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172話目【マツモトショック 2】

「そっちにいったぞー!!」

「追え追えー!」

「ほっほっほっほ…」

「きぃぃ素早いっ何なのあの子は!?」


数人の冒険者に路地裏を疾走する松本。

指名手配書、もとい松本の捜索依頼が張り出された結果、

Cランク以下の冒険者がこぞって参加し町中で大規模な捜索が行われている。


「左曲がりま~す」

「曲がったぞー!」

「見失うなよー! 行け行けー!」

「え!? どこ!? 消えた!?」


アーチを潜り狭い路地に入った先で松本を見失いキョロキョロする冒険者達、

町民が不思議そうな顔をしている。


「何処行ったんだ?」

「曲がったのは間違いないんだ、先を越される前に急いで探すぞ!」

「もう訳が分からないんですけどぉ~」


路地を走って行く冒険者達、町人達がクスクスと笑っている。


「ほぁ~…」


口を上けて見上げる子供、アーチの裏に張り付いていた松本がスルスルと下りて来た。


「ふふふ、まんまと引っ掛かりおって」

「お兄ちゃんすご~い、どうやってるの~?」

「ただ筋力で張り付いてただけだよ~、世の中の殆どの事柄は大体筋肉で解決できるんだよ~」

「えぇ~本当?」

「本当本当、他の人達には内緒だよ?」

「うん内緒にする~」

「おほ~ええ子やね~飴ちゃんあげちゃう」

「え~いいの~ありがとうお兄ちゃん」


子供に飴(賢者の石)を1つ渡し、来た道を戻って行く松本。

かれこれ2時間経つが誰も松本の確保に至っていない。



「流石に依頼はこなせないけどこの程度なら問題ないな、

 しかし、これからどうしようかなぁ…そろそろ迎えが来てもいい頃なんだけど…」

「あー! 20ゴールドいたー!」

「うぉぉぉ20ゴールドぉぉお!」

「どきなさいよ! 見つけたのは私達よ!」

「へっ、何言ってんだか、早い者勝ちに決まってんだろ」

「20ゴールドでツケを払うのは私達よ!」

「いいや、ツケを払ってスッキリするのは俺のチームだ!」

『待てぇぇぇ! 20ゴールドぉぉぉ!』

「な、何だあの経済破綻したチームは…」


血走った目で松本を追う債務者達、尋常ではない執念を感じさせる。


「ちょ、ちょっとぉ!? 幼気な子供を捕まえて借金返そうなんて情け無くないんですか!?」

『 無い! 』

「罪悪感とか、罪の意識みたいなのは!?」

『 無い! 』

「最低だよ! なんでそんなに自信満々なの!?」

「げへへへ…このままじゃ俺達は首が回んねぇんだよ、でも20ゴールドあればよぉ

 毎日昼間から酒が飲めるんだよぉ、だから大人しく掴まってくれよ坊主ぅ」

「ぐふふふ…20ゴールドあればケーキも肉も食べ放題、新しい服も買ってぇ

  家でダラダラゴロゴロ最高の日々よぉ、お願いだからお姉さんの為に掴まって頂戴坊やぁ」

「おぃぃぃツケ払う気ねぇだろアンタ等ぁぁぁ! なに豪遊しようとしてんの!?

 なに更なる奈落の底に沈もうとしてんの!? 肩まで借金にどっぷりだよ!?

