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12話目【ナーン貝職人】

ナーン貝とは、極一部の浜辺に生息するナァァァンと鳴く2枚貝である、美味しい。

ナーン貝職人とは、ナーン貝を見極め収穫するか否かを判断する者である、

たまにニャーン貝の耳を弄り倒している者でもある。


ナーン貝職人の朝は早い、

夜中に村を出発した3人の男達は月明りが照らす中、光の精霊が住むという森を目指していた。


「ここから入ります」


昨夜、村では夕食を食べながら食糧危機を回避するための話し合いが行われた。

村の半数は神聖な森への立ち入りに難色を示したが、現実の問題は大きかった。

狩りによる収穫は不確定であり、村にある食料は1日分もない、

いつまでも詳細不明な松本のパンを当てにするのは危険との結論に至り、

村を代表し2名が松本とナーン貝を取りに行くことが決定した。


「精霊様の森か、俺も入った事がないからなぁ」


1人は村一番の戦士である『バトー』、31歳の筋肉モリモリマッチョマンである。

異形の侵略者との戦闘時、先頭で指揮を取っていた最も屈強で有能な男である。


「坊主、こんな夜中に出発して大丈夫か?」


もう1人は芋のオッチャンこと『ゴードン』、妻子持ち。

娘は村で一緒に住んでおり、息子は大きな町へ出稼ぎに行っているそうだ。

42歳だが襲撃された時は前線で戦っていたそうだ、バリバリの現役である。


「暗い森はちょっとキツイですけどね、ナーン貝って夜に鳴くんですよ、

 鳴き声が聞こえれば浜辺に辿り着けるはずです」


森の入り口でバトーとゴードンは深々と頭を下げた。


「ここから先は月明かりが届かねぇな、松明付けるか」


ゴードンが持って来た松明に指を近づけると火が付いた。


「(ほぁ!? ま、魔法か?)」


ビクッと目を見開く松本、想像通り火魔法である。


「マツモト、ナーン貝の浜辺まではどれくらい掛かるんだ?」

「あと1時間ほどですかね、多分、もう少し掛かるかもしれませんけど

 (っていうか時間の概念は俺のいた世界と同じなのだろうか?)」


時間の概念は同じである、24時間で1日。



森へと入り1時間程経過したころ。


「夜の森はなかなか歩きずれぇな…ところで坊主、その穴の開いた木の板は何なんだ?」

「あぁこれはあとで…」


ナァァァ…


「ん? 今聞こえませんでした?」

「いや、何も聞こえてないが…」


ァァァン…   ナァァァ…   …ァァァン…


「ほら聞こえますよ!」

「そうか? 風の音じゃねぇのか?」


3人は暗闇に耳を澄ます、バトーとゴードンは聞き取り難いらしく首を傾げている。


「もう少し近づけば聞こえますよ、こっちです」


ナァァァン  ナァァァン  


「おっ、今ナーンって聞こえたな」

「俺も聞こえたな、これがナーン貝の鳴き声か」

「そろそろ浜辺が近そうですね」


ナァァァン  ナァァァン  ニャァァァン


「っは!? い…今の鳴き声は!?」

「どうした坊主? ナーン貝だろ?」

「いや、いま確かに…」


目を閉じ暗闇に耳を澄ます松本。


ナァァァン  ナァァァン  ナァァァン       …ニャァァァン


聞き覚えのある鳴き声を聞き分け松本は走りだした。


「おい坊主どこ行くんだ!」

「追うぞゴードン、見失うなよ!」


先頭を行く松明の明かりを必死で追う2人。


「恐ろしく聞き分けずらい鳴き声、俺じゃなきゃ聞き逃しちゃうね~」

「グォォォ!」

「今の鳴き声、まさかムーンベアーか!?」

「まずいぞバトー! 坊主が殺されちまう!」

「邪魔をするなと言っただろう獣がぁぁぁ!」

「グォッ!?」


正面に立ちはだかった熊は、松本の血走った眼をみて逃げていった。


「おいバトー、なんか逃げて行ったぞ」

「うひょひょひょ~!」

「いや分らんでもないな…」


先頭を走る少年は狂気に染まっていた。


「そこだぁぁ! 大人しく耳を触らせておくれぇぇぇ!」


森から飛び出す狂気、捕獲したニャーン貝の耳を弄り倒している。


「うひょ~たまらん! この感触がたまんねぇぜ!」

「マツモトよ…」

