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203話目【ミーシャ 対 ヒルカーム】

金属が弾ける音と魔法が弾ける音、そして男達の掛け声。

ルドルフとネサラが魔法の応酬をしている頃、

隣の広場ではミーシャとヒルカームが激しく衝突していた。


「おらよぉ!」

「おう!」


左手の杖剣を弾き、追撃で迫る右の義手を弾く、そして離れ際の風魔法を粉砕する、

巨大な斧を片手で操りヒルカームの攻撃を退けるミーシャ。


ヒルカームの戦闘スタイルはヒット&アウェイ、

機動力を最大武器とし相手の攻撃範囲外から一気に踏み込み瞬時に離脱、

1撃の重さは無いが鋭く正確な攻撃、行動範囲は広く近距離以外では風魔法を差し込んで来る。


一方ミーシャは正面から敵を粉砕するストロングスタイル、

攻撃魔法は使用せず大斧と鍛え抜かれた筋肉を武器として戦う。


戦闘スタイルの関係上、必然的にヒルカームが仕掛けミーシャが受ける形が多くなる。

タルタ王とゲルツのように力と力をぶつけあう重量級の戦いではなく、

一瞬の判断が命取りになる刹那の攻防である。





「(あまり期待できでねぇが、もういっちょ狙ってみるか…)」


風魔法の合間に飛び込み背後から首を狙うヒルカーム。


「うぉらぁ!」

「おっと、危ねぇな」


交わった2本の剣を斧で受け止めるミーシャ、

崩れた態勢から力任せにヒルカームを振り払う。


「っち、おいおい、いい加減首寄越せよミーシャ、

 そんなに守らなくてもテメェならすぐ繋がるって、な?」

「だはは、そいつは無理だな、試したことねぇけどたぶん普通に死ぬからよ」


斧の範囲外に退いたヒルカームが杖剣で右肩をトントンしながら悪態を付いている。


相手の死角から飛び込み交差させた2本の剣で首を落とすというのが

ヒルカームが最も得意とする割と必中必殺の攻撃なのだが、

ミーシャ相手には今回の戦いが開始してから既に3度、10年前を含めると4度不発に終わっている。


「(デカイ図体の割に反応が速ぇ、それに加えて…)」


ウィンドエッジを2発放つヒルカーム。


「なんかさっきより勢いねぇな」


左手で髭を撫でながら右手の斧で軽々粉砕するミーシャ。


「(片手で軽々振りやがって、枝でも握ってんのかっての)

 おいミーシャ、その斧と前の棍棒、どっちが重いんだ?」

「ん? この斧の方が重いぜ~」

「マジかよ、10年前より軽そうに見える、テメェ強くなってんな」

「そりゃ10年もあれば成長するだろ、お前は前とあまり変わらねぇ気もするけどよ」

「おいふざけんな、よく見ろおら」


適当にウィンドエッジを放つヒルカーム、斧で粉砕するミーシャ。


「おいなんだよ、さっきから勢いねぇって」

「なんだじゃねぇ! 魔法が増えただろ! 10年前は使ってなかったぜ俺はぁ!

