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196話目【タルタ国、国民集会1】

「父上、あの方達は誰なのでしょうか? 先程渡されたお金は…」

「ホラントよこの前話したであろう、仕事を終えて戻って来たのだから報酬を払うのは当然だ、

 貴族たるもの相手が誰であろうと約束事を違えてなならん、

 特にあの者達のように金のみの関係であればなおさら注意が必要だ、寝首を掻かれるからな」

「ではやはりあの方達が…」

「大金を費やしたというのに期待外れであったな、私達が貴族へ復帰する日はまだ先になりそうだ、

 まぁ最低限ドワーフへの体裁は整えられれたことが唯一の救いだな」

「そうですか…」

「片腕になったのは惜しいが実力は証明済みだ、そこで暫く警護を兼ねて雇うことにした、

 だが関係を疑われると面倒だ、こちらからはあまり関わりを持たぬようにしろ」

「心得ております父上」




「タルタ王、あの…いかがでしたか?」

「うむ、ダナブルは未然に防がれたようだがバルジャーノでは多大な被害が出ておった」

「そ…そうでしたか…それは衛兵や防衛団の方達でしょうか? それとも…」

「犠牲者の大半は普通の民だ、戦う者達ではなかった」

「そう…ですか…有難う御座います」

「顔を上げよ、犠牲者は出てしまったが国同士の争いは未然に防がれた、これはお前の功績と考えよ」

「それは私ではなくタルタ王の交渉によるものです、私は何も…」

「時を戻すことは出来ぬ、これから何が出来るかを考えるのだ」

「…あの日からずっと考えておりました、私はカード王国を追放された身です、

 こうなってしまっては犠牲になった方達に花を手向けることすら許されないでしょう、

 タルタ王、私に仕事をさせて頂けないでしょうか?

