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206話目【久しぶりのチビッ子】

さて、今回も前回に引き続き王都バルジャーノへの帰還中のお話。

早いとこ王都に到着しろと思うかもしれないが、

パンでも齧りながらもう少しだけ付き合って頂きたい。


「あったかいな…」

「あったかいよね…」

「あったかいわね…」

「あったかいぜ…」


ポンコツ達が心地よい陽気に照らされウトウトしている頃、

すぐ下の客室ではイドが他の3人、主にルドルフの顔色を伺いながらキョロキョロしてる。


「のう皆、相談なんじゃがちょっと聞いてくれんかの~?」

「「「 ん? 」」」

「畏まっちゃってどうしたのよイド爺さん?」

「いやその~、急いでおるのはワシも重々分かっとるんじゃが、

 その上でその~、ウルダに付いたら少しゆっくりしたいの~なんちゃって、

 ほほほ、やっぱり駄目かの?」

「何か用事でもあるのですか?」

「いや、用事という程の事じゃないんじゃよホラントさん、

 ただちょっと、折角寄るんじゃし久しぶりに弟子の店に顔を出そうと思っての」

「へぇ~ウルダにお弟子さんがいらっしゃるのですか」

「そうなんじゃよ、ドナといってワシと同じドワーフじゃて」

「え? ドワーフなのですか? それはまた、行動力のある方ですね」


人間の町で店を構えるというドワーフに驚くホラント。


「タルタ国へ向かう際も補給だけで殆ど滞在出来ませんでしたからね、

 私も光筋教団のウルダ支部に顔を出しておきたいのですが、どうでしょうかルドルフさん?」

「いいと思うわ、どうせ補給に寄るんだしゆっくりしましょう」

「いやっほぉ~う! 言ってみるもんじゃの~、ルドルフは絶対に反対すると思ったがの」

「私もギルドに用があってね、それに上の4人の圧が凄くて…」

「「「 (なるほど…) 」」」


ヤレヤレといった様子で窓を開けるルドルフ、後頭部にキラキラした何かが刺さっている。

食事の度にポンコツ達から懇願の眼差しを向けられていたらしい。


「流石にこの大所帯で宿屋はやめておいた方がいいでしょ、夕方には出発するってことで」

『 はい~ 』

「いい天気ね、ウルダも近いし、そろそろやってみようかしら」

「「「 ? 」」」


窓から杖を出しフレイムを放つルドルフ、結構高く上がり爆発した。


「なななんだ!?」

「び、びっくりしおわぁぁ!?」

「ちょ、ちょと!? 引っ張んないでよネルポ、私までおわぁぁ!?」

「危ねぇ! 引き上げろアトキン」

「お、おう!」

『 (…大丈夫か?) 』


驚いたネルポとリーンが屋根から落ちそうになっているらしい、

窓に写る断片的な情報で下の4人がハラハラしている。




一方、2台目の馬車では。


「なにやら上空で爆発しましたが…ミーシャ殿、今の魔法はいったい何の意味が? 

 あ、もしや街道に近付いて来た魔物を追い払ったとかですか?」

「いや、たぶん追い払ったんじゃ無くて呼んでるんだと思うぜ」

「呼ぶ? 魔物をですか?」

「いや魔物じゃなくてよ、お? 今度のはデケェな~」

「ほぉ~あれ程の高さまで届くとは流石はSランク冒険者、

 無事に私の疑いが晴れましたら是非お近づきになりたいものですね、勿論ミーシャ殿もご一緒に」

「お、おう…(無理だと思うぜ…)」

「ところで、ウルダでは補給をされると思いますが、その間に少しお時間を頂けないでしょうか? 

