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209話目【昇る煙と嫌われる者】

さてさて、時間は少し飛び舞台は王都バルジャーノ。

ロニー教団長によるタルタ国への光魔法布教の旅は紆余曲折ありながらも無事完了、

ルドルフとミーシャに課せられたハドリーの捕獲も達せられ

大手を振って凱旋(帰宅)を果たし宴(居酒屋)が催されたのは幾日か前の出来ごとである。


途中で街道に停車した紫色のやたらとデカい馬車と出会ったがそれはまた別のお話、

今回の出来事は松本の体感より少し未来の話である。


そして長かった第6章に残された課題は裁判の結果とホラントの行く末である。


「父上、法務長に掛け合いなんとか監視付きであれば外出できる許可を頂きました、

 一緒に慰霊碑へ花を供えに行きましょう」

「馬鹿を言うな、今がどれほど大切な時か分かっているのかホラント、

 そんなことより私の支持者はまだ到着しておらんか?」

「いえ、それはまだですが…」

「っく…そうであろうな、書簡を送りはしたがカースマルツゥから王都までは時間が掛かる、

 ホラント出来る限り裁判を先延ばし支援者が到着するまでの時間を稼ぐのだ、わかったな?」

「えぇ…どちらにせよ今日はまだ裁判は行われないそうですのでご一緒に慰霊碑に…」

「はぁ…お前というヤツは…この期に及んで花など供えて何の意味がある?

