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213話目【卵と松本 1】


「拝啓、親愛なる皆様いかがお過ごしでしょうか?

 お変わりなく健やかに過ごされていることを切に願わずにはいられません、

 私も変わらす健やかに過ごしております、

 ただ少し、ほんの少し変わったことがありまして…なんというか…

 現在、私、死地におります!」


流れる雲、吹き荒れる風、足元に敷き詰められた枯れ木(結構太目の枝)、そして巨大な卵、

随分と懐かしい台詞を吐きながら暗がりの中カタカタと震える少年。


さてさて、様々な人達の過去から少し先の未来までを垣間見た第6章は終わり、

始まりました第7章、時系列は現在、正確には『176話目【さらばウルダ、松本の旅立ち】』の翌朝。


「あばばばば…さささむむぅ…さむぅぃいいい…」


カタカタと震えながら巨大な卵に張り付き暖を取っているのは

久しぶりに登場した本作の主人公、松本。


「(ぎゃぁぁ風寒ぅぅぃ!! 無心になれ俺ぇぇ正気に戻ったら死ぬぞぉぉ!)」


時間経過が苦痛な時は無心になり心の平穏を保つ、、

前世の社会人時代の教訓を生かし全力で夜明け待ち中である。



Q、そんなに寒かったのなら足元の枯れ木で焚火でもすればよかったのでは?


「いや~最初は俺もそうしようと思ったんですけどね、

 環境が悪かったといいますか…たぶん丸焦げになるなぁ~って、、

 卵もゆで卵になっちゃうかもしれないですし、え? 茹でて無いから焼き卵? 確かに」


松本と卵がある場所を上から見てみると円状に枯れ木が敷き詰められており、

横から見ると尖った山の上、斜面と言うよりは断崖絶壁に近く、オマケに鼠返しになっている。


つまりは自力での脱出が極めて困難な巨大な鳥の巣、

焚火なんぞしようものなら辺り一面火の海である。

そんなこんなで根性のみで耐え忍ぶこと数時間、

山の向こう側が明るくなり始め待望の朝日が世界を照らした。


「はぁぁ…暖かい…もう暖かい…太陽って偉大…」


極寒の夜を乗り越えた松本は無意識に涙を流していた。



第5章の最後では、Sランク冒険者『水』のタレンギが所有する紫色の大きな馬車に乗り、

古のカンタルの領主フルムド伯爵、Sランク冒険者『槍』のノルドヴェル、

魔道補助具開発主任カプア、助手のハンク、

別の馬車に乗車した賢者の末裔ファミリー、母ダリア、父ストック、姉ゼニア、弟ニチと共に

自由都市ダナブルを目指していた松本。


彼の身にいったい何が起こったのか?

それを知るには前日の夕方まで時間を巻き戻す必要がある。






前日の夕方、街道をトコトコ進む紫色の大きな馬車、後ろに白色の馬車が続いている。



Q、まずは御者のお2人に伺います、お名前をどうぞ。


「どうも、この道一筋30年、雇われ御者の根無し草、ギンです」

「開業1年目、まだまだ新人のアルカネットです、宜しくお願いします」


Q、皆さん楽しそうに談笑しているようですが彼は何処に?


「上です、いや理由は分りませんが途中から何故か上に」

「後ろから見ていると天井の淵からチラチラしていて正直かなり気になっていました、

 アレはいったい何してたんですかね? なんかフンフン言ってましたけど…」

「いや自分に聞かれてもちょと…運転中に上を覗いたりしません、自分不器用ですから」

「また謙遜して~、銀さんはこの界隈では有名なんです、

 人呼んで『手綱のギン』どんな馬車でも任せられる大ベテランですよ」


Q、そうなんですかギンさん?


「いや、周りが勝手に呼んでいるだけで自分はそんな大層なもんじゃ…、

 まだまだ半人前ですよ、特にコイツを転がす時なんかは冷や汗掻きっぱなしで、

 普通のヤツよりデカいですから対向車とすれ違う時は気を張ります、

 いやいや、慢心は良くない、安全第一、それが自分の御者道です」

「今はこんなこと言ってますけど昔はかなりヤンチャしてたみたいですよ、

 街道最速を競ってたとかで『片輪のギン』なんて呼ばれてたらしいです」

「いやちょっと…」

「ギラギラに飾り付けた大きな馬車をポニコーン3頭で引きながらこうギュ~ンって、

 速度を落とさずに曲がるから内側の車輪が浮くんですよ、そりゃもう凄い迫力で」

「嬢ちゃんなんでそんな昔のこと知ってんだ?」

「御者組合に記録映像の水晶残ってますよ」

「…嘘ぉ」


Q、ヤンチャだったんですか?


