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215話目【ようこそダナブル、まずは身体検査を】

そこはとても不思議な場所。


最も遠く、最も近く、

遥か高く、遥か低い、

色褪せていて、鮮やかで、

無音で、騒々しくて、

何も無いのに、全てがある、


そんな、そんな、とても不思議な場所、

そこは誰も知らなくて、世界はそこを知っている、

そんな、そんな、とても不思議な場所、


舞い降りる黒い雪を見て悠久の刹那に思いを馳せる、

只1人、その時を待ちながら。









「はぁ…ようやく終わった…」

「お疲れ坊や、主役は大変ね」

「主役って…連れ去られただけですよ、こんなの記事にされても恥ずかしいだけですって」

「ライトニングホークに攫われ奇跡の生還を果たした少年、

 巨大卵を添えて、ネタとしては十分面白いと思うわよ」

「卵だけでいいでしょ別に、これってダナブルで配布されるんですか?」

「たぶんカード王国全土ね」

「…冗談ですよね?」

「ダナブル限定ならわざわざこれを写すとは思えないわねぇ、画角も完璧」


城壁に描かれた魔道補助具の広告を指差しながらウィンクするノルドヴェル。


「そうですねぇ…(ピ~ヨ元気にしてるかなぁ)」


諦めの境地に至った松本は遠い目をしている。


「ノルドヴェルさん、なんで俺達は中に入らないんですか?

 カプアさんとハンクさんは来て直ぐに入って行ったのに」

「坊やを焦らすため」

「…なんの意味があるんですかそれ」

「あら辛辣、移動で疲れてそうね」

「疲れたというかちょっとお腹空いちゃって、もうお昼ですし、あの人達もほら」


城壁の影で並んでレモンとパンを齧る賢者の末裔ファミリー。


『 しゅぱぁ… 』


4人共シワクチャな顔でプルプルしている。


「待ちきれずにレモンでパン食べちゃってますよ」

「美味しいのかしら…」

「いやぁ…どうなんでしょ?(流石に俺も試したことないな)」


意外とサッパリして美味しいかもしれない、試す方は自己責任でどうぞ。


「冗談はこれくらいにして本当はフルムド伯爵待ちよ、

 正確にはフルムド伯爵が持って来られる入国証待ちね」

「え? それって城門で検査を受けて衛兵の人達から貰うヤツですよね?」

「それは入場許可証、入国証は国に入る時に貰うヤツ、

 街道の検問所を通ってないから不法入国状態なの、

 入国証が無いとどの国でも町に入れて貰えないし、門前払いで場合によっては投獄、

 そんな状態で碌な装備も持たずに子供2人連れて旅して来たんだもの、大変だったと思うわ」

「はぁ~そうだったんですか」


この規則は街道を通した人間の国間(カード王国、ルコール共和国、キキン帝国)

