184話目【丘上のミーシャ】
「ひゅ~お見事」
「一発で命中だ、流石は元Aランクだぜ」
「無駄口叩いてないで警戒しな、射程内のヤツはもう残ってないとは思うけどね、
見つけ次第私に報告するんだよ」
「そんなに警戒しなくていいだろネサラ、飛んで来るのは只の球だぜ?
フレイムみたいに爆発する訳じゃあるまいし…」
「ならアンタが止めてみなよ、その度胸があるならね、
なんなら私がアンタの所に着弾するように軌道を変えてやるよ」
「い、いやぁ…」
「ったく、日和るくらいなら最初からデカい口叩くんじゃないよ、
飛んでるくるのはの金属の塊なんだ、爆発しなくても当たれば木っ端微塵、
止める方法なんていくらでもあるけどね、撃たせない事が一番安全なんだよ」
「悪かったよ、そんなに怒るなって…」
「上手く行きすぎて気が緩んでんじゃねぇか~?」
『 ははははは! 』
「けど気が緩むのも分かるぜ、来る前は王都だのSランクだの散々ビビらされたってのにこれだ」
「確かに、反撃の1つもねぇ、一方的に攻撃し放題だもんな」
「おいおい、最初に丘を登ろうとした馬鹿共がいただろ」
「突っ込んできて直ぐ死んじまったけどな、自分の命を守るってのが冒険者の掟だっての」
『 ははははは! 』
「(上手く行ってるのは私の魔法とヒルカームの作戦、それとドワーフの装備のお陰だよ、
直ぐそこにSランクの化け物共がいるってのに…救いようのない馬鹿共だねぇ、
追放された冒険者に盗賊崩れ、所詮その程度だからあんた達は使い捨ての駒なのさ)」
笑う襲撃者達を蔑むような目で見るネサラ。
「手が止まってるよ! 笑ってないでドンドン…」
「お? 噂をすれば勇敢な冒険者様が現れたぞ」
「なに!?」
「性懲りもなく1人で出てくる気か? 見るからに近接職って感じだな」
「仲間は無しか…大人しく引っ込んどけばいいのに、
そうやって正義感に駆られた奴から無駄死にするんだよ」
「この馬鹿共が! 急いで紋章を確認しな!
このタイミングで1人で出て来るヤツは大馬鹿かSランクだけだよ!」
「ちょ、ちょっとまて直ぐ確認する!」
緊張が走る襲撃者達、男が慌てて双眼鏡を覗き込む。
「何処に付けて…あった、ありゃゴールドだな」
「見間違いじゃないね?」
「あぁ、間違いねぇ、ありゃウルダの紋章だな」
「ふぅ…肝を冷えたねぇ…Aランクの大馬鹿だよ、Sランクじゃない、登られる前に始末しな!」
「それなら俺にやらせてくれよ、剣の出番はねぇし魔法は城壁の中まで届かねぇしよ、暇なんだよ~」
「だったらさっさとやりな、Aランクでも詰められると面倒なことに変わりないんだ」
「お~し! 見とけよ~!」
丘を登って来るミーシャに狙いをさだめフレイムを放つ男、
直撃とはいかなかったが見事に命中しミーシャは爆炎と土煙に包まれた。
「いよ~しっ! 今の見たか? これでようやく仕事した感じがするぜ!」
「いいね、その調子だよ、ほら他も休んでないでドンドン撃ちな!
油断してると本当にSランクが出てきちまうよ!」
『 おぉ! 』
一斉に攻撃を再開する襲撃者達、
放たれたフレイムは城壁の手前で一斉に爆発し、一際大きな爆音と光を放った。
『 !? 』
「おいなんだ今の?」
「城壁の手前で爆発したな、俺距離間違ったか?」
「俺は間違ってねぇ、ミスしたヤツのせいで誘爆したか? いやでも…」
「…何かおかしいねぇ、誰か3人だけ撃ってみな!」
丘上から3つの火球が放たれると、再び城壁前で全て爆発した。
「なかなかやるね、どうだい?」
「いるぜ、崩れた城壁の脇だ、コイツもウルダのAランクだな、お、出てきやがった」
「見えてるよ、皆気合を入れな! アイツはマズイよ! 絶対に近寄らせるんじゃない!」
『 あぁ! 』
数人の襲撃者が慌ててフレイムを放ち始め、他の襲撃者が首を傾げている。
「おいネサラ、他の奴等も何慌ててるんだよ? Aランクが1人だろ?」
「アンタ達本当に馬鹿なんだねぇ、分からないのかい? 1人だからこそヤバいんじゃないかい、
ただでさえマナの消費が激しいフレイムを同時に数発撃ってるんだよアイツは!