「いや、まぁ…あの頃はまだ街道法も甘かったですし、

 怖いモノ知らずのクソガキだったもんで…勘弁して下さい」

「え? 8年前の映像って聞いてますけど」

「…嬢ちゃん、男ってのはいくつになってもガキみてぇなもんなのよ」

「はぁ…? あの時は何運んでたんですか?」

「ジャイアントトマホークカジキ、金背びれの極上品を丸々1本」

「ひぇぇ…恐ろしい…」


※『ジャイアントトマホークカジキ』

とんでもない突撃力を誇る巨大カジキの魔物、船に穴を空けたりする。

赤身の美味しい魚、背びれが金色に輝く個体は特上品。

別名は『船潰し』、または『海の赤い宝石』。



Q、もしかして王宮への献上品だったのですか?


「えぇ、リコッタから王宮への直行便で、しかも味を落とさないために生だったもんで、

 鮮度第一で無茶してしまいました、自分不器用ですから」

「アレ組合の馬車だったって聞きましたけど?」

「おう、街道法の改正でもうなくなっちまったけどいい馬車だったぁ、

 3馬力のモンスター馬車で飛ぶように早い、ただ暴れ馬で癖が凄いんで扱えるヤツが少なくてな」



Q、銀さんの今の馬車は?


「自分は自分の馬車を持った事はありません、雇われ専門でやってます」

「ギンさんみたいに雇われ専門は難しいですよ、信頼と腕が無いと仕事が貰えません、

 普通は組合に入って割り当てられた馬車で仕事するか、

 私みたいに持ち馬車を買って独立するかですね」



Q、白い馬車がアルカネットさんの持ち馬車ですか?