 真面目に働いて這い出てこいやぁぁ!」

『 性に合いませ~ん! 』

「屑共がぁぁ!」


血眼の屑共に追われ路地に逃げ込んだ松本。


「何処行った俺の20ゴールド?」

「私の可愛い20ゴールドは何処?」

「こりゃいったい何の騒ぎだい? そんなに大勢で押しかけてどうしたってのさ?」


鍛冶屋からパイプをプカプカ吹かしながら店主が出て来た。


「す、すみませ~んドナさん、この子見ませんでしたか?」

「左頬に傷がある男の子なんですけど~ちょっと探してまして…」

「あん? こんな貧相な子供は知らないねぇ~仕事の邪魔だよ、他所を当たんな」

「あ、いや、すみませんでした…」

「私達直ぐ行きますので…」


ペコペコと頭を下げながら後退りする債務者達。

何やら頭が上がらないらしい。


「ちょっと待ちな、アンタ等今月分の支払い忘れてないだろうね?」

「ちゃ、ちゃんとお支払いしますよドナさん! 俺達忘れてませんから!」

「た、ただちょっと今は手持ちが無くてですね~えへへ…期日までにはきっちりお支払いします!」

「そうかい、それならいいのさ」

『 そ、それじゃ失礼して… ん? 』


鍛冶屋の中を見て足を止める債務者達。


「どうすかボンゴシの兄貴?」

「かぁ~全然駄目だ、全くなってねぇ、火をよく見ろって言ってんだろ、

 鍛冶屋ってのは火の扱いが重要なんだよ」

「うぃっす、自分頑張るっす」

「いいか? もう1度説明するからよく聞きな、火は目と体で判断するんだよ、

 火の色ってのは下から赤、黄色、白、青の順だ、そしてこの肌を焼く熱、この感覚を覚えんだよ」

「ういっす、自分頑張るっす」


炉の前でエプロン禿げと眼帯を付けた子供が何かやっている。


「あ、あれ! 20ゴールド! ドナさんアレがその写真の子供ですよ!」

「ほら左頬に傷があるじゃないですか! ドナさんあの子がマツモト君ですよ!」

「20ゴールドォ? マツモトォ? なに訳の分からないこと言ってんだい、

 アレはウチの新人のカネマツだよ」

「いやいや、マツってついてるじゃないですか! ドナさんよく見て下さい、絶対そうですって!」

「間違いありませんよドナさん! ほら見て下さいよこれ、ほらこれぇ!」

「はぁ~そこまで言うなら聞いてみようじゃないか、ちょっと坊主名前は?」

「ういっす、自分カネマツっす、自分頑張るっす」

「ほらみなよ、本人が違うって言ってるんだ、これ以上何があるってのさ?」

『 えぇ… 』

「そこで一回裏返しな、お、いいじゃねぇか、見てみな鉄の芯が黄色くなってるだろ?」

「ういっす、黄色いっす、自分頑張るっす」


債務者達の反応を他所に何かやっているエプロン禿げとカネマツ。


「なんだいその反応は? まだ何か気になるのかい?」

「い、いや~ちょっと…」

「カネマツと言われましてもぉ…」

「カネマツはカネマツだろう、そうだろうカネマツ?」

「ういっす、自分マツカネ、間違ったカネマツっす、自分頑張るっす」

「ちょっとぉぉ!? ドナさん!」

「今間違えましたよドナさん! マツカネって言いましたよドナさん!」

「誰だって自分の名前を間違うことくらいあるだろうさ」

「いやいやいやいや、流石に無理あるでしょドナさん! あの子を渡して欲しいんですよ俺達!」

「あの子を捕まえるとよく分からないけど20ゴールド貰えるんですよぉ、代金直ぐ払えますよドナさん!」


血走った目でジリジリと近寄って行く債務者達。


「ちょっとアンタ等いい加減にしなよ、まさかとは思うがね、

 本気で、子供を捕まえて得た汚れた金なんかで、ウチの代金を払う気じゃないだろうね?」

『 え… 』

「ウチの商品はそんなに軽くないんだよ! ふざけたことしたら只じゃおかないよ!」

『 は、はぃぃぃ! 』

「真面目に仕事して、とっとと代金払いな!」

『 す、すみませんでしたぁ! 』


ドナに一喝され債務者達はいなくなった。


「全く…ふざけたヤツらだよ」

「流石お師匠、蜘蛛の子散らしたみたい皆逃げて行きましたよ」

「凄いですねドナさん、ありがとうございます~」

「いいさこれくらい、マツモトには魔集石の借りがあるからね」

「そういえばあの貝殻どうなったんですか?」

「今作り変えてる最中さ、あれだけの量を使うんだ、いい物が出来るよ~」

「楽しみですね~お師匠、俺も完成が待ち遠しくて待ち遠しくて、首がこんなに伸びちまいましたよ」

「別に変わってないじゃないかい」

「物の例えですよお師匠、そんな冷たい言い方あります?」

『 はははは! 』

「冗談だよボンゴシ、それじゃ皆、仕事に戻るよ!』

『 はい! 』

「俺は宿に戻ります、眼帯もありがとう御座いました」

「いいさ、また来なよマツモト」