しかもコッチの攻撃を全て正確に打ち落としてる!」
「俺あまり魔法詳しくねぇからよ…」
「あぁもう、分からないんだったら私と同等の相手だと思いな!」
「そ、それはヤバいな」
「分かった、皆撃て! ドンドン撃て!」
「数じゃコッチが有利なんだ、撃たせ続けてマナ切れに追い込みな!」
『 おう! 』
勢いを増す襲撃者達、放たれた火球はことごとく撃ち落とされ、その都度激しい爆風が吹き荒れる。
当初、城壁の内側で猛威を振るっていた火球は丘側へと押し戻され、
攻防ラインは既に城壁と丘の中間である。
「(…あの顔かなり若いね、1人でここまで押し返すなんてよくやるよ、
コイツ等程度じゃいくら底上げしても役不足ってことかねぇ、
まぁだけど作戦は何一つ狂っちゃいないよ、
所詮これはヒルカームがマイロを始末して脱出するための陽動、
これだけ騒ぎになれば十分なのさ、あとは程ほどに…)」
「何なんだコイツ!?」
「なんでマナ切れにならねぇんだ!」
「押し戻されてるぞ! ドンドン撃てぇ!」
「Sランクの間違いじゃねぇのかネサラ? 双眼鏡覗いてるんならもう1度確認してくれよ!」
「煩いねぇ、間違いなくゴールドの紋章だよ、ランクってのは幅があるんだ、
アイツはAランクでも上位の実力者ってことさ、マナ量もそれなりに多いに決まってるだろう」
「何でもいいからどうにかしてくれよネサラ!」
「アンタと同等なんだろアイツは!」
「それは例だよ、私の方が上だから安心しな、それじゃ望み通りデカイのぶつけて黙らせてやるとするかねぇ」
杖を掲げ集中するネサラ、上空に冷気が集まり徐々に氷塊へと変化してゆく。
「ネサラが城壁をぶっ壊したヤツを使うぞ!」
「マジかよ、もう1発ぶち込んだら更地になるぞ!」
「待ってました! 早いとこあの女をやってくれ!」
「黙ってな! コイツは集中力が必要なんだ! 邪魔するんじゃ…」
「えぇ!? 何でアイツ…」
「今度は何だい? 邪魔するなって…」
「い、いや…丘を登って来てたヤツが生きてんだよ、確かに当たった筈なんだが…」
「当たってないから生きてるんだろ! 絶対に登らせるんじゃないよ! 距離があるうちに仕留めな!」
「任せろ! ん? あれ? なんでだおい!? おいおいおいおい!?」
「何だい一体!? 煩いねぇ!」
「全然死なねぇんだよ! 止まんねぇんだ! 誰か手伝え! 早く!」
「俺に任せろ! え!? どうなってんだ!?」
「どけ俺がやる! は!? なんでた!? マジで止まんねぇぞ!?」
「おいおいおいおい来るんじゃねぇ!」
「こっちに来るな! 止まれよ!」
「何騒いでんだアイツ等?」
「俺が知るかよ、おら手を休めるなよ~油断したら押し切られるぞ」
どれだけ魔法を放とうが止まらないミーシャに混乱する襲撃者達。
1歩また1歩と確実に歩みを進め丘上の要塞まで迫って来ている。
「何やってんだいあんた達は、全く使えないねぇ!
