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204話目【タルタ国を発つ馬車】

「終わったようだ」

「確かに好きにせよと言ったがこれ程までにまで暴れるとは…流石だな」

「「 あばばば… 」」


荒れに荒れたウムコモの森を見て眉を潜めるゲルツ将軍と苦笑するタルタ王、

その横で目を丸くしガタガタ震えているクラージと副将、

2つの戦場を終始観戦していたらしい。


「どうだ? 勝てるかゲルツよ」

「分からぬ、勝てたとしても只ではすまぬであろう」

「ならばどちらを恐れる? ルドルフか? ミーシャか?」

「…ルドルフ、あの魔法に対する対抗策が思い付かぬ、実際に戦えば我らの誉れは足枷となる」

「そうだ、魔法が飛び交う戦場では肉体の優位性にそれほど意味は無い、

 ミーシャのように突き抜けておれば別であるがな」

「う~む…」

「Sランク冒険者は他にも存在する、あの2人はその一端を担っているに過ぎないのだ」

「たまに訪ねて来るシルトアとやらもSランク冒険者であると聞いた、

 あのような幼子ですら強者であると…う~む、人間とは見た目では分からぬものだな」

「(シルトア様は子供ではないのですが…)」


ゲルツの真剣な顔を見て言葉を飲み込むクラージ。


「敗れた2人のように広く名の知れた者以外にも強き者は存在する、

 我等が知る世界などほんの一部にすぎぬのだ」

「ヒルカームとネサラと言ったか…間違い無く強者であった、

 認めるしかあるまい、王よ、我の道は間違いであった、進めば国を滅ぼしていたであろう」

「「 ゲルツ将軍… 」」


ゲルツの肩に手を置き諭すように語りかけるタルタ王。


「ゲルツよ、もし勝ったとしても遺恨は残る、あの4人の戦いですら10年前から続いているのだ、

 親しき者を亡くせば残された者には憎しみの炎が灯る、

 簡単に消すことは出来ぬ、心が弱ければ己を失い身を焼かれる、

 報復が成されればまた別の者に炎が灯り、その炎は留まる事を知らず燃え広がる、

 いずれは町を焼き、国を焼き、どちらかが滅ぶまで燃え続けるのだ」

「「「 … 」」」

「ならば、先に攻められた時はどうする?」

「その時は共に戦おう、敵が引かぬのであれば討ち滅ぼすことに異論はない、

 お前達が民のために鍛え上げた力はその時こそ必要になるのだ、

 だがこちらから野心を持って攻め込めばその先に道は無い、

 勝つにしろ負けるにしろ再び友好的な関係を築くには時間を要する、100年先か200年先か…」

「「「 … 」」」



4人の見守る中、ルドルフ達と合流したミーシャの報告を聞き子供が泣き出した。

ルドルフとネサラは顔色を変えず、ミーシャは泣きそうな顔で肩を落としている。

 

「王よ、ハドリーとネサラはカード王国へ連れて帰るのであろう?」

「ハドリーは間違いない、ネサラは分からぬが可能性は高いであろうな」

「うむ、副将はルルグ財務大臣と協力し馬車を用意せよ」

「了解しました、ゲルツ将軍は如何されるのでしょうか?」

「我は急ぎ拘束具を作成する、あの者を捕らえ連れ帰るにはかなりの危険が伴う、

 魔法の使用は制限できぬがせめて逃走出来ぬようにせねばなるまい」

「では頼んだぞゲルツ、我はクラージと共に話を聞いて来る」

「任されよ」

「あの~…王よ、ちょっと今は行きたくなのですが…子供がその…」

「行くぞクラージ、何かしてやれるとすれば母親のネサラか時間以外にはない、

 なればこそ部外者の我らは他の手助けをしてやらねばなるまい」

「了解です王よ」

 

