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176話目【さらばウルダ、松本の旅立ち】

「ポ~ニポニポニポニポニ…」


時刻は朝7時ごろ、馬小屋でパンと人参を食べているポニ爺の耳を松本が弄り倒している。


「あんまり弄るとポニ爺に怒られるんじゃないか?」

「ポニ爺は優しいから許してくれますよ」


バトーがやって来た。


「ポニ爺の世話なら俺に任せていいんだぞ」

「久し振りのポニ爺ですからね、俺がやりたいんですよ、次会えるのはいつになるかわかりませんし」

「出発は今日だったか?」

「明日ですね、魔道義足のデータ取りが終わってないみたいでして、

 なんかバラバラにして耐久値とか調べるらしいですよ」

「ふ~ん、大変だな、確かカプアさんも魔道義手だろ? そんなにデータ足りて無いのか?」

「元々使用者が殆どいない上に庶民の農業従事者は初めてとかで、しかもクルミパパって足じゃないですか?

 普段使いより過酷な環境のデータは貴重だそうです、もっと過酷な環境のデータも欲しいそうですよ」

「過酷なぁ…冒険者とかか?」

「恐らくそんなとこだと思いますけど、高すぎてSランク冒険者じゃないと買えないですよ~」

「だな、借金すればいけるかもしれんが…直ぐ壊しそうだよな特にミーシャは」

「絶対1日で壊れますよ」

「「 はははははは! 」」


ポニ爺の世話を終えた2人は松本の宿泊先、吸血の館へと向かった。



「ここかぁ…俺が子供の頃から変わってないな、あのカボチャ覚えてるぞ」

「あれ郵便ポストですよ、届いてるの見たことないですけど、バトーさんも度胸試しやったんですか?」

「やったな、夏の夜にやるのが子供達の定番なんだ、これが怖くてなぁ…

 全力で走ったら転んで、それを見て大笑いしたミーシャも転んでな、2人とも泥だらけになった」

「(簡単に想像できるな…)」


※吸血の宿の庭は水捌けが悪いので雨が降った後はぬかるみます。


「中もなかなか癖が凄いんですよ~慣れれば気にならないんですけど、帰りました~」

「失礼します」

「お帰りマツモト、後ろの人は新しいお客さん?」

「俺を迎えに来たバトーさんです、まぁちょっと事情が変わっちゃいましたけど、

 今から朝食作るんですけどバトーさんも一緒に食べてもいいですかね?」

「そう、私の分も作るならいいわ」

「了解です、行きますよバトーさん」

「あぁ…」

「どうしたんですかバトーさん?」

「いや、なんというか…思っていたより随分と小さいなドーラさん」

「っし、駄目ですよ、気にしてるっぽいんですから、俺この前怒られたんですから…」

「そうか、気を付けよう…」


建物の入り口でコソコソ話をする松本とバトー。


「聞こえてるわよマツモト、見当違いなこと言ってないで早く朝食作りなさい」

「はい~、てっきり幼児体形を気にしてるのかと思ってましたけど違ったんですか?」

「体なんて只の器、私が気に入らなかったのはマツモトの顔よ」

「ひ、酷い…そんなことあります? バトーさんこっちですよ~」

「あぁ、直ぐ行く(ドーラさんか…昔似たような子供を見かけたな)」


恐らく似た子供ではなくドーラ本人である。


「ってことでして、急遽ダナブルに行くことになりました、旨っ」

「そう、それじゃマツモトがいるのは明日までね」

「マツモトがお世話になりました、肉旨っ」

「短い間でしたけどお世話になりました、旨っ」

「いいのよ、こっちも楽しめたから…それより飲み込んでから話したら?」

「「 はい 」」


ドーラさんがくれる肉はルート伯爵から献上されているため美味しいのだ。


「見た目はアレでしたけどいい宿でしたね、値段も安いし、筋トレしても怒られないし」

「筋トレできるのか、俺も次からここにするかな」

「もしかしてまた怒られたんですか?」

