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127話目【水晶の使用方法】

「先端に反りを合わせろー、もう少し押してくれー」」

「いいぞー、固定してくれー」

『 うい~ 』


ナーン貝の入り江で木槌(木製のハンマー)を男達、獣人とプリモハ調査隊の姿もある。

2人の村人が指示を出し、テキパキと作業している。

浜辺に作られた船台の上に10メートル位の木造船が出来上がって行く。


「いや~立派な船になりそうですね~」

「今回はじっくり作れたからな、人手もあるし後2日位で浮かべられる筈だ」

「やっぱちゃんとした道具があると出来が違うわ、見ろよこの合わせ目、気持ちいよな~」

「「 気持ちいい~ 」」


船の横板を見て悦に浸る松本、バトー、ゴードン。

顎に手を当てウンウンと頷いている。


「カールさんとアビンさんはよく船の作り方知ってましたよね」

「カールとアビンは若い頃にリコッタに修行に行っててよ、木造船の作り方を学んで来たんだ。

 ポッポ村じゃ船は作らねぇけど木材の曲げ方とかは役に立ってんな」

「リコッタってどこですか?」

「西の方にあるんだが俺はよく知らねぇ、バトー頼む」

「『水上都市リコッタ』っていってウルダよりもっと西にある海辺の町だな、

 海上輸送の拠点になっていて他の国への物流の拠点になっている、

 町中に大きな川が流れていて、これくらいの木造船が沢山あるらしいぞ」

「「 らしい? 」」

「実は俺も行ったことがない!」


胸を張るバトー。


「俺も無い!」

「そして俺も無い!」

「「「 だっははははは! 」」」


胸を張りあう3人、楽しそうである。


「おいそこ~、サボってないで働け~」

「こっち来て板持ってくれ~」

「「「 はい~ 」」」


カールとアビンに呼ばれて仕事に戻る3人。


カールとアビンの2人のオッチャンは10話目【待望の焼きナーン貝】で登場した人物。

松本が初めてポッポ村を訪れた時に、村の入り口で話しかけた第一村人である。

『カール』は松本に異世界初の腰布を与えてくれたオッチャンであり、

『アビン』は松本から頼まれて、初めて焼きナーン貝を裏返したオッチャンである。

2人共ゴードンと同い年位である。



作業は進み、お昼休み。

各々持って来たお弁当を食べている。


松本、メグロ、ニャリモヤはナーン貝を持って家に戻って来た。


「パンとお茶は中に置いてありますから好きに食べて下さい、俺ちょとレム様を呼んできます」

「了解である、ナーン貝は我に任せるのである」

「レム様達の分も用意しておこう」

「行ってきま~す」


精霊の池にレムとワニ美ちゃんを呼び来た松本。


「レム様~、ワニ美ちゃ~ん、お昼ですよ~」

「…」



返事がないな…いないのか?



「レム様ー? ワニ美ちゃーん?」

「…」



いないな、ポッポ村に行ってるのか?

まぁ戻るか



戻ろうとすると茂みの中にレムの横顔が見えた。


「なんだ、いるんじゃないですか、返事がないから留守かと思いましたよ」

「…あくまでも僕の考えであって、確証はないから責任は持てないよ。

 確実なのは魔族が現れたってことだけ、そのうち魔王が現れる可能性は高いと思うけどね」

「レム様? お~いレム様~?」

「僕はポッポ村にいるから、光魔法の習得希望者は…」

「レム様?」


松本の声に耳を貸さず、誰もいない森に向かって話し続けるレム。



あっれぇ?

聞こえて無いのか?



「お~い、レム様、レームーさーまー!」



茂み越しに手を振る松本、依然として反応の無いレム。



微塵も反応しないんですけどぉぉぉ!?

大体、誰と話してんのこれぇぇ?



