182話目【レジャーノ伯爵襲撃】
ギルドに戻って来たダルトンギルド長、ふと壁の時計を確認する。
「もう17時か、俺ちょと休憩してくるわ」
「ちゃんと裏で吸って下さいよギルド長~、
あと匂いが消えるまで帰って来なくていいですからね」
「へいへい、ったく肩身がせまいねぇ…俺ギルド長なのに…」
「多数決で決めたんですから従って下さい」
「わかったわかった、絶対30分は戻らんからな…」
「聞こえてますよギルド長、後始末しっかりしてくださいね」
「く…」
受付のお姉さんに小言を言われながらギルドの裏にある喫煙所の向かうダルトン。
屋根のない空間に灰の溜まった小さなバケツが1つ、壁には喫煙所の文字が適当に書かれている。
乾燥した葉っぱが巻かれた筒を咥え指先に灯した火を付けるダルトン。
「ふぅ~…今日も大変だったな…」
「全然大変そうには見えませんけどね」
Sランク冒険者のシルトア(当時16歳)が話しかけて来た。
「大人は見た目以上に大変なんだよ、おら、子供が喫煙所に来るんじゃねぇ、
ここはダンディな大人の社交場だ」
「ギルド長以外使ってる人見たことないですけど…」
「ふぅ~…そうなんだよ、少数派は肩身狭いぜ…なに? お前これ興味あるのか?
駄目だ駄目だ、子供には吸わせられません、もう少し大人になったら社交場に招待してやる」
「別に目覚まし草なんて吸いたくないですよ、臭いですし」
「くさ…ふぅ~…娘にも同じ事言われたな…」
肩を落としながら煙を吐くダルトン、シルトアが風魔法で煙を押し返している。
『目覚まし草』
所謂タバコ、ミント系の葉っぱが使用されておりメンソールみたいな味がするとかしないとか。
癖があるため愛用者は少ない。
特に体が資本の現役冒険者は吸わないためダルトンは文字通り煙たがられているとかいないとか。
ドナが愛用しているパイプとは別物。
「あと僕は大人です、いつまでも子供扱いしないで下さい」
「16歳は十分子供だろ~、一人称僕だしな、いろいろ小さいし」
「体は関係ないですよ、12歳で成人です、そういう決まりです」
「ふぅ~…大昔の人が決めた決まりな、誰も信じちゃいねぇよ、実際12歳なんて体も精神も子供だろ、
ほら見てみろその辺無邪気に走ってるだろ、あれでいいんだよ」
「僕はもう2年もSランクとして活動しるんですよ、その辺の子供と一緒にしないで下さい」
「そうやって拗ねるところがまだまだ子供だっての、大体俺の娘より4歳も年下なんだぞ、
子供にしか見えねぇんだよ父親である俺にはな」
「もういいです! このクソいオヤジ!」
「クソオヤジじゃありませんギルド長です~、拗ねるなって、お前を推薦したのは俺だぞ?
