125話目【道を造るべし】
松本達が獣人の里からポッポ村へ帰還して4日目
ナーン貝の入り江ではゴードンが斧を振っていた。
「おーい、倒れるぞー、全員離れろー」
『 いいぞー 』
全員退避したのを確認し、ゴードンが斧を打ち込むと木が倒れた。
「お~し、外に出すぞ~」
『 おぉ~ 』
「メグロ、我らも手伝うのである」
「うむ、獣人の力の見せ所だな」
倒れた木から延びるローブを手に取り意気込むニャリモヤとメグロ。
「行くぞー、せーの!」
『 でりゃぁぁぁ! 』
ゴードンの掛け声でロープを引き、木が浜辺に引っ張り出されて行く。
「ふぅ…よし次だな」
「次は俺が倒しますよ、その間にゴードンさん達は木の処理をお願いします」
「んじゃ任せるぜマツモト、枝を落とすぞ~」
『 うい~ 』
「見学するぞニャリモヤ、加工技術を学ぶのだ」
「分かったのである」
松本が次の木に斧を入れ、ゴードンと村人達は倒した木を加工している。
メグロとニャリモヤがゴードンの横で説明を受けている。
一方、ポッポ村側の森の入り口では…
「行くぜ~気合いだー! っだぁ! …っつぅ~、手がいてぇ」
斧を握っていた手首を抑え痛がるジェリコ、
ヤレヤレといった様子でラッチが首を振っている。
「全然駄目だね、ジェリコ交代、僕が手本を見せてあげるよ。 でりゃ! …っいったぁ~」
斧を木に叩きつけ、首を抑えて痛がるラッチ。
呆れた様子でため息をつくニコル。
「ったく…情けないわねぇ、どいてラッチ、腰が入ってないから駄目なのよ。 そいやぁ! …っくうぅ~」
同じく手首を抑えて痛がるニコル。
「手本がなんだってラッチ?」
「いや~ははは…腰がどうしたってニコル?」
「あはは~いやその…ジェリコも気合は何処行ったのよ?」
「それはあれだ…少し足りなくでだな」
3人揃って手首を回復するプリモハ調査隊。
後ろで斧を持ったバトーが笑っている。
「ははは、戦闘だと頼もしいが、木こりは任せられそうにないな」
『 力およばず… 』
「どれ、俺がやろう、離れていてくれ」
バトーが斧を振ると心地よい音が鳴り響く、暫くすると木が倒れた。
「加工所には後で運んだ方がいいな、先に道を造ることを優先しよう」
『 おぉ~ 』
「「「 了解です 」」」
バトーと村人が交代で斧を振り木を切り倒し、手が空いた者が丸太に加工している。
獣人達の為の船を作る予定だったが、未開拓の森では資材が運び難いとの意見が上がり、
獣人達との交易を見据えると荷物の運搬路が必要ということで道を整えているのだ。
とはいっても石畳を引くわけでは無く、邪魔になる木を取り除き地面を固める程度である。
ポッポ村の住人にとって、精霊の森は神聖な場所として崇められて来た。
森に手を入れいることに対して、反発が見込まれたが、
当の光の精霊レムが村に訪れているため、すんなり決議された。
時刻は昼、
浜辺で丸太に腰掛け焼きナーン貝とパンを食べるゴードン達。
「ゴードンさん、この調子だと船が出来るまで暫く掛かりそうですね」
「そうだなぁ、まぁコイツを加工して船造りも並行して進めるとしても、
平板なんかは村の木材加工所で作らねぇといけねぇから、予定より時間かかるのは間違いねぇな」
腰掛けている丸太を手の平で叩くゴードン。
「帰るまで時間が掛かりそうですけどメグロさん達は大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、私達だけ手伝わずに帰る訳にはいかないな。
ゴードンさん、マツモト君、ポッポ村の方々も、
我々との交易の為に手を尽くして頂き本当に感謝している」
「ありがたいのである」
深々と頭を下げるメグロとニャリモヤ。
「いってことよー、困ったときはお互い様ってなー」
「それに頑張れば魚が食べられるしなー」
「家族が楽しみにしてんだ、やらない訳にはいかねぇな」
