212話目【それぞれのその後】
さて、長くなった第6章も今回で終わり、
次の章の行く前に登場した者達の行く末を見てみよう。
時は裁判の翌日、時刻は朝の8時頃、場所は防衛団の訓練場の詰め所、
早めに集まって来た団員達がテーブルを囲みコーヒー片手に談笑中。
「ちょっと通るよ、気を付けな」
「すみません通ります」
その横を両手で鍋を持ったネサラとパンと食器の入ったバスケット持ったネヒルが歩いて行く。
「扉開けとくれよネヒル」
「わかった」
テーブルに置くかと思いきやそのまま外へ出て行く2人、
団員達が見慣れない母娘を不思議そうに見ている。
「ねぇお母さん、お風呂とか台所を借りるならあっちで良かったんじゃない? 綺麗だし」
「さっきの見ただろう、朝っぱらから煩くされたくないんだよ」
「だからって…これ危ないよぉ」
「心配性だねぇ、補強してるから崩れやしないさ」
やってきたのは詰所の直ぐ隣にある2階建てのボロ屋、
詰め所側に若干傾いており氷のつっかえ棒で補強されている、
歪んで出来たであろう柱と壁の隙間にも氷が詰まっており太陽光が反射してキラキラしている。
「本当かなぁ…」
「たった数日くらい辛抱しな、ほら扉開けとくれよ」
「うん…」
不安そうに扉を開けるネヒル、昨日はここで寝たそうな。
この今にも崩れそうなボロ屋は元々詰め所だった場所、
隣に立派な詰め所が出来たので倉庫代わりに使用されていたが老朽化に伴い解体が決定していた。
新しい倉庫は詰所の反対側に建築済み、団員増加に伴い拡張されている。
少し離れた場所に建築中の建物はネサレとネヒルの新居、
絶対にネサラを入団させる気だったヨトラム防衛長が先んじて指示していたらしい、
資金は防衛団の予算から出す訳にはいかないのでヨトラム防衛長のポケットマネー、
そこまでするのは町の防衛にネサラの力が必要だと判断したため、
例え前科者だろうと魔王を前にすれば大した問題ではない。
防衛団の練習場内に住まわせるあたり引き留めと監視を含んでいるとみるべきだろう。
新居が完成するまでの間は詰所に済むように提案されたが
ネサラが拒否して急遽隣のボロ屋を掃除して今に至る。
「好きなだけ取りな、余ったら夜飯だよ」
「うん」
古びたテーブルの上に置かれた鍋から豆のスープを取り分け
バスケットから取り出したパンを切り分け準備完了。
「あり合わせで作ったにしては悪くないね」
「美味しい」
窓際で静かな朝食である。
「アンタ今日何するんだい?」
「洗濯…かな? あとは…ご飯作るとか?」
「タルタ国にいる時と変わらないねぇ、折角なんだ学校行ったらどうだい?」
「学校かぁ~行った方がいいのかな?」
「どうかねぇ、行かないよりは行ったいいんだろうけど、私は良く分からないね」
「勉強する場所なんだよね?」
「そうさ、なんについてかは聞くんじゃないよ」
「う~ん、学校かぁ~…戦い方についても教えてくれるかな?」
「それならここでいいだろう、それか冒険者ギルドだよ」
「確かに」
「まぁよく分からないしさ、とりあえず行ってきな」
「うん」
「ふざけたヤツがいたら力で分からせな、子供相手ならアンタの魔法でも十分ヤレる」
「そ、それはちょと…」
「真面目に言ってんだよ、痛い目みないとわからない馬鹿もいるからねぇ」
「そうなんだ」
良くないかもしれないが割と真実である。
「お母さんは今日何するの?」
「何もやらないさ、これ食べたらダラダラしてるよ」
「防衛団に入ったんでしょ?」
「白帝が勝手に騒いでるだけさ」
「まだそんなこと言ってる」
「はははは! おはよう2人共! 昨日はよく寝れたかな?」
勢いよく扉を開き入って来るヨロラム防衛団長、ボロ屋が少し軋んだ。
「おはようございます」
「…朝っぱらから騒々しいねぇ、こっちは飯食ってんだ、少しは気を使いなよ」
「これは失礼、ネサラ君とネヒル君が下敷きになってないか心配になってね」
などと言いながら自然な流れでパンを1枚手に取るヨトラム。
「人の飯を取るんじゃないよ」
「いやいや、これは我が防衛団の経費で購入したパンだよ、
団員なら誰でも食べる権利がある、勿論ネサラ君とネヒル君も同様さ」