軽く見てる訳じゃないって、誰よりも認めてるよ、ふぅ~…
そんで? 忙しいシルトアさんはわざわざそんなこと言いに来たのか?」
「違いますよ、なんか新しい人がSランクの試験を受けに来たって聞きましたので」
「おう来たぞ、ミーシャって女の魔法使いとルドルフって男のゴリゴリ近接タイプだ、
2人共ウルダの所属だな、俺も何度か名前を聞いたことがある、
天才肌のお前と違って幼少期から叩き上げの実力派だ」
「へぇ~、どんな人達か見てみたいな~」
「ふぅ~…1本吸い終わったし一緒に見に行くか? まだ上にいるぞ」
「本当ですか!」
「はは、目をキラキラさせやがって」
目覚まし草を投げ指先から火を飛ばすダルトン、空中で完全燃焼しバケツの中の灰が少しだけ増えた。
「その前に俺の話を聞きませんかねダルトンギルド長」
フードを被った男が声を掛けた来た。
「いかにも怪しいヤツだな、顔を見せたらどうだ?」
「おっと、その前に子供を止めて下さいよ、俺も剣を抜きたくはないんでね、
遣り合う気はないんですって、頼みますよ~ダルトンギルド長」
「ふん…シルトア」
「了解です」
「妙な真似はするなよ、現役を引退してるとは言っても俺はギルド長だ、素手でもそれなりにやるぞ」
「よく知ってますよ…」
杖を降ろすシルトア、フードの男も腰の剣から両手を離し顔を見せた。
「ヒルカームか…お前何年ぶりだ?」
「3年ちょいですかね~、訳ありなんでフード被りますよ」
「ギルド長、知り合いですか?」
「ウチの元Aランク冒険者だ、馬鹿やらかしたから俺が追放したんだよ、
バルジャーノで指名手配されてるくせに何しに来たんだ?」
「重要な情報を持って来たんですよ、バルジャーノにとんでもない賊が入り込んでるって言ったら信じますか?」
「そりゃ目の前にいるからな」
「俺じゃないですって、わざわざ伝えに来るわけないでしょ!」
「どうだかな、お前は信用できん」
「まぁいいから聞いて下さいよ、マジで時間無いんですから、
暗殺しようって馬鹿共がいるんですよ、派手に町中で魔法ぶっ放す可能性だってあるんですよ?」
「何?」
「やっと聞く気になりましたね」
「いいから話せ」
「対象はカード王とレジャーノ伯爵で実行予定は今日、そのほかの詳しい話は俺も知りません」
「…随分と曖昧だな、お前それ誰から聞いたんだ?」
「傭兵仲間が話してるのを聞いたんですよ、この町には俺の知り合いもいますからね、
心配になって危険を冒してわざわざ教えに来たって訳です」
「何故わざわざギルド長に? 衛兵でも良いのでは?」
「あのなお嬢ちゃん、俺は指名手配されてんだぞ? 衛兵になんて話せるかよ」
「ギルド長この人怪しいですよ」
「別に俺を信じなくてもいいですけどね、しっかり伝えましたからね」
「…ヒルカーム、お前どこから入って来た?」
「正門から堂々と入りましたよ、武器も持ったまま、この意味わかりますか?
んじゃ俺は行きますんで頼みましたよダルトンギルド長」
「待ちなさい!」
「待てシルトア!」
ヒルカームは人混みに消えた。
「何で止めるんですか! あんな怪しい人の言うことを信じるんですか?」
「ヒルカームがここにいること自体が普通じゃない、よく聞けシルトア、
今バルジャーノではレジャーノ伯爵とリーヌス総務長で政治的な争いをしている、
リーヌス総務長はレジャーノ伯爵を失脚させるる為に裏で各地に様々な圧力を掛けてきた、
お前も知っている亜人種に対する不当な扱いもその1つだ、
そして最近は衛兵に対しても圧力を掛けて来ている」
「え、じゃさっきの話は…」
「まだ可能性の話だ、だが可能性がある以上見過ごす訳にはいかない、
Sランク冒険者シルトアよ、今すぐレジャーノ伯爵の元へ向かい全力で警護しろ、
カード王へは他の者を向かわせる、俺も皆に伝達後すぐに向かう」
「了解!」
シルトアは飛び立ちダルトンはギルド内へと戻った。
「全員聞け、緊急だ! 先程カード王とレジャーノ伯爵の暗殺を目論む賊が侵入したと情報が入った!
まだ可能性の段階だが見過ごす訳にはいかん!
素性は不明だが町中で無差別に魔法を使う可能性もあり一般市民への被害も予想される!
Bランク以下は衛兵と情報を共有し捜索にあたれ!
Aランク以上はカード王とレジャーノ伯爵の警護にあたる!
既にシルトアをレジャーノ伯爵の元に向かわせた、他のSランク冒険者はAランクを率いてカード王の元へ!