こうしてタルタ国の協力もありつつハドリー捕獲作戦は完了した。





そして翌日には帰国の準備が整い、タルタ国の前には3台の馬車が並んている。

見送りに来ているのはタルタ王、クラージ、ルルグ、ゴーサ、そしてお屋敷の元使用人の3人。


「それじゃ乗り込みましょう、お土産ありがとうねぇ~、火の精霊様とウーパさんにもよろしく~」

「ちょっとルドルフさんそんな雑に…すみませんタルタ王、他の皆さんもお世話になりました」

「ははは、良いのだ、ルドルフは最初に合ったころからあの様子だ、今更変わられた方が気持ち悪い、

 光魔法の布教大義であったなロニー教団長、コレをカード王に渡して欲しい」

「書簡ですか、畏まりました、必ずお渡し致します」


一番先頭の馬車に乗り込むルドルフとロニー、タルタ王から書簡を受け取る。


「それで? 次はいつ帰って来るんだいイド? また10年後じゃないだろうねぇ~」

「そ、それは…ほらワシ店あるしの~」

「ふ~ん、10年も休み無しなのかい、ふ~ん…」

「いやそう言うわけじゃないがの…」

「ほう、へぇ~…へぇぇ~!」

「何じゃいもう! そうんなに言うならお前が来ればええじゃろ!」

「嫌さね、アタイはここが好きなんだよ」

「嘘じゃ、人間の町に行きたくないだけじゃて、いい歳して何を怖がっとるんじゃゴーザ」

「ち、違うさね!」

「はい嘘ついた~、ゴーサが嘘つく時はいっつも左上見るからの~、ワシ知っとるんじゃぞ」

「違うって言ってるだろう! もうとっとと行っちまいなクソジジイ!」

「なんじゃいババァ! 久しぶりに帰ってきたんじゃぞワシ、もっと優しく見送ってくれてもええじゃろ!」

「煩いよ! 2度と帰って来るんじゃないよ!」

「帰って来るわい! もう明日帰って来るわい! 大人しく待っとれ!」

『 (それは無理だ…) 』

「まぁまぁゴーサさん落ち着いて…」

「まぁまぁイドさん、さぁ乗りましょう」


ゴーサはクラージになだめられ、イドはロニーに促されて先頭の馬車に乗り込んだ。


「ホラント、今までタルタ国の為によく尽くしてくれた、感謝する」

「タルタ王…こちらこそ感謝しています、クラージ様も有難う御座いました」

「また遊びに来て下さいねホラント様、離れていても私は貴方の良き友人です」

「…えぇ、私も心からそう思います、花をどうかよろしく願いします」

「任せて下さい! でも持って帰ってカード王国で植え直した方がいいとも思いますけど」

「それはそうなのですが…生憎にく荷物が一杯でして…」

「確かに大所帯ですからねぇ、分かりました責任をもってお世話します」

「我儘言ってすみません」

「気にしないで下さい、道中お気を付けて」

「では私もこれで、他の方々にも宜しくお伝えください」

「ホラント、思い残すことの無いようにな」

「はい」


タルタ王とクラージに別れを告げ先頭の馬車に乗り込むホラント、

扉を閉めると不機嫌そうなルドルフが口を開いた。


「ふんっ…随分中途半端なことしてるわね、大切な友人にハッキリと伝えて無いわけ?」

「えぇ…伝えることが出来ませんでした…」

「覚悟は出来てたんじゃないわけ? 自分で決めたことに胸を張れないなら辞めたら? 