「はい、白い外観と乗車席の曲線が可愛くて、

 全然お金なかったんですけど思い切って買っちゃいました、

 ポニちゃんの食費も掛かるし返済も大変ですけど、

 お気に入りの馬車で色々な場所に行けるのは楽しいですよ」

「嬢ちゃん、この仕事続けたいなら信頼が大切だ、受けた依頼はキッチリと、但し安全第一でな」

「はいギンさん」




話しが多少逸れたがその時の様子を見てみよう。


「ふん、ふん、ふん、ふん…」

「ちょっと何してるのよマツモト? さっきからフンフン煩いんだけど?」

「すみません、ちょっと暇だったもので腕立てを…っていうかそこ開いたんですか?」

「毎回外の梯子使ってたら面倒でしょ、移動中は危ないし、その程度は設計の時に想定済みなの」

「いや教えて下さいよ…俺外の梯子使いましたって…」


天井の一部をパカっと開けタレンギが顔を出している、

風邪の疑いを掛けられ屋根上に隔離された松本は暇だったので筋トレしていたらしい。





暫くすると街道沿いに設けられた停車場に入り野営の準備を始めた。


「まさかダリアさん達が乗ってたなんて驚きましたよ」

「私も驚いた、行先が同じだったとはな、ダンブルはマツモト君の故郷なのか?」

「いえ、初めて行く場所です、ちょっとお手伝いをすることになりまして、

 ダリアさん達は旅行ですか? (ダンブル? ダナブルだったような…)」

「そんなところだ、ダンブルに行けばストックの腕が治せるらしい」

「ストックさんってニチ君と一緒にいる方ですか? あぁ~右腕が…」

「羽蛇にやられた、もう少しで死んでしまうところだったが助けて貰った」

「大変だったんですね、腕だけで済んでよかったですよ(羽蛇って何だ?)」


街道沿いに立てられた古びた看板の前で話中の松本とダリア、

ちょくちょく気になることがあるが話の腰が折れるので突っ込まないでいる。


「マツモト君は魔道義手を知っているか?」

「一応は」

「この国では子供でも知っているのだな、私は知らなかった、

 カプアさんに見せて貰ったがアレはどうなっているのだ?」

「いや~分からないですね、医学と魔法がなんちゃらって聞きましたけど、

 実用化されたのはここ数年らしいですし、まだまだ秘密なんじゃないですか?」

「そういうものか」

「そういうものです、俺も聞いていいですかね?」

「いいぞ」

「これなんて書いてあるんですか?」

「わからん、私も気になっていた、たぶん卵だな」

「卵ですよねぇ、なんだろうこれ?」


首を傾げる松本とダリア、卵の絵の下に文字も書いてあるのだが

かなり古いらしく掠れて読めない。

松本はこの看板の意味を身を持って理解することとなる。



Q、お名前をお願いします。


「ダリアだ」

「ストックです」


Q、この看板の意味を理解した時にどう思いましたか?


「卵だ」

「やっぱり卵だったんだなって」


Q、もう少し具体的に、出来れば感情を織り交ぜた感想をお願いします。


「大きな卵だ」

「凄く大きな卵でしたね、驚きました」


Q、…そうですか、その時の彼は何をしていましたか?


「一緒に森にいたな」

「シマの実もどきに捕まったりしていましたよ」


Q、シマの実もどきとは?