で結ばれた合意なので主に人間に対する物。

エルフの国(シルフハイド国)は準じているが、ドワーフの国(タルタ国)ではあまり認知されていない。


国を持たず各地に住んでいる亜人種にとっては勝手に出来てた規則、

知らない者も多いため亜人種には緩い対応が取られることが多い。


賢者の末裔ファミリーは人間のため規則に準じた対応が取られ

ウルダに辿り着くまでにルコール共和国で1か所とカード王国のカースマルツゥで入場拒否されていた。


その結果、高い回復力という特異体質も疲労により薄れストックが生死の境目を彷徨うことになり、

ダリアが警戒しながらモントに近寄り、気付かれた際に飛び掛かったりと

若干人間不信に陥っていたと思われる。

ウルダ以降は普通の扱いを受け、入場拒否された理由も説明されたので人間不信が解消したそうな、

切っ掛けとなったモント達には結構感謝している。



「? 国から出る時は出国証が貰えるんですか?」

「そうよ、他の国に入る時に必要になる、シルトアみたいに空飛ぶ特使なら別だけど」

「あの人達も何処かの国に属してたんじゃないんですか? あ、検問所通らなかったら同じか」

「そういうこと、普通は整備された街道を選ぶし、わざわざ選ばないってことは何かあるわねぇ~」

「まぁ、でしょうねぇ」

「でもあの外見の人達は他の国でも見たことないのよ、

 本人達の話だとルコール共和国の北側、山を越えたそうだから竜の背ビレの

 向こう側辺りに住んでたみたいだけと」

「竜の背ビレってライトニングホークの巣があった山ですよね? そんな先まで続いてるんですか?」

「あら知らなかったの? 学校で教わらなかった?」

「いや~ちょっとヤンチャしてて学校行ってないんですよね」

「確かにヤンチャな経歴しているわよねぇ坊や、ポッポ村に行くまで森の中で何してたのかしら?」

「ははは…記憶が曖昧で…覚えていません」


そりゃ聞かれても答えられない訳で、右頬を指でグリグリさられながら松本が目を逸らしている。


「竜の背ビレはず~と遠くまで続いているわ、東の端はカード王国、西の端はキキン帝国ね、

 途中で高くなったり低くなったりするけど街道の北に必ず見える、

 竜の背ビレより北を目指すなら山越えかトンネルを掘るしかないの」

「へぇ~」


カード王国で竜の背ビレより北にある町は白銀都市サントモールのみ、

ウルダからサントモールまでは山が低くなった場所を山越え、

王都からサントモールは山の端を迂回、

カースマルツゥからサントモールはトンネルである。


「ルコール共和国の辺りは特に高くなっているから北側は殆ど手付かず状態、

 世界から隔離された集落があっても不思議じゃないわねぇ」

「ほほ~ワクワクしますねぇ」


賢者の末裔ファミリーを見ながらロマンに思いを馳せるノルドヴェルと松本。


『 しゅぱぁ… 』


当人たちはシワクチャな顔でプルプルしている。




「ペニシリ、約束通り取材も受けたことだし」

「分かっていますよ、アンダース」

「フルムド伯爵、こちらをどうぞ」


アンダースが内胸のポケットから取り出した入国証をフルムド伯爵に手渡した。


「ありがとう御座います、助かるよペニシリ~」

「ふふふ、随分と嬉しそうですねアントル、そろそろ事情を聞かせて頂きたいのですが?」

「あの人達は賢者の末裔かもしれないんだ」

「賢者ですか? 花と飴の?」

「あとは回復魔法の祖、光の3勇者と異なり実際に存在したかどうか不明の伝説上の人物、

 古い書物に時より登場して、どちらかというと賢者の末裔の方が多いけど…

 名前も性別も種族もとにかく全てが謎に包まれていて『賢者』の文字だけが一人歩きしている、

 バラバラの時代に登場するからてっきり架空の人物で

 何かの例えとか隠語かと思っていたんだけど、遂に末裔を名乗る人達が出て来た」

「信憑性は?」

「正直分からない、情報が少なすぎて結論が出せないよ、でも僕の感覚だと結構高いかも」

「ほう、その根拠は?」

「特徴が一致してる、褐色の肌に赤い瞳、額の紋様、まぁこれは自分達で書いているんだけど、

 それと異常な回復力を持つ特異体質、全員そうらしい」

「なるほど、回復魔法の祖の末裔ですか、ふふふ、面白いですね」

「調査に協力してくれることになってる、条件として家と魔道義手が必要なんだけどいいかな?」

「構いませんよ、データも取れますしこちらとしても有難いです、アンダース、直ぐに住居の手配を」

「畏まりました、失礼致します」


アンダースが2人の元から立ち去った。

 