「いつものことだ」

「「 ははははは! 」」

「別にいいけど、ウチは寝る場所を提供するだけよ、

 家事は全て自分でやること、風呂、トイレ、台所は共同」

「自由に使っていいのですか?」

「いいわ、食材も自分で買うこと、あと掃除もすること」

「まぁ場所が違うだけで普段家でやってることと同じですよ、

 違いはドーラさんがいるだけ、一応今はお客さんが1組泊ってますけど

 それ以外は人の出入りは皆無ですね」

「料理が自由にできるのは食費が浮いて助かるな、ところでマツモト…

 さっきから気になっていることがあるんだが…」

「どうしたんですか?」

「あれなんだが…最初は飾りかと思ってたんだが動いててな…」


ドーラの後ろを見つめるバトー、黒い影が棺桶に隠れてこちらを伺っている。


「あぁ~紹介するのを忘れてました、いつも一緒に食べてるんですよ、ちゃんと用意してあるぞ~」


ドーラの横に肉とパンの乗った皿を置くとマッシュバットが椅子に座りペコリと頭を下げた。


「可愛いいやつなんですよ~」

「えらく人に慣れてるな、ドーラさんのペットなんですか?」

「違うわ、勝手に住み着いてるだけよ」

「一応野生のマッシュバットです、キノコ小屋で売り物にならないキノコ貰ったりしてますから

 言うなれば町の生活に順応した野生のマッシュバットですね」


誰かに飼われることなく都会で自由に生きているので野良犬みたいなものである。


「ピロピロピロピロ~おほほ~可愛いヤツめ~」

「(…本当に野生か?)」


松本に耳をピロピロされながらパンを齧るマッシュバット、全く逃げない様子にバトーが戸惑っている。


「もしバトーさんも泊まるなら餌をあげてください、ドーラさんは餌あげないので」

「別に飼ってるわけじゃないもの、追い出さないだけ寛容よ」

「ははは、約束するよマツモト、泊った時は餌をやろう」

「で? 泊るの? 1ヶ月3ゴールドよ、面倒だから日割りの払い戻しとかは無しにして」

「安いですね、まだ少し先ですがお世話になると思います」

「バトーさん本気で泊るんですか? 別に買出しの数日だけなら無理に泊まる必要ないと思いますけど?」

「昨日カルニに相談されてな、最近強力な魔物が活発になって来ているみたいで

 対応できる冒険者が人手不足だそうだ、若手を育てようにも教える側が忙しくて上手く行ってないらしい」

「それでバトーさんが教育係を?」

「いや、そっちは出来る限り現役冒険者に任せたいらしい、教えることによって自身の成長に繋がるからな、

 開いた穴の補填を俺に任せたいんだと、まぁ引き受けるかどうかは村に戻って相談してからだがな」

「なるほど(よかった、バトーさんが教育係りしたら増えるどころか減るからな…)」


バトーの教育は鍬1000回素振りから始まります。


「バトーさんがいなくなったらポッポ村は大丈夫ですかね?」

「その辺は行きながら話そう、ご馳走様でしたドーラさん」

「いいのよ、気にしないで」

「いや作ったの俺ですよ」

「確かに、ありがとうなマツモト」

「でも肉はウチのよ」

「「 確かに、ご馳走様でした 」」


マッシュバットの耳をピロピロした後2人は買出しに向かった。




「キノコ、野菜、肉、お茶、ジャム、調味料、あと魔石、

 これだけ買うなら馬車持って来た方がいいんじゃないですか?」

「今日は魔石と小物だけだ、本格的な買出しは明日の帰る前にしないと置き場に困るからな」

「馬車に積んでたら盗まれる可能性もありますしね」

「そうだな、ところでさっきの話なんだが、ポッポ村は俺が抜けても割と大丈夫だと思うんだ」

「まぁゴードンさん達って結構強いですもんね、冒険者始めてから改めて感じますよ、

 Aランク位あるんじゃないですか?」

「単純には比べられないがその辺のBランクよりは強いんじゃないか?

