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148話目【キノコ狩り 1 キノコとマッシュバット】

148話目【キノコ狩り 1】


早朝、部屋から出寝ぼけた顔で洗面台に向かう松本。

背中に羽の生えた小さな先客が鏡の前で歯を磨いている。


「ふぁ~ぁ、ドーラさんおはよう御座います~」

「おはようマツモト、随分眠そうじゃない」

「いやぁ~ちゃんと寝た筈なんですけどね~、昨日の筋トレ頑張りすぎたかな? ふぁ~~ぁ」


首筋をポリポリ掻きながら欠伸をする松本、

何かに噛まれたような傷があるが気にしてはいけない。


「寝癖付いてるわよ」

「え? あ本当だ、ちょっと洗面台変わって下さい」

「今私が使ってるでしょ」

「失礼します」


踏み台に乗るドーラを持ち上げて横にずらす松本、顔を洗って寝癖を直す。


「相変わらす力が強い子供ね」

「ドーラさん小さいですから」

「本気出すと大きくなるのよ、あと私の宿なんだから私を優先しなさい」

「またそんな子供みたいなこと言って~、それに普通客を優先しませんか?」

「しない」


松本に洗面台を奪われたドーラが歯を磨きながら文句を言っている。


「そもそも宿屋なのになんで客と同じ洗面台使ってるんですか?」

「私の家、兼、宿屋だからよ、最初に共有って言ったでしょ」

「そういう意味だったんですか…それじゃ俺が掃除してるのって

 ドーラさんの家事を手伝ってるだけじゃないですか」

「そうよ、そのかわり宿代安いし、肉もあげてるでしょ」

「確かに、ありがとうございます」


歯を磨きながら会話をする2人、朝は大体いつもこんな感じである。


「に~…よし完璧、先に行ってるから」

「はい~、俺もすぐ行きます~」


歯磨きを終え、尖った八重歯を鏡で確認し台所に向かうドーラ、

松本も歯磨きを終わらせ後を追う。


「毎日毎日、子供のくせにマメねぇ~」

「これやるだけで昼飯代が浮きますからねぇ~稼ぎが少ないなら節約しないと、

 その食パン焼けたら俺の分もお願いします」

「はいはい、私なんて食パン焼くだけでも面倒なのに」

「トースターに入れるだけじゃないですか、ちゃんと2枚焼いて下さいよ」

「はいはい」


フライパンで昼飯用の肉を焼く松本、

トマトジュースをチューチューしながらトースターの食パンを入れ替えるドーラ。

台所もドーラの私生活と共有の為、朝食を共にすることも多い。

トマトジュースのラベルにA型と書いてあるが、毎度お馴染みの為もはや気にしなくなった。

人間とは慣れる生き物である。

※トースターはマナ石で動いています、部屋のライトなども電気ではなくマナ石で動きます。

 田舎のポッポ村には必要性が無いたため普及していない。



手早く昼食用の肉サンドを作りテーブルに座る松本。

食パンを齧るドーラの横にマッシュバットが座っている。



あ、来てるわ

どれ、オジサンが食パンをあげよう



焼けた食パンを差し出すと、手渡しで受け取りモッチャモッチャしている。


「お前も慣れたなぁ~」


しみじみしながら次の食パンをトースターにセットする松本。


「アンタ最近よく来るようになったわね」

「朝は大体きますよね、ドーラさんちゃんと餌あげてるんですか?」

「あげてないわよ、別に飼ってる訳じゃないから、勝手に住み着いてるだけよ」

「お前、野生だったのか…」


椅子に座り食パンをモッチャモッチャするマッシュバット。

もう1枚食パンを差し出すと受け取ってペコリと頭を下げた。



めっちゃ貰い慣れてるやん…

完全に野生失ってるやん…



マッシュバットを見ながら塩食パンを魔法のプロテインで流し込む松本。

毎日同じ朝食である。



「ご馳走様です、それじゃ俺そろそろ出ますので」