「レベルの高い変態~、全裸の化身~、発光ウィンナ~」

「それは全部マツモト君にも当てはまると思うけどね」

「ひぇっ!?」


背後から声を掛けられ振り返ると、レムがフワフワと宙を舞いながら笑っている。


「え!?」

「まったく、酷い言われようだね」


茂みを振り返ると、相変わらずレムが森に向かって喋り続けている。


「あれ? レム様が2人!? どういうこと!?」


首をブンブン振り、2人のレムを交互に確認する松本。

驚く松本を見て満足そうに笑うレム。


「はは、どっちが本物でしょう?」

「えぇ…両方? いや、喋れてるからこっちが本物か? え? もしかして分身出来ます?」

「ははは! 僕は分身は出来ないよ」

「え? じゃぁこっちのレム様は?」

「おほほ! これはレム様を撮影した記録、立体映像よ!」


茂みの中のレムが消え、代わりに丸い水晶玉と角ばった水晶を持ったプリモハが姿を現した。


「はぁ!? プリモハさん? 何してるんですかそんなところで?」

「おほほほほ! まんまと引っ掛かったわねマツモト君!」

「あはははは! マツモト君は絶対騙されると思ったよ!」


満足そうに高笑いするプリモハ、珍しくレムも大笑いしている、

心なしかワニ美ちゃんも笑ってるように見える。


「も、もしかして、俺を騙すために隠れてたんですか?」

「あはははははは!」

「おほほほほほほ!」

「チクショォォォ!」


笑うプリモハとレム、地面と叩き悔しがる松本。

異世界ドッキリ大成功である。


「折角、昼食を一緒に食べようと思って呼びに来たのに…

 子供を笑い者にして楽しいんですか?」

「あはは、わるかったね、でもいい物見れただろう?」

「マツモト君が知らないだろうから、見せてあげようってことになったの。

 お昼食べながら説明してあげるから」

「はぁ、そうだったんですか、取りあえずナーン貝が焼けてると思うので行きましょうか」

「「 はい~ 」」


松本に続くレム、プリモハ、ワニ美ちゃん。

先に食べていたメグロとニャリモヤと合流した。


すっかり焼けたナーン貝と横に置かれたパンを囲む一同。

フォークと皿を手渡され、切り分けられたナーン貝を各々自分の皿に乗せていく。

ワニ美ちゃんの分はレムが盛ってあげた。



「この丸い水晶はマナを動力として動く記録器です。

 この水晶のようにマナを原動力として動く機器を魔動機器と呼びます」


左手に水晶、右手にパンのプリモハ、食事をしながら説明してくれるそうだ。


「魔動義足も魔動機器ですか?」

「あらマツモト君、魔動義足知ってるの? 割と最近の技術よ?」

「1回だけウルダで実物を見ました」

「へぇ~珍しい、かなり高額なのに裕福な人ねぇ~、パン美味しっ」


フランスパンをモシャモシャするプリモハ、右手のパンが少し小さくなった。


「あ、その人は裕福ではないんですけど、ロックフォール伯爵っていう

 変わった伯爵様の…気まぐれ? で貰ったというか」

「ロックフォール伯爵…ふ~ん、なるほどね、あの人は変り者で有名だから」


再びパンを齧りモシャモシャするプリモハ、何やら思い当たる節がある様子。


「プリモハ殿、魔動義足とはなんであるか?」

「マナで動く義足です、義手や義指などもあります。

 欠損した肉体の補完を目的として作られた魔動機器で、魔動補助具と呼ばれています。

 しっかりと訓練すれば実際の手足と遜色なく動かせるのですが、2000ゴールド位します」

「凄く高いな、回復魔法の魔石1000個分だ」

「買えないのである」

「普通の人は買えないですよ」


ナーン貝を齧る松本、メグロ、ニャリモヤ。

アツアツのナーン貝が少し冷めるまで待っていたらしい。


「いやぁ、僕が寝ている間に、いろいろ進歩したんだねぇ」