 せめてタルタ国の人々の為に少しでも役に立ちたいのです」

「うむ、許可する、好きにするが良い」




「父上ここに住まうのですか?」

「仕方なかろう、ルコール共和国ではカード王国に干渉し難い、

 それにタルタ国であれば客人待遇で迎えて貰える、

 食料不足に悩んでおるしな、私の人脈が存分に生かせるというものだ」




「父と共に行くことに決めたのですね、私を恨んでも構いませんよ」

「まさか、今でも君は私の恩人だよ、尊敬している、そして今でも父上のことを…」





「…ん……朝か、この夢は何回目だろうか」


窓から差し込む朝日で目を覚ましたホラント、

少し悲し気な顔を冷たい水で洗い流し台所へ向かう。


「おはようございますマーマルさん」

「おはようございますホラント様、ハドリー様は朝食は不要だそうです」

「え? こんな早くにどこかへ行かれたのですか?」

「何やら警護の方から連絡があったそうでして、お出かけになりました」

「警護から? そうですか、わかりました」


マーマルと一緒に朝食を作るホラント、他の使用人と合わせて4人分である。


「最近警護の方も増えましたし何かあったのでしょうか?」

「さぁ、私にはわかりません、もしも、もしもですよ、もしもの仮の話ですが、

 私と父上がいなくなったらマーマルさん達はどうするのですか?」

「それはこのお屋敷でのお勤めが終わったらということでしょうか?」

「えぇ、大きな町であれば他の務め先も簡単に見つかるでしょうけど

 タルタ国内ではここしかありませんからね」

「そうですねぇ、私はもう歳ですから故郷に戻ってゆっくり余生を過ごすのも悪くないですね、

 紅茶を飲みながら窓の外の景色を眺めて…っと思いましたけど、

 よく考えると今でも同じようなことをしてますね、

 ここでのお仕事は自由を許されておりますし、お客様もあまり来られませんから」

「ははは、確かに来客は殆どありませんね、おかげで小難しい作法も必要ありませんし、

 周囲の評判も気にしなくて良いので気が楽です」

「ほほほ、ホラント様、次期当主ともあろう方がそれでは困りますよ、

 出来れば生涯お勤めさせて頂ければ嬉しいです」

「そうですねぇ、さぁ出来ましたよ、テーブルに運びましょう」

「ホラント様、最近何か良いことでもあったのですか?」

「え? いや特には無いと思いますけど、どうしてですか?」

「なんだか少しだけ笑顔が明るくなった気がします」

「そうでしょうか? …いや、そうなのかもしれませんね」


ミーシャ達がタルタ国を訪れた日の早朝、

朝食を運ぶホラントは何処か付き物が落ちたような顔をしていた。





そして時間は経過しタルタ王の住居一室。


「クラージよ、先に行き全ての民を広場に集めよ、我の復権を宣言する」

「分かりました、失礼致します王よ」

「それでは私達も行くとしましょう」

「「 はい~ 」」

「待つのだ」

「「「 ん? 」」」


クラージに続き部屋を出ようとする3人をタルタ王が引き留めた。


「うむ…」


クラージがいなくなったのを確認し話始めるタルタ王。


「何かクラージさんには聞かれてはいけない事なのでしょうか?」

「うむ、気にする程の事では無いのだが一応な、

 我が復権する以上ハドリーを我が国に留めておく必要がなくなる、

 人間同士の問題に口を挟む気はない故、好きにするが良い、だがホラントはどうする?」

「「 う~ん… 」」


難しい顔をするルドルフとミーシャ。


「タルタ王の話だと直接関わってなさそうだけど…どうしたらいいのかしらねぇ」

「レジャーノ伯爵は特に何も言ってなかったしなぁ…どっちでもいいんじゃねぇか?」

「いやでも全くの無関係でもないし一応連れて帰った方がいいんじゃないの?」

「まぁ確かにな」

「そうか、レジャーノ伯爵は何も言っておらぬか、

 であればだ、どのような処遇にするかは本人に決めさせてやってくれぬか?

 襲撃事件に関わっておらぬことは10年以上見て来た我が保障しよう、

 だがホラントは既に道を決めておる、その意思を尊重してやりたいのだ」

「なるほどな、まぁいいんじゃねぇかルドルフ?」

「そうね、でもタルタ王ともあろう人がわざわざ何でそんなことを?」

「ホラントはこの10年我が国に尽くしてくれた、そしてクラージの良き友でもある、その礼だ」

「ふ~ん、随分気にいられてるのねホラント」

「見どころがあると言ったであろう、この地で民と良き関係を築いた数少ない人間でもある、

 後で仕事場を訪ねてみてみると良い」

「お、いいな、折角来たんだからタルタ国観光しようぜ」

「そうね、私は火の精霊様にお会いしたいわ」

「遊びに来たわけではありませんよお2人共、光魔法の布教が先です」

「「 はい~ 」」

「それとだ、一応伝えておくがハドリーは護衛と評して傭兵を集めておる、

 いざという時はルコール共和国へ逃亡する恐れもある、捕える際は細心の注意を図れ」

「まぁ、その辺は予想通りだな」

「そうね、私達はどちらかと言うとその護衛に用があるのよ」


少し雰囲気が変わるミーシャとルドルフ。


「そうであったな、その際は民を避難させておく、ここを破壊せぬ程度に好きなだけ暴れるがよい」

「「 ありがとう御座います 」」

「(なんと豪胆な許可を…)」


驚愕のロニーはさておき広場へ移動する一同。




暫くするとドワーフ達が集まって来た。


「王よ、準備が出たようです」

「うむ、よくやったクラージ、下がっておれ、聞くがよい! 皆を集めた理由は2つ!

 1つ目は魔王についてである! 魔王は空想や只の伝説ではない! 

 1000年毎に現れ全てを滅ぼさんとする実在する脅威だ!

 そしてその脅威は直ぐそこまで迫っておる! 今後は他種族と協力し生存の道を探るらねばならん!

 その第一歩としてカード王国より魔族に対し効果的とされる光魔法を布教して貰える運びとなった!

 この者が光魔法の布教を行うロニー教団長である! 皆歓声で迎えよ!」

『 お~… 』


紹介され一礼するロニー、あまり元気のない歓声が聞こえる。


「なんか勢いないわね」

「さっき言ってた種族性ってやつだろ、きっと」

「いえ恐らく違います、王の権威が失われているのです」


脇の方でヒソヒソ話をするルドルフ、ミーシャ、クラージ。


「2つ目は国の行く末についてである! 

 先も話したように魔王の脅威を乗り越えるためには他種族との協力が必要不可欠である!

 だがこの国は準備が出来ておらぬ! 我がいくら語ろうとも耳を貸さぬ!

 客人を招いても興味を示さぬ! 国に閉じこもり外を知ろうとせぬ! 

 食料問題すら不満を述べるばかりで自ら解決しようとせぬ!

 だからこそ我は敢えて身を引き皆の変革を促そうとしたのだ!

 しかし結果は変わらなかった、もはや猶予…」

「随分な言い草じゃないかいロマノス! 黙って聞いれば調子に乗って好き勝手言ってさ!

