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200話目【10年ぶりの激闘とミーシャの秘密】


タルタ国、ウムコモの森の中に立つ小さな小屋。

椅子に座り右腕に装着した義手の留め具を外すヒルカーム。

魔道義手ではなく棒の先にフックが付いただけの生活用の義手である。


「噂の魔道義手の方がいいんじゃないかい?」


部屋の入口に寄りかかりながらネサラが声を掛けた。


「馬鹿言ってんじゃねぇ高過ぎて買えねぇっての、

 それにどうやって指名手配犯がダナブルまで行くんだよ」

「10年前は王都に入れただろう」

「そりゃ内通者のおかげだろ、どっちにしろ魔道義手なんて必要ねぇよ、

 俺はコッチの方が慣れてる」


足元の木箱を開け先程とは別の義手を取り出すヒルカーム、

脇に抱え左手で鞘をずらすと鈍く光る刀身が顔を出した。


「まぁコイツも安くは無かったけどな、よっと、この…あぁクソっ…」


義手を固定するためのベルトを掴もうと左手を伸ばすが

なかなか捕えられ金具が宙を彷徨っている。


「おいネサラちょっと手を貸してくれよ」

「嫌だね、自分でやりな」

「ったく、冷てぇヤツだな、魔法も人間性も冷てぇ」

「黙りなよ、ほら」


悪態を付きながらネサラが杖の先でベルトを押し

ようやくヒルカームの手に収まった。


「ありがとよ、コイツの唯一の欠点は装着が面倒なことだよな、

 左肩と脇腹まで固定しねぇといけねぇからベルトが掴み難くて…よっと、

 戦闘用だから仕方ねぇんだけど…おし…」


ブツブツ言いながら金具を取り付けるヒルカーム、

ようやく左肩の当て具と義手が連結された。


「一応、聞くけどねぇ、本当にやる気なのかいヒルカーム」

「おいおい勘弁しろよネサラ~前にも言っただろ、

 なんのためにこんな辺鄙な場所で没落貴族の護衛をやってきたと思ってんだ、

 コイツを使っての訓練もお前の嫌味ったらしいしごきも全部…」

「それだけかい?」

「なんだよ?」

「ここでの生活はそれ以外にもあったと思うけどねぇ」

「…」


目をそらし無言で左脇のベルトを締めるヒルカーム。


「…ふぅ~、もう10年も昔の話だよ、お互い若くも無いんだし、

 今更借りなんて返さなくてもいいと思うけどねぇ」

「だからこそだろ、魔法使いのお前と違って剣士の俺は体力勝負なんだ、

 ヨボヨボになってからじゃ遅ぇ、動けるうちにやるんだよ」

「どんな手段を使っても生き延びるってのがアンタのやり方だった筈だろう?」

「…10年も経てば変わるもんだろ、俺も、お前もな…」

「そうだねぇ、変わったちまったよ、成り行きだけどさ、

 お互いいい加減、しょうもない拘りなんて捨てちまってさ、

 ルコール共和国でひっそりと暮らすってのも…悪くないんじゃないかねぇ?」

「…それこそ今更ってもんだろ、お前だって分かってるだろ」

「…まぁ確かにね」

「…ほんと、今更だぜ、俺は変われねぇよ」

「…」


ネサラに背を向けヒルカームは金具を止めた。





そして昼過ぎ。

ハドリーの屋敷を目指しウムコモの森を歩く4人。


「クラージの話によるとこの先じゃて」

「んじゃそろそろだな、気合入れて行こうぜ~」


背中の斧を右手に移し3人の前に出るミーシャ、周囲を警戒しながら歩いて行く。


「私とミーシャが戦うからロニー教団長はハドリーの確保をお願するわ、

 イド爺さんは適当に隠れること、巻き添え食ってもしらないわよ~」

「「 はい~ 」」


なんとも気の抜けた返事を返すロニーとイド、

4人の動向を森の影から複数の瞳が静かに見つめている。


「「 !? 」」


異変を感じたミーシャとルドルフが足を止身構える、

気温が下がったと感じた瞬間、4人の体が氷に覆われた。


「お、すげぇな、一瞬だったぜ」

「油断したつもりはなかったんだけど、やられたわね、皆大丈夫?」

「一応は、右腕と下半身が完全に固定されてしまいました」

「つ、冷たいの…」


ミーシャ、ルドルフ、ロニーは片腕もしくは両腕を拘束され、

身長の低いイドは顔だけが氷から出ている状態。


「やっと来たなぁぁミーシャァァァ! この時を待ちわびたぜぇ!」


前方に姿を現した義手の男が声を上げた。


「嬉しいねぇ、俺のこと覚えていたくれたんだな~あれ? お前右腕そんなんだったっけ?