「坊主…お前…」


ニャーン貝ジャンキーと化した松本にドン引きするバトーとゴードン。

暫くしたニャーン貝は開放された。


「ふふふ…至福…まさに至福の時間だった…」

「マツモトこれがナーン貝か? 村で見たヤツはクネクネした部分は出て無かったと思うが?」


バトーが水面でウネウネしている水管を指さしている。


「あぁ、村に持って行ったナーン貝の水管は俺が食べちゃってたもんで」

「あれ坊主の食いかけだったのか…」

「殻が閉じると固くて開けられないんですよ、仕方なく水管だけ頂きました、

 火があれば中身も食べられたんですけどねぇ」

「マツモトは火魔法は使えないのか?」

「火どころか何も使えないですよ、パンしか出せません」

「いや、むしろなんでパンが出るんだよ…」

「普通は子供の頃に習得するものだがな、記憶喪失の影響か?」

「さ、さぁ…ちょっとよくわかりませんね…」


自分で付いた嘘に顔が引きつる松本、あまり付きなれていないらしい。


「俺も習得したいんですけど、どうやったらいいんですかね? 精霊様に習うとかですか?」

「「 ははははは! 」」


バトーとゴードンは顔を見合わせ笑う。


「ははっ、すまないマツモト、馬鹿にしたわけじゃないんだ、精霊様に教えて頂く者はなかなかいないな」

「精霊様ってのは滅多に会えるもんじゃねぇからなぁ、普通は魔石で習得するんだ」

「神官クラスの人に教えて貰うことも出来るぞ」

「なるほど(魔石に神官クラス? なんか難易度高そうだな…)」 

「さぁ、それよりナーン貝を集めよう」


バトーとゴードンが靴を脱ぎ膝まで水に浸かる、

松本は腰布しかないので脱ぐ必要がなかった。


「大きいの捕れたぞ、これを持って帰るか」

「ちょっと待ってくださいバトーさん、この板に乗せてもらっていいですか?」

「ん? こうか?」


穴の開いた板を差し出す松本、バトーがナーン貝を乗せると穴を通り抜けた。


「ちょっと小さいですね、これを通らない大きさの物にしましょう」

「なるほどな、大きさの選別用だったのか、今後の事も考えて大きいヤツだけ持って帰るか」

「確かに小さいヤツまで捕っちまうといなくなっちまうかもしれねぇからな」


そうして3人は大きなナーン貝を幾つか持ち帰ることにした。

ナーン貝職人は今後の影響も考えているのだ。


「あ、ゴードンさんそれはニャーン貝ですね、放流してください」

「なんだニャーン貝って? 同じじゃねぇか?」

「俺が最初に捕まえたヤツですよ、ほらこっち側に耳がある、

 水にも浮きますし、よく聞くとニャーンって鳴いてるでしょ」


殻に耳を当てるゴードンとバトー、中からニャァンと鳴き声が聞こえる。


「本当だ…ニャーンって鳴いているな…」

「よく気が付いたな…」


ナーン貝職人はニャーン貝職人でもあるのだ。



「「 光の精霊様よ、恵みを分けて頂き感謝致します 」」


集め終えたバトーとゴードンはナーン貝を掲げ光の精霊に感謝を述べた。


「一応自由にして良いと言ってましたけど、そこまで感謝するなら直接伝えたらどうですか?」


再び顔を見合わせて笑う2人。


「「 ははははははは 」」

「そうだな、直接伝えられたらいいな!」

「是非ともお会いしてぇもんだ!」

「あの~それなら取り継きますけど…」

「気持ちだけ受け取っておくよ、マツモトは優しい子だな」

「ありがとよ坊主、パンといい、ナーン貝といい本当に感謝してるぜ!」

「いやだから案内しますって、光の精霊様のところに」


再度顔を見合わせる2人。


「坊主おめぇ…ひょっとしてマジで言ってんのか?」

「お会いしたのか? 精霊様に?」

「会いましたけど、というより皆助けて頂いたじゃないですか、襲撃された夜に」

「え… マジか?」

「マジマジ」

「本当の本当か? 神官じゃなくて?」

「詳しくは分かりませんけど、本人がそう言ってましたから多分本物の精霊様じゃないんですか?」



半信半疑の2人と松本はナーン貝を抱えて光の精霊の池を目指すのだった。


職人の活動によりナーン貝は守られています

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