「彼を連れて来たということは本題も成果があったということですね」

「うん、プリモハちゃんは正しかった、結構大変だったけどなんとか連れて来れたよ…」

「ふふふふふ、申し訳ありませんが卵は、ふふふ…」

「今だから笑えるけどあの時はもう絶望でさ…はぁ…思い出しただけでもちょっと…」


笑うロックフォール伯爵と対照的にフルムド伯爵はゲッソリしている。


「それにさ、マツモト君って結構勘が鋭くて調べるの大変だったんだ…普通じゃないよ彼…」

「ふふふ、そんな感じはしますね」


レモンとパンを齧りシワクチャな顔でプルプルしている松本、ストックから半分貰ったらしい。


「アントル、今日中に賢者の末裔に関する情報を出来るだけ纏めて下さい」

「いいけど、急にどうしたんだい?」

「キキン帝国とシルフハイド国の件はシルトアさんから報告を受けています、

 その対策を練るため領主会議の招集がありました」

「え? 今日付いたばかりなんだけど…そろそろカンタルへ食料を持って帰らないといけないし…」

「既に出遅れていますので明日には発たねばなりません、カンタルへは代わりの者を送ってあります」

「ありがとう助かるよ、マツモト君に関しては?」

「取り敢えずはカード王とレジャーノ伯爵のみに報告を、

 もしシード計画の全貌を開示することになればカード王の指示に従いましょう」

「わかった」

「それともう1つ、ホラントは元気にしてましたか?」

「実は話してないんだ、子供の頃以来で最初は誰だか分からなかったってのもあるけど、

 ほら僕貴族になっちゃったから…彼の生い立ちを考えると気まずくて…」

「ふふふ、ホラントはその程度のことは気にはしませんよ」

「そうなのかなぁ…」

「そうです、王都にはアントルにとって嬉しい知らせが待っていますよ」

「なんだいその意味深な感じ? 知ってるなら今教えてよ」

「残念ですがそれは出来ません、カード王より口止めされていますので、ふふふ…」


※10年前の王都襲撃の事実は当事者以外は知りません、

 伯爵間でもロックフォール伯爵とレジャーノ伯爵のみが知っており、

 この時点ではフルムド伯爵はタルタ王が襲撃に加担していると考えています、

 ホラントがハドリーの企みを報告したことも知りません。




 