 おいどうした? 怪我でもしたのか?」

「ミィシャァァ!」


左手に持った杖を光らせ気合を入れる義手の男。


「再開の挨拶変わりだ、受け取れぇ!」


放たれた水は空中で氷へと変わりミーシャ目掛けて飛んで行く。


「おう!」


右腕を拘束する氷を何事も無く振りほどき斧を振るミーシャ、

飛んできた氷が粉砕されキラキラと宙に舞った。


「10年ぶりだってのに手荒い歓迎だぜ~ヒルカーム」

「そうでもねぇだろ、簡単に防ぎやがって」

「まぁ今の魔法じゃ俺を止めるにはちょっと足りねぇな」

「だったら気を付けるんだな、もっと手荒いヤツが来るぜ」

「おん?」


上を指しながら走り去るヒルカーム、

4人が上を見上げると日の光を遮り巨大な氷塊が落下してして来た。


「「 ほぁぁぁぁ!? 」」

「マジかよ、頼むぜルドルフ」

「分かってるわよ、懐かしいわねまったく」


氷の中で杖を光らせるルドルフ、上空で爆発が発生し巨大な氷塊が粉砕した。


「「 ほぁぁぁぁ!? 」」


降りかかる爆風と氷の破片に再び怯えるロニーとイド、白目を剥いている。


「ほい、ほい、ほい…」

「助かるわ~ミーシャ」

「し、心臓に悪いですね…アレは私には無理です…どうにも出来ません…」

「あばばばば…」


いつの間にか自由になったミーシャが全員の拘束と降りかかる破片を砕いて行く。

ロニーは冷や汗を掻きながら胸を撫で下ろし、

筋肉はあるけど一般人のお爺ちゃんイドはガタガタ震えている。


「な…何なんだアイツ等…」

「ふつう死ぬでしょアレ…」

「全然動じてないんんですけど…」

「ば、化け物…」


そしてウムコモの影に隠れていた雇われた護衛達も白目を剥いている。


「だからそう言ってんだろ馬鹿共が、俺の話聞いてなかったのかよ?」

「他所から来たアンタ等は知らないだろうけどねぇ、

 あの2人はカード王国じゃ名の知れた冒険者なんだ、下手に関わったら確実に死ぬよ」


ヒルカームとネサラが呆れている。


「じゃ、じゃあ私は雇い主の護衛側に回りますんで…ココは宜しくお願いしま~す」

「俺も素直に身を引きま~す、余裕でぶっ殺せるとか調子乗ってスミマセンでした~」

「私も雑魚とか言っちゃって本当にすみませんでした~」

「片腕のこと弄り倒して悪かったっす、俺マジでカスなんで、お2人の足元にも及ばないんで、

 本当にスミマセンでした~!」

『 した~ 』


ヒルカームとネサラを残し雇われ護衛達はハドリーの屋敷に戻って行った。


「はぁ~…なんなんだよあのゴミ共は、囮にすら使えねぇぞ」

「私が集めたんじゃないんだ、文句は雇い主に言いな」

「ド素人が焦って手当たり次第に声掛けやがって、コッチの身にもなれってんだ馬鹿野郎が…

 Sランク冒険者を知らねぇなんてどこの流れ者だよ」

「知るもんかね、この世界はお互い詮索は無しだ、そもそも知ってて戦おうなんてヤツは

 余程の馬鹿か相当の手練れだけだよ、それ以外はアイツ等と同じさ」

「まっ、それが利口ってもんだな、いくぞ」

「はいよ」


ウムコモの森からヒルカームとネサラが姿を現した。


「懐かしい顔だねぇ、私の再会の挨拶は気に入ってくれたかいルドルフ?」

「確かに懐かしかったけど挨拶するほどの仲じゃないでしょ、話したのはこれが初めての筈だけど」

「そういえばそうだったねぇ、不思議と10年来の仲に感じるよ」

「だはは、実際10年ぶりだしな、間違ってはねぇと思うぜ」

「なんならお茶でも出してやろうかミーシャ? おっとこの手じゃ上手く淹れられそうにねぇな」

「そう言うなよヒルカーム、食材切る時は便利そうだろソレ、お茶は4人分で頼むぜ、行きな」

「「 はいぃぃ 」」


ミーシャのウィンクで走り出すロニーとイド。


「させないよ!」

「甘いわね!」

「死ねぇ!」

「おう!」


ネサラが放ったライトニングはルドルフのライトニングに相殺され、

