」
扉が開き今度は眼鏡を掛けた三つ編みの女性が姿を現した。
「…あれ?」
「おはようございます」
「…おはようございます」
「どうも、フルムド伯爵から言われて来ました、松本です」
「どうも、ハルカです…ちょっとまってね」
困惑した笑顔で再び扉が閉じられた。
「あの~違う子なんですけど」
「え? 赤い目の子供じゃなかったんですか?」
「黒でした、普通の子供なんですけど」
「え? 誰かの子供かな? 職員以外の立ち入りは原則禁止の筈だけど」
「マツモトって名乗ってましたよ」
「ロダリッテさん知ってる?」
「知らん」
「なんだろう? 私が対応します」
「お願いします」
「(全く話が通ってないっぽいな…俺のお手軽スキルはまだ秘密ってことか)」
部屋の中の会話に聞き耳を立てていると
今度は眼鏡を掛けた紳士的な男性が出て来た。
「おはようございます」
「おはようございます」
「ん? 君は確か昨日もみたような…」
「えぇまぁ、昨日からここにいますので、フルムド伯爵から鍵も頂いています」
首から下げた鍵を引っ張りだして取りあえず見せる、
服装が私服なので鍵しか証明になるものがないのだ。
「なるほど、では君は見学者ではなく職員なんだね、始めまして私はペンテロ」
「俺は松本です、よろしくお願いします、古い書物の解読を依頼されているんですけど」
「君がかい?」
「はい、そのためにウルダから連れてこられました」
「え~と…ロダリッテさん、ハルカさんちょっといいですか?」
「はい~」
さっきの2人も出て来た。
「フルムド伯爵から解読班として呼ばれているみたいなんだけど誰か聞いている?」
「知らん」
「アタシも何も聞いてないです、誰かのお子さんじゃないんですか?」
「鍵を持っているんだ、彼は正規の職員だよ」
「え? ペンテロさんのお子さんより小さいですよ?」
「そうなんだけど…」
「(全員眼鏡だ…)」
・ペンテロ 40歳、男、眼鏡
・ロダリッテ 24歳、女、眼鏡
・ハルカ 17歳、女、眼鏡
フルムド伯爵も眼鏡なので解読班は眼鏡率100%です。
「ねぇマツモト君、君の専攻は何?」
「専攻?」
「どの文字を解読できるかってこと、アタシは旧ウル語全般」
「私はキルビス語を担当しています」
「カンタル1解読中」
「????」
知らない単語を聞かされ目をパチパチさせる松本、
旧ウル語については学校でもサラッと教えてくれるのだが通って無いので知らない。
因みに現在の言語はウル語、現ウル語とも呼ばれているのだが、これも松本は知らない。
教育って大事。
『旧ウル語』
1000年以上前に現在のカード王国付近で使用されていた言語、
ウルは当時の国名では無く都市名から来ている、
前回の魔王襲撃で唯一壊滅を免れた都市ウル(現在のウルダ)から広まったことが由来。
難を逃れるために各種族の生き残りが身を寄せ、
魔王討伐後に各地に散っていったため現在の統一言語の基礎となった、
その後は各地に散った者達が復興のためやり取りしていたので
足並みそろえて現在のウル語に変化した。
『ウル語』
現在使用されている統一言語、人間の国とタルタ国は完全に同じ。
エルフの国(シルフハイド国)では文字が若干異なっていたりするが方言みたいなもの、
本来のエルフ語が別に存在するが現在使われてはいない。
『キルビス語』
1000年以上前に現在のルコール共和国とキキン帝国の中間くらい栄えたとされる
キルビス国で使用されていたっぽい言語、前回の魔王襲撃で消滅した。
『カンタル1』
古の都カンタルから発掘された異物、まだ未解読の文字。
他にもカンタル2~4がある。
カンタル2~3は未解読、カンタル4は既に解読されており
光の3勇者のネネが使用していた文字と判明、別称『ネネ語』。
実は平安時代あたりの日本語(平仮名)だったりする、
ネネが遠目に見て覚えただけの文字なのでなんか変。
「(あんだって? 専攻ってなに? こちとら大学も行って無いっての!)」
※松本は普通科の高卒です。
「…た、たぶん…全部?」
「「「 … 」」」
ロダリッテが無言で立ち去った。
「(そうなるよね! 俺今ふざけたこと言ってるもんね!)」
「マツモト君、全部とはどういう…」
「あのですね、あの…ペンテロさん落ち着いて聞いて欲しいんですけど、
俺どういう訳か知らない文字が読めるんですよね、書いたりは無理です
区別できないって言った方が正しいんですけど…」
「はぁ…」
「ペンテロさんちょっと」
「うん」
「…一応鍵は持ってるし…」
「…流石にちょっと…」
「…私も内心はそう思ってるけど…」
ペンテロとハルカが何やら協議中、正直予想は着く。
「マツモト君、鍵は誰から貰ったのかな?」
「フルムド伯爵です」
「ペンテロさん、フルムド伯爵に確認するべきだと思います」
「それが出来ないんだ、今朝王都に向かわれたから戻って来るのは早くても…」
「2週間後ですね、そのままカンタルに向かわれるかもしれませんし…」
「一度ダナブル戻って来るとは言っていたよ」
「(まぁこんなの信じないよなぁ…とくに本業の人達だし…)」
「「「 う~ん… 」」」
3人共どうするか悩んでいる。