急げ! 絶対に町中で魔法を使わせるな!」
『 はい! 』
ダルトンの号令により冒険者達はギルドから飛び出していった。
その様子を路地から確認する2人の男。
「おうおう、大慌てで飛び出していきやがる、流石ダルトンギルド長だな」
「おいヒルカーム、お前いったい何やったんだ? どうなってんだこれは?」
「何って、教えてやったんだよ、要人を暗殺しようとする馬鹿が入り込んでるってな」
「な!? 何!? 裏切りやがったなヒルカーム!」
「手を離せよコッケル、あぁ?」
「どうすんだよこれから! こんな大騒ぎにしちまいやがって!」
「放せって言ってんだろうが、腕を切り飛ばされてぇのか?」
「…くそっ」
「ったく、話は最後まで聞けよ馬鹿野郎、俺が伝えた暗殺対象はレジャーノ伯爵とカード王だ」
「は? カード王?」
「そうだ、マイロのことは一言も漏らしてねぇから安心しろ、
ついでに町中で魔法をぶっ放すとも伝えてある、まぁこれは半分本当なんだがな、
確かに不意打ちの魔法を打ち落とすってのは至難の業だ、
点と点をぶつけるようなもんだからな、
範囲系魔法なら多少楽になるが距離を間違えば下手すりゃ死ぬ、
だからと言って警備が厳重なカード王の暗殺なんて無理に決まってるのによ、
見てみろ、ちょっと煽っただけでギルドが空だ、
魔法の危険性を一番知ってる奴等だからこそ小さな可能性でも見過ごせねぇのさ」
「だけどよ、それじゃレジャーノ伯爵側に向かったバイス達は…」
「なんだお前知り合いだったのか?」
「いや、そういう訳じゃねぇけど…」
「なら割り切れよ、どっちにしろあいつ等は生きては帰れねぇ」
「それはお前のせいだろ!」
「あ~もううるせぇうるせぇ、お前本当に馬鹿だな、自分の頭で少しは考えろ、
ここは普通の町じゃねぇんだ、Sランク冒険者がいるんだぞ?
カード王と同様に伯爵の暗殺なんて始めっから無理なんだよ、近寄る前に捕まって終わりだ、
離れた位置からフレイムでも使えば少しは可能性があるかもしれねぇが、
町中でそんなもん使ってみろ、Sランクが飛んで来て確実に捕まる」
「バイス達が捕まったら俺達の事も…」
「心配すんな、捕まったら話す前に殺されるさ」
「直ぐには殺さねぇだろ、普通は拷問でもなんでもやって情報を聞き出す筈だ」
「指名手配されてる俺が武器を持ったまま正門を通過したんだぞ?
衛兵に話を通せる地位に雇い主の協力者がいるってこった、
そんな奴が自分に繋がる情報を許すと思うか? 俺ならどんな手を使ってでも消すね
所詮俺達は使い捨ての駒なんだよ、生き残るために最善を尽くして何が悪い」
「そ、そうだな」
「俺が聞いてた話じゃ元々雇い主の標的はマイロだけだった、
レジャーノ伯爵は協力者の標的の可能性が高い、
だが協力者の思惑なんて知ったこっちゃねぇ、俺達は手薄になってる今の内に仕事を済ませるぞ、
バイス達はデカい報酬を狙って自分であっちを選んだんだ、その結果死んだって後悔しねぇだろ、
丘の上で待機しているネサラも元々そのつもりで行動してる」
「わかった、しかたねぇな」
「とっとと行くぞコッケル、絶対に魔法は使うんじゃねぇぞ、騒ぎになるとマズい、
それと確実に仕留めるなら首を落とせ、それ以外は回復魔法で生き残る可能性があるからな」
「了解だ」
こうしてヒルカームとコッケルはマイロの元へと向かった。
場所は変わりレジャーノ伯爵邸前、
