169話目【その後の人達と盾】
「お~い、ちょとそっち支えてくれねぇか?」
「はいよ~これでいいか?」
「おう、そのまま頼むわ」
「ゴードンさん追加の木材持って来ましたよ~、あとポポさんから昼食も預かってきました」
「助かるわレベッカ、そこに置いといてくれ」
「レベッカー! おーいレベッカー!」
「ん?」
レベッカがお弁当を置こうとすると浜辺の方角から声が聞こえて来た。
「会いたかったよー愛しのレベッカー! さぁ再開のハグを~ぐえっ!?」
飛んできたフィセルを叩き落とすレベッカ。
「はいはい、お帰りフィセル、元気そうでなによりね」
「あのさぁレベッカ…1か月ぶりの再会なのに冷たくない?」
「荷物持ってるんだから危ないじゃない、それにたかが1ヶ月会わなかったからってなんだってのよ?」
「酷い! 俺はこんなにも恋焦がれていたというのに! 聞いてよバト~、レベッカが冷たいんだよぉ」
「いつもと余り変わらんと思うけどな」
「バトーまで!? ちょっとカールさん~何か言って下さいよ~」
「お前等いっつもそんな感じじゃねぇか」
「カールさん!? そんなぁ…さっきは振り返ってくれたのに…」
想い叶わず悲しみのフィセル、まぁいつも通りである。
「そりゃ名前呼ばれたら誰でも振り返るでしょ、ほら立ってフィセル、元気そうでよかったわ」
「レ、レベッカァァ!」
差し出された手を見て太陽のように輝くフィセル、人生楽しそうである。
「無事帰って来れたみてぇだな、獣人の里はどうだったよカール?」
「面白い作りしてたな、デッカイ木の上に住居が並んでてよ、
木材はほどんど未加工でツタで結んであるだけの場所も多い、あれでよく支えてるもんだ」
「だっはっは、俺も初めて見た時は同じ事思ったぜ、船はどうだった?」
「そりゃ俺とアビン設計したんだ、最高だね」
胸を張るカール。
「島の裏側の入り江に船着き場を造ったんだ」
「ハナフネが溜まってた場所か?」
「あぁ、あそこなら人目に付き難いからな、どころでゴードン達は何してるんだ?」
「獣人の人達が滞在する場所が必要だと思ってな、適当に弄ってたんだ、
ここなら村に来客があっても問題ないし船着場も近いからな」
「なるほどな、マツモトの方が先に帰って来てたのか、迎えに行こうと思ったんだがな」
「いや、帰って来てねぇぞ」
「ん? でもあれマツモトの家だろ?」
「レム様の推薦もあってよ、まぁマツモトだし、事後報告でもいいだろって」
「まぁ、マツモトだしな、大丈夫だろ」
剥がされた壁に目を細めるバトーとゴードン、マツモトの家は勝手に改築されていた。
「それじゃ俺達獣人の人達を案内してくるからよ、お~いフィセル…」
目を細めるカール、視線の先ではフィセルが服を脱ぎ筋肉をアピールしている。
「見てレベッカ! 俺筋トレ頑張ったんだよ~どう? 君好みになったかい?」
「うん、いい感じね、好きよ」
「す、好き!? あぁ~もうこれっ…好きってこれっ…
バトーありがとうぅぅ! 地獄のトレーニングが報われたよぉぉぉ!」
「おう、よかったなフィセル、継続が大事だぞ」
「あぁもう継続しちゃうしちゃう! だって好きって言われちゃてもうこれイヤッホォォゥ!」
レベッカに認められ有頂天のフィセル。
獣人の里での1ヶ月間バトーにしごかれていたらしい。
「ゴードン達も運ぶの手伝ってくれないか? 今獣人の方達が荷物下ろしてるんだが量が多くてな」
「すまねぇが俺達は今日中にこれ仕上げないと獣人の方達が寝る場所ねぇからよ、
代わりにその荷車使え、道が良くなったから効率良いぜ」
「わかった、借りてくぞ」
「おう、ここんとこ来客無いから村に行っても問題ない筈だ、案内は任せるぜバトー」
「了解だ」
「んじゃ行くかバトー、フィセルは…置いて行こうぜ」
「そうだな…」
目を細めるバトーとカール、フィセルはレベッカに筋肉をアピールして求愛中である。
「ん? あらあら、バトー達が帰って来たみたい」
「あら本当、出迎えに行きましょう」
「うふふ、1ヶ月ぶりね」
荷車を引くバトー達に気が付いた恰幅の良いマダム3人衆、
畑仕事の手を止め出迎えに行く。
「ただいま母ちゃん」
「ちゃんと帰って来たのねカール、また何年も戻らないかと思ったわ」
「ちょっと勘弁してくれよ~あの時は悪かったって…」
開口一番でカールをシオシオにした青髪のマダム、
