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150話目【キノコ狩り 3 エリンギ、大地に立つ】

天ぷらに夢中な一同の横でキノコを焼く松本。

焼き上がったキノコを1つは自分の皿に置き、

もう1つは少し冷ましてから隣にいるマッシュバットの渡す。


「ほい、気を付けて食べろよ~」


ペコリと頭を下げ受け取るマッシュバット、キノコをモッチャモッチャしている。

松本もキノコを齧る。


はぁ~小麦と豆ソース旨い、

やっぱり俺って日本人なんだなぁ~



久しぶりの醤油っぽい何かを堪能している。

松本のキノコは小麦と豆のソース味、マッシュバットのキノコは味付けしていない。

隣からの視線を受け次のキノコを渡す。


「ほい、お前良く食べるな~」


キノコを受け取ったマッシュバットは齧ろうとせず松本を見つめている。


「ん? どうした? お腹いっぱいになったか?」


首を横に振るマッシュバット、松本と松本の手を交互に見ている。



ん? …え? 何? 



松本が手を動かすと、同じようにマッシュバットの視線も動く。


「お前、これ興味あるの?」


手に持つ陶器のソース入れの蓋を開け中身を見せる松本。

コクリと頷くマッシュバット。


「え~駄目だって、これ塩分濃いから」


キノコを掲げ抗議するマッシュバット。


「わかったわかった、少しだけだぞ、お前の口には合わないと思うけど…」


自分のキノコに小麦と豆のソースを垂らし、少しだけ千切って渡す松本。

受け取ったマッシュバットは早速モッチャモッチャしている。


「どうなの? 美味しいの?」


モッチャモッチャしていたマッシュバットが動きを止め、ぺっ!とキノコを吐き出した。


「ほら言ったのに、これは人間用なの」


マッシュバットは味付けしていないキノコで口直ししている。





「そいつ、やけに人に慣れてると思ってたけど、マツモトのペットだったんだ」


焼きキノコを齧るシメジが話しかけて来た。


「違うよ、こいつは野生のマッシュバットだよ」

「そんなに松本に慣れてるのに?」


手渡しでキノコを受け取るマッシュバット。


「こいつ俺が今泊ってる宿に住み着いてるんだ、いつも餌をあげてるから慣れてるだけで、

 大家さんも飼ってる訳じゃないらしいから完全に野生のマッシュバットだよ」

「なにそれ? 何で宿に野生のマッシュバットが住んでるのさ?」

「それでは本人に直接聞いてみましょう、何でドーラさんの家に住み着いてるの?」


松本に尋ねられたマッシュバットはキノコをモッチャモッチャしている。、


「…」

「沈黙! それが正しい答えなんだ」

「あっそう…」


松本のキメ顔はあっさり流された。



まぁ、このネタは伝わらんよな…



「いつも売り物にならないキノコを置いとくと食べに来るんだよ」

「そうなんだ、お前ここでキノコ貰ってたのか…」

「特に害がないからいいけどね、どうせ俺達だけじゃ食べきれないし」


人と共存する魔物、それがマッシュバットである。



「この小麦と豆のソース美味しいね、欲しいんだけど普通に売ってるのかな?」

「豆汁なら3シルバーくらいで普通に買えるよ」



豆汁て…

確かに豆の汁っぽいけども…



「ありがとシメジ、買いに行ってみるよ」

「どういたしまして、こちらこそ天ぷら教えてくれてありがとね」

「気に入った?」

「気に入ったよ、凄く美味しかった! マツモトのおかげでもっとキノコを楽しめるよ!」

「そりゃよかった、油を扱うときは危ないから気を付けてね、下手したら火事になるから」

「わかってる、あれみてよ、俺より父さんが気に入ったみたいで、さっきからずっと作ってるんだ」


シメジが指さす先でキノコの天ぷらを揚げる父親、揚げたそばから子供達が摘んで行く。


「商品にする予定のウルダダケも天ぷらにしだしてさ、なんか練習してるみたい」

「へぇ~勉強熱心だね」

「(ふふふふふ…いいぞ、この天ぷらさえあれば…震えて待つがいいキノコ嫌い共…)」



いや…違うな…別な熱意を感じる…

なんちゅう顔で天ぷら作ってんだオッサン…



不敵な笑みを浮かべながら天ぷらを揚げるシメジの父親、到底料理をする人間の顔ではない。




