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164話目【モンスターパニック】

「先に行ってるぞ~」

「胸を張って帰りましょう、凱旋の時です!」

「「「 う~い 」」」


ハイモとトネルは池を去り、監視者のベルクは一足先に森の中で距離を取り潜伏中。

残ったゴンタ、シメジ、松本の3人は池を背にして森の淵に並び、パンツを降ろす。


『 ふぅ~… 』


男子お馴染みの連れションである。


「ふぃ~スッキリした、寒いと直ぐ行きたくなるんだよね~」

「もう少ししたら温かくなるだろ、良かったなマツモト、上着に穴空いてても大丈夫になるぞ」

「いや今寒い訳で、穴空いたのが安い上着で良かった~新品だけど」


なんて話をしていると背後で木々を掻き分け枝が折れる音が聞こえた。


『 … 』

「あのさゴンダ…今の音さ…」

「トネルだろ…連れションしにきたんだろきっと…」

「違う、絶対違う…なんか大きい感じがするもん…」


小声で話しながらそそくさとウィンナーをパンツにしまう3人、後ろでフゴフゴ、ガブガブ音がする。


「あのさゴンダ…今の音さ…」

「ハ、ハイモだろ、アイツ風邪ひいてたもんな」

「違う、絶対に違う、風邪ひいてなかったもん、元気だったもん…」


肩越しに恐る恐る覗き見る3人、大きな猪が池の水を飲んでいる。


『 … 』

「ワ、ワイルドボアだよ…」

「でけぇ…襲われたら死ぬぜ…」

「うそぉ…これどするの? どうしたら正解?」

「と、取りあえず森から出た方がいいんじゃないかな?」

「出るったって来た道は池の反対だぜ?」

「武器は全部あそこに置いてあるんだし行くしかないんじゃない? 流石に素手じゃ無理よ」


ワイルドボアに背を向けたまま森に沿って横移動する3人。

ワイルドボアの正面を回ることになるが池を挟んでいる為、少しだけマシである。


「ところでさゴンタ、どの辺がワイルドなの?」

「何が?」

「いや、ワイルドボアのワイルドの部分の話」

「今そんなこと聞かなくてもいいだろ、状況分かってんのかマツモト」

「牙と鼻の角とモヒカンみたいな鬣じゃない?」

「おいシメジ、答えんじゃねぇ」

「確かに、モヒカンはワイルドっぽい」

「静かにしろマツモト」


コソコソ話をしながら半分くらいまで来た時、聞き覚えのある羽音が聞こえて来た。


「ちょとこれ…最悪のタイミングで来たよマンモスキート…」

「嘘だろ…マツモト頼むわ…俺盾しか持ってないからよ」

「いや俺も素手だって、むしろ盾あるなら頑張ってよ」

「盾無いよ、ゴンタさっきの場所に置き忘れてるよ」

「マジかよ…すまん盾無いわ、素手戦えるのマツモトだけだからよ、本当頼むわ」

「いやそこは3人で協力しない? 結構痛いのよアレ…ん?」


マンモスキートの羽音が遠ざかって行く。

肩越しに覗く3人、マンモスキートの水を飲むワイルドボアに張り付いて血を吸っている。


「あっち行ったみたい…」

「今の内に進もうぜ、マツモト」

「了解~」


先頭の松本が歩き出すとフゴー!という怒りに満ちた鳴き声が聞こえた。

再び覗く3人、怒ったワイルドボアがマンモスキートを追い払っている。


「今だ!」

「走れ走れ!」

「ゴンタ遅いよ!」


森の出口へと続く道へと走る3人、自分達の武器を回収し振り返るとワイルドボアと目が合った。


「フゴォォー!」

『 ひぃぃぃ! 』


威嚇するワイルドボア、ビビりまくりの3人。


「どうした!?」

「今の鳴き声は何です!?」


先に森を出た筈のハイモとトネルが戻って来た。


「馬鹿! 2人共何で戻って来ちゃったの!」

「何でってお前達が遅いからだろ! 小便にどんだけ時間かかってるんだよ」

「そんなこと言ってる場合じゃないですよハイモ君! ワイルドボアです!」

「いいから走れ! 襲ってくるぞ!」

「あらぁ! おらぁ! こっち来るんじゃないよぉぉぉ! ヒェアァァァ!」


必死に棍棒を振り回し威嚇する松本、ワイルドの視線が左右に揺れる。



あれ?

…なんか棍棒見て無いか?