カールの奥さんの『アヤメ』42歳である。
「あははは、いい加減にその話は辞めてあげなさいよ~アヤメ」
「もう20年も前の話じゃないの~」
「いいのよ~子供がこれからって時に手紙1つ置いて4年も家を空けるんだもの、
一生文句言われても仕方ないの」
「本当悪かったって…あの話を逃すと一生後悔すると思ったんだって…」
シオシオのカール、獣人達が不思議そうに見ている。
「バトーさん、カールさんはどうされたのですか?」
「昔、国の方針で技術者の育成の話があったんですよ、ポッポ村からは2人参加出来たんですけど、
カールは奥さんの反対を押し切って無理やり参加して…結果がこれです、
まぁそのお陰で船が作れたんですけどね」
「それであんなに必死だったという訳ですか」
納得のアンプロ。
「あ、そうだ母ちゃん、これお土産なんだけど…」
「何? この葉っぱ?」
「こ、これハナフネって名前らしくてな、なんでもネネ様が大切にしてたとか、
母ちゃんの為に必死に頼み込んで譲って貰ったんだよ」
「へぇ~ネネ様がねぇ~、この葉っぱをねぇ~」
「いや本当だって、信じてねぇだろ母ちゃん」
「だってこれ…」
桶に浮かぶ葉っぱを訝しむアヤメ。
「本当ですよ、春になると白い綺麗な花が咲きます、ネネ様の愛した白い花です
水で育てないと咲かないそうですが…」
「ほらな? 獣人の人達にとって凄く大切な花らしいぞ」
「あらそうなんですか? ありがとう御座います~」
アヤメとカールのやり取りは収まった。
「バトー、その人達が今回のお客さん?」
「あぁ、木工と芋の育て方を知りたいらしくてな、暫く滞在するそうだ」
『 よろしくお願いします~ 』
頭を下げる獣人一同、前長老のアンプロを含むウルフ族3人、ニャリ族3人である。
「挨拶が遅れました私はアンプロと申します、今回は皆様の技術を学ばせて頂きたく思っております、
これは半分は交易用、半分は私達の滞在費です、お納めください」
「あらあら、そうでしたか、バトー先に長老の所に行って来て頂戴」
「丁度お昼だし、皆さんの分も準備しておくわ」
「分かった、それじゃ皆さんこちらへ…」
『 ニャリモヤァァ! 』
「マルメロくぅぅぅん!」
土埃を上げながら子供達とウィンディが走って来た。
『 お帰りニャリモヤ~! 』
「私のマルメロくぅぅぅん! どこ? どこなのマルメロ君?」
「あの…バトーさんこちらの方達は?」
「え~と…」
キラキラと目を輝かせた子供達と、性欲に塗れた瞳でマルメロを探すウィンディ。
『 ??? 』
「ニャリモヤがいっぱいいる…」
「ニャリモヤ?」
「黒いニャリモヤ?」
3人のニャリ族に困惑する子供達。
「ニャリクロです」
『 ニャリクロ… 』
全身黒毛のニャリクロ、隣の白いニャリ族を見る子供達。
『 ニャリモヤ? 』
「ニャリシロです~」
『 ニャリシロ… 』
更に隣の白黒のニャリ族を見る子供達。
「ニャリハチです」
『 ニャリハチ… 』
困惑しながらモジモジする子供達。
「あの…触ってもいいですか?」
「耳触りたい…」
「ちょっとだけ…」
「ニャリモヤから聞いてた通りだな、俺は構わんぞ」
「私はちょっと苦手~ごめんね~」
「ドンと来なさい」
『 イヤッホォォゥ! 』
ニャリクロとニャリハチに子供達が張り付いた。
「子供達はニャリモヤさんのファンでして、見ての通りニャリ族の方達が好きなようです」
「なるほど、それでもう一人の方は…」
「マルメロ君じゃないけどキャワィィィ! お名前は? 私のことはウィンディ姉さんって呼んでねぇ!」
「あ、あの…ポメメです」
「こら離れなさいウィンディ! お母さん恥ずかしいでしょ!」
ポメメに抱き着き頬ずりするウィンディ、ポポが引き離そうとしている。
「あれはウィンディと言いまして…なんといいますか…すみません」
「いえ…」
「おらぁぁウィンディィィィ!」
「っは!? この声は…ひぇ!?」
凄い勢いでレベッカが走って来る、すぐ後ろにフィセルの姿もある。
「お客さんに何してんのアンタ! 何回言ったら分かるの!」
「べ、別に何もしてませんよ!? 挨拶してただけですって信じてレベッカ姉さん!」
「ごめんなさいね僕、これは小さい男の子に目が無い変態だから近寄っちゃ駄目よ」
「な!? なんてことを!? 違うからねポメメ君、お姉さんは変態じゃないからね!
