161話目【討伐依頼を受けよう】
「おはようマツモト、早いわね」
「おはようございますドーラさん、俺今日初めての討伐依頼でして、
一緒に行く子供達から依頼書を確保するように頼まれてるもんで早めに出ないといけないんですよ」
「元気ねぇ~ちびっ子冒険者達は、死なないように気を付けなさいよ~」
「そんなに危険なヤツじゃ無いですよ、そもそも俺達みたいな駆け出しは簡単なヤツしか受けられないんです、
ドーラさんも卵食べます?」
「貰うわ、パンも焼いて頂戴」
「パンは自分で焼いて下さい、そこに切ったヤツあるじゃないですか」
フライパンでスクランブルエッグを作りながらテーブルの上の食パンを指さす松本。
「しょうがないわね~まったく…」
気だるそうにトースターに食パンをセットするドーラ。
「何処に面倒くさい要素があるんですか、はいドーラさんの分」
「ありがと、私夜型だから朝は弱いのよ」
「低血圧ですか? 運動した方がいいですよ~俺と一緒に筋トレしましょうよ」
「いやよ、絶対」
「またそんなこと言って~そのうちブクブク太りますよ~、よっと…」
片手で卵を割り自分の分のスクランブルエッグをチャチャッと作る松本、
もう1つのフライパンで焼いていた肉も回収する。
「どんどんこなれていくわねマツモト」
「そりゃ毎日やってますからね、ドーラさんも肉いります?」
「元々私の肉よ、大人しく献上しなさい」
「くぅっ…可愛くない、しかし事実だから反論できん…ミリーならもっと喜んでくれるのになぁ…」
「何処のちびっ子と比べてるのよ」
つまり卵は松本が買って来た物である。
マツモトが席に着くと同時にトースターから食パンが飛び出してきた。
「ところで昨日のお客さん達はまだ起きてこないですけど、朝食作っといた方がいいですかね?」
「少し前に出かけたわよ」
「そうだったんですか、でもまだ7時前ですよ?」
「早朝に連絡が来てね、余程嬉しかったみたいで飛んで行ったわ、戻って来たら自分達で作るでしょ」
「了解です、俺も食べたら出ますんで、パンを置いて行きますので自由に食べて貰って構いませんから」
「伝えておくわ」
朝食を食べ終えた松本はギルドへと向かった。
「おはようございま~す」
「「「 おはようであります(ですぞ)(なんだな)」」」
掲示板の前でラストリベリオンに挨拶し依頼書を物色する。
「お、あったった、よかった~無事確保~」
「おや、討伐依頼でありますか?」
「ちびっ子冒険者チームが行きたいって言うもんで、折角誘われたから俺も参加してみようかと」
「で、ではマツモト氏は助っ人枠ですな、頑張って活躍するのですぞ!」
「何言ってんですか、俺が一番年下なんですよ? 助っ人になる訳ないですよ~、
元々は大ネズミ討伐だったのをマンモスキート討伐に変更したのも俺なんですから」
「はぁはぁ、何で変更したんだな?」
「だって俺、刃物系の武器禁止なんですもん、デッカイネズミを撲殺とかやりたくないじゃないですか、
それにあんまり血とか得意じゃないですし、感情が分かる生き物を殺すってのにも抵抗が…」
『 同意であります~(ですぞ~)(なんだな~)』
しみじみ同意するラストリベリオン。
「肉は好きなんですけどね~、自分の代わりに誰かがやってくれてることは知ってるんですけど、困ったものです」
『 同意であります~(ですぞ~)(なんだな~)』
しみじみリベリオン。
「俺は他の子達を待ちますから」
「了解であります」
「頑張るのですぞ!」
「マンモスキートも結構危ないから気を付けるんだな~」
依頼書を持って受付へ向かうラストリベリオン。
松本は2階でテーブルに座り時間を潰す。
どれ、そろそろ情報収集しとくかな
人が少なくなった頃合いを見計らって一番端の臨時カウンターに座りベルを鳴らす松本、
カーテン越しの女性とコソコソやり取りする。
「依頼の受付はここじゃないわよ」
「俺が来た理由は分かってるくせに白々しいですよ、早いとこ教えて下さい」
「基本的に当事者達には秘密事項だから只では教えられないわね、情報料を貰わないと」
「しょうがないですね…ちょっと待ってて下さい」
席を立ち、直ぐさまフランスパンを持って返って来る松本。
「はい、これでどうですか?」
カーテンの隙間からフランスパンを差し込むと中に引き込まれて行った。
