133話目【プリモハの名は】
「はいお待ち、どっちゃり肉サンド4つ。
こっちの2つがトマト、こっちの2つがチーズねぇ~」、
「「「「 ありがとう御座います 」」」」
お昼時、賑わう店内のカウンターに並ぶ
4つのどっちゃり肉サンドと4人の調査隊。
「お嬢、はいチーズ」
「美味しそうねぇ~、ありがとうニコル」
「ほいラッチ」
「ありがとうジェリコ、お茶回してくれる?」
「了解、ニコル、お嬢にも回してくれ」
「了解~、お嬢、お茶です」
「ありがとう」
「「「「 いただきま~す! 」」」」
どっちゃりする4人、ラッチとジェリコはトマト入り、ニコルとプリモハはチーズ入りである。
「おいしぃ~、やっぱり町で食べるご飯って最高だね~」
「調査中は獲物が捕れるか次第だからなぁ~トマトがサッパリしてて旨っ…」
「冬場は肉が食べられればいい方だもんねぇ~、肉美味し~!」」
「美味しっ、チーズと肉合うわねぇ~、チーズ最高」
頬を膨らませる4人、安定して美味しい食事が食べられる幸せを堪能している。
「お嬢、ギルドには何時に向かいますか?」
「14時くらいの予定よ」
「了解です! はぁ~楽しみ、カルニギルド長忙しいかな?」
「忙しいんじゃねぇ~の? なにせギルド長様だし。 お嬢、俺とラッチは町を探索して来ます」
「それなら移動中の食べ物の買出しを頼んでもいいかしら? 明日の朝に出発するから」
「了解です、食料の調達と馬の手配をしておきます、僕達夕方には宿に戻りますので。
お嬢のチーズも仕入れときますから安心して下さいね」
「うふふ、2人ともお願いね」
ギルドにやって来たプリモハとニコル。
「すみません、14時からカルニギルド長と面談予定のプリモハです」
「伺っております、少々お待ちください」
受付のお姉さんが裏に消え、カルニがやって来た。
「プリモハさん、お待ちしてました」
「カルニギルド長、無理を聞いて頂いてありがとう御座います」
「いえ、気にしないで下さい、他の方がまだですので先に奥の部屋でお待ちください。
(隣の人がマツモト君の言ってたニコルさんね、え~と…女性? いや男性かしら?)」
プリモハの横に立つニコルをチラ見するカルニ。
性別的な特徴が無く判断に迷っている。
「(…服装では判断できないわね…駄目、わかんない、せめて髪型がなぁ…)」
「その件なんですが、調査隊員を1人同席させても大丈夫でしょうか?」
「プリモハ調査隊のニコルと申します! 宜しくお願いします!」
ハキハキと90度のお辞儀をするニコル、声に釣られて冒険者達が振り向いた。
「ニコルさんですね、先方から同席の許可を頂いていますので構いませんよ。
(女性だったぁぁぁ、危ない危ない…)」
笑顔で対応しながら内心ドキドキのカルニ。
プリモハ調査隊は全員同じ服を着ている、夏場は半袖短パン、冬場は長袖長ズボンに上着。
服装で男女の差が無いうえに、ニコルの髪型は癖毛のショートヘア、顔だけ見ると女性にも男性にも見える。
おまけに胸が無いため、声を聞くまでは性別の判断が難しいのだ。
「あれ? ニコルが同席することを伝えてましたっけ?」
「いえ、朝マツモト君から聞きました」
「なるほどそれで…わざわざありがとう御座います」
「ありがとう御座います!」
ハキハキのニコル、再び反応する冒険者達。
「どうぞこちらへ」
「「 はい~ 」」
椅子に腰かける3人、カルニが紅茶を注いでいる。
「(何か凄く視線を感じるわね…あの子達みたいな…)」
その様子を見つめるニコル、目からキラキラした何かを飛ばし話しかけるタイミングを伺っている。
「どうぞ」
「「 ありがとう御座います 」」
配られたカップを口に運ぶ一同。
紅茶の香りがカルニの心労を柔らげる。
「(はぁ~美味し…緊張が解れるわ~、もうすぐ伯爵が来られるらか今のうちにリラックスしておかないと…
それにしてもプリモハさんの正体は何者なのかしらねぇ~…ん?)」
少し気が休まるカルニだが、先ほどから右半身にキラキラが突き刺さっている。