 そんなことをしている暇はない、私は考えなければならないことが山ほどあるのだ」

「そうですか…」


ハドリーとネサラは地下牢に監禁中、ホラントは特に理由もないので適当に野放しにされている。

ネヒルは本人の希望でネサラと一緒の牢獄暮らしを満喫中。



そして別のお屋敷では以前見たことある光景が。


「リーヌス総務長、探らせたところやはりハドリー殿が捕らわれているようです、

 それと護衛に雇われていた例の魔法使いも同様に、もう片方は不屈と戦闘の末に死亡したと」

「良くないねぇ、まさか10年も昔のことを蒸し返すとは…

 いやはやレジャーノ伯爵の執念深さには頭が下がるよ」

「大変言いにくいのですが…ハドリー殿に裁判で証言されると私達は…」

「むしろ私が本命だろう、証言を記録されている可能性が高いが今からでも対処すべきかな?」

「地下牢は警備が厳重でして、厳しいかと…」

「当然そうだろう、言ってみただけだよ、今から手を出すのは流石に悪手だね、

 タルタ国にいる間に対処できなかったことが悔やまれるよ」

「あの2人さえいなければこんなことには…」

「有能な味方は最悪の敵になる、この世界じゃ良くあることさ」


芳しくない顔で紅茶を啜るリーヌス総務長と元財務大臣、

どうやらハドリーを始末する為に何度か刺客を放ったが

ネサラとヒルカームに返り討ちにされていたらしい


「はっはぁぁぁ!」


義手のテストで暴れ狂うヒルカームが目に浮かぶ。





そしてそして、城壁の外では。


「おいおいなんて顔して死んでんだヒルカーム、

 こっちはお前のせいで大変だったんだぞまったく…なぁパニー」

「カーネルです、レジャーノ伯爵の代理として来てるんですから

 ちゃんと分別して貰わないと困りますよギルド長」

「ルドルフ殿よくぞ遺体を持ち帰ってくれた、私の手で捕らえることは叶わなかったが

 これでようやくマイロ殿に顔向けが出来る」

「本当は生きたまま連れて来るつもりだったけど残念だわ、んじゃ氷解くわよ~、皆離れて頂戴」

「「「 はい~ 」」」


白髪が増えたダルトンギルド長、正式な執事になったパニー改めカーネル、

引退したウェンハム元衛兵長、そしてヒルカームを氷浸けにしたルドルフ。


4人がいるのは10年前に襲撃があった場所、当時被害者達を火葬した場所でもある、

現在は墓地、兼、火葬場となっており柵で囲まれた範囲に大きなモニュメントが2つ、

直ぐ近くにあるモニュメントが集団墓標、少し離れた場所にあるモニュメントが10年前の慰霊碑である。

慰霊碑建設の際に以前使用されていた施設が移転され現在の形になったそうな。


大きな集団墓標の他にも小さな墓標があるのだが、これは有料の墓、

年間料金が掛かるが個別に埋葬して貰える富裕層向けのサービスである。

一方、無料で利用できるのが集団墓標、遺灰は容器に納められ地下室に安置されるシステム、

庶民はもっぱらこっちを利用している。


「お金が掛からなくて経済的」

「纏まってるから管理が簡単」

「集団墓標ならお墓の場所を探さなくていいから楽」

「皆一緒の場所にいるから故人が寂しくない」


などなど住民達から肯定的な意見が多い集団墓標は、

埋葬する際に遺骨ではなく遺灰にすることと、埋葬場所を1つに纏めることで

人口の多い大都市にありがちな増え続けるけど減らせないという墓地問題に対応している側面がある。


当然、種族によって弔い方に違いがあるのだがカード王国の町で弔う場合は全て火葬、

上記の問題と衛生面を考慮して法令として定められている。

もちろん故郷に連れて帰り各々の方法で弔う自由もあるので、

皆さんも故人の遺志を尊重しお好きな方法を選んで頂きたい。




「行きますよウェンハムさん」

「では、よいしょっと」


氷の結晶から解放されたヒルカームの遺体はダルトンとウェンハムの手で

袋に包まれた状態で船形の板の上の寝かされた。


「よし、これで火葬の準備は出来たな、例の身内は来ないのか?」

「ミーシャが呼びに行ってる筈だからそろそろ来ると思うわ」


暫くするとミーシャとネヒル、枷を外されたネサラがやって来た。


「ちょっとミーシャ、何でまた野放しにしてるのよ!?」

「いや~周りの目もあるしよ、ネヒルが可哀相だろ」

「(この者が城壁を破壊した張本人か…)