 実は獣人の人達が農業を学ぶために滞在しだしてな、いざという時は力を貸してくれると思うんだ」

「へぇ~そうだったんですか、レム様の信者と鉢合わせになったりしないんですか?」

「最近は割と落ち着いてるぞ、光筋教団が光魔法を各地で普及させたからわざわざ来る必要が無くなったんだろ、

 そのうち聖地巡礼に来るかも知れないが、今はそれどころじゃないんだろ」

「来るとしたら魔王が討伐されたあとですかねぇ~」

「だな、フルムド伯爵の話だと難しいんだろうがな」

「あ、バトーさん甘い物食べませんか? ちょっとお世話になった挨拶ついでに買って来ますよ」

「お? マツモトの奢りか? 珍しいな」

「俺結構稼いだんですよ? 補助系依頼界隈じゃ優良物件として重宝されてるんですから、

 長時間労働も人が嫌がる仕事もなんでもやります! 実は殆ど追加報酬貰ってますからね」

「流石は補助系依頼の星だな、俺はここで待ってるよ」

「そんなに気を使わなくても直ぐに戻ってきますよ」


ワッフル・タルトでショーケース越しにペコペコ頭を下げる松本、箱を持って帰って来た。


「そんなに沢山買ったのか?」

「いえ、2個だけですよ」

「デカいな」

「デカいんですよ」


ジャンボシュークリームを2個買ったらしい。


「旨いな」

「旨いんですよ」

「ただちょっと食べ難いな」

「食べ難いんですよ」


ジャンボシュークリームを吸いながら魔石店にやって来た2人。


「なんの魔石買うんですか?」

「回復魔法だな、獣人の人達の依頼だ」

「そういや欲しがってましたね、便利ですからね回復魔法は」

「依頼では2個だったが昨日臨時収入が入ったから多めに買っておこう、今後も必要になる筈だ」


店頭でジャンボシュークリームを食べ終え店内へ。


「…いらっしゃいませ」

「バトーさん5個しか置いてないですよ」

「だな、すみません回復魔法の魔石はまだありますか?」

「…裏にあります」

「あるそうだ、マツモトは何か欲しい物は無いのか?」

「う~ん、夏に備えて氷魔法が欲しいですけど…4ゴールドかぁ、

 他のは2ゴールドなのに倍かぁ…ちょっと悩みますね」

「すみません、回復魔法の魔石を10個と氷魔法の魔石を1個下さい」

「え、ちょとっと…」

「…全部で24ゴールドです」

「これでお願いします」

「…少々お待ちください」


バトーが料金を支払うと店員さんが裏に消えた。


「あの~俺まだ買うかどうか迷ってたんですけど…」

「俺の奢りだから気にしないでいいぞ」

「えぇ!? そんな太っ腹な、ありがとう御座います~」

「気にするな、マツモトを捕まえた報酬だからな」

「いや…臨時収入ってそれですか…」


20ゴールドは報酬、4ゴールドは獣人達の干物を売った料金である。


「今日の分はこれで終わりだな」

「俺は知人に挨拶して来ます、明日は午前中に荷物を積み込みましょう」

「そうだな」






そして翌日。


「お前こんなもの買ったのか?」

「中古ですけどいいマットなんですよ~、これで寝るのが楽しみだったんですけど暫くは無理そうですね」

「マツモトにはちょっと大き過ぎないか? 荷台にギリギリだぞ」

「俺もそのうち大きくなるから大丈夫ですよ、家に入るかが問題です」

「それはたぶん大丈夫だな、マツモトの家改築されてたぞ」

「えぇ!? なんでまた…レム様が何かしたんですか?」

「いや、獣人の人達の仮住まいとして使ってるぞ、人目に付かないし船着場から近いからな」