 そんなんじゃアンタの意思を尊重してくれたタルタ王にも失礼よ」

「すみません…」

「まぁまぁルドルフさん、そんなに怒らなくてもよいではありませんか、

 ホラントさんにも思うとところがあるでしょうから…」

「…別に怒ってないわよ」

「怒っとるの~、絶対怒っとるの~」

「煩いわよイド爺、その髭燃やされたくなかったら黙ってなさい」

「ひぇっ…(絶対怒っとるじゃろこれ…)」

「ルドルフさん落ち着いて下さい、そんな調子じゃ長旅の間に参ってしまいますよ」


険悪な雰囲気に割って入るロニー、イドがガタガタ震えている。

基本的にこういう時はミーシャが場を和ませてくれるのだが今回は姿が見当たらない、

何故か代わりにホラントが同席しており場違い感がある。


「あの…本当に私がこの馬車に乗ってよかったのでしょうか? やっぱりミーシャさんと変わった方が…」

「子供のことで結構ショック受け取ったからの~、ワシちょっと心配じゃわい」

「王都までかなり時間が掛かりますし、私もミーシャさんはこの馬車に乗るべきだと思いますけど…」

「自分で言い出したんだから任せておけばいいわ、私達Sランク冒険者ってのは様々な依頼を受ける、

 人間相手も良くあるし、それこそクズに家族がいたなんてこと日常茶飯事なのよ、

 心配してくれるのは有難いけど、貴方達が知らないだけで今回みたいなことは何度も経験して来てるの、

 それにネサラが本気で暴れたら止められるのは私か天敵のミーシャだけ、感情抜きにしても適任なのよ」

「「「 はぁ… 」」」


後ろの窓から後方の馬車を見る3人、御者席で手綱を握るマッチョと鎖に繋がれた紳士が見える。


「なぁミーシャ殿、つかぬことをお聞きするのだが…もしや私の席はココなのですかな?」

「おう、王都まで宜しくな」


親指を立ててニッコリ笑うミーシャ、ハドリーが目を細めている。


「いや、よろしくと言われましても…後ろの客席に座りたいのですが…」

「2人っきりにしてやろうぜ、親子水入らずでよ~」

「あのぉ…」

「な!」

「は、はい…(何故高貴な私が御者席に…)」


ミーシャの圧に負け大人しくなるハドリー、ルルグが近付いて来た。


「ハドリー様、一連の経緯はタルタ王よりお聞きしました、

 今回の処遇は個人的には残念であると感じております、

 今までカード王国との交易を取り次いて頂き本当にありがとう御座いました」

「ははは、そんなに大げさに受け取らなくても大丈夫ですよ

 ルルグ様がお聞きしたという件は何かの行き違いでしょう、

 私はきっと戻ってきますのでまた一緒に交易を行いましょう」

「そうですか、その時を楽しみにしております」

「(たぶん無理だと思うぜ…)」


などと貴族としての余裕を見せるハドリーに対し、横のミーシャがなんとも言えない顔をしている。


「マーマル、ネリオ、ランデル、それまでの間屋敷の管理を宜しく頼むぞ」

「「「 畏まりましたハドリー様 」」」

「(さようならハドリー様)」

「(お世話になりましたハドリー様)」

「(絶望的な状況でも流石はハドリー様、あのお屋敷どうしたらいいのかしら…)」


ホラントから話を聞いている使用人の3人は優雅に振る舞うハドリーに涙している。

そんな茶番を尻目にカーテンが閉められた客席の中で話をする母と娘。


「ねぇお母さん、他の人は乗らないの? 後ろの馬車には人が沢山乗ってるみたいだけど…」

「アタシとネヒルの2人だけだろうねぇ」

「それじゃ…どこかで逃げられる? お母さんの魔法なら…」

「無理だね、コレもあるし前の馬車にはルドルフ乗ってる、何よりこの化物がいるからねぇ」


前窓のカーテンをずらしミーシャを指差すネサラ、両手と両足が鎖が繋がている。


「化物って…そんなに凄い人なの?」

「そりゃ魔法が殆ど効かないからねぇ、傷も直ぐに治っちまうし控えめに言っても化物だよ」

「お母さんの嘘つき、そんな人いないよ」

「本当だよ、噓なもんかね、信じられないなら後で試してみな、

 ネヒルの魔法じゃ全力でやっても顔色1つ変えやしないよ」

「嫌だよ、だって怖いもん…」

「あはははは! コイツはアンタが何しても怒りゃしないよ、

 こうやって重罪人と娘を2人っきりにしてくれるようなお人良しだかねぇ、甘ちゃんだよ全く」

「でも…お父さんを殺した人だよ…一緒に連れて帰ってくれるのは嬉しいけど…」

「…ふぅ~、こっちに来なネヒル」

「うん、ちょ…お母さん痛い…」

「ったくこれ邪魔だねぇ、ネヒルから頼んで外しておくれよ」

「たぶん無理だと思うけど…」


ネヒルを抱き寄せるネサラ、鎖が顔に当たり痛かったらしい。


