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158話目【華やかの裏で】

松本が狂王として暗躍した同日の夜。

ウルダの領主ルート・キャロル伯爵の屋敷、伯爵夫人ニーナの部屋。


「「 お待たせしました母上 」」


普段の質素な服ではなく、高価そうな服を身に着けたトネルとレイルが部屋に入って来た。

髪も整えられなんだか正装といった感じである。


「こちらへいらっしゃいトネル、レイル」

「「 はい母上 」」


近寄った兄弟を両手で抱き寄せる伯爵夫人。


「あぁ、なんだか久しぶりに会った気がするわ、暫く見ない内に大きくなったわね2人共…」

「最後に会ったのは3日前です母上」

「私は昨日会いました母上」

「そうだったかしら、おほほほ」


姉弟を抱いたまま笑う夫人。

2人の反応を見るに毎回の事らしい。


※トネル、レイル兄弟はルート伯爵家の習わしで身分を隠して生活しており、

 普段は仮住まいと屋敷を行き来しています。


「レイル、いい顔になったわね、何かいいことでもあったの?」

「はい、最近抱えていた悩みが解決しました」

「お父さんに相談していた件?」

「はい、難しい問題でしたが何とかなりました」

「そう、誇らしいわレイル、でも私の知らないところで成長していくのは少し寂しいわ」

「私も寂しいです母上」

「あぁレイル…」


更に強く抱きしめる夫人。


「は、母上、少し苦しいです…」

「おほほほ、ごめんなさいね、トネルは何か報告は無いの?」

「私は明日初めての討伐依頼を受けます」

「大ネズミからマンモスキートに変更したというのは聞きました」

「そんな事までご存じで」

「大切な子供のことだもの、これ位あたりまえです、くれぐれも気を付けてね」

「はい、頼れる友人もいますので大丈夫です、決して無理はしません、母上との約束ですから」

「あぁトネル…」

「「 く、苦しい…母上… 」」

「おほほほ」


息子達をニギニギしながら満面の笑みのニーナ夫人、恐らくワザとである。


「ところで急に食事会とはどうされたのですか? 予定には無かったと思いますが?」

「お客様でもいらしたのですか?」

「えぇ、フルムド伯爵がいらっしゃいました、ご一緒にSランク冒険者の方がお2人」

「フルムド伯爵は数年前に伯爵になられた方でしたよね?