指を振りながらウィンクすると星が出た、
ネサラのスープに入りプカプカしている、お麩のようである。
「活動開始は9時から、それまでに準備を整えておいてくれたまえ、
期待の新人を我が団員達に紹介しよう」
「やらないっ…」
「とは言わせないよ、君は防衛団に必要な人材だ、
町を守るためなら1週間でも2週間でも説得する、毎回食事を共にしちゃうかもしれないね!」
「あぁ~…とんでもないヤツに目を付けられたもんだよ…」
頭を抱えながらスプーンで浮かんだ星を取り除くネサラ、テーブルの脇に避けられた。
「ははは、そんなに気を落とさないで、ネサラ君の気持ちも分かるよ、
大丈夫、防衛団としてしっかり活動すればしっかり給金がでます!」
「だって、良かったねお母さん、買い物行けるよ」
「良かないさ、金を稼ぐなら傭兵の方が自由でいいからねぇ」
※ネサラ達の資産(お金のみ)も没収されました。
「まぁまぁそう言わずに、今日は第2の人生の始まりだ、さぁ明るく行こう!
それとこれをネヒル君に、学校で使用する教科書が入った鞄だ、
入学手続きも済ませてあるから9時までに準備を整えておくように」
「ありがとう御座います(時計が無いや…隣に見に行かないと)」
「ネサラ君も分かったかな?」
「はいはいわかったよ、まったく…なんで白帝なのさ、質が悪いねぇ…」
悪態を付きながらスプーンで星を叩いている。
「防衛団長です」
「どっちでもいいだろう」
ネサラはヨトラムに連れられ防衛団デビュー、ネヒルはモレナに連れられ学校デビュー。
そして10時ごろ、城壁の外の馬車乗り場にて。
「(見当たらない、どの馬車だ?)」
人を運ぶ箱型の馬車と、積み荷を運ぶ幌馬車が並ぶ停車場でウロウロしているホラント、
ハドリーの見送りに来たのだが見当たらないらしい。
そうこうしている間にまた1台出発し、他の馬車も人や物を積み込み準備中の様子、
予約済みの看板を掲げている馬車は全て確認したのだが
ハドリーが乗車する馬車は見当たらなかった。
「(10時12分…やっぱりもう出発してしまったのかな? )」
懐中時計を確認し少し切なそうな顔をするホラント、
とりあえず近くの幌馬車の御者席で本を読む女性に確認してみる。
「すみません、身なりのよい男性を見かけませんでしたが? 馬車に乗る筈なんですが…」
「え? う~んそれだけではちょっと…結構いらっしゃいますし、もっと特徴とか、行先は何処へ?」
「あぁそうですよね、行先はルコール共和国です、貴族のような服装で口髭を生やしていて、
年齢は56歳、ポポの花を模した丸いブローチを身に着けています」
「ポポの花を模したブローチ…丁度後ろの方が付けられていますけど」
「え?」
振り返ると麻袋を肩に掛けたハドリーが立っている、
いつもの貴族っぽい服装ではなく、いかにも庶民といった安っぽい服装、
顔はいつも通りの貴族顔だし、首元には先程のブローチが存在感を示しているので
凄くアンバランスである。
「ち、父上!? どうなさったのですかその恰好は?」
「どうもこうも、見ての通りだ」
「いや見ての通りと言われましても…いつも気に入っておられた服はどうしたのですか?」
「当面の資金を確保するために売ったのだ、着ていた服以外は全て取り上げられてしまったからな、
お待たせして申し訳ありません、予約していたハドリーです」
「お待ちしてました、どうぞ荷物を」
「お願いします、荷台に乗ればよいですか?」
「えぇ、後ろからどうぞ、他の荷物を避けてあります」
御者の女性に麻袋を手渡し荷台の後ろに回るハドリー。
「こ、この馬車でルコール共和国まで行かれるおつもりなのですか?」
「ウルダまでだ、商品を仕入れてそこからはまた別の馬車に乗り換えだな、押してくれホラント」
「なにも幌馬車で行かれなくても…押しますよ父上、かなり遠いですし、お身体が…」
「贅沢は出来ん、おっと…ただでさえ少ない資金だ、出来る限り仕入れに回さねば、
ルコール共和国でまた一から出直しだな」
「これでは積み荷と同じ扱いですよ、そのブローチも換金してもう少し資金に余裕を持たれては?」