「フゴォォー!」

「いやぁぁこっち来たぁぁ! 何でぇぇ!? 皆早く行ってー!」


松本に向かって突進してくるワイルドボア。


「マツモト君が威嚇したからじゃないですか!?」

「いいから行くぞ!」

「俺足遅いから置いていけよ! 待たなくていいからな!」

「そんなこと言う暇があるなら早く走ってよゴンタ!」

「いやぁぁぁ!」


松本を殿しんがりに走り出す5人。


「フゴっ!?」


森を掻き分ける音と共に大きな蛇の頭が飛び出しワイルドボアに嚙み付いた。


「今度はなんだ!?」

「蛇? デッカイ蛇が出た!」

「違います…蛇ではありません、皆動かないようにお願いします…」


こわばった声で蛇が飛び出してきた方向を指差すトネル。

森の中に大きなニワトリが目を光らせている。


「コカ…トリス…」

「「「 !? 」」」


松本の声に戦慄が走る一同、冬だというのに首筋を汗が伝う。

暴れていたワイルドボアが次第に大人しくなり、コカトリスが森から姿を現した。

全身傷だらけでトサカが千切れ、片目は潰れ、片足の爪は無くなっている、

よく見れば尾の蛇も傷だらけ、羽や鱗が所々剥がれ、鋭利な何かで負ったであろう裂傷が見て取れる。

ワイルドボアに近寄り片足を上げるコカトリス、爪を前に突き出すとワイルドボアの首が飛んだ。


「「「「 ヒッ… 」」」」


凄惨な光景に青ざめるフォースディメンション。

仕留めた獲物を捕食するコカトリスに恐怖を感じながらも松本は思考を巡らせていた。



なんとか、なんとかしなければ…

討伐目標を大ネズミからマンモスキートに変更したのは俺だ…

この子達をあの猪と同じ目に合わせる訳にはいかない…

それだけは絶対に、絶対にだ

近くに監視者のベルクさんがいる筈だ

異変に気付けばすぐに来てくれる…と思う…

それなら何とか逃げるくらい…



「皆、聞いて」

『 … 』

「ここいては駄目だ、光魔法を使うからその隙に全力で逃げよう、

 俺達ではどうにもならない、他の強い冒険者を呼んで助けて貰うんだ、いいね?」

『 … 』


松本の提案に無言で頷く4人。


「強い光だから絶対に振り返らない事、俺は少しだけ遅れるけど気にせず走る事、この2つは絶対に約束して欲しい」

『 … 』


頷く4人、ゴンタが口を開いた。


「なら俺も約束して欲しいことがある、俺が遅れても置いて行ってくれ」

「それは…」

「約束しろトネル、その時は俺を置いて行け、足手まといにはなりたくねぇ」

「わかりました…」


ゴンタの提案にしぶしぶ納得するトネル、ハイモとシメジが渋い顔をしている。

上着とシャツを脱ぎ上裸になる松本。


「いくよ、光ったら全力で走って」

『 … 』

「はぁ!」


4人が頷き、松本が棍棒を握る腕に力を込めると辺り一面が光に包まれた。

白んだ世界の中で、コカトリスの叫び声、子供達足音と息遣い、

そして何かが横を通り過ぎて行く音を松本は聞いた。


「ぐぁっ…」

「どうした!? ゴンタか?」

「気にするんじゃねぇ! 行け! 走れ!」

「マツモト君止めて下さい! お願いします!」

「っく…止めるよ! 気を付けて!」


松本が光魔法を止めると景色が戻って来る。

光を直視したコカトリスは暴れ狂い、手当たり次第に爪を振っている。

異変があったゴンタは脇腹を抑えながらヨタヨタと歩いている。


「ゴンタ君どうしたのですか?」

「大丈夫ゴンタ? それもしかして血?」

「気にするな、急いで逃げろ! 俺に構うんじゃねぇ!」


駆け寄るトネルとシメジを追い払うゴンタ。

ハイモと松本は状況を察していた。


「噛まれたんだなゴンタ」

「あぁ…」

「「 !? 」」

「誰か解毒薬持ってるか?」

「持ってない…」

「私も…急いでゴンタ君を運びましょう! 少しでも動けるうちに早く!」

「いいから置いて行けってんだよ! コカトリスが目が見えるようになったら直ぐに襲って来るぞ!」

「置いて行けるわけないじゃないですか!」

「俺は直ぐに動けなくなる! ハイモ、シメジ約束しただろ! トネルを連れていけ!」

「そんなこと言ってもさゴンタ…」

「…」

「そんな約束知りません! 手を貸して下さい2人共! 急いで! マツモト君はどこに行ったのですか!?」


戸惑うシメジ、何も言わないハイモ、懸命にゴンタの手を引くトネル。