「お前、結婚してねぇだろ」
「妻子はいないが、親はいるぜ」
『 はははははは! 』
ナーン貝を食べながら笑う一同。
「俺達も楽しみってこったな、あまり気にしなないでくださいメグロさん」
「そういって貰えると助かります」
「我らは問題はないが、カテリアはメグロの帰りを待ちわびているのである」
「はは、交易が結べるか心配していたからな」
「もし断られていたらメグロはカテリアに口を聞いて貰えなかったのである、見るに堪えないのである」
「カテリアさん、泣いて抗議しそうですよね」
「…う、うむ、交易が結べてよかった、本当によかった…」
心底安堵するメグロ
「カテリアさん凄ぇよなぁ…ウチの娘も人の事言えねぇけどよ…」
「お互い苦労しますな、ゴードンさん」
「う~ん…」
娘に苦悩する父親達、なんとも複雑な顔をしている。
間違いなくウィンディの方がヤバい。
その頃、獣人の里では…
「カテリア姉ちゃん…船を造り直すって言ってたし、暫く帰ってこないと思うよ。
海ばかり見てないでちゃんと魚捕まえてよ」
「分かってるわよマルメロ、でも気になって仕方ないの! 食事も喉を通らないの!」
「しっかり朝ごはん食べてたじゃないカテリア…お父さんなら大丈夫、上手くやるわよ」
メグロとニャリモヤが旅立った翌日から、船を探すことが日課になっているカテリア。
マルメロと母親が説得しているが、どうしても確認せずにはいられないらしい。
一方その頃、パンを齧るバトー達は…
「バトーさん、この切株ってどうするんですか?」
腰掛けた切株を手で叩きニコルが質問する。
「後で掘り返すよ、道の真ん中にあると邪魔だからな」
「バトーは簡単に言うけど、これが大変なんだ、実を言うと木を切り倒すより面倒なんだよねぇ~」
「そうなんですかフィセルさん?」
「そうなんですニコルさん、根が広がってるからスコップが上手く入らないし、
思ってるより広い範囲で地面を掴んでたりして厄介なんだよ、
基本的には朽ちるまで放置するんだけど、今回はそうもいかないからね~」
焼き芋片手に困った顔をするフィセル、
ニヤリと笑うニコル、ラッチ、ジェリコ。
「その作業、私達に任せて頂きましょう!」
「僕達、斧では戦力外でしたが今回は自信があります!」
「切株ごとき俺達がスパッと引っこ抜いてみせますよ!」
「「「 お任せあれ! 」」」
立ち上がりパンを掲げ自信満々の3人、
焼き芋をモシャモシャと齧りながら見上げるバトー。
「冷めないうちに焼き芋食べた方がいいぞ」
「「「 はい~ 」」」
切株に腰掛け直した3人はパンと焼き芋でお腹を満たした。
「それじゃお願いするよ、はいこれ、スコップとツルハシ」
フィセルが手渡す道具を拒み首を振るニコル。
「スコップもツルハシも必要ありません」
「え? でも素手じゃ絶対無理だけど…」
「まぁまぁフィセルさん、ここはニコルに任せて頂いて、危ないので下がって下さい~」
「はぁ…」
ツルハシとスコップを持つフィセルがラッチに引きずられて行く。
「他の方達も下がって下さ~い、はいはいもう少し離れて下さ~い」
切株の周りから人払いするジェリコ。
広げた右手を切株に向け、左手を腰にあてるニコル。
「行きますよ~、グランドウェイブ!」
ニコルが叫ぶと地面がボコボコと隆起し、ゴロンと切株が転がった。
『 おぉ~ 』
パチパチと拍手する一同
「ふふん! これが土魔法! これが私の実力です!」
両手を腰に当て無い胸を張るニコル、ジェリコとラッチが両脇でポーズを取っている。
「へぇ~便利だねバトー、俺、土魔法は始めて見たよ」
「冒険者もあまり使って無いからな、街の工事現場とかでたまに見掛けるぞ」
「畑も耕せそうだし、ポッポ村でも買ってみるか?」
「1人位使えるヤツがいてもいいもなぁ~」
ニコル達をそっちのけで盛り上がるポッポ村の住民達。
「…まぁ、こんなもんよね…」
「…ほら、拍手して貰えてたから…」