「(おいおい大丈夫か? 杖は持ってないが…)」

「(ミーシャさんなんてことを…)」


苦い記憶に顔を顰めるウェンハム、眉を潜め警戒するダルトン、

パニーの眼帯の奥が微かに光を帯びている。


「アンタねぇ…お人よしもいい加減にしなさいよ、

 ここにはウルダと違って内情を知ってる当事者もいるの、少しは周りのことを考えて!」

「ご…ごめんなさい、お母さんを無理に誘ったのは私です、だからミーシャさんは…悪くありません」

『 … 』


言葉に詰まりながら頭を下げるネヒルにバツが悪そうな一同。


「そんなに怒るなってルドルフ、ちゃんと法務長の許可は貰ったしよ、

 下手に手枷付けて目立つよりはよっぽど周りに配慮してると思うぜ~」

「…悪かったわよ、ミーシャの言うことも一理あるわ」

「物分かりがいいじゃないかい、今さら騒ぎを起こす気はないから安心しなよ小娘」

「小娘って言うんじゃないわよオバサン、少しでも魔法を使ったら即座に処すわよ」

「いいのかねぇ~私は大事な証人の筈だけどねぇ~」

「アンタの証言は水晶に保存済みでしょ、最悪それでもいいんだけど」

「なんだい知ってたのかい、それじゃ私は用済みだろう、解放しとくれよ」

「する訳ないでしょ、大人しく法の裁きを受けなさいっての」


ヤレヤレといった様子で目覚まし草に火を付けるダルトン、

煙を吐き出しながらパニーの肩を叩くと眼帯の奥の光が消えた。


「まぁまぁ、その辺でいいだろ、早いとこヒルカームを送ってやろうぜ」

「ギルド長~目覚まし草を吸う時は周りに気を配ってください、子供もいるんですよ」

「ケチケチしなさんなよカーネルさん、ここは城壁付近で唯一火の使用が認められています、

 ですよねウェンハムさん」

「いや、火ではなく煙の話だと思うが…」

「服とか髪に匂いが着くんです、聞いてますかギルド長」


煙プカプカのダルトン、風で流された煙にネヒルが顔を顰めている。


「わざわざ送り船まで用意して律儀だねぇ、ヒルカームは大罪人だよ」

「まぁ俺のギルドの一員だったわけだし、一応な~」

「お母さん送り船って?」

「下にある板のことさ、船の形してるだろう」

「船見たことないからよく分からないけど、そうなんだ」

「上から見たらこんな形なのさ、実物はもっと大きいけどねぇ」

「何の意味があるの?」

「誰が言い出したんだが知らないが死んだヤツはマナの海へ還るんだとさ、

 コレはそこに送り出すための乗り物なんだと、わざわざ用意してやらなくてもいいのにねぇ」

「じゃこれでお父さんは海へ行けるんだ、お父さんは凄く悪いことをしたのに、

 その…皆さんありがとうございます」

『 どういたしまして 』

「(こんなの只の体裁だと思うけどねぇ、まったく純粋だよこの子は…)」


ネヒルにつられて頭を下げる一同、ネサラは肩眉を上げヤレヤレといった表情。


「んじゃ最初は娘さんに頼もうかな、その後はルドルフ頼むわ」

「はい~」


ネヒルが灯した火は次第に大きくなりヒルカームの全身を包んだ。


「さぁこれが最後よ、お別れをしなさい」


ルドルフに従い目を閉じるネヒル。


「(あんまりいいお父さんじゃなかったけど、今まで育ててくれてありがとう)

 …もう大丈夫です、ルドルフさんお願いします」

「そう、皆下がって」

『 はい~ 』


ルドルフが杖を光らせると炎は勢いを増しヒルカームは瞬く間に灰になった。


「(私達みたいな奴等には出来過ぎた最後だねぇ、そう思わないかいヒルカーム)」


立ち上る煙を仰ぎながらネサラは心の中で呟いた。

その後、ヒルカームの遺灰は容器に移され地下に安置されダルトン達は帰って行った。


※冒険者以外の職業で火魔法の扱いに最も長けているとされるのが

 火葬を取り仕切る火付け役の人達です。

 扱う火魔法は中級のフレイムではなく初級のファイヤであり、

 遺体を遺灰にするためには特定の範囲を必要温度まで上昇、維持する技術が求められます。

 これが結構マナを消費するとかで大変らしい。








「(結局私1人か…王都で慰霊碑を見れば考えを改めてくださると思ったが…

  父上はこのまま何も変わることなく法の裁きをうけるのだろうか…あ」


赤い花束を抱え俯きながら歩くホラント、

前方から歩いて来るダルトン達に気が付き立ち止まって緊張気味に軽く会釈をする。


「ど、どうも…」

「「「 どうも~ 」」」

「(ふぅ…あの人達も慰霊碑に、いや違うかもしれないけど妙に緊張してしまうな…っは!?)」

 

ダルトン達の背から逃げるように視線を逸らすが墓地に残る4人に気が付き再び緊張が走る。


「(…あ、いや、あの人達は)」


見知った者達の姿に胸を撫で下ろし歩き始めた。


「こんにちは、皆さんも来られていたのですね」

「おう、ネサラとネヒルの監視役でな」

「辛気臭い顔のわりに随分と立派な花を持って来たわね」

「ははは…(相変わらずルドルフさんには嫌われてるなぁ)」


ミーシャはいつも通りだがルドルフは合流早々に毒を吹きかけている。


「立派な慰霊碑ですね、皆さんはもう参拝されたのですか?」

「ん? 行ってねぇぞ」

「あぁ、そういえばそんなこと言ってたわねアンタ、慰霊碑はコレじゃなくてアッチ、

 とっとと行って気が済むまで花でも供えて来ればいいわ」

「え? あ、アチラでしたか」

「おいおい、そんなにきつく当たってやるなよルドルフ、ホラントにはホラントの考えがあるんだからよ」

「煩いわね、ハッキリ言わせて貰うけど私はコイツが嫌いなの、

 いつまでもウジウジと辛気臭い顔して、移動中同じ空間にいるのがどれだけ苦痛だったか、

 そんなんならわざわざ王都まで来ずにその辺で勝手に野垂れ死ねばよかったでしょ」

「ははは…辛辣ですね…」

「その顔、ほんっとイライラする、アンタに比べたらネサラやハドリーの方が100倍マシね、

 少しはその子を見習ったらどうなの、先に帰るわ、ちゃんと仕事しなさいよミーシャ」

「おう、任せとけって」


ネサラの後ろに隠れたネヒルを指差しプリプリしたルドルフは帰って行った。

 