「恨み事は辞めな、ヒルカームは自分で選んでその結果死んだんだ、

 ネヒルと一緒に別な場所で生きる選択肢もあったんだけどねぇ、敢えて選ばなかった」

「どうして…」

「たぶんだけどねぇ、ヒルカームは恐れてたんだよ」

「何を?」

「アンタの父親になることをさ」

「私…」

「勘違いするんじゃないよネヒル、確かにヒルカームはアンタに何もしてやらなかったけどね、

 別にアンタを嫌ってたわけじゃないんだ、アイツが恐れたのは父親になるってことさ」

「え?」

「アンタの親父は正真正銘裏切者のクズさ、それがアイツの強さでもあった、

 守る者があると人は強くなるけどねぇ、時として弱くなるのさ、

 なんか迷惑が掛かるとか、危害が及ぶとか、この辺はさ、私が良く話してやってただろう?」

「うん…」

「アイツの強さってのはそういう余計な部分を全て切り捨てて、

 何も守る者の無い、持たざる者としての強さだった、だから父親って奴に凄く怯えてたのさ、

 右腕も無くしてさ、守る者まで出来ちまったらさ、体も心もドンドン弱くなって、

 終いには自分ってもんが無くなっちまうんじゃないかって」

「うん…」

「だからアイツは今まで通り強く自由に生きられる道を選んだのさ、

 その結果死んじまったけど最後まで裏切者のクズとして満足してたと思うねぇ」

「違う…」

「何がさ?」

「お母さんが戦っていた時、私氷で動けなくなって、どうしよも無くて死んじゃうかと思ったけど、

 何処からか魔法が飛んで来て逃げられたの、多分だけど…違うかもしれないけど…

 アレはお父さんが助けてくれたんじゃないかって…思う…

 もしそうだったらさ、父さんは最後まで裏切者のクズじゃなかったんだと思う」

「そうかい、そうかもしれないねぇ…」

「うん…」


※ヒルカームの死体は冷凍保存された状態で木棺に納められ、

 2台目の馬車の後ろに積まれています。




そして一番後ろの馬車、と言うか主に荷物を運ぶことに特化した幌馬車を補強した荷台では…


「すみませ~ん、もう少し詰めて下さ~い」

「いやちょっと…もうギチギチだって」

「いいから詰めろよ、馬車3台しかねぇんだから」

「もう無理…誰かの盾がめり込んでるからね俺…」

「何人か上に乗ろうぜ 流石に無理だってこれ」

「って言うかこんなに乗って大丈夫?」

「頑張れポニコーン、お前ならできる!」

「全員乗ったか~?」

「まだだ、あと4人乗ってないぞ~! また出発しないでくれ~!」


雇われ衛兵達がギッチギチに詰まっていた、

幌の上に追加された屋根にも何人か乗っておりかなりの大所帯である、

まぁポニコーン2匹体制なので馬力的には問題ない。


「これ乗れるか? 俺武器とか置いて行こうかな、どうせ使えねぇし」

「んじゃ私も~」

「へへっ、俺はナイフだけだから持って行くぜぇ~」

「私はどうしよかなぁ、この杖只の棒だけど背中掻く時に丁度いいのよねぇ~」

「場所とるから置いていけば? 背中なら私が掻いてあげるから~」

「もう無理して傭兵やらなくてもいいんだしよ~いらねぇだろ別に」

『(マジで何なんだコイツ等…絶対傭兵じゃねぇとは思ってたけど…)』


一同の出発は例のポンコツ4人の乗車待ちである。


「ねぇロニー教団長…あの人達ってなんなの? なんで急に増えたわけ?」

「新しい光筋教団員の方々です、是非入信したいとの申し出がありまして」

「(半分強制じゃがの…)」

「別に無理して連れて行かなくてもいいなんじゃないの…ギッチギチだし…」

「同じ志を持つ者として無下に扱うわけにいきません、全ては信仰心故に」

「(かなり力ずくじゃったがの…)」

「「 う~ん… 」」


健やかな顔で輝きを増すロニー教団長、光に照らされた3人が目を細めている。


「申し訳ありませんが何人かこの馬車の上に乗せても良いでしょうか?」

「「「 どうぞ… 」」」

「ありがとう御座います、お~い残りの方はこの上に載って下さい」

「「「「 はい~ 」」」」


ポンコツ4人は先頭の馬車の上に乗り込み、ようやく出発の準備が整った。


「それじゃ出発するわよ~、御者さんお願いしま~す」

「はいよ~、出しますよ~!」

『 はい~ 』

「んじゃ俺達も行くぜぇ~、いろいろありがとうなタルタ国の皆、

 今度はカード王国に遊びにくてくれよな~、その時はちゃんと持てなすからよ」


手を振りながら馬車を出発しようとするミーシャに近寄り耳打ちするタルタ王。


「またすぐに会うこととなる、もてなしを楽しみにしておるぞ」

「ん? そうなのか、そんじゃ準備しとくぜ、唐揚げが旨い店あるからよ」

「よろしく頼む」


