13話目【光の三銃士】
ボトッ…
手から滑り落ち地面に若干減り込むナーン貝。
「「 なっ… 」」
松本の案内で光の精霊の池に辿り着いたバトーとゴードン、
池の上に浮遊する全裸を見て言葉を失っている。
全身に淡い光を帯びておりポージングを決めるたびに強い光を発している、
ポージングしながら発光する全裸の青年というのは、かなりハイレベルの変態なのだが、
まぁ精霊なので問題はない、多分問題はない。
「おや、今日はお客さんが多いね、どうしたんだい?」
こちらに気が付いた光の精霊が話しかけてくる
「おはようございます~、今日は以前お話してた食料危機の件で村の人達とナーン貝を取り行ってまして、
精霊様のことを話したらこの2人が直接お礼を言いたいそうで…」
「大変失礼とは思いますが、も…もしや…光の精霊のレム様では?」
恐る恐る問いかけるバトー。
「レムか、懐かしい響きだねぇ、昔はよくその名で呼ばれたもさ、
そうだよ人の子よ、僕は光の精霊レムさ」
フロントポーズを決め輝くが増すレム。
「なんという神々しさ…」
「本当に存在していらっしゃるとは…」
神秘的な光に感無量のバトーとゴードン。
「(へぇ~光の精霊様ってレムっていうのか、名前あったんだな
あのポーズ、どこかで見たことがあるんだけど…どこだっけ?)」
松本は目を細め首を傾げている。
唐突に片膝を付き頭を下げるバトーとゴードン、松本がビクッとする。
「まことに勝手ながら村のために食料を頂きました、申し訳ありません」
「精霊様の森に立ち入り荒らしたこと、心よりお詫び致します」
「別にいいんじゃない? この森は僕の物じゃないよ、人の子が勝手にそう呼んでるだけさ、
誰の物でもない自然の一部だからね、好きにしたらいいさ」
「「 感謝致します! 」」
「そんなにかしこまらなくても…あの子なんて、ほら」
2人の視線の先でワニ美ちゃんにパンを献上している松本、
流れるような動きで池の水で顔を洗う。
「おぃぃ! 何してんだ坊主ぅぅぅ!」
「神聖な池でなにしてるんだマツモトォォ!」
「え? いや、顔を洗ってますけど?」
一度顔を上げるも再びジャブジャブする松本。
「なななんで神聖な池で顔洗ってんだぁぁ! ジャブジャブするのをやめろって!」
「いや本当にやめろマツモト! 罰当たりだから! 怒られるからぁぁ!」
ゴードンが松本を抱え池からズルスルと引き離す。
「えぇ~そんな~、いつものルーティーンなんですよ~」
「お、おめぇ、いっつも神聖な池で顔洗ってたのか!?」
「仕方ないじゃないですか~ここしか水場ないんですから~」
「水場なんて他にいくらでもあるだろ! 村の直ぐ近くには川の流れてるしよ」
「そんなこと言ったって俺の寝床すぐそこなんですよ~、村まで出るのだって大変なんですから…」
「ったく、なにいってんだ坊主…」
引きずられながら森の岩陰を指さす松本、ゴードンが目を細める。
「寝床って…何処だよ?」
「あれです、ほらそこにあるでしょ」
「…、岩しか見えねぇけどよ?」
「そうですよ、あの岩陰が俺の家ですよ」
ゴードンに続き目を細めるバトー。
「岩陰? 何もないじゃないかマツモト」
「そりゃなにもないですよ、森なんですから、岩の雨避けと土の床だけですよ」
「「 えぇ… 」」
岩陰に目を凝ら一部の地面がならされ少し凹んでいる、
道具と言える物は立て掛けられた相棒2号(ちょっといい感じの棒)のみ、
少しだけ集められた枝に火を起こそうとした形跡が見て取れるが、
煤や灰が無いので駄目だったらしい。
「そのなんだ…ちいせぇのに苦労してんだなぁ…坊主…」
「大変だな…マツモト…」
「やめて! その憐みの眼はやめてぇぇ! これでも楽しく生きてるんだからぁ!」
松本の魂の叫びが森に木霊した。
「レム様、襲撃された村を救っていただき、ありがとうございました」
「村が生き残ったのはレム様のおかげです、皆を代表し心から感謝いたします」
「ははっ、気にしなくていいよ、その結果は君達が諦めなかったからさ、
僕が居合わせたのは偶然、風が吹いたり雨が降るのと同じことなんだ、
体現するのが数日違えば結果は変わっていたかもしれないよ」
「たとえ偶然だったとしても村は救われたのです、本当に感謝いたします」
「(ポッポ村って名前だったのか、平和な名前だなぁ、鳩なんていたか?)」
松本の頭の中に村で見た鶏っぽい鳥が地面を突いている。
「図々しくもお願いがございます」
「もし宜しければ我々に光魔法を授けて頂けないでしょうか?」
両膝を付き深々と頭を下げるバトーとゴードン、
言葉には重みがあり真剣さが伝わってくる。
「ほう、どうして光魔法が必要なんだい?」
「村を襲った襲撃者はまたいつ現れるかわかりません、次は守り切れないでしょう」
「一瞬で襲撃者を撃退した光魔法であれば私達でも対応できる可能性があります、
村や家族を守りたいのです」