「確かに、ただちょっと足りないわね、もう1本貰える?」
「まったく、とんだ食いしん坊ですね、ちょっと待ってて下さい」
再度フランスパンを持って帰ってくる松本、カーテン中に引き込まれて行った。
「これで十分でしょ? 教えて下さい」
「いいわよ、今日の担当は…」
「ちょとカルニ姉さん、私の分も下さい~」
「私も欲しいです~」
「えぇ!? 2本あるんだから半分ずつ分けたらいいでしょ?」
「オリーとエリスに持って行かれましたよ~」
「私も美味しいパン食べたいですよ~カルニ姉さん~」
「わかった、わかったから泣くんじゃないわよシグネ、ステラ離れなさい~ちょと…」
カーテンの向こう側から複数の女性の声が聞こえる。
「…悪いけど、もう少し貰える? 出来ればあと2本ほど」
「…わかりました」
カルニさんも大変だなぁ…
「「 イヤッフゥ~! カルニ姉さん大好き~! 」」
「ちょっと、離れないさい2人も! 話が出来ないでしょ、いい加減に…」
「「 にぎゃー! 」」
追加で2本差し込むと叫び声が聞こえた。
な、何が起こってるんだ…
困惑しながらも他の人達の分のパンも差し込マツモト。
「あの~これよかったら他の人達にも分けて下さい」
「あら、ありがとう、ごめんね気を遣わせて」
「それで? 今日の担当は誰なんですか?」
「ベルクよ、見た目は怖いかもしれないけど面倒見は良いし実力もあるから安心していいわ」
「あぁ、あの人ですか、さっき2階にいましたね」
「くれぐれも他の子達には内緒よ、監視者を頼って無茶する子が出るかもしれないし、
達成感とかも無くなっちゃうから」
「了解です、ありがとうございました」
監視者とは子供の冒険者や未熟な冒険者が討伐依頼を受ける際に
こっそり付いて来るベテラン冒険者である。
10時を過ぎ、子供の冒険者がちらほら増え始めた頃、
松本が掲示板の横で背伸びをしているとフォースディメンションの4人がやって来た。
「また伸びてる、やっほ~マツモト待った?」
「んん~っ…ゆっくりしてたよ、お~皆気合入ってるね~ちょっとだけ冒険者っぽい」
シメジとハイモは剣を、ゴンタは盾と剣、トネルは杖と木剣を装備している。
「シメジ剣変えた?」
「お? 気が付いちゃった? やるねマツモト~、これ今日の為に新しく買ったんだ~
頑張って依頼こなして、コツコツお金貯めて、はぁ~格好いい~」
剣を腰から外し目を輝かせるシメジ。
「前と殆ど変わってないだろ」
「分かってないね~ハイモ、見てここ、装飾入ってるでしょ、それに刃こぼれも無いしピカピカだよ~」
「…そりゃ新品だからな」
「自分で買った初めての剣、もう最高~」
頬ずりするシメジ、因みに装飾が入っているのは鞘の部分、縁に少しだけである。
既製品の安物だが大変お気に入りらしい。
「ふっふっふ、私も杖を新調しましたよ、このクリムゾンワンドを!」
片目を隠す痛々しいポーズで赤い棒をアピールするトネル。
「木の棒?」
「違いますよマツモト君! 魔法の杖です!」
「へぇ~こんな感じなんだ、赤色で格好いいね」
「でしょう! 頑張って塗ったんですよ~、初めてやりましたけど旨く出来ました」
自分で塗ったんか…
因みに、魔法の威力を増幅させる魔増石は付いていないので本当に只の木の棒である。
魔増石尽きの杖は子供にはお高いのだ。
「ハイモは何買ったの?」
「俺はこの革製の胸当て、もう少し軽いヤツが欲しいけど、お金無いしな」
簡素な胸当てを示すハイモ。
「ゴンタは?」
「俺は盾にした、剣は持ってたしな」
「へぇ~ちょっと拝借して、おぉ~見た目より軽い、何で出来てるんだろ?」
「木と金属らしいぞ、一番安かった」
ゴンタから丸い小さい盾を借り装備してみる松本。
安物だけどしっかりしている。
「マツモトは武器持って来たのか?」
「まさか手ぶらじゃないだろうな?」
「俺も一応持って来たよ、借り物だけど…ほらこれ」
ギルドの建物の脇に立てかけてあったピッチフォークを持ってくる松本。
「…お前これ武器じゃねぇだろ」
「何だっけこのデッカイフォーク?」
「これは干し草を集める為の農具ですね、渡牛の小屋とかでよく使用されています」
「っていうかこれ使って大丈夫なのか?」