それだけの装備と人数でったった1人も仕留められないのかい!」
「ふざけんな! 俺達じゃなくてアイツがおかしいんだ!」
「あんな化け物どうやって止めろって言うんだよ!」
「うわぁぁ来るな! 来るんじぇねぇ!」
「もういい、私がやるからそこをどきな! まだ途中だけどコイツを食らわせてやるよ!」
「マ、マジかよ!? 離れろ!」
「巻き込まれるぞ! どけぇ!」
逃げまどう襲撃者達、ネサラが上空の巨大な氷塊を叩きつけようとする。
「く、来るんじゃねぇ! その武器を降ろせ! 死ね! 死ねぇ!」
「待てネサラ! まだ残って…」
「逃げ遅れた馬鹿に構ってる暇はないねぇ! 消えな!」
「う、うわぁぁぁ!?」
上空から迫る氷塊、放たれる魔法、止まらないミーシャ、錯乱し魔法を乱発する男。
「そんな長ったらしい魔法を私が許す訳ないでしょ」
「危ねぇからどいた方がいいぜ」
高速で飛来した火球が膨れ上がり、落下する氷塊が砕け散り氷片へと変わった。
「…は?」
唖然とするネサラが上空を見上げようとした時、
轟音と共に地面が爆発し氷の要塞の一部と土と錯乱した男が宙を舞った。
『 !? 』
「何が起きた?」
「魔法が直撃したのか?」
「誰か説明しろ~! おい! なに皆黙ってんだよ?」
「休んでねぇでドンドンに撃てよ! 陽動になんねぇだろ!」
「黙ってな! 敵が来たんだよ…」
襲撃者達を一喝し抉れた地面を警戒するネサラ、
降り注ぐ氷片の中、巨大な棍棒を肩に掛けたモヒカン男が姿を現した。
「やっぱ両手だと力が入りやすいぜ」
「(…何なんだいコイツは? …馬鹿共に任せてたとは言え
この丘を登って来るなんて普通じゃない…かなりヤバいねぇ…)」
「おいおいおい、敵が来たんなら俺達前衛の出番だろ~」
「ようやくこの装備を試せるってもんだ、場所を開けろよ後衛共」
「お? コイツはデカいな! よく来てくれたぜ、正直魔法には飽き飽きしてたところだ」
「(この馬鹿共はまた…まぁいいか、私が下がるまでの時間稼ぎ位にはなるだろうさ、
流石にこの距離じゃ勝ち目がないからね)」
剣を抜いた襲撃者達に隠れ少しずつ距離を取るネサラ。
「よう、俺はミーシャってんだ、やり合う前にアンタ達にどうしても聞きてぇ事があるんだよ」
一方、崩れた城壁付近では。
「冒険者殿、何やら敵の攻撃が止んだようですな」
「そうね、ミーシャが丘上に登ったのよ、こっちに構ってる暇なんでないんでしょ」
「なんと、本当にこの丘を登るとは…あの者には魔法が通じぬのか?」
「そんな訳ないじゃない、ちょっと頑丈なだけで同じ人間なのよ」
「いやしかしそれでは…」
「ただ我慢してるだけ」
「な、なに? 我慢!?」
「そうよ、我慢してるの、切られれば血が出るし魔法を受けば痛みを感じる、
そんな当たり前の事を屈強な精神力で我慢して耐えているのよ、
ミーシャはね、あんな厳つい見た目だけど誰よりも優しいのよ」
「優しい、か…」
「私もそろそろ上に行くわ、町の人達をお願いね衛兵長さん」
「任されよ、気を付けてな」
ルドルフも丘上に向かった。
そして丘上では。
「アンタ達には関係ない話なんだけどよ、俺には1つ下の妹がいたんだ、
でも俺が5歳の時に病気で死んじまった、
俺は体が頑丈だったけど妹は生まれつき病弱だったんだよ」
「何勝手に語り出してんだ、コイツ今どういう状況か分かってんのか?」
「早いとこ…なんだ?」
剣を持つ男を制止し耳打ちするネサラ、示す先で男が2人走って来ている。
「守ってやれると思ってたのに病気にで苦しむ妹に何もしてやれなかった…
まぁでも仕方ねぇ話なのさ、回復魔法でも病気は治せねぇ、
どれだけ医術が発展しても病気で死ぬ人はいる、当たり前だ、
だから俺は冒険者になったんだ、病気は倒せねぇが魔物は倒せるからよ
俺のこの力はな、俺より弱ぇ人達を守るためにあるんだよ!
小せぇ子供を! それを見守る家族を! 町を!
種族なんて関係ぇねぇ! 守りたいと思ったモノを守るために俺は必死で強くなったんだよ!」
深く呼吸して気持ちを落ち着かせるミーシャ。
「だからこそ俺はアンタ達に聞きてぇんだ、その力は何のためにあるのかってな」
冷たく悲しい目は襲撃者達に問いかける。
「ふぅ…何を言いだすかと思えば…そんなもん決まってんだろ、
俺の力は俺自身のためにあるんだよ! アンタの考えは立派だよ、綺麗過ぎて反吐が出るね!