ヒルカームのウィンドエッジはミーシャの斧で粉砕された。



『ウィンドエッジ』

風の中級魔法、風の刃を飛ばす魔法、木の剪定とかに便利。



「ちょっとヒルカーム、狙うのはそっちじゃないだろう」

「うるせぇ、お前だって本気じゃ無かったじゃねぇか」


杖で肩を叩きながらネサラの小言に返事するヒルカーム、

横をロニーとイドが走り抜けていった。


「アンタ達ハドリーの護衛なんでしょ、どういうつもり?」

「別に、依頼主がどうなろうと知ったこっちゃねぇ、俺の目的は10年前の借りを返すことだからな」

「…そう、ハドリーもトンでもないヤツを雇ったもんね」

「そうでもないと思うけどねぇ、真面な神経してたらとっくに逃げ出してるよ、

 アンタ等の相手してるだけマシってもんさ」

「だはは、違いねぇ、意外と仕事熱心だな~お前等」


斧で肩をトントンするミーシャ、杖で肩をトントンするヒルカーム、

張り詰めた空気の中でトントンしながら中央へと前進して行く2人。


「なぁヒルカーム、お前そんな癖あったか? もしかして俺のマネか?」

「んなわけねぇだろ、義手で肩が凝るんだよ、なんせ腕一本分の重りが付いてるからな」

「その体でよくやるぜ、まぁ隻腕のSランク冒険者もいるから不思議じゃねぇけどな」

「そこは油断するところだろ、こっちは手負いなんだぜ」


杖を光らせウィンドエッジを放つと同時に走り出すヒルカーム、

ネサラも杖を光らせミーシャを氷で拘束する。


「(さっきのは気のせいじゃないみたいね…以前より結晶化が早くなってる、

  水魔法の媒体無しであの速度は脅威だわ)」

「おらぁぁ!」

「おう!」


再び何事も無かったかのように拘束を粉砕するミーシャ、

ウィンドエッジを避けヒルカームの義手の刃を斧の側面で受けた。


「武器変えたみてぇだな、確かよぉ、以前は棍棒じゃなかったか?」

「壊しちまってな、先っぽの球が取れちまったんだよ、そういうお前も魔法なんて使ってたか?」

「少し戦い方を変えたんだよ、こうやってテメェとやり合うためになぁ!」


左手の杖を逆に持ち直し斧を持つ右手へ振るヒルカーム、

遠心力で杖の柄が外れ刀身が姿を現した。


「うぉ!? マジかよ!」


ヒルカームを蹴り飛ばすミーシャ、杖の刃は手首を掠めたが重症には至らず、

追い打ちで飛んできたウィンドエッジは斧で粉砕された。


「痛ってぇなくそっ…」

「仕込み杖はちと卑怯なんじゃねぇか?」

「馬鹿言ってんじゃねぇ、命のやり取りに卑怯もクソもあるかよ」

「まぁな」

「俺から言わせりゃテメェの出鱈目な回復速度の方が卑怯だぜ、もう塞がってやがるしよ、

 こっちは被弾覚悟の奇襲だったってのにその程度じゃ割に合わねぇっての」


腹を擦りながら立ち上がるヒルカーム、ニヤリと笑った。


「でもまぁ全くの無駄って訳じゃねぇ、1回目と3回目は防いで、2回目は避けたな、

 ってことはネサラの言ってた魔法が効かねぇってのは嘘だろミーシャ」

「ん? おうそうだぞ、我慢してるだけだ、普通に効くぜ」

「ははっ! まさかその見た目で魔法職寄りとはな、冗談だろ」

「別に難しいことはねぇからよ、マネしてもいいんだぜヒルカーム」

「出来るわぇねぇだろ、うぉ!?」

「おいおい…」


2人の頭上で火球が爆発し氷塊が砕け散った。


「酷い女ね、味方ごと潰す気なの?」

「ヒルカームの素早さなら避けられるからねぇ、ちゃんと計算してるよ」

「おらぁ!」

「おう!」


落ちて来た破片を避けつつ2本の剣を振るヒルカーム、

破片を粉砕しながら斧を振るミーシャ、互いに引かず激戦の様子。


「ほら、見てないで援護してあげないさいよ、得意の氷魔法でミーシャの動きでも止めたら?」

「あれだけくっ付いて動かれちゃ無理だよ、そういうアンタも何もしないじゃないかい」

「なら遠慮なくやらせてもらうわ、いくわよミーシャ」