「ナイフの手入れを怠るんじゃねぇぞ~」

「はい~」




吸血の館(松本が宿泊している宿)に戻ると複数の冒険者達の姿が見えた。


「沢山いるなぁ…これは流石に…ん?」

「なぁ、お前先に行けよ」

「い、嫌よ…ほら先行って」

「いや俺はちょっと…お腹痛くて…お先にどうぞ」

「いやいや…」

「いやいやいや…」


宿屋の敷地に入ろうとせず、ベルを鳴らす役を譲り合っている。


「ぶっちゃけるけど俺は怖いの! いい歳こいて子供の頃のトラウマが蘇ってくるの!」

「私だって怖いの! 今ここにいるだけでも心臓がバクバク言ってるの!」

「俺なんて膝笑ってるからね、生まれたての怠けシープみたいになってるからね!」

「大体、何でこんなとこに泊ってるんだよぉぉぉ!?」

「頭おかしいんじゃないのぉぉぉ!? もういやぁぁ!」

「絶対ここ宿屋じゃないってぇぇ! 誰が何と言おうと俺は認めないからねぇぇ!」


子供の頃の度胸試しでトラウマを植え付けられているらしい。

※ドーラさんが営む吸血の館(宿)の外観はどう見ても墓地です、

 子供の定番度胸試しスポットとなっています。


「まぁ気持ちは分からんでもない…俺は慣れたけど…次行くか」


発狂寸前の冒険者を残し松本は去って行った。



「い、いや~大変でありましたなマツモト氏」

「はぁはぁ、最初に依頼書を見た時は目を疑ったんだな」

「皆、目の色変えて飛んでいったであります」

「そうなんですよ~あの眼鏡の人いきなりなんですもん、参っちゃいますよ」


ラストリベリオンの3人と昼食を共にする松本。


「しかしマツモト氏、こんな場所で昼食を食べるなんて肝が据わっているでありますな」

「皆、俺を探して町中駆け回ってますからねぇ、堂々としていれば意外とバレないもんですよ」

「ひ、昼時は一段と人が減りますからな」

「はぁはぁ、盲点なんだな」


マツモトがお手製サンドイッチを齧っているのはギルドの中二階のテーブルである。


「はぁはぁ、今回の件は何が目的なんだな?」

「なんか協力して欲しいって言ってましたよ、まぁ心辺りはありますけどねぇ

 説明し難い内容といいますか、関わり合わない方が無難だなって」

「わざわざ宣言してから依頼を出すなんて酔狂な人でありますなぁ」

「ま、マツモト氏はこれからどうするのですかな?」

「そろそろポッポ村から迎えが来るはずですから暫く宿で大人しくしておこうかと、

 今日は夜まで時間を潰して暗くなってから宿に戻ります」

「捕まらないように気を付けるであります」

「ははは、大丈夫ですよあの程度の人達じゃ俺を捕まえられませんよ、

 流石に魔法とか武器とか使われると無理ですけど、体力勝負ならそこそこイケます」

「はぁはぁ、町中でそこまでする人はいないんだな」

「ま、町中での過剰な武力行使は危険行為として衛兵の方達に取り押さえられますからな、

 下手すればギルドを追放されますぞ」

「へぇ~そうなんですね、よし、昼食も食べましたし俺はそろそろ…」

「んんん!? い、いるー! ギルド内にいるぅぅぅぅ!」


ハムバターサントを持った女性冒険者が驚いている。


「ありゃバレた」

「こっこここここに居たわよー! 集合ー! であえであえー!」

「い、行くのですぞマツモト氏!」

「はぁはぁ、ここは吾輩達に任せるんだな!」

「時間を稼ぐのであります!」


女性冒険者の前に立ちはだかるラストリベリオン。


「なによーどきなさいよ! 貴方達も私と同じDランクでしょ? 20ゴールド欲しくないの?」

「っふ…20ゴールド? それがどうしたのでありますか?」

「はぁはぁ、お金の問題じゃないんだな」

「た、例えこの命尽きようとも友を売るような真似は出来ませんぞ」

「(か、格好ぇぇ! ラストリベリオン格好ぇぇ!)」 


ラストリベリオンの背中に松本の目から発せられたキラキラが刺さっている。


「ありがとう御座います! 俺行きます!」

「さ、さぁここから進みたければ拙者達の屍を超えて行くのですぞ、雷鳴のラインハルト!」

「大地のグラハム!」

「疾風のギルバート!」

『 我ら生まれた日は違えども 死す時は同じ日同じ時を願わん! 

  我らマツモト氏の盟友、ラストリベリオンなり! 』


高らかに右手を掲げる3人。


「おらぁぁぁ!」

「ぐっふぅぅぅ!?」

「ギ、ギルバート氏ぃぃぃ!?」

「しっかりするんだなギルバート氏ぃぃ!」


ガラ空きの脇腹にボディブローを叩きこまれギルバートが真っ白な灰になった。


「(ありがとうギルバート、お前の犠牲は無駄にはせんぞ…)」


窓から逃走した松本はギルバートに敬礼した。


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