194話目【タルタ国到着、イド帰省】
時はほぼ現代、と言っても時系列的には177話目【馬車の中では】から約2ヶ月ほど前、
松本がウルダで冒険者として活動し始めの頃、
137話目【冒険者になろう!】とか大体その辺の頃。
カード王国から東に延びる街道を進む1台の馬車、中に乗っているのは以下の4人。
ルドルフ、ドワーフの鍛冶屋イド、ミーシャ、光筋教団長ロニー、紹介の並びは筋肉量順である。
「王都を出てそろそろ1ヶ月くらい…暇ね」
「暇だな」
「暇じゃの」
「暇ですね、となるとここは…やりますか」
「「「 おういぇ 」」」
振り分けられる手札、向かい合う4人、交差する視線。
「そろそろタルタ国に付くんじゃねぇ…か! おら来たぁぁ!」
「ウムコモの森が見えとるからそろそろ国境じゃ…な! ほれみぃ!」
「ではあの山に火の精霊様いらっしゃるのです…ね! よしっ!」
「サラマンダー、四大精霊の一角、折角だからお会いしたいわ…ね! いやぁぁ!」
ブリリ虫の絵柄を引き当て顔を覆うルドルフ、手札と混ぜてミーシャに向ける。
「来なさいミーシャ、4分の1よ、押し付けてやるわ」
「ほう、そりゃ気を付けねぇ…と…な! おっしゃぁぁ!」
「だあああ何でよぉぉ! 一度触ったなら引きなさいよ!」
「だははは! ルドルフは顔に出るからな、俺は絶対に引かねぇよ」
「不正よ! 異議申し立て!」
「別に見てから戻した訳じゃないから…の! おほほぅ!」
「私も問題ないと思いま…す! よぉしっ!」
「ぐぬぬ…」
「早く次引けよルドルフ~、ほらほら、俺待ってるぜ~」
「分かってるわ…よ! おら来たぁぁ残り3枚!」
随分と気合が入っているが只の暇つぶしのババ抜きである。
勿論使用しているカードはウルダ特産物カード、ウルダのギルドでお求め頂けます。
平原を暫く進みウムコモの森の手前に『国境 カード王国⇔タルタ国』と書かれた看板が現れた。
「あれが国境か? なんか思ったよりあっさりしてるんだな」
「一応塀と検問所がありますね、そこまで強固な感じはしませんが」
「検問っていっても街道沿いにあるだけじゃからの、ずっと向こうの森の中を進めば普通に行き来き出来るの」
「あんまり意味ないわね…」
どちらかと言うと指名手配されたお尋ね者を捕らえたり、出入国させないための施設である。
「一応見回りしとったりするから迂闊に飛び出すと捕まるの、やるなら夜がねらい目じゃな」
「なんでそんなに詳しいのよイド爺」
「い、いや…昔旅人からそう聞いたんじゃ、ワシはやっとらんぞ」
「「「 (…やってんな) 」」」
人間の多くは街道を使って移動するため検問所を通過するが、
全ての国境沿いに塀を建ててある訳では無いので亜人種は結構素通りしていたりする。
「お気を付けて」
『 はい~ 』
妙に落ち着きのなかったイドも無事に通過し馬車はタルタ国内へ、
暫く進んだが特に集落などは無く街道が続いている、
検問所の前後で変わったのは窓の外を流れる木がウムコモになった程度である。
「…シルトアから聞いてはいたけどよ、本当に何もねぇのな」
「ドワーフもいないし本当にタルタ国に入ったのか心配になるわね…」
窓から顔を出し辺りを伺うミーシャとルドルフ。
「ほっほっほ、ドワーフはあまり街道まで出て来んからの~、その辺を歩いておると期待しておったかの?」
「普通は利便性のよい街道沿いに集落を作るのですが全く無いですね、
森もほぼ手付かずですね、おや? アレは小屋でしょうか?」
「アレは街道を移動する者用の休憩小屋じゃな、ワシが子供の頃に旅の人間が勝手に造ったんじゃ、