 確か推薦されたのはロックフォール伯爵でしたか? とても優秀な方なのでしょう」

「Sランク冒険者の方にも是非お話をお聞きしたいです」

「では早速向かうとしましょう、少し待たせてしまっていますからね」

「「 はい 」」


会場へ向かう母と息子達、

一方、父親であるルート伯爵は…





華やかな部屋でデフラ町長とフルムド伯爵と共にグラスを傾けていた。


「いや~本来であれば晩餐会で歓迎すべきところだが、急に用意させたものでな、

 あまり華やかではないがどうか許して頂きたい」

「いえいえとんでもない、僕には身に余ります、ご存じだとは思いますが僕は名ばかり領主でして…」

「わははは! そんな弱気ではいけませんな、もう少し自信を持てって頂かなければ」

「す、すみません…」


堂々と振る舞うルート伯爵と委縮するフルムド伯爵。


「実はフルムド伯爵に貴族としての在り方を示すようにと、ロックフォール伯爵から頼まれておりましてな」

「えぇ…いつのまにそんな…」

「今朝、私の所にカプア様が書簡をもって来られました」

「そ、そうだったんですか、いろいろと申し訳ありません、

 デフラ町長もお手間を取らせました(絶対ワザと教えなかったなペニシリめぇ…)」


フルムド伯爵の様子を見て、ふふふと笑うロックフォール伯爵が容易に想像できる。

因みに、フルムド伯爵のグラスの中身はオレンジジュース、お酒は苦手である。




フルムド伯爵の他にSランク冒険者のタレンギとノルドヴェル、

魔道補助具開発主任のカプアと助手のハンクの姿も見える。


「ちょっとノル、それドレスコードとしてありなの? 伯爵様のお食事会よ?」

「これしか持って来てなかったのよ、仕方ないでしょ、ちょっと色気が出過ぎてるけどサービスよ」


ボディラインが丸わかりのピッチリドレスを着たノルドヴェル、

スリッドから見える美しく筋肉質な足が艶めかしい。


「そういうターレはあまり普段と変わらないわね、折角ならもっとオシャレした方が良かったんじゃないの?」

「あら、ちゃんと勝負下着着てきたわよ、紫の際どいヤツ、見えないオシャレってやつね」


いつも通りゴスロリのタレンギ、普段より少し豪華なゴスロリと勝負下着(紐パン)のドレスコード。

お肌も艶々で爪の手入れも行き届いており女性より女性らしい。


「うまっ! このお肉うまっ!」

「しゅ、主任、勝手に食べたら駄目ですよ、怒られますって!」

「庶民には滅多に食べられないお肉よ、ハンクもしっかり食べときなさい」

「ちょっと主任~」


そして普段と変わらずツナギ姿のカプアとハンク、不意打ちで招待されたため服を用意できなかったらしい、


「ツナギが技術者の勝負服よ、大丈夫大丈夫」


というカプア主任の有難い言葉でハンクもツナギで来た、

パーティー会場に仕事をしに来た人みたいな場違い感があるが、

まぁ、ルート伯爵は気にしないので問題ない。


「今日は私の家族と従妹も呼んでおります、後で是非紹介させて頂きたい」

「ありがとう御座います、僕にも紹介する家族が居ればよかったのですが…」

「ほう、フルムド伯爵はまだ独り身でしたか、まぁまだお若いですからな、

 遊びたい気持ちは分かりますが早いうちに相手を見つけておいた方が良いですぞ」

「そうですね、ただ調査漬けでして遊ぶ暇もないといいますか…いまだに恋人すらいません」

「わははは、気を付けた方がよいですぞフルムド伯爵、仕事ばかりしていてはデフラのようになってしまいますからな」

「デフラ町長も独り身なのですか?」

「いえ、私は3年前に結婚致しました、1歳になる娘がおります」

「仕事ばかりしておりましてな、私の紹介で40になってようやく結婚したという訳です、

 娘が可愛いいらしく、最近ではもっと早くに結婚しておけば良かったと愚痴をこぼしておりますぞ」