「昔お前の母から貰ったものだ、これを手放す気はない、乗り込みました」
「え?」
「それでは出発しますよ~」
御者の合図でゆっくりと車輪が回り出した。
「父上も母上の事を…」
「私は私の道を行く、お前も早く自分の道を見つけるのだ、
もし機会を得たらなら迷わず掴め、それが成功の秘訣だ、身の丈など後から合わせればよい」
「はい父上、お元気で」
「うむ、さらばだホラント」
ハドリーは再起を図るためルコール共和国へ向けて出発。
残るホラントに背後から音もなく忍び寄る者が1人。
「(全てを失ったというのに諦めていない、やはり父上は凄いな)」
「失礼致します」
「おわっ!?」
声を掛けたのは身なりの整ったガタイの良い初老の男性。
「手続きが完了したのが昨晩だというのに、昼前に発たれるとはあの方らしいですね」
「あれ? もしかして…アンダースさんですか?」
久しぶりに登場したアンダース、ロックフォール伯爵の従者である。
「はい、お久しぶりですホラント様」
「懐かしいですね、ペニシリ…ロックフォール伯爵が来られていたのでもしかしたらと思いましたが、
お会いするのはいつ振りでしょうか?」
「最後にお会いしたのは16年前です」
「もうそんなに経ちましたか、それにしてはアンダースさんは余りお変わりないですね」
「私は人間とエルフの血が混ざっておりますので見た目の変化が緩やかなのです」
「そうだったのですか、では寿命も?」
「純粋なエルフほどではありませんが多少は長いようです、今年で93になります」
「えぇ!? 言われなければ分からないですね、少し羨ましいです」
「ほほほ、長く生きるということは良いことばかりとは限りません、
この歳になると親しい者との別れが増えてきますので、
たまに違う時間の流れに身を置いているような感覚になります」
「そういう苦悩があるのですね」
「勿論良いことも御座います、別れがあれば出会いもまた必然、ホラント様との再会もその1つです」
「ど、どうも、なんか成長していない自分を見られるみたいで…恥ずかしいですね」
※アンダースは前ロックフォール伯爵のころから従者を務めています。
「主よりこちらを預かって参りました」
「手紙ですか?」
「お食事の招待状です、本日の12時からですので是非ご出席を」
「いや…貴族の食事会に参加できるような服は持ち合わせておりませんので…
ご存知の通りお金も余り…申し訳ないのですが辞退させて頂きます」
「そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ、料金もこちらで負担いたします、
あくまでも主とホラント様の食事会ですのでドレスコードも必要ありません」
「そういわれましてもロックフォール伯爵にも立場があるでしょうし、
裁判の翌日に大罪人の関係者と同席というのは…」
「主はそのような些細なことを気に掛ける方では御座いません、
ご友人との再会を楽しみたいというお気持ちを汲んでは頂けないでしょうか?」
「まだ私のことを友と…」
「はい、ご友人として気に掛けておられます」
「ずっと会っていなかったのに…嬉しいなぁ、わかりました参加させてい頂きます」
「お喜びになります」
そして12時前、どう見てもドレスコードが必要そうな富裕層向けのお食事処を前にしたホラント。
「(うわぁ…場違い感が凄い…こんなところに来るのは子供頃以来だな)
すみません、これを…」
「ご案内致します、どうぞこちらへ」
入口の横に立っていた係りの人に招待状を見せると個室へと案内された。
「ようこそ」
「ロックフォール伯爵、お招きいただき…」
手を軽く上げホラントの言葉を遮るロックフォール伯爵。
「ふふふ、堅苦しいのは無しにしましょう、2人だけですから昔のように友人として」
「そうだね、久しぶりペニシリ」
「久しぶりですねホラント、料理はもう手配済みですから先ずは飲み物を」
「何でもいいよ、君は赤ワインだよね? 変ってなければルコール共和国のペイン産だったかな?」
「よく覚えていましたね、ではペイン産を2つ、年代はお任せします」
「畏まりました」