そう考えるとかなり年季が入っとるの、100年以上たっとるわい」
「「「 (勝手に造っていいのか) 」」」
馬車の反対側の窓から顔を出すロニーとイド、先の方に小屋と停車した馬車が見える。
「休憩所の先で左に曲がるとタルタ国の国門じゃて、いや~久しぶりの母国、楽しみじゃの~」
「御者さ~ん、あの小屋の先で左らしいぜ~宜しく頼むわ~」
「了解です~」
ミーシャの声を聞き前方から御者の返事が返って来た。
「あの~お客さん、何処を曲がればよいのでしょうか?」
そして小屋を通り過ぎ少し先で立ち往生する馬車、4人が降りて周りを確認している。
「道らしきものは無いですね」
「無いの~」
「ちょとイド爺さんどうなってるのよ? 案内役でしょ? なんとかしなさいよ」
「そう言われてもの~、ワシ20年以上帰ってないからの~、ちょっと自信ないわい」
「イド爺さんが暫く見ない間にこのデカイ木でも生えたんじゃねぇか?」
「これはの~…多分じゃが…もうちょっと先かの? 曲がる場所には街道の脇に看板があるんじゃ」
「本当に? 適当に言ってるんじゃないのイド爺さん?」
「本当じゃて、疑り深い娘じゃの、ほれ見てみぃあの小屋を、なんか新しいじゃろ?
あれ多分じゃがまた勝手に増えたの」
「「「 へぇ~(勝手に増えるんかい、それでいいのかタルタ国) 」」」
そして次の休憩小屋のちょと先、小道が分かれた道端に『国門←』と書かれた看板が刺さっている。
「おほ~これじゃ! ワシの言った通りじゃろ、懐かしいの~変わっとらんわい」
「ちっさ! 意思表示弱っ!」
「位置低いなおい! 見逃すだろこんなの」
「文字も掠れて読み難いですね、これは分かり難い…」
などと言いつつも小道を進み、大きな岩肌を繰り抜いた国門に到着した。
「これが国門? なんか凄いわね~」
「ほっほっほ、そうじゃろそうじゃろ、いつ見ても壮観じゃな、ここから地下に入るんじゃよ」
「まるで天然の要塞ですね」
「兵士っぽいドワーフがいるな、ようやく到着だぜ~」
馬車から下車する一同、イドが警備のドワーフに話をして暫くすると身なりの整ったドワーフがやって来た。
「ようこそタルタ国へ、私はタルタ王の側近をさせて頂いておりますクラージと申します、
この度は私達の国の為にお越しいたただき有難う御座います」
「これは御親切に、私は光筋教団の教団長をしておりますロニーと申します、
今回は僭越ながらタルタ国の皆様に光魔法の布教をさせて頂きたく参りました、宜しくお願い致します」
「こちらこそ宜しくお願い致します、では其方のお2人が護衛の方ですね」
「ルドルフよ」
「ミーシャだ、宜しくな」
「宜しくお願い致します」
丁寧に挨拶するクラージをイドが髭を弄りながら見ている。
「ほっほっほ、タルタ王の側近とは随分と偉くなったの~クラージ、見違えたわい」
「ははは、特に役職を得た訳ではありませんから偉くなってはいませんよ、
タルタ王のお傍で学ばせて頂いているだけです、
お元気そうで安心しましたよイドさん、、ドナさんもお元気ですか?」
「あ~もう、ワシもドナも元気元気、心配いらんわい」
袖を捲り上げ力こぶを見せるイド、140歳とは思えぬ迫真のマッスルである。
「では皆様こちらへ、タルタ王がお待ちです」
「「「 はい~ 」」」
「ほっほっほ、久々の母国は少しは変わったかの~」
国門を潜りタルタ国の都市部へと進む。
「はぇ~すっごい…底が見えないわね」
「中はこうなってんのか、地下なのにすげぇ明るいのな」