「大丈夫でしょ、刃物系の武器じゃないから12歳以下でも使えるし、長さもあるから使いやすくていいと思うけど」
『 う~ん… 』
首を捻るフォースディメンション。
「はい没収~」
「えぇ!? ちょっとシグネさん!?」
「駄目です! 認められません!」
「そ、そんな~…」
ピッチフォークはシグネに没収された。
「ま、そうだと思いましたよ、んで…本命はこっち」
立て掛けてあった鍬を持って来る松本。
「鍬じゃねぇか」
「それも農具ですね」
「武器として使えるのそれ? めっちゃ重そうだけど…」
「っていうかそれも使っちゃ駄目だろたぶん」
「大丈夫でしょ、これこそ刃物じゃないし、どっからどう見ても農具だし、
それでもって長くて威力もあるし、俺いつも素振りしてるから使えるし、最高でしょ?」
『 う~ん… 』
再び首を捻るフォースディメンション。
「はい没収~」
「えぇ!? ちょとステラさん!? それは本当に困りますって!」
「駄目です! 他の子達が真似したら困るから認められません!」
「お、俺のメイン武器がぁぁぁ!」
ステラに没収され膝を付く松本。
松本以外に鍬を振れる子供なんていないので真似される事なんてありえないのだが仕方ない。
「「「 マ、マツモト… 」」」
「マツモト君、他に武器はないのですか? 私の木剣貸しましょうか?」
「一応棍棒があります…あと武器じゃないナイフ…パンの切る時に使ってるヤツ」
「ほう、ナイフを所持ねぇ…」
ナイフの単語に反応したオリーが目を光らせながら歩いてくる。
「ちょっ!? 本当に武器じゃないヤツですって! 合法のヤツ! オリーさんこっちこないでぇぇ!」
「フォークだの鍬だの前科があるので信用できません! 出しなさいマツモト君!」
「は、はいぃぃ…」
トカゲの爪(モギ素材のナイフ)を確認するオリー、他のカルニ軍団も集まり協議が行われている。
「あ、あの~どうでしょうか? それないと日常生活に影響があるといいますか…
食パンが綺麗に切れないといいますか…」
「許可します、ただし! 依頼では棍棒を使うように!」
「あ、ありがとう御座いますぅぅぅ!」
『 う~ん… 』
マツモトの今回の武器は棍棒(借り物)である。
因みに、いつもの高そうな上着は汚れたら嫌なので安い上着を着ている。
他の子共達もハイモの胸当て以外防具は着けていない。
全身装備が整っていない様子が、いかにも駆け出し冒険者といった感じである。
「マツモト依頼は? ちゃんと確保してくれたか?」
「あるよ、はいこれ」
「助かる、早速受付て来るわ、行くぞシメジ」
「了解~皆ちょっと待ってて~」
松本から依頼書を受け取りハイモとシメジが受付に行った。
「昨日は大変だったなマツモト、助かったぜ」
「ははは、なんのことかなゴンタ君」
「お前バレてねぇと思ってるのか…」
「え!? 嘘…」
「大丈夫ですよマツモト君、知っているのは私達だけですから、ウォレンにはバレていません」
「ほ、本当? それならよかった…俺バレたら貼り付けにでもされるんじゃないかと思って」
「ははは、流石にそんなことされませんよ!」
ケタケタと笑うトネル。
「そうかぁ? 貴族様だぜ? 俺達庶民なんて何されるかわからねぇよ」
「だよねぇゴンタ、貴族様だもんねぇ、きっとあんなことやこんなことされちゃうよ」
「だ、大丈夫ですよ! 貴族とはそういうもんではありませんから!」
「でもよぉマツモト?」
「だってねぇゴンタ?」
「違いますって! 貴族とは民あってのもので…なんというか、とにかくそんな恐ろしい物では…」
懐疑的な庶民の2人に必死に説明するトネル、自身の身分を偽っている為なんとももどかしい様子。
「お~い、依頼受けて来たぞ~」
「早いとこ行こうよ皆~」
「「 う~い 」」
「ちょっと~! まだ話は終わってませんよ2人共~!」
5人はマンモスキート討伐へと出発した。
「…いくか」
「頑張ってね~リーダー、俺達ゆっくりしてるから~」
「跡付けてるのバレんなよ~ベルク」
「あとサボるなよ~」
「うるせぇ! お前らもなんか依頼受けろや!」
「「「 今日は休み~ 」」」
「っけ、言ってろ、休みなら農家の息子らしく家の畑の草でも抜くんだな」
「「「 いってら~ 」」」
南西のピーマンのメンバーに見送られベルクも監視者として出発した。




