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159話目【訳ありの人達】

血の付いたフードを被った女性を松明を持ったモントと子供達追う。


「…付いた、あの窪みの中に」


女性が示した岩の窪みに入ると男性が力なく壁にもたれ掛かっていた。


「なんてこった…」


破れた衣服は血に染っており、傷を負っているであろう右足と腹部に応急処置された形跡がある。

更に悪いことに紐で縛られた右腕は肘から下が見当たらない。


「父さんしっかしして!」

「お父さん…お父さん!」


子供達が体を揺らし声を掛けるが反応が無い。


「無くなった右手はあるのか?」

「いや…」

「そうか」

「死なせたくない、なんとか助けて欲しい、頼む…」

「分かってるさ、2人共、俺と変わってくれ」


モントが子供達と変わり父親を確認する。


「(…息はしてるがかなり弱い、正直ギリギリだぜ)」


傷の深い腹部と足に手を当て回復魔法を掛けるモント、徐々に傷が塞がってゆく。

暫くすると傷跡は残ったが外傷はなくなった。


「千切れた腕があれば繋げられたかもしれねぇが無いなら仕方ねぇ、このまま治すぜ?

 傷は塞がるが二度とくっ付けられねぇけど、いいな?」

「頼む」


両手で夫の右腕に回復魔法を集中させる、切断面が塞がったのを確認し縛っていた紐を解いた。


「取りあえずデカイ傷は塞がったか…」

「治ったのか?」

「ある程度はな、中身が分からねぇから取りあえずもう少し続けてみるわ」

「…そうか、ありがとう」

「お父さん助かったの?」

「ねぇお母さん?」

「そうよ、お父さんは助かるわ」

「うぅ…よかった…」

「僕怖かった…」


子供達を抱き寄せる母親、モントを襲った時とは違い柔らかい表情をしている。

緊張の糸が解けたのだろう、先ほどまでの張り詰めた空気が和らいだ。

モントを除いては…


「…言いにくいんだがよ、まだ安心は出来ねぇよ」

「「「 !? 」」」

「傷も治したしマナも回復させたのに意識が戻らねぇ」

「傷は…完治したのだろう? 回復魔法はどんな傷も治すのだろう?」

「その通りだ、回復魔法は傷を治せる、ただし全てが元通りになるわけじゃねぇんだ、

 時間を巻き戻すんじゃなくて、どっちかって言うと切れた部分がくっつくイメージだな、

 この右腕みたいに無くなった部分は元に戻らねぇし、腹と足みたいに抉れた部分は傷が残る、

 そして重要なのは流した血は失ったままなんだよ」

「それじゃ…」

「あぁ、あんたの夫には血液が不足してる、ショック状態になってねぇから

 このままで元気になる可能性もあるが…かなり危ないと思うぜ、出来るだけ早く輸血すべきだ」

「血があればよいのだな? なら私の血を使ってくれ!」

「いやそう簡単にはよ…一応聞くけど、あんた血液型は?」

「血液型? 血は血だろう」

「な、なに?」


思わす耳を疑うモント。


「(魔法も使えねぇし、回復魔法の常識も知らなかった感じだ…おまけに血液型も知らないと来た…)」

「とにかく使ってくれ! …もう失いたくないんだ」


悲しそうな顔をする女性、子供達も俯いている。


「ま、まて! 血液型ってのは種類があるんだよ、もし間違えばそれこそ死んじまう、

 それにどっちにしろ道具がねぇから無理だ」

「それならどうしろというんだ!」

「まぁまぁ落ち着けって、俺の住んでる町が近くにあるからよ、

 そこなら血液型も調べられるし輸血も出来る筈だ」

「…私達を…連れて行って貰えないだろうか?」

「今の話の流れで連れて行かない選択肢はないわな、ただし事情は道中に聞かせてもらうぜ?」

「わかった」

「よし、んじゃ行くか、子供達~父ちゃんを助けに行くぞ~」


男性を背負ったモントと4人はウルダへと走しり出した。




「おい止まれ!」

「勝手に街に入るんじゃない!」

「そこを動くな! 確認する!」

「へいへい~分かってますよ~」


ウルダの城壁の外で衛兵に止られる5人、松明を持った屈強な衛兵が1人近寄って来た。


