145話目【南西のピーマンとコカトリス】
ウルダの南門の傍で焚火を囲む4人の冒険者、
松本とラストリベリオンの3人が昼食を取っている。
「やや、今日のパンはしっかりと具がはいっているであります」
「ふふふ、人参の葉の炒め物と謎のレバー焼きです!
新しい宿は台所が使えるので作って来たんですよ~」
パンを開きラインハルトに具を見せつける松本。
農家に貰った人参の葉っぱと、ドーラに貰ったレバー、何のレバーなのかは謎である。
どっちゃり肉サンドを齧るラストリベリオン。
ギルバートはノーマル、ラインハルトはトマト入り、グラハムは肉マシマシ。
「はぁはぁ、いつもは具が無かったんだな?」
「この間一緒に依頼をこなした際は、食パンに塩胡椒を振っていたであります」
「そ、それはあまりにも質素でありますな…」
「はぁはぁ、お腹膨らまないんだな、ちゃんと食べないと成長出来ないんだな」
「俺は好きなんですけどね塩胡椒パン、美味しいんですよ?」
松本にとっては割とメジャーな食べ物なのだが、
なかなか大衆に受け入れられない塩胡椒パン、もとい塩パン。
「ギルバートさんに気を遣わせてしまったようで、どちゃり肉サンドのどっちゃりを分けて頂きました」
「さ、流石はギルバート氏、徳が高い行いですな!」
「いやいや、どっちゃり肉サンドのどっちゃりを分けるなど実に容易いこと、
あの状況であれば小生でなくとも同じ選択するであります。
この程度で徳を積むなどおこがましいであります」
「はぁはぁ、そんなことないんだな、吾輩には真似できないんだな」
「う、うむ、誉れでありますぞ!」
「いやいや…」
讃えるラインハルトとグラハム、謙遜のギルバート。
焚火に掛けた鍋がコポコポと音を立てている。
「因みに2個しかない焼き芋も分けて貰いました」
「ほ、誉れですぞ!」
「流石ギルバート氏なんだな!」
「いやいやいやいや…」
讃える者2人、孫謙する者1人、お湯が沸くのを待つ者1人。
「ところでマツモト氏、新しい宿は何処にしたのでありますか?」
「西区の病院裏の墓地みたいな宿です」
「「「 えぇ… 」」」
怪訝な顔をするラストリベリオン
「そんな顔しないで下さいよ、見た目はアレですけどいい宿ですよ、
風呂トイレ台所付きですし、貸し切りだから気を使わなくていいし、
なんてったって部屋で筋トレし放題ですからね」
「いや~…小生、子供の頃のトラウマが…肝試しを行ったのでありますが、
病院の裏というのがなんとも恐ろしくて…ギャン泣きした覚えがあるであります…」
「せ、拙者も右に同じですぞ…」
「はぁはぁ、右に同じなんだな…入口から女の人が出て来て失神したんだな…」
子供達の肝試しスポットになっているのか…
「建物の中も結構なものですよ、髑髏とか棺桶とかあります、
部屋の床には魔法陣もありますし、あ、そうそう、
コウモリの飾りがあると思ったら本物のマッシュバットでした」
「「「 えぇ… 」」」
ドン引きのラストリベリオン、ラインハルトのトマトが落ちた。
「なんとも落ち着かない部屋でありますな…」
「そうでもないですよ、住めば都、特に気にならなくなります、
マッシュバットが欲しがるんでパンあげてますよ」
「な、なんとも肝が据わっておりますなマツモト氏…」
「(マッシュバットってパン食べるんだな、キノコじゃないんだな)」
「それに店主の女性、ドーラさんと言うんですけど、何故か毎日お肉くれるんですよ、
1月3ゴールドで泊れてお肉も貰えて大助かりです、浮いたお金でこの贅沢ですねぇ」
粉末を入れたコップにお湯を注ぐ松本、
ポッポ村で愛用していた粉末スープである。
「いや~いつもは水魔法がぶ飲みでしたからね、たまには温かい物が欲しくなりまして、
皆さんもどうですか?」
「粉末スープでありますか、ぜっかくなので頂くのであります」
「か、かたじけない!」
「はぁはぁ、いい匂いなんだな、頂くんだな」
各々のコップに粉末を入れお湯を注ぐ、完成した粉末スープを口に含む4人。
『 あったまるぅ~ 』
ほっこりする4人、寒空の下で飲むスープは格別である。
「お~い! 皆来てみろ! 南西のピーマンがコカトリスを討伐したぞー!」
「本当? 凄いわねー!」
「南西のピーマンってBランクのチームだろ? よく討伐出来たなぁ」
城門の前に冒険者達が集まり騒いでいる。
「なんですか? 南西のピーマンって?」
「べ、ベルク氏がリーダーの冒険者チームですな」
「約2年でBランクになったウルダで一番勢いのあるでチームでありあます。
ベルク氏、エント氏、ホルン氏、シシ氏の4人チームで、全員Bランクであります」
「はぁはぁ、コカトリスを討伐するなんて凄いんだな、凄く危険で美味しい魔物なんだな」
「コカトリス美味しいですよね」
へぇ~2年でBランクって凄いな
どんな人達なんだろ?
