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171話目【マツモトショック 1】

朝食を食べるフルムド伯爵、タレンギ、ノルドヴェル。


「あれから数日監視していますけど、毎日依頼と鍬振りの繰り返しで

 特に変わった様子はありませんね」

「学校に行ってないし、同年代の子供みたいに遊んでいないですけど

 子供だけで生活しているから仕方がないのでしょう、これからどうされるのですかフルムド伯爵?」

「う~ん、文字の違いを認識出来ないと聞いていたので簡単に判断できると思ったのですが…

 書き換えた依頼書には反応しないし、メニューをすり替えようにもマツモト君は買い物に行かないしなぁ…

 う~ん…」


なかなか尻尾を見せない松本に頭を抱えるフルムド伯爵。


「そういえば依頼の後に人参の葉っぱ貰ってたわよ」

「あら、私が見た時は形の崩れた芋貰ってたわね」

「「 逞しい子供ねぇ~ 」」


なんて言いながら朝からステーキを食べるタレンギとノルドヴェル。

フルムド伯爵はスクランブルエッグとトーストである。


「フルムド伯爵、カプアさんの言う通り何かの間違いではないでしょうか? 

 あの少年が考古学を学んでいるとは思えませんし」

「私も正直疑問を感じます、あまり現実的ではないと言いますか…」

「お2人の気持ちは分かりますが僕はプリモハちゃんが見間違うとは思えないんですよね、

 直接確認したそうですし只の子供にしては経歴が異常すぎて…」

「あら、子供1人での出稼ぎはそこまで珍しいことではありませんよ、ねノル」

「貧しい家では良くある話です、子供が多い家は特にですね」

「いえそこではなく…この話は内密にお願いしますね」


判明している松本ヒストリーを説明するフルムド伯爵。


「なるほどですね、前回の魔族の襲撃場所が伏せられていた理由が分かりました、

 行ってみたいですわね~獣人の里、ご存知ですかフルムド伯爵?

 知人の話だと春になると池に白い花が咲くそうで、それはそれは美しい光景だとか…」

「私はネネ様の槍が見たみたいわぁ~現存してるなんて奇跡よ~」

「あの~今はマツモト君の話を…まぁいいか、そういう訳でして普通の子供とは違うと考えています、

 今回の調査も既に気付いているんじゃないかと」

「まぁ、可能性はありますね」

「それにしては自然すぎない? もう少し慌てても良いと思うけど…」

「これ以上時間を掛けても仕方ありませんし、少々荒っぽくなりますが別の方法で確かめるとします」



そしていつも通りギルドで依頼を漁る松本。


「これどう思いますか?」

「どうってお前、読めねぇよ、なんて書いてんだ?」

「さぁ?(くっ…同じ内容の依頼が2つある…

 ダミーを仕込んで来たな…カルニめぇ簡単に取り込まれおって…)」


松本の脳裏で悪女カルニが高笑いしている。


「俺が受けても大丈夫そうな依頼ってありますか?」

「お前Dランクだろ? 補助依頼ならどれでもいいだろ、ほらよ」

「助かります~(よし、上手く行ったな、この際内容はなんでもいい)」

「ねぇ君、その依頼を受けるならこれでもよかったんじゃないのかい?」

「ん?」


調査服の男が話しかけて来た。


「貴方はこの間のお兄さん、おはようございます~(出たなプリモハ調査隊別動隊)」

「おはよう、今日はこっちの依頼にしたらどうかな?」

「それなんて書いてあるか分からないですけど…」

「そうかい? 2つ共同じ内容だよ、君なら読めると思うけどね」

「いや俺は…」

「因みに僕は読めるよ、この依頼書を書いたのは僕だからね」

「はぁ…(えぇ…なにこの唐突なカミングアウト…)」

「君に是非協力して欲しいんだ、一緒に…」

「ちょっと何言ってるか分かんないですね」

「何で早口なのかなマツモト君?」


サン〇イッチマン富〇みたいな喋り方で小首をかしげる松本。


「(おぃぃぃ! 遂に直接来たんですけどぉぉ!? 

  名乗ってないのに俺の名前知ってるんですけどぉぉ!?

  確実にプリモハさんかカルニさんから聞いてるんですけどぉぉぉ!?)」

「ふぅ、仕方ないか…今日はこの依頼書を出そうと思ってるんだ」

「いやだから俺には読めませ…ん!?」


思わず目を見開く松本、フルムド伯爵が見せた依頼書には

『Dランク冒険者マツモトの捕獲、20ゴールド、参加人数自由』

と書かれており、ご丁寧に顔写真まで添付されている。


「(おぃぃぃ!? なんちゅう依頼出そうとしてんだぁぁぁ!?)」

「おや? どうしたのかなマツモト君? 変な汗かいてるみたいだけど?

