124話目【暖炉と本】
時刻は夜
パチパチと音を立て揺れる炎に照らされ、マツモトとニャリモヤの影が揺れている。
え~と…どれどれ
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【魔法とは】
魔法とはマナを 消費して発動する神秘の力です
マナとは世界に満ちている目に見えないエネルギーの事です
あなた自身の体内や、いろんな生物、周辺の大気中に存在しています。
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ふむ…なるほど
暖炉の近くで『5歳から始める魔法入門書』を読む松本、
コミカルな挿絵と共に魔法についての簡単な説明が書かれている。
横で寝息を立てるニャリモヤの耳を裏返し、ページを捲る。
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【魔法を使用する時の原理】
魔法を使用する時はあなたの体内にあるマナを消費します。
体内のマナには限りがあり、魔法を使用するとどんどん減って行きます。
魔法を使用しす過ぎて体内のマナが枯渇すると気を失ってしまします。
このことをマナ切れと言います。
【マナ切れになった時には】
マナ切れになった時は体内のマナが回復するまで待ちましょう。
寝ていればゆっくりですが自然に回復します。
また、マナポーションや回復魔法リバイブで強制的にマナを体内に取り込むことが出来ます。
※危険ですのでマナ切れになるまで魔法を使わないようにしましょう。
マナ切れになる魔法使いはマナ管理が出来ていない愚か者です。
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急に口が悪いな…
「いや~、体が温まった、風呂とはいい物だなマツモト君」
風呂から上がったメグロが体を拭きながら暖炉の前にやって来た。
「気に入って貰えてよかったです、寒い時はお風呂に限りますからね」
「ただ、体毛がびしょ濡れになるのが難点だな」
「獣人の人達は大変ですね、夏毛の時なら人間と殆どかわらないんですけど」
「そうだな、夏毛の時は私も海で泳いだりするのだが、冬毛が濡れるとなかなか乾かなくてなぁ」
「風邪ひきますから暖炉で乾かした方がいいですよ、背中拭きましょうか?」
「頼もうかな」
暖炉の前でメグロの背中をタオルでワッシワッシと拭く松本。
犬を風呂に入れた後みたいである。
裏返していたニャリモヤの耳が元に戻った。
「ニャリモヤさんは入らなんでしょうか?」
「私より毛が長いし、入らないだろうな、それにニャリ族は元々体を洗う習慣はないんだ」
「なるほど」
見た目通り、完全に猫だな
「ありがとう、後は自分で乾かすよ」
「俺ココア入れますけど、メグロさんも何か飲みますか?」
「よく分からないからマツモト君と同じものを頂くとしよう」
「了解です」
台所でお湯を沸かし、茶色い粉末が入ったコップに注ぐとホットココアの出来上がり。
当然インスタントである。
ついでにクッキーも皿に入れて持って来た。
「ここに置いておきますね、温かいうちに飲んでください」
「ありがとう、そっちのヤツはなにかな?」
「これはクッキーですね、ココアのお供に。まぁ、普通のクッキーと違ってドングリが入ってますけど」
「ドングリが?」
「ちょっと諸事情でドングリが溜まってたのでクッキーにしてみました、意外と美味しいですよ」
「なるほど、楽しみだな」
松本の無人販売の賜物である、クッキーはフィセルに釜を借りて焼いた。
ニャリモヤに寄りかかり本の続きを読む松本。
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【魔法の習得について】
魔法を習得する方法は3つあります。
1つ目は魔石によって習得する方法。(オススメ)
魔石さえあれば基本的に誰でも魔法が習得で出来ます。
基本的な魔法の魔石は、お店で売っているのでお金さえあれば簡単に手に入ります。
2つ目は神官クラスの魔法使いに教えて頂く方法。
神官クラスの方には中々にお会いできません。
お会いできても教えて頂けるか分からないので現実的ではありません。
3つ目は精霊に教えて頂く方法。
精霊様には滅多にお会いできません、恐れ多いのあまり考えないようにしましょう。
また、運よく精霊様に教えて頂いたからと言って自慢するのは辞めましょう。
習得方法が魔石だろうと精霊様だろと魔法は魔法です。
精霊様に教えて頂いたからと言って神官クラスになれるわけではありません‼
勘違いしないようにしましょう。
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…個人的な恨みでもあるんか
ドングリクッキーを齧ると、甘さ控えめの素朴な味が口内に広がる。
甘いホットココアとよく合う。
ニャリモヤの耳をもう1度裏返し、続きを読む松本。