入り乱れる2人に向かって火球を3つ飛ばすルドルフ。


「マジかよ!?」

「おらよぉ!」


気が付いたヒルカームが距離を取りミーシャの斧が地面を抉る、

小規模なフレイムが炸裂しミーシャが炎に飲まれた。


「なんなんだいまったく、当り前のように巻き込んでさ、

 普通は死んでるよ、アンタの方が酷い女だろうに」

「普通じゃないミーシャがこの程度でどうにかなるわけないでしょ、そうよね?」

「あぁ、問題ねぇ」


斧で火を吹き飛ばし姿を現すミーシャ、所々焦げているが元気そうである。


「あれだよ、どういう体してんだが…相変わらずふざけたヤツだねぇ、

 何かわかったんだろ? 教えなよヒルカーム」

「別に大したことじゃねぇ、単に回復速度が異常に早ぇってだけだ」

「それは見れば分かるよ、他にもあるだろう?」

「ねぇな、使い方が普通とは違うんだよ、常時だ、

 傷を負ってからじゃねぇ、戦ってる間ずっと回復魔法を使用してやがる」

「はぁ? なんだいそれ…」

「だから傷を負った瞬間からとんでもねぇ速度で回復してんだよ、

 痛みはあるみてぇだが精神力で耐えてんだろ、理屈じゃわかるけどよ、ネサラ出来るか?」

「無理だね、マナと集中力がもちゃしないよ、

 回復魔法が発動した時だけ消費してんだろうけど、マナ量も相当だろうねぇ」

「俺は精神力ももたねぇよ、っていうか普通発狂するだろあんなの、

 笑っちまうよな、あんなゴリゴリの近接職のくせして魔法職寄りなんだよアイツは」


そう、魔法が効かないなんて思われているミーシャだが、

当人が言っているように我慢しているだけである、別に特殊な能力がある訳ではない。


ただ単に、屈強な精神力と、何事にも動じない集中力と、

それなりに大量なマナと、強靭な肉体と、長年掛けて培った戦闘技術と、

包み込むような優しさと、唐揚げを取り分ける気遣いと、

あとは豪快な笑い方と髭とモヒカンと三つ編みがあるだけ。


それがSランク冒険者『不屈のミーシャ』のカラクリである。


「聞けば確かに大したことない理屈だけどねぇ、結局化け物だよアレは」

「そういうこった、誰がマネなんて出来るかよ、まったく…

 だがマナが尽きれば普通の体と変わらねぇし、

 俺のウィンドエッジを防いだなら魔法でも効果があるんだろ」

「なるほどねぇ、ならフレイムとライトニングは駄目だよ、

 切断力の高いウィンドエッジかフリーズで作った氷塊なら効くだろうねぇ」

「それか回復不能な傷を負わせるかだな、多分首を落とせば死ぬだろ、

 どちらにせよヤリようはあるってこった」


そう、普通に死ぬのである。

爆風で表面をコンガリする範囲系のフレイム(炎の中級魔法)なら

致命傷になるより先に回復するので耐えられるが、

同じ範囲系であるエクスプロード(炎の上級魔法)なら回復速度が追い付かなくて死ぬ。

(※ルドルフ基準で説明しています)


ネサラが使用しているフリーズ(氷の中級魔法)でも、

拘束する分には簡単に振り解くが度々上空に作っている巨大な氷塊を直撃させれば圧死する。

ルドルフが確実に破壊しているのはそのためである。


雷撃を飛ばすライトニング(雷の中級魔法)は実際に穴が空くわけではないので効果が薄い、

風の刃を飛ばすウィンドエッジ(風の中級魔法)なら普通に剣で切ったのと変わりないので効く。


物理攻撃は傷の深さ次第で駄目、その辺はミーシャが受けないように戦っている。

つまりはそういう訳である。


「あの女にフレイムを撃たれたらどうにもならねぇ、

 共闘は部が悪い、こっからは別行動だネサラ」

「仕方ないねぇ、死ぬんじゃないよヒルカーム」



そして各々別々の戦場へ、ミーシャ、ルドルフ、ロニーの結末は如何に。

イド爺さんは戦いません。


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