「(やっぱり視線を感じる…凄く身に覚えのあるキラキラが…)」
「あ、あの~カルニギルド長、少し宜しいですか?」
「あ、はい、なんでしょうか?」
「カルニギルド長が21歳でギルド長に就任されたというのは本当なんですか?」
「え? あ、はい、そうですけど」
「くぅぅ~っ、では15歳でAランク冒険者に昇格したというのは?」
「えぇ、そうですけど、よくご存じですね(なんか前のめりになったわ)」
「くぅぅ~っ、ギルド長になる前はSランク冒険者のルドルフさんやミーシャさんと暴れ回っていたというのは?」
「え? ま、まぁ一緒に依頼をこなしたりはしていましたけど…暴れ回ったというわけでは…」
「くぅぅ~っ、ギルド長になったばかりの時に反発する冒険者を力でねじ伏せたって噂もありますけど!?」
質問の度にドンドン前のめりになるニコル、カルニの回答の度に何かを噛みしめている。
「あ、あの、ねじ伏せたって言うと聞こえが悪いですけど別に戦った訳じゃなくて…
皆が認めてくれたみたいな感じでして…他の方の協力があって何とかなったっといいますか…」
「くぅぅ~っ、なんか同世代に金獅子とか呼ばれる冒険者もいたとかいないとか!」
「ちょ…近い、ニコルさん顔が…圧が凄い…」
テーブルの対岸から身を乗り出すニコル、仰け反るカルニに興奮した鼻息が掛かる程である。
その様子をプリモハがニコニコと見守っている。
「ごめんなさい、ニコルはカルニギルド長のファンなんです」
「ファンです! 尊敬してます!」
「こ、光栄です…(キラキラが凄い…あの子達とは圧が違うわ…)」
至近距離でキラキラをダイレクトに刺されるカルニ。
「ニコル席に戻って、カルニギルド長に失礼ですよ」
「あはは…すみませんつい…」
プリモハに引っ張られ椅子に座り直すニコル。
ニコルに紅茶のお代わりを注ぐカルニ。
「まぁ、金獅子は今でもたまに来ますよ、冒険者ではないですけど。
ポッポ村で木こりをしてまして…あ、そういえば獣人の里に行ってた筈なので
会われたと思いますけど? ニコルさんどうぞ」
「ありがとう御座います!」
ニコニコで紅茶を飲むニコル、プリモハが質問する。
「カルニギルド長は獣人の里の事をご存じなんですか?」
「えぇ、話だけですが、獣人の里のことはバトーから事前に、結果は今日マツモト君から簡単に伺っています」
「なるほど、ではポッポ村やレム様も事も?」
「えぇ、ミーシャとルドルフから聞いています、今回の件はポッポ村の調査結果が始まりみたいなものでして…
まぁ、その話は全員揃ってからにしましょう、プリモハさん紅茶のお代わりは?」
「ありがとう御座います、頂きます」
プリモハと自分のカップに紅茶を注ぐカルニ。
紅茶を飲んでいたニコルが突然目を見開く。
「っはうわ!? カルニギルド長、もしかして金獅子ってバトーさんですか?」
「え、えぇ、そうですよ、凄く腕が立ちますから獣人の里では頼りになったと思います」
「いやぁ…頼りになったというか…ボコボコにされたというか…」
「えぇ…」
「おほほ、ニコル達もかなり優秀な筈なんですけど、3人がかりでボコボコにされてしまって、
魔族と戦う前に自信を無くしたみたいなんです」
「まぁでも、味方なので心強かったですけどね…あんな人が田舎で木こりしてるなんて可笑しいですよ…」
「あははは…(戦う前に戦意を下げてどうすんのよバトー!)」
乾いた笑いが出るカルニ、心の中にバトーを締めあげている。
「カルニギルド長は強化魔法を習得されているのですよね?」
「えぇ、運よく手に入り…」
「何言ってんですかお嬢、カルニギルド長ば唯一強化魔法を扱う冒険者。
強化魔法を駆使し、チームを守る姿からついた字名は『防御のカルニ』、
『不屈のミーシャ』『爆炎のルドルフ』と並ぶ豪傑ですよ!」
「カルニギルド長の話を途中で遮らないで頂戴ニコル、何回も聞かされてるから知ってますぅ」
「いえ、気にしないで下さい…(豪傑?)」
「いいえ、お嬢はまだ分かっていません! 今でこそこんなにお淑やかですけどギルド長になられる前は、