 テメェとやり合うためにネサラに頭下げたんだよ!」

「あぁ~そう言われれば確かにな、でもあんまり効いてねぇぞ」

「わかってねぇなぁ~これがあるだけで全然違うっての、

 実質剣が3本あるようなもんだし、なによりテメェのふざけた…って危ねぇなおい!」


迫ってきた巨漢と斧を避け距離をとるヒルカーム、後ろに生えていたウムコモが寸断された。


「余所見してたからよ」

「テメェ容赦ねぇな!」

「いや、そりゃまぁ、そうだろ」 

「はぁ~別に文句はねぇけどな、とにかくだ、

 そのふざけた斧の範囲に入らなくても良いってのはデケェ、

 なにせ安全な場所から一方的に攻撃できるからなぁ!」


先程とは異なり殺気モリモリのウィンドエッジを放つヒルカーム。


「おう! 今度のは勢いあるぜぇ!」


飛来する風の刃を次々と粉砕するミーシャ、斧が振られる度に地面が抉られ土埃が舞う。


「まだまだいくぜぇ!」

「おう! ドンドン来なぁ!」


安全な距離から放たれ続ける魔法を粉砕しながらミ前進して行くミーシャ。


「前に出てくんじゃねぇっての! 近寄るんじゃねぇ!」


距離を維持しながら大きめのウィンドエッジを放つヒルカーム、

地面を割き土埃を巻き上げながらミーシャへと向かって行く。


「寄らねぇ訳にはいかねぇ、な!」


振りかぶった斧を叩きつけ地面ごと粉砕するミーシャ、

舞った土埃の中に銀色の光が見えた。


「よう」

「うぉ!?」


咄嗟に斧を手放し右手を引くミーシャ、

土埃から姿を現したヒルカームが低い姿勢がら剣を振るう、

交差した2本の剣はミーシャの前腕の肉を裂いたが骨を断つには至らず。


「おらぉ!」

「っへ、危ねぇ危ねぇ」


左手で掴み直した斧でヒルカームの胴を薙ぎ払おうとするミーシャ、

瞬時に離脱され斧は空振り、一瞬の攻防は血を流させたヒルカームに軍配が上がった。


「惜しいねぇ~、もう少しでその腕落とせたんだけどなぁ」

「お前やっぱり信用出来ねぇわ、言ってることとやってることが違ぇもん」

「なにがよ? 敵を信じる方が馬鹿だっての、常識だろ」


斧で肩をトントンするミーシャと杖剣で肩をトントンするヒルカーム。

ミーシャの右腕の傷は既に完治済みである。


「とまぁ、魔法があればこういう手が使えるようになるわけだ、便利だよなぁまったく」

「なるほどな、そんじゃマナが尽きたら10年前と同じってことか」

「なんか嫌な言い方するなテメェ、大体あってるけどよ…

 俺のマナ切れよりテメェの血の残量を心配したらどうだ?」

「お?」

「最初はマナ切れを狙ってたんだけどよ、その辺の魔法職より多そうだし正直期待できねぇ、

 だが血なら確実だ、増やせるもんじゃねぇし回復魔法でも戻らねぇ、確実に減る」

「へぇ~お前ちゃんと考えてたんだな、ちょっと見直したぜ~」


そう、ミーシャの最大の弱点はマナ切れではなく出血である。

まぁ普通の相手ならそもそも傷が付けられないので大した問題ではない。




「んじゃどっちが早く無くなるか勝負ってことか、

 いいぜぇ~、俺は消耗戦なんて考えてねぇけどよ」

「俺も考えたくねぇっての、少しでも弱ったり隙を見せたらその首貰うぜ」


再び森に響き渡る金属と魔法の衝突音、一段と激しさが増している。


「おらおらおらぁ!」

「おうおう!」



1撃での決着は厳しいと判断し手数で攻めるヒルカーム、

一方ミーシャの攻撃はどこに当たっても致命傷、まともに食らえば体を寸断される可能性がある。


ルドルフとネサラの戦いでは魔法の特性上ネサラの方が優位であったが、

ミーシャとヒルカームの戦いでは1撃当てるだけで勝敗が決する可能が高く、

圧倒的にミーシャの方が優位に思われる。

だがそう簡単ではないのが強者の同士の戦いというもの、

その1撃がなかなか当たらないのだ、というか10年前から今までミーシャの攻撃は1度も当たっていない。



「おりゃ! やっぱ当たんねぇか、10年経ったってのに相変わらず早ぇなヒルカーム

 もしかして早くなったかお前?」

「当然だろ、俺の長所は素早さと性格の良さだぜ、長所は伸ばさねぇとなぁ!」

「いや性格最悪だろお前、わりと裏切るって有名だぞマジで」

「うるせぇ! 俺がそうだと言えばそうなんだよ、そういうテメェは10年で何か伸ばしたのかよ?」

「俺は髭を伸ばしたぜぇ~だはは!」


嘘である、というよりは不十分である、

髭は確かに伸びたがミーシャの能力値は10年前より軒並み上がっている、