「まぁ、誰も使って無いよりいいでしょ、好きに使って下さい」


荷台に松本の寝具一式を詰め込み。


「あの~がんばるダケが入荷していますがどうされますか?」

「「 買います 」」


食材の買出しを終え。


「来た時は鞄1つだったのに知らない内に随分と買い込んだものね」

「服とかタオルとかお茶とかです、俺の努力の結晶ですよ」

「お茶は置いて行ってもいいわ、私が飲むから」

「パン置いてきたんで勘弁して下さい…それじゃドーラさんお元気で」

「また来なさい」

「ダリアさん達もお元気で、パンは沢山置いてありますので皆で食べて下さい」

「ありがとう、と言っても私達も今日ここを発つのだがな」

「そうなんですか? それじゃパン持って行って下さい、

 ドーラさんだけじゃ食べきる前に悪くなっちゃうと思うので」

「わかった、元気でなマツモト君」

「さよ~なら~」


吸血の館で松本の荷物を積み込み、少し早めに集合場所の西門へ。


「伯爵様は何時に来るんだ?」

「昼頃に出発らしいですけどちょっとよく分からないですね、ここで待ってれば迎えに来るそうです」

「もう暫くはゆっくりだな~」

「そうですね~」


馬車の荷台に敷かれたマットの上でゴロゴロする松本とバトー。

温かくなって来たので日差しが心地良い。


「次いつ買い足せるか分からないのでレム様にはお茶飲み過ぎないように伝えて下さい」

「無くなったら俺達が持って行くさ」

「あとこれジョナさんに借りてたお金です、ありがとう御座いましたって伝えて下さい」

「わかった、伝えておく」

「…」

「…すやぁ…」


マットの上で意識が遠のく2人、スヤスヤと眠りに付こうとした時

松本の瞼の裏から差す光が途絶えた。


「…ん?」


薄っすらと片目を開けると逆光の中に何かが仁王立ちしている。


「マツモト、パン頂戴」

「ミリー? …すやぁ…」

「やぁぁぁ!」

「ぐほぉ!?」


再び眠りに付こうとした松本の腹にミリーの拳がめり込んだ。


「ちょ…ミリーちゃん…いきなり人を殴ったら駄目よ…」

「ちゃんと声掛けた」

「そ、そうね…一回声掛けたね…眠くてつい…」

「…マツモトの友達か?」

「…友達の妹ですよ、ふぁぁ…」


意識を取り戻すバトーと松本、寝ぼけて目が3になっている。


「ミリー、マツモトいたの?」

「勝手に馬車に乗ったら怒られるよミリー」


馬車の外からカイとラッテオの声が聞こえた。


「カイお兄ちゃん、マツモトいた」

「マツモト君荷台の中にいたんだ」

「よかった~てっきりもう行っちゃったかと思ったよ」

「あれ? どうしたの2人とも?」

「カイとミリーが昨日会えなかったから見送りたいって言ってね」

「わざわざいいのに~でも有難いねぇ~」


松本が荷台から身体を出しラッテオとカイと握手する。


「マ、ツ、モ、ト、パ、ン!」

「(元気な子だな…)」


マットの上で飛び跳ねながらパンを要求するミリー、バトーが肘枕しながら静観している。


「マツモト君、他にも見送りが来てるよ」

「ゴンタ達も一緒に来たんだ、今あっちを探してる」

「え~本当? 嬉しいねぇ~どれ頭も冴えたし降りますかねぇ~」

「マツモトォ! パン! パン頂戴ぃぃぃ!」


荷台から降りる松本、ミリーがマットの上で手足をバタつかせ抗議している。


「ミリー後であげるから、ね? もう少し我慢してね」

「本当?」

「本当本当、ちゃんと皆にあげるから大人しく待っててね」

「うん」

「ごめんねマツモト君…僕達見送りに来たのに…」