「俺コカトリス見たことないのでちょっと行ってきます」
「小生も行くのであります」
「そ、それでは拙者も」
「はぁはぁ、みんなで行くんだな」
焚火を消し、コカトリスを見に行く松本達。
4人の冒険者が野次馬に囲まれており、傷だらけの防具が激戦を物語っている。
先頭の冒険者が2本角の兜を外すと周りの野次馬達が声を掛ける。
「ついにコカトリスと討伐か! やったなベルグ!」
「いよいよアクラスに追いついて来たな! そろそろAランクに挑戦するのか?」
「いや、まだだな、ムーンベアーもまだ討伐してねぇからよ、それに俺だけじゃ何も出来ねぇ、
こいつらが居てくれねぇとな」
「「「 どうも~ 」」」
後ろの指さすベルク、コカトリスが乗った台車に腰かけた3人が手を振っている。
「結構ギリギリだったからな、もっと腕を磨かねぇと」
「なんだえらく消極的だな、大丈夫だって、コカトリスを討伐したんだ、お前達ならAランクになれるって!」
「そうそう、一人じゃ無理なのは皆同じだろ」
「いつもの勢いはどうしたんだ? 悪い物でも食ったか?」
『 はははははは! 』
笑いう野次馬達、バツの悪そうなベルク。
「ベルクはね~ウルダ祭の事を気にしてるのさ~」
「黙ってろシシ」
「はいはい~」
ヘラヘラと笑うシシに合わせてエントとホルンもおどけて見せる。
「ウルダ祭って前回のアレか? 気にすんなよベルク、ありゃ一種のバケモンだ」
「そうだぜ、アクラスを子供扱いするようなヤツだぞ? 負けたからって誰もお前の実力を否定しねぇよ」
「Sランク冒険者とやり合うようなヤツは普通じゃねぇよ」
「だからそんなんじゃねぇって、…まったくよ~」
後頭部をボリボリしながらバツの悪そうなベルク。
「気付かされただけだよ、勢いだけじゃ駄目だってな、ったく…お前のせいだそシシ」
兜をシシに放り投げるベルク。
「おっと、悪い悪い、後でピーマンやるからさ」
「俺ん家のピーマンの方が旨めぇ」
「いや、俺ん家の…」
「待て待てウチの…」
ピーマン戦争中の南西のビーマン。
チームメンバー全員がピーマン農家の息子の為、自分の家のピーマンに誇りを持っている。
基本的に仲良しだが、ちょくちょくビーマン戦争が勃発する。
あの人がベルクだったのか
ウルダ祭でバトーさんにボコボコにされた人だな
しかし、元ギルドメンバーなのに化け物扱いされるとは…
悲しきモンスター達もいたもんだな
ピーマン戦争を遠目に見る松本の中で、バトーとミーシャが筋肉アピールしている。
しかし、これがコカトリスか…
デカいニワトリを想像してたのに全然違うやん…
何この鉤爪!? 怖っ! 殆ど恐竜やん! 恐ろしっ!
こんなので攻撃されたら死ぬな…
それに尻尾に蛇ついてるし…なんで?