そうでなければ10年前より素早くなったヒルカームの剣を躱したり弾くことが出来る筈がない。


一般的に肉体の全盛期は20代、30代になれば下降気味になる、

現在ミーシャは34歳、ヒルカームは35歳、いい歳したオッサンである。

普通の前衛職であれば第一線を退き引退も頭によぎり出す年齢、

だが2人共最初に出会った20代の頃より遥かに能力を向上させている、

現状維持ではなく向上、ここが重要なのだ。


Sランク冒険者として世のため人のために尽力し慕われるミーシャ。

人の道を踏み外し裏切り者として忌み嫌われるヒルカーム。


人として真逆に位置する2人だが、能力面だけを評価するならば同じ側に位置している。

只人では到達できぬ場所に至りながら更に高みを目指す者達、一握りの超越者である。



「っは! これだけやってもまだ決着が付かねぇ、

 久しぶりに命の奪い合いって感じがするぜ、たまんねぇなミーシャ!」

「え? お前大人も子供も見境なく殺すクズだろ? 戦いを楽しむような感性持ってたのかよ」

「あぁ? 悪いかよ? 別に殺すのは楽しいからじゃねぇ、仕事だから殺すのさ、要は金だよ金」

「やっぱりクズじゃねぇか、命より金ってのは俺は理解できねぇな」

「馬鹿かテメェ、命の方が大切に決まってるだろ、

 但し俺の命だけどな、死んだら金なんて何の意味もねぇ、

 だからどんなことをしても生き残る、それが俺の生き方ってやつよ」

「確か前もそんなこと言ってたよな、お前今回もヤバくなったら逃げる気だろ、逃がさねぇけどよ」

「でたよその台詞、それこそ前聞いたっての、んで結局俺は逃げ切って追手が来たのは10年後だ、

 テメェ直ぐに追いつくって言ったよな? 今更ノコノコ来やがってふざけんじゃねぇっての」

「おう悪いな、俺もルドルフも直ぐに追うつもりだったんだけどよ、いろいろあったんだよ」

「そうかよ、俺もいろいろあったぜおらぁ!」

「おう!」


斧と剣をぶつけ距離を取る2人、

ミーシャは3か所程傷を負ったがいずれも軽傷、血の損失も大して無し、

ヒルカームは未だ無傷、マナの残量はまだ余裕あり、長期戦が予想される。


「なぁミーシャ、先に言っとくがよ、俺は今回は逃げねぇぜ」

「嘘だな、お前は信用出来ねぇ」

「まぁそう邪険にすんなって、いろいろあってって言っただろ、

 右腕無くしてからよぉ、マジでいろいろ大変だたんだぜぇ、

 バランスは取り難いわ、飯は食いにくいわ、肩は凝るわ、

 依頼を受ければ馬鹿にされるわ、碌なことがねぇ、

 歩くだけでも違和感が凄くてよ、俺の戦い方には致命傷だったんだぜ」

「へぇ~大変だったんだなヒルカーム」


感情のまったく籠っていない返事をすミーシャ。


「あん!? なに他人事みてぇに言ってんだテメェ!

 俺が苦労したのは全てテメェのせいなんだよ! 聞いてんのミーシャ!」

「いや違うだろ、だって腕切ったのお前だしよ」


そう、10年前にヒルカームの右腕を握りつぶしたのはミーシャであるが 

切り落としたのはヒルカーム本人である。


「うるせぇ! 原因はテメェだろ! 俺が血反吐吐きながらなぁ

 泥水啜りながらなぁ、屈辱に耐えながらここまでやってきたのはなぁ!

 いつかテメェに右腕の借りを返すためなんだよ!

 10年待ってようやくその機会がやってきたんだ、中途半端になんて出来るわけがねぇ!

 この戦いの終わりはテメェの死以外ねぇんだよ!」


ほぼほぼ八つ当たりだがカチキレのヒルカーム、どうやら本気らしい。


「ふ~ん、なんでもいいけどな、逃げねぇってんなら大歓迎だぜぇ」


左手を前に出し威圧感が増すミーシャ、ピり付いた空気にヒルカームが反応する。


「なんだよ、まだ本気じゃ無かったのかよミーシャ」

「本気だったぜぇ~、斧を握ってた方の手はな」


右手で掴んだ斧を振りかぶり前に出るミーシャ、飛んできた風魔法を粉砕する。


「舐めやがって、上等だおらぁ!」


ミーシャの左側から低い体勢で飛び掛かるヒルカーム、

横から薙ぎ払いに来た斧を躱しミーシャの左足を狙い杖剣を振る。


「…な!?」


目の前に現れたミーシャの左手に悪寒を感じ咄嗟に後方に飛び退くヒルカーム。


「(…危ねぇ、あのまま行ってたら死んでたな、嫌なもん思い出したぜ…)」


義手に視線を流し浮かんだ汗を拭うヒルカーム、

脳裏をよぎったのは無くなった右腕の記憶。


「(あぁ…そうだった、あの手はやべぇ、迂闊に近寄って掴まれたら終わる)