「ルート伯爵、私の私的な話はあまり話さないで頂きたいのですが」

「おぉ、すまんすまん」

「あははは…」


ルート伯爵に静かに圧を掛けるデフラ町長、フルムド伯爵が乾いた笑みを浮かべている。


「ノル、妻子持ちみたいよ?」

「残念、ナイスダンディだったのに、惜しいわね」


後ろでノルドヴェルが何か言っている。


「お噂には聞いておりましたが、カンタルの調査を一任されているというのは大変なようですね」

「まぁ好きでやっていますので有難くはあるのですけどね、何故か知らない内に貴族にされていて…」

「事前に相談は無かったのですか?」

「ダナブルに調査費を貰いに行った際にロックフォール伯爵からいきなり伝えれれました、事後報告で…」


ため息をつくフルムド伯爵。



「アントル、貴方は今日から貴族です、カード王から正式に任命されましたので今後はそのつもりで行動して下さい」

「えぇ!? 貴族って何が…」

「あと領地はカンタルですのでお忘れなく」

「はぁ!? 領地!?」

「国章もお渡ししておきます」

「ちょっ…ペニシリ!?」


こんなやり取りがありましたとさ。


「お気持ちお察しします」

「ロックフォール伯爵ならやりかねんな、まぁ飲んで飲んで」

「ありがとうございます…」


同情されるフルムド伯爵、ルート伯爵から新しいオレンジジュースを受けとる。



「あら、フルムド伯爵はお酒は飲まれないのですか?」

「おぉニーナ、連れて来たくれたか」


ニーナ夫人とトネル、レイルがやって来た。


「フルムド伯爵、こちらが私の家族、妻のニーナと長男のトネル、次男のレイルだ」

「ルート・トネルです」

「ルート・レイルです」

「「 よろしくお願いします 」」


揃ってお辞儀をする兄弟。


「僕はフルムド・アントルです、こちらこそ宜しくお願いします」

「後はロイダ達だが…」

「まだお見えになっていませんね、少し確認してきましょうか?」

「すまんなデフラ、頼む」

「それには及びませんよデフラ町長、遅れて申し訳ありません、少し野暮用を済ませておりましたので」

「おぉロイダ、待ちかねた…ぞ…」


ルート・ロイダ子爵と夫、そして息子のウォレンがやって来た。

振り返った瞬間に笑顔が凍り付くルート・キャロル伯爵。


「ウォレン!? 一体どうしたのです!?」

「顔がパンパンですよ!? どうしましょうトネル兄さん!?」


着飾った服にパンパンの顔のウォレン、小刻みに震えている。


「き、気にするな…今日の件で母上にな…自業自得だ…」

「ちょっと!? 虫の息みたいになってるじゃないですか!?」

「ウォレーン!? しっかりするのです!」


瀕死のウォレン、トネルとレイルが慌てている。


「ロ、ロイダ…ちょっとやりすぎじゃ…」

「どうかしましたか伯爵? 何か気になる事でも?」

「い、いやお前…いくら何でも自分の息子にまで…のう?」

「…」


ルート伯爵に同意を求められ顔を背ける夫、完全に尻に敷かれている。


「お前…昔っからかわらんのう…」

「愛する息子だからこそ容赦しません、貴族たるものこれくらい厳しくて当然です」

「厳しすぎるわい…私がお前の息子ならとっくに道を踏み外しとるわ…」


他に誰も口を開かないのは、ロイダ子爵という人物を知っているからである。


「あの…大丈夫なんですかあの子? 治療してあげて方が良いのでは…」

「伯爵、こちらは?」

「こちらはフルムド伯爵、今日の主役だ、フルムド伯爵こちらが私の従妹にあたるルート・ロイダ子爵、

 見ての通り少し真面目過ぎるところがあっての…」

「よろしくお願いします」

「こちらこそ宜しくお願い致します」


丁寧にお辞儀をするロイダ子爵、フルムド伯爵より気品を感じる、ザ・貴族と言った様子。


「あの子なんですけど、宜しければ僕に治療せて貰えませんか? 