「気にしないでよカイ、皆が来てくれて俺は嬉しいよ~バトーさんちょっと行ってきます」

「あぁ…(マツモトも大変だな)」


バトーとミリーを残し子供達の元へ向かう松本達。


「皆~マツモト君いたよ~」

「おいシメジ、ラッテオが見つけたみたいだぞ」

「よっしゃ、間に合ったね~」

「ゴンタ君行きましょう」

「あぁ、これ見たらマツモト喜ぶぜ!」


合流したフォースディメンション一同、ゴンタとハイモが後ろ手に何かを隠している。


「皆わざわざ見送りに来てくれてありがとうね~」

「マツモトいきなり言うんだもんなぁ~」

「ははは、ごめんごめんシメジ、俺もいきなり決まっちゃってさ」

「お陰で俺達昨日大変だったんだぞ、ラッテオ、カイ、頼むわ」

「「 はい~ 」」

「え? 何々? どうしたの?」


ハイモの合図で松本の腕を抑えるカイとラッテオ。


「受けとれぇぇぇ!」

「ぐほぉぉ!?」


木剣で思いきり腹を殴られる松本、ミリーに殴られた場所と同じ個所である。


「な…どういうこと…」

「これな、昨日皆で必死に作ったんだよ、マツモトに送ろうって、

 時間が無さ過ぎてあまり上手く出来なかったけど皆からの餞別だ」

「そ、そうなの? ありがとうね皆…でもなんで殴ったの? お腹痛いんですけど…」

「これ作るために受けてた依頼もキャンセルして、トネル達は学校を休んだんだ、重みが伝わっただろ?」

「そ、そうね…物理的に伝わったかな…」


青ざめる程度の重みである。


「盾もあるぞ、格好いいだろ!」

「へぇ~剣と盾のセットだ、いいねぇ~」

「俺達の力作だからな、部屋に飾ってくれ!」

「ありがとうゴンタ、大事にするよ!」

「最初は何を送ろうかと悩みましたが、マツモト君が次のヒヨコ杯に出られないとのことでしたので

 優勝者と準優勝者に送られる剣と盾を参考にしました、我ながら天才的な閃きです、

 目を閉じて考えていた時に雷に打たれたような衝撃と言いますか、神の啓示といいますか…

 暗闇の切り裂く一閃の光が…」

「あぁ、それで剣と盾なんだ」


トネルの言葉を遮る松本。


「因みに私の担当は剣の鍔の部分です、左が私、右が弟のレイルです、

 兄弟なので上手く行くと思いましたが意外と左右対称とはならないものですね」

「ははは、流石に兄弟でも同じにはならないよ、でもこれはこれで味があっていいと思う」

「俺は握る部分を作ったよ~丸く削るの苦労したんだよ~」

「俺は刃の部分な、シメジが何も考えずに丸く削るから合体させる時に苦労した」


剣はトネル、レイル、ハイモ、シメジの合作である。


「じゃぁ盾はゴンタが作ったの?」

「おう、意外と簡単にできたぞ、形通りに板を切るだけだけだったからな」

「持ち手とちょっとした装飾は僕が作ったんだ」

「へぇ~ラッテオ器用だね~」

「薄い板を切って張り付けたんだ、立体的に見えるからね」

「確かに、縁の部分が二重になってる」

「僕は色を塗ったんだ、あんまり綺麗に塗れなかったけど」

「十分綺麗だよカイ、模様も書いてあるし格好いいよ~」

「本当? 自信なかったけど良かった~、この前のヒヨコ杯で貰った盾を見て描いたんだ~」

「なるほどね~、この端の茶色い丸はなんだろう?」

「あ、それはミリーが描いたジャンボシュークリーム…気に入ったみたいで…」

「な、なるほど…」


盾はゴンタ、ラッテオ、カイ、ミリーの合作である。


「最高の剣と盾だよ、皆有難う!」

『 へへへへへ… 』


松本の高反応にクネクネする一同。