世の中綺麗ごとだけでやっていける程甘くねぇんだ!
人には欲ってもんがある、飯が食いてぇ、女が抱きてぇ、もっと言えば生きてぇだ!
生存競争ってヤツだよ、魔物にだってある欲だぜ、
その欲を満たすためにどいつもこいつも他者を蹴落として生きてる、
やらなきゃやられる、世の中ってのはそうできてんのさ!」
「そうだな…それは俺も理解できるぜ、
魔物ってのは純粋だからな、いっつも生きるために襲って来る、
そこに善悪なんて無ねぇ、やるかやられるか、お互い命懸けだからこそ結果を受け入れられるのよ、
だから俺は出来る限り武器で戦うようにしてるんだ、命を奪う者として責任を感じられるようにな、
だけどよ、今回のアンタ達はどうだ? あの瓦礫の下ではかなりの数の人達が犠牲になってるぜ、
あの人達はアンタ達に命がけの戦いを挑んだか? 一方的な殺戮なんじゃねぇのか?
相手の顔も見ずに遠くから好き放題魔法を飛ばして、アンタ達は命を奪う者として責任を果たしたのか?」
「アンタ命の奪い合いに美学を求め過ぎだ、
欲ってのはそんなに綺麗なもんじゃねぇんだよ、もっと濁って汚ねぇもんだ、
特に人間の欲ってのは利口な分だけドロドロしてやがる、
今回の件もそういうヤツさ、一方的な殺戮だろうと関係ねぇ、不幸な事故だとでも考えな、
これはそうだな、俺が生きるための生存競争だ、文句は言わせねぇよ」
「そうか…理解は出来るが納得は出来ねぇな、アンタとは気が合わねぇ」
「慣れ合うつもりはねぇよ」
「俺もねぇよ、許す気もねぇ」
「許される必要なんてねぇよ、おらぁぁぁ!」
ミーシャを目掛け男が剣を振る。
「おう!」
より一層冷たく悲しい目をしたミーシャが棍棒を振ると剣は砕け男は肉塊になった。
「こ、この野郎!」
「死ねぇ!」
「おらよぉ!」
そして続けざまに切り掛かった2人も1撃で肉塊に変わり地面に散った、
棍棒を肩に担ぎ赤く染まったミーシャは告げる。
「生存競争って言ったよな、アンタ達が始めたんだ、納得してくれよな」
『う、うぁああぁぁ!?』
ほんの数分前まで絶対的な優位を保っていた丘上の要塞は、
1人の男の出現により地獄へと変わった。
「どけ! 邪魔だ!」
「撃て撃てぇ! 近寄らせるな!」
「やめろ俺達がいるんだぞ! それにコイツに魔法は効かねぇ!」
「何言ってんだ! 死ねぇ!」
「ぎゃぁぁ!」
迫りくる死に背を向ける者、
立ち向かい返り討ちにあう者、
味方の魔法で絶命する者。
「何だコイツ!? 何で魔法が効かねぇんだ!?」
「だから言っただろ! ぎやぁぁ!」
「ち、近寄るんじゃねぇ! こっち来くんな! 皆死にたくなかったらドンドン撃て!」
「おらぁ!」
「ぐぇ…」
5~60人はいたであろう襲撃者達は既に半数が息絶え、
残った者は半狂乱に陥り逃げることも出来ず敵味方関係なく魔法を乱発している。
更に数は減るもミーシャは決して止まらず、
頼りのドワーフ製の装備は強力な武力の前に意味をなさず、
対抗手段を持たない襲撃者達は全滅間近である。
「こ、こわぁぁ…何あの人…魔法が効かないなんて僕達魔法職の天敵だよ…
さっきの女の人も凄かったし、この調子だと僕が手を出す必要は無さそうだね、
一体誰なんだろう? 一応味方なんだよね? 敵とは考えたくないなぁ…怖いもん…」
上空で様子を伺うシルトア、暴れまくるミーシャに恐怖している。
「アレを使うよ! 少しの間耐えな!」
ネサラが再び上空に巨大な氷塊を作るも火球が飛来し粉砕された。
「やっぱりねぇ、でも落とすのが目的じゃないんだよ、こっちに気がそれたねぇ」
「後ろよミーシャ!」
「ん? うぉ!?」