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【魔法のランクについて】
魔法は威力や効果によって3つのランクがに分かれています。
ランクは使用しているうちに自然と上がります。
また、同ランクの魔法でも使用者によって威力が異なります。
「初級クラスの魔法」
覚えたての魔法、威力や効果が弱いが日常活で使用するには困らない。
「中級クラスの魔法」
威力と効果が向上した魔法。
魔物を倒したり、戦闘に使用できる位の威力がある。
基本的に使用していればランクが上がるので、中級クラスの魔法使いは多い。
「上級クラスの魔法」
一握りの魔法使いだけが使用できる、特大の威力と効果の魔法。
誰でも使用できるわけでは無く、才能と並々ならぬ努力が必要。
災害クラスの魔法もあるため、巻き込まれると大変なことになる。
【神官について】
上級クラスの魔法が使用できる魔法使いを神官(神官クラス)と呼びます。
神官だからと言って全ての上級クラスの魔法が使用できるわけではありません。
使用できる上級クラスの魔法に限り神官になります。
神官になると魔石やポーションの作成が可能になります。
魔石を売ればお金が稼げます、羨ましい。
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…なるほど、この本の作者は中級クラスの魔法使いだな
作者の気持ちが現れ過ぎている『5歳から始める魔法入門書』
子供へのプレゼントとして人気です。
ある程度体が乾いたメグロがホットココアとドングリクッキーを手に取る。
「うむ、甘いな、美味しい。 里には甘いの飲み物がないから新鮮だ。
このクッキーとやらは…何とも素朴な、あまりドングリの味は感じないな」
「メグロさんドングリ食べたことあるんですか?」
「里でも取れるので、たまに食べるようにしている。
正直余り美味しい物ではないが栄誉価が高いのでね」
「そうなんですよねぇ、今のところドングリクッキーが一番美味しいですね」
「ところで、マツモト君は何をしているのかな?」
「魔法に関する本を読んでいます、以前購入したんですけど
なんだかんだと読めていなかったので」
「よければ私にも見せて貰えないか?」
「どうぞ、俺も読み始めたばかりなので一緒に見ましょう」
ニャリモヤに寄りかかる松本とメグロ、衝撃でニャリモヤの耳が元に戻った。
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【魔法の種類について】
精霊様によってもたらされた魔法と、人工的に作れれた魔法があります。
魔法は使用者の力量によって効果が変化します、次の内容はあくまでも一般的な例です。
『火魔法』(オススメ)
4大魔法の1つ。
日常生活で役に立つ魔法、火を付けたり明かりの代わりになる。
「クラスによる効果」
初級クラス:小さな炎が出る
中級クラス:爆発する火球を飛ばす
上級クラス:大爆発を起こす
『水魔法』(オススメ)
4大魔法の1つ。
日常生活で役に立つ魔法、飲料水から畑の水やりまで。
「クラスによる効果」
初級クラス:水が出る
中級クラス:空中で水の塊を作れる(飛ばすと地味に威力がある)
上級クラス:洪水を起こす
『風魔法』(微妙)
4大魔法の1つ。
日常で生活ではあまり使い道がない。
部屋の埃を飛ばすなら雑巾で拭いた方が早い。
暑い日に風を送るって涼むくらいなら氷魔法の方が気持ちいい。
空気を振動させて音を遠くまで伝える事も可能だが、とても難しい。
「クラスによる効果」
初級クラス:風が吹く
中級クラス:風の刃を飛ばす
上級クラス:竜巻を起こす
『土魔法』
4大魔法の1つ。
地面を隆起させたり石を飛ばしたり出来る。
建築現場ででよく使用されている、仕事で使用する人や冒険者向け。
「クラスによる効果」
初級クラス:石を飛ばす
中級クラス:地面を隆起させる
上級クラス:不明、地震とか起せそう
『氷魔法』(オススメ)
夏場にとても役立つ魔法。
猛暑でも快適に生活でき、食材を冷やせば長持ちする。
火魔法、水魔法、回復魔法に並び習得した方が良い魔法。
「クラスによる効果」
初級クラス:冷たい風を出す、物を冷す
中級クラス:物を凍らせる、氷の塊を飛ばす
上級クラス:吹雪を起こす
『雷魔法』(超要注意)
格好いいが、日常生活ではあまり活躍しない、冒険者向け。
海で使うと魚が捕れるが漁師にとても怒られる。
水中にの生物に広い範囲で影響が出るため、養殖所付近で使用すると罰金を科される。
また、空気が乾燥した中で使用すると火災が起きる可能性がある。
火災を起こすと弁償が大変、お金が無くなる。
火災を起こすとご飯が食べられなくなるので、水魔法を習得してから使用した方が良い。
冒険者以外は使用しない方が良い。
「クラスによる効果」
初級クラス:弱い電気が流す(少しビリっとする程度)
中級クラス:雷撃を飛ばす
上級クラス:雷を落とす