「これは美しい、実に神秘的な光景ですね」
「お気に召して頂けたようですね、ここを訪れた人間の方々は皆同じような反応をされます」
「この風景はカード王国には無いからの、貧しい土地じゃが良い国なんじゃよ~、
そしてもう1つカード王国には無いものがあっての、ワシは今回の旅でそれが一番楽しみ…」
「それは勿論アタシのことなんだろうねぇ」
『 ん? 』
トンネルを抜け居住区の一番最上階から大渓谷を見下ろす一同に年配の女性が話しかけて来た。
「何十年も何処ほっつき歩いてたのさね! 帰ってたんなら直ぐ連絡すべきじゃないのかいイド!」
「ゴ、ゴーサ、い、いやワシ今帰ったばっかりじゃて…ほらこの人達の案内役での…」
「ってことはなにかい? 案内役じゃなけりゃ帰って来なかったってことかい? えぇ?」
「そ、そんなこと無いの…ワシお前に会いたく会いたくて、寂しくて夜も眠れなかったくらいじゃて」
「っは、心にも無い嘘つくんじゃないよ、全部顔に書いてあるさね、この放浪クソジジイ!」
「何じゃいクソババア! 夜も眠れなかったのは噓じゃが会いたかったのは本当じゃっての!
ほらこれ見てみぃ! こんなにお土産持って来たのにそんな言い方ないじゃろ!」
「どれどれ…って全部酒じゃないかい! まったく色気がないねぇ、昔と何も変わっちゃいないよ」
「そんなこと言ったってお前、好きじゃろ? 人間の酒飲んだことないじゃろ?」
「はぁ~アンタねぇ、ずっと帰って来てないから知らないだろうけど、
10年位前から随分と交易が発達したさね、今じゃココでも人間の酒が手に入るようんなったんだよ」
「ほぉ~そうじゃったのか、少しは変わったんじゃの~」
「でも折角イドが持って来たんだ、有難く頂くとするさね、さぁ付き合いな!」
「えぇ!? ちょ、ちょとっと…ワシまだタルタ王に挨拶してないんじゃて!
ちょっとゴーサ聞いとるかの? ゴーサ! ちょっとぉぉ!」
道案内の仕事を終えたイドは引きずられながら居住区に消えた。
「「「 … 」」」
「ゴーサさんはイドさんの奥さんです」
「「「 へぇ~ 」」」
「さぁ、私達も行きましょう、イドさんはまぁ…いいでしょう」
「「「 はい~(結婚してたんかい…) 」」」
そしてタルタ王の住居へとやって来た一同。
「タルタ王、クラージです、ロニー教団長と護衛の方をお連れしました」
「うむ」
扉を開けタルタ王が姿を現した。
「あれ、あんた確か…そうロマノス!」
「あ、あの…ルドルフ様…そのような…」
「久しいなルドルフ、我を覚えていたか」
「知ってんのかルドルフ?」
「ほら、昔城壁の外で炊き出ししてた時に来たドワーフよ、ミーシャ覚えてないの?」
「あぁ~…いたな、確か握手したんだったっけかな?」
「そうだ、この様にな、元気そうだなミーシャ」
「あぁ~そうだったそうだった、この力強さ思い出したぜ~、ロマノスもタルタ王の側近なのか?」
「い、いや…ミーシャ様そうではなくて…」
「そう取り乱すなクラージ、側近ではない、我がタルタ王だ」
「「 …ん? 」」
「あの…少し遅くなりましたが…こちらが我が主、タルタ王ロマノス様です」
「「 …んん!? 」」
「よくぞ来てくれたロニー教団長、我が国への助力、心より感謝する」
「勿体なきお言葉、光魔法を広めるのは光筋教団の務めです、感謝される程の事ではありません」
「教団長ともあろう者が謙虚なことだ、それも人間の美徳なのかもしれぬな、
皆中に入れ、まずは今後の話をしよう」
「失礼致します」
タルタ王に続き中に入るロニー。