「いや~大きいでありますな~」
「はぁはぁ、吾輩達には討伐なんて無理なんだな、食べる専門なんだな」
「さ、流石は南西のピーマンの方々、素晴らしき武勇ですな!」
「俺もいつかは討伐出来るようになるんですかねぇ」
「それは努力と仲間次第かな」
『 ん? 』
コカトリスを見学する松本達の会話に爽やかな口調の男性が入って来た。
装飾の施されたフルプレートの防具を身に着け、槍を持っている。
「こんにちは、ラストリベリオンの皆さん、そしてマツモト君」
『 こんにちは~ 』
あれ? この人確か…
「お、お久しぶりですなアクラス氏」
「お久しぶりです、なかなか話をする機会がありませんね」
「アクラス氏はウルダを代表する冒険者でありますから、
小生達のような下々とゆっくり話をする時間などなくて当然であります」
「ははは、そんなに忙しくはないんですけどね、討伐依頼を受けると町に帰れない事も多くて…
3日ぶりに帰ってきましたよ」
「はぁはぁ、なんの討伐依頼だったんだな?」
「ムーンベアーです」
「おぉそれはそれは、流石はアクラス氏でありますな」
「はぁはぁ、冬場のムーンベアーは獲物が減って狂暴になるんだな、危ないんだな」
「私達も出来れば受けたくなかったのですが、カルニギルド長に頼まれまして仕方なく…
ここ数日、街道での目撃情報が多発していましたし、怪我人が出る前に討伐出来て良かったです」
「そ、その献身的な働き、拙者、感動致しましたぞ!」
爽やかなアクラスに対し、暑苦しいラインハルト。
「ははは、献身的なのは私達ではなくラストリベリオンの皆さんですよ、
いつも新人を支えて頂いてありがとう御座います、カルニギルド長も感謝されていましたよ」
「「「 いやいやいやいや、そんなことは… 」」」
アクラスの言葉を否定し手を振りるラストリベリオン。
凄く嬉しそうだなぁ~
顔が緩み感情が漏れ出ている。
「アクラスさんと俺って面識ないですよね? 何で名前知ってるんですか?」
「カルニギルド長に聞いてね、バトーさんは元気かい?」
「あぁ~それで、元気ですよ、今頃魚でも食べてるんじゃないかな?」
「魚? ポッポ村では魚が捕れるのかい?」
その頃バトーは、
「焼けましたー! 焼けましたよー! 私の初めてのパン! どうですか?」
「うん旨い、初めてとは思えない出来だな」
「上出来だよカテリアちゃん、あとでカールさんにも持って行くよ」
「ありがとう御座いますバトーさん、フィセルさん!」
「僕はもう少し柔らかいパンの方が好きかな、マツモトさんのパンはフカフカだったよ」
「そのうちフカフカのパンが焼けるようになるの! 贅沢言わないでよマルメロ、
あ、確かにちょっと固い気がする…」
「それでも美味しいわよカテリア、お母さん感激よ」
獣人の里でカテリアのパンを食べていた。
場面は戻ってウルダ。
松本とアクラスが会話している。
「マツモト君はコカトリスを見るのは初めてかい?」
「初めてです、食べたことはあるんですけどね」
「ははは、コカトリスは美味しいからね」
「想像してたより実物は凄いですね、鉤爪は鋭いし、この蛇の頭は尻尾ですか?」
コカトリスの尻尾を触ろうとする松本。
「あ、マツモト君触れない方が…」
「触るな! 離れろ馬鹿野郎!」
「ひぇっ!? す、すみません…」
凄い剣幕で走って来たベルクに驚き尻もちをつく松本。
「大丈夫か坊主、怒鳴って悪かったな」
「い、いえ…すみませんでした」
「コイツの尻尾には毒があるからよ、まだ毒抜きしてねぇから迂闊に近寄らねぇ方がいいぜ、
坊主興味あるのか?」
「え? あ、はい見たこと無いもので」
「ほら、これだ、傷口に入ったり、吸い込んだりしねぇ限りは安全だからよ、気を付けな」
剣で蛇の上顎を捲り牙を見せてくれるベルク、
牙の先から液体が滴っている。
「ありがとうございます、気を付けます」