ようやく入国証を手に入れ城門に並ぶ松本達、衛兵の検査を受け無事入場。


「(おぉ~凄い、道がずっと向こうまで道が続いてる)」


松本達が入場した東門から幅広の道が真っすぐ続いており反対側の西門が遠くに確認できる、

中央には大きな4体の像が立ち、内3体は光の3勇者、北向きの1体はロックフォール伯爵、

像の根元は花壇になっており、その周り円状の広場、

そこから交差した道が北と南に延び上空から見ると大きく4分割された形になっている。


ダナブルと直接繋がっている町は王都ベルジャーノとウルダのみ、

メインになる城門は東と西の2か所、西は王都、東はウルダとの往来に使用されている。


「どう坊や? ウルダとはちょっと違うでしょ」

「全然違いますね、こんなに広い道は無かった…ん!? あれってもしかして木ですか?」


南の建物の上側に緑が飛び出している。


「あら目ざとい」

「いやちょとノルドヴェルさん言い方…町の中にあんなに大きな木があるんですか?」

「あの下はちょっとした広場になってるの、エルフの人達の要望で作られたのね」

「エルフ!? エルフがいるんですか?」

「まぁウルダから来たら驚くわねぇ、ダナブルは亜人種の人達も結構住んでるから珍しくは無いわ、

 リザードマンにオーク、ゴブリン、ドワーフはいないけど、あと獣人とマーメイドが少々」

「え!? ニャリ族がいるんですか!? 俺ニャリ族大好きなんです!」

「ちょっと鼻息荒いわよ坊や…」


興奮気味の松本に引き気味のノルドヴェル。


「残念だけどニャリ族は見たこと無いわね、ウルフ族ならたまに1人来るけど」


唯一のウルフ族冒険者にして現役Sランク冒険者、双拳のマダラである。


「そうですか…ニャリ族はいませんか…ニャリモヤさんに会いたいなぁ…」

「また随分と凹むわね…」




シオシオの松本、一方その頃ポッポ村では。


「「 ニャリモヤァァ 」」

「こらいい加減にニャリモヤさんから離れなさい」

「いやぁぁ! ニャリモヤ好きぃぃ!」

「ニャリモヤァァ! ニャリモヤァァ!」

「ほらまたこんなに毛だらけになって、ニャリモヤさんが禿げちゃったらどうするの」

「気にしなくても良いのである、生え変りの季節なのである」

「あ、ポポさんその毛捨てないで下さいね、集めてニャリモヤ人形にしますから」


ニャリモヤは冬毛(長)から夏毛(短)に生え変り、フィセルは抜け毛を集めていた。




「ニャリ族とウルフ族以外の獣人ってどんな人達ですか?」

「ほらあそこ、ラビ族とハリ族」

「ん?」


ベンチでウサギの耳が付いた人間?と50センチ位のハリネズミがベンチに座ってクレープを食べている。


「(ラビ族って兎の獣人のことか、ラビ族はいいとして…

  ハリ族ってアレか? いやアレでいいのか!? ハリネズミなんですけど!? 

  純度100%ハリネズミなんですけど!? 獣人ていうか獣なんですけどぉぉぉ!?)」

  

獣人のハリ族である、50センチ位だが大人である。


「凄いですねダナブル…なんか濃い…」

「濃いわよねぇダナブル、堪らないわ」


種族の坩堝、それが自由都市ダナブル。

町中に川も流れていて本来水辺を好むリザードマンや人魚がワキワキしていたり、

公園の土手の下がハリ族が集合住宅だったりする。

オークとゴブリンは元の生活スタイルが人間と遜色ないので田舎から都会に引っ越して来た感じ。


「役所、病院、薬局、ギルド、装備屋、酒場、劇場その他諸々、買い物もこの通りで事足りるわ、

 学校は各地にあるから行きたくなったら近くのヤツを探しなさい」

「了解です、取りあえずギルドで移籍手続きしないと」

「カルニギルド長から移籍届貰って来たの?」

「勿論です、これがないと生活費稼げませんからね、ちゃんと貰って来ましたよ~」


鞄から筒を取り出だし見せる松本、ノルドヴェルが中に入った書類を確認する。


「問題なさそうね、Dランクで討伐依頼1回、補助依頼…53回!? 