少しの沈黙のあと満足そうに微笑む光の精霊が口を開いた。
「いいねぇ、顔を上げなさい人の子よ、光魔法を授ける」
精霊の言葉を噛みしめながら村に差した微かな光にバトーとゴードンは涙した。
池のほとり、光の精霊の前に3人の男達が立っている。
「あの~俺も教えて頂いてもいいんでしょうか?」
「レム様が許可されたんだから大丈夫だ」
バトーとゴードンは何故かパンツ姿になっている、
松本は元々腰布しかないので変わっていない。
「いいかい? 光魔法を使用するには一定以上の筋量が必要だよ、
そして何より美しいポージングが重要なんだ、筋肉を美しく見せること、
そのためにはまず基本のフロントポーズからだね、
左足に重心を置き右足を軽く流す、右手を腰に当て腹筋を締め、
広背筋からの美しい逆三角形を作り…フロントポーズ」
ピカーっとレムの体から控えめな光が発せられる。
「本気を出すと直視できないからね、威力を抑えているけどこんな感じ、さぁ、やってみて」
「左足に重心を置き…右足を…左だったか?」
「左右はどちらでも構わないよ、重要なのは美しさ」
「? えーと…こうか?」
「こうじゃないですか?」
「「「 … 」」」
3人ともポーズをとるが光らない。
「ただ同じポーズをとればいいってわけじゃないよ、筋肉の美しさを最大限に引き出すんだ」
「(筋肉の美しさね、これってもしかして…)腹筋を締めて…たしかこう…」
ペカッ…っと松本が少しだけ光った。
「おぉ? 坊主、今いけたんじゃねぇか?」
「おや、マツモト君は飲み込みが早いね」
「なるほど…ふぅあっ…」
ペカァーっと再度光る松本、さっきより少しだけ光が強い。
「はっ…ふっ…きっ、きつぅっ…」
ポージングを止めた松本の息が上がっている。
「(楽そうに見えてこの疲労感…そしてこの酸欠感…これはあれだ間違いない、
転生前に散々動画で見た…フィジーク選手のフロントポーズだ)」
※フィジークとはボディビルの親戚みたいなモノ、
評価する点が異なっていたりパンツの布の面積に差あるが
どちらも筋肉ムキムキマッチョ達の肉の祭典である。
「こっ…これはっ、かなり…きついですよ…」
「なんで坊主、息があがってんだ?」
「一番華奢なマツモトが光るのはどういうことだ?」
「これ多分習得するのは結構大変ですよ、毎日練習しないと」
「どうやってるんだ坊主?」
「これ静止したポーズをとりながら全身の筋肉使ってるんですよ、多分」
「そのとおり、フロントポーズは主に上半身の前側の筋肉をアピールするんだ、
腹筋を締め、背中と胸の筋肉にも力を込める、逆三角形をアピールできれば効果的だよ、
あと、下半身も手を抜いたら駄目たよ、流した足も脹脛をしっかり締めないとね」
レムの説明を受けながら練習すること約1時間、
「よし! ようやく光ったな!」
「おぉ~おめでとう御座いますバトーさん」
バトーが先に光り、そしてまた約1時間後、
「はぁ…はぁ…なんとか、やったぜ~」
「やったなゴードン」
「おめでとうございますゴードンさん」
ようやくゴードンも光を発した。
「はぁ…はぁ…これは体力を使うな…」
「静止しているだけなのに、尋常じゃなく疲れるぞ…」
「はぁはぁ…これって誰でも取得できるんですか?」
肩で息をする3人、疲弊しきっている。
「一定以上の筋力があって正しくポージング出来れば可能だよ、
肥満だったり筋量が一定より少ない者は無理かな、
引き締まった筋肉をどれだけ美しくアピールできるかが重要だからね、
あと、露出する筋肉の面積が多いほど有利だよ」
「「「 へぇ~ 」」」
その後、3人はサイドポーズとバックポーズを教わり基本の3ポーズを学んだ。
「「「 ありがとうございました! 」」」
「あとは練習しだいだよ、特定の部位だけで発動できるようになったら神官クラスだ」
「「「 おぉ~ 」」」
涼しげに笑いながら力こぶを作り上腕二頭筋から光を放つレム、
ほぼ全裸の3人が拍手している。
そしてポッポ村。
「お~い、バトー達が戻って来たぞ~!」
夕日に照られさながら歩いてくる濃い顔の男達、
村の入り口に付くと横一列に並びおもむろに服を脱ぎパンツ姿になった。
村人達がどよめく中、ゆっくりとした動作でポーズを決め全身に力を込める3人。
「フロントポーズ!」
バトーの声と共に男達の体から光が発せられ辺りを照らす、
益々どよめく村人達を他所に横を向き上半身を左に開く男達。
「サイドポーズ!」
ゴードンの声と共に再度光が発せられる。
今度は後ろを向き、広背筋を収縮させ…
「バックポーズ!」
松本の声と共に三度目の光が発せられる。
「まさか…これはあの時の…」
「光の精霊様の森でいったいなにが…」
「す…凄い! よく分からないけど凄い…けど…父さん、ナーン貝は?」
「「「 … 」」」
ゴードンの娘の声を聞き、男達は無言で森に引き返した。