 ルート伯爵には兼ねてより大変お世話になっておりまして、ご挨拶だけに伺いたいのですが」

「う~ん、どうだろうな? どれくらい滞在するかはルドルフ達が決めると思うからよ、

 そっちに聞いてみてくれよ」

「分かりました、では後程、食事の際にでも確認してみます、

 (なんとしてもルート伯爵に御助力頂かねば…)」


ハドリーは未だ諦めてはいないらしい。



そして再び先頭の馬車。


「…反応が無いわね」

「「「 ? 」」」


窓から顔を出して周りを伺うルドルフ、ロニー達が首を傾げている。


「ちょとルドルフさん! 驚かせないで下さい!」

「そうよそうよ! 危うく落ちるところだったわよ!」

「おい辞めろネルポ、危ないから乗り出すなって! ちょマジで…重い…」

「落ちたらケガするぜ~リーン! もう無理、俺これ以上無理だぜ…引っ張るぞアトキン」

「おう!」

「「 ぎゃっ! 」」

「おぉう!? おおぉぉ!?」

「アトキン!? って俺もぉぉ危っ!? 」


身を乗りして文句を言っていたネルポとリーンが引っ込み、

反対側の窓からアトキンとサブンと思われる足が出て来た。


『 (…大丈夫か?) 』


断片的な情報にハラハラする下の4人、足が引っ込んだので大丈夫だったらしい。


「へへっ、すみませんルドルフさん、コイツ等ちょっと寝起きで気が立ってまして」

「別に気にしてないけど…そっちどうなってんの?」

「あぁ~気にしないで下さい、全然問題ありませんから、ところでさっきから何されてるんです?」

「人を呼んでるのよ、その辺に何か飛んで来てないかしら?」

「飛んで来るですか? 人が? はぁ…」

「おい聞いたか2人共、なんか飛んで来るらしいからちょっと周り見ろ」

「聞こえたってアトキン、でもそれってハイエルフでしょ~、人間が飛べるわけないじゃん」

「っは、そんなことも知らないなんてルドルフさんも馬鹿ね!」


屋根上でマウントを取るリーン、見えはしないが容易に顔が想像できる。


「ほほ~、何をしとるのかと思ったが、チビッ子を呼んどったんじゃの」

「そういうこと、近くにいれば飛んで来るでしょ」

「すみませんロニー教団長、チビッ子とは…」

「シルトアさんのことです」

「あぁ~なるほど」

「失礼ですね、僕はチビッ子じゃありません、大人です」

『 ほぁ!? 』


いつの間にか窓の外にいたシルトアに驚く一同、真後ろから声を掛けられたホラントが白目を剥いている。


「え? 飛んでる、人間が?」

「いつの間に…気が付かなかった」

「人間なわけないじゃん、ちょっとリーン帽子取ってみてよ」

「いいわよ、まったく皆馬鹿なんだから人間なわけないっての、ハイエルフ…

 あれ? 耳見えないわね、どれどれ…あれ? 短い…」

「え? じゃ何? 本当に人間なのか?」

「マジで?」

「すごぉ~い! 初めてみた」

「これが魔法の力ってこと? じゃぁ私もいつか飛べる?」

「(なんなんですかね、この人達…)」


屋根の上から伸びた手がシルトアの帽子を取ったり耳の周りの毛を掻き分けたりしている。


「僕は人間ですよ、帽子返して下さい、あと人の髪をいきなり触るなんて失礼じゃないですか?」

『 す、すみません… 』


プリプリのシルトア、上からシュンとした声が聞こえる。


「ちょっと僕も中に入れて下さい」

「え~、アンタ飛べるんだから外でいいでしょ、もう少しで昼にするから大人しくそこで待ってなさいよ」

「動いている馬車に合わせて飛ぶのは地味に面倒なんです、開けて下さい」

「中は4人で満席だっての、ただでさえロニー教団長がデカいのよ、ミーシャがいないだけましだけど」

「呼び付けといてそれはないんじゃないですか? これだからルドルフさんは…失礼しま~す」

「あ、ちょっと、勝手に入って来るんじゃないわよシルトア!」

『 (う~ん…) 』


ルドルフの制止を振り切り中に入るシルトア、ホラントとルドルフの間に座った。


「なぁさっきのって、もしかして空か?」

「何だよ空って?」

「空のシルトアさんだよ、俺王都で見たことあるから間違いない」

「マジかよ、じゃぁこの旅団にSランク冒険者が3人もいるってことか?」

「へぇ~すっごい、爆炎と不屈と風でしょ 1つの町くらいなら攻め落とせそう」

「流石に無理だろ、冒険者と衛兵がわんさか出てくるって」

「いやいや、Sランク相手に有象無象じゃ相手にならないよ、タルタ国での戦い見てないのお前」

「そうそう、普通じゃないんだから、木とか地面がボーンって」

「実は俺な、この前ミーシャさんの斧触らせて貰っちまった、めっちゃ重かったぜ」

『 おぉ~ 』

「私なんて子供の頃に双拳の耳触ったことあるわよ、結構肉厚だった」

『 へぇ~ 』


一番後ろの馬車はSランク冒険者達の話題で盛り上がっている様子。




そして街道の脇に停車し昼休憩中の一同。

食事を取り終えた者達は馬車に押し込められた体を思う存分に伸ばしている。

そんな中、誰も近寄らない2台目の馬車ではネサラ親子とミーシャが食事中である。


「気になってたんだけどさミーシャ、最近流行の魔族ってのは本当にいるのかい?」

「おういるぜ、俺はまだ見たことねぇけどな」

「ふ~ん、それじゃ魔王が復活するって話も本当なのかい?」

「たぶんな、俺は光の精霊様の言葉を信じてるぜ~」