「貰ってばっかりじゃ悪いからお返しにパン持ってくるよ、ちょっとまってて」

『 はい~ 』

「喜んでたなマツモト」

「俺の言った通りだろ」

「いや~よかったよかった」

「皆さんの気持ちが伝わったようです」

「運ぶの手伝おうかカイ」

「そうだねラッテオ、ミリーも置いて来ちゃったし」


馬車に戻って来た松本、荷台を覗くとマットの上でミリーが横になっている。


「お~いミリーパンの時間だよ~、ミリー? ね、寝てる…」

「マツモト達が行ってからすぐ寝たぞ」

「まぁ気持ちいいですからね、取りあえず準備して…」


馬車に乗りポポポンと手からフランスパンを出す松本、少し息切れしている。


「ふぅ…ドーラさんの所にも沢山置いて来たし流石に出し過ぎたかな?」

「マナ切れか?」

「結構消費してるっぽいけどまだなんとか大丈夫ですね」

「マツモト君運ぶの手伝うよ~」

「ミリー迎えに来たよ~」

「丁度良かったカイ、ミリーが寝ちゃって…あれ?」

「パン美味しい…」


寝ていた筈のミリーがフランスパンを齧っている。


「…なんでもない、起きてたよ」

「ミリー降りて皆の所にいくよ」

「は~い」

「マツモト君半分持つよ」

「助かるよラッテオ、それじゃ3本お願いね」

「わかったよ」


ラッテオにパンを渡し馬車から降りようとする松本。


「マツモト今日で最後?」

「そうだね、次はいつ来れるか分からないかな」

「じゃあもう少しパン頂戴、マツモトのパン美味しい」

「あそう? 美味しいって言われちゃうと断れないなぁ、何本欲しいの?」

「…10…5本」


少し気を使った様子のミリー、カイが遠い目をしている。


「5本ね、了解了解、カイこれ持って先に行っててよ、ミリーの分準備してから行くよ」

「わかった、最後までごめんねマツモト君」

「いいよ、それより食べる前にパン痛んじゃうかもしれないから、食べきれない場合は凍らせておいてね」

「お母さんもお父さんもいるし、ミリーもいるから直ぐになくなっちゃうよ」

「ははは、確かにね」


カイ達が立ち去った後、荷台の中で気合でパンを捻出する松本。

すでに3本捻出し、4本目に挑もうというところ。


「はぁはぁ…はぁはぁ…」

「あまり無理しない方がいいんじゃないか?」

「だ、大丈夫です…この位バトーさんシゴキに比べれば…はぁはぁ…へあああ!」


4本目無事捻出。


「はぁはぁはぁ…うぐっ…」

「お、おいマツモトやめとけって、かなり来てるぞ」

「ま、まだ片膝ついただけです……はは…子供の無垢な願い…叶えてあげたいじゃ…ないですかぁ…」

「気持ちは分かるがお前、もうすぐフルムド伯爵が迎えにくるんだぞ?」

「はぁはぁ…やってやりますよ…この程度…ひょあぁぁぁぁ! がは…」

「やったな…まぁ大丈夫か、マツモトだしな…」


松本、5本目を捻出し久しぶりのマナ切れである。


「あの…マツモト君はそれ…大丈夫なんでしょうか?」

「大丈夫だ、マナ切れになっただけだからな」

「いや…マナ切れってかなり危ない状態だったと思いますが…

 というかさっきまで元気だったのに何故急に…」

「マツモトはたまにマナ切れ起こすからな、そういうヤツだ」

「えぇ…」


バトーに抱えられた干からびた松本を見てドン引きのトネル。


「ミリーちゃんこれマツモトからな」

「ありがとうマツモト!」


大喜びのミリーを他所に言葉にならない子供達。

フルムド伯爵が迎えに来た。


「すみませんバトーさん、あトネル君もいたんだ、マツモト君を見ていないでしょうか?