「シマの実に擬態した魔物だ」

「貴方方の呼び方だとカムカムレモンですね」

「シマの実は体に良いから定期的に食べるようにしている、

 シマの実もどきも食べるが実の部分だけだ、蔓は食べない」

「ははは、マツモト君は齧ってましたけどね」

「お母さんニチがお腹すいたって」

「言ってないよ、ゼニアお姉ちゃんだよ」

「ストック食事にしよう」

「子供達がお腹を空かせていますのでこの辺で失礼します」




その時の様子を見てみよう。


「は~いお肉は準備完了」

「ノルドヴェルさんちょっと切り過ぎなのでは?」

「いいのよハンク、沢山食べられるんだか文句言わない」

「ですが主任、これでは明日からの配分が…買い込んだヤツ半分くらい使ってますよ」

「なくなったら捕ればいいのよ、そうよねターレ、ターレ?」

「タレンギさんさんはシャワー中です」


フルムド伯爵が指す方向を見る3人、馬車の換気扇から湯気が排出されている。


「これいいですよね~主任、旅の途中に体を洗えるなんて夢の馬車ですよ、

 夏場なら水浴びできますけど普通はタオルで拭くだけですから、

 他の馬車にも取り付けられれば快適な旅が実現できますよ」 

「流石にこれはねぇ…給排水構造を小型化したとしてもそれなりに場所取るし、

 どうやっても高くなるし、富裕層しか無理でしょ」

「ですよねぇ、いっそのことシャワー室は無しにしてカーテンで仕切って外で使えば…

 いやそれだと排水の処理が…洗剤を使わなければ問題ないか?」

「お湯使うだけなら鍋で沸かせばいいでしょ、安上がりだし場所取らないし」

「確かに」


普通の馬車にシャワー機能は無理と結論付けるカプアとハンク。


※排水は底部に設置されたタンクに溜められフィルターでろ過して走行中に排出しています。

 給水は上部のタンクに溜めてあり、魔道加熱器で使用されている電熱線が巻かれた

 配管を通ることでお湯として利用できます。

 水魔法があればいつでも給水出来るから便利。



「夕飯は私達に任せてお先にどうぞフルムド伯爵、

 人が多いですから気を使われていては遅くなってしまいますよ」

「僕は最後でいいですよ、そりよりマツモト君を見ませんでしたか?」

「坊やならさっきまでその辺で…ってあら、いないわね」

「まさか森に?」

「流石に今から森に入る程無知じゃないと思いますけど…よく見たらダリアさん達もいないわ」

「本当だ、皆何処に?」



その頃松本は。


「(う~ん、俺の予想では9割食べられる…けど色がなぁ…)」


停車場の直ぐ横の森の中で地面に生えている果実っぽい何かの前で目を細めていた。


「(黄色と黒色ってアレとかコレとか…)」


頭の上に工事現場の看板とか高圧電流の注意喚起のマークとか蜂とかが浮かんでいる。


「これは警告色か? いやでも食べられると思うんだよなぁ~」

「それ食べられるよ」

「シマの実もどき」


色んな方向からジロジロ観察する松本にニチとゼニアが声を掛けた。


「え? 駄目だよ森に入ったら、危ないから…ゼニアちゃんだよね?」

「うん、しゅぱぁ…」

「ほら危ないから帰ろう…ニチ君であってる?」

「うん、お母さん達も近くに居るから大丈夫、しゅぱ…」

「…2人共何でそんな顔してるの?」

「しゅぱ…これ」

「しゅぱぁ…」


齧りかけの黄色と黒色の縞模様を差し出すゼニアとニチ、

シワクチャな顔でプルプルしている。


「これ食べたの? もしかして酸っぱいの?」

「うん、しゅぱぁ…」

「これシマの実、しゅぱ…酸っぱいけど体に良いんだって」

「へぇ~これシマの実って言うんだ(多分レモン的なヤツだな)」



『シマシマレモン』 まはた 『シマの実』

シマの実とは賢者の末裔達の呼び名で、正式名はシマシマレモン。

黄色と黒色の縞模様の実を付ける柑橘系の樹木。

黄色の面積が多い程甘く、黒色の面積が多い程酸っぱい、ビタミン豊富(主にC)