「おう、いいってことよ」
地面に横渡る松本の頭をポンポンするベルク、
口は悪いが面倒見は良いらしい。
「アクラス、あんたも止めろよ」
「すまない、てっきり知っているものと油断していた」
「子供ってのは好奇心旺盛なんだ、油断するなよな」
「以後気を付けるよ」
ベルクに咎められるアクラス、年下からの指摘を真摯に受け止める姿勢が見て取れる。
立ち去ろうとするベルクに右手を差し出すアクラス。
「ベルク、いや、南西のピーマンの皆さん、コカトリス討伐おめでとう」
「なんだよ改まって、あんたのチームも討伐出来るだろ」
「私達は7年掛かったからね、2年でコカトリスを討伐するのは凄いことだ」
「そんなもん冒険者になった歳によるだろ、あてになんねぇよ」
「そういう態度は良くないんじゃないかな~」
「嬉しいくせに、素直になろうぜ~ベルク」
「Aランク冒険者様に対して生意気だぞ~」
悪態を付くベルクの後ろでシシ、ホルン、エントが茶化している。
「うるせぇぞお前等! でもまぁ、先輩冒険者からの賛辞は素直に受け取っとくべきだな、
ありがとよアクラス」
アクラスの右手を取るベルク、野次馬達が拍手を送る。
「なになに? 嬉しそうだねぇベルク君」
「打倒アクラスじゃなかったっけ?」
「アクラスを倒してウルダで一番の冒険者になるんじゃなかったっけぇ~?」
ベルクに絡みつき茶化す3人、お手本のような掌返しである。
「うるせぇな! お前等どっちなんだよ!」
「「「 ぎゃははははは! 」」」
「おら! 離れろ!」
「「「 ぐえっ!? 」」」
ベルクに振り程かれ尻もちをつく3人。
「遊んでねぇでとっとと解体すんぞ」
「「「 はいよ~ 」」」
「私達暇だから手伝だおうか?」
「助かるわ」
「お~い皆~行くわよ~」
『 はい~ 』
数人の野次馬冒険者と共に台車を押して行く南西のピーマン。
「討伐した魔物って自分達で解体するんですね」
「放置する訳にもいかないからね、それに解体して素材を売れば結構なお金になるんだ、
討伐依頼の報酬よりも高くなることもよくあるよ」
「へぇ~、そこまで合わせて討伐依頼なんですね」
「あまり傷を付けずに討伐出来れば、その分素材も高く売れる、難しいけどね」
地面に寝転がる松本の質問にアクラスが答えてくれる。
「討伐依頼を受けたことのない小生には未知の世界であります」
「せ、拙者、血を見るのが苦手ですからな、解体は作業は無理ですぞ」
「はぁはぁ、解体後の肉を食べるのが一番いいんだな」
「俺も解体はちょっと苦手ですねぇ~バトーさん達は普通にやってましたけど」
討伐依頼に向かない松本とラストリベリオン。
「さて、そろそろ休憩はやめて依頼を再開するのであります」
「せ、拙者は討伐依頼より補助依頼の方が性にあってますな」
「はぁはぁ、補助依頼でお金を稼いでコカトリスを食べるんだな」
歩き出すラストリベリオン。
地面に寝転がる松本にアクラスが声を掛ける。
「マツモト君は行かなくていいのかい?」
「いやそれがですね、なんか体が動かないんですよ、アクラスさん起こしてもらってもいいですか?」
「ん?」
アクラスが松本の上半身を起こす。
「あ、やっぱダメだ」
ふにゃりと力無く倒れ込む松本。
アクラスが松本の指先にある傷を見ている。
「マツモト君、もしかしてコカトリスの牙に触れたかい?」
「やっぱりですか? 実はさっき尻もち着いた時に指先が当たった気がするんですよねぇ」
「ふむ、指先を切った時に毒が回ったみたいだ」
「これ、死ぬやつですか?」
「いや、コカトリスの毒は体がマヒするだけで死ぬことはないよ、
何もしなくても2~3時間で動けるようになる、ただ実戦だと死ぬか大怪我するね、
コカトリスは尻尾の毒で弱らせた獲物を狩る習性があるんだ」
「勉強になりますぅ~」
松本、午後の依頼はコカトリスの毒により病欠。




