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151話目【ぐーたらモント、怠けモント】

ここはウルダの鍛冶屋、ユミルの左手の奥にある応接室。

パイプからプカプカと煙を浮かべる店主の前に気の抜けた男が座っている。


「はいよ、これが依頼されてた剣、2本で16ゴールドだよ!」

「こちゃまた凄い、ドナさん、もうちょっと安くなったりしない?」

「しないよ、いいからとっとと出しな、持ってんだろ」

「へいへい、たまにはお得さんに負けてくれてもいいんじゃないですかねぇ」

「十分安くしてるだろ」

「2本で16ゴールドがですか? 俺の財布には全然優しくないですけど…」

「今回のは素材が高いんだから仕方ないだろうに、自分で選んだんだろ、文句言うんじゃないよ」

「痛いとこ付きますね…んじゃきっかり16ゴールド、こりゃ暫く禁酒だな…」

「良かったじゃないかい、アンタいっつも飲んでんだから健康になるよ」

「へいへい、剣とお気遣い感謝しますよ~」

「また来なよ~」


気の抜けた男は剣を受け取り部屋を出て行った。


「失礼します」


入れ替わりでエプロン禿げが入って来た。


「どうしたんだいボンゴシ?」

「お師匠、あの剣ってあの人の依頼だったんですかい?」

「そうだよ、それがどうかしたのかい?」

「いやなんていうか、よく昼間っから酒飲んでるのを見かけるもんで、

 師匠が直接剣を作る程の人には見えないっていうか…」

「っはっはっは! ぐーたらモントに怠けモントなんて呼ばれてるからね~アイツは」

「たしか前回のウルダ祭でもカルニ軍団に負けてましたよね?」

「あぁあぁ、当てになるもんかね、アイツは昔っから怠けものだからね」

「人は見かけによらないってことですかい?、まぁ師匠が言うなら間違いないんでしょうけど…

 しっかし、曲剣をわざわざ依頼するなんて癖が強い人ですねぇ」

「いや、依頼は巨大モギの素材で剣を2本さね、曲剣にしたのは私だよ」

「はぁ?」

「素材として売った後だったからねぇ、アイツが依頼に来た時には小さい爪しか残ってなかったのさ、

 曲剣にすれが出来るだけ素材を無駄にせずにすむだろう?」

「あ、なるほど」

「っはっはっは! どうせ酒でも飲んでて依頼に来るのが遅れたんだろうさ、アイツは怠けものだからねぇ」

「ちゃんと使えるんですかい?」

「使えなけりゃ受け取らないさ、さぁ、仕事に戻るよ!」

「了解です師匠!」


ドナとボンゴシは仕事に戻って行った。


 