ルドルフの声に反応するミーシャ、とっさに身を躱すと首のあった位置で2本の剣が交差した。
「デカいくせに素早いな、なかなかやるじゃねぇの、アンタ名前は?」
「ミーシャだ、お前は?」
「ヒルカームってんだよ、おぉ現役のAランク冒険者か、
どおりでやる訳だ、実は俺も元Aランクなんだが…こりゃなんだよ? アンタ1人でやったのか?」
「ん? まぁな、同士討ちも結構いるけどよ」
「同士討ちだぁ? 何やってんだよ馬鹿共が」
「気を付けなヒルカーム! そいつは普通じゃないよ! どういう訳か魔法が効きやしない、援護は無理だよ!」
「なんだそりゃ? 特殊な装備でも付けてんのか?」
「私が知るわけないだろう! 近くにAランクの魔法職もいる筈だよ! この辺りが引き際さ!」
「ってことなんだよ、見逃してくれるか?」
「そりゃ無理だぜ」
「だろうな、目を見りゃわかる…ぜ!」
「おらぁ!」
2刀で切り掛かるヒルカーム、ミーシャの棍棒に反応し、躱し際に腕を切りつけた。
「動きが早ぇな、Aランクってのは本当みてぇだな」
「アンタの方こそ早すぎるぜ、そんなに直ぐ塞がる傷じゃねぇんだけどな」
「昔っから傷の回復には慣れてんだよ、よく怪我してたからな」
「多少の傷じゃ足止め出来ねぇか、こりゃ全力で行くかねぇと…なぁ!」
ヒルカームの素早さが増し、ミーシャの棍棒が空を切る
致命傷とはいかないが確実にミーシャに傷を負わせるヒルカーム、
血を流すも直ぐに傷を塞ぎ棍棒を振るミーシャ、空振る度に地面や氷の要塞抉られる。
「恐ろしい馬鹿力だなぁ! だがよ、どんなに強力な攻撃も当たらなければ意味はねぇ!
コッケル! やれぇ!」
「死ねぇぇ!」
「!? どりゃ! ぬぅ…」
ヒルカームの指示で背後から仕掛けるコッケル、
反応したミーシャの棍棒はコッケルを捉え、
ヒルカームの2刀はミーシャの腹に深々と突き刺さった。
「っは、流石のアンタも顔色を変えたな、
卑怯だとか言うなよ、俺は生き残るために手段は択ばねぇ」
「ひでぇな、仲間じゃねぇのかよ…」
「短い付き合いでね、だが実力もねぇのに俺達の間に飛び込んで来たコッケルも悪いのさ、
自分の頭でちょっと考えればこうなることくらい…ぐあぁあぁ!?」
ヒルカームの右腕をミーシャの左手が掴みそのまま握り潰した。
「ぐあぁぁ…て、テメェ!?」
「確かに当たらねぇ攻撃に意味はねぇけどよ、避けられねぇ素早さに意味はあるのかよ」
「な、何言って…ゃ…」
ミーシャを見上げて青ざめるヒルカーム、
絶望を宿す瞳の後から棍棒が振り下ろされようとしている。
「こ、この化け物…がああああ!!!!」
死の淵を覗いたヒルカームは咄嗟に左手の剣をミーシャから引き抜き、
自身の右腕を切り飛ばし距離を取った。
「はぁはぁはぁ…ふざけやがって…その顔、忘れねぇからなミーシャァ!」
「俺も忘れねぇよ、だが逃がす気もねぇんだなこれがぁ」
「いいや逃げさせて貰うよ、今のアンタなら足止め位は出来そうだからねぇ」
ネサラが杖を光らせミーシャの周りに冷気を発生させる、
刺さった剣ごと腹部と下半身が氷で拘束された。
「…やるねアンタ」
「その状態で顔色変えないなんてアンタやっぱり化け物だよ、
あんまり無理すると傷が悪化するかもねぇ、じゃぁね、もう1人にも宜しく行っといておくれよ」
「離しやがれネサラ! 俺の腕があそこのあるんだよ!」
「死にたいのかいヒルカーム! 腕を取り戻すにはアイツの拘束も解かないといけないんだよ!
生き残りたけりゃ諦めな!」
「くそ…行くぞ、いつかこの借りは返すぜミーシャ」
「直ぐに追いつくぜ、待ってな」
血に染まった丘にミーシャを残し、ヒルカーム達は夕日に消えた。