注文を受けたウェイターが退室した。
「思ったより元気そうで安心しました」
「父上のことかい? 覚悟は決めてたからね」
「父上好きの貴方のことです、かなりの葛藤があったのではないですか?」
「まぁ正直ね、自分なりに考えて納得してた筈なんだけど
子供にちゃんと考えてないって怒られちゃって、
それでもう1度自分と向き合うきっかけを貰ったんだ、情けない話だけど有難かったね」
「良くある話ですが受け止められたのは貴方にその器量があったから、
出来ない者の方が多いですよ」
「そうかな?」
「そうです、羨ましいですよ、この立場になると真っすぐな言葉を掛けて下さる方はいなくなりますから」
「ははは、伯爵だからしかたないよ」
「失礼します、ペイン産の16年物です」
赤ワインを持ったウェイターが戻って来た、
流石は高級店、ルドルフ達の行きつけの酒場とは違いガラス製のワイングラスである。
「再会に」
「再会に」
香りを軽く堪能し1口含む、鼻を抜る爽やかな甘い香り、程よくボリュームのある辛さが口に広がる。
「これからどうするのですか?」
「タルタ国で良くして貰ってた人達から一緒にお酒を造らないかって誘われたけど、
私としては父上に言われた責務を果たしたいと思ってる」
「責務とは?」
「選ばれた者として民を導く責務」
「貴族ですか、凝りませんね」
「本当にね、私は貴族では無いし導く相手もいないから
漠然とこう皆の、大きい所で言えば町とか国の役に立つくらいの感じで考えてる」
「なるほど、ですが何をすべきか分からないと」
「うん、お金も無いし知り合いも殆どいない、いったい何をすればいいのかな?」
「単純に人助けという話ではないのでしょうね」
「うん、はは、何も出来ない癖におこがましい…よね、料理まだかな?」
「丁度良いお仕事がありますよ」
「え? 本当かい?」
「えぇ、貴方に適任の町を守るお仕事です」
「町を守る…あっ、衛兵、そうか…確かにそれなら役に立てるし私にもなんとか務まりそう…」
「ふふふ、やる気みたいですね、では行きましょう」
「え? 何処に? 料理がまだ…」
「料理場は別のテーブルに用意してあります、
ホラント、貴方が昔と変わらず私の友人でいてくれて嬉しく思いますよ、ふふふふふ…」
「ちょとペニシリ? (これ持っていった方がいいのかな?)」
飲みかけのワインボトルとグラスを持ちロックフォール伯爵の後に続くホラント。
「ここです、行きますよ」
「はぁ…(何でわざわざ別の部屋に?)」
「お待たせした」
「いや別に待ってはいないけ…どぅっ!?」
部屋の中で食事中のレジャーノ伯爵と目が合い息が詰まるホラント。
「ふん、冗談かと思ったが本当に来るとはな」
「ふふふ、言ったではありませんか、私の友人を侮らないで頂きたい」
「あああのあのあああのペニシリ…これ…は…まっ!?」
開けてビックリ領主勢揃いお食事会、ホラントが石になっている。
「さぁ私達も座りましょう」
「すすす座るって何…あの…2人だけで食事ってアンダースさんが…」
「おやそうでしたか、ふふふ、アンダースが間違うとは珍しい」
「(ア、アンダースさぁぁぁん!)」
当然わざとです、アンダースは仕事の出来る従者です。
「とにかく座れホラント、そこに立っていられてはいつまで経っても扉が閉まらん」
「は、はい…あ、あのレジャーノ伯爵、宜しければワインなど…
こちらルコール共和国ペイン産の16年物で…」
「必要ない、座れ」
「はぃぃぃ!」
「ふふふふふ」
レジャーノ伯爵に一睨みされ先に席に付いたロックフォール伯爵の横に着席。
「(なんだこれ? なんで座らされたの? 私にどうしろと?)」
目の前に運ばれて来たステーキを見ながら頭の中がグチャグチャのホラント。
「(ホラントさん可哀相…絶対ペニシリに騙されたな…)」
同席しているフルムド伯爵が同情の眼差しでモグモグしている。
※フルムド伯爵とホラントは幼少期に面識があります。
「ペニ、ロックフォール伯爵…説明を…」
「食事中の会話は控えた方が良いのですが」
「お願いします…この空気に耐えられない…」
「仕方ありませんね、貴方には国境付近で新たな町を作って頂きます」