 ここで待ち合わせの予定だったのですが姿が見えなくて…」

「マツモトならここに」

「あ、あの…マツモト君はこれなんですけど…」


干からびた松本を指差す2人。


「マ!? マツモト君んんん!? ちょ…えぇ!? えぇぇぇ!?」

「ちょっとマナ切れになってまして」

「マナ!? えぇ!? マツモト君んんん!? タ、タレンギさん助けくださいいいい!」


フルムド伯爵が干からびた松本を大慌てで豪華な馬車に運んで行った。


「はぁ!? 何で今度マナ切れなんて…」

「と、とにかくお願いしますタレンギさん」

「あら、なんか膨らんだわね」

「どういうこと?」

「えぇ…」


戸惑いの声のあと少し膨らんだ松本が戻って来た。


「いや~ごめんごめん皆~ちょっと無理し過ぎちゃって、迎えが来たから俺そろそろ行くよ」

『 うん…(なんか膨らんでる…) 』

「マツモト気を付けてな~」

「バトーさんも元気で~村の人達にも宜しく伝えといてください~」

「おう、またな~」

『 またね~ 』


子供達に不安を残し松本は旅立っていった。



「あんた達仲良かったんだろ? 会わなくて良かったのかよ?」

「はぁはぁ、挨拶は昨日済ませたんだな」

「男の別れは1度で十分であります、マツモト氏ならどこへ行っても大丈夫であります」

「こ、子供達の別れ際を邪魔する訳にはいきませんからな、拙者達は日陰者で十分ですぞ」

「っけ、ここまで見に来て何言ってんだか、遠慮する位なら来なくても良かっただろ」

「そういうベルクだって見送りにきてんじゃないの~素直じゃないね~全く」

「うるせぇぞモントのオッサン」

「モントさんの言うとり、素直じゃないねぇリーダー」

「おやぁ? もしかして拗ねちゃったのかなベルク~?」

「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないのかな~見送りにくるほど気に入ったマツモト君とやらを~」

「纏わりつくんじゃねぇ! お前達しつこいんだよ!」

「「「 ぎゃ… 」」」

「はいはい騒がないの、それじゃ戻るわよ皆~」

「「「「 はーいカルニ姉さん! 」」」」

「カルニギルド長、槍の修理が終わったそうですので私はユミルの左手に行ってきます」

「お? 付き合うぞアクラス、俺も久しぶりに行こうと思ってたんだ」

「駄目よロジ、私達はこれからワイルドボア討伐、行くわよドーフマン」

「あぁ、行くぞロジ」

「マジかよ~、ワイルドボアなら南西のピーマンでもイケるって、頑張れベルク」

「イケるけどよ、俺達は若手の教育だぞうだ、ギルド長命令でな、頼むならモントのオッサンにしたらどうだ?」

「俺はCランクだから無理よ~カルニ軍団ならいけるでしょ~」

「いけますとも!」

「おまかせあれ!」

「カルニ姉さん直伝の魔法で一発ですよ!」

「エリス、ステラ、シグネ、私達は午後からちびっ子達の魔法教室です」

「「「 はい~ 」」」

「いいなぁ~俺も教育してぇよ~いっつも外仕事ばっかりで弟子も取れねぇっての」

「ロジは教えるの下手でしょ、擬音ばっかりで分かり難いし」

「ココの言う通りだ、教えるならアクラスだ」

「そりゃないでしょ2人共…俺も教えられるっての、なアクラス?」

「難しい質問ですね」

「おぉい!」

『 はははははは! 』


城壁の上から響く冒険者達の笑い声、皆見に来ていたらしい。


「やってみないと分からないだろ、俺だって教えられるぜたぶんきっと」

「はいはい、人手不足なんだから仕方ないでしょ、行くわよ~ロジ」

「そのことなんだけどね、もしかしたら人手増えるかも知れないわよ」

「カルニギルド長、誰か優秀な冒険者が移籍してくるのですか?」

「貴方を叩きのめしたヤツよ、アクラス」

『 !? 』

「頼んでみたの、暫く手伝ってくれって、もしかしたら金獅子バトーが帰って来るかもしれないわ」

『 はぁ!? 』


松本というそよ風が去り、バトーという暴風がやって来る。

ウルダの冒険者ギルドは今日も騒がしい。


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