2話目【生前について語ろう】
さて、前回ワニ? と対峙し何とか生還した男だが
何故そんなことになったのか?
今一度思い返してみよう。
「(現在は少年の姿になった俺だが、元々少年だった訳ではない。
いやまぁ、元少年のオジサンではあるのだけど…オジサンって皆元少年やん?)」
森の中の岩に腰掛け考え込む男。
舞台は男の記憶へと移る。
~男の記憶~
ある日曜日の昼下がり、薄暗い部屋の片隅に男達はいた。
幼子の前に立つ男達は今まさに絶頂を迎えようとしている…
2人の下卑た笑みは、ケース内に固定されたの対象に向けられており、
直接触れることのできない対象を隅から隅まで舐め回している…
「ふふふ…そろそろ落ちるな…」
「我々の力を侮ったようだな…」
「ここか?次はこの辺か?」
「変われ、前山。我が直々に手を下そうではないか、ふふふ…」
「ふふふ…よかろう、譲ろうではないか。私の寛大な心に感謝するがいい、松本」
20分ほど弄り倒していた前山に代わり、松本が手を添える。
「うぅ…」
右ポケットをまさぐる松本を見る幼子の眼には、不安と諦めが浮かんでいた…
幼子の望みに気が付いていたが、松本は容赦なく投入し弄り始める、
時間を掛け少しずつズラしてきたのは、この瞬間のため、
けして触れることのできない対象を手中に収めるためである。
そして遂にその時は訪れた。
ガタンッ!
「はーはははは!見たか我々の力を!」
「大人の力を見せつけてしまったようだなぁ!はーははははは!」
悲しむ幼子を横目に高笑いする男達、手中にはクレーンゲームの景品である
ポップアップ式のトースターが握られていた。
「悪く思うな幼子よ、これが大人の財力というものだ。
店員さーん! この子のために新しい景品セットしてくださーい!」
「チャンスは降ってくるものではない、自ら掴むものだ、
これで君もチャンスを掴むといい、それともこっちの飴ちゃんがお望みかな?」
ハードボイルドを気取りながら幼子の掌に500円玉と飴を置く松本。
圧倒的に不審者である。
「うひょ~帰って食パン焼こうぜー前山!」
「うひょ~マーガリン買って帰ろーぜ松本!」
手に入れたトースターを掲げウキウキで退店する2人。
安っぽい景品のトースターに5000円も注ぎこむ位なら
最初からちゃんとした物を買った方が良いのだが
男達にはそんなことは関係なかった。
「(そうこれが少し前までの俺。
『松本実』38歳、独身、猫好き(アレルギー持ち)
彼女歴なし、40歳も目前だが結婚の予定は当然無し、童貞では無い。
彼女歴がないということで顔はお察しの通り。
一般的なサラリーマンで給料はそれなり、高くも安くも無く生活に困らない程度。
世のお小遣い制で頑張る同年代のパパ達に比べれば、まぁ独り身なので独身貴族である。
趣味はゲームと筋トレ。
仕事して休日はゲームと筋トレ…
積極的に異性に関わる姿勢もないのであればモテる道理はないわけだ。
しかし、割とこんな人間多いのではなかろうか?
一緒に高笑いしていたのは俺の数少ない友人、
『前山進』38歳、独身、趣味はゲーム。
高校からの親友である、悪友と言い換えても良い。
気さくな良いヤツだ。
ほら、ここにも同じような人間がいる。
まぁ、同じような人間同士だから親友なわけでもある。
さて、問題はこの後に起きたのだ)」