「シメジ、あれがさっき言ってたエリンギだよね?」

「そうそう、ポチャリエリンギ」


ポッチャリエリンギの植木鉢の前にやって来た松本とシメジ。

植木鉢に50センチ位のエリンギが生えている。


「ポッチャリしてて美味しそうでしょ」



ポッチャリっていうか、中年太りのオッサンみたいな形してるな…



うなだれた中年太りのオッサンみたいなエリンギ。


「これ1個の植木鉢に1本しか生えないの?」

「そうそう、1本だけ、わざと植木鉢で育てることで栄養を制限してるんだ、

 ポッチャリエリンギは足が速いから成長し過ぎると大変なんだよ」

「へぇ~、この途中で枝分かれしている部分は大きくならないの?」

「これはならないよ、こんなふうに最初は1本枝分かれして、

 更に成長すると反対側にもう1本枝分かれするんだ、

 2本枝分かれしたら成長し過ぎだから直ぐに収穫しないと駄目」


シメジが指さすエリンギの途中から、1本の小さなエリンギが枝分かれしている。


「2本枝分かれしたら駄目なんだ、じゃあこれ収穫した方がいいんじゃない?」


松本が指さすエリンギの途中から、2本の小さなエリンギが枝分かれしている。


「え!? うわ本当だ、マズイな~、父さーん! エリンギが2本枝分かれしてるー!」


シメジの呼びかけに反応せず、夢中で天ぷらを揚げ続けるシメジの父親。


「おーい父さーん! 聞こえて無いな…ちょっと父さんを呼んでくるよ」

「はいよ~」

「マツモト、悪いんだけどエリンギが逃げないように見張っててくれない?」

「ははは、流石に逃げないって」

「逃げるかもしれないから、取りあえず呼んで来る」

「はい~」


父親を呼びに行くシメジ。



ははは!

足が速いエリンギが逃げるか

昔、親とそんな冗談を言ってた気がするな



「サバは足が速いから、早めに食べないとね~」

「お母さん、サバに足なんてあるの?」

「ふふふ、足が速いってのは傷みやすいって意味よ」

「な~んだ、走って逃げるのかと思った」

「ふふふ、わからないわよ~? 実際に走って逃げるサバがいるかも」

「すみませーん、配達でーす」

「あ、ちょっと受け取ってくるから猫達に取られないように見ててね、実」

「いいよ、走って逃げないように見てるよ」

「ふふふ、そうね」


松本の脳裏に幼少期の記憶が蘇る。



ふふふ、元気にしてるだろうか?

意外とサバを追っかけてたりして…なんてね



その頃、松本の実家では…


「こらーブンちゃん、サバ取ったら駄目だって言ったてしょー!」

「ナァァン!」

「おほ~! ケンコちゃんスリスリして~、カワイイ~」

「お父さん! ケンコちゃんと遊んでないでブンちゃん捕まえて!」

「ナァァン!」

「おほ~!」

「こらーブンちゃん、サバ返しなさーい! ちょっとお父さん!」


サバを咥えたブンちゃん(雄猫)を追いかける母親。

ケンコちゃん(雌猫)を堪能した父親は後程シバかれたらしい。






舞台は戻ってマツモト目線



モソ…



ん? …気のせいか?



モソ…モソ…



んん!? 



3股に分かれたエリンギを凝視する松本、時より何やらモソモソしている。



気のせいじゃない!?

コイツ、動くぞ!



モソソソソソソソソソ…

驚く松本を尻目に動きが激しくなるエリンギ、



えぇ!? ちょ、ちょっと…

これ本当にエリンギ?



モゾッ!

1度動きが止まり、次の瞬間、土から片足を引き抜いた。



…は? あ、足?



モソモソ…

もう片方の足も土から引き抜き、大地に立つエリンギ。

胴体から枝分かれした2本の小さなエリンギ、もとい両手で両足の土を払っている。



はぁぁぁぁ!?

エエエ、エリンギが立ったんですけどぉぉぉ!?



「ちょっ…シメ…」



モッソモッソ、モッソモッソ…

シメジを呼ぼうとした松本が思わず言葉を失う。



なっ…



モッソモッソ、モッソモッソ…

アキレス腱を伸ばし、次に側屈を伸ばすエリンギ。



じゅ、準備運動してる…



モッソ…モッソ…モッ…

窮屈そうに前屈するエリンギ。



お腹がつっかえてる…

まぁポッチャリしてるからな

どれ今のうちに…


「そりゃ!」


松本を躱すエリンギ。



っは、早い!?

足が速いってそういう事?