庭を横切り門の前に用意された馬車へと向かうレジャーノ伯爵、執事のカーネル、執事見習いのパニー。
そして近くの建物で様子を伺う3人の男達。
「バイス、ようやくお出ましだ、情報に無い女がいるな」
「外の奴等がやり始めるまで時間がねぇぞ、門の前の衛兵はどうする?」
「なぁに、フレイムで吹き飛ばせば一瞬で片が付く、馬車に乗り込む瞬間を狙うぞ」
「俺のフレイムあんまり威力ねぇぞ、コントロールも正直自信ねぇ」
「だったら俺達2人が吹き飛ばすから突っ込んで止め刺してこい、タイミング間違って巻き込まれんなよ」
「誰に言ってんだよ、俺は剣で生きて来たんだ、その辺Aランク冒険者にだって負けやしねぇ」
「分かったからさっさと準備しろ、いいか同時に打つぞ」
「「 おう 」」
息を殺しその時を待つ男達、レジャーノ伯爵達が馬車へと近ずく。
「良いですかパニー、レジャーノ伯爵が乗車される際は先に扉を開けて横で待ち
同行する際は後から乗車、そうでない場合は扉を閉めてお見送りをします、
今回は御者の方がいらっしゃいますが、場合によっては私が務める場合もあります」
「はい」
「今日は私が手本をお見せしますので明日からはパニーが担当して下い」
「え!? 明日からですか!? 私馬の扱いなんて知りませんよ!?」
「大丈夫ですよ、とても簡単なことです、ですが周りの目もありますので
執事たるもの主の評価を下げないように注意して下さい」
「えぇ!?」
「あまり圧を掛けてやるなカーネル、私はその程度の評価など気にしておらん」
「レジャーノ伯爵が気にされてずとも私は気にしております、
執事とはそういう者でありますので、では扉を」
「うむ」
カーネルが馬車の扉を開け、レジャーノ伯爵が乗り込もうとする。
「!? 伯爵!」
『 !? 』
城壁で爆発音が聞こえた瞬間、パニーはレジャーノ伯爵を馬車に押し込み、
同時に視界の隅に映った2つの小さな火球に向けライトニングを放った。
ライトニングは火球を貫き爆風で馬車が横転、パニーとカーネルは地面に叩きつけられた。
衛兵と御者も巻き添えを受け地面に倒れた。
「やったぜバイス! 外の奴等も始めちまったしとっととずらかろうぜ!」
「いや、やってねぇ、一瞬だがライトニングが見えた、
伯爵の姿が見えねぇし…マジかよあの距離で撃ち落とすか普通!
急げ! もう1ッ発だ! あの馬車を吹き飛ばせ!」
「お、おう!」
「「 うぉ…ぐわぁ!? 」」
2発目を放とうとする2人が吹き飛ばされ部屋の奥の壁に叩きつけられた。
「そんなことは僕がさせない、何やってんだよあんた達」
「な…なんだこのガキは…」
「何処から来やがった…」
「魔法を悪用しやがって! 絶対に許さないからな!」
「っへ…魔法は危険だから悪用してはいけませんってか、良い子は母親の所に帰りな」
「俺達に構ってる暇はねぇと思うがな、もう1人仲間がいるのよ、そいつが今頃…がっ!?」
台詞の途中でバイスが壁に叩きつけられた。
夕日が指し込む薄暗い部屋の中で緑の瞳が怒りに燃えている。
「2つ教えてあげるよ、1つ、僕はこう見えてSランク冒険者だ、
2つ、下にはその僕が認めている人がいる、あんた達程度じゃ絶対に勝てないよ」
そして馬車の近くでは。
「レ、レジャーノ伯爵…うぐっ…」
「おぉ生きてやがる、しぶとい爺さんだな、自分の傷の治療に集中した方がいいぜ?