「あの…大丈夫ですか?」
「「 … 」」
「私はお茶を淹れたりしないといけませんので先に入りますけど…あの…」
「「 (10年前に言ってよ…) 」」
ルドルフとミーシャは笑顔で固まっていた。
一方、イドとゴーサは。
「プパ~旨いねぇ」
「(…なんだかんだ言ってた割にご機嫌じゃの)もうビール無くなったの」
「それじゃ次は果実酒にするさね」
「果実酒なら辛いのと甘いのとシュワシュワのヤツがあるの」
「まずはシュワシュワにするさね、チーズとサラミあるけど食べるかいイド?」
「ほぉ~そんなものまであるんじゃな、結構豊かになったの~」
「アタシ達の若い頃じゃ考えられないけどねぇ、これもルルグ様とゲルツ様のおかげさね、
言いたかないけどタルタ王より頼りになるよ」
「ルルグとゲルツがじゃと? それはちと…」
「なんだいイド?」
「いや、また今度にするわい、今はゴーサとの酒を楽しみたいからの」
「何だい、ずっとほったらかしてた割に可愛いこと言うじゃないかい、
まるで本当に合うのを楽しみにしてたみたいさね」
「最初っからそういっとるじゃろ、もう少し素直に受け取ったらどうじゃ、
そんなんだからこれを見逃すんじゃて」
酒の入ったカバンの中から箱を取り出すイド。
「なんだいこれ? あ、分かったよ、高級な酒のツマミさね」
「んなもの勿体ぶって出すわけないじゃろ! もう酔っぱらっとるのかの」
「この程度で酔うほど年は取ってないよ! ツマミじゃなかったら何さね?」
「首飾りと指輪じゃて、ワシが頑張って造ったんじゃ、材料集めるのに結構苦労したんじゃぞ」
箱を開けて色とりどりの宝石のあしらわれた首飾りと赤い宝石が嵌った指輪を見せるイド、
角度を変えると光に反射して美しく輝いている。
「へぇ~奇麗さね、こんな色気のある物をプレゼントするなんて…アンタ本当にイドかい?」
「これ見た最初の感想がそれかの…ほれ首飾り付けてやるから後ろ向くんじゃ」
「折角なんだアンタが後ろに回って付けておくれよ」
「まったく我儘じゃの~、ほれこれでえじゃろ、指輪は自分で嵌めい」
「ぴったりだよ、どうだい?」
左手の指輪と首飾りを見せるゴーサ。
「ん~まぁ似合ってるの、歳の割にちょっと派手だったかもしれんがの」
「…一言余計さね、でもまぁ…ほらシュワシュワ飲むよ」
「なんじゃいゴーサ、いい歳して照れとるのかの~? ワシらもう140じゃぞ?
もっと素直に嬉しがったらどうかの~?」
「なにニヤニヤしてるんだい、気持ち悪いよジジイ」
「因みに指輪はワシとお揃いじゃて」
左手の指輪を見せるイド、赤い宝石が光っている。
「ぶふぅっ!?」
「ぎゃぁぁ! 目がぁぁぁ! 目がシュワシュワじゃて!」
「140歳にもなってお揃いなのかい! しかもよりにもよって赤って…恥ずかしくないのかいジジイ!」
「べ、別にええじゃろ夫婦なんじゃし! それより目がシュワシュワじぇてぇぇ!」
「ほら上向きなよ、まったく手が掛かるジジイさね」
「いや…お前のせいじゃろこれ…」
「煩いよ」
「あばばばば…」
水魔法をイドの顔にドバドバ掛けるゴーサ、なんだかんだ言いつつ嬉しそうである。
「ところであぜ酒は無いのかの?」
「勿論あるさね、これが空いたら飲むかい?」
「おほぉ~! ワシはそれが一番楽しみで…」
「アタシと合うのが一番の楽しみじゃなかったのかい?」
「…あぜ酒は2番じゃの、1番はゴーサじゃて」
「顔に出てるよイド」
「まぁえぇじゃろ、ほら飲むぞい」
お土産の酒は1日で無くなったそうな。