「おーいシメジ! エリンギが動き出したよー!」

「うそ!? マズイ! いますぐ捕まえてマツモト!」

「了解! そりゃぁぁぁ! っは!?」


再びエリンギに飛び掛かった松本の両手は空を切った。



は、早い!?

こんなオッサンみたいな見た目なのに!



松本に向け片手をクイクイと動かし挑発するエリンギ。


「ほう…よかろう、ならば本気を出すとしよう」


上着を脱ぎエリンギと対峙する松本、心なしが大気が震えている気がする。


「エリンギ、テメーの敗因はたったひとつだ。てめーは俺をおごはぁっ!?」


頭上から落ちて来た水の塊に飲まれる松本、逃走するエリンギ。


「何処狙ってんだよトネル!」

「エリンギが逃げたぞ、追うぜハイモ!」

「すみませんマツモトくん、大丈夫ですかー?」

「だ、だいじょうぶ…」


エリンギを追うゴンタ、ハイモ、トネル、

水魔法の直撃を受けた松本は力なく手を振っている。


「そっちに行きましたよハイモ君!」

「任せろって、真っ二つにしてやるよ、おらぁ!」


ハイモの剣を除けるエリンギ、収穫前のウルダダケが宙を舞う。


「あ、やべ…」

「室内で剣を使うのは駄目ですよハイモ君!」

「分かってるよ! そっち行ったぞゴンタ!」

「おうよ! 見せてやるぜ俺の力を!」


ゴンタの股の下を抜けるエリンギ。


「うぉ!? 早ぇ! コイツ早ぇぞ!」

「お前が遅いんだよゴンター!」

「力任せでは駄目ですよゴンタ君!」

「うるせぇ! 力こそパワーだ! トネルの方に行ったぞ!」

「ふふふ、ついにこの魔法剣士の力を示す時が来たようですね!

