16話目【逞しい子供達】
「全裸マン、パンちょーだい!」
「僕もパンちょーだい!」
「いらっしゃい、どれくらい欲しいのかな」
「10センチちょーだい!」
「僕も10センチ!」
「このパンは1本20ブロンズです、全部で1メートルあります、10センチはいくらでしょう?」
「1/10だから… 2ブロンズ!」
「正解! まいどありー」
開店3日目、松本の店は割と繁盛していた。
シルバー硬貨が15枚と、ブロンズ硬貨が20枚、ドングリが20個。
いや~順調順調、今日も完売したし、意外とすぐ40シルバー溜まりそうだな。
しかし…ドングリをどうしたものか?
このままだと溜まる一方だし、子供達にあげると無限パンされるしなぁ…
「今日はもう店じまいかい?」
看板をかたずける松本にバトーが声を掛ける。
「おかげさまで完売です」
「それはよかった、そろそろ町へ買出しに行くのだが必要なものはあるかな?」
15シルバーと20ブロンズあるからな…先にズボンとパンツだけ買うか
「ズボンとパンツをお願いします、お金はこれで」
「15シルバーか、確かに。買出しに行く者に伝えておくよ、到着は10日後くらいだ」
「ありがとうございます」
お金を受けとったバトーは馬車に乗る女性に伝えに行った。
よっし! 異世生活3週間目…ずっとウィンナー生活だったが、これでようやく腰布を卒業できる!
子供達よ、もう全裸マンとは呼ばせんぞ! 10日後には半裸マンなのだ!
翌日の午前中、数人の男達が木を伐採していた。
カーン! カーン!
「どっせいーい! どっせーい!」
「結構さまになってきたじゃねぇか坊主」
「マツモトも腰が入ってきたな」
「毎日やってますからね! どうです? 結構筋肉ついてきたんじゃないすか?」
斧を立て掛けサイドポーズを決める松本、光魔法は発動させていない。
「まだまだ細せぇが、最初会った時よりはガッチリしてきたな」
「他の子供達は村で遊んでいるというのに、全く逞しいな」
「遊んでもいいですけどねぇ、今は生活力を高めないと…むんっ!」
「はっはっは、バックポーズはいまいちだ、背中が薄いぞ!」
「そうだ坊主、あとで俺ん家に寄ってけ、芋分けてやるからよ」
「えぇ? いいんですか! 芋大好きですよ~」
「だっはっは、そうだろ! 今ウィンディがいねぇからよ、余ってんだよ」
「ありがたく頂きます!」
「それじゃ、もうひと働きしようか!」
「了解です!」
久しぶりの芋! 2つも頂いたがどうやって食べようか?
1個は焼くとして、もう1個は茹でたいな…しかし、鍋もなければ塩もないし…
そうだ! ナーン貝に塩水いれて煮るか! 後で試してみよう。
開店準備をしながら、貰った芋に思いを馳せている。
「はぁ…はぁ…今日のナーン貝は私のものよ…さぁ売ってちょうだい坊や!」
「あ、ありがとうございます… 5シルバーです!」
ちなみにナーン貝は開店直後に売り切れる。
1日1個限定のため、村ではマダムによる争奪戦が巻き起こり、勝者のみが店に訪れるのだ。
そのため店頭にはパンしかなく、最近では子供達にパン屋と呼ばれていた。
グツグツ…グツグツ…
「何してんだ? 坊主」
「貰った芋茹でてるんですよ、食べようかと思いまして」
「ほう、その殻、鍋の代わりになるんだな」
「結構頑丈なんですよ。石で叩いたり、高い場所から落としても割れませんし。
意外と使えそうなんで集めてたんですよ」
店の裏でナーン貝の殻を鍋代わりに海水で芋を茹でていると、ゴードンが様子を見に来た。
鍋は芋のほかに2つあり、グツグツ音を立てている。
「その横のヤツは何してんだ?」
「これはただの海水ですね、蒸発させて塩を作ってます」
「ほー…塩ねぇ。その隣は何なんだ?」
「こっちはドングリを煮てます、どんどん溜まるので食べられないかなと思いまして」
「おめぇ…ほんと逞しいな…」
店番しながら3つの鍋を操作する少年にゴードンは関心した。
「俺なんてまだまたですよ」
「そうかぁ? お、お客さんだぜ」
「パンちょーだい!」
店の前には、ドングリ決済の女の子が立っている。
「いらっしゃい、今日は何センチかな?」
「10センチ!」
「はい、ドングリ1個ね」
「ありがとー」
女の子は村の中に戻っていった。
「5歳未満はドングリ1個で2ブロンズの変わりになったのか」
「パンちょーだい!」
ゴードンが看板を読んでいると、さっきのドングリ少女が再度パンを購入しようとしてる。
「はい、ドングリ1個ね」
「ありがとー」
女の子は村の中に帰っていき、再び戻っきてパンとドングリを交換して行く。
「? どうなってんだ?」
「村の入り口を見れくればわかりますよー」
ゴードンが村の入り口を確認すると、ドングリ少女が他の子供にパンを渡し、1ブロンズを受け取っていた。
ドングリ少女は2ブロンズのパンを1ドングリと交換し、1ブロンズで売る。
子供達は1ブロンズ安くパンが手に入り、ドングリ少女は1ブロンズ儲かるのだ!
「ね? 俺なんてまだまだでしょ?」
「そうだな、子供達の方が逞しいわ…しかしいいのか?」
「いいんですよ、ナーン貝で5シルバー儲かるし、元々パンは勉強、兼おやつ用ですから。それに…」
再度戻ってくるドングリ少女を見て松本が看板を入れ替える。
「パンちょーだ…」
『2ブロンズ = 2ドングリ』と書かれている看板を見てドングリ少女が硬直する…
少し涙目でプルプルしている。
ドングリ少女を見て、再度看板を入れ替える。
「嘘だよ、1ドングリだよ」
「わーい! ありがとー」
ドングリ少女はウキウキで帰っていった。
「ね? カワイイでしょ?」
「おめぇ…たまに爺くせぇよな…」
松本の精神年齢は38歳、42歳のゴードンと同世代なのだ。