「置いて行ってくれよ、このままじゃお前達まで死んじまう…頼むぜシメジ、ハイモ…

 待つのはよ…辛ぇからよ…」

「くそぉぉぉ! シメジ行くぞ! すぐに戻って来るから死ぬんじゃねぇぞゴンタ! 絶対だぞ! 約束しろよ!」

「チクショウ! チクショウチクショウ! くそが! ああああああ!」

「ちょっと! やめて下さい! お願いですからゴンタ君を! 離して下さい!」


やりきれない気持ちを撒き散らしならトネルを無理やり引っ張って行くハイモとシメジ。


「ありがとなハイモ、シメジ、トネル…マツモトはどっか行ったか…

 くそっ…もう足が動かなくなってきやがった…はぁはぁ…約束は出来ねぇかも…」


コカトリスの神経毒により体の自由が利かなくなってきたゴンタ、

懸命に歩みを進めていたが、遂に足を止め、膝を付き、力なく地面に横になった。




一方、森を走るハイモ、シメジ、トネル。


「どうしてですか!? 今からでも遅くありません! 戻ってゴンタ君を!」

「うるせぇ!」


引っ張っていたトネルを投げ飛ばすハイモ。


「いい加減にしろトネル!」 

「いい加減にするのはどっちですか! 早く戻らなくてはゴンタ君が…」

「この馬鹿野郎が!」

「がっ…」

「ハイモ! それ以上は駄目だって!」


トネルの顔を拳で殴りシメジに羽交い絞めにされるハイモ。


「ゴンタの言葉を聞いてなかったのかよ! 好き勝手に喚きやがって!

 お前が今から戻って何が出来るってんだ! 動けなくなったゴンタを担いで逃げ切れるとでも思ってんのか!」

「出来る出来ないの話ではありません! 友人を見捨てるべきではないと言っているのです!」

「お前はぁ! いつもそうやって理想を並べるけどよ! 現実は違うだろ! 

 俺達じゃどうやってもコカトリスは倒せねぇ! 見ただろ、1発で簡単に死んじまうんだよ!」

「落ち着けってハイモ! 今ここで争ってどうにもなんないだろ! 

 トネル、俺もハイモもゴンタを助けたい気持ちは一緒なんだよ、でもゴンタの気持ちを考えるとさ…

 ゴンタ言ってたよね? 待つのは辛いって、ほらゴンタのお父さんって冒険者で昔死んじゃったじゃん…

 だからさ…その辛さを知っててさ…」

「それは…」

「分かったなら立てよトネル、今俺達がやるべきことは出来るだけ早く他の冒険者を呼んで来て

 ゴンタを助けて貰うことだ、恨むんなら救う力のない自分を恨め、俺はもうそうしてる」

「分かりました、すみませんでした」


ハイモの手を取り立ち上がるトネル。


「マツモトは何処行ったんだろうね? 無事だといいけど…」

「分かんねぇ、けど池の方に走って行ったのは見た」

「池の方にですか?」

「アイツなら1人でもなんとかするだろ、俺達も急ぐぞ」

「行きましょう」

「おい、お前達3人だけか? あと2人はどうした? それにさっきの光は何だ?」


先を急ぐ3人に角突き兜の男が声を掛けた。





そして、横たわるゴンタに近寄る足音。

光を取り戻したコカトリスが仕留めた獲物に止めを刺そうとしている。


「(うぅ…父ちゃん…怖ぇよ…うっ…ごめんな母ちゃん1人にして…うぅぅ…ごめんな…)」


今から訪れるであろう死に怯え泣きじゃくるゴンタ、葛藤の中で最後に想うは大好きだった父親と大切な母親。

やがてコカトリスは歩みを止め、片足を上げる。


「(うっ…母ちゃん、父ちゃん、ハイモ、シメジ、トネル…マツモト…)」


体の自由が利かず、迫る死に対して目を閉じることすら許されないゴンタ。

絶望の染まった瞳に映るのは今にも足を振りかぶろうとしているコカトリス。


「おらぁ!」


地面に落ちる棍棒、足を降ろし振り返るコカトリス。


「いつの時代も、諦めず抗う者こそ、成果を得る」


コカトリスの背後から聞き覚えのある声が聞こえる。

太陽の光を反射し見覚えのある盾と少年がゴンタの瞳に光を照らす。


「光の精霊様の有難い言葉でね、俺は諦めが悪いのよ、

 諦めるなよゴンタ、もうすぐ助けが来る、それまでの辛抱だ」


ゴンタから離れるコカトリス、相対するはマツモト。

左手にはゴンタの盾、右手には特注ナイフの『トカゲの爪』。


次回、松本、死地に立つ。



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