「ま、町!? ど、え? 何?」
「町を作り人を留める、ただそれだけですよ」
「それだけって、え? じゃぁ私がここに座らされているのは…」
「当然領主になるからですよ、と言ってもまだ何もない只の土地ですけどね」
「話が全然見えてこないよぉぉぉ! 衛兵のくだりは何処行ったのぉぉぉ?」
立ち上がり頭を抱えながら仰け反り絶叫するホラント、領主達がビクッとした。
「煩いぞ、食事中だ、座れホラント」
「はい…」
「話は食事を終えてからだ」
「はい…」
レジャーノ伯爵に睨まれて大人しく座りホラントは味のしない食事を終えた。
「ロックフォール伯爵、何も説明していないようだが? 何故連れて来た?」
「お腹が空いていましたし、彼以上の適任者が存在しないからです、
心配せずとも必ず了承しますよ、フルムド伯爵の時もそうだったではありませんか」
「ふん」
「(僕は事後報告だったけどね…)」
フルムド伯爵の時は勝手に決めて来ました。
「ホラント、キキン帝国とシルフハイド国の事は知っていますね?」
「はい、戦争になりそうだとか…」
「まだ開戦はしていませんが時間の問題です」
「え? 本当に?」
「キキン帝国側が国境の森付近に人を集め訓練中、空が実際に確認しました、
シルフハイド国から攻め入ることは無いそうですが応戦はするとの回答です」
「まだ警告の可能性もあるのでは? 只の脅しとして…」
「空はカード王国からの正式な使者として両国を訪問しました、
シルフハイド国は国王との謁見が叶いましたが、
キキン帝国では冷たくあしらわれ謁見は叶わなかったそうです」
「え? そんなことって…」
「前例がありません、この方針転換は異常です、
正式な発表は出されていませんが統治者が変わったと考えるべきです、
開戦した際はキキン帝国の敗北が濃厚、
貴方と一緒に旅をしてきた4名のように戦うことを拒み
難民となった方達がルコール共和国に流れています」
「開戦すればキキン帝国は崩壊し更に大量の難民が溢れる、
なるほど、人を留めるとはそういう意味ですか、
国の入り口で何とか抑えなければカード王国も大変なことになる」
「その通りです、カード王国内の都市は現在拡張中ですがあくまでも魔王対策、
周辺の村々を超える容量は想定しておりません、
命とは等しく尊いモノ、地位も種族も関係なく平等です、
ですが領主として優先すべきは自国の民、悲しいですが仕方ありませんね」
「それで私に出番が回って来たということですか…
町と言えば聞こえはいいが実態は難民収容所、確かに他の町を守る仕事ですね、
ふぅ、こんな汚れ役を引き受ける方はいないでしょう、やります、私にやらせて下さい」
小さくため息をつき腹を決めたホラント。
「ほう、そこまで聞いて了承するとはな、既にある都市を引き継ぐのとは訳が違うぞ、
本当にやれるのか?」
「やります、機会は逃しません」
「ふふふ、どうですかレジャーノ伯爵、私は彼を信じても良いと思いますよ」
「違うなロックフォール伯爵、認めるかどうかを決めるのは私でない、
ここにいる全領主達と我らがカード王だ、よく聞けホラント」
「はい」
「お前は異例だ、いや正確に言えばお前の父親だな、
爵位を剥奪され、覆りはしたが1度は死罪を言い渡された者と共に過ごして来た過去がある、
私達が危惧しているのはお前がハドリーの影響を受けている可能性、
今は町とも呼べぬ場所だが仮にも領主となったお前にハドリーが干渉してくる可能性だ」
「私は今でも父を愛しています、父は優れた人物だと思います、
ですが自身の地位のために他者を犠牲にする考えには賛同できません、
私と父の道は既に分かれています、干渉して来た時は父ではなく
一介の取引相手として対応します、どうか私に国に尽くす機会をお与え下さい」
「今から採決を取る、3分の2の賛成でお前を領主候補として認める、
もし認められた後はカード王に謁見し承諾されれば正式に領主となる、良いな」
「お願いします」
「ホラントを領主候補として認める者は挙手を」
7人中6人が挙手、以外にもレジャーノ伯爵は賛成派、反対派はフラミルド伯爵だった、