無機物の腕を撫でながら考えを巡らせるヒルカーム。


「(だが積極的に前に出して来るならチャンスでもある、

  腕とは言わねぇ、指さえ飛ばせば掴まれることはねぇし斧も握れねぇ、

  片腕を封じられるわけだ)…やる価値ありだな」


ニヤリと笑い杖剣にマナを込めるヒルカーム、ミーシャの後方で爆発音が響いた。


「おぉ? ルドルフか? 派手にやってんな~」

「おらぁ!」

「うぉ!?」


後方で上がる爆炎に気を取られた隙を見逃さず切り掛かるヒルカーム、

交差した剣をギリギリで止めたミーシャの首筋からうっすら血が滲んでいる。


「んだよ、遠慮すんなって、もう少し油断しろよ」

「その台詞そのまま返すぜ」


握りつぶそうと迫る左手を後退しながら切りつけるヒルカーム、

傷を負うもお構いなしに迫り来るミーシャ。


「…くそっ(コイツ…怯みもしねぇ)」


溜めていた風魔法を放つがミーシャは止まらず、全力で後方へ飛ぶヒルカームに向けて斧を振り下ろす。


「当たらねぇ! 範囲外だぜ!」

「簡単には逃がさねぇよ!」


握力を緩め、遠心力で位置をずらし柄のギリギリを握りなおすミーシャ、

距離が伸びた斧はヒルカームに届き、左胸から斜めに傷を負わせそのまま地面を粉砕した。


「やるなミーシャ、器用なことしやがって」

「言っただろ、逃がさねぇってな、まだまだいくぜぇ!」

「調子に乗るんじゃねぇ!(傷は浅ぇ、それより問題は…)」


開戦後初めて傷を負ったヒルカーム、革製の胸当ての隙間から少量の出血が確認できる。

ミーシャの猛攻を捌きながら義手の感触を確認し渋い顔をする。


「(緩くなってやがる、ベルトが何本か切れたな)」


ヒルカームの右腕の義手は戦闘用であり、激しい動きに耐えられるよう

左肩と左脇腹、右脇腹をそれぞれベルトで固定している。

先程の攻撃で左脇腹と右肩を繋ぐベルトが切れ、

さらに左脇腹と右脇腹を固定するベルトに亀裂が入っため固定が緩み始めた。


「(長くはもたねぇ、早めに決めねぇとヤバいぜ)」


右腕の義手を失うということは単に武器が減るだけではない、

体のバランスが崩れ身のこなしに影響がでる、

到底今のような攻撃も回避も出来なくなるため

素早さが売りのヒルカームにとって致命傷となるのだ。



「おらぁ! 避けるなって!」

「馬鹿が! 当たったら死ぬんだよ!」


斧の柄に沿って義手を滑らせるヒルカーム、

即座に手を放し逆の手に持ち替え斧を振るミーシャ。


開いた手では体を狙い、状況に応じて即座に切り替え、

傷を負うも怯まず、決して止まることはない、まさに不屈、

斧の範囲内では木も岩も地面もことごとく粉砕され、

破壊を纏い前進する姿はバーサーカーのそれである。


細かな隙を突きながら傷を負わせ続けるヒルカームは内心焦っていた。

ミーシャが傷を厭わず猛攻に出たため、当初の予定より多く傷を負わせているのだが、

義手が緩み始めたことにより追い込まれ始めていた。


普通の相手であれば既に出血多量で命に関わるレベルなのだが

なにせ相手は回復魔法の使い手、ルドルフのフレイムに耐える回復力を持つ化け物。

異常な速度で傷が塞がるため思ったように出血させることが出来ていない。


「(くそっ、切りつける度に緩くなっていきやがる、

  次まともに受けたら持って行かれるな…さっさと油断しろよこの野郎)」


杖剣にマナを溜めながら隙を伺うヒルカーム、

ミーシャが斧を振り上げた時、周辺の空気が急激に冷えるのを感じた。


「おいまさかっ!?」


咄嗟に飛ぶヒルカーム、辺り一面の地面が氷に覆われミーシャの両足が固定された。


「うぉ!?」

「死ねぇぇ!」


すかさず溜めていた風魔法を放つヒルカーム、

着地と同時に斧を持つ右側から飛び掛かる。


「(おら、斧を振れよ、そしたらこっち側はがら空きだぜ!)」

「おらぁ!」 


右手で斧を振り下ろし魔法を粉砕するミーシャ。


「(振りやがったなぁ! 貰うぜその首!)」


2本の剣を交差させ首を狙うヒルカーム、

反応したミーシャが氷の拘束を解き反対側に体を逸らす。


「ちぃ!」

「そらよぉ!」


崩れた態勢から両手で持った斧を横薙ぎし地面を抉るミーシャ。