 登録約2ヶ月で53回って…随分とヤンチャしたわね坊や」

「子供でもお金稼げるから冒険者っていいですよねぇ、

 お陰でいろいろ生活品が充実しちゃって、趣向品もちょいちょい買っちゃって、

 まぁコレ以外は全部ポッポ村の家に送りましたけど」

「(どうりで学校行ってないわけね、この子友達とかいるのかしら…)」


若干心配になるノルドヴェル、折角いろいろ買い込んだのだがダナブルに引っ越すことになったので

鞄1個分しか手元に残っていない、殆ど服とタオル、後は魔法のプロテインが1袋である。





「無理に稼がなくても大丈夫だよマツモト君、生活は保障する約束だからね」

「ありがとう御座います~でも趣味みたいなものですので、

 何もしないで引き篭もっていると体が鈍っちゃいますし、

 あとあれなんですよねぇ~世の中と接点が無くなると孤独感とか疎外感を感じるっていうか…、

 そういうのありませんかフルムド伯爵?」

「え? う~ん、そ、そうだね…(なんかお年寄りっぽい…)」

「(いや学校行きなさいよ)」


定年後のオジサンみたいなこと言ってるジジモトにノルドヴェルが心の中で正論パンチを叩きんでいる。


そんなこんなで大通りから1本中に入り目的地に到着、

こじんまりとした建物の入り口の上に『種博物館』と書かれた可愛らしい看板が掛けられている。


「ここですかフルムド伯爵」

「ここだよマツモト君」

「種博物館って書いてますけど…」

「種を集めてるからね、一般公開してるんだ、あんまりお客さん来ないけどね」

「まぁ、種ですし」

「種だからねぇ」


残念ながらお客さんの姿は無い。


「ノルドヴェルさん有難う御座いました、これで依頼は完了になります」

「わかりました、報酬はギルドで受け取ればよいのですか?」

「はい、タレンギさんにも宜しくお伝え下さい」

「お伝えします、それでは私はこれで、じゃあね坊や、貴方達も頑張って、ダナブルはいい町よ~」

『 さよ~なら~ 』


フルムド伯爵から完了の印を受け取ると

松本と賢者の末裔ファミリーにキスを投げノルドヴェルは去って行った、

因みにタレンギは馬車移動のため取材後に離脱済み。


「お母さんこれなに?」

「穴空いてる」

「なんだろうな?」

「シード君らしいよ」


入口の横に置いている看板を囲み首を傾げる親子達、

ヤシの木みたいな植物が描かれており3つ描かれた木の実の内

2つの実の部分が繰り抜かれている。


「(顔ハメ看板だな…異世界にもあるのか…)」


マスコットキャラのシード君は実から手足が生えた感じ、

看板から繰り抜かれた部分を見ると種の輪郭から手足が生えているので

顔を嵌めた人もシード君になるらしい。


「お母さんもやって」

「これでいいのか?」

「なんか変」

「ははは、可愛いよ2人共」


今はダリアとゼニアがシード君である。


「(秘密裏に活動している組織って話だったけど…なんか庶民的だなぁ…)」


観光地とか商店街っぽい感じがある。


「皆さん此方へ、詳しくは中で話します」

『 はい~ 』


フルムド伯爵に案内され奥の『関係者以外立入禁止』の扉へ入る。


『 こんにちは~ 』


昼食中の裏方の人に挨拶して更に隣の部屋へ。


「シード君だ!」

「シード君が一杯!」


ゼニアとニチが倉庫の隅に積まれたシード君の縫いぐるみを指差してキャッキャしている。


「(子供受けいいなシード君)」

「沢山あるからあげるよ、はいどうぞ」

「「 わぁ~い! 」」


フルムド伯爵からシード君を貰い更にキャッキャするゼニアとニチ、

ダリアとストックと松本も1個づつ貰った。


「柔らかいな」

「こういうのは僕らの村には無かったね」

「貰ってよかったんですか? 札ついてますし売り物ですよね? 