「ははは、そりゃ大事だねぇ~、世の中無茶苦茶になっちまうよ、

 私みたいな小物に構ってる暇はないんじゃないかい?」

「そうはいかねぇな、魔王が復活したとしても法が無くなる訳じゃねぇからよ」

「そうかい、ちょいとネヒル、もう1杯スープを貰って来てくれないかい?」

「わかった」

「肉多めにして貰いなよ~」

「分かった~」


器を受け取り鍋に向かって行くネヒル、十分離れたのを確認しネサラが口を開いた。


「ねぇミーシャ、アンタ底抜けのお人よしだろう?」

「お? なんか怖ぇな」

「そんなに警戒しなくてもいいじゃないかい、余命幾ばくもない可哀想な女の話を

 少しくらい聞いてくれてもいいと思うけどねぇ~」

「いやお前は自業自得だと思うぜ、可哀想なのはネヒルだな」

「それじゃその可哀想なネヒルのために聞いとくれよ」

「お?」


何やらネサラがヒソヒソ話をしている頃、1台目の馬車ではハドリーが交渉中である。


「っと言うわけでして、ルート伯爵に長年お世話になっておりました、そうだなホラント」

「父上、それは10年以上前の話ですが…」

「ふむ、少し良いかホラント」

「はい父上」


ホラントを連れて端に寄るハドリー。


「馬鹿者、このまま王都に向かえば限りなく不利な裁判に身を投じることになるのだぞ、

 今は1人でも多くの味方が必要なのだ、ウルダでなんとしてもルート伯爵にお力添え頂き、

 そしてカースマルツゥにいる私の支援者に連絡を取る、この機を逃すわけにはいかんのだぞ」

「この状態でまだ諦めていなかったのですか父上」

「当り前だ、何故諦める必要がある? よいかホラント? どれだけ優秀な者でも必ず失敗はする、

 重要なのはそこからどのように立て直すかだ、分かったら余計なことは口にするでない」

「は、はい…」


ヒソヒソ話を終えて戻って来たハドリー。


「私の立場は理解しておりますがウルダに立ち寄り挨拶無しというのは流石に…、

 なんとかお願い出来ないでしょうか?」

「「 う~ん… 」」

「あと、できればルート伯爵に面会する際は手枷を解いて頂きたのですが、

 無論逃げる気などありませんよ、身なりを整えるのも貴族の心得なのです、

 監視役としてロニー教団長に立ち会って頂ければ心配はないと思いますが、いかがでしょうか?」

「「 う~ん…(結構我儘だな) 」」

 

ハドリーの無茶ぶりに困り顔のロニーとイド。


「そう言われてもワシは只の案内役じゃからの~」

「私もなんとも、ハドリーさんを捕らえる命を受けたのはルドルフさんとミーシャさんですので」

「なるほど、ではルドルフさんにお伺いするとします」

「それはもう少し後にした方がええじゃろ」

「今はシルトアさんと大切なお話中です」

「おや、そうですか」


そしてパンを齧りながら渋い顔のシルトア。


「それ本当なんですか?」

「それを確かめるのがアンタの仕事よ、一度王都に帰って判断を仰いて頂戴」

「簡単に言いますけど~キキン帝国って凄く遠いんですよ~」

「文句はキキン帝とやらに言いなさいよ、私がやらせたわけじゃないわ」

「それはそうですけど…」

「実際に戦争が起きてたらヤバいのよ、ほらもう1個パンあげるから、これでいいでしょ」

「いや…労力に釣り合ってないですよ…子供じゃないんですから」


文句を言いつつもコッペパンを受け取り鞄に入れるシルトア。


「でもなぁ~あのキキン帝が戦争なんてするかなぁ? 優しいお爺ちゃんみたいな人なんですよ?」

「私に聞かれても知るわけないでしょ、あったことないもの」

「でも流石に戦争ってのはちょっと…そんな馬鹿な話ないですよ」

「これ以上ここで考えても仕方ないっての、ほらさっさと行きなさいよ」

「(こ、このぉ…他人事だと思ってぇ…)はぁ~仕方ない」

「頼んだわよ~シルトア頑張れ~」

「(むぅぅ腹立つぅぅ…)」


ズボンを叩き立ち上がるシルトア、若干切れ気味である。


「それじゃ僕行きますから、今度ご飯奢ってくださぐぇ!?」


勢いよく飛び立とうとしたがミーシャに服を掴まれ落ちて来た。


「だはは、悪ぃなシルトア、ちょっと頼みたいことがあるんだよ」

「いきなり掴まないで下さいよミーシャさん、喉がぐぇって…」

「(…ああなると本当に子供みたいね)」


シルトアはミーシャの小脇に抱えられ運ばれて行った。

 



 


そしてその日の夜。

皆が寝静まる中コソコソと動く不審な影が1つ、

地面で寝る男共には目もくれず先頭の馬車に近づき中を覗いている。


「…おし、寝てるな」


椅子の上で背中を向けるルドルフを確認し、ゆっくりと扉を開け手を伸ばす不審な影。


「…あれ? 右だったか? いや左…いややっぱ右だったな」


などと小声でつぶやきながらゴソゴソと体を弄っている。


「(ぬぅぅぅ…)」


まぁ、ルドルフの目がギャンギャンに見開かれ、額にビッキビキに血管が浮いているのだが、

不審な影か知る由はない…っていうか知らぬが仏である。


「…おし」


何やら満足した不審な影は三つ編みを揺らしながら帰って行った。


「(何かしら動くとは思ってたけど…あの馬鹿もう少し上手くやれっての)」


ビッキビキのルドルフもちゃんと寝た。



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