 あれ? もしかして君これ読めるんじゃ?」

「い、いや~昨日腕立てし過ぎて大胸筋が炎症してまして、

 アッツいなぁははは…上着薄い奴にしてくればよかったはははは…」

「ははは、嘘だよ、大丈夫、これは普通の文字で書いてあるから読めて当り前さ」

「そ、そうですよねぇははは…(くそがぁぁ! 全然大丈夫じゃないわ! 余計にタチ悪いわぁぁ!)」


笑顔の内側でカチキレの松本。


「それ本当に依頼するんですか? ほら人権問題とか? ギルド規定とかで引っ掛かるのでは?」

「大丈夫大丈夫、探し人の依頼は良くあるそうだから、

 これだけ高額報酬なら皆こぞって参加してくれるよ、

 それに僕達が抱えてる問題の重さに比べれば少年1人の人権位軽いものさ」

「そ、そうですか…それじゃ俺は失礼しますので…」

「健闘を祈るよマツモト君」

「なにあの人!? 怖いんですけどぉぉぉ!?」


光の速さで松本は消えた。


 

「マツモトの捕獲だってよ、知ってるか?」

「朝ギルドにいる子供じゃない?」

「あの子こんな傷あったかしら?」

「行くぞお前達! 早い者勝ちだ!」

「なんとしてもウチのチームで捕獲して20ゴールドを手にするのよ!」

「ツケを払うチャンスだ!」

「いけいけー!」

「新しい装備買うぞ~!」


松本捕獲の依頼書が張り出されるや否や

金に飢えた冒険者達が目の色変えて捜索に出発した。


「お~いリーダー、なんか面白いことになってるぞ」

「これお前が言ってたガキンチョだろ?」

「どうすんだベルク? 俺達も参加するのか?」

「っけ、そんなのに参加すんのはろくに稼げねぇ馬鹿共だけだ」

「だよねぇ~」

「んじゃパスで」

「おら、とっとと今日の依頼決めようぜ」

「いくべいくべ~」


南西のピーマンは不参加。



「なんだこれ? あの時の坊主じゃねぇか、見てみろドーフマン」

「ふむ…まるで懸賞首だな」

「子供捕まえて20ゴールド!? 私達が休んでる間に何があったわけ?」

「さぁな? 一応紋章もあるし正規の依頼書なんだろ?」

「はぁ…きっと今頃お祭り騒ぎね、こんなの通すなんてカルニギルド長は何考えてるのよ?