「1000年前は無かったんですか?」

「僕は見たことないねぇ、魔法を武器に付属させる技術はあったみたいだけど、

 そのネネ君の槍みたいにね」


フォークでネネの槍を指すレム。


「3勇者様はそれぞれ魔法が使える武器を持っていたらしいので、

 この槍を調べれば魔王討伐の糸口が見つかるかもしれません、ナーン貝美味しっ」

「「「 へぇ~ 」」」


ナーン貝を頬張るプリモハ、飲み込んでから水晶の説明に戻る。


「話を戻しますけど、この水晶はマナを流し込むことで映像の記録と、記録した映像の確認が出来ます」

「「「 ふむふむ 」」」


フォークを置き、丸い水晶を操作するプリモハ、

ナーン貝をモシャりながら頷く松本と獣人達。


「こんな感じでマナを流して、表示された選択肢を選ぶと…映像が水晶に映ります」


水晶の表面に浮き上がった文字に触れると、水晶の中に映像が浮かび上がる。


「この映像を指で動かすと、こんな感じに視点が動きます。

 この水晶は360度全方位を映せるので、好きな角度で映像が見れるわけです」

「「「 おぉ~ 」」」


拍手する松本、メグロ、ニャリモヤ。


「そして! この角ばった水晶は映写機です。

 記録器と映写機をこの接続機で繋ぐと壁に映像を映すことが出来ます」

「「「 おお~! 」」」


角ばった水晶から光が映写され松本の家の壁にレムが映し出された。

いわゆるプロジェクターである。


「更に! 4つの記録器を使用して4方向から同時に記録することにより、

 合成して立体像の映像を映すことが出来ます、こんな感じ」

「「「 おおお~!! 」」」


プリモハが丸い水晶に表示された文字を弄ると、壁に照射されていた映像が消え

角ばった水晶の上に立体の映像が映し出された。

一段と強い拍手を送る3人。

3人の反応に満足したプリモハはナーン貝をおかわりしている。


「凄い、まるで本物のレム様だ」

「見分けがつかないのである」


映像に手をかざすニャリモヤ、触れた場所の映像が乱れる。


「流石に触れないのである」

「これは俺じゃなくても騙されますよ」

「凄いよねぇ~、僕も見た時は驚いたよ、まぁ記録される側は大変なんだけど…」


小屋の中で前後に4つの水晶を置かれ話をさせられたレム、結構大変だったらしい。


「映像と音声の大きさは調整できます。

 ただ立体映像は記録器を同時に4つ使用しないと合成できないので、滅多に使用されません。

 基本的には記録器の水晶で再生するか、平面映像を壁に映写して使います」

「「「 へぇ~ 」」」



そういえば、ウルダ祭の時に保護者の人達が丸い水晶片手に熱狂してたような?

…あれ? てことは俺も記録さてれる?



そう、松本の痴態も鮮明な映像で全て記録されている。

そして子供の成長記録とて、各家庭やご近所などで上映されるのだ。


「これウチの娘が出場した、前回のヒヨコ杯の映像なのよ~、可愛いでしょ?」

「確かに可愛いお尻ね、叩かれてパンパンになっちゃってるけど」

「そっちじゃなくてウチも娘よ」

「お尻で剣を挟むなんて器用な子ねぇ~」

「いや、ウチの娘よ」


※45話目【ウルダ祭 18 松本対女の子】の映像を見るマダム達。

 

松本は知らない内に異世界版デジタルタトゥーを刻んでいた。




今回プリモハが紹介した映写機(角ばった水晶)と、記録器(丸い水晶)、

接続機(映写機と記録器を繋ぐ専用の土台)を3つをセット購入した方がお得です。

これさえあれば貴方の家の壁がホームシアターに早変わり、

手軽に臨場感ある映像と音をお楽しみ頂けます。

更に、記録器を4つ同時に使用すれば立体映像も記録可能です。

貴方も本物と見間違うほどのリアルな映像を体験してみませんか?