 (これで30シルバーか、あっちのデカいヤツは1ゴールド超えそうだな)」


棚に鎮座しているビックシード君は150センチサイズで3ゴールド、職人製です。


「作りはいいけどあんまり売れないからね、さて、ここから先は公開されていない秘密の施設、

 カード王国内におけるシード計画の活動拠点になります、

 共に協力して下さる皆さんだから案内していますので他言無用でお願いしますね」

『 はい~ 』


フルムド伯爵が首から下げた紐を引っ張り出し先端のロケットをフリフリと見せる、

壁の端に翳すとカチッと開錠音が聞こえ壁のパネルが開いた。


『 おぉ~ 』

「入口はこの鍵が無いと開けられません、では中へ」


中に入ると地下へと続く階段があり1階分下った先には通路があり幾つかの部屋が見える。



「結構広いですね、人も沢山いる」

「魔道補助具関連もここで研究しているからね、地下だけど地上の建物より頑丈だから安心して」


通路を歩く一同、光輝石のライトが照らし閉塞感は特に感じない、

部屋の中には白衣を着た人とプリモハ調査隊と同じ服の人とツナギ姿の人が確認できる。


「ここは食堂で…あそうだ、皆さん昼食まだでしたよね、宜しければ一緒にどうですか?」


折角の提案に首を振る一同。


「(食べながら話そうと思ったんだけど、皆お腹空いてないのかな?)」


レモンパンを食べたので満たされているらしい、サッパリして悪く無かったが栄養は少ない。


「ダリアさん達の家は用意中です、今後はそこで生活して頂き協力をお願いします」

「わかった」

「フルムド伯爵、僕達町での生活は不慣れで色々分からないことが多いです、

 規則とかお金のこととかいろいろ教えて貰えませんか?」

「勿論です、僕は明日王都に向かわなければならなくなりましたので別の方を紹介しますね」

「助かる」

「ありがとう御座います~」

「マツモト君は子供1人だし、どうしようか? ここで生活することも出来るけど」

「筋トレが出来れば何処でもいいですよ、俺あんまり拘りないんで」

「それじゃ後で考えよう、皆さんには先に検査を受けて貰います、

 身長、体重、血液型、身体機能、病気の有無、マナ保有量など、

 特にストックさんは魔道義手に関わりますので宜しく願いします」

『 はい~ 』


ということで検査開始、服を着替えた松本目線でダイジェスト。


「身長測るわよ~顎少し引いて~」

「はい~」

「次体重ね、これに乗って」

「はい~」

「はい、思いっきり息を吐いて~限界まで吐いて~もっともっと」

「ふぅぅぅぅ…」

「出来るだけ高く跳ぶんだよ」

「せいやっ!」

「これ握力計ね、はい握って~」

「あらぁぁ!」

「背筋の力を測るヤツだから足使ったら駄目」

「ふんぬぁぁぁあ!」

「習得している魔法は?」

「光、火、水、回復、氷」

「ふひっ、ちち血を少し…ふひひっ、少しだけチクッとふひひ…」

「だ、誰かぁぁぁ! この人怖いんですけどぉぉ! 別の人に交代してぇぇ!」


結果発表。


「血液型はBでマナ量が同年代より多い、君さ結構魔法使ってる?」

「まぁそこそこ」

「中級が使えるのは?」

「たぶん光ですね」

「ふ~ん、そうなんだ、まぁ使っていればそれなりに増えるけど…マナ量多めの体質かもね」

「へぇ~」


違います、元々の松本のマナ量は極めて平均、

増えているのはパンを出しまくっているからです。


「身長は平均的だけど身体能力が高い、っていうか筋力が多いよ君、

 なんでそんなムキムキなの? 顔と体のバランスおかしいよ君、気持ち悪っ」

「まぁ鍛えてますんで(気持ち悪っ?)」


元の身体能力も平均です、努力の結果です。

何故なら転生時の申請用紙に複写された内容が


名前:マツモト ミノル

年齢:8

性別:男

能力:極めて一般的


だったからです。



「たぶんそのせいだと思うんだけどね、君、回復病の疑いあるね、

 いやまぁ普通は子供はならないんだけど、なんでかなぁ?

 知ってる回復病? 正式には無意識マナ消費症なんだけど」

「一応は、他の人にも可能性あるからしっかり検査しろって言われました」

「あやっぱり、ちょっと君再検査するから取りあえずはここで寝泊りして、

 寝てる間に調べる必要があるから」

「はい~」

「了承貰わないといけないんだけど、君ご両親は一緒に来てる?」

「両親はいないので了承とかは俺でいいですよ」

「あそう…ドーナツいる?」

「(久しぶりだなこの感じ…)俺だけ貰うとあれなんでやめときます」

「あぁもう、君子供の内からそんなに気を使うべきじゃないよ、

 ほら箱ごとあげるから、あの人達の分も足りるでしょ」

「ありがとうございます~」


松本、再検査確定。


「(う~ん…測定ミスか?)」

「ちょっと、そっちどう?」

「え? もしかしてマナ量ですか?」

「ってことは多いのね?」

「多いっす、測定ミスじゃないんですかこれ?」

「私もは自分のマナ量を測ってみたから故障とかじゃない、これ見て」

「嘘ぉ…ご両親はずば抜けてますね、Sランク冒険者より多いじゃないですか」

「ちょとフルムド伯爵呼んで来て、こんなの人間の数値じゃない」


一方、賢者の末裔ファミリーを検査していた人達は異常なマナ量に大慌て。


「ストックさん達まだ結果出て無いんですか?」

「うん、マツモト君はもう出たのかい?」

「出ましたよ、回復病の可能性あるから再検査です、暫くここで寝泊りですね、うまっ」

「へぇ~病気、怖いねぇ~うまっ」

「2人共美味しい?」

「「 美味しい~ 」」

「こんな食べ物もあったんだな、知らなかった、うまっ」


そんな騒ぎは何処吹く風、結果待ちの家族はドーナツを堪能中である。


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