場所は変わってウルダの北区、

役場に生えた木の周りで松本とラストリベリオンの3人作業中である。


「は~い近づかないで下さいね~」

「さ、作業中ですぞ~」

「はぁはぁ、近寄ると危ないんだな~」


カラーコーン囲まれた木の周辺でヘルメットを被った松本、グラハム、ラインハルト。


「いくでありますよー」

「「「 はい~ 」」」

「ほぁー! ウィンドエーッジ!」


脚立に登ったギルバートが風魔法で伸びた枝を剪定する。

剪定せんていとは樹木の枝を切って整えること。


「どうでありますかー?」


木の周辺をグルグル回る3人。


「いいんじゃないですか?」

「はぁはぁ、吾輩もいいと思うんだな」

「いや、こっちの上が少し残っていますな」


ギルバートの反対側、ラインハルトが指さす先に枝が少し残っているのが見える。

後ろに下がって目を凝らす松本。


「あ、本当だ、俺身長低いから見えませんでした」

「はぁはぁ、ギルバート氏、こっち側を頼むんだな」

「了解であります」


脚立を立て直し残りを剪定するギルバート。


「うむ、上出来であります! それでは落とすでありますよ~」

「「「 はい~ 」」」

「ほぁー! ウィーンド!」 


木の上に引っかかっていた枝や葉っぱが舞い上がり地面に落ちて来る。

テキパキとほうきで掃く3人、集めて台車に積む。

ギルバートは脚立とカラーコーンを隣の木に移動している。


今日の依頼は『樹木の剪定』である。


「ギルバートさん、何で毎回魔法名を叫ぶんですか?」

「ふふふ、気分であります!」


キメ顔のギルバート。

※この世界では魔法に詠唱は必要ありません。


「は~い、離れて下さいね~、危ないですよ~」

「せ、剪定中ですぞ~」

「はぁはぁ、風魔法を使うんだな、危ないんだな~」


普段あまり役に立たないと言われている風魔法だが、

『疾風のギルバート』に掛かれば木の剪定もお手のもの。

安全確保や掃除に人手は必要だが、剪定の時間は大幅削減可能である。


因みに、現在は3月、まだまだ寒い時期。

周辺の山の木は色褪せているが、ウルダの街中に植えられた木は緑色。

1年中緑の葉が生い茂る品種であり、景観が良いため町作りの際に重宝されている。

景観が良い代わりに冬場でも剪定が必要になるのだ。





「見事な手際ですね」


紙袋を持ったデフラ町長が声を掛けて来た。


『 デフラ町長? 』

「こんにちは、差し入れをと思いまして」

「こ、これはかたじけない、有難く頂きますぞ」


デフラ町長から紙袋を受け取るラインハルト。


「ありがたいであります」

「はぁはぁ、デフラ町長から直々に差し入れを頂けるなんて光栄なんだな」

「どうもありがとうございます~」

「いえいえ、こちらこそ毎回依頼を受けて頂き有難う御座います」


律儀に頭を下げるデフラ町長。


「皆さん毎回受けてるんですか?」

「ウルダの街路樹は拙者達、ラストリベリオンが管理していると言って過言ではないですな」

「はぁはぁ、高い木の剪定は危ないし体力使うんだな、普通にやると時間もかかるから人気は無いんだな」

「風魔法を操る小生にかかれば安全、簡単、しかし小生だけでは時間が掛かる…

 そこで、頼れる同士がいれば短時間作業完了であります」

「「「 我ら生まれた日は違えども 死す時は同じ日同じ時を願わん! 」」」


円陣を組み右手を掲げるラストリベリオン。


「あ、焼き芋だ」

「甘くて美味しいですよ、是非冷めないうちに食べて下さい」

「後で頂きます~」


松本はラインハルトから奪い取った差し入れを確認中である。



「皆さん、宜しければ依頼を追加したいのですが可能でしょうか?」

「どんな内容ですか?」

「先程連絡がありまして、学校の木も剪定が必要なようです、そちらもお願いしたいのですが」

「了解であります!」

「デ、デフラ町長の頼みは断れませんからな!」

「はぁはぁ、ここも終わりだから早速移動するんだな」


桃園の誓いから戻って来たラストリベリオン。


「ありがとう御座います、宜しくお願いします」

「それじゃ移動しますので乗って下さい」

「「「 はい~ 」」」


道具と一緒に台車に乗り込むラストリベリオン。


「んじゃ行きますよ~」


台車を引っ張る松本をデフラが不思議そうに見ている。


「あの、これはいったい? 何故台車に…いえ、何故マツモト君が引いているのですか?」

「はぁはぁ、マツモト氏に頼まれたんだな」

「只の筋トレです、気にしないで下さい」

「はぁ…筋トレですか…」


余計に理解で出来ずデフラ町長が頭を捻っている。


「まぁ…本人が良いのであれば問題はないのでしょう、学校には子供達が大勢いる筈ですので、

 安全管理だけはしっかりお願いしますね」

『 了解です! 』

「もし手が足りない場合はモントがいる筈ですので声を掛けて見て下さい、報酬はそれで」


焼き芋の入った紙袋を指さすデフラ町長。