用があるのは伯爵だけだから見逃してやるよ、んで伯爵何処だ? 馬車の中か?」
「その馬車から…離れろ…」
「黙ってろおらぁ!」
「ぐあっ…」
男に蹴り飛ばされ気を失うカーネル。
「時間がねぇんだ、手間とらせんなジジイ、どれ伯爵は…」
「薄汚い手でその馬車に触れるな…」
「んん? おいおい今度は死にかけのお嬢ちゃんかよ、右目潰れてんじゃねぇか、
辞めとけってその傷じゃ俺の相手は出来ねぇよ、見逃してやるから寝てろ」
「その中にいるのはこの町に必要なお方…絶対に失う訳にはいかない…ぐっああぁぁ!」
右目に刺さっていた木片を投げ捨てるパニー、
回復魔法を使用しているが未だ傷は癒えておらず、
地面に叩きつけられた際に左半身の複数個所を骨折、
飛び散った馬車の装飾の破片により右目を失明するという重症である。
気絶しそうなほどの激痛の筈だが、腹の底から湧き上がる怒りと崇高な使命感で体を支えている。
「聞こえるだろこの爆発音と悲鳴、マジで時間がねぇんだ」
「レジャーノ伯爵は絶対に守る…逃がしもしない…私の命に掛けて…」
「命を掛けるねぇ、御立派なこった、じゃあ死ねぇ!」
「はぁ!」
振り下ろされた男の腕はパニーの風魔法により切断され剣と共に地面に落ちた。
「ぐぎゃぁぁ!?」
「終わりよ、諦めなさい」
痛みで喚く男の体が水に包まれ、氷の塊へと変わる。
一瞬で捕縛された男は腕を繋ぐことなく傷口を回復魔法で塞がれた。
通常、魔法職と近接職の戦いは近距離なら近接職、それ以外なら魔法職の方が有利です。
近付かれると範囲系の魔法は使えず、そもそも集中できないため魔法の発動に支障がでます。
単純な威力であれば圧倒的に魔法が上ですが、肉体的な強度は近接職が上の場合が多く、
もし戦うのであれば魔法職は近寄らせないように必死で距離を保つ必要があります。
氷で動きを阻害する場合は氷魔法単体ではなく、1度水魔法で水の塊を作り氷魔法で凍らせています。
ルドルフやタレンギ、パニーなどが簡単に行っていましたが2つの魔法を連続して発動させ、
瞬間的に凍らせる能力が必要となります。
※氷魔法でも氷を作れますが上記より時間とマナが必要になります。
今回満身創痍のパニーが勝ったのはそれだけ優秀だったということです。
Sランク冒険者に認められ、ギルド長候補になり、
伯爵直々に執事に勧誘される者の能力が低い訳がありません。
「くそっ! 無駄に頑丈に造りおって…このぉ!」
横転した馬車の扉が勢いよく開き、回復したレジャーノ伯爵が出て来た。
※レジャーノ伯爵の馬車は襲撃に備えて頑丈に造られています。、
乗車室は金属で作られており、その上から装飾として板を張り付けて木製に見せています。
加えてガラスと乗車室は中の人を守るため強化魔法で補強されており、
その周りに破損しても問題ない装飾が施されている感じです。
「カーネル! パニー! 無事か? 返事をしろ!」
「駄目です、まだ外に出ないで下さい、どこかで賊が暴れているようです」
「パニー、右目はどうした? 開かぬのか?」
「中に入って下さい、私はカーネルさん達の手当てしますから」
「それは僕に任せて自分の傷を治してよパニーさん、この辺りにはもう怪しい人はいないよ」
「シルトアか、よくきてくれた、状況は分かるか?」
「南の城壁の辺りが魔法で襲撃を受けてるみたいです、たぶん大変なことになっていると思います…
カード王とここに冒険者が向かっているのでもうすぐ来るはずですけど」
「そうか、このクズ以外にも賊は捕らえたか?」
「はい、あそこの2階に2人捕まえてます」
「なに!? あの場所は衛兵が配置されている筈だが…」
「え? 他には誰もいませんでしたよ?」
「衛兵がいるなんて聞いたことありませんけど?」
「要人の屋敷の周辺には秘密裏に複数配置されている、一般人を装ってな、
シルトア、今すぐ城壁に向かえ、やって貰いたい事がある」
「え? でも僕が離れたら…」
「見ろ、使用人達が向かって来ている、冒険者達も来るのであれば大丈夫だ、カーネル達の回復は私が変わろう」
「私がやりますのでレジャーノ伯爵は…」
「パニーは大人しく自分の回復に専念しろ、傷の回復程度なら私にも出来る」
「そ、そんな…」
「専念しろ」
「は、はぃぃぃ!」
「(怖ぁぁぁ!)」
怪我人も容赦なく睨みつけるレジャーノ伯爵、優しさである。