ランクを傘に着てちょっかいを出してくる者は千切っては投げ、
胸の小ささを馬鹿にする者がは全力で叩き潰す、そりゃもう泣く子も黙るパワー系冒険者だったんですから!」
「それは初耳ね」
「い、いや…それはたぶんルドルフです…(一体誰がそんなことを…おい、胸のこと行ったヤツ出てこいよ!)」
基本的にはルドルフだが、胸の下りはカルニも同罪である。
暫すると、扉がノックされ受付のお姉さんが連絡に来た。
「ギルド長、デフラ町長とルート・キャロル伯爵がお着きになりました~」
「ありがとう、直ぐに行くわ」
「ニコル、私達も行きましょう」
「はいお嬢」
「いえ、そのままで大丈夫ですよ、失礼します」
「私も失礼する」
3人が立ち上がろうとすると扉が開きデフラ町長と、紙箱を持った立派な口髭を蓄えた恰幅の良い男性が入ってきた。
勿論、ウルダの領主、ルート・キャロル伯爵である。
「え!? す、すすすみません! 出迎えもせずに…」
焦ったカルニが平謝りしている。
「わはは、そんなに謝らないでくれギルド長、私が無理を言ったのだ、わざわざ出迎えて貰う必要は無い」
「はぁ、すみません…」
「わはは、また謝っているぞギルド長」
「はうわっ!? すみませんつい…はうわっ!?」
焦りまくりのカルニ、伯爵は面白がっいる。
「カルニギルド長、申し訳ありませんが私とルート伯爵のカップを頂けないでしょうか?」
「はぃぃ! 今すぐにぃぃ!」
カルニの返事と共に売店裏の小窓が開き、新しい紅茶とカップが2つ出て来た。
どうやら優秀な店員さんがいるらしい。
「私はここに座らせて貰うとしよう」
「では私は隣に失礼して」
先程までカルニが座っていた長椅子に伯爵と町長が座る。
対岸の長椅子にはプリモハとニコルが座っているため、カルニは間の1人掛けの椅子に腰かけた。
「どうぞ」
「ありがとう、ギルド長」
「頂きます」
カルニから紅茶を受け取る伯爵と町長。
「あの~カルニギルド長、アタシ席変わりますよ、一番下っ端ですから」
「いえ、気にしないで下さい」
「いやでも、アタシ凄く場違ですし…」
伯爵が来ると聞いていなかったプリモハとニコル。
肩身が狭い上に、せわしなく働くカルニを見て居心地が悪いらしい。
「ニコル、お言葉に甘えましょう、カルニギルド長にも立場がありますから」
「そうですか…すみませんカルニギルド長」
「いえいえ(お客人に働かせる訳にはいかないわ、このポディションは絶対死守よ)」
「ギルド長、話の合間に食べて貰おうとケーキを持参した、
すまないが切り分けるナイフと取り皿を貰えないか?」
「はい只今ぁぁ!」
絶対防衛線を死守するカルニ、返事と共に小窓から切り分け用のナイフと人数分の皿とフォークが出て来た。
売店の店員さんが凄く優秀である。
ケーキを切り分け皿に乗せるカルニ、最初に伯爵に配る。
「ありがとうギルド長、だが私は最後で良い、先にあちらへ頼む」
「分かりました、どうぞプリモハさん」
「ありがとう御座います、はいニコル、先にどうぞ」
「え? あ、はい、ありがとう御座いますお嬢」
プリモハからケーキを回られ困惑するニコル。
「(プリモハさんが目上みたいだけど、優しいわねぇ~、いい上司って感じ)」
次のケーキを準備しながらカルニが感心している。
「お嬢、そんなに気を使わないで下さい、私タダでさえ肩身が狭いのに…」
「いいのよニコル、これはルート伯爵から貴方に贈られたケーキ、私の物ではないの」
「はぁ…?」
「ルート伯爵はとても民を大切にされる方だから受け取って頂戴、私の分も直ぐに頂けるわ」
「どうぞプリモハさん」
「ありがとう御座います」
プリモハにもケーキが配られた、次にデフラ町長、最後に残った2つを伯爵とカルニが手元に置く。
新しく紅茶も配られた。
「ケーキも行き渡った事だ、始めよう、気難しく構える必要は無い、ケーキも自由に食べて欲しい」
「カルニギルド長、申し訳ありませんが紹介を頂いても宜しいですか?」