 直接聞きに行くわよロジ、ドーフマン」

「うむ」

「はいよ~」


休暇明けの南南西三ツ星も勿論不参加。



「なんであんな依頼通したんですかカルニ姉さん!」

「マツモト君可哀想ですよ!」

「み~んな20ゴールドに釣られて出て行っちゃって

 他の依頼を受ける人が少なくなってるんですよ!」

「今頃町中大騒ぎですよカルニ姉さん! マツモトショックですよ!」


ギルドの受付カウンター裏ではカルニがカルニ軍団に詰められていた。


「うぅ…仕方なかったのよぉ…」

「何が仕方なかったんですかカルニ姉さん!」

「ちゃんと説明して下さいカルニ姉さん!」

「「 姉さん! 」」

「うぅ…ヨヨヨ…」

「悲しそうな顔しても駄目です!」

「可愛いけど駄目です!」

「認められません!」

「駄目~!」


悲しそうな顔をするカルニに両手でバツを押し付けるカル二軍団。


「ちょっとカルニギルド長ー! なんですかあれ!」

「落ち着けココ」

「おはようございま~す、久しぶりにゆっくり休めました~」


追い打ちで南南東三ツ星参戦。


「説明を!」

「「「「 カルニ姉さん! 」」」」


ココとカルニ軍団に詰められるカルニ、ロジとドーフマンは別にどうでもいいらしい。


「し、仕方ないじゃない……直接来て頼まれたんだもの…」

「はい? 頼まれた?」

「誰にですか?」

「伯爵…」

「伯爵って、ルート・キャロル伯爵?」

「伯爵なんて来てないじゃないですかカルニ姉さん!」

「嘘つかないで下さいよカルニ姉さん!」

「嘘つき! カルニ姉さんの嘘つき!」

「見損ないましたよカルニ姉さん!」

「まぁまぁ…皆さん落ち着いて…」

「落ち着くのだ…」


ヒートアップする5人をなだめるロジとドーフマン。


「来たのよ! いや来てたのよ! ずっと!」

「伯爵なんて来てないですよ! 今日だって依頼を持って来たのはアントルさんだったじゃないですか!」

「確かにアントルさんは良い人ですよ!? 一昨日もケーキ差し入れしてくれましたし!」

「シュークリームくれましたし! タルトもくれましたし!」

「まさかカルニ姉さん差し入れで懐柔されたんですか!?」

「な、なに? アントル? 誰?」


たっぷり甘い差し入れを貰っていたカルニ軍団、アントルを知らないココは話から脱落。


「そのアントルさんが伯爵だったのよ!」

『 え!? 』

「フルムド! アントル! 伯爵! だったのよぉぉぉ!」

『 な、なんだって~!? 』

「…って誰ですか?」

「知らなくても無理はないわ、よく聞きなさいココ、

 元々は若くして優れた考古学者、数々の文字を翻訳し現代の発展に多大な貢献を果たした、

 魔道補助具はその最たる例よ、

 数年前にロックフォール伯爵の推薦でカンタルの領主に就任、フルムドの性を授かると同時に、

 カード王より直々にカンタルの発掘を任命され、発掘隊の責任者に就任、

 それがぁぁ! 才覚を認められ庶民から実力で貴族におなりになったお方、フルムド・アントル伯爵よ!」

『 おぉ~ 』


カルニの力説に拍手を送る一同。


「因みに強化魔法も使えるわよ」

『 へぇ~ 』


へぇ~ボタンを押す一同。


「プリモハさんの知り合いで国章持ちだから警戒して調べてみたら、

 案の定伯爵様なんだものぉぉぉ!

 あんな庶民的な雰囲気と眼鏡でそんなのズルいわよぉぉぉ! 

 『ご迷惑をお掛けしますがどうしても必要なことですので、どうかよろしくお願いします』

 なんてお願いされて断れるわけないでしょぉぉぉぉ! ぎゃぉぉぉん!」

「お、落ち着いてカルニ姉さん!?」

「疑ってすみませんでしたカルニ姉さん!」

「眼鏡は関係ないと思いますよカルニ姉さん!」

「本当に悪かったですよぉカルニ姉さぁぁん!」


机に突っ伏すカルニを必死になだめるカルニ軍団。


「ど、どうしよう…ロジ、ドーフマン」

「後は任せたぞリーダー」

「うむ」

「この薄情者!」

「なんでよ!? 俺達別に何も言って無いだろ!? ギルド長を責めてたのココだけだろ!」 

「巻き込まないでくれ」

「うるさぁぁい! リーダー命令よ、今すぐワッフル・タルトで一番高いケーキを買って来なさい!」

「まじかよ!? くぅ~行くぞドーフマン、こうなったら従わないと後が怖いからな…」

「休み明けの最初の仕事がこれか…」 


混乱を極めるギルド内部からロジとドーフマンはケーキを買いに出発した。




「だってよリーダー、今の聞いた~?」

「聞こえたよ」

「あの人伯爵だったんだと~、そうは見えなかったけどな」

「伯爵に懸賞金掛けられるなんて普通じゃないぜ? 何したんだろうなアイツ?」

「だから言ってんだろ、マツモトは普通じゃねぇって、その辺のガキンチョと一緒にすんなよ」

「なになにベルク~、えらく気に入ってるじゃん、いい加減何があったか教えてよ~」

「俺も知りたいな~あのベルクさんが一目置くマツモトを~」

「ほら、このホルンに話してみ? 俺達チームじゃん? スッキリするよ~?」


ベルクにネットリと纏わりつくシシ、エント、ホルン。


「うるせぇぇ! 離れろおらっ!」

『 ぐえっ… 』

「教えねぇって言ってんだろ!  バカやってねぇでとっとと依頼決めるぞ、今日は選び放題だからよ」

『 うい~ 』


マツモト捜索隊とカルニ達を混乱の渦に叩きこんだマツモトショックだが

参加しなかった冒険者達には追い風となっていた。



「予定通りにはなったけど、お金に釣られて大勢で子供を追いかけまわすなんて、

 ちょっとはしたないと思わないターレ?」

「まったくね、少しは疑問に思わないのかしらねノル」

「依頼を出した身としては耳が痛いですね…」

「フルムド伯爵、何故私達に捕まえさせなかったのですか?」

「そもそも何故先に本人に教えたのですか? 逃げると分かっていたと思いますけど?」

「捕まえることが目的じゃありませんからね、

 それよりノルドヴェルさんとタレンギさんにお願いしたいことがあります」

「「 ? 」」


近くの酒場で様子を見ていたノルドヴェル、タレンギ、フルムド伯爵も動き出した。





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