「また一段と嫌われしまったようですね…」

「まぁ気にすんなって」

「慰霊碑でないのなら皆さんは何故ここに?」

「ヒルカームの葬式だよ」

「あ…(あの時の煙はそうだったのか)」


ネヒルのそっけない回答にハッとするホラント、花束から半分を分け差し出した。


「宜しければコレを」

「いらないよ、死んだヤツに花を贈るような趣味はないからねぇ」

「そ、そうですか…」

「それ私に下さい」


ネサラの後ろからネヒルが出て来た。


「どうぞ、では私は慰霊碑の方に行きますので」

「待って下さい、私とお母さんも一緒に行きます」

「行かないよ、慰霊碑なんて参拝して何の意味があるんだい」

「お母さん!」

「行きたけりゃ1人で行きな」

「うん…」


結局ネサラは動かず、ネヒルとホラントは集団墓標に手持ちの半分の花を供え慰霊碑に向かった。


「アンタも行ったらどうだい?」

「そりゃ駄目だな、俺は見張中だからよ」

「っは、真面目だねぇまったく」


悪態付きながら石椅子に腰掛けるネサラ。


「あのさミーシャ、この町少し変じゃないかい?」

「そうか?」

「国家反逆罪の大罪人が捕まったってのに誰も気にしちゃいない、

 非公開で地下牢に押し込んでるって言っても噂話くらいは漏れるだろうに、

 何で石も投げつけられずに散歩できてるのさ?」

「あぁなるほどな、そりゃ…」

「それは解決済みだからだね、10年前に発生した国家を揺るがす未曽有の大惨事は

 甚大な被害を被ったものの2人の冒険者の活躍により鎮圧、

 壮絶な戦闘の末全滅した犯人達は徒党を組んだ野盗であり、

 城壁を破壊した魔法使いがギルドを追放された実力者で会ったことが後に判明、

 ギルドへの非難の声も上がったが鎮圧した2人の冒険者の献身的な働きが功をそうし沈静化、

 と同時に対応が遅れた防衛団にも避難の声が上がると予測されたが、

 そもそも存在感が薄く期待されていなかったこと、予算が削減されていたことなどの理由で

 特に目立った影響は無く、むしろ今後の重要性を鑑み予算が増した、いや~怪我の功名って奴かな?」


いきなり現れて長々と話す甲冑姿の男。


「なんだいこの変なのは?」

「私は防衛団の団長を務めているヨトラム、宜しく大罪人のネサラ君」


満面の笑みで右手を差し出す防衛長ヨトラム、軽く払われた。

※前任の防衛長アルバさんは退任しました、ちょくちょくギルドの裏で目覚まし草を楽しんでいます。


「まぁそう言うわけで一応終わったことになってんだよ、

 俺達みたいに当時直接関係したヤツか、相当偉い立場の人じゃねぇと知らねぇんだわ」

「なんだいそりゃ、だったらほっといてくれても良かったんじゃないかい?」

「無理にでも終わらせたのは民のためさ、いくら時間が経とうとも君達の罪が消えることはない、

 私はこの日が来るのを心待ちにしていたよ」


などと話しながらネサラの横に腰掛けるヨトラム。


「馴れ馴れしいヤツだね、あっちに座りな」

「自分が犯した罪の慰霊碑を見てネサラ君はどう思ったのかな?」

「人の話を聞かないくせに質問するのかい、内容も裁判の予行練習みたいに気持ち悪いしさ、

 別になんとも思いやしないよ、私は傭兵だったんだ、仕事だからやる、それだけだよ」

「なるほど、犠牲者の方達に償うにはどうすればいいと思うかな?」

「っは、償う? 逆に私が聞きたいねぇ死人にどうやって償うのさ? 

 花を供えるだの手を合わせるだの何の意味もありゃしないんだよ、死んだらそこで終わりだからねぇ」

「うん、なるほど、では遺族の方達ならどうかな? 通例であれば賠償金を払うことになっている」

「償いって意味ならそれでもいいのかもしれないけどねぇ、正直笑っちまうよ、

 生きてるヤツの命は金で買えるけど死んだヤツの命は買えやしないんだ、

 その金はだたの慰めさ、私を磔にしたところで死人が生き返る訳じゃない、

 何したって気を紛らわせるだけの偽善、本当の意味の救いなんて元々無理なのさ」

「そうか、君という人物が少し分かった気がするよ」

「期待外れだったかい? 涙をながしながら懺悔でもして欲しいなら他を当たりなヨトラムさん」

「いや、期待通りだ、裁判を楽しみにしている、それではネサラ君、ミーシャ君また会おう」

「「 はい~ 」」


ヨトラムは去って行った。


「ネサラよぉ、少しは心証とか気にした方がいいと思うぜ~」

「御免だね、結果が決まってるのに今更気にしたって意味ないだろう」

「そりゃそうだ」




そして慰霊碑では。


「これ全部人の名前なんですか?」

「そうだね」

「こんなに沢山なんですか?」

「うん、526人だそうだよ」

「そうですか…」


名前の刻まれた石板の元に花を置き目を閉じる2人、

暫くしてホラントが口を開いた。


「同じような境遇でタルタ国からココまで旅をしてきたけど、

 こうやって話をするのは初めてだよね、1つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「なんですか?」