デフラの要請でカルニが両陣営を紹介する。
「では私が紹介をさせて頂きます、こちらがウルダを収められている領主様、ルート・キャロル伯爵です」
「うむ、私は今回デフラ町長の付きそいだ、私に対して気を遣ったり無理に言葉を選ぶ必要は無い、
気軽に対応して欲しい」
「そして奥の方が、この町を纏めるデフラ町長です」
「デフラです、以後お見知り頂きたい。ルート伯爵から町を預かっていますが、
私は平民ですので堅苦しい気遣いは不要です」
頭を下げるデフラ町長。
「ではお客様の紹介に移ります、こちらはプリモハさん、
光の3勇者の調査を行っている調査隊の隊長を務めておられます。
魔族の襲撃を経験されており、今回は魔族に関する質問と報告があって来られたそうです」
「お忙しい中、このようなお時間を頂きありがとう御座います。
私達の調査結果と光の精霊レム様のお声をお持ちしましたので、後程拝見して頂ければと思います」
「それは有難い、魔族の襲撃に関する話も是非お聞かせ頂きたいのですが」
「えぇ勿論です、ただ王都への報告前の段階ですのであくまでも内密にお願いします」
「勿論、承知しております」
サクサクとやり取りするデフラとプリモハ、両陣営共今回の話は非公表、
あくまでも互いの情報交換であることは承知である。
「それと、この席で開示される内容に影響がありますので、改めて正式に名乗らせて頂きます」
背筋を伸ばし座り直すプリモハ。
「私の名はロックロール・プリモハ。
ダブナルを収める領主、ロックフォール・ペニシリ伯爵の実妹です」
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
「「「 !? 」」」
驚愕のカルニ、白目を剥いている。
「(お嬢様どころがガチ貴族だったぁぁぁ!? しかもロックフォール伯爵の妹君ぃぃぃ!?)」
「これはこれは、そうとは知らず礼儀を欠きました、申し訳ありません」
深々と頭を下げるデフラ町長。
「気にしないで下さいデフラ町長、私は堅苦しいのが苦手でして、そういうのは兄に任せていますので」
「お兄様には前回のウルダ祭で便宜を図って頂きまして、大変感謝しております、本当にありがとう御座いました」
「いえ、私は何もしていませんから、兄に伝えておきます」
「よろしくお願いします、ルート伯爵、知っておられて今回参加されましたね?」
「わはは、まぁな、プリモハ殿は普段調査で各地を飛び回っておられてな、なかなかお会いする機会がないのだ」
「しかし、何故身分を隠しておられるのですか? それに各地を調査されるならしっかりとした警護も必要かと…」
「ロックフォールの名は兄のイメージが強く、いろいろ影響がありますので…
それこそ、カルニギルド長のようになりかねませんし」
「あばばばばば…」
未だ白目のカルニ。
「貴族の娘が辺境を旅していれば邪な事を考える者も多い、身分を明かさぬ方が良いのだ。
それと、護衛に関しては心配ない、ニコル殿は近接戦闘、魔法共に優秀だと伺っている。
その辺のならず者にどうこう出来る相手ではないのだ、それこそSランク冒険者でも連れてこねば太刀打ち出来ん」
「お嬢と一緒に調査を行っているニコルです、よろしくお願いします!」
シャキシャキと自己紹介をするニコル。
「そうでしたか、ニコルさんは優秀な従者なのですね」
「いえ、私に従者はいません、ニコルは私の大切な友人、そして調査隊の一員です。
後2人、ラッチとジェリコという友人がいますので、機会があれば紹介させて下さい」
「その時は是非。カルニギルド長、そろそろ本題に…カルニギルド長?」
「あばばばばばば…」
「わはは、おの冷静なギルド長が珍しいな」
「多分ロックフォールの名の影響ですね、兄に直接依頼を受けたそうですから」
「ロックフォール伯爵の依頼は冒険者の間では有名ですからねぇ」
「カルニギルド長ー! しっかりして下さいー!」
魂の抜けたカルニ、ニコルがケーキを食べさせると正気に戻ったという。
「ケーキ美味しっ…甘っ」




