160話目【赤い花の民】
ルート伯爵の屋敷にやって来たコットン隊長、事情を説明すると中に通して貰えた。
「お楽しみ中に申し訳ない、デフラ町長、少し宜しいでしょうか?」
部屋の隅でデフラ町長に事情を説明する。
「そうですか、了解しました」
「一応モントが付いていますが用心して下さい、今のところで敵意はありませんでしたが何やら訳ありのようで…」
「そうでしょうね、厄介な問題でなければよいですが…その方達の詳細は?」
「人間の大人2人、子供2人、担ぎ込まれたのは大人の男です、白いローブを被り肌は褐色、
あと額に何か模様が描かれていました」
「分かりました、直ぐに向かいます」
「すみません、その方達は瞳の色は何色でしたか?」
デフラ町長とコットン隊長の会話にフルムド伯爵が入って来た。
「…松明の明かりだったためそこまでは、申し訳ない」
「あぁ、いえ気にしないで下さい、少し気になっただけですので」
「デフラ町長、こちらの方は?」
「フルムド・アントル伯爵です」
「…!? そうとは知らず失礼しました」
「いえ、気にしないで下さい、いや本当に…」
堂々としているが心臓バクバクのコットン隊長。
「デフラ町長、私もその方達を見てみたいのですが御一緒しても宜しいでしょうか?」
「申し訳ありませんが御遠慮願います、安全が保障できませんし、それにこの場の主役をお連れする訳には…」
「あら、護衛は私達が付きますし、フルム伯爵は防御魔法をお使いになられますので安心して頂いて構いませんよ」
今度はタレンギが会話に入って来た。
「デフラ町長、こちらの女性は?」
「Sランク冒険者のタレンギ様です、あと女性では無く男性です」
「…!? そうとは知らず失礼しました」
「うふふふふ」
汗ダラダラのコットン隊長、タレンギが怪しく微笑んでいる。
※美しい容姿のタレンギは身心共に男です、因みに恋愛対象も男です。
「何か気になるのですかなフルムド伯爵?」
「えぇ、少し」
「ふむ、まぁ仕方ありませんな、デフラ町長案内を宜しく頼むぞ」
「分かりました」
更に話に入って来たルート伯爵によって食事会から主役が居なくなった。
「コットン隊長、宜しければ召し上がって行って下さい、このままでは余ってしまいますので」
「いえ、私は仕事中ですので…」
「あら、伯爵夫人の申し出を断わるなんてコットン隊長は肝が据わっていますね」
「そ、そういうつもりでは…」
ロイダ子爵の言葉に肝が冷えるコットン隊長。
「ちょっと、ロイダそんな言い方やめてよ、おほほ、お気になさらなくて結構ですよコットン隊長」
「…1つ頂きます(う、旨い…)」
肉を1つ頬張り内心ご満悦のコットン隊長。
「あの、出来れば仕事中の部下にも持って行きたいのですが」
「えぇ勿論大丈夫ですよ、好きなだけ持って行って下さい、何か容器を持って来させましょう」
「ありがとう御座います、部下達も喜びます」
「あの~私にも容器を頂きたいのですが…」
「ちょっと主任、御迷惑ですって!」
「いいじゃない少しくらい! 美味しいから仕方ないじゃない! それともハンクは美味しくなかったわけ?」
「いや美味しかったですけど…」
「ほら見なさい! 素直になればいいでしょ! お肉食べたいって言えばいいでしょ!」
「ちょっと…主任~」
今度はカプアが話に入って来た。
「どうぞコットン隊長、カプアさんも」
「ありがとう御座います」
「ありがとう御座います~! …で? ハンクはどうするのよ?」
「…すみません、私にも容器をください」
「どうぞハンクさん」
「ありがとう御座います!」
トネルから容器を受け取り3人は料理をお持ち帰りした。
来客が居なくなったため、食事会は残されたルート一族の団欒になった。
その頃、松本達は…
「マツモト、今日の夕飯は何作るの?」
「え~と、どれどれ? …エリンギソテーと人参の葉っぱとピーマンの炒め物ですかね?」
「そう、私の分も適当に作っておいて頂戴、私はちょとトマトジュース取ってくるから」
「了解です、お前も食べるか~?」
松本に問われ頷くマッシュバット。