 食糧問題を解決しなかったのはアンタも同じだろうさ!」

「その通りだ! とうの昔に民の信を失った王が今更何を語る!

 今この国を支えているのは兄ではない! 我とルルグ様だ!」


タルタ王の言葉を遮りルルグとゲルツが前に出て来た。。


「なんか険悪だな」

「あまり良い雰囲気ではありませんね」

「ちょっとクラージさん、説明して欲しいんだけど?」

「財務大臣のルルグ様と将軍のゲルツ様です、王が身を引いている間に交易を担っていたのがルルグ様、

 ゲルツ将軍は部下と共に魔物を狩り食料を補填していました、交易にはあまり関与していません、

 他国に攻め入り豊かな土地を手に入れるべきと主張していて度王に止められています」

「あぁ~そういえばそんな話あったわね、攻め入る口実がどうとかこうとか」

「10年前にタルタ国への調査を止めた理由があの将軍ってわけだな」


隅の方でヒソヒソの4人。


「ルルグ、よくぞ交易を拡大させ国を豊かにした、その手腕と行動力は評価すべきだ、

 今後は我の下でその力を発揮して貰いたい」

「断るさね、なんだその態度は? 今まで何もしなかったくせして敢えて身を引いていただぁ?

 都合のいい理由を並べて誤魔化そうったってそうかいかないさね!

 アタシがどれだけ苦労したと思ってるんだい!」

「うむ、苦労を掛けたことは詫びよう、その大変さは我もよく理解している」

「黙りな! 知った口を聞くんじゃないよ!」

「兄よ、今更魔王だの光魔法だのと不安を煽り民の信を得ようなど見苦しい、

 弱き王など必要ない、潔く身を引いて頂きたい」

「ゲルツよ、お前が王になったとしてどのように民を導くのだ?」

「決まっておる、我がかねてより進言して来たことを実行するのだ、

 他国に攻め入り豊かな土地を手に入れる! 

 そうすれば民は飢えることはない、力を示せば交易を優位に運ぶことも出来る、

 賛同する者は声を上げよ! 我等が望みを弱き王に示すのだ!」

『 おぉー! 』


鎧を着た兵士と思われるドワーフから歓声が上がった。


「兄よ、これが民の望みだ」

「ゲルツよ、民を想う気持ちは悪くない、だが世界の広さを知らぬ、

 力を過信し過ぎておる、今のお前では国を容易く滅ぼすであろう、

 何度も言い聞かせて来たがお前は一向に外を知ろうとはせぬ、

 土地を手にいれる為に他国に攻め入ろうと進言するばかりでその先を見ようとせぬ、

 只の民ならそれも良かろう、だがお前は将軍なのだ、

 この国の中で我が唯一落胆しているのはゲルツ、お前だけだ」

「それは我も同じだ、誰よりも強く、賢く、勇ましかった兄はもうおらぬからな、

 良かろう、弱き王と強き王、民がどちらを望むか意見を仰ごうではないか」

「無駄だ、結果は変わらぬ、だがどうしてもというならやってみるがよい、

 我が思うにお前よりルルグの方が王に相応しい、身の程を知るには良い機会だ」

「アタシは王なんてなりたかなけどね、だけど弱腰ロマノスよりは多少マシさね」


広場の中央でバチバチの3人、流石のドワーフ達も困惑気味である。


「姉ちゃん、俺お腹空いた」

「しっ、今大変なところっぽいから静かにしてな」

「お母さん遊んできていい?」

「駄目さね、もう少しだから大人しくしてなよ」


子供達は少し飽きて来たらしい、難しい話だからしかたないさね。


「皆聞くがよい! これより我、ルルグ様、そして現タルタ王ロマノスの名を掲げる!

