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137話目【冒険者になろう!】

時刻は朝8時、ギルド外の掲示板には若手冒険者達が群がっている。


「うぅぅ…さむさむ…」

「今日も寒いわ~、早く温かくならないかしら…」

「私冬嫌い…冬だけ冒険者やめようかな…」

「お金があるならそれもいいかもね~」


掲示板から少し離れた位置に身を縮めて震える2人の女性冒険者、

男性冒険者が息を切らせて走って来た。


「はぁはぁ…すまねぇ、遅れちまった」

「おそい! いい依頼取られちゃうでしょ!」

「ホント済まねぇ…」

「それじゃ、揃ったことだし依頼を見つけましょうか」

「「 はい~ 」」

「ネズミ退治は昨日やったから無しね」

「「 はい~ 」」


掲示板の人だかりに混ざる10代の男女3人組の駆け出し冒険者チーム。

その姿を斜め向かいの窓から見下ろす少年が1人。

左手のフランスパン(味付け無し)を齧り、右手のプロテインで流し込む。



俺もそろそろ行くかな

今日こそは冒険者登録して冒険者デビューするのだ!




そう、前日にいろいろあって冒険者になり損ねた松本である。

因みに、悲しみに暮れた前日の夕食はドーナツと饅頭だった、少ししょっぱかったそうな。



「これ今日の分です」

「はいはい1ゴールドね、それじゃお釣りの70シルバー」


宿屋のフロントで当日分の宿泊費を支払う、

1泊30シルバーだがシルバー硬貨が無いのでゴールド硬貨を1枚手渡す、

銀色の少し大きめの硬貨が7枚帰って来た。


1枚で10シルバーの価値がある10シルバー硬貨である。

ブロンズ硬貨、シルバー硬貨、ゴールド硬貨にはそれぞれ10枚分価値の硬貨が存在する、

ちょっと大きい(500円玉くらい)。

数十枚も硬貨持ち歩くのは大変なので有難い。




という訳で、ギルドにやってきた松本。

受付カウンターは依頼を受ける冒険者達で賑わっている。


「これ受けたいんですけど?」

「紋章の提示をお願いします」


「今日はこの依頼をお願いしまーす!」

「その依頼の推奨ランクはBランク以上です、Dランクの方が受けると多分死にますけど?」

「ひぇっ!?」



ひぇ~朝はやっぱり人が多いなぁ

これ登録できるのか?



「お願いしまーす」


「これ俺達いけると思います?」


「ハムバターサント2つ下さーい!」


10分ほど待つが一向に空く気配のないカウンター、

壁の一部と化した松本の前をハムバターサンドが通り過ぎていく。



これは暫く無理だな…

他の時間はそうでもないのに朝の混雑は凄いなぁ~

生前の通勤ラッシュを思い出すわ

でも俺と同じくらいの子供はいないな?