「ったく急いでるってのに仕事熱心な衛兵さんだぜ、俺が話をするから下手に動くんじゃねぇぞ」

「分かった」


頷く女性と子供達。


「なんだ誰かと思ったらモントか、この人達は? 背中の男はどうした?」

「夜にすまねぇなコットン隊長、森で野宿してたら出くわしてな~、

 この人が瀕死の重傷だったところを俺が助けたってわけ、

 だた意識が戻らなくてな、恐らく血が足りねぇ、急いで輸血してやりてぇんだよ」

「そうか…ここらじゃ見ない顔だな、モントの知り合いか?」

「いや、全然知らねぇ、ついでに訳ありみてぇだ、隊長の立場も分かるが何とか通してもらえねぇか?」

「訳ありか…ウルダの安全を守ることが俺達の仕事だ」

「あぁ、わかってるよ」


真剣な目で見つめ合うコットン隊長とモント、


「俺が通さないと言ったらどうする気だ?」

「助けてやるって約束しちまったからな~俺も男だ、力ずくでも通るかもな~」


へらへらと返答するモント、おどけているが言葉に力を感じる。


「ふ…責任は取れよモント」


コットン隊長がモントの肩を叩き小さく笑った。


「恩に着るぜコットン隊長~、ほら皆もお礼言って言って~」

「「「 ありがとう御座います 」」」

「ついでですまねぇがデフラを呼んで来てくれねぇかな? ルート伯爵の屋敷にいる筈だからよ」

「分かった、病院でいいんだな?」

「よろしくコットン隊長~、皆行くぞ~」


頭を下げながらコットン隊長の横を走り抜けて行った。


「隊長、見掛けない者が居ましたがよかったのですか?」

「あぁ、意識の無い怪我人がいたからな、人道的な緊急対応だ」

「ですが…」

「責任は俺が取る、それとデフラ町長の所に行ってくるから後は任せるぞ」

「分かりました」

「(本気のモントはそう簡単に止められんしな…)」


コットン隊長は伯爵の屋敷に向かった。




一方、宿屋『吸血の宿』

洗面台で鏡を見ながら顔をゴシゴシ擦っている松本。



…駄目だな、落ちん

水では全く落ちんな…

この顔で鍬素振りしたら流石に掴まりそうだし

今日は止めにして早めに風呂入るか…



顔に書いた星マークが落ちなくて、普段より早めに風呂に入ることにした松本。

城壁の外の暗がりで変な顔のヤツが鍬振ってたら流石に事案、

不審者として衛兵のブラックリストに登録されている松本には死活問題である。


さて、本小説の読者は何故松本の顔に星マークが描かれているのか疑問に感じているだろう。

そう、今回の話は松本が狂王に扮した日の夜である、

6話に渡って同日の話を書いている私の狂気を肌で感じで欲しい、そして許して頂きたい。


「ふ~ろふろふろ、あったかおふろ~、冬場のお風呂は最高フォウ!」


脱衣所で服を脱ぎ、若干テンション高めで風呂場へ飛び込んでゆく松本、

流れるよな動きで蛇口を捻りシャワーを浴びる。


「あったけぇ~…しみるぅ~」


全身を流れるお湯に至極の表情の松本、一応サービスシーンである。

もし映像化された場合は15分はシャワーを浴びる艶めかしい松本のサービスシーンである。


「どれ、ますは頭から」


厚めのガラス瓶から液体洗剤を手に取り頭髪へ、

頭を洗っている筈なのモコモコと全身泡まみれになる松本。

とても泡立ちの良い洗剤らしい。


「いや~蛇口を捻るとお湯がでるし、シャワーもあるし、都会のお風呂は便利ねぇ、

 俺の家は水すら出ないからなぁ、まぁ水魔法覚えてからかなり便利になったし、

 池の水も飲まなくてよくなったから贅沢はいわないけど」

「あんた普段どんな生活してたのよ?」

「そりゃ森の中でほぼ自給自足…………ん?」


手探りで蛇口を探し泡を洗い流す松本、振り返ると浴槽に浸かるドーラと目が合った。


「ほああああああ!?」

「なに驚いてるのよ?」

「い、いやだって…え!? 何で入って来てるんですか!?」

「私が先に入ってたのよ、後から変な歌うたいながら飛び込んできたのはマツモトの方よ」

「す、すみません…気が付きませんでした…俺出ますかほあああああああ!?」


慌てて手で顔を覆う松本。


「今度は何よ?」

「急に立たないで下さいよ! 見えちゃうじゃないですか!」