「え~と、ちゃんと5個入っているのであります」

「はぁはぁ、流石はデフラ町長なんだな」

「よ、用意周到ですな!」



モントさんって焼き芋1個で働いてくれるんだ…






ということで、に北区の西側にある学校にやって来た4人。

学校の前の広場で沢山の子供達が木剣を振っている。



ここが学校かぁ

始めて来たけど結構デカいな



2階建ての校舎、芝生の広場、石畳の通路、噴水に植木、春になれば花も咲くだろう。

樹木によって仕切られた空間に立つ学校は、白い校舎があいまって宮廷の庭を思わせる。


「なんか綺麗な場所ですね」

「ここは北区側の学校でありますから、他の建物と外観を統一する為にそれなりの作りになっているのであります」

「他にも学校があるんですか?」

「南区側にもう1つありのであります、どちらに通ってもよいのですが、こちらは北区と西区の子供が多いでありますな」

「へぇ~」

「あの子供達は何をしてるんですか?」

「はぁはぁ、ヒヨコ杯の練習なんだな、前回のヒヨコ杯で優勝した子供が景品として木剣と盾を貰ったんだな、

 それで北区と南区の学校が練習場所になってるんだな」

「あぁ~レイル君が要望した練習セットですか」

「はぁはぁ、子供達だけでは危ないから、あんな風に数名の大人や冒険者が付いてるんだな」


グラハムの指さす先でモントが芝生に寝そべっている。


「あ、モントさんだ、子供の数も多いし、焼き芋が冷める前にお願してきますかね、俺ちょっと行ってきますよ」

「はぁはぁ、任せるんだな、これマツモト氏とモント氏の分なんだな」


グラハムから焼き芋を受け取りモントの元に向かう松本。


レイルがロックフォール伯爵に要求した木剣と盾100セットは2週間ほどで届いた。

子供が集まり新しく場所を用意する必要が無いとの理由から北区と南区の学校が練習場所に指定され、

木剣と盾は50セットずつ分配された。

ウルダの学校は午前中で終了するため、大人の立ち合いの元、希望者は午後からヒヨコ杯の練習に励んでいる。

残って遊んでいる子供も多く、働く保護者からは託児所代わりとして好評だったりする。

因みに、給食は無いため皆お弁当持参である。





「せいっ! オジサンどう?」 

「いいぞ~、いまのは気合が入ってたぞ~」

「本当? えへへへへ」


肘枕で寝頃がるモントに褒められてクネクネする少年。


「せいっ!」

「せいっ! せいっ!」

「やぁー!」

「そこの3人~、オジサンを木剣の側面で叩くのをやめなさ~い」


何故か下半身(右足)を剣の側面で叩かれている。


「オジサンは何で叩かれてるの?」

「さぁ? オジサンにも分かりません」

「せいっ!」

「せやぁぁ!」

「やー!」

「オジサンは何で干物と同じ目をしてるの?」

「それはね~、お金がないからだよ~(あ、血行良くなって来たわ)」


死んだ魚の目で横たわるモント。

子供達に木剣で叩かれ内心気持ちがいいらしい。


「坊主、振りはいいけど剣の握りはこうだな~、側面じゃなくてこっちの細い刃の部分を当てるんだぞ」

「でもこっちの方が広くて当てやすいよ?」

「お? 頭いいな坊主~、ちゃんと考えて偉いぞ~」

「えへへへ~」

「せいっ! せいっ!」

「せぃぃぃ!」

「やめなさ~い、むやみに人を叩いてはいけませんよ~(あぁ~コリが解れるわ~)」


クネクネする少年、右足を叩かれ内心リラックスするモント。


「まぁこれは木剣だからあれだけど、実際の剣は刃の部分で切る物なんだな~これが」

「そうなの?」

「そうなのそうなの、あと側面で叩くと剣が折れたりするから良くないんだな~」

「へぇ~、オジサン詳しいんだね~」

「まぁオジサンはこう見えても冒険者だらね~、当てにくいなら棍棒もあるぞ~、

 どっからでも同じ太さだから方向を気にしなくてもいいぞ~」


どこからともなく棍棒を取り出すモント、相変わらず右足はマッサージ、もとい叩かれている。


「やー! やぁー!」

「そこの女の子~オジサンの膝関節を的確に叩くのをやめなさ~い、オジサンはもうオジサンだからね、

 世の中のオジサンの膝は大体弱ってるからね~」


膝は辞めて欲しいらしい。


「オジサン、棍棒は格好悪いよ~、皆剣使ってるもん」

「そう? それなら握りはこうだな~、皆やってるだろ?」

「あ、本当だ、よ~し、せいっ! せいっ!」

「いいぞ~、格好いいぞ~坊主」

「「「 … 」」」


正しいに握り方で素振りする少年を見て、木剣を握り直す3人の子供達。


「せいっ!」

「せいっ! せいっ!」

「やぁー!」

「そこの3人~、オジサンを正しく握り直した木剣で叩くのをやめなさ~い、

 特に女の子~オジサンの膝に的確にダメージを蓄積するのをやめなさ~い、

 オジサンこのままじゃ膝に爆弾抱えちゃうよ~」

「やぁー!」

「ちょっと~? 聞いてる~?」



なんか休日にリビングに寝る父親みたいだな…

声掛けていいんだろうか?