若くても10代後半って感じだ



この世界の成人は12歳だが、12歳はまだまだ子供。

保護者の管理下の為、朝早くに来ることは殆どない

子供の冒険者がやって来るのは大体10時前後である。


「おやマツモト氏? 子供なのに早いでありますな」

「あ、ギルバートさん、おはようございます」

「せ、拙者達もおりますぞ」

「はぁはぁ、昨日ぶりなんだな」

「ラインハルトさんとグラハムさんも、おはようございます」

「おはようであります」

「お、おはようでありますぞ」

「はぁはぁ、おはようなんだな」


昨日ぶりのラストリベリオンが話しかけて来た。


「皆さんはもう依頼を受けたんですか?」

「う、受けましたぞ、マツモト氏も依頼を受けたのですかな?」

「俺はまだですね、結局昨日登録できなくて、受付カウンターが開くのを待ってるんです」


カウンターを指さす松本。


「なるほど、それであれば臨時カウンターを使えば良いのであります」

「そんなのあるんですか?」

「はぁはぁ、冒険者登録や問い合わせ専用なんだな、今みたいに受付カウンターが使えない時に開けてくれるんだな」

「へぇ~」

「案内するであります」

「助かります~」


賑わっているカウンター列の一番端、壁際のカーテン閉ざされた受付のベルを鳴らすギルバート。


「はいはい、ちょっと待って下さいね~、よいしょっと」


声が聞こえカーテンが開くとカルニが現れた。


「あらマツモト君、それにラストリベリオンの皆さん、どうしました?」

「あれ? ギルド長のカルニさんが対応するんですか?」

「忙しい時は私も対応するわ、基本は裏方なんだけどね」

「カルニ神、マツモト氏の冒険者登録をして欲しいのであります」

「あぁ~昨日登録出来なくて泣いてたって聞いたわよマツモト君」

「あ…それは置いといてください、只々悲しくてですね…」


少し意地の悪い顔をするカルニ、目を逸らす松本。


「マツモト君、この人達と知り合いだったの?」

「昨日知り合いまして、ドーナツを一緒に食べた仲です」

「そういえばオリーが言ってたわね」

「カウンターが開くのを待ってたら、ここを教えてもらいまして」

「なるほどね、ハルバートさん、ラインハルトさん、グラハムさん、いつもありがとう御座います」

「はぁはぁ、困ってたら助けるのは当然なんだな!」

「お、お役に立てて光栄ですぞ!」

「ありがたき幸せであります!」


カルニからお礼を言われて実に嬉しそうなラストリベリオン。


「それでは小生達は失礼するであります」

「マ、マツモト氏、拙者達は依頼に行って来ますぞ」

「はぁはぁ、また今度なんだな~」

「「 ありがとう御座いました~ 」」


いい顔をしたラストリベリオンは依頼へと向かった。


「あの人達、いつも困ってる新人の面倒を見てくれるの、

 Dランクだけどベテランだから困ったことがあれば聞いてみるといいわよ」

「そうします」

「真面目だし、人気の無い依頼を受けてくれて有難いんだけど、

 私をカルニ神って呼ぶのだけは辞めて欲しいのよねぇ~」

「一応敬称らしいですけど?」

「それは知ってるんだけど…う~ん…」


ギルド長としては有難い存在だが、カルニとしてはちょっと違うようだ。


「まぁ、ちゃっちゃと登録の手続きしましょうかね~、はいお金出して」

「あ、はい」



明るいカツアゲみたいだな…



ナーン貝の財布からゴールド硬貨を2枚取り出しカウンターに置く松本。

カルニが回収し、棚の下をゴソゴソしている。


「ちゃんと売れたみたいね」

「予想より高く売れました、なんか魔集石っていう珍しい素材だったみたいで」

「魔集石? 聞いたことないけど…よいしょ、どんな石?」


カウンターに箱を置くカルニ、中身を取り出し並べていく。


「魔法自体が詰まった石の事らしいですよ、まぁ今回は貝殻でしたけど、マナを流すと魔法が発動します」

「へぇ~、そんなのあるの、よく見つけたわねぇ」

「見つけたんじゃなくて作ったんだと思いますけどね、レム様が磨いた貝殻ですから

 詰まってる魔法も光魔法でしたし」

「じゃレム様に頼めばいっぱい作れるってこと?」

「多分そうですね、まぁレム様に数時間貝殻を磨き続けるように頼めればですけど」

「そんな人いないでしょ…恐れ多い…」

「ですよねぇ~」


精霊様にお茶代を稼がせる蛮行を働くのは、この世で松本だけである。


「それでは説明を始めます」

「よろしくお願いします」


説明用のボードを使いカルニが説明してくれる。


「冒険者のランクは5段階、一番下がDランクでC、B、A、そして一番上はSランク。

 Aランクまでは各地のギルド内で昇級出来るけど、Sランクになるにはギルド長の推薦状を貰って

 ギルド本部で昇級試験を受ける必要がある」

「ふむふむ、Aランクまでは試験は無いんですか?」

「あるわよ」


ボードを裏返すカルニ。


「依頼の種類は基本的に3つ、指定の魔物を討伐する『討伐依頼』、

 指定の物を納品する『納品依頼』、困った人の手伝いをする『補助依頼』。

 3種類の依頼を一定数こなした後に、指定の目標を達成すると昇級できるわ。

 1人で試験を受けないといけないからチームじゃなくて本人の実力が必要ね。

 監督官が付くから不正も無理」

「なるほど」



得意分野だけやってても駄目って事ね

討伐依頼なんて子供じゃ無理だし、俺も暫くDランクだな



「次は紋章ね、ランクによって見た目が異なるわ」


カウンターに並んだ紋章のサンプルを指さすカルニ。

4つの色が異なる金属プレートと革のプレートが置いてある。


白金プラチナがSランク、金がA、銀がB、胴がC、革がDよ」

「Dランクは革素材ですか、1ゴールドってちょっと高くないですか?」

「何か問題でも?」

「いや、素材が安いのにボッタクr…」

「マツモト君、何か問題でも?」


圧の強い笑顔で迫るカルニ。


「…何も問題ありませんギルド長」

「よろしい」



絶対ボッタクリだよ

この革切れで1ゴールドは、絶対ボッタクリだよぉぉぉ!