 大気に満ちるマナよ! 我が手に集い力となれ! ウィンディーネの名の下に! ウォー…」


右手を上げ、自信の上に水の塊を作るトネル。

エリンギが脇を通り抜けて行った。


「その長ったらしい詠唱なんなんだよ! 恥ずかしいだろ!」

「なにを言うのですハイモ君! 格好よく詠唱してこその魔法ですよ!」

「どうでもいいわ! もうエリンギどっかいったぞトネル!」

「あ、そんな馬鹿な!? ごはぁ!」


頭上から落ちて来た自分の水魔法に飲まれるトネル。 


「カイお兄ちゃんこっちに来た」

「僕達で捕まえよう!」

「あれは普通にやっても捕まえられないよ、2人も僕に作戦があるんだ」


迫りくる白いエリンギ、フォークで迎え撃つラッテオ、カイ、ミリー。


「カイ、ミリー、来るよ!」


身長が高い順に1列に並ぶ3人。



「やぁ!」


先頭のラッテオの横振りフォークを飛んで躱すエリンギ。


「まだまだぁ! でやぁぁ!」


ラッテオの後ろから現れたカイがフォークを突きだす。

ラッテオを踏み台にしてさらに高く飛ぶエリンギ。


「僕を踏み台にした!?」

「いったよミリー! チャンスだ!」


カイの後ろに隠れ待ち構えていたミリー、フォークを持った腕をグルグル回し気合十分の様子。

空中で身動きの取れないエリンギを狙う算段である。


「いぃぃやぁぁぁぁ!」


空中で交差するミリーとエリンギ。

着地したミリーのフォークの先には…小さなエリンギが刺さっていた。


「カイお兄ちゃん、ラッテオ、エリンギ捕まえた!」

「本当だねぇ~、流石ミリー凄いぞ~」

「まぁ、ちょっと小さいけどエリンギには間違いないかな」

「これ食べられる?」

「エリンギだから食べれるよ」

「一応、洗ってから焼いた方がいいんじゃない?」


小さなエリンギは洗った後に網の上に。


「カイお兄ちゃん、もう食べられる?」

「もうちょっと焼いた方がいいなか?」

「トネル君、そっちにいったよー!」


片手を失ったエリンギは元気に逃走中である。




「まったく何年ぶりだ? エリンギを成長させすぎちまうなんてよ、俺としたことがドジ踏んじまったぜ!」

「後で母さんに怒られるよ、父さん」

「なぁに問題ない、きっちり収穫するからな! そうだろシメジ!」

「その通りだよ父さん! キノコはしっかり育てて、きっちり収穫しないとね!」


大きな網を持ったシメジ親子が現れた。


「来るよ父さん!」

「おうよ! キノコ農家の力を見せてやるぜぇぇ!」


迫るエリンギに網を振りかぶる父親。


「ぐがぁ!?」 

「父さん!?」

「こ、腰がががが…」

「父さぁぁぁぁぁん!」


最終兵器シメジ親子、父親のギックリ腰により敗北。 

エリンギは逃走に成功した。


「父さん大丈夫?」

「あだだだだ腰ががあががが…」

「ありゃー外に逃げちゃった、シメジ、多分ギックリ腰だから無理に動かさない方がいいよ」

「マツモト君?」

「楽な姿勢にして安静にするしかないね、お母さん呼んで来てくれる?」

「わかった」

「あだだだ…」


膝を軽く曲げて横向きに寝るシメジの父親。


「どうですか?」

「ちょっと楽になったよ、ありがとうマツモト君」

「無理に動くと悪化しますから、気を付けて下さい」

「動きたくても動けないわな…」


シメジの母親がやって来た。


「あれま、どうしたのお父さん?」

「はは、すまねぇ腰やっちまったみてぇだ…」

「まったく~いい歳して張り切るからよ」

「あだっ!? 腰叩くなって…」

「シメジ、お父さんは私が看てるからウルダダケ収穫して頂戴」

「了解、その様子じゃ暫く父さんは使い物にならなさそうだね」

「すまんなシメジ、お前に全て任せるわ、ったく情けねぇ、歳は取りたくねぇなぁ」

「皆~申し訳ないんだけど、昼からもウルダダケの収穫手伝って貰えないかな?

 父さんが動けなくなっちゃってさ」

『 はい~ 』


ってなわけで、子供達の活躍によりウルダダケを収穫されたのであった。





収穫を終え宿に帰って来た松本、台所で夕飯の支度中である。

トマトジュースをチューチューしながら、台所の脇に置かれた麻袋を見るドーラ。


「何? この大量のキノコ?」

「今日の仕事の報酬です、売り物にならないウルダダケ貰ったんですよ、

 沢山あるんでドーラさんも食べて下さい」

「ありがとう、でもちょっと面倒ね」

「焼くだけでしょ、どんだけ面倒なんですか」

「それ何作ってるの?」

「キノコと肉の炒め物です、肉サンド食べられなかったんで、食材を再利用してます」


肉サンドの肉はキノコと炒める為に細かく切り、パンは表面を焼いてトーストに再利用である。


「それならこのキノコも使ったら?」

「どのキノコですか?」


松本が振り向くと、ドーラの横のマッシュバットがぐったりとしたエリンギを抱えている。


「お前も帰って来てたのか」


エリンギを見ると片手が千切れている。


「これ…お前、あのエリンギを捕まえたんか?」


コクリと頷くマッシュバット。



はぇ~あの素早いエリンギ捕まえたのか

普段はおっとりしてるのに、凄いなマッシュバット



そう、マッシュバットとはキノコを狩る者。

意外と凄いのである。



エリンギを松本に差し出すマッシュバット。


「え? 分けてくれるの?」


コクリ頷くマッシュバット。


「ありがとう、ちょっとだけ貰うよ」


エリンギの胴体を輪切りにして少し貰って返す、

夕飯はウルダダケとエリンギと肉の炒め物になった。




「出来ましたよ~」


パンと3つの皿に盛られるキノコ炒めが松本、ドーラ、マッシュバットの前に配られる。

松本のパンは再利用のトーストである。


「「 いただきま~す 」」

「どうですか?」

「美味しいけど味が薄いわね」

「味が薄いのは仕様です、これ使って下さい」


買って来た豆汁(醤油っぽいヤツ)をドーラに渡す松本。

隣でキノコ炒めをモッチャモッチャするマッシュバット。


「うん美味しい、これくらい塩気が強い方がいいわね」

「美味しいですねぇ、エリンギも食べられて大満足ですよ、お前も美味しいか?」


モチャモチャしながらコクリと頷くマッシュバット。


「そうかそうか、それは良かった」

「どこからエリンギ捕って来たのかしらね?」

「キノコ農家から脱走したエリンギですよ、普段のキノコもそこで貰ってるみたいです」

「へぇ~そうだったの、長年の謎が解けたわ」

「一緒に住んでるんですからもう少し興味持って下さいよ」

「そんなこと言われてもねぇ~勝手に住み着いてるだけだし」


なんて話をしながら、キノコ炒めをおかずに2人と1匹はパンを齧る。



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