 何があったかは知りませんが子供の痛々しい姿は余り好きではありませんので…」

「分かりました、フルムド伯爵に免じて許しましょう」

「ありがとう御座います」


ウォレンの顔が元に戻り、会食が始まった。

並べられた料理をつまみながら会話をする立食スタイルである。


「フルムド伯爵様は元々貴族ではないと伺っています、

 カード王から直々に領主を任命されるのであれば、さぞ優秀でいらっしゃるのでしょう、

 宜しければどのような経緯で貴族になれたのか教えて頂けませんか?」

「そ、それはね…」


フルムド伯爵に話を聞くレイル。



「槍のノルドヴェル様ですね、実は私も最近冒険者を始めまして

 明日初めての討伐依頼を受けるのです、宜しければお話をお聞かせ頂けませんか?」

「あら~可愛い、貴族の御子息様が冒険者をされてるのですか?」

「えぇ、家訓で身分を伏せてあります、ノルドヴェル様もやはり私くらいの年齢で冒険者になられたのですか?」

「いいえ、私は大人になってからです、元々はダナブルで傭兵をしてましたので、

 そのあといろいろとありまして冒険者に」

「いろいろとは?」

「あら、その辺に御興味が? 心と体の深いお話…」


ノルドヴェルの意味深な話を聞くトネル。



「タレンギ様は随分とお肌がお綺麗ですけど、化粧水はどちらの物を?」

「やはりリコッタ産ですか?」

「いいえ、私は自家製の化粧水を使っています」

「ご自分で?」

「えぇ、冒険者稼業のついでに材料を集めまして、自分で配合しております、

 ロイダ子爵お手を拝借しても宜しいですか?」

「えぇ、どうぞ、…す、すごい…右手の甲だけしっとり…」

「ちょっとそんなに凄いのロイダ? タレンギ様私もお願いしても?」

「えぇ喜んで」

「す、すごい…右手の甲だけしっとり艶々…」


タレンギの特製化粧水に驚きを隠せないロイダ子爵とニーナ夫人。



「お食事中に申し訳ありません」

「ほ、ほら主任が食べすぎるから…すみません控えさせますので…」

「だって美味しいんだもの、ハンクだって食べてるでしょ」

「そ、そうですけど…」

「いえ、沢山食べて頂いて構いませんよ、ここはそういう場ですから、

 ところでカプア様とハンク様は何のお仕事をさてているのでしょうか?」

「アタシ達は魔道補助具の…」

「ま、魔道補助具!? 先程主任とおっしゃっていましたが…」

「? えぇ、アタシが魔道補助具関連の主任ですけど、こっちはその助手です」

「よろしくお願いします」

「あ、あの、具体的には何をされているのでしょうか?」

「まぁ、アタシは魔道補助具の基本設計と伝達方法の構築とか…」

「えぇ!? カプア様が基本設計を!?」

「私は主に外装の設計や素材の選定など…」

「えぇ!? ハンク様があの外観を!?」

「「 えぇ 」」

「ふぅ…是非、詳しくお話をお聞かせ頂けませんか?」

「「 はぁ、いいですけど… 」」


髪を掻き上げ一息ついた後、カプアとハンクに食い気味に話を聞くウォレン。



「皆さん楽しんで頂けているようですね」

「そうじゃの~妻や子供達はお任せして私達は少しゆっくりさせてもらうとしよう、

 しかし、お主も大変だっただろうに」

「えぇ全くです、肝が冷えましたよ…」


ルート伯爵、デフラ町長、ロイダ子爵の夫は隅の方でくつろいでいる。








一方、ウルダの城壁の外の森では…


「よっしこんなもんでいいだろ、んじゃ着火っと、ふぅ~、あったけぇ~」


指先から火を出して薪に着火する気の抜けた男、

華やかな屋敷とは正反対の寒くて暗い森のなかで、焚火に手をかざし暖を取っている。


「森の中はただでさえ日が当たらねってのに、日が落ちると余計に寒くなりやがるからなぁ…

 デフラとキャロちゃんは今頃美味しい物でも食べてんのかね~、まっ庶民の俺には縁のない世界だな」


ブツブツ言いながら薪を追加するモント、横に大きな猪が転がっている。


「はぁ…野宿にはまだ早ぇってのに、こりゃ風呂はお預けだな、

 それもこれもお前がこんなところまで逃げるからだぞ~、

 俺がテント持って来てなかったらどうする気だったんだ?」


大きな猪に話しかけるが、死んでいるので当然返事はない。


「先に飯の準備しますかね~」


串に刺した肉を焚火で焼きながらテントを張るモント。

隣の猪が少しだけ小さくなった。


「よしテント完成~っと、どれどれ肉の具合は…ん?」


耳を澄ませ腰の剣を握る。


「そこにいるんだろ? 出てきなよ~肉が欲しいならまだまだたくさんあるから分けてやるぞ~」

「「 … 」」


焚火を挟んだ向こうから2人の子供が出て来た、全身を覆い隠すフートを被っている。


「(子供か? あの肌の色、額のヤツも見たことねぇな…別な国からの流れ者か?)」


焚火に照らされる褐色の肌、額に何やら印が描かれている。


「腹減ってんのか? 肉食うか? もうすぐ焼けるからちょっと…(ん!?)」


背後で枝を踏む音が聞こえ振り返るモント、暗闇の中からナイフを持った女性が飛び出してきた。

気付かれた女性が咄嗟にナイフを突き出すがモントに腕を掴まれ後ろ手に拘束された。


「ぐっ…」

「ふぃ~あぶねぇ~、流石にもういねぇよな? え? もしかしている?」


女性を拘束しながら暗闇に目を凝らすモント、背後から足をベシベシと枝で叩かれた。


「お、お母さんを…離して…」

「離して…」

「やめなさい! 私に構うんじゃないの! 早く離れなさい!」

「離して…いやぁ…」

「お願い離して…」

「今すぐ離れなさい!」

「「 いやぁぁ! 」」


怯えながらベシベシとモントを叩く子供達。


「(な、なんだぁ? …ん?)」


困惑するモントだが、捕まえている女の見るとローブに血が付いている。


「あんた怪我してんのか?」

「…」

「いいか? 俺を攻撃しねぇってんなら手を放す、今決めろ、子供もいるんだろ?」

「…わかった」


女性が頷き手を放すモント、子供達が女性に張り付き号泣している。


「んで? 何で俺を襲ったの~?」

「襲う気は無かった…ただ聞きたかっただけだ…」

「何を?」

「先程火を付けるのを見た、あれは火魔法だな?」

「そうだよ? で?」

「回復魔法は使えないだろうか? 助けが…欲しい…」

「「 お母さん… 」」


俯く女性、絞り出す声に懇願に近い感情が感じとれる。


「回復魔法なら使えるよ、アンタの怪我も治ってる筈だぜ?」

「…っは!?」


体を確かめる女性、手を放す前にモントが治したらしい。


「アンタら魔法は使えねぇのか? 事情はしらねぇがこんな夜に出歩いたら危…、

 おいちょっとまて、それ、アンタの血か?」


眉を潜めるモント、女性のローブの下は血に染まっていた。



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