「ぐぁ!? テメェ…」


抉れた地面と共に粉砕された氷がまるで散弾のように飛び散り、ヒルカームの両足に被弾した。


「いってぇなくそっ! おらぁぁ!」

「今行くぜぇ! 待ってなヒルカーム!」


急いで両足を回復しながら風魔法を連発するヒルカーム、粉砕しながらミーシャが前進する。

思わぬ横やりからの一瞬の攻防は、ヒルカームの両足を損傷させたミーシャに軍配が上がった。




そして間もなく訪れる決着の時、

ヒルカームが奮闘するも当然止めるとこは出来ず、

斧の範囲内まで迫り立ち止まるミーシャ。


「よう、付いたぜ、足は治ったかよ?」

「あぁ、おかげさまで完全回復したぜ」


杖剣にマナを溜めながら立ちあがるヒルカーム、両足は所々出血し完治はしていない様子。

ここに来て油断などある筈もなく、残るは足を止めての果し合い、

10年前から続く因縁は次の衝突で決着である。


斧で肩をトントンするミーシャ、杖剣で肩をトントンするヒルカーム、

互いに睨み合いバチバチと火花を散らしている。


「やろうぜヒルカーム」

「ぶっ殺してやるよミーシャ」


ミーシャの背後で激しい爆発が響き、大きな爆炎が上がる。

開戦の合図を受け風魔法を放とうとした瞬間、

ヒルカームの視界の隅に氷で足を拘束され必死に爆風から身を守ろうとする子供が映った。


「(…ふざけんな!)おらぁ!」

「おう!」


風魔法はミーシャの脇腹を掠め後方へ、

右手で斧を振り上げるミーシャ、

ヒルカームが杖剣と義手を腹を目掛けを突き出す。


「っぐ…」

「テメェ、ワザと…」


杖剣はミーシャの腹に突き刺さり、義手はミーシャの左手に掴まれ止められた。


「今度は腕切って逃げられねぇぜ」

「くそがぁぁ!」


腹から杖剣を引き抜き義手を固定するベルトを切るヒルカーム、

飛び退こうとしたが義手を外しきれず、

振り下ろされた斧を受けた杖剣は砕け散り左腕と共に地面に落ちた。


「ぐぁああ!?」

「殺しはしねぇ、連れて帰って証言させねぇといけねぇからよ」

「テメェ…マジでふざけんじゃ…あがぁ」

「急いで傷を塞げって、本当に死んじまう…うお!? いってぇ!?」

「なっ!? ごはっ…」


最大の爆炎が上がり、凄まじい爆風が吹き荒れる、

粉砕されたウムコモの破片がミーシャとヒルカームを襲った。


「いてて…やり過ぎだぜルドルフ…ネサラは生きてんのかこれ?」


足に刺さった木片を抜き傷を塞ぐミーシャ、腹の傷も既に回復済みである。


「お~いヒルカーム生きてるか~?」

「あぁ…ごほっ…ピンピンしてるぜ…」

「ヒルカーム!? お前その腹…」

「何だよ…ごはぁ!?」


ウムコモの根元に力なくもたれ掛かり吐血するヒルカーム、

腹部に木片が突き刺さり夥しい出血が見られる。


「内臓か…その傷じゃ助からねぇな…」

「何て顔してんだミーシャ…笑えよ…ごほぁっ、クズの最後だぜ…」

「呆気ねぇもんだな、もっと悪あがきして死ぬもんだと思ってたぜヒルカーム」

「はぁ…はは…なぁミーシャ、苦しませる趣味がねぇんら…ごはぁ…楽にしてくれよ…」

「あぁ、いいぜ」


斧を持ちヒルカームに近寄るミーシャ。


「今楽にしてやるぜヒルカーム」

「あぁ…助かる…ぜ」

「うぉ!?」


外れ掛けた義手の根元が光り放たれるウィンドエッジ、

ミーシャの頬をかすめ空へと消えた。


「危ねぇなお前、義手にも魔増石仕込んでたのかよ、やっぱり信用出来ねぇ」

「はは…ごはっ…信じる方が…馬鹿なのさ…」

「お前よ~最後までそれでいいのかよ」

「俺は後悔…ごはっ…してねぇ…ははは…悔いは…ねぇ…ごはっごほぉ…」


激しく吐血するヒルカーム、呼吸が弱くなり瞼が閉じて行く。


「先に行くぞ…いつか…ごほ…この借りは返すぜ…ミーシャ…」

「直ぐに追いつくぜ、待ってな」


閉じ切らない瞼を部厚い掌が覆う、

鼓動が止まり薄れゆく意識の中で、

裏切り者が最後に耳にしたのは風に混じる子供の泣き声。


「(…あぁ…悔いは…)」


裏切り者の命は潰え、魂は天へと昇り、心はマナの海へと還った。

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