額に手を当て目を固く閉じている辺りハドリーの支援者のせいでメチャクチャ迷っているらしい。
「ふん、ホラントを領主候補として認める、カード王との謁見の日程は後程連絡する」
「ありがとう御座います! 精いっぱい頑張ります! ありがとう御座います!」
「ふふふ、良かったですねホラント」
「まだ正式には認められていないけどね、誰もやらない汚れ役でも有難いよ」
「それは違います、他にも候補はいたのですが私があえて貴方を推薦したのです」
「え?」
「カード王とタルタ王の間で話し合いが行われ
カード王国内の国境付近の土地をタルタ国へ農地として貸し出すこととなりました、
土地の利用料は生産した食料の1割を納めること、
納め先は新しく出来る町、多めに作った場合は買い取り町の食料の足しにします、
ただタルタ国の方達は少々人見知りですからね」
「あぁ~確かに私意外だと無理かも…私でも無理かも…」
「その辺りは貴方とタルタ王にお任せします」
「いやぁ…どうかなぁ…」
「おや? もう弱音を吐くのですか? そんなことでは領主は務まりませんよ」
「弱音とはちょっと違うと言うか…外に出て来るかなぁ?」
「それとカード王に認められた後は各都市からの支援を元に2ヶ月以内に形を作って下さい」
「2、2ヶ月!?」
「ダナブルからは町の運営に携わる人材を派遣します」
「ありがたいけど2ヶ月は…」
「ウルダからは農作物だな、渡牛も必要だろう」
「カースマルツゥからは建築資材をだします」
「リコッタからは海の幸を、美味しいですよ」
「サントモールからは雪だな、はははは、嘘だ、資金を出す、あと生ハム原木」
「ベルジャーノからはを町作りの専門家をだす、例え難民対策だろうと町だ、
人としての生活を維持できねば町とは呼べん」
「すみません、カンタルは砂しかないので…」
色々予定は決まっていたらしい。
「働き手は各都市から貸し出す、その者達が当面の間は領民だ、
それから冒険者も備えろ、でなければ魔物に対抗できんぞ、
衛兵も必要だ、国境に配備している者達は取り込め、急げよホラント」
「レ、レジャーノ伯爵…2ヶ月では…」
「領主になる前から泣き言を口にするな、お前は先程やれると言ったな、
辞めたければ今言え、他の者に変えてやる」
「や、やります! やらせて頂きます! う、うぷっ…」
こうしてゲボ吐きそうなホラントは国境付近で奮闘する羽目に、
カード王より追加で運営資金の補助が出たためタルタ国内の屋敷で雇っていた
使用人3人(マーマル、ネリオ、ランデル)を雇い直したらしい。
ドワーフ達は街道に行くのを嫌がりタルタ国から直通の地下トンネルを掘った、
農作業にはクラージとゲルツ将軍を中心に参加し、食料の自給自足を大いに喜んだそうな。
「あったあった、ここだよねアトキン?」
「ほぉ~これが冒険者ギルドか、腕が鳴るぜ~」
「っは、どいつもこいつもパッとしない顔してるわね、
この中で私より強いヤツは何人いるのかしら?」
「マジでやんの? 正直言ってお前等めっちゃ弱いと思うぜ~」
「はぁぁぁ!? 私めっちゃ強いですけど? 何? 一番年上のくせしてビビってんのサブン?」
「見ろよサブン、店の手伝いとかの依頼があるぞ、これならいけるだろ!」
「っは、私は魔物倒したいの、そんなショボい依頼はお断りね」
「いや~俺もう40だし辞めとくわ、お前等3人でいって来いって」
「じゃぁサブン何すんの? お金稼がないといけないんだよ?」
「ルドルフさんに評判良かったし、俺は揉む仕事で生きて行くぜ~」
「「 いいかも! 」」
「良くないわよ! 私は魔法使いになりたいの! ほら行くわよアトキン、ネルポ!」
「「 おぉ~ 」」
「頑張れよ~3人共~、応援してるぜ~」
キキン帝国からって来たポンコツ4人のうち、
ネルポ、アトキン、ニーンは冒険者登録、最年長のサブンは揉み師として独立。
その後、半年くらい頑張ったが結局弱かったので4人共揉み師になった。
最初のウチは道端で揉んでいたが、労働者達に人気となり結構繁盛して店を持った。
ニーンはお金が貯まると片っ端から魔法を習得したそうな。