映像を停止して回転させれば、立体模型としても活用できます。

(※床に4つの記録器を置いた場合、視点が下部に寄るため上部の映像が荒くなります。

  より鮮明な映像を求める方は、5つ目の記録器を上部に設置して下さい)

お求めの方は、自由都市ダブナルの『ロックフォール商会』までお問合せ下さい。





食事を終えた一同、お茶を啜っている。


「プリモハさん、俺のためにわざわざレム様を記録してたんですか?」

「いいえ、これは調査のための大切な記録」

「千年前の話の記録ですか?」

「それもあるけど、1番の目的は調査を早める為ね」

「?」

「今回、ネネ様の日記と槍を預かってるけど、これを持ち帰って報告すると、

 まずはこの話の信憑性を確認するところからスタートするの。

 私達が報告が正しいのか? 日記と槍が本物かどうか? みたいなかんじね。

 人の記憶なんて曖昧で正確には伝わらないから、

 別の人がレム様に会いに来て、内容を確認して、ようやく話を前進させられる」

「はぁ」

「今回の報告は、実際に魔族と対峙していない人達には信じられないことが多い。

 でも、精霊様の言葉なら別、1000年前の魔王と勇者様を知る『光の精霊』の言葉ならなおさらね。

 だから、敢えて時間が掛かったとしても、

 報告の裏付けとしてレム様の姿と言葉を持ち帰る必要があったってわけ」

「へぇ~」

「獣人の里にも調査が来るのであるか?」

「それはありません、安心してくださいニャリモヤさん、誰にも教えないと約束します」

「まぁ、その辺を省くために僕の映像が役立つわけさ」

「かたじけないのである」

「レム様も、ありがとう御座います」


プリモハとレムに頭を下げるニャリモヤとメグロ。



なるほどなぁ…いろいろ考えてるんだな

思慮深いって言うか、政治家みたいっていうか

プリモハさんって、たまに凄く目上の人と話をしてる感じがするんだよな



「そういえば、プリモハさんって水晶なんて持ってましたっけ?」

「ジョナさんのお店で購入したの、あるとは思わなかったからラッキーだったわ」

「4つも売ってたんですか?」

「売ってたわよ、映写機も接続機も全て。

 まぁ店頭には無くてジョナサンに相談したら奥から出して来てくれたの」

「へぇ~」



そんなもの売ってたか?

まぁ俺奥の武器部屋には立ち入り禁止だからな

知らなかっただけか…



「それじゃ片付けて作業に戻りましょうか」

「皿を集めるのである」

「マツモト君、ナーン貝の貝殻はどうするのだ?」

「貝殻は俺に下さい、集めてるんで」


メグロから貝殻を受け取る松本。


「へぇ~マツモト君貝殻集めてるの、意外な趣味があるのね」

「いや、趣味で集めているわけでは無くてですね、

 削って装飾品にして売るんです、お金ないんで…この服も借金して買いましたし…」


軽くため息をつく松本、哀愁が漂っている。


「そうだったの…」


なんとも言えない顔をするプリモハ。


「いやぁ~マツモト君はよく働くねぇ~」

「レム様も手伝って下さいよ」

「えぇ…僕がかい?」

「こっそり俺のお茶飲んてるの知ってるんですよ、お茶代分働いて下さい!」

「バレたかぁ、美味しくてついねぇ~」

「そりゃバレますよ、獣人の里から戻って来たらお茶が全滅してましたから」

「あははははは! しかたない、1枚だけ磨くよ」

「助かります」

「「「 (精霊様に仕事させてる…) 」」」



船の作成に戻る一同、プリモハ調査隊と一緒にプリモハも参加した。





その日の夜

ジョナ・コスモの地下にある秘密の花園では、棚の水晶を物色するお姉さんの姿があった。


「ジョナ、私のお気に入りが見当たらないんだけど知らない?」

「いやぁ、あれね、実はプリモハさんがどうしても必要だって言うから…

 売っちゃったんだ…勿論映像は消してね」

「そんな! 私の『マッチョVSグラマラス 草原の熱戦』が…お気に入りだったのに…ワザとなの?」

「ち、ちがうよ、あれレンタル率が低かったんだよ、

 他にもレンタル率が低いヤツを3つ程売っちゃった、映写機と接続機も一緒にね」

「しかたないか…また新しいの仕入れて来てよね」

「了解です」


レベッカ姉さんの元お気に入りは、光の精霊の貴重な言葉として各地を回ることとなる。


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