「そうかそうか、可愛いヤツめ~大人しく待ってろよ~」
松本は夕飯を作り、ドーラはトマトジュースを取りに向かった。
病院にやって来たデフラ町長とフルムド伯爵一同。
病室にはベットで輸血を受ける男性と家族、そしてモント。
「またえらく大人数で来たな~デフラ町長」
「後ろの方達はあまり気にしないで下さい、それで?」
「今血液型調べて貰って輸血して貰ってるところ」
「それは見て分かります、事情と経緯を聞いているのです、今後の対応も決めなければいません」
「分かってるよ、そうカリカリしなさんなってデフラ町長~、森で出会って回復魔法が使えるか聞かれたのよ、
そんでそのお嬢ちゃんの怪我を治したらもっと重傷者がいるって言われてな~、
案内されてみたらこの兄ちゃんが瀕死で倒れてたってわけ、
体とマナを回復させても意識が戻らねぇからここへ運んで、今はこの通り」
ベットをポンポンと叩き説明するモント、デフラがベットの脇に座る女性と子供2人の方を見る。
「モントの言っていたのは貴方達ですね? 私はこの町の管理を任されているデフラと申します。
まずはお名前を伺っても?」
「…」
「大丈夫だって、信用できるヤツだから」
「…私はダリア、この子達はゼニアとニチ、寝ているのは私の夫のストックだ」
「ありがとう御座います、あなた方は何処から来られたのですか?
そしてストックさんは何故このような大怪我を?」
「私達は東から来た、幾つか大きな町を通り過ぎてここまで来て森で魔物に襲われた、
ストックは…私達を守るために…」
ストックの無くなった右腕を見てダリアの目から雫がこぼれ落ちた。
「お母さん…うぅ…」
「泣かないで…うっうっ…」
「ごめんね、もう大丈夫だから…」
つられて泣き出しそうな子供達を見て笑顔になるダリア。
「おいおいデフラ…」
「いえ、そんなつもりでは…」
「まぁこの嬢ちゃん達もかなり疲れてるみたいでよ、その辺の詳しい話は後日でもいいだろ、
それより今は襲った魔物についてだな…」
「そういう訳にはいきませんよ…私には町民の安全を守る義務がありますから、もう少し事情を伺わないと…」
「あの兄ちゃんだってまだ意識が戻ってねぇんだぜ? そりゃもうかなりギリギリでよ~
先生が言うには血が少なすぎて、今だって生きてるの不思議なくらいらしいんだぜ?」
「そうですが、まだ素性も分かっていませんし…」
少し気まずそうに部屋の隅で壁に向かってコソコソ話をするモントとデフラ町長。
「あの~素性なら僕にも少しは分かるかもしれませんよ」
『 ? 』
場の空気に耐えかねたフルムド伯爵が一歩前に出た。
「おいデフラ、この兄ちゃんは?」
「フルムド・アントル伯爵です」
「あぁ噂のお客さんね~、思ったより若いな」
「失礼ですよ、モントは少し引っ込んでいて下さい」
「へいへい~」
「(さっきから聞こえてるんだよなぁ…)」
また壁を向いてコソコソ話をする2人、先ほどから薄っすら聞こえているが指摘するのは野暮である。
「恐らくですけど、この方達は『赤い花の民』だと思います、
『赤き人』とか『花の民』とか呼称はいくつかあるみたいですけど」
「聞いたことありませんが?」
「でしょうね、全て古い書物に記載されている呼称ですから、
それらの書物によると『赤い花の民』の特徴は褐色の肌に赤い瞳、額に模様があるそうです、
また人里離れた赤い花の咲く土地に住んでいて、外界と余り接触せずに生活しているとか」
『 ふ~ん… 』
ダリアをマジマジと見る一同。
「(褐色の肌に?)」
「(赤い瞳で?)」
「(額に模様ね~、あら確かに)」
口にはしないが頷く一同。
「な、なんだ?」
視線が寄せられたダリアが少したじろいでいる。
「失礼ですが、ダリアさん達はフルムド伯爵が説明された『赤い花の民』なのでしょうか?」
「知らない、私達自身はそう呼ぶことは無い、ただ赤い花は沢山咲いていた、私達にとっては大切な花だ」
「デフラ町長、その呼称は恐らく周りの人たちが勝手につけた物だと思いますから、
後は確か…え~と賢者の…」