「…あまり期待しすぎるのもな…元気出そうぜ…」
哀愁が漂うニコルの肩に手を置くラッチとジェリコ、3人共なんかションボリしてりる。
「ニコルさんは中級の土魔法も使えたんだな、ラッチさんとジェリコさんも使えるのか?」
「えぇ、僕達は全員使えますよ」
「俺達は全員、火、水、風、土の4大魔法と氷、雷は中級まで使えます、ヒールもそれなりに」
指を折りながら説明するジェリコ。
「先日、バトーさんから光魔法を教えて頂いたので、重力魔法、リバイブ、強化魔法以外は習得済みです」
「へぇ~若いのに凄いな、俺なんて火魔法と水魔法とヒールしか使えないぞ。
近接戦も頼りになるし、プリモハさんの言ってた通り3人共優秀だな」
バトーに褒められ顔がパァっと明るくなる3人。
「いや~バトーさんにそこまで言って貰えるなんて、俺達には勿体ないですよ~」
「僕達の近接戦なんてバトーさんの足元にも及びませんし~」
「魔法なんてお金出せば習得できますから、別に私達が特別という訳では~」
謙遜しながらクネクネする3人、顔が緩んでいる。
魔法がお金を出せば習得できることは事実だが、中級まで上げるには使用し続けるしかない。
20代前半でこれだけの魔法を中級まで使用出来る3人は間違いなく努力家であり優秀である。
「他の切株もお願いしてもいいかな?」
「「「 お任せ下さい! 」」」
背筋を伸ばし満足そうな顔で返答する3人。
ジェリコがゴードン達が作業する入り江側に派遣されることになった。
3日後…
切株を転がす松本とジェリコ
「ジェリコさん、最近レム様が戻ってこないんですよねぇ、
村にはいるみたいなんですけど、何か知りませんか?」
「あぁ~、それはたぶんお嬢のせいかなぁ…」
「プリモハさんがどうかしたんですか?」
「いやぁ…ほら俺達って光の3勇者について調査をしてるだろ?
お嬢がレム様の小屋に泊り込んで話を聞いててねぇ…それで俺達はまだ村に留まってるって訳で…」
「あぁ~それは…そうですよね…」
光の精霊レム、千年前の魔王を体験している精霊であり、生前の光の3勇者を知る生き証人である。
プリモハ調査隊にとって最も渇望していた存在である。
長らく体現していなかった筈のレムを実際に目にした時の反応は凄まじく、
感涙の滝には虹が掛かり、もれなく4人共失神、駆け付けたポッポ村の住人と光筋教団員に看病されたそうな。
そんなレムだが、昼は光筋教団に光魔法を教え、夜はプリモハに質問攻めにされるため、
ポッポ村に作られた小屋に軟禁されていた。
翌日…
木が無くなった土の上に等間隔で並ぶマッチョ達、男女が入交りながら松本の家まで並んでいる。
ポッポ村の住民が見守る中、ゆっくりと手足を動かし、各々得意な部位を強調するポージングを取る。
『 グラビティ! 』
マッチョ達の周辺の空間が歪み、地面が沈み込んだ。
「ふぅ~…いい負荷だ、次はさらに森の中らしい、皆進んでくれ~」
『 はい~ 』
ぞろぞろと移動して行くマッチョ達。
「へぇ~凄い、しっかり踏み固められてるわ~」
「これだけ固めるのは大変よ? 重力魔法ねぇ~」
「ウチも1人位習得した方がいいんじゃないの?」
「でも結構高いらしいわよ?」
「うそ~そうなの? 村長に相談してみる?」
ポッポ村のマダム達が踏み固められた土の上でマダム会議を開いている。
「光筋教団の人達が帰る前に間に合ってよかったなバトー」
「俺達でやるとかなり時間が掛かるからな、頼んで正解だったな」
「ほんじゃ俺達も行こうや、マツモト行くぞ~」
マッチョ達の後を追い、出来上がったばかりの道を歩くゴードン、バトー、松本。
メグロとニャリモヤは見つからないように森の中に隠れている。
…こんなに寒いのに何故に半袖短パン?
松本の疑念はさておき、ポッポ村と松本の家、そしてナーン貝の入り江を繋ぐ道が完成した。
筋肉が寒さに屈することなど無い。