信じちゃ駄目よ、ほらお姉さんの目を見て、ね?」
必死のウィンディ、凄く怪しい。
「あの…私…女です」
「「 え? 」」
ポメメちゃんだった。
こうして獣人達は拡張された松本の家に滞在し、農耕と木工を学ぶこととなった。
数日後バトーは松本を迎えに出発した。
一方その頃、ウルダでは…
松本、カイ、ラッテオが鍛冶屋『ユミルの左手』を訪れていた。
「うわ~凄い、見てよラッテオ剣と盾が一杯ある、全部本物だよ~」
「本当だね、剣1本80シルバーかぁ…安いのかな?」
「樽に入ってるヤツは訳あり品で安いらしいよ」
「マツモト君訳あり品って?」
「え~と、出来が悪いとか傷があるとか、何かしらの事情があって武器屋に納品できなかった物かな」
「「 へぇ~ 」」
店頭の樽に突っ込んである剣を手に取る3人。
「何処が駄目なのか全然分からないや」
「何も問題無さそうだけど…マツモト君わかる?」
「いや~俺も全然わからないんだよね、あはは」
「樽に戻しな坊や達、2級の訳あり品でも剣は剣だ、油断するとスパッと行くよ」
「「「 はい~ 」」」
樽に剣を戻す3人、店主のドナがプカプカとパイプを吹かしながらやって来た。
「こんにちはドナさん、御無沙汰してます」
「あぁ魔集石以来だねマツモト、何か用かい?」
「友達の盾を壊しちゃってこれなんですけど…」
ボロボロになったゴンタの盾を見せる松本。
「どうしたんだいこれ? アンタが使ったのかい?」
「えぇ、ちょっと無茶しちゃって」
「馬鹿だねぇ、こんな安物の盾で無茶するもんじゃないよ、怪我は無かったのかい?」
「怪我はないですよ、毒で動けなくなりましたけど」
「毒ねぇ、事情は知らないけどこの盾でコカトリスの相手は辞めときな、
半分は木材で出来てるからねぇ、そんなに強度は無いんだ、命があっただけ奇跡みたいなもんだよ」
「でしょうね、2度と御免ですよ、それ直せますか? 友達が初めて買った盾なんですよ」
「そりゃ直せるとも、アタイを誰たと思ってるんだい、ただ直すよりは買い直した方がいいけどね」
「そうなんですか?」
木箱に入った盾を物色し1つ手に取るドナ。
「これにしときな、これなら修理するのと同じ位の金額で性能が上さ、ちょっと重くなるけどね」
「へぇ~確かに少し重いような? 木製ではなさそうですけど何で出来てるんですか?」
「金属と幾重にも重ねた布さ」
「布ですか? 弱そうですけど…」
「木材よりはずっと丈夫さ、80シルバーだよ」
「買いま~す」
布と金属の盾を購入した。
「あとボンゴシさんいますかね?」
「奥にいるよ、今休憩中さ」
「ありがとう御座います、カイちょっとこれお願い」
「うん」
カイに盾を預けて奥へと向かう松本。
「これ何が悪いのかな? ラッテオ分かる?」
「さぁ? ちゃんとした盾と見比べれば分かるかも…」
盾を見て首を捻るカイとラッテオ。
「これが正規品さ、大体3ゴールド位かねぇ、比べると酷いもんだろ~
この辺のなんて仕上げが荒くてとても正規の値段じゃ売れないねぇ」
「「 う~ん… 」」
正規品と比べても良く分からなかった。
「休憩中にすみませ~ん、ボンゴシさんいますか~?」
「お? マツモトじゃねぇか、どうした?」
「ナイフの手入れをお願いしたいんですけど」
「おぉトカゲの爪か、いいぜ~なんてったって俺の最高傑作だからな、見せてみな」
「お願いします、これじゃないとパンが綺麗に切れなくて…」
「んん!?」
鞄からナイフを取り出して見せる松本。
ボンゴシの顔が凍り付いている。
「な、なんじゃこりゃぁぁぁ!?」