比較的に栽培が容易で水上都市リコッタでは専業農家がいる。

ゼニアとニチが食べているのは自生したレモン。



フルムド伯爵達が心配していた松本は元々森で生活していたし、

松本が心配しているゼニアとニチも元々コカトリスが出没する森で生活していたので、

その辺の町の住民よりは引き時を心得ているので問題ない。

そもそも直ぐそこに馬車が見える程度の場所なので

そんなに森の奥には入っていない。


「俺も食べてみようかな、どれ…」

「「 あっ… 」」


地面に生えているレモンっぽいヤツを鷲掴みにする松本、

飛び出した蔓に捕獲され口を開けた葉っぱに引きずり込まれそうになっている。


「ぎゃぁぁぁなにこれぇぇ!? もしかしてネペルテテスの亜種ぅぅ!?」

「シマの実もどき、しゅぱ…」

「シマの実に似てるけど違うヤツだよ、しゅぱぁ…」

「…2人が食べてるヤツとは違うヤツなんだ」

「うん、これはシマの実、それはシマの実もどき」

「シマの実は上にある」

「上? あ、なるほど、木に生るのね、っていうかダリアさんとストックさんそこにいたんですか」

「大量だ」

「大丈夫かいマツモト君」

「この程度なら慣れてますんで、問題ないです」


食べられないように踏ん張る松本の上でレモン収穫中のダリアとストック、

どうやらすぐ傍に生えている木がシマシマレモンの木だったらしい、

そんでもって松本が捕まっているのが落ちたレモンに擬態した肉食植物らしい。



『カムカムレモン』 または 『シマの実もどき』

シマシマレモンの木の周辺に自生する肉食植物。

見分け方は非常に簡単、シマシマレモンは樹木で枝に実を付ける、

一方カムカムレモンは蔓系の肉食植物なので地面に生え蔓に実を付ける。

味はほぼ同じ、ビタミン豊富(主にC)。


※ネペルテテスは98話目【引きずられる松本と悲しむ村人達】に登場した肉食植物。

 蔓がセロリみたいな味がする。 



「(キュウリみたいな味がするな、見た目によらずみずみずしい)」

「「 … 」」


戦利品の蔓を齧る松本、ゼニアとニチが訝しんでいる。


「え~とシマの実もどきだったっけ? 確かこれも食べられるって言ってたよね?」

「シマの実と殆ど同じだよ」

「それ黒色が多いから凄く酸っぱいと思う」

「どれどれ…しゅっっぱぁ…本当に酸っぱい…目に来る…」


顔面陥没する勢いでシワクチャの松本、目に来たのは弾けた果汁が目に入ったからである。


「っほ、黒い実は暫く置いておけば黄色くなる、食べるならそれからの方がいいよ」

「お父さん沢山採れた?」

「採れたよ~、ほらこんなに沢山」


2メートル以上の高さからストックが軽々と飛び降りて来た、

上着のお腹の部分を袋替わりにしてらしく中を覗くと大量のシマシマが収穫されている。


「さぁ、心配してるかもしれないからそろそろ帰ろう」

「僕も持つ、お父さん大変でしょ」

「私も、私も!」

「それじゃニチに手伝って貰おうかな」

「私は? お父さん私も!」

「ゼニアはお母さんを手伝ってあげてよ、沢山あるからさ」

「うん! お母さん帰ろう~お母~さん」

「これで最後だから少し待ってゼニア、っは!」


いつの間にか下に降りて来ていたダリアが木の棒でシマの実もどきの実を弾く、

飛び出した蔓を他所に地面に転がった実を回収した。


「うん、大量だな、帰ろうゼニア」

「お母さん私も持つの手伝う!」

「(なるほど、あんな感じで回収すればいいのか)」


4人が帰る中、ダリアが捨てた棒を拾う松本、帰る前に1個収穫したいらしい。


「行くぞ相棒ZZダブルゼータ、久しぶりに俺達のコンビネーション見せてやろうぜ、せやぁ!」


相棒(いい感じの棒)はシマの実もどきの実の部分を捕らえ弾き飛ばした。


「っふ、1回見ただけでやれるとは俺も成長したもんだ」


地面に転がった実を回収し決め顔の松本、たぶん棒があれば誰でも出来る。


「戦利品も手に入れたし俺も戻るかなぁ、行くぞ相棒ZZ、

 ふふふふふふぅ~ん、ふふふふふふぅ~ん、ふんふふふぅんふぅ~ん…」


レモンと蔓を片手に鼻歌交じりで相棒を振る松本。


「ふん……ん?」


地面の揺れに気付き足を止めた、耳を澄ますとゴロゴロという地響きが近付いて来ている。


「もしかして魔物!? なんかヤバい気がするぅぅ…んん!?」


木々を薙ぎ倒し姿を現したのは魔物ではなく楕円状の影。


「で、でっかいタマギョァァァ!?」


巨大な卵に撥ねられ宙を舞う松本、相棒ZZが粉々に砕け散った。



『 !? 』

「主任、なんかでっかい卵が見えませんでしたか?」

「あんなもの何処から? って言うか断末魔が聞こえたような…」

「フルムド伯爵は残って下さい、私が行きます」

「ノルドヴェルさん待って下さい! アレはもしかしたら…」

「ダリア、ゼニア無事かい?」

「大丈夫だ、ニチは?」

「無事だよ、一緒にいる」

「お父さんさっきの何?」

「たぶん卵かな? 凄く大きいかったけど」

「お母さん何か来るよ」

「!? ストックこっちへ!」

「うわ!? ニチ離れないで」


巨大な影が飛来し一同を突風が襲う、

力強い羽音は森へと向かい巨大な卵を掴んで飛び去って行く。


「ギギギギ…ギンさん…なんですかアレ?」

「良かったな嬢ちゃん、アレは山に住む怪鳥だ、滅多にお目に掛かれないから御者仲間に自慢できるぞ」

「へぇ~あの鳥そんなに珍しいんですか」

「いやいや、怪鳥自体は遠目に見えたりするからそこまでな、どえらいのはアレよ」


卵の描かれた古ぼけた看板をギンが指さしている。


「ちょとノル~、さっきの何?」


紫色の馬車からバスタオル姿のタレンギが顔を出した。


「あらセクシ~、ライトニングホークよ、うっかり落とした卵を拾いに来たみたい」

「うっかりではありませんよ、この場所では以前も同じことがあって話題になったんです、

 ほらあの看板、確か30年以上前だったと思いますけど…」

『 へぇ~ 』

「大変です! 皆さんアレを! 雷鳥が!」

「そんなに慌てなくても見えてますよストックさん、

 アレは私達の呼称だとライトニグホークと言います」

「フルムド伯爵、呼び名はどうでもいいですからよく見て下さい!

 雷鳥の足のところです! 卵のところ!」

『 ん~… 』


目を凝らす一同、ライトニングホークの足元で何かがヒラヒラしている。



Q、フルムド伯爵、その時のお気持ちをお聞かせ下さい。


「…絶望です」



  

『 えええええ!? 』

「ちょとぉぉ!? 嘘でしょ!? マツモト君んんん!?」


瀕死の松本は卵と一緒に夕焼けの空に消えた。









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