 国を導くに相応しいと思う名の後に声を上げよ!」

『 おぉ~ 』

「まずは我! ゲルツこそが相応しいと思う者はおるか!」

『 おぉー! 』


鎧を着たドワーフを中心に歓声が上がった。


「次に! 財務大臣であるルルグ様が相応しいと思う者!」

『 おぉぉー! 』


老若男女問わず歓声が上がる、ゲルツより大きい。



「最後に! 現タルタ王ロマノスが相応しいと思う者!」

「「「 おぉー! 」」」


民からの歓声は無く、クラージとイドが右手を上げている。


「我の言った通りであったなゲルツ、民はお前よりルルグを選んだ」

「うむ…」

「アタイは王なんてやりたかないさね、それよりもっと重要なことがあるんじゃないのかい?」

「そうだ、民は兄を選ばなかった、その意味を受け入れるべきだ」


迫るルルグとゲルツ、ドワーフ達が静まり返っている。


「皆の声は受け入れよう、だが断る!」

「何!?」

「結果は出たってのにどうしてさね!?」

「先も言ったであろう、無駄であると、結果は変わらぬと、

 今この国に我の他に民を導くことが出来ぬ者が見当たらぬ、故に我は王としてあり続けるのだ」

「「 っ… 」」


力強い眼差しに口を閉ざすルルグとゲルツ、2人に変りドワーフ達が口を開いた。


「で、でもタルタ王は何もしてくれないじゃないですか~」

「ワシはルルグ様の方がええと思うの~! 食料が増えて子供が喜ぶからの~!」

「交代しないのなら交易の品物を増やして下さいよ~!」

「見苦しいですよタルタ王! ゲルツ様と変わるべきです!」

「そうだ! そうでなければいつまで経っても豊かな土地は手に入らない!」

「そんなに外が好きなら出て行ったらいいじゃないのさ!」

「そうだそうだ、火の精霊様の住まう場所こそが俺達の国だー!」

「光魔法なんて無くても火の精霊様の加々があれば大丈夫さね~!」

『 やんややんや…やんややんや… 』


口々に意見を述べるドワーフ達。


「なんか大変なことになったな、どうすんだこれ?」

「どうもこうもないでしょ、部外者の私達が口を挟んでいい話じゃないわ」

「そうですね、しかしこれでは光魔法の布教どころではありませんね」

「…なんと…なんと身勝手なことばかり…」

「「「 ん? 」」」


隅でヒソヒソのミーシャ達、クラージがプルプルしている。


「これ程まで意見を述べるようになったのであれば、この10数年は無駄ではなかったかもしれぬな、

 だが信を失ったのは我の失態である、もっと早く行動を起こすべきであった、

 ルルグ、ゲルツ、すまなかった、我と共に民を導いてはくれぬか?」

「まだそんなこと言ってるのかい」

「兄よ、何故そこまで…」

「いい加減にして下さい! 好き勝手言っているのは皆の方ではありませんか!」


カチキレのクラージに静まるドワーフ達。


「不満を口にするだけで何も行動を起こさない! 王が先程述べた通りです!

 何故理解しようとしないのです! 王がどれ程皆を想っていたか知っているのですか!