「違うプレートになるためにも頑張ってランクを上げて頂戴」

「頑張らせて頂きますギルド長」


※Dランク用のプレートで浮いたお金はギルドの活動資金に使われています。


「首に掛けるアクセサリー型とベルト類で体に巻くワッペン型があるけど、どっちがいい?」


カウンターに2つの紋章を並べる、

1つは穴が1つ開いたアクセサリー型、紐に通して首に掛けたりするタイプ。

もう1つは紋章の両端に長四角の穴が2つ開いており、自分で用意したベルトで好きなところに巻くタイプ。


「無くしたら再発行に1ゴールド必要なんですよね?」

「そうよ、依頼中に無くす人も多いわね」

「じゃぁアクセサリー型にします」

「そういわずにワッペン型にしない? ベルトおまけするから」

「新人相手にそんなところで利益出そうとしないでくださいよ…」

「ふふふ、冗談よ、それじゃ準備するからちょっと待ってね」


首に付けるアクセサリー型より、腕や頭に付けるワッペン型の方が紛失率が高い。

調子に乗ってファッション感覚で身に着けると大体紛失するのだ。

※Dランク用のプレートで浮いたお金はギルドの活動資金に使われています。

 カルニが私用に使うことはありませんのでご安心下さい



「はいマツモト君、表に名前、裏に所属ギルドの紋章が刻印されてるわ、

 冒険者としての身分証明になるから人に貸したりしたら駄目よ」

「了解です、これ今付けてるアクセサリーと纏めちゃってもいいですかね?」

「別に構わないわよ、皆やってるわ」


ムーンベアーの爪の首飾りと纏め首に掛ける松本。


「おめでとう、これでマツモト君も正式に冒険者の仲間入りね、ようこそ我がギルドへ」


拍手で迎えるカルニ、紋章を首に掛けただけなのだが高揚感を覚える。


「よろしくお願いしますカルニギルド長」

「はいよろしく、後は掲示板から好きな依頼書を取って受付カウンターに持って行けば

 適正な依頼かどうかを判断してくれるわ、外の掲示板の方が簡単な依頼が多いわよ」

「分かりました、では早速」

「マツモト君、このあと暇でしょ?」

「え? いや今から依頼を受けますけど」

「ってことは決まった予定は無いのよね、プリモハさん達が10時に出発する予定なの、

 一緒に見送りに行きましょう」

「あぁ、そういうことですか、わかりました」

「もう少ししたらここも落ち着くから依頼でも見て待ってて」

「了解です」



というわけで暫く時間を潰すことになった松本。

外の掲示板を見に来た。



・大ネズミ討伐、2ゴールド、Dランク以上

・蜘蛛討伐、2ゴールド Dランク以上

・マンモンキート討伐、1ゴールド、Dランク以上

・希少なキノコ納品ヤバダケ、10個で2ゴールド、ランク不問

・モギ肉納品、10個で10ゴールド、ランク不問

・枯草の清掃、1時間8シルバー、ランク不問

・芋の収穫、1時間8シルバー、ランク不問

・キノコの収穫、1時間8シルバー、ランク不問

・玉ネギの収穫、1時間8シルバー、ランク不問

・渡牛の乳しぼり、1時間10シルバー、ランク不問

・ケーキ作りのお手伝い、1時間10シルバー、ランク不問



ふむ、討伐依頼は報酬が高いな、てことは俺だと死ぬなこれ…

納品依頼のヤバダケは俺の家に生えてるんだがなぁ、

取りに帰る訳にもいかんし…希少だったんだなぁヤバダケ

補助依頼は時給制なのか、一番安いのだと8シルバー、4時間働いたら宿代が稼げる、

ケーキだと3時間で宿代が稼げるな、

このちょっとの時給の差で労働時間が大きく変わる感じ、バイト時代を思い出すなぁ



なんとも懐かしい気分になる松本。

学生時代に最低賃金でバイトした人は松本と同じ目をしていることだろう。



取られる前に昼からでもいいか聞いてみるか

ケーキにしよう、まかないあるかなぁ~



掲示板からケーキの依頼書を剥がし、受付に並ぶ。

暫くして順番が回って来た。


「すみません、この依頼は昼からでも大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ、18時までのお手伝いを希望されています」

「あ、それなら受けたいんですけど」

「わかりました、紋章を提示して下さい」

「はい~」


ネックレスを外しカウンターに置くと、紋章の名前を確認し手続きを進めてくれる。


「はい、ではこちらが依頼の仕様書になります、依頼完了後は依頼者より完了の印を受け取り、

 こちらにお持ち頂けば報酬と引き換えになります」

「分かりました、ありがとう御座います~」



おぉ~初依頼受注~

内容は生前のバイトと変わらん気がするが取りあえず一歩前進だな

さ~て昼から楽しみだな~



冒険者登録と初依頼受注を終えた松本、冒険者生活が幕を上げる。

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