2台目の馬車も出発し、最後の馬車も後に続いて行く。


『 さよ~なら~ 』

『 道中気を付けて~ 』


3台の馬車がカード王国の王都バルジャーノに向けて出発した。





そしてその日の夜、タルタ王の部屋。


「王よ、カード王国の王都まではどの程度の日数が必要なのでしょうか?」

「通常の馬車であれば1月程だが、どうしたクラージ?」

「私もタルタ王のようにいつの日か旅をしてみたいと考えておりました、

 折角カード王国に友人が出来ましたので会いに行ってみようかと思いまして」

「ならば急ぐことだ、手遅れにならぬうちにな」

「手遅れとはどのような意味でしょうか?」

「ハドリーはカード王国で裁判に掛けられ10年前の件で捌かれる、間違いなく死罪であろう、

 そしてホラントも同様の処遇を望んでおる、大人しく死罪を受け入れるであろうな」

「そ、そんな! 何故です、ホラント様は何も悪くありませんよ、

 むしろ逆です、ハドリー様を止める為に私とタルタ王に教えて下さいました」

「そうだ、だが結果として大勢の犠牲者がでた、その事でホラントはずっと悩んでおった」

「知っています、だからこそホラント様はタルタ国に尽くして下さいました、

 亡くなった方達のため、ハドリー様を止められなかったことへの償いを果たすために、

 せめて出来ることはないかと、他者の為に何かをなそうとずっと努力されて来たのです」

「クラージ、これ見よ」

「これはホラント様の手記ですか?」

「そうだ、ホラントが取り組んていたあぜ酒に関する全てが記されておる、

 誰が読んでも理解できるように丁寧にな」

「もうここに戻る気はないということですか…」

「どれだけ我が国に尽くそうともホラントは自身を許せなかったのであろう、

 誰よりも父であるハドリーを理解しているが故にな」

「王よ、何故教えて下さらなかったのです、そこまで知っておいでなら

 何故止めて下さらなかったのです! ホラント様はタルタ国の一員ではなかったのですか!」

「ならばこそ、我はホラントの考えを尊重したのだ、心の問題なのだクラージ、

 無理に留めたとしてもホラントは自身を許せぬ」

「…少し席を外します」


ホラントの手記を持ち部屋から出て行くクラージ、

暫くすると数名のドワーフを連れて戻って来た。


「タルタ王! ホラントさんが死んじゃうって本当ですか?」

「私達の工場長さね! 知ってて行かしたのかい!」

「10年も一緒にあぜ酒の改良してきたんですよ! そんなの無いですよ!」

「返して下さいよ! ホラントさんを返して下さい!」

「なんとかして下さいよタルタ王! 薄情者~!」

「酷いさね! ホラントさんは皆に優しかったんだよ!」


次々と罵声を浴びせるあぜ酒工場の従業員達。


「王よ、これがホラント様が10年で築き上げてきたものです、

 人間であるホラント様をこれだけの者達が惜しんでいるのですよ、

 これは王が日頃から望んでおられた他種族との共存ではないのですか!

 ホラント様を連れ戻しに行きましょう、もし王が行かぬと言うのであれば私だけでも行きます!」

「アタシも行くさね!」

「俺も行く! ホラントさんを連れ戻すぞ~!」

『 おぉ~! 』


タルタ王を囲み圧を掛ける従業員達とクラージ。



「ははははは! よい、実によい! この変化はホラントの最大の功績である!」

「何を笑っているのですか王よ!」

『 そうだそうだ! 』

「皆案ずるな、ホラントが死罪になることはない」

『 え? 』

「ロニー教団長にカード王宛の書簡を持たせてある、少なくともクラージ、

 お前だけは我を咎めると思ったのでな、だが予想以上にホラントの築いた信頼は厚いようだ、

 実に嬉しき誤算である! はははははは!」


豪快に笑うタルタ王、とても嬉しそうである。


「だがクラージ、先ほども言ったようにコレは心の問題なのだ、

 許せるどうかはホラント自身にしか決めれぬ」

「理解しております」

「ならば向かうとしよう、我と愛馬のみであれば数日でカード王国の王都まで辿り付くが…」

「王よ、是非私もご一緒させて下さい」

「アタシも行くさね!」

「俺もこの際だがらカード王国を見てみるかな」

「ワシも行くぞ!」

「よい、クラージ、ルルグと共に馬車を用意せよ、準備が出来次第出発するとしよう、

 なに、焦って追いつく必要はない、ホラントにも時間が必要なのだ」

「了解です王よ」


その2日後、数名のドワーフを乗せた馬車がタルタ国を出発した。


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