 王が皆の見ていないところでどれだけ苦労してこられたか知っているのですか!」

「やめよクラージ、知りえぬ話だ、であれば皆の意見も間違ってはおらぬ」

「しかし王よ!」

「クラージ、やめるのだ」

「…分かりました王よ」


肩を落としたクラージが隅へと戻って来た。


「折角の援軍を返しちゃって良かったのかいロマノス?」

「良い」

「兄よ、退かぬというならば我が引導を渡そう、これも民の為だ」

「よかろう、ならば来るが良い」、

「お待ちくださいタルタ王、その前に私に少しお時間を頂けないでしょうか?」


クラージと入れ替わり今度はホラントが出て来た。


「あれは人間ですよね?」

「だな、ってことはアレがそうか?」

「ちょっと、クラージさん説明説明」

「ホラント様です、どうされる気なのでしょうか…」


隅の方から様子を伺う4人、クラージが心配そうな顔をしている。


「何用だ人間、これは我等ドワーフの問題、関係ない者が口を挟むな」

「関係はあります、ゲルツ様とルルグ様には特に」

「やめよホラント、皆の前で話すことではない」

「タルタ王、貴方は私にこの国で贖罪の機会を与えて下さいました、

 いつも民を想いそして今は2人を気に掛けておられる、とてもお優しく聡明なお方です、

 ですが1つだけ欠点があるとすればそれは大切な事を口にせぬことです、

 自ら考え気付かせるために敢えてそうしておいでなのでしょうが、

 皆がタルタ王のように聡明ではないのです、敢えて口にせねば伝わらないことも多いと思います」

「うむ…」

「今まで与えて頂いたご好意に報いる為にも、クラージ様、

 そしてタルタ王に代わり私にお話させて頂きたいのです」

「ホラントよ、お前の進言は心に留めよう、だが話を聞いたとてゲルツは変わらぬ」

「その通りだ、下がるのだ人間、誰もお前の話など求めてはおらぬ」


ホラントを押し退けタルタ王と対峙するゲルツ。


「いや、アタシは気になるさね、ハドリー様のご子息がそこまで言うんだ、話を聞こうじゃないか」

「やめるのだルルグ、聞きたければ後程我が話そう」

「それさね、さっきから頑なにこの場で話させようとしない、

 忠実な側近すら下がらせて不自然極まりないさね、

 先に確認しておくけどね、その話はアタシ達の過ちを指摘するものなんじゃないのかい?」

「その通りです、私と父ハドリーも非難されるでしょう」

「ふぅ…そうだろうと思ったよ、危ない橋を渡っていた自覚はあったからね、皆の前で話すべきさね、

 止めるんじゃないよロマノス、これは言うべきことを言わなかったアンタの責任でもあるんだ」

「ぬぅ…」

「ありがとう御座いますルルグ様」


ルルグの後押しによりホラントは話し出した。

10年前の出来事、起こりえた事態、タルタ王の対応、そして問題は未だ解決していない事。

それを聞いたドワーフ達の反応は冷ややかだった。


「それじゃアンタの父親が悪いってことじゃないのかい?」

「ここにいられちゃ迷惑だよ、人間の国に帰りな」

「ルルグ様ももっと慎重に事を進めるべきだったんじゃないかの~」

「確かに俺達は装備を作りはしたよ、でもそれは言われたやっただけで…」

「とんでもない問題を持ち込んでくれたものだよ…」

「信頼していたのになんかガッカリだな」

「ルルグ様が始めたことだ、ルルグ様以外に解決できないんじゃないねぇ」


と言ったようにルルグとハドリーを責める者が大半だった。


「すみませんルルグ様、お立ち場を悪くしてしまいました」

「謝らなくてもいいさね、予想通りだよ、

 まぁ…アタシは所詮こんなもんさね、結局ロマノスが書いた線をなぞるだけで精一杯、

 先が見えていなかったってのはよく分かったよ、まだまだ実力不足だって訳さね」


少しだけ肩を落としヤレヤレといった様子のルルグ、あまり凹んではいないらしい。

だが眉間に血管を浮かせ我慢ならない人物が1人。


「いい加減にせぬが愚か者共がぁ!」


ドワーフ達を一喝し鎮めたのはタルタ王ロマノスである。


「今の今まで考えもせず、結果だけを享受しておって、ルルグを責め立てるとは何事か!

 ただただ不満を垂れ流すだけであればその口を閉ざすがよい!

 お前達の中で誰か1人でもルルグと同じことを成した者がおるのか!

 共に苦悩した者がおるのか! 真剣に考え苦言を呈した者がおるのか!」

『 … 』

「ルルグは結果を残した、交易は拡大し生活は豊かになったであろう!

 この問題はもとより危惧しておった、その上で放置した我の責任なのだ、見誤るなでない!」

『 … 』

「ロマノス…」


鎮まるドワーフ達に背を向けゲルツと向かい合うタルタ王。


「だがゲルツよ、お前は気が付いておったであろう、

 その上で口実欲しさにルルグを諫めなかった、そうまでして他国へ攻め入りたいか」

「そうだ、この国には豊かな土地はない、

 どれだけ交易が拡大しようとも食料を自給出来ねば根本的な解決にはならぬ、

 相手の指先一つで閉ざされる交易など他国に命を握られているに等しい、

 土地を手に入れる事こそが民を守る唯一の手段なのだ」

「その結果、国が亡びるとしてもか」

「滅びはせぬ、我らは火の精霊様の加護を受けし誇り高きドワーフ、人間程度に遅れは取らぬ」

「お前は勘違いしておる、精霊様とはマナの化身、マナとは自然の摂理、

 自然は我等に恵みを与えてくれる、だが助けてはくれぬ、全ては己次第なのだ

 そしてお前は力を持つが故に人間を侮っておる、確かにドワーフの肉体は人間よりも優れておる、

 だがドワーフよりも優れた人間はいくらでもおるのだ、

 日々の鍛錬により鍛えらあげられた肉体、技術、魔法そして心、

 お前を凌ぐの人間はここにすら3人おるぞ」

「世迷いごとを、ならばその者達と代わればよかろう」

「断る、お前の相手は我だ、ゲルツよ、信じる道を行きたければ兄を超えてみせよ」

「元よりそのつもりだ」


バチバチを火花を散らすタルタ王とゲルツ、

長くなったので王の復権は次回に持ち越しである。





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