「マツモト君、君を疑うわけじゃ無いが流石にちょっと…」
「でしょうね(あら~結構気を使われてるなこれ)」
「他に君のことを知っている職員はいるかな?」
「いますけど、また今度にします、フルムド伯爵が居る時の方がいいと思いますので」
「そうしてくれると助かるよ、すまないね」
「ごめんねマツモト君」
「いえ、ありがとうございました」
適当にテストすれば本当だと示せたが気まずいので日を改めることに。
「(よく考えたらフルムド伯爵無しだと解剖されるかもしれないしなぁ)」
松本自身が望んでいる訳でもないので身の安全を最優先にしたらしい。
場所は変わった診察室、前日の先生の元にやって来た松本。
「ってことで暫く仕事はなさそうなんですけど、勝手に外出して大丈夫ですかねドーナツ先生?」
「皆そうしてるからいいよ別に、あとドーナツじゃなくてトナツね、トナツ、
皆僕のことそう呼ぶんだよね、あこれ美味しい、1個どうマツモト君?」
「頂きます」
ドーナツ大好きトナツ先生、いっつもドーナツを常備しているポッチャリ医師、53歳独身。
本人曰く健康管理はしているらしい。
「っていうか君、昨日何処で寝てたの?」
「通路の椅子で適当に」
「あそうだったの~、てっきりあの家族と一緒に帰ったと思ってたよ、
先に案内しておけばよかったね」
「用意されてたんですか?」
「うん、この隣、検査用の部屋ね、嫌だったら宿泊用の部屋もあるけどどうする?」
「取りあえず今日はそこにします、ドーナツ先生も検査のために泊るんですか? なんか悪いですね」
「トナツね、まぁいいけど、僕はこの施設で生活してるから別に気にしなくても大丈夫大丈夫」
「そうだったんですか、他にも結構そういう人いるんですか?」
「泊まる人はいるけど生活してるのは僕くらいかな、ほら皆家族いるでしょ、
僕独り身だからさ、別に住む場所とか選ばないんでよね、1部屋あれば十分だし、
って言ってもまだ君には良く分からないか、ははは! ドーナツいる?」
「いえ、まだ食べてますんで(分かるぅ~独り身って身軽なんだよねぇ)」
中身はオッサンの松本、元独身一人暮らしアラフォー男性として共感の嵐。
「もしここで生活するなら気を付けた方がいいよ、
たまには外に出て太陽浴びないとおかしくなっちゃうからね、心身共に」
「日光浴は大事ですよね~、部屋に籠ってると体内時計狂っちゃうし、
ドーナツ先生はちゃんと外にでてるんですか?」
「僕は毎日ドーナツ買いに行ってるからね、運動もかねて散歩してる」
「そうですかぁ…」
多分摂取カロリーと消費カロリーが釣り合っていない。
「あとこの施設の門限は18時だから」
「早くないですか?」
「入口の博物館が閉まっちゃうから仕方ないよ、僕や主任達は鍵持ってるけど」
「あ~なるほど」
「ダナブル初めてでしょ、地図で案内しようか?」
「助かります~」
「目的地は?」
「取り敢えず冒険者ギルドと光筋教団ですね、あと鍬を借りられそうな場所を、
なければ買うんですけど」
「鍬?」
「鍬」
「畑耕す鍬? 何のために?」
「その鍬です、体鍛えるのに使います」
「あぁ~…もしかして回復症の原因ってそれじゃない?」
「一部ではありますね、確実に」
「あそう、自覚あるんだ(治らないパターンだなこれ)」
ドーナツ先生の検診は的確です。
一方、馬車で移動中のフルムド伯爵とロックフォール伯爵は。
「随分と眠たそうですねアントル」
「ちょっと寝不足でね…」
「気を遣わずとも良いのですよ、寝不足どころか全く寝ていないのでしょう」
「はは…実はね、何でバレたかな」
「これだけの報告書ですし、何よりその慌てよう、ボタンを掛け違えています」
「あ、ほんとだ、会った時に教えてよペニシリ」
「一目で分かりましたから敢えて教えませんでした、
資料作成に加えて賢者の末裔と例の少年の説明、
職員の方々から質問攻めにされる姿が目に浮かびます」
「まぁね、伝説の槍に続いてだから皆期待しちゃうよ、
魔族の襲撃は予想外で正直悪い知らせだけど、少しだけ前に進めるんじゃないかって」
「そうですね、箱舟と守り人の役割は魔王に滅ぼされたあとの荒廃した世界にあります、
可能であればこの美しい世界を維持したいものです」
「うん、今はこれが精一杯だけどなんとかね、
マツモト君が来てくれたから何か新しい発見があるかも…マツモト君?」
「どうしたのですか?」
「わ…忘れてたぁぁ! え? いつからだ…昨日鍵を渡して…なんにも説明してないよぉぉ!?」
「彼を解読班に紹介し忘れたのですか?」
「うん、っていうか何も説明してない、皆にも紹介すらしてない、
施設の案内も寝床の手配も何も…どうしよう…」
「そんなに落ち込まずとも良いでしょう、ライトニングホークの巣から戻って来る少年ですよ、
巨大モギも魔族の襲撃も経験していますし、ダナブルでなら裸で投げ出しても生きていけます」
「まぁ…そんな気はするけど、怒ってないかな?」
「それは分かりません、心配ならお土産でも渡してみては?」
「そうする、悪いことしちゃったなぁ…」
「ふふふふふ…」
自責の念を感じながらフルムド伯爵は眠りについた。




