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20話目【人としての営み】

「おーい馬車が返ったぞー」


ムーンベアーを仕留めた翌日、買出しに行っていた馬車が戻ってきた。

足早に馬車へと向かう少年は高揚していた。

松本にとって、待ちに待った記念すべき日である。




ついに来たか…約10日前にウィンディを乗せて旅立った馬車の帰還…

そう、それすなわち、俺の服が届いたということ。

それもズボンとパンツだけではない、シャツと靴を含むフルセットなのだ!

しかも、2着分!

重要なのだ、この予備の1着が…1日おきに洗濯しても着替えることが可能となる。

つまり、俺は克服するのだ…『全裸』を!

人は有史以来、体面積の半数以上を布で覆い生活してきた。

守るためである、太陽や外傷から肌を、人間社会から己の尊厳を。

この布を纏った瞬間、俺はこの世界で初めて人間となるのだ!



「服を買って頂き、ありがとうございます。しかも2着も」

「マツモト君、そんなもの着なくても今の君のままで十分魅力的よ。

 お願いだからせめてスカートに…  ヒェッ!?」


松本に服を手渡したウィンディはレベッカに引きずられて行った。

ウィンディから受け取った服はリネンで出来ており、シンプルな見た目をしている。

肌触りは良くないが、通気性と吸水性に優れ、強く手て丈夫、汚れも落ちやすい。

自給自足の生活をしている松本にとって、これ以上ない服である。


「ふふ…粗悪な服だけど嬉しいものだな。さっそく子供達に見せにいこう、全裸マンは卒業だ!」


村の広場は賑わっていた、昨日持ち込まれたムーンベアーの解体作業中である。

広場の中央を目指し歩く少年。

自信と気品に満ちた顔で、優雅に歩を進める姿はまるでモデルである。


「そろそろ全部剝がれるぞ」

「傷をつけるなよ、ゆっくりとだ」


慎重に皮を剥がれるムーンベアー、皮は加工され村の収入源となるのだ。

作業に従事する村人の横を両手を広げ通り抜ける松本。

人の波は割れ、松本の前に道が開く…その光景は、まるでモーゼの十戒である。



見よ、作業に従事する民よ! 他の者と何ら変わらぬ姿を! もはや風に揺れるウィンナーは存在しない…



バッサァ…

松本は黒く大きな波に飲まれた。


「大丈夫か坊主? 解体作業中に近寄ったら危ねぇぞ?」

「あちゃーベチョベチョじゃねぇか、あっちの川で体洗ってこい坊主」


風に煽られたムーンベアーの皮に飲まれた松本と服は、体液でベチョベチョになっていた。

森の絶対王者からのささやかな復讐である。




ゴシゴシ…ゴシゴシ…


「ふぅ…多少生臭さが残っている気がするが、後は太陽に期待しよう」


村の近くの川で体と服を洗い、予備の服に着替えた松本。

洗濯した服は店の裏で風に揺れている。


「あぁー全裸マンが服を着てるー」

「ホントだー全裸じゃない、どーしよー?」

「これからなんて呼んだらいいんだ?」

「困るぅぅぅぅぅ…」



普通にマツモトと呼べばいいのではなかろうか?

全裸以外のアイデンティティはないのか?



子供達の反応になんとも言えない顔をする松本


「いらっしゃい、パンを買いに来たのかな?」

「違うよ、呼びに来たんだよ」

「今日はパンはいらないよ、今日はみんなでお肉を食べるんだー!」

「なるほどね、ありがとう、すぐに行くよ」


昨日、松本、バトー、ゴードンの3人は精霊の池から村までムーンベアーを運んだのだが、

精霊の池から村までは片道1時間ほど掛かる。

体長3メートルを超すムーンベアーを運ぶのは、それはそれは大変だった。

3人では無理と判断し、バトーが村から人を呼び20人ほどで運んだのだ。

村に辿り着いた頃には日が暮れており、お楽しみは今日に持ち越されたのである。


「ふふ、新品の服でみんなと肉を食べる、人としての営み。いいじゃないか!」


服のお披露目と肉、2つの楽しみに胸が躍る松本。

広場では準備が進み、いくつか火が起こされている。

肉を子供達が運んでいる。偉いではないか。


「さぁ、これを運んでちょうだい。気を付けるのよ」


ドングリ少女が肉の盛られた木皿を受けっている。

少し重いようでプルプルしている。

そして足元にはお約束の石…倒れ込むドングリ少女…


「あ、あぶなぁぁぁぁぁい!」


ベチョ…

駆け寄りドングリ少女を支える松本の胸に、串に刺された肉が身を寄せていた。



ジュウジュウ…

串に刺された肉から油が滴っている


「今日の肉はバトー、ゴードン、マツモトが取って来てくれた森の恵みである!

 それではみんな、味わって頂くように!」

「「「いただきまーーーす!」」」



村長の言葉を皮切りに宴か開始された。

笑顔で焚火を囲む村人達は、炎に照らされ熱を帯びている。

特に松本の対岸に座るウィンディは極上の笑顔である。

ときより吹く風は村人達の熱を冷まし、炎と少年のウィンナーを揺らす。


村の外では2着の服が揺れていた。



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