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…この作者、雷魔法でやらかしたな…
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『強化魔法』
いろんな物を強化する魔法
使用者が極端に少なく貴重、現在は遺跡から発掘された魔石でのみ習得可能。
取得できた人は幸運。
「クラスによる効果」
初級クラス:物の強度を増す
中級クラス:空間を強化し障壁を作る
上級クラス:不明
『重力魔法』(とても残念)
買って後悔する魔法。
重くするのみ、軽くすることは出来ない。
日常的では漬物石くらいしか使い道が無いのだが、何故か一部のマッチョに異常に人気がある。
建築作業員向け。
凄く高かったのに微妙、お金を返して欲しい。
「クラスによる効果」
初級クラス:特定の物を重くする
中級クラス:空間を重くする
上級クラス:不明
『光魔法』
光るだけ、過去に失われた魔法、
大昔に魔族を退けたとされるが詳細は不明。
「クラスによる効果」
初級クラス:光る
中級クラス:不明
上級クラス:不明
【回復魔法】
精霊様は存在せず、医療の研究により人工的に作られた魔法。
回復魔法は2つあり効果が異なる。
『ヒール』(オススメ)
裂傷や骨折といった怪我を治す魔法。
失った手足が生える訳では無く、そのまま傷口が塞がるので注意。
外傷で病院に行かなくて済むので、とても経済的。
数が多く値段も安いため習得が容易、カード王国では習得が義務化されている。
「クラスによる効果」
初級クラス:体力を回復させる、傷を癒す
中級クラス:回復速度向上
上級クラス:人工魔法の為、存在しない
『リバイブ』
体内のマナを回復する魔法。
数が少なく高価なため習得し難い。
周辺にある大気中のマナを対象の体内に強制的に送り込むため、周辺のマナが枯渇すると使用できなくなる。
過信するとマナ切れを起こすめ注意が必要。
使用する際は周辺の人にも影響があるため、1人で使い過ぎないように。
大気中のマナは皆のマナ、大切に使おう。
「クラスによる効果」
初級クラス:体内のマナを回復させる
中級クラス:回復速度向上
上級クラス:人工魔法の為、存在しない
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「なるほどな、回復魔法は人工的な魔法だったのだな。
カード王国では義務になっているとは知らなかった、やはり里は情報が不足しているな」
「まぁ俺も知りませんでしたけどね、数か月前に初めて聞きましたよ」
「値段が安いと書かれているが、いくら位なのだろうか?」
「俺が購入したときは、確か2ゴールド位でしたよ。火魔法も同じ位でした」
「2ゴールド…お金を使ったことがないので高いのか安いのか判断が付かないな」
「まぁ、俺からしたら大金ですけど、極端に高くは無いと思いますよ。
あの毛皮の上着が1.5ゴールド、あの質素なズボンは10シルバー、あのナイフは20シルバーです」
「ふむ、通貨にいくつか種類があるようだな」
あ、それも知らなかったのか
転生したばかりの俺と同じだな
財布から硬貨を取り出し説明する松本
「これがブロンズ、これがシルバー、ゴールドは今持ってないんですけど、その3つだけです。
ブロンズが一番価値が低くて、100ブロンズで1シルバー、100シルバーで1ゴールドです」
「ふむふむ…」
ココアを片手に説明する松本、ドングリクッキーを摘まみながらメグロが頷いている。
「他の物の値段を教えて貰えないだろうか?」
「いいですよ、街だとフランスパンは1本2シルバーで…」
「ふむふむ…」
部屋の中で値段が分かっている物を一通り説明し終わる頃には
松本のホットココアは冷めてしまった。
「助かったよマツモト君」
「いえ、物の価値を知らないと交易は出来ませんからね」
「この感じだと、光魔法を里の者全てに習得させるには時間が掛かりそうだ。
物々交換だけでなく、今後の交易で干物をお金に変えるとしよう」
「その方がいいでしょうね、お金は腐りませんから」
冷たくなったココアを飲み干す松本
「さて、メグロさん、そろそろ寝ましょうか、ニャリモヤさーん起きて下さい、ベットに行きますよ~」
「ぐぅ~…す~…」
「ニャリモヤ、移動するぞ」
「す~…すぴ~…」
「…起きそうにありませんね」
「…そうだな」
「折角床を作って貰ったんだし、今日はここに布団を敷いて寝ましょうか、暖炉も近いですし」
「そうしよう」
火が燃え移らない距離に布団を移動し、暖炉に蓋をして吸気を絞る。
よし、これで大丈夫だな
換気窓も開いてるし一酸化炭素中毒にもならない筈だ
それじゃ寝ますか…ん?
訝しみながらニャリモヤのお尻を撫でる松本
「どうしたマツモト君?」
「いや…ニャリモヤさんのお尻の毛が…ちょっと焦げてます」
「…少し離した方が良さそうだな」
「そうですね」
ニャリモヤと布団を暖炉から離し、並んで寝た。




