表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/303

21話目【小物入れと工場長】

ポッポ村は基本的に自給自足である。

しかし、町への買出しなど、自給自足とはいえお金は必要である。

村人達は毎日ナーン貝を買いに来るのだ。

一体どうやって自給自足の村にお金が存在しているのか?

それは近くの町での交易である。

狩りで手に入れた素材や、収穫した作物の余りでは不規則であり不安定、

ポッポ村が安定した交易を可能にする物は木材である。

板や棒のような木材から、椅子や木皿などの加工品まで、必要に応じで交易している。

そのため、材木所、木材加工所には近代的な道具が揃っている。



「何をやっているのだマツモト?」


シャコシャコ…

木材加工所で座り込んでいる少年にバトーが声を掛ける。

松本の手には艶々した物が握られている。


「ナーン貝の入り江で拾った貝殻を磨いてるんですよ」


シャコシャコ…

そういって差し出された15センチ程の貝殻は、表面の層が削られ、

全体的に白く真珠のような美しさの中に、元の模様が薄っすらと確認できる。


「なかなか奇麗だな、なんの貝殻だ?」

「多分ナーン貝の小さな奴じゃないですか? 同じ形してますし、ニャーン貝が食べたんでしょ」

「なるほどな、これで完成なのか?」

「もう少し研磨してから外側を木材用のコーティング剤で保護する予定です」

「それは楽しみだな! しかし、なぜ作ろうと思ったのだ?」

「いやー俺の店って、ナーン貝とパンしか売ってないじゃないですか…」

「それで品物を増やそうと?」

「俺の呼び名、いま『工場長』なんですよ…」

「? よく解らんが、がんばれよ工場長!」


服を着た松本の呼び名に子供達は困り、パンしかない店を見て出した答えがパン工場の『工場長』である。 

ある時は『全裸マン』、そしてある時は『工場長』なのだ。



ヌリヌリ…


木材用のコーティング剤かぁ…どうなんだ? まぁ、他に選択肢がないから仕方ないけど…

後は1日くらい乾燥させれば大丈夫だろう。

さーて肉焼いてレム様達と食べるかー、帰る頃には冷めてるけど…



翌日の午後、貝殻を確認した松本は出来栄えに満足していた。

コーティング剤が乾いた貝殻は表面に透明な膜ができており、深みのある美しさに仕上がっている。

ピカピカである。



「よし、後は貝殻の根本に穴を空けて…紐を通すと…完成!」


磨かれた2枚の貝殻は根本で結ばれ、紐が垂れている。

貝殻を合わせ、垂れた紐をクルクルと巻く、松本の手の平には厚み8センチ程の貝が出来上がった。


「一応、小物入れとして作ったんだか…なんかガマ口財布みたいだな…好きだからいいけど…」


脳裏にシルバー硬貨でパンパンに太ったガマ口財布が浮かんでいる。

松本はゴールド硬貨を見たことがなかった…



これどうしよな…仕事量的に30シルバーは欲しい…

しかし、俺の店はでっかいナーン貝が5シルバー…営利目的じゃないから仕方ない…

マリーさんに相談してみるか…



「あら、奇麗な貝殻ねぇ素敵だわ~。でも使い勝手はあまりよくなさそうね」

「ですよねぇ、これを売ってお金を稼ぎたいんですけど難しいですかね?」


マリーと松本の間に置かれたガマ口財布を見て、2人は頭を捻っている。


「悪くはないのよ、けど日用品じゃなくて装飾品なのよね。日用品と考えると30シルバーじゃ売れないわ。

 いっそのこと小物入れにしないで1枚で装飾品として売った方が良いんじゃないかしら?」

「なるほど、1枚で装飾品として20シルバーとして売れば、小物入れとして売るより10シルバー多く稼げますね!」

「まぁでも、村ではその値段じゃ売れないから、町への交易に出した方がいいわね」


やっぱり交易しかないか…しかし1枚ずつ装飾品として売るか…

流石は『目利きのマリー』恐るべし!




モッキュ…モッキュ…

精霊の池で松本とレムが冷めた肉をオカズにパンを齧っている。

ワニ美は完食し水の中である。


「ということで、次の町への買出しに同行させてもらえることになりました。」

「ほう、なぜそんなにお金が必要なんだい?」

「魔石が欲しいんですよ、少なくとも火の魔石と回復の魔石」

「異世界から来た者としては、やっぱり魔法は魅力的なんだねぇ」

「それはそうですよ、光魔法は好きですけど、日常的ではないですからね。それに…」

「それに?」

「暖かい肉…食べたいじゃないですか…」

「そうだねぇ…硬いねぇ…」


火の使えない松本の寝床は、村から片道1時間である。




クツクツ…

開店前の店の裏ではナーン貝鍋が弱火に掛けられている。

森で集めたベリーを加熱している松本にバトーが声を掛ける。


「磨いた貝殻は売っていないのだな」

「今度、交易に出すことになりました。まぁ最初のヤツは穴開けちゃったんで、自分で使うことにしましたけど」


クツクツ…

煮詰めたベリーに、買ってきた砂糖を加え再度煮詰めている。


「ところで何をしているのだ?」

「ジャムを作っています。初めてだから正しく作れているかわかりませんけどね」


ジャムを別のナーン貝鍋に移し冷めるのを待ち、1口味見してみる。


「まぁまぁおいしい。 せっかくなのでバトーさんもいかがですか?」

「では、いただこうかな」

「2ブロンズです、ありがとうございます」

「ははっ、しっかりしているな。2ブロンズだ」


2ブロンズと引き換えに、10センチにちぎられたパンを受け取るバトー。

パンにはベリージャムがたっぷりと塗られている。


「ほう、甘くてなかなか美味しいな」

「おいしいですねぇ、久しぶりに甘い物たべましたよ」

「俺もだ、村では甘い物は少ないからな。後で子供達にも伝えておこう」

「早めにお願いします。保存が効かないから、今日中に食べないといけないので」

「1日限定のジャムパンか…子供達が喜ぶな、工場長」

「ははっ、では工場長らしく働きますか!」


光を反射し輝く小物入れの中では、ブロンズ硬貨が踊っている。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