「一緒に来たら辛い思いをするだろうに何故ウルダに残らなかったのかなって思って、

 あの無理には答えなくても大丈夫だから、だた気になってね…」

「後悔したくなかったからです」

「後悔?」

「今から辛いことが沢山あるって分かっています、でも私はお母さんに会いたかった、

 最後まで一緒にいてもっとお母さんのこと知りたいって思ったんです、

 そうしないときっと後悔するって、そういう生き方をしてもいいんだって教えてくれた人がいて、

 お母さんやお父さんもそうだったから…それで…」

「そうか、君は強いんだね」

「私からも質問していいですか?」

「どうぞ」

「ホラントさんはこれからどうするんですか?」

「…え?」

「私はどこまでやれるか分からないけど1人で頑張ってみるつもりです、

 お母さんとお父さんが残してくれたものが無駄じゃないんだって示したいから、

 ホラントさんはどうするんですか?」

「私は何も…父上と同じ処罰を受けるつもりだから…」

「じゃぁ死刑になったら一緒に死んじゃうんですか?」

「まぁ…そうなるね」

「何のために? 何の意味があるんですか?」

「え?」


少し口調が強くなったネヒルの質問に戸惑うホラント。


「ホラントさんは死ぬためにここまで来たんですか?」

「いや、父上に自分の行いを顧みて頂きたくて…最後まで説得しようと」

「じゃぁなんで死ぬんですか? 一緒の罰を受ける理由はないです」

「私には父上を止められなかった責任が…」

「でもホラントさんはこの人達に何もしてないじゃないですか、

 苦しいから逃げ出そうとしているだけじゃないんですか?」

「あ…ぅ…うん、そうかもしれないね」


目を逸らし苦笑いするホラント、ネヒルの額に血管が浮いた。


「ちゃんと考えてない…ルドルフさんの気持ちが分かりました、

 境遇が同じだって言いましたけど違う! 私とホラントさんは違う!

 もともと貴族だって聞きました、私はあの森しか知らないけど

 貴方は他の町も知っている筈です、私は子供で貴方は大人で、

 私は女で貴方は男で、私は1人になるけど貴方は沢山知り合いがいる筈です、

 それなのに、私は諦めてないのに貴方は諦めてる!

 私とホラントさんは全然違う! 一緒にしないで欲しいです!」

「そ、…うん」


真っすぐすぎる言葉を受け、吐き出しかけた言葉を飲み込むホラント。


「私よりもお母さんの子供の頃はもっと大変だったと思う、

 寒くてお腹が空いて痛くて私だったら多分耐えられない、

 お腹が鳴ったからって殴られたことなんでホラントさんは無いでしょう!」

「うん…」

「ウルダの後に出会ったマツモトさんを覚えてますか?

 あの人は家族もいなくて森で1人ぼっちで暮らしていたそうです、

 最近まで文字も知らなかったって聞きました、生きるために凄く努力したんだって、

 そういう人達がいるのにホラントさんは勝手に諦めてる、なんでも出来るの筈なのに!

 それだけ恵まれているのに贅沢です! お花ありがとう御座いました!」


プンスカしたネヒルは母親の元に戻っていった。

もし松本のくだりを本人が聞いていたら申し訳ない気持ちで悶え死んでいたかもしれない、

だが松本が異世界オジサンとは知らないホラントには随分と突き刺さった様子。



「(凄い子供達だ…楽になりたいから諦めているか…その通りだな)」


ネヒルの真っすぐな言葉はとても純粋で、

そこにはホラントが抱え苦悩し続けて来た背景などは加味されていない、

だからこそ鋭く、深く心を抉ったのかも知れない。


「(私は何故…何を望んでいるのか…)」


風に揺れる赤い花を見つめながらホラントは今一度自分の心と向き合うのだ。

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