死んだ魚の目で肘枕しながら右足を叩かれるモントに声を掛けるかどうか迷う松本。



まぁ焼き芋冷めちゃうしな



「すみませんモントさん、ちょっとお願いがあるんすけど」

「ん? どうした~坊主? 木剣借りれなかったのか? 棍棒ならあるぞ~ほら」


寝ころびながら棍棒を薦めるモント。


「あ、棍棒は必要なくてですね、ちょっと木の剪定を手伝って欲しいんですよ」

「俺が? 今日は子供達の面倒みてるから忙しいんだよな~…ふぁ~あ」


欠伸をするモント。


「いや、全然忙しそうに見えませんけど…」

「こう見えてオジサン結構気を張ってるんだよ? 危ないことが無いか目を光らせてるんだよ?」

「死んだ魚みたいな目をしてますけど…」

「いつもはもっと光ってるから、今日はたまたまだから」

「そうですかぁ? 酒飲んでる時しか光ってない気がしますけど…朝はいつも同じ目をしてますよ」

「それは二日酔いだな…、何で俺の事知ってるんだ坊主?」

「俺も一応冒険者ですから、たまに見掛けるんですよ」

「なるほどな、小さいのに頑張ってるじゃないの~」

「これデフラ町長から差し入れです」


焼き芋を取り出しモントに渡す。


「あ、そういうこと? デフラの頼みなら仕方ねぇな~、よっこいしょっと」


焼き芋を受け取り起き上がり背伸びをするモント。


「オジサン行っちゃうの?」

「おう、オジサンちょっとやる事ができから」

「焼き芋~」

「いいな~焼き芋」

「オジサン焼き芋ちょ~だい」

「うん? しょうがない子供達だな~焼き芋やるから人をむやみに叩くんじゃないぞ~」

「「「 は~い 」」」

「ありがとうオジサン」

「4人で分けるんだぞ~ケンカするなよ~」


子供に焼き芋を渡し、松本と共に作業場所に向かうモント。


「モントさん俺の焼き芋半分あげますよ」

「お、助かる~実は昼食べてなくてな~、あ、ちょっと待ってくれ、お~いエリスちゃん」


焼き芋片手にローブを羽織る女性に説明しに行くモント。

カルニ軍団のエリスである、遠くに同じくカルニ軍団のシグネの姿がある。

説明を終えたモントが戻って来た。


「エリスさん達も来てたんですね、あれ? 焼き芋もうそんなに食べたんですか?」

「いや、エリスちゃんに半分取られちゃって…とほほ」


小さくなった焼き芋を齧り肩を落とすモント。


「…パンならありますけど後で食べます?」

「助かるよ坊主~、コイツを新調したもんであんまり金が無くてな~」


腰にぶら下げた大きめの鞘を叩くモント。


「何ですかそれ? 剣?」

「ははは、見たことないだろ坊主~、これ曲剣でな~曲がってるせいで鞘がデカいんだよ」


半分くらい剣を引き抜き刀身を見せてくれるモント。


「珍しいですね、しかもそれ巨大モギの素材じゃないですか?」

「お? なんでわかったんだ?」

「俺のナイフと同じ色してますもん、ほら、光の当たり方次第で若干茶色く見えるんですよ」

「ほぉ~確かに、しかし坊主、よく買えたなぁ~もしかしていいとこの子か?」

「ははは! んな訳ないでしょう、モントさんと同じで貧乏人ですよ」

「ほう…坊主もしかして名前はマツモトか?」

「そうですけど、あれ? 名乗りましたっけ?」

「ん? デフラからちょっと聞いててな~、気にしないでくれ」

「そういえばモントさんってデフラ町長の事をデフラって呼びますよね、仲いいんですか?」

「昔っからの付き合いでな、よく悪さしたもんよ~」

「デフラ町長がですか? 想像できないですね」

「いんや、悪さしたのは俺、デフラは昔っから生真面目だったな~」

「容易に想像できますね」


松本の脳裏にデフラに咎められるモントが浮かぶ。





「は~い、危ないですよ~離れて下さい~」

「はぁはぁ、近寄ったら駄目なんだな~」

「さ、作業中ですぞ~」


カラーコーンを並べ人払いをする松本、グラハム、ラインハルト。



「はいはい~、もっと離れてね~そこに近ずくと危ないよ~」

「オジサン、何で大きなパンを齧ってるの?」

「オジサンはパンが好きなの、は~い危ないよ~そこに近寄らないでね~」

「オジサン、パン少し頂戴~」

「ほれ、分けて食べるんたぞ~」


少し離れた位置で子供に囲まれながらフランズパンを齧るモント、

フランズパンを齧るモントに子供達が集まっているが、結果的に人払いが出来ているので問題ない。


「いくでありますよ~、ほぁー! ウィンドエーッジ!」

『 おぉ~ 』

「からのぉ、ほぁー! ウィーンド!」 

『 おぉ~! 』


舞い上がる葉っぱと枝、湧き上がる子供達。

せっせと落ちた葉を集める松本達、子供に囲まれながらパンを齧るモント。


「オジサンは葉っぱ集めなくていいの~?」

「他の人は仕事してるのに、オジサンは何でパン食べてるの?」

「今のオジサンの仕事はここでパンを齧ることなの~、ここを動かないことがオジサンの仕事なの~」

『 えぇ~ずるい! オジサンずるい! 』

「オジサンは怠けものだからね~ズルくていいの」

『 ずる~い! 』


別にサボっているわけでは無いのだが、ぐーたらモント、怠けモント、

子供達にはモントオジサンの仕事は理解できなかったとさ。






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