「!?」
「お、おめぇ…これ…バリバリじゃねぇぁぁ!? 俺の最高傑作がぁぁぁ!?」
黒ずんだ何かでナイフと鞘が張り付きバリバリになっている。
「す、すみません…気が付いた時にはこうなってて…」
「いったい何に使ったんだこれ!? えぇ!? うそだろぉぉぉ!?」
「すみませぇぇん…恐らく俺の血ですぅぅ…本当にすみませぇぇぇん…」
「はぁ!? おめぇの血!? …ちと説明しな」
「実は…」
松本がコカトリスの毒を受け、腕を切り落とそうとしてその場に落としたナイフは
ゴンタが回収してくれたのだが、慌てていたため血を拭きとらず鞘に納められた。
そのまま放置された結果、血が固まり鞘とナイフが張り付いてしまったのだった。
「という訳でして…すみません…」
「なるほどな…それでその傷って訳か…
馬鹿やろう! 子供が無茶してんじゃねぇ! 命は大事にしろってんだ!」
「はぃぃぃ…」
正座でシオシオの松本、ボンゴシが肩に手を置く。
「だがよ、友を守ろうとするその心意気…入ったぜ、任せときなぁ!
俺がピカピカにしてやっからよぉぉ!」
「ボ、ボンゴシさぁぁん!」
松本のナイフは新品同様にピカピカになった、鞘は新調された。
「さっきの声は何だったのマツモト君?」
「いきなりでびっくりしたよ」
「ナイフをボロボロにしちゃって怒られちゃった、綺麗に直して貰えたけど」
「そうだったんだ、武器って扱いが難しいんだね」
「壊すと怒られるんだ…」
普通はそんなことは無いと思われる。
ゴンタの家にやって来た3人。
「お~いゴンタ~」
「ゴンタ君いるかい?」
「盾持って来たよ~」
「あらゴンタのお友達? どうぞ入って、今寝てるから起こしてくるわ」
「「「 お邪魔しま~す 」」」
テーブルに座り手作りクッキーを齧る3人、母親に起こされたゴンタがやって来た。
「お前達が来るなんて珍しいな、どうしたんだ?」
「盾持って来たんだよ、この前借りて壊しちゃったからさ」
「はいこれ、マツモト君から」
「布で出来てるけど凄く丈夫らしいよ」
「おぉすげぇ! カッコイイな!」
カイから受け取った盾を見て目を輝かせるゴンタ。
「まぁ訳あり品なんだけどね、元々の盾を修理するより買った方がいいって言われて」
「それ80シルバーだったけど、本来なら3ゴールド位するらしいよ」
「「 えぇ!? 」」
値段を聞いて驚く松本とゴンタ。
「ありがとよマツモト、なんか悪いな」
「気にしないでよ元々壊したの俺だし、あとこれどうする? ボロボロだからもう使えないと思うけど」
「それもくれ、大事な盾なんだ」
ボロボロの盾を受け取るゴンタ、母親優しい顔で見守っている。
「それじゃ俺達そろそろ行くよ」
「あらもう帰っちゃうの? 折角来たんだしよかったらお昼食べて行ったら?」
「いえ、お弁当持ってますので」
「僕も家で食べるって言って来ちゃったので」
「僕も」
「そう? それなら仕方ないわね」
「また明日だな、ありがとうな皆」
「「「 またね~お邪魔しました~ 」」」
松本達が去り、昼食を食べるゴンタと母親。
「ゴンタ美味しい?」
「うまいぜ母ちゃん、ありがとうな」
「そのボロボロの盾どうするの?」
「部屋に飾るんだ」
「初めて自分で買った大切な盾だもんね」
「まぁな、それもあるけどよ」
「あるけど?」
「これは俺にとって英雄の盾なんだ」
「へ~どんな英雄なの? お母さんにも教えて」
「秘密だ、でも…そうだな、すげぇ無茶苦茶ですげぇ格好いいんだ」
「ふふふ、なぁにそれ?」
「だから秘密だ」
幸せな笑顔で親子はパンを齧る。