「はいはい頑張って、昨日の夜雨降ってたから土の所踏まないようにね、

 ウチの庭水捌け悪いからぬかるんでるわよ」

「分かりました~」


弁当を鞄に入れ出かける松本。


「いや~良く働くわねぇ~、あ、私もトマトジュース在庫無いんだった、

 貰いに行かないといけないけど…もう少ししてからでいいか」


少しゆっくりしてからドーラもトマトジュースを貰いに出かけた。







昨夜の雨が残る石畳を歩きギルドにやって来た松本、掲示板を確認していると肩を叩かれた。


「よ~し、おはようマツモト」

「おはようシメジ、今日は早いんだね」

「早めに来てマツモトを待ってたんだよ」

「ほう、わざわざ朝早く来て俺を待っていたとな?」

「そうなんだよ、マツモト今日暇?」

「まぁ依頼を受けなければ暇だけど」

「だったら今日は依頼は無しにして俺ん家を手伝ってくれない? 報酬はウルダダケ食べ放題!」

「ほう、キノコとな、食べ放題とな」

「そうそうキノコ食べ放題、お土産に持って帰ってもいいよ」

「なるほどね、手伝わせて頂きます」

「助かるよ~、他にも数人呼んでるから10時位に東門に来てよ」

「了解、適当に時間潰しておくよ」




という訳で、東門で筋トレしながら時間を潰す松本。


「ぬあぁぁぁ! ぬりぁぁぁ! ぬぅぅぅん!」


東門の隅で農家の鍬を借りて1000回鍬素振り中である。

松本を見てコソコソ話をする数人の衛兵達。


「(おい、なんだアイツ…さっきから奇声あげて怖ぇよ…)」

「(ほらあれだよ、最近西門で出るって噂の…)」

「(マジかよ、アレが日没と共に現れる鍬素振りマンか…)」

「(子供一人で町の外でか? 物騒だなぁ、誰か光筋教団のこと教えてやれよ…)」

「(知ってるらしいけど、なんでか知らんがどうしても鍬振りたいらしいぜ…)」

「(なんでだよ…誰だそんなこと子供に吹き込んだヤツは…)」

「(知らねぇよ、まともなヤツじゃねぇことは確かだな…)」

「(アイツ、西区の病院裏に出入りしてるらしいぜ…)」

「(マジかよ、アイツも普通じゃねぇな…)」

「(そりゃお前、奇声あげながら鍬素振りヤツが普通な訳ねぇだろ…)」


松本の日課は不審なため、衛兵達の間で話題になっていた。








「あ、マツモト君だ」

「久しぶりだねマツモト君」

「あれ? 久しぶりだねラッテオ、カイ、ミリー」


ラッテオ、カイ、ミリーがやって来た。


「マツモト…何してるの?」

「暇つぶしの筋トレ、日課なのよ、ミリーもやるかい?」

「やらない」

「あそう…」


そっけない返答のミリー。


「もしかしてマツモト君もキノコ狩り?」

「そうそう、シメジ君に頼まれてね、ウルダダケ食べ放題に釣られました」

「あはは、僕達も釣られちゃったよ、美味しいんだよね」

「持って帰ってもいいって言うから、お母さんとお父さんにも食べさせてあげようかと思って」

「いや~親孝行だねぇカイ、若いのに偉いよ~感心感心」

「同い年だよねマツモト君…」


鍬を片付けながら感心するジジモト。


「パン頂戴マツモト」

「あ、はいはい、ちょっと待っててミリー」


おもむろに物陰に走って行き、すぐさまフランスパンを持って帰って来る松本。


「(おい今度はフランズパン持って来たぞ…)」

「(何処から持って来たんだ?)」

「(何処って、そりゃあっちに置いてたんだろ…)」

「(あんなデカいフランスパンを丸々1本持ち歩いてるのか?)」

「(やっぱり普通じゃねぇな…)」


不審な行動をとり続ける松本を警戒する衛兵達。

ウルダは今日も平和である。



「はいミリー」

「ありがとうマツモト、何でウルダにいるの?」

「あぁ、生活費稼ぐために冒険者になったんだよ」

「へぇ~、パン美味しっ…」



あんまり興味なさそうだな…

早速パン千切って食べてるし

っていうか、なんかミリー太くない?