「そうだ、私達は『賢者の末裔』だ、本当かどうかはしらないがな」
「勇者ではなく賢者ですか? …飴なら知っていますが…」
『 … 』
全員の頭の上に赤い宝石のような飴が浮かんでいる。
「そうそうその飴の人です、飴の材料は賢者の花と言われる赤い花の蜜ですから、
恐らくダリアさんの言われた赤い花と同じなのではないでしょうか、
あと賢者は回復魔法の祖だとも伝えられています、回復魔法には精霊様が居ませんし、
上級や中級が存在していませんから、恐らく強化魔法と同じように人工的な魔法なんだと思います」
『 へぇ~ 』
フルムド伯爵のウンチクに感心する一同。
「あれ? でもこの嬢ちゃん達は魔法を使えないですよ? 俺に助けを求めて来た位だし、
その話が本当なら回復魔法位使えても良さそうですけど…」
「確かに、その辺はどうなんですかダリアさん?」
「私達は魔法を使う習慣は無い、そもそも火は起こせるし水もあったからあまり必要としてこなかった、
それに私達は皆体が丈夫だ、多少の傷なら時間が経てば完治出来きる、今回のように疲弊していなければな」
「まぁ確かに魔法は無くても生活は出来るわな」
「(常人より回復速度が速いか…記録通りだ、賢者の末裔は実在していたのか…すると賢者も実在した可能性が…)」
納得するモント、考え込むフルムド伯爵、ゼニアとニチのお腹が鳴った。
「あ母さん、お腹空いた…」
「僕も…」
「ごめんね、もう少し我慢して…」
子供達を嗜めるダリア、その様子をみてなんとも悲しくなる一同。
「デフラ、今日の所はよ~」
「まぁ、ある程度は分かりました、今度の対応を決めないといけませんね、
ダリアさん、町の人達へ危害を加えないと約束して頂けるなら滞在を許可します、
暫くの間は宿と食事もこちらで用意しますし、ストックさんのことも出来る限り手助けします、
その代わり後程改めて詳しい話を聞かせて頂きたいと思いますが、どうしますか?」
「わかった、約束する」
「それでは直ぐに宿を…」
「こんな夜にどうしたんですか?」
「ちょっと在庫切らしちゃってね、少し貰って行くわよ」
カーテンの向こうから女医と女性の声が聞こえて来た。
「ん? B型の在庫少ないわね?」
「さっき急患で使っちゃって、なんで生きてるかも不思議なくらい血圧低くて驚きましたよ、
いろいろあって今デフラ町長とかが話してます」
「ふ~ん、それじゃ今日は別のにしとくわ、適当に詰めてもらえる?」
「分かりました、あ、そっちは今取り込み中ですよ」
「ちょっとデフラ町長に頼み事があってね、丁度いいから話してくるわ」
一同が注目するなかカーテンが開いた、しかし誰もいない。
『 ? 』
「思ったより一杯いるわね」
声を聞いて一同が視線を下げるとカーテンの根元にドーラが立っている。
ゼニアとニチより小さい。
『(女の子?)』
「どうしたのこんなに集まって?」
「いえ、この方が森で怪我をされて運び込まれまして事情を伺っていた所です、
それで私に頼み事とは何でしょうかドーラさん?」
「新しいマットが欲しいのだけど」
「分かりました直ぐに手配します」
「そう、ありがとう」
即答のデフラ町長。
『(…なにこの子?)』
「(はぇ~キャロちゃんの言ってた通り昔のまんまだ、不思議な事もあるもんだなぁ~)」
一同の頭に?が浮かび、事前にドーラの事を聞いていたモントは目を見開いてパチパチしている。
「(この子も赤い瞳…偶然だろうか?)」
カーテン際に並ぶ赤い瞳に疑問を感じるフルムド伯爵。
「あの、君はこの人達の知り合いなのかな?」
「違うわよ」
「そうなんだ(考えすぎか?)」
首を捻るフルムドの横でデフラ町長も考え込んでいる。
「それじゃよろしくねデフラ町長」
「お待ちくださいドーラさん、すみませんが暫くこの方達を宿に泊めて頂けないでしょうか?」
「いいけど、ウチは癖が強いわよ? 子供は怖がると思うけど?」
「そうですねぇ…」
「癖が強いってどんな?」
ドーラとデフラ町長の会話に入るニチ。
「骸骨とか棺桶とか置いてあるわよ、全部偽物だけど」
「僕大丈夫」
「私も大丈夫」
