19話目【森の絶対王者】
「どっせーい! どっせーい!」
カーン…カーン
「そろそろ倒れますよー! どっせーい!」
カーン… バキバキバキ… ドシーン!
「よーし運ぶぞーみんな手伝えー」
ポッポ村では村の再建に必要な木を近くの森で採取している。
木を切り倒した後は枝を落とし、ロープを結び人力で村まで引く。
そのままでは到底引けないので、倒した木と地面の間に棒状に加工した木(丸棒)を入れ
摩擦を減らし運んでいく。
簡単に聞こえるが、かなりの重労働である。
村に運ばれた木は村の外にある材木所で加工され、板や棒などの木材へ加工されるのだ。
全身を使う重労働のため、村の男達はムキムキである。
この労働に従事する松本も必然的に筋肉質になっていた。
「そろそろポージング練習するかー」
「いくぞーフロントポーズ」
ピカー!
「いやーバトー程じゃねぇが、坊主もかなり眩しくなってきたなぁ」
「いいぞマツモト、背中の広背筋も成長してきたようだ!」
「え~ほんとうですか?~~らのバックポーズ!」
ピカー!
「うぉっ眩し…」
「村の者達もポージングが結構うまくなってきたし、村の修復も順調に進んでいる。
ゴードンどうだろうか? そろそろ他の者達もレム様に習いに行くべきだと思うが?」
「そうだなぁ…ちょっとお伺いに行ってみるか。 坊主、一緒に頼むわ」
「いいですよーその代わりお願いがあるんですけど…今度、狩とか戦い方を教えてもらいたいんですよ」
「いいけどよ、何と戦う気なんだ坊主?」
「森でたまに熊が出るんですけど…」
「もしかしてムーンベアーの事か?」
「あれは危ねぇな…坊主は森に住んでっからなぁ…確かに気がかりだろうな」
初めて松本、バトー、ゴードンの3人でナーン貝を取りに行った時に遭遇した熊。
ムーンベアーは体長3メール程になり、腕の一振りで木を薙ぎ倒す力を持つ。
月夜に現れるため、ムーンベアーと呼ばれている。主食はキノコ。
「きっと、おいしいと思うんですよねぇ…」
「「ん?」」
「食べたいんですよねぇ…肉」
「マツモト…」
モギ肉ウィンナーの味を知ってしまった松本は、肉が気になるお年頃なのだ。
松本の店を閉めた後、3人は光の精霊の元を訪れていた。
バトーとゴードンは剣と盾で武装している、ムーンベアー対策である。
「レム様、村の人を連れて参りました」
「ご無沙汰しております、レム様」
剣と盾を置き、片膝を付き頭を垂れるバトーとゴードン。
「そんなに畏まらなくていいよ、ところで今日はどうしたんだい?」
「実は村の者達の中に光魔法を望む者がおりまして、是非ともご教授頂きたいのです」
「その者達は我々と共に、毎日ポージングを練習しております。どうか何卒」
「皆さん熱心に練習されてるんです、どうかお願い致します。」
レムの答えは決まっていた。頭を下げる3人の真剣さは会いに来た瞬間から感じ取れていた。
「ふふ…相変わらず真面目だね人の子よ。いいよ、光の魔法を授けよう」
「「「ありがとうございます!」」」
「せっかくだ、我が信者達よ日頃の成果を見せてくれないか?」
精霊の池の淵で、ほぼ全裸の男達が発した光魔法は池に反射し木々を照らした。
「いいねぇ、素晴らしい。全員成長しているじゃないか!」
「はぁ…はぁ…あ、ありがとう…ございます」
「本気で…やると…や、やっぱり…きついな」
「…し、死ぬ…」
3人は酸欠状態で倒れている、松本は魂が抜けかけていた。
「バトー君とゴードン君はかなりいいねぇ、バトー君はもう少しで神官クラスになれそうだよ」
「本当ですか!? 精進致します!」
「ありがたき幸せ!」
「あのー俺はどうですかね?」
「マツモト君は…ちょっと筋力不足かなぁ。まぁまだ子供だからねぇ、今後に期待だね」
「がんばりますー」
ゴソゴソ…
「グォォォ!」
池の横の茂みがざわめき、大きな影が立ち上がる…2足で立つムーンベアーは3メートルを超えていた。
「なぜこんな場所に?」
「用意してきて正解だったなバトー!」
剣と盾を手に臨戦態勢になるパンツの男達、小さな布から延びる脚は太く逞しい。
「グォォォ!」
ムーンベアーの薙ぎ払いを盾で受け、ゴードンが2メートルほど擦り下がる。
バトーが剣を振り上げ、ムーンベアーの右足へ振り下ろす。
ガキーン!
バトー剣は爪で受け止められ、ゴードンと同様に薙ぎ払われ後退する。
木を薙ぎ倒すムーンベアーの剛腕を受け、膝を付かない2人は流石である。
レムは涼しい顔で見守っている。松本の姿は見当たらない。
「バトー! 俺が受ける、受けた腕を狙え!」
「了解だ、頼むぞ!」
「グォォォ!」
ムーンベアーは猛っていた。
己が力を誇示するように、自信を取り戻すように、対等な者など存在ぜず、捕食する側であると。
己を怯ませたヤツはいない、己こそ森の絶対王者であると。
猛るムーンベアーの前に少年が現れる。ムーンベアーを直視せず、横を向いている。
屈強な男達と違い盾すら所持していない、持っているのは木の棒だけ、取るに足らない存在である。
少年が上半身を左に開き力を込める
「サイドポーズ」
ピカー!
少年の体から眩い光が放たれた。
「グォッ…」
その時、ムーンベアーは思い出したヤツに刻まれた恐怖を…敗走させられた屈辱を…
光の中の少年の目に見覚えがあった。
月明かりの夜に戦慄させられた…血走った獣の眼…
ムーンベアーの本能が警告していた…コイツは確実にヤバいヤツだと。
「肉ぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
ムーンベアーの鼻を直撃し、砕け散る相棒2号(ちょっといい感じの棒)。
急所を強打され後退するムーンベアーを2人は見逃さない。
「今だ、バトー!」
「おう!」
「グォ…」
2人の剣によりムーンベアーが息絶えた。
「流石に焦ったな…」
「パンツ姿で戦うのは勘弁だな」
パチパチパチ…
観戦していたレムが満足そうに拍手をしている。
「素晴らしいねぇ。光魔法を有効に使えている、お見事だねぇ」
「レム様、光魔法って素晴らしいですね! 肉が食べられますよ!」
「いや、本来は対魔族用なんだけどねぇ…ま、まぁ喜んでもらえて嬉しいよ」
「よくやったな坊主」
「無理をしただろう? 少し休んだ方がいい」
「何言ってるんですか、休んでいる暇なんてないですよ!」
バトーとゴードンが顔を見合わせる。
「獣肉ですからね、早く下処理しないと! ゴードンさん剣で血抜きして下さい、バトーさんは内臓を」
「相変わらず逞しいな、マツモト…」
「レム様、池の水で洗っていいですかね?」
「やめろ坊主! マジでやめろって!」
「マツモトやめてぇぇぇぇぇ!」
「流石に衛生的にダメかな」
レムは腕で×を作っている。
「そ、そんなぁぁぁぁぁ! それじゃぁ急いで村まで戻りますよ2人とも!」
「しゃねぇ、行くぞバトー」
「そうだな、急ごう! レム様、失礼します」
内臓と血抜きの処理をしながら3人は村へと急いだ、今夜の夕食は豪華である。