「マツモト君冒険者になったんだ」

「そうそう、洋服とか買いたくてね、数日前から冒険者やってるの、結構面白いよ、2人も一緒にどう?」

「う~ん、僕はまだいいかな」

「僕も学校あるし辞めとくよ」

「残念、今日は学校は?」

「今日は休みなんだ、ヒヨコ杯の練習に行こうとしたら誘われちゃって」

「なるほどね、…ところでカイ、あのさ…ミリーちょっと太った?」

「ゴンタにオヤツ代取られなくなってから好きな物買えるようになって…

 多分、今まで我慢してた反動だと思う…」

「な、なるほど…」


コソコソと話す松本とカイ。

オヤツを自由に買えるようになったミリー、7歳にして横への成長期である。





「皆そろってるね、早速案内するよ、付いてきて」

「「「「 はい~ 」」」」


迎えに来たシメジに付いて行く4人、柵で囲まれた大きな木造の建物に案内された。


「ここが俺の家の養殖所、この建物の中でキノコを育ててるんだ」

「「「「 へぇ~ 」」」」


中に入ると奥の方に大きな丸太が並べられており、表面にキノコが生えている。

建物の入り口側には植木鉢が並べられており、1つの植木鉢に太めのキノコが1本生えている。


「おうシメジ、その子達も手伝いか?」


植木鉢に水を撒くオジサンが話しかけて来た。


「そうだよ、左からマツモト、ラッテオ、カイ、ミリー」

「それじゃ、昼はお前のチームと合わせて8人だな、準備は俺がやっとくわ」

「まかせるよ、父さん籠は?」

「それ使ってくれ、いや~助かるよ君達、

 昨日雨が降ったせいでウルダダケが急に成長しちまってね、

 成長し過ぎると売り物にならなくなっちまうから、出来る限り今日中に収穫したいんだ」

「「「「 なるほど~ 」」」」

「昼は好きなだけ食べていいからな、頑張ってキノコ収穫してくれよ!」

「「「「 頑張ります~ 」」」」


シメジの父親からザックリした経緯を説明される4人。


「そんじゃこれ、収穫したウルダダケ入れる籠ね、あっちで細かい説明するから付いて来て」

「「「「 はい~ 」」」」


シメジから収穫用の籠を受け取り後に続く。

ウルダダケが生えた丸太の前で説明を受ける。


「この傘が5センチ位で丸いヤツが収穫して欲しいウルダダケ、商品になるヤツね。

 そんでこっちの傘が平たくなったヤツは成長し過ぎたウルダダケ、売れないヤツ」

「食べられなくなるの?」

「いや、食べられるし味も変わらないよ、単純に見た目が違うだけ、

 ウルダダケって丸いイメージが付いててさ、

 傘が開いちゃうと売り物にならなくなるんだよね、変な話だけど」

「「「「 へぇ~ 」」」」

「ということで、食べ放題なのはこっちの傘が開いたヤツってわけ、

 味は変わらず美味しいから心配しないでよ、

 俺はあっちでチームの皆と収穫するから、この辺から適当に頼むよ~」

「「「「 はい~ 」」」」


籠を持って去ってゆくシメジ、ゴンタ、ハイモ、トネルも来ているらしい。



「それじゃ俺達も始めようか」

「了解、マツモト君やった事あるの?」

「いや初めて、ラッテオは?」

「僕もやったことないんだよね、カイは?」

「僕も初めてだよ、取りあえず…」

「ん、やぁっ!」


フランスパン片手にウルダダケを掴みスポンと引っこ抜くミリー。


「キノコ採れた!」

「「「 おぉ~ 」」」


ウルダダケを掲げるミリー、拍手する3人。


「凄いぞミリー、記念すべき初キノコだ!」

「へぇ~簡単に取れるんだね」

「この調子でドンドン収穫しよう、…の前にパン邪魔じゃないミリー?」

「うん、ちょっと邪魔かも、カイお兄ちゃん鞄に入れて」

「わかった」


ミリーの背負った鞄に食べかけのフランズパンを突っ込むカイ、


「流石にはみ出るね…」

「ミリーの背中からパンが生えてるみたいだ…」

「まぁ、邪魔にならなければいいかな…」

「邪魔にならないから大丈夫、ありがとうカイお兄ちゃん」


可動域を確認するように腕をグルグル回すミリー、フランパンは昼食までお預けとなった。


「カイ、マツモト君、根元を掴んで引っ張ると簡単に取れるよ」

「あ本当だ、おぉ~気持ちいい~病みつきになりそう」

「早く食べたい~キノコ楽しみ」

「お昼になるまで我慢してミリー」



嬉々としてキノコを毟り、アッとゆう間に2時間後。


「沢山集まったねぇ~」

「籠がキノコでいっぱいだよ、結構重くなった」

「お~い皆~! 昼飯の準備が出来たぞ~!」

『 は~い 』


シメジの父親の呼びかけにより籠を持った子供達が集まって来た。


「ふふふ、皆さん中々の収穫量ですね、まぁここにいるのはヒヨコ杯で名の通った強者達、

 当然と言えば当然ですか…この魔法剣士トネルの働きは一味違いますよ!」


痛いポーズで自分の籠をアピールするトネル。


「俺と大して変わんねぇだろ、そんなことより早いとこ飯にしようぜ」

「ゴンタの方がちょっと多い気がするね」

「まぁ俺身長高いからな、お前達が届かない場所のキノコ採れるからよ」


チームメイトから否定される悲しきトネル、痛いポーズが哀愁を誘う。


「カイ、収穫したキノコはここに纏めるみたいだよ」

「すごいや、ミリー見て、キノコの山だよ」

「すごい…一生食べきれない…」


トネルを気にも留めず、収穫したキノコを大きな箱に纏めるカイ達。

一方松本は皆から離れた場所で大きなコウモリと対峙していた。



マッシュバットだ、最近よく見るなぁ

近くに洞窟でもあるのかね?

どれ、オジサンが1つ採ってあげよう



傘の開いたウルダダケを毟り差し出す松本、、

手から直接受け取るマッシュバット、ペコリと頭を下げた。



いやお前かい!

ここで餌貰ってたのか…



松本の部屋に同居しているマッシュバットだった。




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