「マツモトが出るって言うから立ったのよ、体洗うんだからどきなさいよ」


浴槽から出て来るドーラ。


「ちょっ…そんな大胆なぁぁぁ…な?」



わ~お見事な幼児体形…

子供やん…5歳くらいのキッズやん…

ちょっとでも期待した自分が愚かだったわ…



「ドーラさんって何歳でしたっけ?」

「内緒」

「もしかして俺より年下だったりします?」

「違うわよ、なんでよ?」

「…いや、別に…」



これで年上ね…

胸が小さいだのなんだのと嘆いてるカルニさんが可哀相になるな…



「なによその目は?」

「いえ、気にしないで下さい」

「なんか腹立つわね、特に左目の星が腹立つ、何よ? ふざけてるの?」


松本の憐みの視線に御立腹のドーラさん、左目の星が感情を逆なでしている。


「あ、そうだった、あの~これ落としたいんで先に体洗ってもいいですか?」

「ったく、さっさと洗いなさいよ、あんまり待たせないでよ」


ブリブリと小言を言いながらも浴槽に戻って行くドーラさん、優しい。

再び泡まみれになる松本、ようやく顔の星が消えた。


「すみません、お待たせしました」

「のぼせるかと思ったわ」

「それは申し訳ない」


ドーラと入れ替わり浴槽に浸かる松本。


「結局なんだったのその星?」

「いやまぁ、子供達の悩みを解消するために変装した名残でして…」

「マツモトも子供でしょ」

「まぁそうですけどね、いろいろあるんですよ」

「そう、ところで出るんじゃなかったの?」

「いやまぁ、折角だらか湯船につかろうかと思いまして…ふぃ~…」

「まぁ別にいいけど」


湯船に溶ける松本、モコモコと全身泡まみれになるドーラ。

お互い特に気にしないらしい。

松本の中でドーラの位置付けが成人女性から子供に変更されたことは秘密である。



なんか姪が小さい頃に風呂に入れたこと思い出すなぁ~

こんなに泡まみれじゃなかったけど…

姪とか甥って年に数回しか会わないと尋常じゃない速度で大きくなるからな…

今頃は高校生だろうか…



泡に包まれたドーラを見ながら懐かしの前世に思いを馳せる松本。



最初の頃は丁度これ位の大きさで…ん?

なんか…何だろう…違和感が…

ん~…



ドーラだと思しき泡の塊をを見つめる松本。



なんだろうな?

何かが…

いやまぁドーラさんだから違うのは当たり前だけど

いやでもなんか気に…ん? んん!?



目を細める松本、白い泡の中から黒い羽が生えている。



「んな…!? ド、ドーラさん!? せ、背中に羽がががが…」

「え? 羽根ならいつも付いてるでしょ、まったく騒がしい子供ね」

「いや確かにいつも付いてますけど、いやいやいやそうじゃなくて! あれ飾りじゃなかったんですか!?」

「別に飾りなんて言った覚えないけど、いいでしょ別に羽が生えてても、鱗の生えた亜人だっているんだし」

「え? いやまぁそうですけど…あれ? 最初会った時に人間って言ってませんでした?」

「そんなこと言ったかしらね?」

「言ってましたよ、俺確認しましたもん!」

「そう、それじゃ嘘よ、うふふふふ」


鏡越しに怪しく笑うドーラ、泡の塊から顔が出ている。



まぁ…ドーラさんの体形で大人だって言うなら人間である方が不自然だしな…

これが異世界ってヤツか…



「…まぁ、そうですか」

「そうよ」


取りあえず納得したらしい。


「マツモト、ついでだから背中洗って頂戴」

「はい~」

「一人じゃ洗いにくいのよね」

「まぁ手が届きませんからね、んじゃ失礼して」


受け取ったスポンジで浴槽の中から背中を洗う松本。


「羽根の根元もお願いね」

「了解です」


羽根を持ち上げて根元を洗う、ついでに羽も洗う。



おぉ~意外と柔らかい

しかし、この薄い柔軟性のある皮の感じ…どこかで…



羽根をモミモミしながら記憶を探る松本。



これはあれだな…

お風呂に入れてる時の…猫の脇の部分



ドーラの羽根の膜は猫の脇の皮と同じ感触だった。



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