「そう、ならいらっしゃい、今夕飯作ってるから丁度いいわ」
「「 わ~い 」」
ニチとゼニアは大丈夫らしい。
「では決まりですね、ダリアさん後はドーラさんに従って下さい、明日また伺います」
「分かった、ありがとう、モントさんも本当にありがとう」
「いえ、気になさらないで下さい」
「いいってことよ~やっぱ人助けはするべきだからな~」
「それでは皆さん帰りましょう」
『 はい~ 』
「私達の出番はなかったわねターレ」
「何も無いのが一番よノル、この後飲み直さない?」
「あらいいわね~フルムド伯爵もご一緒にどうですか?」
「僕はお酒は飲めませんので…」
デフラ町長の一声で帰って行く一同。
「あの~良かったらこれ食べてね、凄く美味しいから」
「主任抜け駆けはズルいですよ! 私のもどうぞ」
「「 ありがとう 」」
伯爵の食事会から持ち帰った戦利品を渡すカプアとハンク、
お腹のすいたゼニアとニチは満面の笑みで涎を垂らしている。
「それじゃぁねぇ~」
「またきます~」
カプア達も病院から立ち去り、女医と赤い目の者達が残った。
「ストック…」
「怪我も治ってるし体内のマナも満ちてる、輸血もしてるから大丈夫、
明日には意識も戻ってるさ! それよりアンタも子供達も疲れてるから
今日はドーラさんの所でゆっくり休んできなよ」
「ありがとう、ゼニア、ニチいこう」
「「 うん 」」
女医に進められ出口へと向かうダリア達。
「そっちじゃないわよ、ついて来なさい」
「「「 ? 」」」
鞄を背負ったドーラに呼び止められ3人はカーテンの向こう側へ入って行った。
「ドーラさん昔のまんまだったなぁ~俺驚いちまったぜ~」
「一応秘密にしておいて下さいよモント」
「分かってるって、任せてよ~デフちゃん」
「その呼び名は辞めるように言った筈ですが?」
「へいへい、デフラ町長様」
「わざとらしい言い回しですね」
「まぁまぁいいじゃないの~、ところで何でドーラさんの宿にしたんだ?」
「実はドーラさんの宿と病院は秘密の通路で繋がっています、
ダリアさん達も必要以上に人目に付きませんし、出来るだけストックさんと近い方がいいでしょう」
「あ、なるほどね~流石はデフラ、いつもどおり冴えてるねぇ~」
「お世辞はいいですから、明日はモントにも立ち会ってもらいますよ」
「え? 俺も? 明日は予定あるから無理だって」
「自分で持ち込んだ揉め事です、責任をもって下さい」
「いや本当に用事があるんだって…」
「駄目です」
「ちょっと~デフラ~、あっ襲った魔物について聞くの忘れてたわ…」
そう、ドーラがトマトジュースを迅速に秘密裏に取りに行けるようにドーラの宿と病院は繋がっているのだ。
「マツモト、帰ったわよ~」
「お帰りなさい、丁度出来ましたよ~あれ? どうしたんですかその人達? お客さんですか?」
「そんなところよ、この人達も食べるから」
「いいですけど、俺の作った料理でいいんですか? お客さんですよね?」
「いいんじゃない? それなりに美味しいし」
「そんな適当な…まぁ座って下さい、直ぐに用意しますから」
「(確かに癖が強い…)」
「(同い年位の男の子だ…)」
「(コウモリがいる…)」
室内を観察するダリア一家。
「あの、これも一緒に」
「さっき貰ったヤツ」
「へぇ~凄く美味しそう! これ食べてもいいの?」
「「 うん 」」
子供達から受け取った残り物を皿に盛り付ける松本。
長かった1日の夕飯はエリンギソテーと人参の葉っぱとピーマンの炒め物、
松本のパンと食事会の残り物である。
「美味し~」
「お肉柔らかい~」
「ほらゼニア、ニチゆっくり食べなさい、…君はそこでいいのか? 私と替わるか?」
「お客さんは気にしないで下さい」
「マツモトはいいのよ別に」
「ドーラさんは気にして下さいよ、宿主でしょ」
「じゃぁ替わるの?」
「いえ、別に必要ないです、コイツと食べますから」
「そう、ならいいわ」
「お前ピーマンも食べるんだな~、可愛いヤツめ~」
椅子が4つしかないので、松本とマッシュバットは床である。




